<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

HxHSS投稿掲示板


[広告]


No.30011の一覧
[0] 蟻喰い狩人(キメラアントハンター) HUNTER×HUNTER[咲夜泪](2011/10/24 07:28)
[1] No.002『幼き魔女』[咲夜泪](2011/10/04 21:14)
[3] No.003『厄除け』[咲夜泪](2011/10/24 07:30)
[4] No.004『慢心』[咲夜泪](2011/10/06 00:15)
[5] No.005『反則(1)』[咲夜泪](2011/10/07 00:29)
[6] No.006『波紋』[咲夜泪](2011/10/24 07:30)
[7] No.007『思惑』[咲夜泪](2011/10/24 07:31)
[8] No.008『磁力』[咲夜泪](2011/10/24 07:32)
[9] No.009『名前』[咲夜泪](2011/10/24 07:33)
[10] No.010『静寂』[咲夜泪](2011/10/24 07:34)
[11] No.011『共同戦線』[咲夜泪](2011/10/14 21:41)
[12] No.012『十四人の悪魔(前)』[咲夜泪](2011/10/16 19:33)
[13] No.013『十四人の悪魔(後)』[咲夜泪](2011/10/16 23:06)
[14] No.014『反則(2)』[咲夜泪](2011/10/17 16:57)
[15] No.015『四つ巴の攻防』[咲夜泪](2011/10/24 07:35)
[16] No.016『前哨戦』[咲夜泪](2011/10/20 01:28)
[17] No.017『誤算』[咲夜泪](2011/10/20 22:08)
[18] No.018『代償』[咲夜泪](2011/10/24 07:36)
[19] No.019『脱落』[咲夜泪](2011/10/24 07:37)
[20] No.020『離脱』[咲夜泪](2011/10/25 07:22)
[21] No.021『決戦』[咲夜泪](2011/10/25 07:11)
[22] No.022『虐殺』[咲夜泪](2011/10/27 06:24)
[23] No.023『二律背反』[咲夜泪](2011/10/27 06:09)
[24] No.024『憎悪』[咲夜泪](2011/10/30 03:30)
[25] No.025『失策』[咲夜泪](2011/10/30 03:32)
[26] No.026『二者択一』[咲夜泪](2011/10/31 02:23)
[27] No.027『蟻喰い(1)』[咲夜泪](2011/11/01 03:17)
[28] No.028『蟻喰い(2)』[咲夜泪](2011/11/03 02:11)
[29] No.029『蟻喰い(3)』[咲夜泪](2011/11/03 23:17)
[30] No.030『蟻喰い(4)』[咲夜泪](2011/11/10 05:17)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[30011] No.026『二者択一』
Name: 咲夜泪◆14334266 ID:5d46c245 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/31 02:23



 No.026『二者択一』


「本を開いたら殺す。許可無く動いても殺す。オレがテメェらに突き付ける要求は一つだけだ」

 自分の背後から嘲りと共に囀られる言葉に、アリスは朧気な意識のまま聞き届ける。
 目の前にはコージとユエが歯を食い縛りながら怒りと焦りを色濃く浮かべ、拳を震わせながら握り締めている。

「確かコージとか言ったよなァ? 選ばせてやるよ、二者択一だ。オレは優しいからよォ、考える時間を五秒間だけ与えてやろう――お前がその女を殺せばコイツは解放しよう。出来ないならオレがコイツを殺す」

 コージとユエの表情が瞬時に凍りつく。
 それは何方を選んでも正解ではない無慈悲な二択、されども必ず選択しなければいけない理不尽な二択――。

「――愛する仲間が悪党に捕まり、何方か片方しか助けられない。さぁ、どっちを助けてどっちを殺すんだ? おっと、原作と違って沈黙が正解じゃねぇぜ。時間が過ぎた場合はオレがきっちり縊り殺してやるよ」

 ――違う。今この場に限っては、自分を切り捨てるのが最善手だ。
 彼の要求に従ってユエを殺しても、自分を解放する気など更々無いだろう。
 元々人質など必要の無いほどの実力者なのだ、このままでは三人とも無意味に殺されてしまう。

「ユエ、コージ! 私に構わないで! 私ごと――!?」
「おうおう、そんなに怖くて震えているのに仲間思いの自己犠牲なんて泣けるねェ! さぁどうするんだい、コージちゃんよォ! ハハハハハハハハハハハハァ――!」

