<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

HxHSS投稿掲示板


[広告]


No.8641の一覧
[0] 奇妙な果実 (H×H、オリ主転生、TS、R15、ダーク、グロ注意)[kururu](2014/07/05 14:28)
[1] 奇妙な果実 Chapter1 「You & I」ep.1 (R-15指定、グロ注意!!)[kururu](2009/06/21 18:58)
[2] 奇妙な果実 Chapter1 「You & I」ep.2[kururu](2009/06/01 14:07)
[3] 奇妙な果実 Chapter1 「You & I」ep.3[kururu](2009/06/01 14:07)
[4] 奇妙な果実 Chapter1 「You & I」ep.4[kururu](2009/06/07 21:07)
[5] 奇妙な果実 Chapter1 「You & I」ep.5[kururu](2009/06/14 13:14)
[6] 奇妙な果実 Chapter1 「You & I」ep.6 [kururu](2009/06/21 18:56)
[7] 奇妙な果実 Chapter1 「You & I」ep.7[kururu](2009/06/21 18:56)
[8] 奇妙な果実 Chapter1 「You & I」epilogue[kururu](2009/06/21 23:14)
[9] Chapter2 「Strange fellows in York-Shine」 ep1 [kururu](2009/11/08 18:12)
[10] Chapter2 「Strange fellows in York-Shine」 ep2[kururu](2009/11/14 16:47)
[11] Chapter2 「Strange fellows in York-Shine」 ep3[kururu](2009/11/15 00:39)
[12] Chapter2 「Strange fellows in York-Shine」 ep4[kururu](2009/12/05 15:57)
[13] Chapter2 「Strange fellows in York-Shine」 ep5[kururu](2009/12/05 18:31)
[14] Chapter2 「Strange fellows in York-Shine」 ep5.5[kururu](2009/12/22 00:09)
[15] Chapter2 「Strange fellows in York-Shine」 ep6[kururu](2009/12/11 01:05)
[16] Chapter2 「Strange fellows in York-Shine」 ep7[kururu](2009/12/31 00:06)
[17] Chapter2 「Strange fellows in York-Shine」 ep8[kururu](2010/01/24 23:18)
[18] Chapter2 「Strange fellows in York-Shine」 ep9[kururu](2014/03/15 17:54)
[19] Chapter2 「Strange fellows in York-Shine」 ep10[kururu](2010/09/22 12:46)
[20] Chapter2 「Strange fellows in York-Shine」 ep11[kururu](2014/03/15 17:47)
[21] Chapter2 「Strange fellows in York-Shine」 ep12[kururu](2012/05/13 20:29)
[22] Chapter2 「Strange fellows in York-Shine」 ep13[kururu](2012/08/19 14:52)
[23] Chapter2 「Strange fellows in York-shine」 ep14[kururu](2012/12/01 22:18)
[24] Chapter2 「Strange fellows in York-shine」 ep15[kururu](2013/01/17 00:45)
[25] Chapter2 「Strange fellows in York-shine」 ep16[kururu](2014/03/08 21:27)
[26] Chapter2 「Strange fellows in York-shine」 ep17[kururu](2014/03/08 21:18)
[27] Chapter2 「Strange fellows in York-shine」 epilogue[kururu](2014/03/18 00:11)
[28] Chapter3 「The TEST」 an prologue[kururu](2014/03/15 22:57)
[29] Chapter3 「The TEST」 ep1[kururu](2014/03/30 21:50)
[30] Chapter3 「The TEST」 ep2[kururu](2014/03/30 22:50)
[31] Chapter3 「The TEST」 ep3[kururu](2014/04/15 13:28)
[32] Chapter3 「The TEST」 ep4[kururu](2014/07/05 14:26)
[33] Chapter3 「The TEST」 ep5[kururu](2014/07/05 22:23)
[34] Chapter3 「The TEST」 ep6[kururu](2015/03/21 23:20)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[8641] 奇妙な果実 Chapter1 「You & I」ep.1 (R-15指定、グロ注意!!)
Name: kururu◆67c327ea ID:8d2e064e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/21 18:58









