「てめぇのその手でたった一人の女の子を助けて見せるって誓ったんじゃねえのかよ?お前らだって主人公の方がいいだろ!?脇役なんかで満足してんじゃねえ、命を懸けてたった一人の女の子を守りてぇんじゃないのかよ!?だったら、それは全然終わってねぇ、始まってすらいねぇ・・・ちょっとくらい長いプロローグで絶望してんじゃねぇよ!手を伸ばせば届くんだ!いい加減に始めようぜ!! イマジンブレイカァァアアアアー!!」
叫び声が響き渡る。
「姉ちゃん。 それサイコクラッシャーだから」
「分かってますよ~」
9月1日、お昼が迫る時間。漆黒の髪に碧眼、肩からは赤い紐で結ばれた魔導書を提げる少女、セシリア・アロウはゲームセンターに居た。
と、いうのも今日昼過ぎに見てもらいたいものがあるからと、歩に昨日帰り際、言われたからだった。歩と同じくセシリアも寝てはいない、だがセシリアの場合は徹夜で逆にテンションが上がっているようだ。昼前に外に出たはいいが、少し時間を潰そうとゲームセンターに入ったということらしい。
ちなみに「姉ちゃん」とセシリアを呼んでいるのは、ゲームセンターで出会った。小学三年生くらいの少年だ。今日は始業式だけで学校が終わったのでこの時間にこんな所にいるようだ。セシリアのゲーム代を払ってくれていたりする。
セシリアはなをもカチャカチャと画面に向かい真剣な眼差しでスティックを動かす。
「てか、姉ちゃん。そんな赤くてゴツイキャラじゃんなくて、もっとカッコいいの使おうよ」
「……フッ、これだからキッズは駄目です。その赤くてゴツイのがカッコいいんですよ~!」
「にしても技使いづらいよ、それ」
「キッズにはタメ技の美学が分からないんですね。哀しいです……」
などと言いつつもセシリアは画面から目を離そうとはしない。ゲームセンター内は学校帰りの学生で賑わってきている。その中でも外国人の少女であるセシリアは異彩を放っていた。
「って! あー!! そんなこと言ってるから負けちゃったじゃないですか! 何ですかこの緑のビリビリは! 電撃ウザッ! 電撃ウザッ! ですよ」
「だからそんなキャラ使うからだって、次は俺の番だから替わって」
「嫌です!」
と言ってセシリアはニコニコと少年に手を差し出す。ようするにもう100円という仕草だ。
「なんで俺がさっきから払ってんだよ! 姉ちゃん年上だろ!」
と、セシリアは少年のその様子に不適に笑ったかと思うと手を胸の前で組み(上目使い&涙目)懇願する。
「お願いです~!」
その瞬間、何か打ち抜かれるような音がしたのは気のせいだろうか。それは純真な少年の心であったことは言うまでもない。そうセシリアは魔女なのだ。
「し、仕方ないなぁー。まぁ俺ゲーム機版持ってるし。別にいいんだけどさ……」
そう言ってそっぽを向きながら、セシリアに100円を渡す。
(楽勝ですね~!)
100円を貰いまたもゲームを始めるセシリア。真剣な表情ではあるが、話すことは止めない。話しながらゲームをするのが負ける原因でもあるような気もするが、それも気のせいなのだろうか?
