ひぐらしのなく頃に剣
~騙神殺し編~
第一話
昭和58年6月の雛見沢、前の世界で学んだことは運命は簡単に打ち破る事ができると言う事。そして、手に入れた最強にして最高の駒は今・・・・・・。
「それで、羽入? 説明してくれるんでしょうね?」
百年の魔女こと古手梨花に羽入と共に睨まれていた。
昭和58年6月の雛見沢に来た恭也は羽入と共に一人で居る梨花の所に向かった。他の人間が居る状況で余所者の恭也と実体化した羽入の姿を見せる訳にはいかないからだ。
最初に羽入が梨花の下へ行き、幾つかの言葉を交わして恭也を呼び、梨花に恭也を紹介する手筈だったのだが、羽入が恭也というイレギュラーを世界を渡る力を犠牲にしてまで連れてきた事に不満な模様。かなり鋭い眼光で羽入と恭也を睨んでいた。
「あうあうあう・・・勝手な事してごめんなさいです。でも、恭也は20年経ったのにも関わらず雛見沢の事件の真相に自力で辿り着いた人間で、しかも裏世界最強と謳われる御神流の使い手なのです。ボクも勇気を出して戦う決意をしましたのです。きっと鷹野にも勝てるのですよ!」
「・・・本当に勝てる? 鷹野の野望を打ち砕く最高のイレギュラーに彼が本当になりえるの?」
「ボクはそう信じてます」
梨花は暫し何かを考えていたが、やがて決意の瞳で恭也を見上げた
「本当に・・・私を昭和58年6月の死の螺旋から救ってくれるの?」
「ああ、必ず君を、君とその仲間達を守り抜く・・・護る事において我が御神流は最強だ。この小太刀二刀に掛けても守り抜くと誓おう」
誓いの言葉を述べた恭也を見て梨花も何かを感じたのか素直にその言葉を受け取り、恭也の手に己の手をそっと添えた。
取り合えず最初にやる事は恭也と羽入の住む所だ。羽入だけなら梨花と北条沙都子が住む小屋でも良いのだが、恭也も居るとなると話は違う。
「ホテルでは興宮だから守るには不都合だ・・・できれば雛見沢村内で居を構えたいが」
「あう、ボクは恭也が一緒でも構わないのです」
「・・・そうね、私の親戚ということにして一緒に暮らせば違和感無いわ。元々家に保護者が居ない私と沙都子だし、恭也が私と沙都子と羽入の保護者代わりになってくれると助かるわ」
結局それしか無かった。とにかく住家は確保したのだ、元の世界に置いて来た荷物の代わりになる着替え等を買うのは明日にして梨花の住む小屋に向かった。
小屋に着いた恭也と梨花と羽入は沙都子が帰っているのを確認して中に入ると、先ず梨花が沙都子に自分の親戚が暫くの間遊びに来たと伝え、恭也と羽入を紹介した
「暫くの間だが、よろしく。高町恭也だ」
「あうあう、よろしくなのです。ボクは古手羽入なのです」
「よろしくお願いしますわ。私は北条沙都子、梨花の親友ですの」
以外にも沙都子は多少驚いたものの、直ぐに恭也と羽入を受け入れた。梨花の親戚という事で納得しているのだろう。羽入に関しては・・・警戒する気にもなれない。
その日の夕飯は恭也と羽入の歓迎という事で少し豪勢になった。四人とはいえ、それなりに盛り上がって楽しい食事になったのは言うまでも無い。ただ、梨花が用意した激辛キムチの盛り合わせを見た瞬間に羽入が涙目で恭也の後ろに隠れたのを見て梨花が黒い笑みを浮かべていたのは、見なかった事にしたい(ついでに梨花が持っていた懲罰用と書かれたキムチの入れ物も)。
「・・・・・・ふっ!」
深夜になって沙都子も梨花も羽入も寝静まった頃、恭也は一人神社の森の中で鍛錬をしていた。相手が居ないので仮想敵を相手にしたものだ。当然周囲に“山狗”の気配が無いのを確認した上で行っている。
「・・・奥義の陸」
―――薙旋―――
仮想敵恭也が知る中でも実際に戦った事がある最強にして完成された御神の剣士である御神美沙斗だ。先ほどから素早い斬撃の嵐を受け流しながら隙を探してそこに攻撃しようとするが素早くかわされる。美沙斗の斬撃をかわすのに精一杯になっていた恭也はついに美沙斗が距離をとるのを許すという愚行を行ってしまった。神速で繰り出される美沙斗が最も得意とする奥義、射抜が迫るのを見た恭也も神速に入って納刀した小太刀を構えて薙旋を放つ。
