「私はキキョウと言います。この子はカルト。貴方がゴンですね。単刀直入に言いましょう。キメラアントの王を倒せば、キルアとの交際を認めます。ですがそれまで、キルアと旅をする事は許しても、それ以上は許しません」
「キメラアントって? それに、友達に資格なんていらないよ」
「キキョウさん! 貴方は勘違いしている。愛ちゃんの漫画で恋愛事は全て出鱈目だ!」
レオリオの突っ込みに、キキョウは頷いた。
「それでも、ゴン。貴方がキルアと友達になりたい事は事実でしょう?」
「違うよ。俺はもう、キルアと友達だ」
「ならば、間違いがあるかもしれません」
「ねぇよ」
レオリオがすかさず突っ込む。
言っている事はよくわからないが、空気を読んだゴンは言った。
「俺は、キルアに対して恋愛感情は全く全く全く全く全く全く全く全く抱いていません。友達になりたいだけです。どうしてそう思うのかはわからないけど、愛ちゃんって人が言っているのは出鱈目です。信じて下さい」
「パパも同じ事を言っていたわ。これはキルアが大きく成長するチャンスだと……。でも、相手がもしキメラアントの王を倒すほどの子なら……」
「だから、ねぇよ。創作だって、あんたもわかってるんだろ?」
「信じて下さい」
レオリオと、真っ直ぐに見つめるゴン。
「……わかりました。ただし、カナリアを護衛としてつけさせます。もしも足手まといになったら即座に切り捨てて結構」
そして、キキョウはカナリアを呼び出し、小声で命ずる。
「ゴンがキルに手を出そうとした時は……わかっていますね」
「命に掛けても抹殺します、奥様」
「そして、ゴンがキメラアントを倒した時は……わかってますね」
「ゴ、ゴンより強い女性探しに全力を尽くします」
キキョウがにっこりとカナリアを見つめる。
「……ぜ、全力を尽くしてお二人の仲を応援します……」
打ちひしがれたカナリアに、クラピカとレオリオは同情の視線を送る。
カナリアの肩に手を置き、レオリオはぐっと親指を立てた。
「カナリア、いつか強くなって愛ちゃん殺そうぜ」
「はい……はい……!」
カナリアが不幸になっている時、ミルキもまた不幸になっていた。
漫画の内容が頭から離れないのである。
これはもう、実物を見てほらやっぱり実物なんて……と納得するしかない。
漫画版キルアと実物版キルアは別物なのだ。だから漫画版キルアにどきっとしちゃってもミルキのせいじゃないのだ。
ミルキは決死の思いでキルアを鞭叩いた。
一方キルアは、纏いを覚えたので楽なもんである。疲れていた事もあり、天使のような寝顔を披露していた。その体には傷一つつかない。
ミルキの頭に、あっはんな漫画内容が過ぎる。過ぎる。過ぎる。
ミルキは唐突に鞭を投げ出し、泣きながら駆け去った。
「俺は女王様じゃねー!!!!!!!!! 弟に懸想する変態でもねー!!!!!!」
泣きながら駆け去るミルキは、心労で痩せていた。
思春期の少年に、BLとはいえエロ漫画は刺激が強かったのである。
もちろん、ミルキは年相応以上にそういった物を見知っていたが、愛ちゃんのそれは今までのそれを遥かに超えていたのであった。
今ミルキは、邪念を消し去る念能力を開発中だが、それは遅々として進んでいない。
「何なんだ豚君の奴。すっかり痩せてるし」
わけがわからないのは置いてけぼりのキルアである。
ゼノが現れて言った。
「放っておいてやれ。それより、シルバがよんどるぞ」
「親父が?」
そしてキルアは父親の所に駆けて行った。
「やれやれ、ここまでは概ね予知通り……か? ヨークシン、どーなるのかのぅ」
それは誰にもわからない事である。
さて、キルアがゴン達の所に向かっている最中、執事達はゴン達をもてなしていた。
「キルア様を奪うお前らが憎い……! 猛烈に憎い!」
「奪わない! 奪わないから落ち着いて! 俺とキルアは友達! 友達だから!」
「ゴトーさん、キルア様は私がお守りしますから……!」
「お前ら、創作だっていい加減わかれ!」
「これほど人を恐れさせるBLとやら……やはり私は手に入れるべきなのでは……」
「正気にかえれクラピカ!」
原作以上の迫真の「演技」で。
結局、その後、レオリオとクラピカは一緒に師匠探しに行く事になった。
とてもではないが、クラピカを放置できる状態ではなかったのだ。
ゴンとキルアはもちろん、闘技場である。
さて、その頃、愛ちゃんは新たな予知を描き上げて、ノヴに止められていた。
「放して! 私のせいでシャルナークが、フェイタンが! 助けに行かなきゃ!」
「落ち着いて下さい! 殺されるわけじゃないでしょう」
「だけど!」
愛ちゃんが描きあげた漫画とは、フェイタンとシャルナークのエロ漫画である。内容はクロロ団長自らのお仕置きである。
「わかりました。こうしましょう。フェイタン宛てにこの原稿を送りましょう。そして注意をしてもらうのです」
「わかったわ」
渋々、愛ちゃんはノヴの提案を飲んだ。それはもちろん、シャルナークとフェイタンを更なる苦境に追い込むのである。