「うお! 黒髪のデッカイ本もったお嬢さんが倒れとる!……てか寝てる?
こ……これは、カミヤンだけやのうて、僕のも春が!今日一日シスターに巫女さんときて、もしやと思っとったらこれは……魔法少女か?いや……この黒髪に黒い服、黒い本とくれば魔女やろ!もちろん僕は魔女もいけるで~!」
波乱の一日は終わらなかった。
「……こんだけ騒いで起きんとは……お嬢さん?ダイジョブか?」
セシリアはその声に反応したか少しモゾモゾと動き出し答える。
「喉渇いた……」
「飲み物くらいお兄さんが奢ったるから起き~!風引くで~!」
男は前かがみになりセシリアを覗き込む。
セシリアが顔だけあげると男と目が合った。
「「……」……生きとるか?」
「うわぁぁ~~!青髪~!もういろいろビックリなんですけど!」
セシリアは飛び起きて、混乱しているのか頭を縦横無尽に振り回している。
「驚きすぎや!お兄さん悲しいで!」
「すいませんでした!」
……落ち着きは取り戻したようだ。
これはチャンスかと思いセシリアは、現状最大の問題を解決しようと口を開く。
「泊まるとこないんで助けて下さい!」
「……マジっすか?」
青髪にピアスの身長180cmに届くかという大男は言う。
「マジです。」
「……」
男は黙る。
セシリアは、やっぱりいきなりこんなこと言ってもだめか~と諦めようとして、謝ろうと声を出しかけて遮られる。
「すいま「いいでぇ~!」」
「え?」
「このチャンス逃すはずないやろ~、男なら誰もが夢見るこの展開!断るか? 否!
断ったら男が廃るわ!」
「……ありがとうございます。」
セシリアはその勢いに若干引きながらもお礼を述べる。
そこで思うこの男原作では『青髪ピアス』としてしか登場しておらず、名前を知らないのだ。
テキトウに泊まる言い訳を考えて自己紹介をする。
「あらためまして、セシリア・アロウです。兄の用事で学園都市に来たんですけど、兄に2,3日したら迎えにいくからって言われて一人にさせられてしまい。そのあいだ泊まる場所を探していました。そしたら疲れて倒れてしまったようで……」
「そうか、そうか、けったいな兄もいたもんやな~!じゃあセシリアの嬢ちゃん、僕のことは青髪ピアスでいいよ。」
あれ?本名は?と思ったセシリアは聞く。
「あ?本名はないんですか?」
「……」
「……」
暗い夜電灯の明かりだけの世界に沈黙が訪れる。
沈黙を破るように自称『青髪ピアス』は言う。
「……セシリア嬢……それは聞いたらいかん。それは世界のルールに反するで。」
真剣なでもどこか哀しい目をして青髪ピアスは言った。
(あぁ~、やっぱり名前ないんだ……)
セシリアは思う。
青髪ピアスはどうやら、パン屋に下宿してバイトしているらしいのだが、パン屋のあるビルの二階、三階が寮のようになっており、三階は社員、二階は青髪ピアスのような下宿している学生が使用しているらしい。
なんでも下宿しているのは男しかいないので、女の子は大歓迎だとか。
寮監がいないようなものなので、そこらの寮より規則はゆるいだとか。
あとバイトの女の子の制服はメイド服に似てるだとかだそうだ。
(下宿でパン屋っていうから、夫婦で経営してるような個人まりとしたの、想像してたけど、普通に大手のチェーン店って感じだな~。)
今セシリアは青髪ピアスに連れてこられ下宿先のパン屋の前まで来ていた。
「こっち、こっち。」
青髪ピアスが手招きに応じ、パン屋の裏口から2階へと上がる階段をあがる。
あがった先は廊下があり、ホテルのように左右に部屋への入り口のドアが突き当りまで4つずつ並んでいた。
もう夜も9時過ぎといったところだろうか、店はもう閉まっていて、パン屋の朝は早いのだろう、廊下は静まり返っていた。
青髪ピアスは廊下を中ほどまで歩き、止まったかと思うと急に声を張り上げる。
「 聞けい!みなのもの!」
そう言うと、左右のドアから眠たい目をこすりながらバイトの学生達が、なんだ、なんだ?、と出てきた。
(え?なんですかこれ?)
セシリアは思う。