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No.26235の一覧
[0] 麻帆良学園都市の日々・中間考査(GS×ネギま! 2スレ目) 2018/2/22 お知らせあり[スパイク](2018/02/22 23:06)
[1] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「将来」[スパイク](2011/02/26 20:28)
[2] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「自分」[スパイク](2011/04/10 21:35)
[3] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「自我」[スパイク](2011/04/16 20:03)
[4] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「未来」[スパイク](2011/04/24 21:23)
[5] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「目標」[スパイク](2011/06/25 22:29)
[6] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「助言」[スパイク](2011/08/21 18:56)
[7] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「世界」[スパイク](2012/04/01 14:35)
[8] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「再会」[スパイク](2012/04/28 22:00)
[9] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「矜持」[スパイク](2012/11/03 09:15)
[10] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「明日」[スパイク](2012/11/03 09:29)
[11] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY1 雨音」[スパイク](2013/01/13 01:58)
[12] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY1 招待状」[スパイク](2013/01/13 03:45)
[13] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 指揮官」[スパイク](2014/09/07 21:43)
[14] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 その裏で動く」[スパイク](2014/10/05 03:51)
[15] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 対価」[スパイク](2014/10/26 20:32)
[16] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 HOW TO」[スパイク](2014/10/26 20:41)
[17] 朝帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 今できること」[スパイク](2014/11/08 23:15)
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[26235] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 指揮官」
Name: スパイク◆53179107 ID:1c2c1e95 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/09/07 21:43
 悪魔とは、人間に害をなす異形の存在である。普段は魔界と言われる異世界の深淵に潜み、時折人間の世界に現れて、人心を誑かして破滅に誘い、時にはその強大な力をもって暴虐に荒れ狂う――恐ろしい、闇の存在。
 それはつまり、彼らの原初のあり方である。世界の闇を司り、恐怖と混沌が実体として形を成した彼らはまた、そうやって世界を裏で支えていると言えなくもない。
 果たして人智の及ばない存在が、この世界を是が非でも存続させようと考えている今――彼らはまた、幾ばくかの選択を突きつけられた。“神”の名を持つ魔物ですら、容易に受け入れる事が出来なかった選択を。
 すなわち――“悪魔”として振る舞うことを、強制されて。
 彼らにとって許される選択肢はたったの二つしかない。
 暴悪な悪魔であることを自覚して振る舞うか――己の思うがままに悪魔として振る舞うか。
 本能のみをたよりに生きる獣に立ち戻るか、そうでなければ道化を演じるか。更には、そのどちらを選ぶにしても行うべき事に大差はなく、その上、そうするべきである人間の世界に於いては手枷足枷を付けられ、録に動くことも出来ず、過当な魔物を操って玉座にふんぞり返るのが関の山。
 果たして調和のための暴虐とは、かくも歪なものである。




「――埼玉県警麻帆良署とは、連絡が取れています。現在女子寮と、明石教授宅へは捜査員が詰めていると。念のため、宅配業者と建物のメンテナンスを装ってはいますが」
「犯行声明から半日以上が立って、警察関係についての指示が何もない。犯人はそうなる事を織り込み済みで動いているのでしょう。今更気にしても仕方ない。マスコミの方は?」
「高畑先生が警察の方と一緒に。報道協定が結ばれました。事件解決までは、伏せられます」
「宜しい。では、生徒への対応は」
「本校女子中等部三年生は、本日を臨時休校にして寮で待機。詳細は伝えておりませんが……“被害者”と同室の子がおりますし、そもそも警察への第一報はスプリングフィールド先生が行ったと言うことですから……恐らく」

 夜が明けた午前七時。その日は朝から雨が降りしきっていた。
 いつもなら、部活の朝練を監督する仕事があったり、あるいは当番の為出勤を早めた教師くらいしか姿のない麻帆良学園本校女子中等部には、既に職員室に全ての教職員が顔を揃えていた。
 そして彼らを纏めるのは、女子中等部三年生学年主任の新田教諭である。
 彼は終始冷静に自体を把握しようと努めているが――否応なしに、その包帯が巻かれた両手が目に入る。
 こと、生徒の指導に関しては人一倍熱心であり、何よりも生徒の事を考える彼の事である。昨晩遅くにもたらされた一報――“生徒の一人が何者かに誘拐された”という報告を受けて、どれほどの思いが今、彼の中に渦巻いているというのか。
 何せ本校女子中等部三年A組――かのクラスは、修学旅行中にも一人、生徒が“誘拐”されたのだ。立て続けに大切な教え子をいいようにされて、平静でいられるはずはない。だが果たして目の前の男は、冷静に教師陣の指揮を執る。両の手を、酷く傷つけた姿で。