父親は飲んだくれて働かない。母親は男を作って出て行った。

そんなどこぞの新宿歌舞伎町。どこにでもあるクソ話。

グレて、つるんで、悪さして、ある日あっけなく、殺された。

遊び半分でシメた連中の中に、ヤー公の舎弟がいたらしい。奴らはオレがショバ代をピン撥ねしているのも気に食わなかった。

結果として、ぼこぼこにされて埋められた。喧嘩に自信はあったが、5対1じゃ手も足も出ねえ。

こんなクソみたいな世界ともおさらばかぁ、と腫れ上がった目で、ドラム缶風呂に詰め込まれるヘドロみてえなコンクリ眺めたのが、この世の見納め。

だが、面白いのはそこからだった。

確かに死んだはずだったのに、ちょっとわけわかんねえ。だって俺死んだよな?

なら、なんで、おぎゃあ、おぎゃあ、泣き喚いてんだ?

ああ、本気で神って奴ぁいるんだって確信した。ついでに、そいつがクソみてえなファッキン野郎だって事もだ。


















奇妙な果実 Chapter1 「You & I」prologue

















赤ん坊のころの記憶はほとんど無い。

ただ、寝て、食べて、泣いて。そんな当たり前の赤ん坊だったと思う。

いわゆる前世の記憶って奴も、赤ん坊にとっちゃ大して意味を持ってるわけじゃない。なにせ、自分じゃ立てない、しゃべれない、小便の世話すら出来ねえときてる。

混乱して泣いて喚くくらいしか出来なかった。つまり、何の変哲も無い赤ん坊だったってことだ。





二本の足で立って歩けるようになって、口も言葉をつむぐことができるようになった頃、オレはやっと現自分の現状を認識できた。

性別は女。まあ、そいつは、生まれ変わったことに比べりゃ、たいした事じゃあない。

母親は娼婦だった。父親は顔も知らない。

そんな境遇に、"オレ"は生れ落ちていた。







暗く小さな売春宿の一室、それがオレと母さんの暮らす部屋で、お客が来ると、俺は外に出る。

そして、母さんはいくばくかの金を手に入れ、パンを買って、一緒のベッドで眠る。そんな日々。正直、悪くは、なかった。

母さんは、昼から朝まで男に抱かれていた。そのことに嫌悪感は無い。

少なくともあっちの母親(売女)みたいに、内心で男を見下していたわけでも、食い物にしていたわけでもない。巧妙に押し隠した下劣さが、こちらの母親には感じられなかった。

単に、母さんには生活するために男に抱かれるしかなかった、ただそれだけのことだった。若い女は体を売るしか稼げない。そういう街なのだ、ここは。







外を歩くことが出来るようになってから、街を見て回る機会が増えた。

すぐに気がついた。

この街の奴らは、大人も子供も野良犬も、どいつもこいつも、ドブのような犬の目で、絶えず何かに脅えているか、さもなきゃ怨んで呪ってた。以前とさして代わり映えのしない、くだらない光景、そう思った。

だが、こちらの現実は、もっとずっとハードだ。

少なくとも向こうでは、食うことに困った経験はなかった。その意味では、以前のオレは恵まれていたのだということを実感した。なにせ、ここでは毎朝のように路上に餓死者が転がる。

テレビでしか見たことの無かった、人間が飢えて死ぬ現実。誰もが生きるために何でもする世界。救いようもない虚無と汚濁と絶望の螺旋だけが、ただ当たり前のように存在する、ゴミの掃き溜めのような、クソの街。

