さて。これでやっと私の系統が判明したわけなのだけど、ここで一つ問題がある。
漫画に出てくる修行方法は主人公の系統別ばっかりで操作系の修行方法は一つも書かれていないのだ。
「……それで、操作系ってどういう修行すればいいの?」
当然の疑問なのだけど、うーんと何やら首を親指で抑える「わたし」。
それは何かを考える時の私の癖のようなもので、
「そのまえに練と絶をひたすらやるのが大事だと思うんだ」
「あー。やっぱ基本は大事?」
「まぁ…ね」
と、そこで少し言い淀む。
「……というか、ぶっちゃけ私操作系の系統別修行方法とか知らないのよ」
むむむ。ということは私は自力で頑張るしかないということだろうか。
「……むー。じゃあ私どうやって覚えたらいいのよ」
「適当に軽いもので羽とか……あー、あのティッシュとか手に乗せて操作の練習してみたらいいんじゃない?」
「適当ね」
「仕方ないじゃない」
「そうだね。仕方がない…かぁ」
うーむ。
まぁ、がんばればなんだってなんとかなるというのが私の信条だ。単に楽観的なだけだけどさ。
「どちらにせよ、練とかがんばってみたら? 基本はやって損は無いと思うよ」
「そうする……そういや参考までにあんたはどんな能力なの?」
「私?参考にならないと思うけど」
うう。そりゃ確かにそうなんだろうけどさ。特質系ってのがどんな感じなのか見てみたい。
大体、私は操作系なわけで、もしかすると後天的に特質になるかもしれないじゃないか。
や、無論その後天的ってどれくらいの確率なのかはわからないのだけど。……多分本当に稀なんだろうけどさ。
「本当は念能力って人に教えるもんじゃないんだけど……ここだし、アンタだし、いっか」
「あ、やっぱ教えちゃいけないものなんだ」
「うん。信頼してる人には教えることもあっけどそれでも大抵切り札は明かさない。何あるかわかんないし」
何があるかわからないから……か。
「そっか……そういう場所だもんね」
「私がここにきて驚いたのは、治安の良さかな。そもそも大抵の人は武器を携帯してないことも驚いたけど」
「まぁ、この世界でもこの国以外はそんなに治安は良くないみたいよ」
そう考えると、本当に私はこの国に生まれてきて良かったなぁって思う。
「で、私の能力だけど、こんな感じ」
不意に「わたし」が右手を上に振ると、椅子がふわっと宙に浮いた。
椅子はそのまま宙に固定され、微動だにしない。
私は椅子へと近づいて触ってみる。やはり少しの揺らぎも起こらなかった。
「これって……アンタが酔っ払った時に私を止めたやつ?」
「……あー……うん」
そこで何故か頬を染める「わたし」。
わ。それであの時の状況を思い出して自身の鼓動も速くなる。
「あ、え、えっと……ああ。それ、どうやってんの?」
「えっと……」
コホンと咳払いをする「わたし」。
「椅子を空間に固定してるの」
「空間に?あー成程。特質っぽいわ」
「あー。あとこういうこともできるわよ」
不意にポンと肩を叩かれる。
「ひゃっ」
「ぷっ……」
驚いた私を見て噴出す「わたし」。
「ちょっと、やめてよね」
「ごめんごめん。今のはこうやって」
と、「わたし」が右手を伸ばすと、右手が不意に消え失せた。
「……こんな感じ」
「成程」
首を動かしてみれば、手だけが私の左肩に乗っている。
なんていうかホラーだ。
「変な感じ」
つんつんと手の甲を人差し指でくすぐる。
「ふっ・・・ちょっと」
と、くすぐったそうに笑いながら「わたし」が手を引っ込めた。
あー、やっぱり感覚繋がってるのね。
「もしかして、そんな能力だからこっちにきたのかな?」
「どうかな?私というより原因はあの鏡だと思うんだけど……」
鏡…ねぇ。
「そういえば移動の念とかないの?それで帰れたりしない?」
「あることはある。けど……上手く行かなかったの」
「あー、一応試したんだ」
「まぁね……多分世界が違う所為だと…ていうか多分じゃなくて確実に……かな」
「そっかー」
空間操るとか世界移動できる条件としては当て嵌まってるようなきもするのだけど、そんな簡単なものでもないらしい。
「それはそうと、「わたし」?」
ん?
「なに?」
そこで溜息を吐きながら「わたし」。
「なによ。アナタは私に帰って欲しいの?」
「え? いや、そんなことはないけど……」
ただ、能力的にできないのかなって疑問を抱いただけであって、
「あー、えっと、その……ね」
ちょっと慌ててどう言おうか考えていたら、
「あ、いや。冗談よ。冗談。うん、冗談」
と、何故か若干慌てながら「わたし」。
「あ、そ、そうなんだ」
「うん。そうそう」
そこで言葉が途切れる。
そういや何時の間にか一緒にいることが当然のように感じていて、
彼女はいつか帰るのだとかそういうことは考えることは無かった気がする。もとい、考える気も起こらなかったというか。
「や…でもまぁ、今はまだ帰る方法とかわからないんでしょ?」
「ん、まぁね」
「だったらまぁ、見つかったらその時に色々考えればいいさ。ね?」
「ま、そうね」
と、「わたし」が微笑んだ。
「さて、それじゃ修行とか見てあげるわ。はい、練!」
「お手柔らかに」
苦笑しながら応じた。