「新田先生――」
「幸い、先だっての修学旅行で警察関係者への“つて”が出来まして――生徒への対応に関しては、彼に相談してみることにします」

 それはどれほどの精神力を持って放たれた言葉だったのだろうかと、新田に声を掛けた若い教師は、続けようとした何かの言葉を飲み込んだ。『先だっての』とはつまり、彼は自嘲しているのだろうか? 僅かに赤が滲む包帯に、目線が移る。

「午前九時より、麻帆良学園本校男子・女子中等部の生徒を対象に、高畑先生より注意事項が。その後各担任は通常授業に戻る前に、生徒に注意の徹底を」
「はい」
「高畑先生は?」
「先程学園長先生と一緒に、自警団の監督をされている先生方との緊急会議に」
「後で私の所においで下さいと伝えてくれませんか。聞けば昨晩はお休みになられていないご様子で。このままだと倒れてしまいます」

 学園国家、麻帆良。その麻帆良の地を、自分たち自身で守ろうとする彼らの間で、畏怖の対象ですらある高畑・T・タカミチ教諭。その彼が、少し前までは自分が担任であった教え子を守ることが出来なかったとあれば、その苦悩はどれほどのものか。

「スプリングフィールド先生は、まだ女子寮に?」
「はい。学園長先生より――精神的な負担が大きいので、女子寮に残ってこちらとの連絡役を務めて欲しいとの指示がありまして」
「……」
「……新田先生?」
「ああ、いえ」

 新田は、自分のデスクにある椅子を引き、腰掛ける。粗末な事務椅子が、軋んだ音を立てて彼の体重を受け止めた。

「……何やら、嫌な感じだ。魂に喚き立てられるとは、こういう事か」
「は?」
「ああ……いえ」

 呟きを聞かれた事に気がついた彼は、少し苦笑するような表情を浮かべ、手のひらを振った。

「恥ずかしながら、私も護身程度に武道を嗜んでおりまして」
「存じております」
「いえ、本当に。私のそれなど単なる護身術です。ですが私にその手ほどきをしてくれた方がおりましてな。その方の教えなのですよ。魂は、自分が思っているよりもずっと敏感だ。だから常に魂の存在を感じ取り、魂が騒ぐときは、そのささやきに素直に耳を貸せと」
「はあ……そのお方はあれですか、ゴースト・スイーパーか何かですか?」

 魂だの何だのと、彼の口から出た言葉は、普通の人間にしてみればあまりに胡散臭い。
 しかし、新田がどういう人物か知っている若い教師は、彼が伊達や酔狂でそんなことを言っているわけでは無いだろうと思う。

「はは……琉球空手だとか、合気道だとか……そう言う類だと思っていたんですがなあ……何というか世の中は広いというか」
「はあ」

 何故か遠い目をして何処かを見つめる新田を、若い教師は不思議そうに見つめる。

「我々に出来ることなど、たかが知れている。もはや後のことは警察に任せて、我々はただひたすら祈るしかない――だが、その祈りを捧げる事が、何故か酷く滑稽な気がしてならんのですよ」




 会議は、紛糾した。
 しかしそこで何が出来るわけでもない。何処かのドラマではないが、現実に、事件は会議室で起きているわけではないのだ。
 会議に際しては、一部から近右衛門の先見性を評価する声までがあがった。この“魔法先生”によって行われる麻帆良の舵取りにおいて、“魔法使い”をないがしろにするような意見を出した男に対して、である。
 現実に、生徒が誘拐された。それも、間違いなく“魔法関係”の相手によって。
 それはすなわち、この麻帆良の守りが万全ではないことを意味する。
 いや――それは、わかっていた。場当たり的な守備が今まで続けられて来たのには、それなりの理由がある。それが、“魔法使い”という人々の特殊さだ。一般人の中に於いて、その存在の秘匿を強制される魔法使いであるが、それは当然敵にも言えること。
 平和的な解決手段を放棄して実力行使に訴え出た上で、“魔法の秘匿”という、ある意味では信念のような部分は律儀に守ってくるのだから、何とも歪である。しかしそれが魔法使いの常識であったから、今の今まで“魔法使い”によって麻帆良を守ることが出来た。
 そう、相手は“魔法使い”だったのである。
 だからこそ逆に、信念の異なる“魔法使い”を相手に、こちらは雇われ警備員をあてがおう等という意見に、反対する者が現れるのもまた当然だったわけだが。