そんなものが、ここではあまりにもリアルな現実として用意されていた。







一つだけ救いがあったとすれば、それは、こちらの母親が、オレを必要としてくれていることだった。

寒い日には抱きしめて一緒に眠ってくれた。

自分はどんなに腹がすいていても、オレに自分の分まで食べ物をくれた。

微笑みかけてくれた。

頭をなでてくれた。

それが、涙が出るくらいうれしかった。

だから、体がまともに動かせるようになってから、オレはスラムの片隅で稼いだ。

置き引きにスリに引ったくり、二束三文のクソ駄賃のために女郎宿で雑用をしたり(主な仕事は使用済みのコンドームを洗うことだった)、他にもできることなら何でもやった。

正直、この辺の経験は、あっちで散々やらかした手前、やたらと手馴れているのだ。

以前は惨めさしかなかったが、今は多少なりとも救いがある。同じことをしているだけなのに、不思議なものだと思った。

以前は、ほんとにただのチンピラだったオレだが、この人がいてくれるだけで世界は変わった、変わったように感じられた。

母さんのために少しでも稼ぐことが、オレにとって無上の喜びですらあった。

母さんは、たぶん最初からスラムで生まれ育った人間じゃない。どんなにやつれていても、育ちのよさが顔に出ている。どんなに惨めな生活をしていても、顔に卑屈さが無い。オレはどうしょうもない人間だけど、そのくらいは分かる。オレは、そんな母さんが心の底から大好きだった。

母さんとオレの持ち物は、着たきりの服に、毛布が一枚、ほんの少しの金、商売道具の白粉が少々。これで全部。でも、なにも不自由なことは無かった。

毎日、明け方近くなってから、のそのそ母さんは部屋に戻ってくる。疲れ果てたような、十も余計に年をとった顔だった。その顔を見るのが、何より嫌だった。

オレは無理やり笑顔を作って、両の手を差し出す。

小さな手の上には数枚の銅貨。どんなにがんばっても、子供が一人、スラムで稼げる額など知れている。

母さんは、決まってオレを抱きしめてくれるのだった。それだけで、ひもじい思いも、女郎宿の亭主に蹴られた痛みも、忘れることが出来た。

ただ、オレを抱いている間、母さんはオレに泣いて謝り続けていた。それが、嫌だった。

謝らないで、オレは幸せだから、十分だから。一緒にいてくれるだけで、必要としてくれるだけで、オレは、オレは・・・・・・・・・・・・





幸せな日々は、長くは続かなかった。





パン、と乾いた音。

銃声だと気付くのに、どうしてだか時間がかかった。

後になって思い返すと、それはきっと、母さんが苦痛を顔に出さなかったせいだ。

母さんは、ただ歯を食いしばって、背の後ろにオレをかばおうとして、銃を向ける男をにらみつけていた。

打たれた瞬間すらもそのままの顔で、無言で母さんはオレに覆いかぶさった。

ごとん、と鈍い音。

後頭部に衝撃が走り、腐りかけた床がミシリと音を立てた。

母はオレを安心させるために、苦痛に引きつりながらも笑みを浮かべた。そして、黙ってオレを開放すると、出口を指差した。

い  き  な  さ  い

いやだ、いやだよ。

 い  い こ だ  か    ら

血を噴出した唇が、そう呟いた。

うっすら笑みを浮かべて、そのまま、母さんは動かなくなった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・。




「チッ・・・淫売め!」

ベッドに腰かけた男が、ヤニ臭い息を吐いて母さんを罵った。その手に握られた拳銃には、まだ硝煙がたなびいている。

瞬間に凍結する感情。

逃げるべきなのに、逃げなければならないのに、オレの足は動かなかった。いや、動けなかった。

ただ呆然と、動きを止めた母さんの姿を、阿呆のように見ていた。

「おっと、てめえには金の在り処を吐いてもらわないとなあ」

要約するならば、こういうことだ。

母さんは、わずかな蓄えを掠め取ろうとした、ケチな男に抵抗して、殺された。

苦しい生活の中で、母さんは少しずつ少しずつなけなしの金を貯めていた。

『いつか、学校に行かせてあげるから』

そう言って、自分が食べるものも削って、金をためていた。それを狙われた。

売春宿には、当然ながらタチの悪い客も来る。所詮はチンピラの溜まり場だ。

女を、子供を、自分より弱い奴を脅すことしかできないで、そうして得た稼ぎの全てを白い粉に捧げて、単に生きるだけ。どこにでもいる、ただのクズ。





それは以前の、オレの姿そのもの。





その日に限って、オレは少し早めに部屋に戻っていた。だから、その時の光景をありありと目撃してしまった。だって、母さんの誕生日だったから!!