「・・・負け、か」
結果は派生された斬撃が恭也の薙旋を完全に弾いて首を落とされた。完全に恭也の完敗だった。
「凄いわね」
「・・・梨花と羽入か」
先ほどから気配は感じていたが、話しかけてきたので後ろを向く。案の定そこでは梨花と羽入が寝巻き姿で恭也を見ていた。
「それが御神流? 武術はよく解らないけど、凄いというのは解ったわ・・・・・・動きが殆ど肉眼で確認できなかったし」
「あうあうあう、凄いのです凄いのです! 流石は御神流なのです! あう!」
賛辞を受けながら恭也は小太刀を鞘に収めて使用した飛針や鋼糸、小刀を回収する。完全武装で来たとは言えど、無駄に消費する訳にいかないのが暗器だ。
「・・・もう今夜の鍛錬は終わりだ。夜も遅い、帰ろうか」
「そうね、明日は分校に羽入を転校させないといけないし」
「あう! 早く帰って寝ましょうなのです!」
恭也の左右に梨花と羽入が並んで歩き出す。今日一日で梨花も随分恭也に打ち解けたみたいで、沙都子の前で見せた無邪気な笑顔を恭也に向けていた。
「にぱ~☆ 明日は早いので、早く帰ってお布団に直行なのです!」
無邪気な笑顔、本当はこの笑顔こそが梨花の本当の笑顔の筈なのだ。だからこそ守らなければならない。もう、この娘に何か諦めたような冷笑をさせてはいけない。この世界に来る時に見せられた無数のカケラに映っていたあの冷笑を、二度と浮かべさせない。この星空の下、恭也は改めて誓った。
翌朝、梨花と羽入と沙都子は制服を着て学校に向かった。この村の学校は恭也も資料で見たから知っているが、雛見沢分校という小さな学校で、教師は担任と校長の二人、生徒は小学校低学年から中学校3年生まで合わせて30人程しか居ない。
三人とも学校に行ったのでやる事の無い恭也は興宮へ行って買い物をする事にした。着替えが無いので今日もスーツのままなのだ。
梨花から渡されたお金でジーパンとロングシャツを数枚、ジャケットを購入、ついでに頼まれていた夕飯の買い物は後回しにしてエンジェルモートというファミレスで昼食にして一休みするとスーパーに向かって夕飯の買い物を済ませる。
「さて・・・戻るか」
サッと周囲に意識を向けて見るが今の所妙な視線や気配は無し、尾行の気配も無いので警戒しつつも気持ち急ぎ足で雛見沢に戻った。
雛見沢に戻ると夕方になり丁度梨花や羽入達の姿も見えた。周りに友人の姿がある事から下校中なのだろう。
「あの顔は、確か」
資料で見た行方不明者リストの顔写真を思い出す。間違いなく梨花、沙都子、羽入の周りに居るのは前原圭一、竜宮礼奈、園崎魅音、園崎詩音なのだろう。まさか生きた彼等に会うとは少し複雑な気分だった(圭一がメイド服を着ているのはスルーした)。
「羽入、梨花、沙都子、今帰りか?」
「みー! 恭也なのです!」
「あう~! 恭也なのです」
「恭也さんも今お帰りですのね?」
駆け寄ってきて腕にぶら下がる梨花と羽入を持ち上げながら沙都子に目を向けると少し羨ましそうな顔をしていた。一方の圭一達は見慣れない人物の登場に随分と驚いている。
「みー、圭一達に紹介するのです。彼は羽入と同じ僕の親戚で高町恭也と言いますです」
「よろしく、高町恭也だ。今までイギリスに居たんだが、梨花の両親が二年前に死んだと最近聞いてね、急遽日本に戻ってきたんだ」
昨夜、梨花と羽入と三人で話し合って決めた恭也の身の上、日本に居たという事にしては何故梨花の両親が死んだ2年前に来なかったのかという事になるので、海外に居て連絡を貰うのが遅れたという事にした。その海外に関しては恭也にとって馴染み深いイギリス、語学留学していた事にしてでっち上げたのだ。
「俺は前原圭一、分校の中学二年です。よろしく!」
「えっと、竜宮レナです。レナって呼んでほしいな。ほしいな」
「あたしは園崎魅音、一応このメンバーのリーダーかな」
「妹の園崎詩音です」
自己紹介を終えて一行は梨花の家に行くと言うので丁度帰る所だった恭也も一緒に行く事になった。梨花と羽入を下ろして買い物袋を持ち直すとさり気無く梨花の横に並んで歩き出す。