「今は左様な事はどうでもいい」

 近右衛門はただ一言、そう言った。

「この地に麻帆良という都市が築かれてからこちら、幾度となく出てきた意見であった。じゃが、それは机上の空論じゃったのじゃ。今の時代に至るまでは、な」

 魔法使い相手には、魔法使いである自分たちでしか戦えない。
 守備を固めたくても、それを任せられるものが居ないのだ。
 魔法使いと渡り合えるだけの戦闘力を持ち、魔法の世界という裏の世界の事を知り、それを秘匿する事に異議を挟まず、しかし自信は“魔法使い”ではないなど――そんなふざけた人材が、居るはずもない。
 対価と引き替えに、己の命を剣に怪異を払う――“新世代の魔法使い(ゴースト・スイーパー)”という彼らが、現れるまでは。

「昨晩、儂らとスプリングフィールド先生の所に届いた脅迫状じゃ」

 近右衛門は、静まりかえった会議室で、その手紙を広げて見せた。
 手紙には、こうある。
 ――来る今週末、麻帆良学園都市に魔法を掛けよう。誰もが悲劇に酔いしれ、慟哭を上げる魔法である。一縷の望みに掛けたくば、英雄と言われる宿命の少年よ、その杖に掛けて、不可能に立ち向かう悲劇を演じるのだ――

「それと共に、誘拐された明石教授のご息女の写真が入っておったが――それに関してはこの場で見せるようなものではないのでの。警察に証拠として提出させて貰った」
「が、学園長!?」

 彼に近い席に座っていた、恰幅のいい男――弐集院と言う名の魔法教師が、戸惑ったような声を上げた。

「十中八九、犯人は“魔法使い”か――その関係者でしょう」

 彼の言葉の跡を継いだのは、昨晩の会議で近右衛門に相対した教師、ガンドルフィーニであった。

「そのような者を相手に、警察組織に何が出来るとも思いません。軽率な行動は、かえって魔法の秘匿に縛られた我々の足かせになる。その事を理解しておいでですか」
「ほう、ならばガンドルフィーニ君。我々がこうしてここで雁首を揃えておることで、何ぞ事件が解決するとでも?」
「私に嫌味を言われても仕方がないでしょう。ですが――」
「そもそも、明石教授の意向により、ご息女には“魔法使い”の事は知らされておらんそうじゃ。彼女を我々の手により救い出すとなれば、もはや“魔法の秘匿”などとは言うておられん」
「馬鹿な。我々と警察では――」
「あながち馬鹿げた策とは思えません。ガンドルフィーニ先生、弐集院先生」

 今までずっと、椅子に背を預け、腕を組んでいた高畑が、そこで会話に割り込んだ。

「相手は魔法使いとして――実のところ魔法使いであるかどうかもわからないが――相当の手練れだ。脅迫状などという馬鹿げたものまでこちらに回してきていると言うのに、我々は相手が何処にいて、明石君がどういう状況に置かれているのかさえ、わからない」

 ふと、彼は顔を上げた。その瞳がまっすぐに、ガンドルフィーニの視線を捉える。

「我々がどう動くにせよ、今はどんな些細な情報だって欲しい……たとえば、警察には犯人の“魔法使い”と戦う事は難しいかも知れない。だが、相手の情報を掴むことならば、出来るかも知れない」
「しかし魔法の秘匿に縛られた我々がどうやって」
「では我々が明石君を救出するにあたって、彼女にどう“魔法の秘匿”を押し通すつもりじゃね? 既に何らかの魔法が使われておる可能性がある。これだけの事態じゃ。記憶の改竄とて、ほころびが出るぞ」

 近右衛門の言葉に、ガンドルフィーニは嘆息した。
 一体彼は、何を言っているのか。自分が言いたいのは、警察という表の組織への、自分たちの存在の漏洩である。そこで問題になってくる事象と、明石教授の娘への魔法の露見。そもそも、問題としている事が違いすぎると――

「同じじゃよ」

 学園長は、それを斬って捨てた。

「明石君を無事に救出するには、もはや誰かに対して魔法が露見する事は避けられぬ」

 そこには当然、“魔法先生”が動くならばと言う但し書きがつくが、ここで動かないという選択肢は、彼らには無い。近右衛門とて、それは当然のことだろう。

「どうせ明石君に魔法の事がバレてしまうのならば、いっそ警察に我々の存在を暴露して、共同捜査に当たってはいかがかな?」
「学園長――」
「やれることは何だってやるべきじゃよ」

