「食べるぞー!! ……とは言ったものの見つからないですね~」
「食べれない!! とミサカはミサカは一抹の不安を述べてみたり」
手を繋ぎながら歩く少女が2人、片方は黒髪に黒のワンピースといった、黒ずくめの少女、もう片方は空色の汚い毛布で身を包んだ少女。黒ずくめの少女、セシリアは御坂美琴を探しているのだが、もちろん居場所など知る由もない。ならばどうやって探しているのか。というと、勘を頼りにだそうだ。そんなものでこの広い学園都市内、探し人が見つかるのか? と言われれば普通はNOなのだが、セシリアは違った。これまで幾度となく、なんとなく探していたら見つかったという経験があるので、今回も大丈夫ということらしい。かといってそうそう見つかるものでもない。今は探し回っている最中ということだ。八月も終わり、30日ともなれば、さすがに暑さのピークは過ぎたようで、心なしか涼しい風が吹いているような気がする。とはいえ、太陽の攻撃は未だ健在だ。歩くのはつらい。
「あつい、あつい、あつーい!! とミサカはミサカは太陽に文句をいってみる」
「……せめて、とりあえず飲み物が欲しいですね……」
「セシリア大丈夫? とミサカはミサカはぐったりしている、セシリアに優しい言葉を言ってみたり」
案の定、太陽が苦手なセシリアが、バテてきたようだ。そんなに、太陽に弱いのなら昼間は外に出ないほうがいいのでは? と言う声がどこからか聞こえてきそうだが、あまりそのことを気にしているのか、していないのか、セシリアは毎回外に出ては、この調子なのだ。
大通り、横断歩道を渡ろうとしている2人は、周りから見て、おかしな光景だった。疲れきった様子の外国人少女が、暑い中、毛布を被った少女と手を繋いで、歩いているのだ、事件性までは疑わないまでも、その光景は、不思議だ。
始めはセシリアが、ミサカの手を引く形で歩いていたのだが、今はミサカがセシリアの手を引いて、横断歩道を渡る。格好さえ気にしなければ、その姿は、小さい妹が、姉の手を引いているようで、微笑ましかった。
「あ! 違う人発見!」
セシリアが、横断歩道の向こう側に、誰かを発見したようだ。御坂美琴ではないらしい。
その人物は、向こう側の歩道を、歩いていて、こちらには気づいていないようだ。セシリアはその人物の元に行くために、ミサカの手を引き、駆け足で追いつき、声をかける。
「雨宮さんじゃ、あ~りませんか~!!」
「ん? セシリアか。どうした?」
そう答えたのは、オールバックに、柄シャツといった、どこか古めかしい、雰囲気がする人物、雨宮だった。以前セシリアと、雨宮は姫神を巡って、争ったことがある。実際には、セシリアの一人相撲だったのだが、その件で知り合いとなった雨宮と姫神は、その時、仲良くなったらしく、今でもたまに、遊んでいるらしい。
「少女2人が脱水症状を、起こす前に、水分を要求します」
セシリアは雨宮を指差す。
「は! 要求します。 とミサカはミサカは咄嗟に、作戦を理解して、協力する」
「……雨が降ればいいな……」
「雨宮だけに?」
「意味が分からん」
雨宮はそう言って歩き出す。
「もうそろそろ限界が……」
「このまま2人は干物になる運命なんだ。とミサカはミサカは真っ暗な将来を掲示してみる」
雨宮は頭を抱えた後。セシリア達の方に振り向いて諦めたような顔になる。
「分かったよ。 あそこのコンビニでいいか?」
「ありがとうございまーす」
「ありがとうございまーす、ってミサカはミサカはセシリアの真似でお礼をしてみたり」
2人は礼儀正しく頭を下げる。それを見ていた雨宮は、こいつらが男だったら、殴り飛ばしていたのにな……女はずるい。と男なら誰でも一度は思う不条理な感覚を、現在進行形で味わっていた。
雨宮はセシリア達をその場で待たせて、すぐ側にあるコンビニへと入る。
飲み物か……
そう考え雨宮は、多少嫌がらせで、コーヒーでも買っていこうかと思ったが、あの2人は見た目からして、とても飲めそうではないことが分かる。買ったものを無駄にするのも勿体無いということで、ある程度の嫌味を込め、できるだけ苦そうなお茶を買うことにした。
セシリアたちのもとに戻った雨宮は、ペットボトルを2人に渡す。それを2人は嬉しそうに受け取ったので、雨宮としても悪い気はしなかった。だがその気持ち自体、セシリアたちが、女の子であるためなので、踊らされているような気もして複雑だった。
セシリアの精神が男と知ったら、雨宮は果たしてどのような反応をするのだろうか? 少なくともいい思いはしないだろう。
雨宮が女の特権と、それに対抗するための精神力について、考えている間。セシリア達は美味しそうにお茶を飲んでいた。どうやら然程、苦いものではなかったらしい。2人は雨宮にもう一度礼儀正しくお礼を言った後、手を繋いで去って行った。それを見ていた雨宮は、今更になって気づく。
セシリアと一緒にいた子は何なのだろう? あの格好はないだろうと……
セシリアとミサカはその後も歩いた結果、とうとう目標の人物をデパートの側で見つける。丁度デパートに入ろうとしているようなので、セシリアは声を掛けようとしたが、そこでミサカに手を引っ張られ、物陰へと隠れる。
「探していたのはあの方ですか? とミサカはミサカは偶然とは怖いことを実感してみたり」
