『青髪ピアスの場合』
「活発なイメージか、おとなしいイメージかってことですね~」
「そや、だが一概にそうとも限らないで」
青髪ピアスの部屋、テーブルを挟んで、黒髪の少女セシリアと、青髪ピアスは論議していた。果たして内容はどういったものなのか。
「絶対ロングですって!! 青髪さん! でもってスタイルよくてツンデレ!」
「あえてどちらと聞かれれば、ショートや! でもってロリや!」
「は! 先生ですか。そうなんですね」
「そや、先生や!」
たいした内容ではなかったようだ……。
「でもエロならロングやろ!」
「エロならショートですよ~!」
2人は正面から睨み合い、火花を散らす。
「僕ら合わないみたいや……」
「そうですね……」
しばらく沈黙が流れる。意見が食い違ったようだ。共同生活をしていればそういう時もある。男と女(元)ならなおさらだ。
多分。
いろんな意味で。
「夫婦円満の秘訣は何やと思う?」
「努力と根性」
「少年漫画的にか?」
「少女漫画的にですよ~」
「そりゃドロドロやな」
セシリアが急に何か思いついた表情を浮かべる。
「は! ロリがロングで、ショートがツンデレ!」
「……何の話や?」
「噛まれるのが好きか、電撃が好きかと言う話ですよ~。甘噛みじゃないですよ砕く感じで」
「電撃に一票」
「決まりですね」
そしてもう一度沈黙が流れる。すると青噛みピアスがおもむろに立ち上がり、何か決断したような真剣な顔つきになる。
そして一言。
「やっぱ新学期前に髪切るわ!」
やはりたいした内容ではなかった……
『白井黒子の場合』
学園都市の街中で、たまに喧嘩が起きる。学生が殆どの都市なのだ。当然といえば当然なのだろう。
今日、夏休み終盤に差し掛かった今でも、それは変わりなく、むしろ夏休みということもあり、多いくらいだ。
そしてここ、服屋、ゲームセンター、喫茶店、カラオケ、などが密集している、遊ぶのに適したこの場でも、喧嘩は起きていた。
「お前のせいでナンパ失敗したじゃねえかよ!」
「は! 俺のせいにするなよ! お前の顔の問題だろ!」
男2人がそんなことを言いながら対峙していた。すると1人が手から炎をだす。
それを見た、もう1人が鉄の杭のようなものを中に浮かす。
能力者同士の喧嘩。学園都市にはこれがある。周りの人間にしてみれば厄介極まりないものだ。
今にも能力同士の激突が始まろうかと、誰もが思った。だがそれは少女の一言によって止められる。
「あなたたち! 止めなさい」
肩に『風紀委員』と書いてある腕章をした、ツインテールの少女、白井黒子が喧嘩を止めに入った。
「げ! ジャッジメント! おいやばいぞ」
「お前のせいだぞ! 学校に連絡されるって、どうすんだよ」
「ちょっとあなたたち。こんなところで能力使って喧嘩して、迷惑ですわよ。 それに禁じられてるのは分かっているでしょう?」
黒子が2人に歩み寄り。いろいろと注意をする。男2人は観念して、おとなしく話を聞いていた。
「では、学校の方に連絡しますですの。IDを見せてください」
「そ、それだけは勘弁してください」
「お、お願いします」
「何言ってますの。だめです」
黒子がそう言って2人に歩み寄る。
「オ・セ・ロ・さ~ん!」
そうどこからともなく声が聞こえた瞬間、黒子はその声の主、少女セシリアの背後に回っていた。セシリアから黒子と男達がいた距離は20メートルはあったのだが、さすがは能力者。そんなもの、ないも同然だ。
「セシリア! だれがオセロですの!」
「すいません! 白井さん。白井の名を返上します」
「なにが、どう!」
その光景に男達も唖然だった。
「そうだ、白井さん。さっきあそこのビルの陰に御坂さん、らしき人物が、男と消えていったんですけど、どういうことでしょう?」
そう黒髪の少女セシリアが言うと、黒子はピクッと反応し、セシリアに確認をとる。
「ほんとですの……?」
「はい」
「おねーさまの! 純潔がー!! セシリア! そこの2人見張っててください、すぐに戻りますわ!」
そう言って、黒子はその場から消えた。
それを確認したセシリアは男達に近づく。言われたことを守って、見張るつもりなのだろうか?