 近右衛門は強い調子で言った。

「厳しいことを言うが、諸君らは少し甘く考えておるのでは無いのかね? 我々が成すべき事は何じゃ? 麻帆良の安寧を守り、生徒を守るための“魔法先生”なのじゃろう? 魔法の秘匿と生徒の命。天秤に掛けられるはずも無かろう」
「それは当然のことです! ですが――」
「構うものか。それで明石君が無事に戻ってくるのなら、我々の立場なぞドブに捨ててしまえ。そうでもせんと、彼女を助け出すことなど出来はせん。此度の相手は――そう言う手合いじゃ」

 会議室は静まりかえっていた。声を出せる者は、誰もいない。
 魔法先生の誰もが誰も――“魔法使い”としての常識と、誘拐された生徒の命など、天秤に掛けるまでもないことはわかっている。
 それでも反論が口をついて出たことを、恥じるべきだろうか? だがそんな倫理観を語り合っている時間など、今の彼らにはない。

「……決まりじゃの。誰でもいいから、至急警察に連絡を。それと警察を通して、ゴースト・スイーパー協会とオカルトGメンにも連絡を入れた方が良いじゃろう。ただ我々が『魔法使いが力を貸します』などと言ったところで、笑いものになるのが――」
「会議中に失礼します」

 近右衛門の発言は、唐突にドアを開けて現れた一人の教師によって遮られる。近右衛門は知らず早くなっていた呼吸を落ち着けるため、大きく息を吐いた。

「何じゃね」
「学園長先生宛に、お電話が入っております。何でも――この事件に関して、至急であると」
「……相手は」
「――麻帆良学園本校女子中等部三年A組――エヴァンジェリン・マクダウェル」

 ざわめきが、爆発したように会議室に広がった。だが彼の言葉には、更に続きがあった。

「直接には、ですが――彼女を通して、横島――横島忠夫と名乗る、男性からです」




 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは不機嫌だった。
 今日も今日とて、退屈な一日が始まると、ベッドから体を起こして身支度を仕様としたところで、従者である絡繰茶々丸に引き留められた。学校から連絡があり、本日は臨時休校になった為、自宅にて待機せよとのことであると。
 これ幸いとばかりに二度寝を決め込み、制服を脱ぎ捨ててベッドに潜り込んだはいいが、何となく寝付けなかった。

(今日は“リベンジ修学旅行”とやらの話し合いがあるはずではなかったか? それを――)

 枕に顔を伏せて何となく考え――彼女は慌てて頭を振った。

(馬鹿を言え! 何故私がそんなことに付き合わねばならんのだ!?)

 確かに、京都での修学旅行が不完全燃焼であった事には、彼女とて不満が残る。だが、進んであの馬鹿げた小娘共に付き合う必要はないのだ――と、エヴァンジェリンは自分に言い聞かせた。
 大体にして、修学旅行の不満だった部分は解消出来たはずだ。
 少し前の週末――彼女は一人、新幹線で京都に旅立った。麻帆良の魔法先生達が聞けば腰を抜かすだろうが、何も言ってこなかった所を見ると、茶々丸経由で情報は把握していたのだろう。
 時間は潤沢とは言えず、首輪付きとも言えた旅であったが、それなりに満足だった。
 金閣寺では彼女のいかにも西欧人と言った容姿が幸いして、頼みもしないのに色々と講釈をぶってくれた観光客がいたし、シネマ村ではマスコットのカラス天狗と握手をし、写真も撮って貰った。むろんクラスメイトには絶対に見せられないだろうが。
 だから今更、馬鹿騒ぎに付き合う義理はないのだが――

(何故だろうな、私としてはとうに目的を果たしているのに――それこそまだ“リベンジ”が出来てないと感じたのは――)

 そこまで考えて、彼女は思いきり枕に頭を突っ込んだ。
 どうにも、調子が出ない。
 最近は、いつもこうだ。全く“闇の福音”が聞いて呆れる――が、自分はもはやそのような称号にも興味はない。
 「光に生きてみろ」と、勝手なことを言ったあの男の真意は未だにわからない。結局、先は見えない。同じ時間を繰り返させられている事に辟易していた自分ではあったが、結局長い時間を生きる吸血鬼にとって、“先に進める”事に何か意味があるというのか。
 無限の時間を生きたその果てに、何があるというのだろうか。

