突然の襲撃にセシリア以外の全員が戦闘態勢をとる。セシリアはというと、どこから見ても普通に驚いて動けていないだけだった。
それを横目で歩は見る。
さて今度はどんな思惑で? セシリアの奇行には、もう幾分か慣れたつもりだったが、この状況でまで、その態度はどうしたものかと、多少神経を疑う。
「何者です!」
大太刀の女性が、敵と見受けられる少年に質問を放つ。
いきなり攻撃を仕掛けてきた奴に質問とは悠長な……と歩は思ったが、冷静に判断して、それが余裕故のものだと気づく。
……どれ程のものか……
「俺は魔女だよ! それだけで十分だろ魔術師さんよー! 東条は殺させてもらうぞ!」
魔女と名乗る少年は、目を見開いてそう叫ぶ。
どうやら狙いは歩のようだ。ジラの刺客だろうか。
少年の言ったことを聞いて、土御門が説明を求める視線を向けてくる。
「とりあえず、この場をどうにかしてから話します。 あとでな」
「わかったにゃー。とりあえずは共闘だぜい。お前は戦えるのか? 魔女は近接戦闘は不得意なんだろう?」
「正直戦えません。結界でやり過ごします。魔女なめんなよ」
「なら、神裂とミーシャに奴は任せよう。カミヤンとセシリア嬢は東条の結界内でじっとしてるにゃー」
「お、おう。」
「はい、です」
「そういうことで2人とも頼んだぞ! そいつがエンゼルフォールの犯人の可能性もあるからな、殺すなよ!」
「わかりました」
「解答1、了解した」
土御門が指示を出し、ミーシャと神裂がテラスを飛び出し、少年へと駆けだす。
歩は結界を張るため1歩前に出て、スカートのポケットから小さな布でできた袋を取り出す。
術式を構成……回廊を3パターン製作……モデルは光との戦争……
術式を決め、魔力を練り。袋を軽く振る。
粉末が歩の目の前で1本の線となり横に伸びる。
歩たちがいるテラスと砂浜を遮る形で薄く青い巨大な壁が出来上がった。
さて……あちらはどうだ、砂浜に歩は視線を移す。
神裂とミーシャの前には、砂でできたマネキンのようなものが、6体ほど行くてを邪魔していた。
神裂が刀を持ち、居合いの構えをとる。その次の瞬間には砂の人形は6対ともバラバラに崩れ落ちていた。
ミーシャがその隙に少年との間合いを詰める。手には金槌とドライバーが握られている。
神裂も間合いを詰めようとすが、そこにまたも、砂人形が6体現れる。
「やはり、再生しますか。 きりがないですね。 ミーシャ!! 術者は頼みます」
「了解」
ミーシャが金槌を少年へと真上から叩きつける。
それを少年は片手を振り砂砂浜の砂を操って、盾にする。
ミーシャの一撃が盾を破壊し、その威力はなおも衰えず、盾の内側をも破壊せんと振り下ろされる。
だがそこに少年はいなかった。
どうやら、砂の盾でミーシャの視界が遮られた隙に横へ移動していたようだ。
「奴は魔女の癖に、戦闘が得意っぽいにゃー。ゴーレムで片方を足止めしながら、片方の相手をするなんて相当だぜい」
「私も見たことのないタイプの魔女のようです。どうせバァバァが囲ってたんだろ」
「それにしても、この魔女の結界は初めて見たが凄いにゃー。物理攻撃相手なら、歩く教会クラスじゃないか、でもこれだけのモノを作るのに使った、さっきの粉はなんなんだ?」
「人の脳と臓物を乾燥させ、砕いて粉末状にしたものです。つくり方は秘密だ」
「そりゃあ、魔女らしいにゃー!」
「マジですか!」
「……」
そのあまりにも、常識はずれな魔術の道具に、上条は驚き、セシリアは引いていた。
これも生贄といったところなのであろうか。いま歩達は人の命で守られているといったら、聞こえはいいだろが、なんとも見ず知らずの、粉の人からしてみれば、やりきれないことだろう。
そんなことよりも、歩がいま最も気になるのはセシリアの反応だった。
なにがしたいんだ? わけがわからない
エンゼルフォールを冷静に対処したかと思うと、いざ襲撃されるとこれだ、ワザとか、なんなのか。
この状況でそんなことを考えていると、上条が思いついたように言葉を発する。
砂浜では、ミーシャと少年、神裂とゴーレムの攻防戦が今も続いていた。
「なあ、あいつがもしエンゼルフォールの影響受けてるんなら、東条を本人だと分かったのはおかしくないか?」
「そうだにゃー。だからこそ、奴は影響を受けてない可能性が高いんだ。もしくは術者の可能性もある」
なんだか、論議しているが言っておくべきか……歩はこの場で言ってさらに、そこの年増ロリが混乱したらどうしようと思いながらも、土御門に真実を話す。