カチリという金属音。それが、オレを現実に引き戻す。

銃口はオレに向けられていた。

「続きをしてもらわなくちゃあなあ!」

男は立ちあがると、動けぬオレの胸倉を掴み上げ、床に叩きつけるようにねじ伏せた。

次は、オレの番だ。

男はまだ母さんを抱いていなかったし、股間の赤黒いモノはいきり立っていた。

組み伏せられて、引き裂かれる服。大して上等なものでもなかったけど、お気に入りだった。母さんの買ってくれたものなら、なんだってそうだ。

首筋から、背を、腰を撫ぜ回る手に怖気が走る。胸を這い、寄せられる舌に吐き気がこみ上げる。拒絶するために顔を背けた。

それでも、オレは無抵抗だった。それが男にとってはダッチワイフのようでお気に召さなかったようだ。




まず、口を無理やりこじ開けられて、しゃぶらされた。

「オウ!オウ!」

むちゃくちゃに突きこまれ、息ができずに肺が焼けた。




涙を流しながら横目に映る、母さんだったもの。

虹彩を失った虚ろな眼、暗く、冷たく、もう何も映さない。

自分も、間もなく、ああなるのだと理解した。不思議と涙は出なかった。どこか現実感が無かった。体の感覚が、うそだと思いたかった。




仰向けにされて、股を開かされた。

性器を貫かれる瞬間だけは、苦痛を感じた。肉膜の避ける音が、ぐちゅりと生々しく体内に響いた。吐き気がした。

だが、悲鳴は額に突きつけられた銃のせいで、口から外に出なかった。その代わりに、苦痛と共に、オレの胸に感情が戻ってきた。

「アヒャ!!、げヒっ!、ヒッ!、ゲヒャ!、ヒあッ!!」

男が腰を振るたびに襲う苦痛、それが感情をさらに燃え上がらせる。

徐々に吹き上がる緋色の陽炎、

胸の奥深く、暗い淀みを糧に、猛り狂う焔、

視界を染めて膨れ上がる、破壊と殺戮の衝動。

それをじっくりと溜め込み、奥歯を噛み潰しながら、ひたすらに開放の時を待った。あまりにも噛み締めたせいで、唇が切れて血が滲む。

右手には、ガラスの欠片。いつかの客が持ち込んだ、割れた酒瓶。その欠片を握しめて解放のときを待つ。あまり強く握り締めたので、皮膚が破けて血が滲んだ。

怒りに染め上げられた脳裏から、何故か母さんの顔は消え去っていた。

そうして、ひたすら、じっと待つ。じっと、じっと、じっと。






やがて男は絶頂に至る。

いきり立った逸物から、四方八方に白濁液をほとばしらせながら、弛緩した笑みを浮かべて。

そして、オレは、逆襲のチャンスに歓喜した。

「うワああアぁァァァぁぁっ!!」

ガラスの欠片を、こけた下腹に突き入れる。幾度も、幾度も突き入れる。ずるりと埋まる凶器の先端。皮膚の下にゆれる丸い臓器が、ぐしゃと潰れる。その音に興奮して、さらに腕をめちゃくちゃに振り回す。赤が飛び散り頬を伝う。肉を裂く感触が頭に伝わる。もう何も考えられない。熱に浮かされたおつむに聞こえてくるのはドックンドックン、脈打つ己の鼓動だけ。熱い衝動に動かされて、ただ肉を食み骨を裂く。

やがてかき回しすぎたのか、とうとうガラスの欠片が砕けて散った。オモチャが無いかと周りを見れば、床に転がった銃を拾う。大きく開いた男の口が、紅い何かを吐き出している。さっきのお返しとばかりに、黒光りした立派なものをしゃぶらせてやる。ゆるい引き金を連続して引くと、がっくんがっくん踊るように跳ね回る。それが本当に面白くて、めちゃくちゃに銃口を振り回し、ぐちゅりぐちゅりとかき回した。