(馬鹿らしい)

 エヴァンジェリンはベッドの上で転がった。それもこれも、こうも唐突に退屈になったからなのだろう。学校に行っていれば、つまらないながらも退屈などとは――

(いいや、鬱陶しいだけだ)

 彼女は一人、ため息をつく。しかし――その時、自分の顔に浮かんでいた表情がどういったものであるのか。彼女は気がついていない。むろん、それを見ることの出来る人間が居るわけではないが。
 数百年に渡る極限の時間を生き抜いてきて、今更子供と一緒に机を並べて勉強など、面白いはずもない。そこらの人間を捕まえて、明日から幼稚園に通えと言うようなものだ。むろんそれを当然だと受け入れられる人間は居ないだろう。だが――

(実に――厄介だ。人間の、心という奴は)

 誰にもわからない自身の心の内の、更にその何処かで、エヴァンジェリンはそのように思うのだ。
 自分が吸血鬼に“された”のは、彼女が見た目通りの年の頃だった。
 今の彼女は、見た目はその頃と何ら変わる事はない。しかし、実際に彼女はその目で、自分を置いて流れていく数百年の時間を見つめてきたのである。果たしてそんな自分の心の中に――こうやって言い表せない感覚に悶々と悶える、“ただの子供”のような部分が残っている事は、彼女自身にとって意外だった。
 そして厄介なところはそこなのだ。その事実は彼女にとって意外であり、また面白くないモノであったが、近頃何となく思うのだ。それは――

「……」

 彼女は仰向けに寝転がり、枕を顔に載せた。優秀な従者によっていつも清潔に保たれている布地からは、爽やかな洗剤の匂いと、暖かな太陽の匂いがした。
 体から、力が抜ける。その脱力感のままもう一度眠りに就いてしまおうかとそう考えたとき――寝室のドアが、ノックされた。この家にそれが出来る者は、一人しかいない。

「――茶々丸か、何の用だ?」
「お休みのところ申し訳ありません――マスターに、来客です」
「来客? 恵子の奴は先日東京に戻ったばかりだし、一体」
「横島忠夫様です」
「……何?」

 エヴァンジェリンの頭に、すぐさま一人の青年の姿が浮かぶ。
 馬鹿で明け透けで、自分とはどうやっても反りがあわないだろう愚か者。しかしどこか不思議な空気を纏っていて、興味深いと思ってしまう、奇妙な白髪の青年。
 そんな彼が一体――今の自分に、何の用だと言うのだろうか?

「マスターが寝室に戻られていたので、失礼かとは思ったのですが。一応、玄関でお待ちいただいておりますが、如何致しましょうか?」
「……ふん、通してやれ」

 エヴァンジェリンはベッドから体を起こし、乱暴に上等なパジャマを脱ぎ捨てた。
 どうせ退屈をしていたところだ――誰にともなく、そんなことを内心で呟きながら。




「それで貴様は――」
「お初にお目に掛かります、ミス・マクダウェル。僕はピエトロ・ド・ブラドー――現在国際警察オカルトGメン東京支部に在籍中の者です」

 見惚れるほどの美貌を持った金髪の青年は、そう言ってエヴァンジェリンに頭を下げた。
 年の頃はまだ二十歳そこそこ――オカルトGメンの制服なのだろう、日本の警官のそれによく似た濃紺のスーツに身を包んだ彼は、あくまでにこやかに笑う。

「……来客は横島忠夫だと聞いていたが――“混ざり者”が私に何の用だ」

 そんな彼に対して、エヴァンジェリンは瞳を細める。
 混じり者――彼女の本能が告げている。彼は、自分の同族――間違いなく吸血鬼である。しかし純粋な吸血鬼ではない。人間の血が混ざったハーフ――所謂“ダンピール”と呼ばれる特異な存在である。

「はっは――見たかピート。世の中にはお前のニコポが通じん女性だって居るんだぞ。そのまま無力感にうちひしがれているが良い」
「私には貴様が何を言っているのか全くわからんが横島忠夫――それで貴様は、わざわざ私の安眠を妨害するためだけにこの混ざり者を連れてきたというのか?」
「まさか。エヴァちゃんのベッドルームにお邪魔するんなら、こんな思春期以降の男の敵を連れてくるもんかよ」