「そのことなんですが、エンゼルフォールの影響が私とセシリア様の姿が入れ替わって見える。らしいんで。あの魔女がもし、影響を受けているのであれば狙われるのはセシリア様かと……。そうだったらいいな」
「ほんとうか? それなら、奴が術者かどうかは微妙なところだにゃー」
「あー……なんかセシリアが混乱の極みなんですけど」
歩の言ったことに、今更気づいたセシリアは頭を抱えて、無駄に速いスピードで、なぜか回転していた。
目が回りそう。
それが歩の感想だった。
そう思ったのも束の間、歩は敵の攻撃に気づく。
「結界が破られました。セシリアのせいだ」
「ん? どうしてだ東条? 壁はまだあるし攻撃もされてないじゃないか?」
「カミヤン、魔女の戦いってのは本来は姿の見えない遠距離から、自分は強固な結界を張って砲撃や、呪術で相手を倒すんだにゃー。まず魔女を倒すにはその強固な結界を壊さなくちゃならないんだ。でもこんな頑丈な結界、力押しじゃなかなか苦労する。だから実際には壊すんじゃなくて解除するんだぜい。ハッカーとセキリティーといったところだにゃー、今はそのセキリティーのいくつかが解除された状態だぜい」
面倒くさい……ここまでするつもりじゃあなかったのに。
混乱中のセシリアを横目に歩は術式の再構築を急ぐ。
「回廊を『肉体』から、『霊体』へと移行、さらに『原罪』で加工……」
歩はブツブツと独り言のように呟き。術式を再構築していく。
「術式安定しました。この程度で解除されてたまるか」
「さすがだぜーい。でも恐ろしいのは2人も相手にしときながら、結界の解除までしようとする奴だにゃー……危ない!!」
土御門叫ぶ、どこからやってきたのか、歩達4人の後ろに、今神裂が戦っているのと同じゴーレムがそこにはいた。
砂でできた、人と呼べない出来損ないのマネキンのようなそれは、一番近くにいた上条へとその砂の拳を突き出す。
上条は咄嗟に右手を出そうとするが、相手のほうが1歩早くその拳は上条を捉え突き飛ばす。
突き飛ばされた上条は、歩の方へと転がってくる。
歩はそれを、何事もなかったかのように避ける。
上条は青い壁へとぶつかった。その時に上条の右手が壁へと触れる。
パキンと何かが割れるような音とともに結界が崩れた。
「な!……そんなはずは……なにをした」
歩は後ろのゴーレムなど眼中になくなる。上条が結界に触れると同時に結界が壊された。段階を踏んで解除されたとかそういうのではない、一瞬で破壊された。
これがイマジンブレイカー……なんという……
歩の暗い瞳が上条を見つめる。
「カミヤン! こっちも頼んだぜい!」
土御門がゴーレムを蹴り倒して上条の元へ飛ばす。上条は土御門の声で飛び起き、向かってくるゴーレム目掛けて右の拳を突き出す。
「うおぉぉぉぉ!」
上条の拳がゴーレムに当たると同時にゴーレムは只の砂へとかえった。
「大丈夫か? カミヤン」
「ああ、たいしたことない、それよりみんなは大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ、魔女のお嬢様は未だに回ってるぜい」
「セシリア……」
この、チビは何やってんだ……
歩は行きどうりを隠さずに入られなかった。
……あちらも、もうそろそろ片がつくか。
砂浜ではミーシャが少年に幾つも傷を負わせ、追い詰めていた。
「おわりだぜい」
ミーシャの金槌が少年の腹を直撃する。
本来なら体が粉々になってもいいような一撃なのだが、何らかの防御術式が掛かっているのか。そんなことはなく、少年は意識を失い崩れ落ちる。
それと同時に神裂と戦っていたゴーレムも砂に返ったようだ。
少年の自由をロープで奪い。その周りに全員が集まる。
「目を覚まさないにゃー」
「もうそろそろ起きてもいいと思うのですが」
現在、少年にエンゼルフォールについて聞くために、ここにいるのだが、一向に目を覚まさないという状況が続いていた。
「起きないな? おーい! 大丈夫か?」
そう言って上条は少年の頬を右手ではたく。
パキン。
何かが割れる音がした。
すると少年が崩れる。
その言葉の通り、体中が粉々になって崩れていき、ただの肉片へと成り代わる。
こうなっては、もう原型が何なのかは分からないほどだ。
「う……うわあぁぁああああ!!」
上条が叫ぶ。
「これは…なんです」
「カミヤンに人を殺す力はない。体に魔術が掛かっていても、体ごと破壊されないのは、ナイルのときで確認ずみだ……となると初めから死んでいたか…だぜい」
嫌な沈黙がその場を支配していた……
そのころセシリアはというと……
まだ回っていた……
そして歩はまたため息をつく。