学園都市のどこにあるかも知れない、窓の無いビルそこには二人の『人間』がいた。
透明な、円筒状の水槽には真っ赤な液体が満ちていて、そこに逆さまの人間が浮かんでいる。
「アレが学園都市へ入ったようだ。しかしずいぶんと早いな…、こちらの事を知っているのではないか?」
逆さまな人間アレイスター・クロウリーは男か女か、子供か大人か聖人か囚人かも分からない声で問う。
もう一人の人間、神父の格好をした男は言う。
「さてね、少なくとも私のことは知らない。」
学園都市へと入ったセシリアの目は初めて遊園地に来た子供のように輝いていた。
「うわぁ~!ほんとにドラム缶が走ってますよ!近未来だ~!」
学園都市は外界とは科学技術が20年から30年も先を進んでいると言われている。
都市内は所々本当の近未来技術があるのだが、初めて来た人が一番未来的と感じるのは映画などの影響だろう、ドラム缶の形をした警備ロボットなのだ。
「どこに行けばいいんでしょうか?上条さんには会いたいけど、そしたらインデックスさんとも会うことになって、不良神父に怒られそうだし……迎えに来てくれるまでおとなしくったって泊まるとこないよ!」
そう言うとセシリアはさっきまで元気はどこへやら、重そうに魔道書を両手でブラブラと持ち頭を垂れてトボトボと前へ進む。
「うぅ~どうしよう……野宿かな~?」
もう三時間ほど目的もなく歩いただろうか、空は少しずつオレンジ色に染まっていき夕暮れを感じさせる。
満身創痍のセシリアは人ごみの中何を見つけたのか急に近くにある建物に隠れ見つけたものをじっと見る。
(あれって絶対、『一方通行(アクセラレータ)』ですよね。なんかオーラが違う……)
人ごみの中を歩く白髪の少年を物陰に隠れながらジッと見つめセシリアは思う。
(ラストオーダーの時みたいに強引に付いて行ったら泊めてくれたりしないかな~?てか仲良くなれば、最強に安全かも!)
「……いや……上条さんのことを信じていないわけじゃないんですよ……ただ一応最強だし、あんまり上条さんに心配かけるのもアレだし……」
途中から口に出して一人あたふたしていると突然後ろから声がかかる。
「あんた、あいつになんか用?喧嘩売るってんなら止めといたほうがいいわよ。一応学園都市最強だから。まぁそうは見えないけど。」
急に声を掛けられたセシリア慌てて
「いえ!こ、これは浮気とかではなくてですね!じゅ、純粋に自分の安全をと言うかなんと言うか……。」
魔道書を持っていない手を上へ下へブンブンと動かしながら言う。
それを見て声を掛けた、茶色の短髪、短いスカートの制服を着た少女は更に声を掛ける。
「なにキョドってんの?あいつのこと好きだったりするの?それなら悪いことしたみたいだからじゃあね。」
そう言う少女を見て少し冷静になったセシリアは気づく。
「あ!ビリビリ!」
立ち去ろうと後ろを向きかけていた少女がそれを聞いて振り返る。
「……今なんて言った?」
もう日も沈みかけ暗くなってきた中、バチバチと何かがショートする音と共に光る。
「その呼び方誰に聞いたのか、じっくり聞かせてもらいましょうか?」
「え?」
(あれ?なんかいつの間にかビリビリさん怒ってらっしゃる?ここは一時戦略的撤退が必要です。)
セシリアはすぐさま物陰を飛び出し人ごみに紛れていく。
「あの子なんだったのよ。まぁ実験とは関係なさそうだからいいけど……でもビリビリって……アイツと、どういう関係?」
実際には何の関係も『まだ』ないのだが……
住宅街――正確には学生の寮が集まっている区域のはずれにある公園までセシリアは走って来ていた。
「はぁ……はぁ……勢いで逃げてきたけど、もう無理です!」
そう言って公園の入り口でうつ伏せに倒れてしまったセシリアは動かない。太陽は完全に沈みもう空は闇が支配していた。
今日一日の疲れが襲ってきたのか、そのまま寝息を立てる。
憑依、金髪神父、不良神父、一方通行にビリビリ、疲れているのも当然だろう。
だがそんな波乱の一日はまだ終わらなかった。
「うお! 黒髪のデッカイ本もったお嬢さんが倒れとる!……てか寝てる?
こ……これは、上やん、だけやのうて、僕にも春が!今日一日シスターに巫女さんときて、もしやと思っとったらこれは……魔法少女か?いや……この黒髪に黒い服、黒い本とくれば魔女やろ!もちろん僕は魔女もいけるで~!」
波乱の一日は終わらなかった……