ひぐらしのなく頃に剣
~騙神殺し編~
第二話
朝、恭也は誰よりも早く起きて剣の鍛錬に出る。気配を消して追跡できないようにしてから隠密行動を取って鍛錬に使う事にした鍛錬場に行き、1~2時間くらい剣を振ってから家に戻り、風呂に備え付けてある簡易シャワーを浴びると既に起きて朝食の用意をしている沙都子に出くわした。
「おはよう」
「あら、おはようございますですわ。今日もお早いですのね」
梨花と羽入はまだ寝ているようだが、そろそろ時間的に起きないといけない時間だ。何より二人が起きないと布団を片づけてテーブルを出せない。
「梨花、羽入・・・そろそろ起きろ」
肩を揺するも起きる気配は無い。仕方ないとばかりに二人の鼻を抓んで暫くじっとしてみると見事に飛び起きた。
「はぁっ・・・はぁ、恭也・・・アンタもう少しマシな起こし方できないの!?」
「あぅぅぅぅ~、息苦しかったのですぅ~」
文句を言ってくる梨花だが、起きない方が悪いと言って二人に布団の片付けを言いつけるとキッチンで沙都子の手伝いを始めた。とは言っても、もう殆ど終わっているので食器を用意して盛り付けをするだけ、盛り付けたものから梨花が用意したテーブルに持っていく。
「・・・羽入、ちゃんと目を覚ましているか?」
「あうあう~、まだ眠いのです」
まだ寝ぼけ眼の羽入を抱き上げて洗面所に連れて行くと冷水で顔を洗わせる。流石に水の冷たさで覚醒したらしく、確りした口調で恭也におはようと言った。
「ほら、もう朝食だ」
「はいなのです。朝ごはんは一日の活力なのですよ」
テーブルに四人が揃っていただきますと言って今日も一日が始まる。だが、今日は一番大変は日になる予定なのは、沙都子が知る由も無かった。
昼間、学校を休んだ梨花と羽入は恭也と共に神社の境内に呼び出したこの村の診療所医こと入江京介と、フリーカメラマンの富竹ジロウに会うことになっていた。
「確か入江京介は雛身沢症候群の研究をしている入江機関の所長、富竹ジロウはその入江機関と“東京”との連絡をしている諜報員・・・だったな?」
「ええ、そしてきっと私達の味方になってくれる」
「あう☆ 富竹と入江が味方なら心強いのです」
恭也が自信の知っている情報を梨花と羽入に確認している内に約束の時間になったらしく、入江京介と富竹ジロウが境内にやってくるのが見えた。二人ともこれから話される内容を知らずに困惑した表情で階段を上ってきている。
「やあ梨花ちゃん、久しぶりだねぇ・・・おや? そちらの二人は」
「見かけない顔ですね」
初対面の恭也と羽入の姿を見て富竹も入江も少し訝しげな顔をした。特に要警護人物である梨花の傍の見知らぬ人物が居る事に警戒しているのだろう。
「紹介するのです。この二人は僕の親戚で古手羽入と高町恭也なのです。二人はずっと海外に住んでいて最近雛身沢に来たのです」
「あうあう・・・羽入なのです。よろしくなのです」
「高町恭也です。最近までイギリスに語学留学していたのですが、梨花の両親が亡くなったと言う事を最近になって聞き及んだので急遽帰国してきたんです」
自己紹介を終えて次に切り出すのは恭也だ。こういった交渉のようなものは経験の多い恭也がやった方が良い。
「前置きはこれ位にしましょう・・・。今日あなた方を此処に呼んだ理由は一つ、あなた方が所属する“東京”と鷹野三四の事についてです」
返って来たのは驚愕の顔だった。まさかそんな話が出るとは思いもしなかったのだろうが、今はそんな事を気に掛けるつもりは無い。
「単刀直入に言わせて貰います。鷹野三四はここに居る梨花を殺すつもりでいる」
衝撃の発言だったのだろう、二人とも驚きで言葉を失っている。そもそも何故恭也が鷹野の事を知っているのか・・・、いや、それは梨花に聞いたのだということは簡単に想像できる。しかし、何故鷹野が梨花を殺すなどという言葉が出るのか、それが解らなかった。
「鷹野が僕を殺そうとしているのは確かなのです。でも本当に確信するには先ず入江に聞きたい事があります」
「な、何ですか?」
「・・・鷹野が私を殺して何か得する事は・・・・・・いえ、もし私が死んだらどうなるのか教えて」