 バサラに口を無理矢理塞がれ、喋れなくなる。
 死ぬのは怖い。だけど、二人の足手纏いになるのはもっと嫌だった。

「5」

 ――それはコージには、絶対に選べない選択肢だった。
 自分一人の犠牲で助けられるのならば、迷わず実行するだろう。でも、その逆は絶対に選べない。

「4」

 それで良い、それが正解だ。選べないまま五秒過ぎればいい。
 自分だけ死に、二人が生き残る。戦闘不能の自分が殺されるだけで、プラスマイナスは零である。

「3」

 最期まで足手纏いだった自分が、その代償を自分自身で支払う。
 コージとユエが二人で戦えば、まだ生き残れる可能性がある。

「2」

 コージの口元から血が流れ出る。奥歯を噛み砕くほど、悩み苦しんでいる。
 ごめんなさい。私の分までユエと共に生きて。アリスの遺言は、残念ながら言葉にならない。

「1」

 ユエは何か決心したかのように、自分に強く微笑んだ――。




 ――『同行』でドリアスに飛び、周囲を見回すが、マイとその念獣の姿はまだ無い。

「北東に500メートル、後五秒くらいで来るね。――最速で片付けるわよ」

 おさげの少女に『円』を使ったのかと聞こうとし、愚問かと口を閉ざす。
 彼女が規格外なのは今に始まった事ではないし、最大何メートルまで探れるのかも今は聞くべき質問ではない。
 正真正銘、最後のチャンスだ。彼女が飛翔してくる方角に全身全霊を集中させる。

 残り四秒――時間間隔が妙に長く感じる。
 絶対にマイを助ける。痛いほど拳を握り締め、開いてオーラの爪を研ぎ澄ます。

 三秒――巨大な気配を察知する。
 周辺の木々から小鳥が逃げるように飛び舞う。

 二秒――おさげの少女が何かを具現化する。
 何か、というのは『隠』で完全に隠蔽している為、全貌を把握出来ない。

「――見たら殺すわよ?」

 一秒――反射的に『凝』で見ようとし、少女から瞬時に発せられた圧倒的なオーラと殺意に飲まれ、全力で止める。
 恐らくあれが彼女の本命の念能力――否、今はそれを考える余裕なんて無い。思考を丸ごと捨てる。

 零――飛翔する『迦具土』を目視し、少女の本命の念能力が発動する。
 一体何をしたのか、皆目見当も付かないが、『迦具土』に眼に見える異変が生じて、その場に急停止する。

「念獣はほぼ無力化したよ、あとは君次第――行って来いっ!」
「『磁力』使用――マイ!」

 彼女に借りた呪文カードを唱え、呪文の効果で飛翔する。
 呪文の効果が切れ、助けるべき彼女は目の前――飛翔した呪文の勢いのまま突っ込んで彼女を抱き締め、一緒に墜落していく。

「――ガル、ル……!?」

 二度と離さないよう、強く強く抱き締め――オーラの爪で背中を少し傷付け、付属する麻痺毒で抵抗の手段を一切合切剥奪する。
 マイは涙を流しながら意識を手放し、彼は轟音を立てて着地する。
 『迦具土』は己が主人の無事を確認すると傍らに着陸して、睨みを利かすように見守る。
 ガルルに対して明らかに殺意と敵意を抱いているが、襲ってくる様子は無い。

「はい、ご苦労。やれば出来るじゃない。さて、此処からは私の仕事だ――」

 其処には先回りをしていたのか、おさげの少女が待ち構えていた。
 ガルルは眠るマイを地面に優しく降ろし、最後の望みをおさげの少女に託す。

(――死者の念に変異してからの時間は三分ちょい、籠められた念は一万まで跳ね上がっているから、除念には180万以上のオーラが必要か。……全く、此処がグリードアイランドでなければ無理難題だったわね)

 少女は保管しているカードの束から必要分を抜き取り、他の五千枚近くのカードを何の未練無く投げ捨てて、そのカードをガルルに投げ渡した。
 彼女の腰元に揺れる、停止していた銀時計は漸く時を刻み始めた。

「何枚か『大天使の息吹』の引換券を『複製』して。今から『除念』を始めるから十五秒に一回『大天使の息吹』を私に使用して。ゲインからのラグも計算に入れてね。始めるよ、三、二、一、零――!」

 マイの首に嵌められた首輪を触れながら、おさげの少女は言うだけ言って、ガルルの言葉を待たずに始める。
 銀時計の針が逆回転する。一秒一秒、静かに時を逆行していく。

「ちょっと待て、急に言われて本の指定カードの空きが――!」
「良いから全部捨てて『複製』しなさいっ! 私だって今まで独占したカード全部台無しにしたんだからぁっ! 私の方式じゃ、今を逃したら二度と除念出来ないわよっ!」

