「それで、御坂さん、お昼まだでしょう? ご一緒にどうです?」
爽やかな少年、海原は御坂に詰め寄り、そんなことを言う。海原の誘いは、あからさまなものだが、嫌な感じなどせず、とにかく様になっているのだ。プレイボーイとはこういう人物のことを言うのだろう。だが大抵の女子ならいちころだろうその誘いも、御坂にとっては、邪魔なものだったようだ。人の好みなど様々ということだろう。
「いや、そのね……え~と……」
(ちょっとセシリア! あんたが連れてきたんだから何とかしなさいよ!)
(え~……)
(早く! このままじゃ憂鬱な昼食を過ごさなきゃならなくなるじゃない!)
御坂は目の前のプレイボーイの誘いを何とか受け流しつつ、隣のセシリアに救いを求める。デパートの中、入り口付近の雑貨店前で、そんなやり取りをしている3人、傍目から見れば、男がナンパでもしているように見えなくもないが、海原の雰囲気のせいか、そのようにはなかなか見えない。
セシリアとしても、海原は邪魔なので、何とかしようと口を開くことにした。
「女同士の相談があるんで、男の人は帰ってください!」
あからさまだった。あまりにあからさまなので、御坂も、やっちゃった~。と頭を抱える。普通は、こうもあからさまに拒絶されれば、嫌な顔の1つもするのだが、ここはさすがというべきだろう。海原はニッコリと笑う。
「そうですか。それではまたの機会に、誘いますね。それではまた今度」
そう言って海原はデパートを出て行く。素直に引いてくれたようだ。セシリアは原作でのイメージだと、海原はもう少し、しつこいと思っていた。しかし、意外とあっさりしていたのに多少驚いようだ。
(あれ~? 意外ですね)
海原の心境としては、セシリアが出てきた時点で、あまり強気に出る気はなかったのだろう。ある程度のアタックで済ませた。そういう感じだ。海原もセシリアが魔女だということを知っていると、いうことだ。怒らせる気はない、お前の邪魔はしない。そういう意味合いも込めていたのかもしれなかった。
「なんか、わかんないけど助かったわ」
「えへへ~」
「って、もとは、あんたのせいなんだけどね……ところで用はなんなの?」
「それはですね~――」
そこまで言って、セシリアは間を溜める。そんなに重大発表な感じでやられても……と御坂が思ったところでセシリアは続きを発する。
「2000円のホットドックが食べたい!!」
「……」
「食べたい!!」
セシリアは右手をパタパタさせる。
「……」
「食べたいんですよ~!」
セシリアは両手をパタパタさせる。
「……うん。それで?」
「おごってください!!」
「……」
「……」
しばらく沈黙が流れた。御坂も今までセシリアのことを、ずうずうしいとは思っていたが、ここまでとは思っていなかったようで、思考がついていっていない。それはそうだろう、人を探し出して、そんなことを言う人間がいること自体。御坂にとっては驚愕だったのだ。
「はぁー……」
「御坂さん、大丈夫ですか?」
普通は怒る場面だろう。怒る場面なのだが、相手があのセシリアということもある、今までの奇行で御坂も多少なりとも、耐性はついていたし、海原を、セシリアのせいだとしても、追い払ってくれたということもある。御坂は怒らないことにした。呆れてはいるのだが……。
ほんとにこの子は……。と御坂は思う。
「まぁ、お昼時だしね。アレある公園、ここからじゃあ遠いし、昼食べるんなら、地下のレストランとかにしない?」
「え~!!」
セシリアは大いに不満ありといった。声を出す。2000円のホットドッグのためにここまで来たんだ。それ意外は受け付けないというかのように。
「あそこまで行くの、ここからだとメンドウなのよね。まだここにも来たばかりだし。高いのがいいなら、一番高いの食べていいから、地下にしよう? ね」
「……う~ん」
御坂は子供に言い聞かせる、お姉さんのようだった。言ってることは中学生にしては、なかなかの、セレブ発言なのだが。セシリアは、子ども扱いされてることに気づきもせずに、悩んでいる。2000円のホットドッグにこだわらないのか? と思うかもしれないが、迷う原因は時間にあった。もう昼なのだ、セシリアもお腹が空いてきたのだった。ホットドッグでは量が少ない、地下のレストランで、好きなものを食べていいと言っている。セシリアは悩んだ。真剣に悩んだ。そして結果が出る。
「レストランで手を打ちます」
セシリアはため息をつきつつそう言う。
「……えらそうね」
「あ! それで外に友達待てせてるんですよ! 友達の分もよろしくお願いします!」
「あ~! もう! 分かったわよ! 好きにしなさい!」
御坂は頭を掻きながら、そう諦めたように言った。もうどうにでもなれといった感じだ。いちいち、文句を言っていたらキリがないとでも思ったのだろう。
「御坂さん」
「ん? なによ。 友達連れてこないの?」
「その友達なんですけど、格好にはぜーたいに。口出さないでください! あと無口なんで、それも気にしないでください」
「あ~うん、わかった、わかった。 それより外暑いから早く連れてきてあげなさいよ」
御坂はセシリアの言ったことに多少疑問を感じたが、変な格好といっても、たいしたことないだろう、無口? そんな人もいるだろう。くらいに思ってセシリアにそう促した。
セシリアは御坂の言葉を聞いて、駆け足でデパートを出て行く。
デパートか少し離れたところに、空色の汚い毛布に身を包んだ少女、チビミサことミサカがいた。
「セシリアまだかな~! とミサカはミサカは期待を膨らませてみたり……出てきた! ミサカはミサカは手を振って迎え入れる」
セシリアがミサカの元まで走ってくる。何かと、セシリアは走ってばかりだが、そんなに人生を急いでいるのだろうか?