その問いに答える事に躊躇いがあった。鷹野が梨花を殺そうとするなど信じられないし、梨花がもし死んだらの話は出来れば梨花に聞かせたくなかった。
「答えて欲しい・・・これは重要な事なんです」
「・・・・・・解りました。しかし、これは最重要機密です。ですので出来れば内密に」
「入江所長!」
富竹が異論を挟もうとしたが梨花の眼光にその先を口にすることが出来なかった。
入江から語られた事実、梨花が何らかの理由で死亡した場合に適用される緊急マニュアルの存在。
雛身沢症候群の女王感染者である梨花が死亡した場合、48時間以内に村人は雛身沢症候群の末期症状に陥って近隣の町に悪影響を与えてしまう。それを未然に回避するための緊急手段として“東京”が用意した緊急マニュアルが“緊急マニュアル34号”と言うもの。内容は梨花が死んだ場合、直ぐに自衛隊の特殊部隊が雛身沢を封鎖して村の住民を一箇所に集め、毒ガスか何かを使用して始末するというものだ。
聞かされた内容は恭也がこの世界に来る前に調べた内容をより鮮明に回答してくれるものだった。そして、その緊急マニュアルは絶対に回避しなければならない。
「鷹野の目的は、その緊急マニュアルを発動させる事・・・か?」
「・・・そうね。でも何故? それが解らないの」
「ですから! 鷹野さんがそんな事をする筈がありません! 彼女は雛身沢症候群の研究に並外れた熱意を持っているのですよ!?」
だが、恭也が梨花に聞いた限りによると雛身沢症候群の研究は後3年で打ち切られる事になっていた筈だ。ならば聞いた限りの鷹野の性格を考慮するなら
「どうせ打ち切られる研究なら、盛大にテーブルを引っ繰り返してやろうと考えると彼女なら考えれられませんか?」
入江も富竹も口を噤んだ。反論できなかったのだろう、彼女の性格をよく知っているが為に。しかし、それでも彼女がそんな事する筈が無いと信じたいのか何か反論を考えている。
「彼女の話はちゃんと聞いた方がよろしいですよぅ?」
階段の方から声が聞こえた。見てみると体格の良い老刑事と思しき人物が此方に向かって歩いている。その少し後ろにはまだ20代であろう若い青年、しかしその筋肉の付き方は無駄が無い。よほど鍛えていると見える。
「大石さん・・・」
「梨花、彼等は?」
「・・・・・・」
返事が無い。どうも大石と呼ばれた男の後ろに居る青年を見ているらしい。しかもその表情は驚愕に彩られている。
「赤坂・・・」
「やあ梨花ちゃん、久しぶり・・・もう東京に帰れなんて、言わないだろ?」
結局羽入が教えてくれた。大石と呼ばれた男は興宮署の刑事で、梨花が赤坂と呼んだ青年は東京の警視庁公安の人間とのことだ。
「アルファベットプロジェクト?」
「そうです。私たち公安の第7室が追っていた巨額の裏金ルートです・・・もう既に捜査中止になりましたが。その裏金ルートの資料の中にこの雛身沢の入江機関という名もありました・・・同時に入江診療所とも」
赤坂が来た理由はそれだ。つい最近まで追っていたヤマの中に雛身沢が有り、それで嘗て雛身沢に来た時の事を思い出し、同時に妻の命を救ったという梨花の事も思い出して今度は自分が梨花を助ける為に来たのだ。
「裏金か・・・富竹さん、失礼ですが・・・“東京”に派閥争いが起こる事はありますか?」
「派閥? ・・・如何だろうね、僕も余り詳しくはないけど、可能性は0じゃない」
全員が恭也に注目している、何を言いたいのか予想できたのだろう。
「もし、“東京”の中に派閥があり、例えば派閥をAとBに分けますが・・・緊急マニュアルを発動すれば派閥Aが責任を取らされることになる。それを狙って派閥Bが研究中止で落ち込んでいた鷹野三四に接触して、研究を中止させた派閥Aを緊急マニュアルを起こして陥れる事を吹き込んだら・・・彼女なら如何出ると思います?」
「・・・雛身沢症候群の研究に並外れた熱意を持つ彼女なら、自身の研究を邪魔した者共に一泡吹かせてやれるチャンスに飛びつく・・・同時にどうせ中止になる研究なら盛大に引っ繰り返してやる事も可能、か・・・・・・有り得ないとは、言えませんね」
鷹野の性格をよく知る入江だからこそ、これ以上否定が出来なかった。鷹野なら有りえると思ってしまったのだ。
「鷹野の背後を調べる事は?」