 叫びながら、おさげの少女は滝のような汗を流す。
 他と比べる事すら馬鹿げた量のオーラが少女から噴出し、在り得ない速度で消耗して行く――。

「ゲ、ゲイン! 彼女のオーラ枯渇を治してくれ!」
『お安い御用。ではその者の体、治してしんぜよう』

 現れた女神の息吹がおさげの少女に降り注ぎ、一瞬にして膨大なオーラを全開まで回復させる。
 ガルルも自分の体で二回も経験しているが、相変わらず凄まじい効果だった。

「何ボサッとしてんの! はーやーくー! 十枚分じゃ足りないって言ってんのよ!」
「わ、解った!」

 覚悟を決めたのか、ガルルは自身の本から指定カードを全部抜き取って捨てて『大天使の息吹』の引換券を『複製』で増やす。十五秒に一回使う事を忘れずに――。

「苦労して集めたカードを自らの手で捨てなければならないとは――」
「うじうじしてないで『大天使の息吹』使って」
「……はいはい」

 おさげの少女の念能力『嘲笑する銀時計(タイムウォッチ)』は触れた対象の時間を操作する特質系の能力である。
 能力の発動条件は強制的に具現化され、常に能力の使用状況を暴露し続ける『銀時計』を身に付ける事であり、『銀時計』が破壊されれば能力も発動出来なくなる。
 破壊された際は四十八時間の空白の時間が生じ、再具現化には十万ほどのオーラを必要とする。

「……ああ、次々と貴重な指定カードがアイテム化していく――」
「うっさいわねぇ! 私だって今までの苦労が全部パーよ! パー!」

 また、彼女が操れる時間の流れは『加速』『停止』『逆行』の三種類だけ。
 更には直接接触する事が絶対条件であり、彼女の手元から離れれば即座に時間操作が解除されてしまう。
 これは彼女が特質系能力者であり、放出系の技能が苦手分野である事が強く起因している。

「いや、アンタは反則しすぎだから」
「ゲームマスターから警告されない限りは反則じゃないわよ。ズルして全部の指定カードを奪おうとした旅団より真っ当にゲームをプレイしているわ」

 この能力を使い、彼女はカードの時間を『停止』させる事で一分間でカード化が解ける法則を無視し、本に頼らずに呪文カードや指定カードを独占出来たのだ。
 ただし、時間の流れは一種類しか選択出来ない。これは『停止』している最中に他の時間操作を一切使えない事を意味する。

 カードを独占する最中の彼女は『停止』以外の時間操作を使えず、擬似的な除念である『逆行』を使うには『停止』を解除し、独占したカードを全て廃棄する必要があった。

 ――彼女の除念の仕組みは至極単純、発動前まで『逆行』させて零にするという超強引な力技である。
 本来、これは自分専用、否、自分限定の除念であり、相手の念の発動時間が短ければ短いほど簡単に徐念出来るが、時間が経てば経つほど除念の難易度が向上する。

「それにしても、これだけのオーラを消費して、まだ除念出来ないのか?」
「この能力は物凄く燃費が悪いのよ。この私でも『大天使の息吹』が十数枚無いと不可能なぐらい」
「……通常では到底不可能と言う訳か」

 そして『逆行』のオーラの消費量は対象に籠められたオーラに比例して増加する。
 死者の念に変異した『絶対遵守の首輪』には一万ほどのオーラが籠められており、これの時間を一秒『逆行』させるには一万のオーラが必要である。
 単純計算して三分ほど『逆行』させるのに180万必要であり、彼女のオーラの総量は15万前後、12枚以上の『大天使の息吹』が必要となる。
 また『逆行』に限らずに、彼女の時間操作は規模が大きくなるほどオーラの消費が激しくなる。

 おさげの少女が除念を始めて三分三十六秒――『大天使の息吹』を十五枚消費した果てに『絶対遵守の首輪』が死者の念に変異する前まで巻き戻り、『盲愛の拘束具』ごと呆気無く消え果てた。

(――この死者の念、本来死ねば消失する筈の念をこの世に留まらせただけか。禍々しい怨念や無念の類じゃなく、透き通るような想念と執念か――)

 死の間際に如何なる境地に達したのか、少女には想像出来ないし、また興味も抱けない。
 ただ、やはり自分は除念師としては二流だなと少女は溜息を吐く。死者の念をも解ける、世界で『五指』の使い手には入らないようだ。
 馬鹿みたいな奇跡(『大天使の息吹』)を大盤振る舞いでこの様とは笑うに笑えない。