「チビミサさん、お待たせです」
「どうだった! とミサカはミサカは報告を要求する」
「それが、いろいろあってレストランで食事に変わっちゃたんで、チビミサさんも来てください」
「お姉様には会えない。とミサカはミサカは今一度、言ってみる」
「毛布、頭から被って、喋らなければいいじゃないですか? フォローしますから。食べたくないんですか?」
「う……。ほんとに大丈夫? とミサカはミサカは不安を言ってみたりして」
「大丈夫! 大丈夫」
「じゃあ、行く。とミサカはミサカは誘惑に勝てない自分に、落ち込みながらも同意する」
「じゃあゴー!」
セシリアは頭から毛布を被ったミサカの手を引いてデパートへと向かう。
御坂はセシリアが友達を連れてくるのを待つ間、セシリアの友達について考えていた。
(そういえば、セシリアに友達なんていたんだ、黒子とは仲いいみたいだけど、ほかの子と遊んでるの見たことないわね。変な格好ね? どんなのかしら?)
そうこう考えていると、セシリアが、誰か連れて御坂の前まで来る。
ん? なにあの格好? コート?
セシリアとミサカが、ミサカのもとに着く。そこでやっと御坂は、ミサカの格好が何なのか把握した。毛布を被っているのだ。
「お待たせしました!」
「って! どこの引きこもり連れてきたんだー!!」
(引きこもり……ミサカはミサカは、お姉様の第一声に少しショックを受けた)
「御坂さん!!」
「ああ、ごめん、ごめん、つい。 初めまして、私は御坂美琴よ」
「この子はチビミサさんです」
「チビミサ? ミサちゃんでいいのかな?」
コク、コクとミサカ改め、チビミサは御坂の言葉に頷く。
「じゃあ、行きましょうか!」
「おー!」
(おー! とミサカはミサカは心の中で叫んでみる)
3人は、デパートの階段を下り、地下2階まで行く。ここはレストラン街となっていて、高いものから安いものまで、種類が豊富だった。どれにしようか? と御坂とセシリアが相談していると、目の前に、だラム管型の清掃ロボットに乗った、メイド姿の少女が突如現れる。
「これは、これは、みさかに、セシリアじゃないかー。セシリア、青髪ピアスが、昼ご飯誘おうと思ったらいなかったって、落ち込んでたぞー」
「土御門、なんでこんなとこにいんのよ?」
「舞夏さんじゃないですか~。久しぶりですね~、青髪さんに会ったんですか?」
少女の名前は、土御門舞夏(つちみかどまいか)、魔術師土御門の妹だ。彼女の兄が上条の隣に住んでいるため彼女は、上条の住む寮にいることが、多々あるのだが、セシリアは上条宅へ行ったときに、仲良くなったらしい。メイド姿なのは、メイド養成学校に通う。メイド見習いだからだそうだ。また上条つながりで、青髪ピアスとも知り合いらしい。
「2人とも質問は、次で答えてやろー」
「次ですか?」
「何のことよ?」
(? ミサカはミサカは、何のことかさっぱりだったり)
セシリア、御坂にチビミサは疑問を述べる。
「ではまた今度だなー。バイバイ」
「なんなんですか?」
「何なのよー!!」
(なんだー!! とミサカはミサカは……)
舞夏は、どこかに向かって、手を振っていた。