「最近思ったんですけど、オセロさんも名前的に普通ですよね」
「なんのこと?」
「白井黒子って名前の人がいるんですけどね。どんなあだ名キッズなら付けます?」
「もうオセロって聞いたから、それしか思い浮かばないんだけど」
「キッズは役に立たないですね……」
少年はその言葉に「え~!」と言って崩れ落ちた。セシリアの身勝手さには子供でもついてはいけないらしい。
「こうなったら、モノトーン黒子しか道はないです……」
「だれがモノトーンですの!!」
パッァーンとセシリアの頭を何かが叩く。セシリアは叩かれた勢いでゲーム機に突っ込む。
すぐさまセシリアは起き後ろを振り向く。
「モノトーンオセロさん!!」
「おい!!」
ともう一度何かでセシリアは叩かれる。
叩いたのは名門常盤台中学の制服を着た、ツインテールの少女、白井黒子だ。
その手には、なぜだかスリッパが握られている。セシリアはそれを指差し
「それなんですか?」
「よくぞ聞いてくれましたわ! これぞ私とお姉様が開発した、対セシリア用兵器(只の常盤台来客用スリッパ)ですの」
少年は、なんだこれ? と言う表情で黒子を見る。だがセシリアは違った。
「な、なんてことです!!」
「これでセシリア、あなたもお終いですわね」
黒子の勝ち誇った顔に、セシリアは一瞬苦虫を噛んだ様な顔になる。しかしそんなことではセシリアは止められはしなかった。
セシリアは大きく笑う。黒子を馬鹿にするかの様に。
「なにを笑っておいでですの?」
「そんなもの! 私の絶対バリアーが通さないです!!!」
セシリアは両手を前に出し。あたかもバリアーを張るかのような仕草を見せる。
少年は「いつになったら終わるのかな~?」などと呟き2人を見ていた。呆れているのだ。だが黒子はそうではない。
「な! なんですってー!! それではどうすれば!」
と、まあこんな感じで進んだよく分からないコントもさすがに、テンションの維持はキツイ。
「……」
「……」
「仕事に戻りますわ」
「がんばってください」
セシリアはそう言って、手の平を黒子に向け、もう片方の手でゲームを指差す。
「ああ……」
黒子は100円を取り出しセシリアの手の平に置き、自身の能力であるテレポートで消えた。セシリアはため息をついてから、100円を入れようとする。
その刹那
「って、なんで100円あげなきゃなのですの!!」
セシリアの後頭部に戻ってきた黒子の兵器(スリッパ)が迫る。セシリアは恐ろしい程のスピードで振り向き、両手を兵器の前に突き出す。
「絶対バリアァアアアアー!!!」
「うおぉぉぉおおおおー!!!」
2人の動きが止まる。
「……」
「……」
黒子が無言で手の平を差し出す。そこにセシリアは同じく無言で100円を置く。
そして黒子は今度こそ消えた。
第十五学区、学園都市で最大の繁華街があり。テレビ局やマスコミ関係の施設も多い。その繁華街では今、2人の神父が対峙していた。
「やっとみつけたよ」
「あれ? よく分かったね」
「君を見つけられない私じゃあない」
「身長伸びた?」
「もう大人だ! いまさら伸びるか」
「ああ、ついつい、いつも小さい時のようにしてしまうな」
1人は平均的な特徴のない短い黒髪の日本人神父。
もう1人は長い金髪を靡かせた20代前半くらいの外国人神父。この金髪の神父を覚えている人は、果たしてどれだけいるだろうか、彼はセシリアが初めて会ったイギリス清教の人間であり。セシリアを襲った魔女ナイル・アウソンを倒すのに一役買った人物。『変態神父』こと魔女狩り専門の魔術師、ロバート・ディーンだ。
「君は、まだ自分を消そうとしているのか?」
「ハァー、アークビショップにはそう聞いてるんだよね。それで私がここにいることを報告するのか?」
日本人の神父の話し方は統一されてなく、分かりづらい。神父の質問にロバートは一瞬哀しそうな顔になってから答える。
「報告はしない……ローラ様が君を殺す気なのを私は知っている。私は君を救いたいんだ」
その言葉に神父はうれしそうに笑う。その笑顔は酷く純粋で逆に怖いほどだ。そしてロバートに微笑むように話しかける。
「あいつがこの世で唯一私の目的を知ってるんだよ。嫌違うか。目的を知っている人間で唯一生かしておいたんだ。あいつには最後まで見てもらう必要があるからね。あの人を殺したあいつはね」
そこで神父は何か思い出したように手を叩く。
「そうだ、そうそう昔のようにお姉ちゃんって呼んでくれよ、可愛いロバート」
ロバートは俯き、なにも話さない。神父のその言葉はロバートにとってどんな意味を成しているのか、はたまたどんな効果があるのか。ロバートは涙を押し殺すようにしたを向く。
「じゃあね。あといくら私だからってキスは調子に乗りすぎだぞ?」
そう言って神父は背を向ける。ロバートは拳を握り締め神父に向かって叫んだ。 その様子は幼い子供が、必死で何かを求めているようで痛々しい。
「僕はセシリアお姉ちゃんを助けたいんだよ!!」
背を向けて歩く神父は軽く手を上げ学園都市の奥へと消えていった。
科学と魔術。学園都市、教会、魔女、魔術師。様々な組織、団体があり。その中でも様々な争い、歴史がある。物語は世界規模であり、また個人の人生でしかない。その全てが交差する時、本当の意味での物語は始まるのかもしれない。