 そして彼の傍らで、いつもの調子を貫く車いすの青年――横島忠夫が、この半吸血鬼の青年を連れてきた事は間違いないだろう。どうやら二人は、旧知の仲であるらしい。

「ふん、その心がけは褒めてやるが、貴様は私の趣味ではない」
「つれない事言ってくれんなよエヴァちゃん。この間はあんなに熱烈なお誘いをしてくれたじゃねーか?」
「ちょっ――横島さん!? あなた何を考えてるんですかこんな小さな娘を相手に!?」
「落ち着けピート。この娘が言ってるのは出来れば勘弁したい類の、雪之丞的なアレだったって――しかしこの世には便利な言葉があってな、そのものずばり合法ロ――」
「お前の血と脳漿でこの部屋の模様替えをしたくなかったらさっさと事の次第を話せ」

 ――無論それよりなにより、興味深いと言っても、この男が自分の神経を逆なでするようなタイプの人間である事には違いないのである。こめかみに血管を浮かび上がらせ、エヴァンジェリンは極寒の瞳で横島を睨む。
 その本気の殺気が籠もった視線に――金髪のダンピールは僅かに反応したようだった。だが、とうの横島は、小さく息を吐いて肩をすくめるしかしない。その仕草が自分にどう受け止められるか、彼はきっとわかっている。

「さっきも言ったが、こいつはオカルトGメン――つまりは警察官だ」
「混ざり者とは言え、誇り高き闇の一族が官憲の犬とはな――待て、ブラドーと言ったか? その名前は聞いたことがある。たしかあれは」
「出来ればその先は口に出さないで頂けませんか」

 ピエトロ――ピートを名乗る青年は、強い調子でエヴァンジェリンの言葉を遮る。
 無意識にエヴァンジェリンの眉が動き、それに気がついたのだろう横島が口を挟む。

「まあ、あれだ――こいつは確かに吸血鬼だけどな。いくら吸血鬼なんて言ったって、十把一絡げには出来んだろうよ。それにこいつは、多分エヴァちゃんの知ってるこいつの親父とは特に折り合いが悪くて」
「父の事は今は関係ないでしょう!」

 吐き捨てるように、ピートは言った。
 果たして言葉を飲み込んでしまったが――エヴァンジェリンは思い出す。確か昔、地中海に居を構えるブラドー伯爵なる吸血鬼の噂を聞いたことがある。数少ない自分の同族――強力無比な、闇の眷属。その力を持ってして、中世ヨーロッパの世界に少なくない恐怖と混沌を振りまいた存在。
 なるほど――何がどうなって彼の息子が警察官となったのかは知らないが、少なくとも“そうあろう”とした彼にとって、愉快な話とは思えない。

「まあそうムキになんなよ。あのオッサンには俺も思うところがあるが、それでも最近はのんびり島で隠居生活だろ?」
「……横島さん――この間、ですね。島の皆さんに勧められて、父に認知症のテストを受けさせてみたんですよ。その結果が――」
「……」
「……」
「……ああ、うん、俺はもう何も言わんわ。正直すまんかった」
「……いえ、僕も――急に怒鳴ったりしてすみませんでした」

 目の前で繰り広げられた会話を、エヴァンジェリンはとりあえず無かったことにした。

「と言うわけでエヴァちゃん」
「何が“と言うわけ”なんだ。貴様ら本気で何処かおかしいんじゃないか? 頭の医者にでも診て貰うか? 何なら今ここで、私が直々に貴様に開頭手術でも施してやろうか?」
「ああ、俺って馬鹿だから多少はマシになるかも知れんがな――とりあえずそれは本題が終わってからにしてくれねーか?」

 そう言うと横島は、その瞳を細めてみせる。
 その表情は――果たして、普段の彼にはとても似つかわしくないものだった。

「――エヴァちゃんのクラスの明石裕奈ちゃんが誘拐された。昨日だ」
「――」

 声は出なかった。
 出なかった筈である。しかし、その言葉が耳に入り、脳がその言葉の意味を認識した瞬間――エヴァンジェリンは、喉奥から言葉に出来ない何かがこぼれ落ちたような錯覚を覚えた。
 その何かが何だったのか――考えたくはない。考える必要もない。
 果たしてエヴァンジェリンは、細い指を口元に当て――少し、目を細める。
 むろん、自分の人となりを――その隠したい部分まで含めてある程度知っている相手を前に、このような姿を見せるのは自分らしくない。それもまたわかってはいるけれど。