「終わった、の――ぐふっ!?」
「誰の許しを得て乙女の素肌を見てんの。其処に転がっている『秘密のマント』をさっさと寄越しなさい」

 殴られて痛む鼻を押さえながら、アイテム化した『秘密のマント』を投げ飛ばす。指定カードに関わらず、贅沢な使い方だった。
 全てが終わり、緊張感が途切れて安堵したのか、ガルルは自然と涙を流した。

「……何泣いているのよ? 男の癖に」
「予想以上に強烈な一撃だったから、じゃないか……?」

 それは愛する者を取り戻せた歓喜であり、大切な仲間を亡くした悲哀でもあった。
 沢山の出来事が一度に起き、感情を整理させる時間すら無かった。
 今まで無理に堰き止めていた感情が、今、溢れ出す――。

「はいはい、そういう事にしておいてあげるわ。アンタの戦場は此処からだよ。此処まで苦労させといてこの子を自殺させたら殺すからね」
「――ありがとう」

 おさげの少女は立ち上がり、ガルル達に背を向けて、唯一度も振り返らずに足を進める。
 寄り道は此処まで――コージ達とバサラの死闘の結果がどうなっていようが、彼女がする事は余り変わらない。

 或いは――これがおさげの少女にとっての、二者択一だったのかもしれない。




「――ごめんね、コージ」

 バサラのカウントが零になる前に、ユエは自身の大鎌で自身の心臓を穿ち抜いた。
 コージには自分もアリスも殺せない。アリスを助けるには、この方法しか無かった。

「ユ、エ……? ユエ!」
「コー、ジ」

 血塗れの自分を抱き締め、今にも泣きそう眼で顔を歪ませる。
 こういう時、最期に自身の想いを告げて息絶えるのが筋だとユエは思ったが、敢えて言葉にしない。

(コージは気付いて無いと思うけど、大好きだったんだよ――?)

 コージの心の中にはあのおさげの少女がいて、自分の居場所は何処にも無い。
 それはそれで悔しかったけれども――彼の為に死ねるのは、自分だけだと最期に勝ち誇る。


 ――別れの言葉さえ言わず、ユエの体はコージの腕をすり抜け、消える。
 彼女との今生の別れは、思った以上に呆気無く終わった。


「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああぁ――!」

 コージは喉が裂ける勢いで絶叫し、アリスもまた死にたくなるような自責で涙を止められなかった。

「アハハハハハハハハッ! こりゃ最高に傑作だ! どうだァ、仲間を失った痛みは格別だろォ? ざまあみろオオォ! アッハハハハハハハハハハハハ――!」

 バサラの狂ったような笑みに、コージもまた泣きながら憎悪を籠めて睨み返す。
 何と心地の良い瞳か、今の自分と全く同じの感情を互いが抱いている。これが滑稽で何故か笑えた。

「さぁて、一人じゃ寂しいだろう? 仲良く殺してやるよ。おら、ボサッとしてねぇでコイツの死に様もちゃんと見届けろよ……!」

 口を塞ぐ手に更なる力を入れ、反対側の手に凄まじいオーラを集中させる。あれで突かれたら、アリス程度の防御力じゃ防ぎ切れない――。

「っ! やめろ! アリスを離せえぇ!」
「誰がテメェみたいなクズとの約束なんざ守るかよォッ! これがテメェの選択したテメェ自身の末路だァ! 先走って自害した馬鹿な女は完全に無駄死! テメェは誰一人守れずに見殺しにするんだよオオオオオオオオオォ!」

 コージの無力な抑止など聞かず、バサラは嬉々とアリスの心臓を抉ろうとし――その腕が鮮血を撒き散らしながら宙に舞った。

「あ――?」

 次に反対側の肩、胴体を八つ裂きにされ、両脚が無情に切り飛ばされ、バサラの首が宙に舞って地に転がる。
 一体何があったのか、バサラが理解する間も無く、行動選択の余地無く――転がり落ちた頭部はぐちゃっと熟し過ぎたトマトみたいに踏み潰された。

 ――念入りに踏み躙り、おさげの少女は気怠げな眼差しでコージを眺める。

 しかし、それも一瞬で終わる。
 即座に興味を失ったのか、少女は何も言わずに背を向けて立ち去る。

 あの日、彼に見出した黄金の輝きは、今や見る影も無かった――。





前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.026515960693359