すぐに弾を撃ちつくし、素手でいいやとばかりに、男をバラシにとりかかる。白く細い手で、無残に捌けた男の腹を、肘まで埋まるほど深く抉る。不思議なことにオレの手は、まるでスコップのように、楽々肉を引きちぎった。不思議だ。だが、今はそれは喜ぶべきことだ。殺戮の興奮がすべてに勝る。腕を引き戻すのと一緒に、血と、紅くプリプリとした臓物が引き抜ける。生暖かい感触は、今一つ気持ちが悪かったが、気分は最高にハイテンションだ。面白半分に八重歯を当てて食いちぎると、鉄錆の味が口いっぱいに広がった。まずい。苦い。食えたもんじゃない。つばと一緒に吐き捨てて、再び肉を抉る作業に没頭する。抉る、抉る、ひたすら抉る。血塗れの手が乾くが嫌で、生暖かい臓物に嬉々として何度も突っ込んだ。今度は赤黒いゴムひもみたいなものが引きずり出されて、オレは歓喜の笑みを抑えられなかった。目を移せば薄桃色の塊が、右腕に絡みついていた。




「クケ、ケケケケ、クヒャヒャヒャヒャっ!!」

不規則に乱れた呼吸。不規則な吐息に肋骨がうめく。でも痛みを無視して、ただひたすら嘲笑い続けた。

ついさっきまで歪んだ笑みを浮かべていた男の顔は、原型をとどめず崩れていた。ついさっきまで、ビクビクともがいていたのに、もう、動かない。楽しい。

床に横たわる筋肉と臓物が複雑に組み合わされたオブジェ、砕かれた頭部、千切り取ったペニス。

オレの左手にはグズグズに崩れた脳漿が滴っている。塩気にも似た生臭さに激しく胃がムカついたが、気分は清清しい。新鮮な脳みそは、とても美しかった。

「クっ・・ク、クク、ぐえェ、ヒッ!・・クケケ、ヒャアハハ、ヒハアッ!!」

オレは、吐きながらまだ笑っていた。

最期に、男性器があった部分に、ずっぽりと二の腕まで埋まるほどにブチこんでやった。この貧相な逸物をメリメリと引き千切ってやった時には、男はビクンと大きく痙攣し、その後で全く動かなくなった。

ああ、死んだのだなと、熱に浮かされた頭でも理解できた。まあ、この男もあの世でイキ狂っているに違いない。オレの腕は男のモノよりよほど太くて長いのだもの。

生まれて始めて、最高に強烈な絶頂感を味わった瞬間だった。女の膣内に思う存分射精するよりも激しい幸福感と満足感。性交によらない性の快楽。

オレの幼い性器は、知らず知らずのうちにぬるぬるとぬめりを帯びて糸を垂らし、洪水のように滴って破瓜の血を洗い流していた。オレは、この世界で処女と童貞を同時に失った。





しばらくの間、快楽の余韻に浸っていたのだが、不意に手の冷たさに気がついた。

外はまだ雪が降っているのだろうか。生暖かかった臓物も、すでに冷え切っていて、握り締めた手も悴んで硬くなっていた。そのおかげで、ハアハアと乱れていた息も、熱に浮かされていた頭も冷えた。

不意に頭が冷えた。ささげ持っていた、なんだかよく分からない臓器を捨てた。ベチャリと音を立てて落下したそれが、ひどく汚らわしいもののように感じたが、床に落ちたところはプディングみたいで、少しだけ滑稽だった。

一心地つくと、先ほどまで、気にならなかった血錆臭が気になりだした。

我に返って辺りを見れば、狭い部屋の床は洪水のように血液で覆われ、足元でちゃぷちゃぷと音が鳴るほどだった。

部屋の隅には、オレがぶちまけた嘔吐物もあって、部屋の中はひどいにおいで満ちていた。

とりあえず、はめ殺しの窓を無理やり開けて、換気をした。内側に組み込まれた窓枠は強固だったが、オレが少し力をこめると、面白いように簡単に壊れたのが不思議だった。はて、いつからオレはこんなに力持ちになったのだろうか。