「……ふん」

 ややあって、彼女は鼻を鳴らす。
 だがそれが――いつものように、高慢で自信に満ちたものであったかどうか。その結果を、彼女は考えないことにする。

「修学旅行で近衛木乃香の一件があって――まだいくらも経たないうちにこの体たらくか。あの坊やを責めるのは酷だとしても、全く麻帆良というのは救いがたい阿呆共の集団だ」
「相性だとか、そう言うもんだってあるだろうよ。そもそも魔法使いったって結局は人間だ。俺が今ここでエヴァちゃんと殴り合いしてみたところで、逆立ちしたって勝てやしねえのと同じでさ」
「……何だと?」

 エヴァンジェリンの眉が動く。

「そんなことより――エヴァちゃんも何だかんだ言って、ネギの事は買ってるんだな?」
「悪ふざけも度が過ぎると後悔しか生まんぞ横島忠夫。私は物の道理というものを貴様より少しばかり知っている。もとい、どうにもならないことを嘆かない趣味でな。あのような出来損ない――“英雄の残滓”などに出来ることなど最初から何もない」

 翼のない人間に空を飛べない事を責めても仕方がないだろう――そう、彼女は言った。

「だが――それで貴様はどういうつもりだ」

 彼女は、まだ何も聞いていない。
 何故目の前の男が、わざわざ自分の前にやって来たのかが、わからない。
 自分に言わせれば、彼は偽善者――その様に呼ぶのも違和感があるが、果たして彼が独善的でお節介であることは間違いない。
 彼の被保護者であるところの犬塚シロの級友が誘拐されたなどと聞けば、黙っていられずに首を突っ込もうとするだろう。それは今までの彼を見ていれば何となく想像は付く。自分にしてみれば反吐が出そうなあり方ではあるが――逆に、そこに文句を言っても無駄なことである。その様な労力、払わないに越したことはない。
 ただ――その様な馬鹿なお節介が、“居ても立っても居られなくなった”と――ならば何故、“ここ”にいるのか?

「言っておくが私は貴様の友達とは違う。明石裕奈に――」

 一度、そこで言葉を切る。
 それは彼女自身にも、意図しないことだった。

「明石裕奈に何があろうと、何も出来ることはない。そう言う意味で言えば、貴様には色々とコネがありそうだな。隣の混ざり者の事と言い――ふん、ならば勝手に、一人で好きなようにやりたいことをやればいい」
「……」
「それでここに来て、私に何か用があるのか? そんなことをしている暇など、貴様にあるのか?」
「連絡網だ」
「悪ふざけは時と場所を選べと言ったはずだ。今日の自宅待機なら、既に連絡は受けて居るぞ。貴様程の馬鹿はどうだか知らんが、これでも私は、電話という文明の利器の扱い方くらいは知って居るぞ」
「そりゃ茶々丸ちゃんの事じゃねえのか? ――わかってる。まあ馬鹿は、この程度だ」

 彼女に睨み付けられて、横島は軽く両手を挙げた。

「ただ、“連絡網”ってのもまるっきり悪のりってワケじゃない。何せ俺は――“連中”に“連絡”を取ろうにも、その術が無いんだからな」




 その変化は、一瞬だった。
 学園長宛の電話――それを取り次いできたという教師の腕から、“影”が弾けた。
 否、正確にはその携帯電話からである。当然彼は驚いて携帯電話を取り落とす。そこからまた、黒い何かが迸る。
 まるで風船に無理矢理詰め込まれた真綿のように周囲にまき散らされたそれは――果たして、漆黒のコウモリの群れであった。それらは今まさに鳥かごから解き放たれたように、縦横に辺りを飛び回り始める。

「こ、これは――」
「エヴァンジェリン!? い、いやしかし、彼女の魔力は、今はまだ封印されているはず――」

 思わず手で顔を庇った“魔法先生”の口から、そんな言葉が漏れる。そう、どう考えてもこれは、普通の現象ではない。そして彼らは、その現象から容易に連想されるあるものをよく知っている。
 影に溶け込むようなコウモリを従え、満月に照らされた真夜中、その月が照らす影に紛れてこの世の深淵をさまよい歩き、人の生き血を啜る化け物――即ち「吸血鬼」である。
 やがて虚空からわき出たコウモリの乱舞は唐突に終わりを告げる。部屋中を覆い尽くす勢いで飛び回っていたコウモリが、一斉にある一点に集中し、真っ黒な塊のようにさえ見えたその瞬間――すでにそこにコウモリの群れなどはおらず、まるで幻のように、一人の男が立っている。
 濃紺の制服に身を包んだ、金髪の青年が。