「なぁなぁ恭也さん、イギリスの事教えてくれますか?」
「はぅ~レナもレナも! 外国のお話聞きたいな。聞きたいな」
この時代、特に雛見沢の様な田舎に住んでいると外国に住んでいたというのは珍しいのか圭一とレナがイギリスの事を聞いてきた。魅音と詩音も聞きたそうにしているので、クリステラソングスクールに行った時の事を話す事にした。
「ああ、そうだな・・・そもそもイギリスにはとーさんの友達が居てな、クリステラソングスクールという歌手の卵を養成する学校は知っているか? 世紀の歌姫ことティオレ・クリステラが校長をしている」
「? レナはちょっと・・・」
「わたくしもですわ・・・」
「おじさんは知ってるよ、確かイギリス議員アルバート・クリステラの奥さんだよね?」
圭一もレナも沙都子も知らないという顔をする中、魅音が知っているらしく、恭也もよく知る人物の名を挙げてきた
「お姉、知ってるんですか?」
「うん、園崎家って何気に海外とも繋がりがあるからその関係でね・・・ってもしかして!」
「そうだ、とーさん友達というのがティオレさんとアルバートさんだ」
海外の大物と親交のある親というのも珍しいもので、圭一とレナが目を輝かせている。
「話が反れたな・・・まぁ、それで留学する事になった時その話をとーさんから聞いたアルバートさんとティオレさんが俺のホームステイ先をクリステラ家にしてくれたんだ」
「すっごぉい! 国を超えた友情いいねいいねぇ」
「うわ、レナが何故かお持ち帰りモードに・・・」
トリップしているレナを放置した一行、恭也も如何したものかと考えたが、梨花の「いつもの事なのです」という言葉に納得した事にして一緒に放置することにした。
「しかし、イギリスは余り食事が美味くない・・・出されれば食べるが、やはり料理は日本の物が一番だな」
「あ、やっぱりですか? イギリスの料理って美味しくないって聞いてましたけど本当だったんですねぇ」
「うわ、そりゃ食いたくねー」
雑談をしているとあっと言う間に梨花と沙都子、それから羽入と恭也の家にもなっている物置小屋が見えてきた。
「沙都子、すまないが両手が塞がっている。先に行って鍵を開けてもらっていいか?」
「よろしくってですわよ」
たたたた・・・っと走って行く沙都子を眺めながら恭也はホンの一瞬だが鋭い視線を感じた
「っ!」
視線だけ動かして周囲を見渡し、気配を察知する範囲を広げてみるものの、怪しい影も気配も存在していない。既に移動したのか、それとも恭也の気のせいなのか、・・・だが一つ判るのは梨花と合流してからずっと梨花の護衛という事になっている山狗らしき気配は多数感知している。今はまだ泳がせているが、もしかしたらその山狗が恭也が何者なのか確かめようと先ほどの視線を向けた可能性がある。
「・・・・・・」
「あう? 恭也、どうしたのですか?」
恭也の様子がおかしい事に気付いたのか羽入が小声で尋ねてきた。だが今は心配を掛けるべきでは無いと判断して夜に話すと伝え、圭一たちと共に家の中に入った。
「何者かしら・・・彼」
診療所の更衣室で鷹野三四は部下の山狗からの報告にあった恭也について考えていた。昨日から梨花の家に住み着いた人物がいると聞いて興味を持ったのだ。
「山狗の話では20代前半の男性、身のこなしから何かしらの武道を修めている可能性有り、イギリスからの帰国者で古手梨花の親戚と自称している・・・ね」
不確定要素だが、鷹野は恭也を見縊っていた。鷹野の下には自衛隊の特殊部隊“山狗”が居る。どんな人物が居ようと目的達成の障害になるとは思っていないのだ。
「フン、たとえ誰が居ようと、私の計画の邪魔になるのなら容赦しない! 築かれる屍が一つ増えようと、私は私の目的を達成するのみ! ・・・フフフフ、あははははははっははははははははははははははは!!!!!」
彼女は知らなかった。彼女が侮っている人物こそ、彼女にとって最大の障害にして最強の敵になるという事を、まだ・・・知らなかった。
あとがき
結構な好評があったので更新しました。
次の更新は未定ですが、楽しみにしてください。