部屋の中に新鮮な空気が混じる。酒と汗とすえた臭いのする裏路地の、かび臭い空気がこれほど旨く感じられたことは、かつて無かった。

ぼんやりとまだ酔いどれ気分の頭で、考える。誰も部屋に入ってこなかった。

銃声が何度もしたし、男は喉をちぎるまでは、豚のような金切り声をあげ続けていて、それはかなり五月蝿かったはずなのだ。

誰も、助けには来なかった。誰も入っては来なかった。様子を見に来ることすら無かった。

ここはそういうところだ。この街の住人の特技は、物事を見ないことだ。

いつの間にか、心が冷え切っていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・現実に、帰還する。

「・・・母さん」

冷え切った頬に、生暖かいものが伝う。

母さんは白く美しかった。

目立った外傷は無く、腹部に滲んだ血の華だけが、服の模様のように思えた。

でも、もう、微笑んでくれない。

オレは、喪失感に打ちのめされた。




もう、一緒に寝てくれない。




オレの話を聞いてくれない。




抱きしめてくれない。




そう思うと、力が抜けた。








「・・・・・・・・」

不意に、体が鉛になったような急激な疲労感が襲ってきた。

皮膚の感覚は寒いのに、冷たいのに、全身が茹るほどに熱い。

揺らぐ視界、強張る筋肉。とても立っていられなくなって、母さんの隣に身を横たえる。

ふと気が付けば、体を覆っていた湯気のようなものが、途切れかけていた。あれほど威勢良く噴出していたのに、今は勢いを失っている。

それを見て本能的に悟った。おそらく、これはオレの生命そのものだ。これが完全に途切れたとき、オレもまた死ぬのだと。






気を失う瞬間、今まで沈黙を守っていたドアが、きっと軋みながら開く音を聞いた。

























パチパチと火の燃える音でオレは覚醒した。






「気が付いたか」

まだ瞼を開ける前から、そんな声が降ってくる。

自分の置かれた状況を知るため、まだ眠っているふりをしようとしていたのだが、その目論見はあっさりとやぶれた。

うっすら眼を明けると、そこにいたのは40歳くらいの男性。

背の高い、黒いシャツを羽織った大柄な男だった。堀の深い顔をして、厚い唇には深い傷跡が残り、右の瞼は焼かれたかのように爛れている。

オレは無造作に床の上に転がされており、男はそのすぐそばに、椅子の背を正面にして腰掛けていた。椅子の背に頬杖を付き、いかにもつまらなそうに、視線はオレに向けている。






