学園都市へ向かうバスの中で黒髪碧眼の少女セシリアは肩をふるわせ泣き続けていた。
「殺してやる~……」
新宿を出発してもう、20分ほどたっているのだが、未だ金髪神父への殺意とファーストキスを奪われた悲しみでいっぱいのようだ。
外は少しづつ人気が少なくなり、一部の人を除き外部の人間が入ることの出来ない学園都市へと近づいているのがうかがえる。
(もうこうなったら、自衛くらいの術式は使えるようにしないとな~。)
そんなことを思い、バスに揺られながらも知識の図書館へと使える術式を求め潜る。
数多くある知識の中、現在自分が使える術式を探すのは意外と簡単だった。
ネットで検索をするように調べたいことだけが頭の中で整理されていく。
だが使える術式を見つけていくと一つの大きな問題が浮き彫りになってきた。
「な!生贄って……攻撃系の術式なんて半端ない人数の人を手順どうりに殺さないとできないって……、セシリアさん、威力は最強クラスですけど条件が不良神父より厳しいんですが……。」
セシリアが分かったことは、すべての術式に何らかの代償が必要になること。
またそれらの術式を使うための条件として必ず魔道書が手元にあることだった。
他には大抵の攻撃魔術は条件として夜しか使えないこと等だった。
(ひとつだけ使えそうなのあったけど何か地味だよな~、チートなオリ主のはずなのに……、やっぱ上条さんに頼って正解だったかも!)
これからの指針を再確認したセシリアは終点のバス停が近づいて来たので電光掲示板というのは違うようだが、デジタル表記の料金を確認する。
ここまで来るとバスに乗っているのはもうセシリアだけだ。
―2500―
「高!使ったらほとんど無くなっちゃうじゃないですか~!もっと市民に優しい料金設定にしてください!」
ついつい思ったことを口に出してしまったセシリアを、バスの運転手は怪訝な顔をしてバックミラー越しに見ていた。
それを見たセシリアは、あはは~、と愛想笑いを全力で浮かべかえす。
それに機嫌を治したのか運転手も笑みを送ってきた。
(こういう時は女っていいよな~)
実際にはセシリアの外見が恐ろしく男を虜にするような可愛さを持っていたためで、女性が全てセシリアのようだったら
男性は今以上に情けないレッテルを貼られていたことだろう、主にロリコンとか……
料金を払いバスを降りると、遠くの方に学園都市と外界を隔てる大きな壁が見えていた。
「こう見るとほんと軍事基地か何かにしか見えないよな~」
あながちセシリアのいったことは間違っていない、学園都市は固有の軍事力を保有している。その為一つの独立国家と言っても過言ではない。
よーし!と言って学園都市へと歩き出すセシリアだが、そこで一つ気づく。
「IDとかないけど何とかなるかな?インデックスさんも、不法侵入していたし何とかなるか!とりあえず行ってみてから考えよう。」
時刻はまだ昼を少し過ぎたといったところだろうか、夏の太陽が容赦なくセシリアを痛めつける。
「あつい……黒ばっかりでよけい暑い~!魔道書重い~!」
黒の半袖ワンピースから透き通るような白い細腕を伸ばし、辞典の倍はあろうかという、漆黒の魔道書を右脇に抱え足を運ぶ。
暫く歩いていると学園都市へ続く道に人影が見えてきた。
(こんなとこに人なんているんだ?)
そう思っているとその人影はこちらに気づいたようで、近寄ってくる。
近づいて来たのは、身長が2メートルを越え、赤い髪の長髪、咥えタバコというのに黒い神父服を着た、まさしく不良神父だった。
「金髪の馬鹿が何も説明しないうちに君に逃げられたと連絡が入ったんで、近くにいた僕が駆り出されたわけだけど……ほんとにこれが、あの有名な魔女なのかね?」
暫く黙っていたセシリアだったが何か切れたように叫びだす。
「ここにきて、いきなり原作キャラ登場か~!でも不良神父は範囲外です!
しかも続けて神父とか、これが噂の神父ルートですか? 変体ロリコン神父の後は不良ロリコン神父だよ!」
それをみて咥えていたタバコを落とし口を開いて唖然としていた不良神父だが気を取り直して口を開く。
「は!あんな奴と一緒にされたくないね。それに僕は君を見たところで、ただの子供にしか見えないしね。」
「その言葉インデックスさんの前でも言えるんですかこのロリコン野郎!」
セシリアは何か完全に怒りの矛先を間違えているようだ。
「君がなぜあの子のことを知っているんだ?それにあの子と僕は年は変わらない。」
「そういう問題じゃない!」
「人が忙しいところ交渉に来たというのに……」
神父は新しいタバコに火を付けたあと、軽く手を振るといつの間にかその手の中には炎の剣が握られていた。
それを見たセシリアは自分が勢いで喋っていたことに気づき、咄嗟にバスの中で見つけた術式を発動するよう知識を呼び起こす。
神父は右手に構えた炎の剣を横払いに振ってくる。
セシリアは手の空いている左手の人差し指を口元に運び強く噛む。
指から垂れた血が地面に落ちるのと同時に呟く。
「血盾(compensation)」
神父の剣がセシリアの元に当たると同時に爆発する。
「それが有名な絶対防御か、魔女が忌々しい。」
煙の中からは足元に黒い幾何学的な魔方陣、全身を包み込むように、血を薄めたような赤色の球体に囲まれたセシリアがいた。