「そうですよ~。だから名前被るって言ったじゃないですか。チビミサさん」
それを聞いたミサカは頭を抱えて言う。
「そういうことかー!! とミサカはミサカは壮絶にびっくりする」
こういう雰囲気は、御坂さんに似てますね~。
などとセシリアは思う。ミサカがクローンだと、セシリアは知っているのだが、ここはあえて、知らないフリをすることにする。
「あの人が何かいけないいんですか?」
「今はまだ会っては駄目。せめて調整が終わって、からじゃないと。とミサカはミサカは、お姉様に会いたい心を押し殺して言う」
「よく分かんないけど分かりましたよ~! じゃあ私だけ行って、ホットドッグ確保してきます!! 待っててください!!」
「おおー!! なんだか分からないけどミサカはミサカはその情熱にかんどうしてみる!!」
そして2人は握手をする。
「ホットドッグのために!」
「御武運をとミサカはミサカは、涙ながらに見送ってみたりして」
そうやり取りをして、セシリアは「御坂さん、待ってー!!」と言いながら物陰を飛び出していく。御坂はもう中のようだ。
飛び出しは危ない。
飛び出しは危険。
飛び出しはいけません。
それを十分に分かっていたはずのセシリアだったが、そんなことも忘れ飛び出す。
ドンッとデパートの入り口までもう少しというところで、今日2回目の衝突をする。
「うわぁ!」
「おっと」
だが今度は尻餅をつかずに、ぶつかった人物によって抱き止められる。セシリアがぶつかって倒れないとなると、どうやら相手は男らしい。
「大丈夫ですか? 走っては危ないですよ?」
そこにいたのは背の高い少年だ。線の細いスポーツマンのような体型、サラサラの髪に日本人離れした白い肌、さわやか系という言葉が似合いそうな、イケメンだ。
それだけならいい。それだけなら何も問題はないのだが、セシリアはこの少年を知っていた。御坂の1つ年上ということも知っていたし、何よりこいつは魔術師であり、明日起きる事件のうち、1つの関係者なのだ。その証拠に、視線をセシリアの魔導書にチラチラと向けていた。名前は海原光貴(うなばらみつき)、正確には海原光貴本人ではなく、姿を借りているだけなのだが……
「なんでこうなるんですか~!! 今日まだ31日じゃあないから!! 30日だからー!! バカー!!」
海原に抱きとめられたままのセシリアは、そう叫んで暴れる。海原もビックリしたようで、慌ててセシリアを離す。
「落ち着いてください。なにもしませんよ?」
海原の態度は子供をあやす、かのようだった。セシリアの外見年齢を見ても、中学生である海原とは、たいして年は変わらないのだが、セシリアが出している雰囲気のせいだろう。そうなってくると、セシリアの精神はどうなっているのか疑いたくなるものだ。
「ありがとう。すいません。さようなら。ではこれで!!」
セシリアは関わらないよう、さっさっと、その場を後にしようとする。しかし、それを海原に呼び止められる。
「待ってください。御坂さんに会いに行くんでしょう? 僕も御坂さんに用があるんで一緒に行きましょう?」
「な……なぜそれを!!」
「ぶつかるとき、叫んでたじゃないですか?」
「は! しまった!!」
セシリアは、ガックリと肩を降ろして、海原を連れてデパートへと入る。嫌がって、1人で行くことも出来たのだが。もうここまできたら、いろいろと面倒臭いので、セシリアは何も言わず、海原を連れて行く。
デパート内で御坂を見つけるのは容易かった。かわいい、ファンシーな小物が多い、一階の入ってすぐのところにある、雑貨店の前に御坂美琴はいた。大人っぽい物を好きになり始める年頃の、御坂だが、どうやらまだそうではないらしい。
「ビリビリさ~ん!!」
「ビリビリ言うなー!!」
と、お約束の挨拶を交わしながら、セシリアは御坂の隣へと行く。今日も御坂の突っ込みはキレがいい。
「セシリアじゃない。外以外で会うなんて珍しい。買い物?」
「ちょっと、頼みごとがあって御坂さんに会いに来たんですけど、その前に謝らないといけないですね。ごめんなさい」
「ん? どうしたのよ、あんたが、ずうずうしいのは、いつものことじゃない」
「そうではなくてですね……後ろ」
御坂は首をかしげる。
「後ろ?」
なにかあるの? またなんか企んでるんじゃないでしょうね? などと思いながら御坂は後ろを振り向く。
「こんにちは、御坂さん。そちらの方とは先程知り合ってですね、御坂さんの所に行くって言うものですから、僕も連れて来てもらいました」
振り向いた先には、爽やかな笑顔でそんなことを言う少年が立っていた。それを見た御坂は、少しの間呆然としていたかと思うと。勢いよく、隣のセシリアに顔を近づけて、小さくセシリアに話しかける。
「……何つれてきてんのよー!」
「いや、なんかもう私もあれなんですよ……」
「ほんっとに……あれだわ……」
「あれですね……言っちゃいます?」
「そうね……これは言うしかないわね……」
それを見ていた海原が2人に声を掛ける。
「どうかしましたか? お2人とも」
そう海原が言った直後、セシリアと御坂は2人して頭を抱えだす。
海原が、なんだ? と思ったその時。
「「不幸だー!!」」
少女2人の心の叫びがデパート中に響き渡った。