やがて、男は無言で椅子から離れると、オレの着ていた服に手を伸ばした。

衣服を剥ぎ取られまいと、オレは強く抵抗したが、男は無表情に掌を振り下ろした。革の鞭のような張り手を、背中に3発もくらうと、抵抗の意志は挫けた。

背中から伝わってくる痺れるような痛みに言葉を失ってうずくまるオレを、男は無理矢理引き摺り起こし、乱暴な手付きで服を剥ぎ取り始めた。

オレは心の中で悲鳴を上げ続けていたが、不思議と涙は出てこなかった。悔しさと惨めさに、しゃくりあげる声が小犬の鳴き声のように口から漏れた。

全ての衣服を剥ぎ取られ、オレを丸裸にすると、男はためらい無く衣服を暖炉の火の中へ放り込んだ。

オレは呆然とした表情で、その様子を観ていた。犯されることに恐怖感は無い。ただ、力ずくでどうにかされてしまう自分の非力さが、この上もなく惨めで恨めしかった。

「放せ、放せよ! この野郎、放せったら!!」

だが、男は再びオレの髪の毛を鷲掴みにすると、力ずくで浴室まで引き摺って行った。

浴槽には既に水が張られていた。その中へ、頭から押し込まれる。

頬を刺す冷水の感触と、空気を求めて悲鳴をあげる喉が、ショックで麻痺していた意識を現実に引き戻した。

両腕でバスタブの縁を掴み、頭を持ち上げようともがく。

「ぐっ、グボ、ゲボェッ!!」

しかし、男の長い手にはさらに容赦の無い力が加わり、オレの頭を水中に押し込んだ。

オレは思わず頬の中へ溜めていた空気を吐き出してしまった。かわりに、大量の水を飲み込んだ。

オレは錯乱し、ムチャクチャに両手、両足をバタつかせたが、男の腕は鋼鉄のようにびくともしない。

やがて、四肢の感覚が遠のき、頭の芯が痺れたようなぼんやりとした鈍痛に変わった。






・・・・・・・・・・殺される・・






意識を失おうとしたその瞬間、今度は強い力で水中から引揚げられた。余りにも勢いがつよかったので、オレはそのまま後ろにへたり込んだ。

「げほっ、グ、げェええ!」

体を捻ってタイルの床に手を付き、犬のように四つんばいになって胃の中の水をゲーゲーと吐き戻す。やたらと塩分の強い涙が、さらに涙腺を刺激した。

吐き気がおさまると、水滴が落ち続ける前髪が急にうっとおしくなって、乱暴に掻き揚げた。そして、正面に立つ巨漢を見上げる。

男の、底なしの孔(あな)のような黒い眼には、何の感情も浮かんでいなかった。

この悪魔の容赦の無い暴力。このままいけば、本当に殺されてしまう。そう思った時、意外な事に湧き上ってきた感情は、『怒り』だった。

誰も救ってくれない、助けてくれない、泣いても喚いても・・・その事をはっきりと自覚したとき、ありとあらゆる理不尽に、強烈な怒りと憎悪がこみ上げてきた。

微笑みながら逝った、母さんの顔が思い浮かんだ。

オレは肩を上下させて荒い息をしながら、ありったけの力を込めて、男の顔を正面から睨み付けた。

気が付けば、オレの体からは、あの時のように、湯気のような緋色の光が立ち上って、炎のように揺らめいていた。

男は傷跡の無いほうの眉を釣り上げて、わずかに愉快そうな笑みを口元に浮かべた。だが、すぐにまた、元の無表情に戻る。

男は腰を落とし、オレの目の前に顔を突き出して視線を合わせた。

「ここで萎縮するようなら、用は無かった。命拾いしたな」

オレは唾液を吐きかける事で答えた。

唾は男の顔にかかり、粘度のある濁った液体が頬から垂れ下がる。

男は、ゆっくりと右手の甲で顔に付いた唾液を拭うと、そのまま強く振り下ろし、オレの頬を殴り飛ばした。

容赦無い一撃に、オレは浴槽の床に吹き飛ばされ、一瞬、意識がブラックアウトした。

男は顔の汚物をシャツの袖で拭うと、今だ床に這いつくばっていたオレに視線を投げた。

しばらく、いぶかしむように眺めていたが、やがて納得したかのように頷くと、無言でオレの背に右足を繰り出す。

ダン!!