「300円!」
セシリアは男達の前に手を差し出してニコニコとしながらそう言う。
「「へ?」」
「300円で、逃げていいですよ~。早くしないと白井さん戻ってきちゃいますよ」
「お、おう!」
「マジか!助かった!」
男達は1人300円を、セシリアに握らせてその場を走り去った。
そして、セシリアもその場を足早に去る。
数分して黒子が戻ってきた。
「はぁ、はぁ、セシリアめ! どこにもお姉様、いなかったじゃないですの。確認しに寮まで戻ってしまいましたわ。ん? セシリアはどこですの?」
「あ、あの~」
1人の女性が黒子に話しかける。どうやらこの女性は、さっきのセシリアと男達のやり取りを見ていたようだ。
「な!」
女性から、話を聞いた黒子は驚愕の顔をして膝をつく。
「セシリアにはめられた!!」
黒子は、少し悔し涙を流した。
『御坂美琴の場合』
夏休み終盤の某日。御坂美琴は、歩いていた。今日は本屋に行く日らしく、向かっている途中だった。今日も例外なく暑く、部屋から出たくはないのだが、本屋に行くのはもう習慣化していたため、いかないと落ち着かなくて今に至る。
「あつい……今日は一段と暑いわね。どっかでセシリアでも倒れてるんじゃないの?」
そんなことを思いながら、肩に掛けてあるカバンからペットボトルの取り出し、中身を少し飲む。
しばらく歩いていると、先の方に黒い何かがあった。今歩いている道は、人通りが激しいほうではないからか、それに気づいたのは、御坂が最初のようだ。
「あ~……さっきあんな事言ったのが悪かったのかな」
言葉には力がある。よく昔の人はそう言ったものだ。
「セシリア。大丈夫?」
御坂は黒い物(セシリア)に近寄り声を掛ける。
「御坂さん……み、みずを……おくれ」
「はい、これ飲みかけだけど」
うつ伏せで倒れていたセシリアにペットボトルを渡す。
ゴクゴクとすごい勢いで飲んだセシリアは、回復したのか、飛び起きてお礼を言う。
「ありがとうございます! ビリビリさん!」
「ビリビリ言うな! 助けたのにそれかー!」
今日も御坂の突っ込みは健在だ。暑さに負けはしない。
「つかぬことを聞きますけど。ビリビリとヒリヒリ、どっちがいいですか?」
「話を聞けー!」
「ヒリヒリの方が可愛くないですか?」
「だから、何の話だ!」
「御坂ビリビリ美琴、だとセカンドネームぽくて逆にかっこいいですよ~」
「うるさーい!!」
空気中に火花が散る。
「退却!!」
セシリアは、脱兎のごとく御坂の前から逃げていく。本当にさっきまで倒れていた人間なのだろうかというほどのスピードだ。
「相変わらず逃げ足が速いわね」
そう言って、御坂はふと足元に視線をやる。
「ん?」
そこには、空のペットボトルと、その横に150円が置いてあった。
「なんか律儀だしー!」
御坂は思う。セシリアに会うときは、いつも、なんだか心霊現象にでも会ってしまった様な感覚だと。
要するに理解不能ということだった。
『東条歩の場合』
学園都市に住むこととなった歩は、生活用品を買いに外へと出ていた。探索もかねてブラブラしていると前のほうに見知った背中があった。
「上条当麻。なにしてる」
上条は補習の帰りだろうか、制服を着ている。歩は声を掛けようか迷ったが、何も用などないので、それはやめにした。だが上条は気になる。なんとなしに後をついていく。
上条はしばらく歩くと、ハンバーガー屋の前で足を止めて、なにやら独り言を言っていた。
「腹減ったな……インデックスには悪いけど俺だけ、ちょっと買い食いでもするか。たまにはいいだろ」
そう言って店の中へと入っていく。しばらくすると上条が商品を持って出てくる。
右手にはハンバーガーの包みを、左手にはカップを持っている。上条はおもむろに包みを開けて、歩きながらハンバーガーを食べようとする。だが食べながら数歩、歩いて足を止めた。
「テリヤキに、照り焼きソースがない!! そんな……もしや」
今度はカップのストローにその場で口をつける。
「シェイクが完全に溶けている!! そんなことってあるのか! ……不幸だ……」
上条は、とぼとぼ、と帰っていく。
「なんだったのでしょう? もう嫌がらせだな」
その光景を見ていた歩が、そう口にする。
そういえば昼がまだだったな……。
歩がそう思っていると、目の前にはいつの間にか、黒髪碧眼の少女、セシリアが立っていた。
「セシリア様。どっから湧いた」
セシリアは真剣な眼差しで歩を見つめる。
「歩さん。ハンバーガーっていいですよね」
「……」
「最近全くと言っていいほど食べてないんですよ」
「……」
「シェイクとか、暑い夏にはピッタリですね」
「……おごります。タカンなよ」
「ありがとうございます」
2人は店内へと入る。お昼を丁度過ぎた頃なので店内の客は、まばらだった。
「ご注文はいかがいたしましょう?」
店員が0円のスマイルで聞いてくる。
「セシリア様。注文をどうぞ。払ってやるから言え」
「テリヤキバーガーとシェイクのバニラ」
「以上でよろしいでしょうか?」
「はいですよ~!」
私は注文していない……歩はそう思ったが言うのも面倒なのでやめた。
商品を受け取ったセシリアは、店内から出ていく。どうやら歩きながら食べるらしい。
店外へと出たセシリアはハンバーガーに口をつけて一言。
「テリヤキに照り焼きソースがない!! あるけど」
次にカップのストローに口をつけて一言。
「シェイクが溶けてるー!! 溶けてないけど」
そう言って食べながら、歩いていった。
店の前に残された歩は思う。
なんだったんだ?
歩は少し悩む、悩んだが答えは出ない。そこで思い出す。腹の具合を……
「おなかすいたな。店に入ろう」
歩はもう一度店内に入り注文をする。
昼ごはんを食べていこうというのだ。
「ご注文はいかがいたしましょう?」
さっきと変わらない0円スマイル。よく訓練された店員だった。
「シェイクのバニラ、チョコ、ストロベリーをLで1つずつ。あとアイスも全部1つずつ。あとアップルパイ4個」
「かしこまりましたー」
異常な注文だがスマイルは消えないさすがだ。
商品を受け取った歩は気づく。
食べきる前に溶ける……どうしよう?
悩み多き少女だった。