「それなら僕が出来る。一応、“東京”との連絡役だから、いざとなれば僕の権限で山狗を制圧できる番犬部隊を呼ぶことも可能だ」
「番犬・・・? 待て、番犬・・・“東京”・・・アルファベットプロジェクト・・・・・・」
番犬という言葉で何かが引っかかったのか恭也が何かを考え込んだ。突然考え込んだ恭也に疑問を持ったのか入江と富竹が首を傾げてしまい、何かあるのだろうかと不安になるが・・・。
「まさか“東京”の正式名称は“Tokyo under grand”ですか?」
「「っ!?」」
二人の反応で確信した。この組織は恭也も聞き覚えが有り、龍(ロン)と同じくらいの因縁が有る。
美沙斗が調べて判ったことだが、御神と不破家を滅ぼした爆弾テロは龍(ロン)だけでなく“Tokyo under grand”も関わっていたのだ。
それだけではない。嘗て父と美由希と共に逃げていた時にも何度か“東京”の番犬と戦った覚えがあるし、そもそも、“東京”からの依頼だけは御神も不破も受け付けないほど険悪な関係だった。
「き、君は・・・一体何者なんだ? “東京”の正式名称を知る一般人など存在しない」
それはそうだ、知っているとしたらそれは同じ裏世界の住人だけだ。それ以外は“東京”の存在すら知らない筈。
「改めて自己紹介します・・・俺の名は不破恭也。永全不動八門が一門、御神流・裏、御神不破流の者です」
不破、その名に驚愕したのは予想通り富竹、入江、赤坂、大石の4人だった。富竹と入江は“東京”の人間だから知っている筈だし、赤坂も大石も警察という職業柄、御神を知っていても可笑しくは無い。
特にこの時代はまだ御神が存在している時代だからこそ、裏世界最強の御神と不破の認知度は高い。
「あ、あの御神!? なぜ御神の、それも御神の裏にして分家の中でも唯一宗家を持つ事の許された不破家の人間が此処に!?」
流石は諜報員と言うだけあり、富竹は不破の事を良く知っていた。恐らく御神について詳しく調べた事があったのだろうと予測できるが、今はそれは重要な事ではない。
「その事については余り詳しくお答えする事はできません。一つだけ言えるとしたら、俺は梨花を護る為にこの雛身沢にいるという事だけです」
最強の御神、その裏の不破が梨花を護っている。つまり梨花は現在この世で最も安全地帯に居るということだ。それを理解した富竹は恭也と戦う事になるかもしれない山狗に心底同情してしまったのだが、それは彼自身が墓まで持っていく秘密にする事となった。
少し話しが逸れた所で一度戻す。
鷹野の背後関係を調べる事が可能と言った富竹は現在泊まっているビジネスホテルとは別のホテルに隠れて“東京”の郭公という本部と思われる所に連絡を取って鷹野の背後関係、アルファベットプロジェクトに関わったと思われる人物と金の流れ先、ついでに鷹野の背後が判ればその人物についてを洗いざらい調べる事になる。
赤坂、大石、恭也は梨花防衛対策、入江は鷹野の動きを見張る事となり、此処で最大の難点となるのは梨花を護るには現在住んでいる資材置き場では不都合なので何処かに移動しなければならないのだが、何処に行くかが問題となった。
雛身沢を出るのは不味いが、雛身沢で梨花を護るのに都合が良く、もし戦闘になった場合に恭也が全力を出せる場所、若しくは全力を出せる場所に直ぐ移動可能な所が在るかどうか・・・。
「一つだけ知ってるわ」
「本当か?」
「ええ、魅音の実家・・・園崎本家ならその条件に完全に当て嵌まっているわね」
だが、事情も知らない人間の所に突然匿って欲しいと言って入るのは無理がある。そう言ったのだが、梨花から返って来た返答は驚愕するには充分の物だった。
「だから話すわ・・・魅音や圭一達に、真実を」
魔性の女と言うに相応しい黒い笑顔を浮かべた梨花に、赤坂と恭也は顔を見合わせてその表情を引きつらせるのだった。
あとがき
久しぶりにひぐらしを更新です。…因みにまだスランプ脱出が出来ませんorz
今回は祭囃し編とほぼ同じ展開になりましたが、今後は祭囃しと澪尽くしを織り交ぜた展開になる…ように書いていきたいのですが、できるかなぁ?
なのはの方はもう少しで完成すると思いますが、未だにスランプが続くので完成まで後どれだけ掛かるかは未定です。