骨も砕けよとばかりに、容赦の無い蹴りだった。事実、踏み抜かれた床板には、くっきりと足跡が残っている。

だが一瞬早く、オレはその蹴りを避けるように床を転がり、そのまま壁際まで転がって素早く立ち上がった。

視線は男の次の動きを牽制するように、微動だにせず固定する。男の一挙手一投足すらも見逃さないように。

「やはり、次の行動の為に休んで体力を回復していたか。いい判断だ。思ったより頭の回転も早い」

まるで追いつめた捕らえるように、ゆっくりと男がオレに近づく。

オレは浴室の角の一つに追いつめられると、何とか男の脇をすり抜けて浴室の外へ向かおうとした。

だが、ゆっくりとした動作に反して、男の左右のどちらのスペースからも、すり抜けるだけの隙を見つける事ができなかった。

そうこうしているうちに、男の腕がガッチリとオレの肩を捕まる。

オレは反射的に、男の太い腕に噛み付いた。シャツの裾をその下の皮膚とともに噛み破り、口の中に鉄さびの味が広がる。

しかし、男はそれでもオレの肩を放そうとはしない。肩に食い込む指の痛さに我慢できず、ついにオレは口を放した。

「噛み付くときは、相手の着衣を吟味しろ。急に布を引き抜かれて、前歯を根こそぎに持っていかれるのは珍しく無い」

男は淡々とそれだけを言うと、無造作にオレの首根っこをつまみ上げた。

無防備な状態に晒されたオレは、両足をばたつかせて逃れようとしたが、男のほうはそんな事には無頓着にオレを運び、冷水の満たされた浴槽に放り込んだ。

「身体を洗って血と汗を洗い落とせ」

男はそう言い残して、オレを残して浴室を出た。

残されたオレは、冷たい水風呂に鳥肌が立ったが、確かに何日も風呂に入っていなかったので、言われたとおりに体を洗った。

蛇口をひねると、冷たい水が勢いよく飛び出て鳥肌がたった。だが、売春宿の泥水混じりのシャワーに比べれば、ここの水は非常に綺麗なものだった。






ぼんやりと頭から冷水に打たれるうちに、また母さんのことを思い出した。すこし、泣いた。

嗚咽は肌をたたく水音に紛れ、涙は水に流れて消えた。



















結局、浴室から出たとき、オレの唇はすでに紫色に変色していた。

体温を取り戻そうと全身を細かく震わせたが、歯の根も合わない。

男は暖炉の近くの椅子に掛けてあったバス・タオルを掴み、オレに向かって投げた。無言で体を拭くように促す。

オレが体を拭いている間、男は黙ってそれを見守っていた。

やがて、オレの体が十分に温まる頃合を見計らって、男はおもむろに切り出した。

「これから俺は、俺の持ちうるありとあらゆる戦闘技術を、お前に叩き込む。全身全霊で覚えろ」

その高圧的な物言いに、カッと全身の血が沸騰した。

「馬鹿言ってんじゃねえ!!寝言は寝てから言えよ、クソ野郎!」

思い切り噛み付いてやりたかったが、それは先ほど失敗したばかりだ。

とりあえず黙って様子を伺うことにした。もちろん隙を見せたら殺してやる。

だが、男はオレの怒鳴り声をまるで意に介さず、むしろオレの内心を見通すかのように続けた。

「そういう眼をした奴を、俺は何人も殺してきた。無駄に吠えて無様に死ぬ、犬の目だ。だが、もしお前が俺の訓練に耐えられたならば」

呟くようにそう言うと、男はぐっと息がかかるほどに顔を近づけた。だが、眼の焦点はオレにはあっていなかった。

オレは、反射的に殴りかろうとする腕を押さえるのに必死だった。

「お前の五体は兵器となり、魂は鋼鉄に変る。それはこの世でもっとも、価値のあるものだ」

やっと、気が付いた。この男はオレのことを見てはいない。まるで、オレを通して、他の何かを、誰かを見ているような、そんな感じなのだ。

それが、たまらなく不快だった。

「唐突に現れて好き勝手してくれるなあ、おっさん。分けのわからねえことを好き勝手にほざくのは勝手だが、オレがおとなしく従うとでも思うかよ!」

「お前が素直な生徒であることにはまったく期待をしていない。だが、生まれ持った資質がそれだけ恵まれているならば十分だ。後は、駄犬に鞭をもって体に覚えこませるだけだ。痛みと共に繰り返される反復学習は低脳な爬虫類にさえ効果がある」

その高圧的な物言いを聞いているうちに、また胃がぐらぐらと煮騰がるように怒りが沸いた。

それをおさえ込む事ができたのは、今はそれよりも聞かなくちゃならないことがあるからだ。もうどうにも我慢が出来なくなっていたので、率直に問い詰めることにした。

「母さんを、どうした!!」

男は、オレのその一言に、今までに無いほど鋭敏に反応したように見えた。不意に眼をそらし、小さな声で答えた。






「すでに、埋葬した。お前は三日三晩、眠り続けていたんだ」






その言葉を聴いたとき、また涙があふれた。

男は何も言わず、オレが泣き止むまで、ただじっと見ていた。

これが、オレと自称・殺し屋『ゴドー』との出会いだった。






…to be continued


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.026206016540527