「ねぇ、「わたし」。面白いもの持ってきたー」
帰ってくるなり、同居人の「わたし」がそう言って、「面白いもの」を私に見せる。
「竹刀ね」
面白くもなんともない代物だった。いや、懐かしくはあるんだけど。
「まぁ、アンタには珍しいものじゃないかもしれないけど……」
と、溜息を吐きながら「わたし」。
何をするのかと尋ねれば、これを使って、剣の修行よ!と意気込む「わたし」。
「やーよ。だるい」
「いいからさっさと外出ろや」
容赦の無い「わたし」に軽く殺意を覚えつつ、従う殊勝な私なのであった。
ああ。カムバーック! 輝ける自堕落の日々よ。
竹刀をぎゅっと握り、懐かしい感触を確かめる。
こう見えても私は高校の時は剣道部に入っていて、県大会では3位に入ったこともあるのだ。
人気の無いだだっ広い公園で打ち合うこと暫し。
流石は常人離れしてる「わたし」だけども、思ったとおり大雑把で破壊力のありそうな剣筋で。
我が実力を見せてやらんと内心ほくそ笑みつつ、「甘い」なんて言ってみちゃったりして、小手をパシッと頂く。
「あのさー」
「何?」
にやりと笑いながら私。
「何。アレ? アンタ剣とかやってたの?」
「ちょっとね」
「ふぅん、んじゃ。遠慮はいらないね」
そう言って、なんだかオーラを纏い始める「わたし」。
んで、弾丸みたいな勢いで、更に破壊力を込められた大振りの竹刀を慌てていなす。と、
バァンという音がして、軽く地面が陥没する。
「…………」
うわぁ。
「ちょ、タイム!」
っていうか、これ竹刀じゃねぇ。
「そんなもの無いわ!」
・・・・・・・・
・・・・・
・・
んで、顛末。
「チャンバラ遊びもたまにはいいね」
息一つ乱さずに「わたし」。
「一緒にすんな」
乱れた息を整わせながら応える。チャンバラしてたのはアンタだけだ。
「無茶苦茶」
っていうか、竹刀折れたし!
「無茶苦茶じゃないって。ベルモント流では当たり前だもん。――大体、結果が大事なのよ」
「あー、そーですかー。っていうか、何。アンタの教わった剣はあんな風に竹刀を投げたりするもんなわけ?」
「自分で編み出したものに教わるもこうも無いよ」
「うわ。自分で何々流とか恥ずかしいこと良く言えるね」
「うっさい!」
片手でひゅっと風を斬りつつ、
「これが実戦だったらアンタ死んでる」
実戦じゃなくても死にそうだったんですが!
というかこんな場所で実戦なんてあってたまるかという想いを抑えつつ反論。
「スペックで負けてるんだって! 言っとくけど、ブランクあったってまともに学んで無い人に負ける気はしないわ!」
いやまぁ、そこまで自分の腕に自信あったわけじゃないけどさ。自信は今ついたのは秘密なわけで。
私がそう言うと、ふぅっと溜息を吐いて「わたし」。
「……でも、そこよねー。幾ら自分とはいっても、念覚えたての素人に劣るってのは納得いかない」
こっちとしては、地力があるからって剣も勝ってるとか考えないで欲しいんだけど。
「ま、いっか別に。んじゃあれだね。圧倒的にスペック劣ってるアンタはさっさとスペックあげろってことだよね」
面倒くさそうに「わたし」。
むむ、嫌な予感。
「ちょ、いや待って欲しい。もう、十分だって。ほら、この世界じゃそれ程強くなる必要も無いって」
なにしろ、私はか弱い女の子なのだし。
やっぱり人に守ってもらう存在に憧れちゃったり?
……って哀しいかな。そんな乙女思考は自分には無いのであった。
「ねぇ、「わたし」?」
にっこり微笑みながら「わたし」。
「何でしょう、「わたし」」
引き攣りながらも笑みを浮かべる。
「次は是非、拳で語り合おう。なに、これも修行さ」
やーなーのー。こんな少年漫画チックな日常の日々はやーなーのーよーーー!
ああ。そんな心の叫びは「わたし」に届かず。
っていうか、届いてても無視してそうなんだけどさ。