「――お騒がせしてしまって申し訳ありません、麻帆良学園の皆様」

 見た目通りに良く通る声で、そして見た目にそぐわぬ全く違和感のない日本語で、その青年は言った。

「……何者だ。悪いが今は緊急を要する職員会議の最中で――部外者は立ち入り禁止なのだがな」

 そう言って一歩前に進み出たのは、サングラスにオールバックの強面の男――神多羅木教諭は言う。指で僅かに持ち上げられたサングラスの下には、鋭い眼光が宿っている。
 だが、すぐに彼の表情が動く。それは軽い驚きによって。彼がさりげなく自分の影に隠そうとしたまさにその相手――麻帆良学園学園長、近衛近右衛門が、警戒する様子もなく彼の前に歩み出たからだ。

「お初にお目に掛かる。儂は近衛近右衛門――この麻帆良学園の学園長、責任者の立場に立たせて貰っておる者じゃ」
「存じております、お噂はかねがね」

 金髪の青年は、小さく頭を下げる。

「はて――儂は、儂の知人――友人であるところの横島忠夫君、そして儂の生徒であるエヴァンジェリンからの連絡を受けた――そう聞いて居たところだったのじゃがな」
「礼を失した登場は、重ね重ねお詫びします。ですが、とうの彼らから、あなた方の前に立つには今を置いて他にないと、そう言われたもので」
「――?」
「学術研究都市、麻帆良――水面下でこの場所を本拠地とする関東魔法協会。そこに所属する“魔法先生”方が一同に会する――その機会はそうはない、と」

 彼の言葉に、幾人かの“魔法先生”が動く。明らかに彼を敵として警戒する動き――しかし、近右衛門は軽く右手を挙げて、そんな彼らを牽制する。

「――申し遅れましたが、僕はこういう者です」

 彼がスーツの内ポケットから取り出したのは、革製のパスケースのようなものだった。果たして彼がそれを開くと、その中には見慣れないエンブレムと共に、その彼の顔写真が印刷された身分証のようなものが収まっている。

「国際警察オカルトGメン日本支部所属、怪異現象捜査官――ピエトロ・ド・ブラドー。麻帆良学園学園長、近衛近右衛門教諭以下、麻帆良学園教師の皆様――現時刻を以て、皆様方には国際警察オカルトGメン――及び、埼玉県警麻帆良警察署の指揮下に入っていただきます」




「――しかし取るべき手段がいくつもないとは言え、良いのかねえ……突然しゃしゃり出てきた相手にでかい顔をされたんじゃ、麻帆良の“魔法先生”としては面白くねーだろうに」
「ふん――それを織り込み済みで私の寝起きを騒がせた貴様の言うことか」
「日本人は本音を心に秘めるモンなんだよエヴァちゃん――しかし手伝ってくれる気になるとは思わなかったぜ。向こうの反応は何となく想像がつくが――ま、後はピートが上手くやるだろ」
「麻帆良という地にあぐらを掻く木偶の坊共には、たまにはいい薬だ。自分たちがカビの生えた過去の遺物だと言うことを、いい加減思い知ればいい」

 その言葉を聞くなり、そう言う喧嘩はごめんだ、と言って、白髪の青年――横島忠夫は首を鳴らす。
 その様子をつまらなそうに見遣って、エヴァンジェリンはため息をついた。

「……それに私は、騒がしいのは好きではないからな」
「まあ確かに。エヴァちゃんが“被害者の同級生”とかって顔にモザイク入れられてテレビに出るのも想像出来ねーな……しかし待てよ、エヴァちゃんにモザイクか……何だそのけしからん響きは」
「その響きが気に入らんなら耳をえぐり取ってやっても良いんだが?」

 いちいち茶々を入れなければ話しも出来んのか貴様は、と、エヴァンジェリンは盛大に息を吐く。むろん――どれだけ苛立ちを募らせたところで、あるいは本気の殺気をぶつけたところで、目の前の男がそれに反応してくれるとは思えないのであるが。

「それで――まあ、“魔法先生”共の事はあの混ざり者に任せればいい。木偶の坊とは言え、こういう状況にはいくらか使える能力を持った奴も居るだろう」

 彼女は乱暴に、リビングのソファに腰掛けると、背もたれに体重を掛けて天井を仰ぐ。

「だがどうせ貴様のことだ――あちらに全てを任せて静観する気は無いのだろう?」
「どうしてそう思うよ」
「この私を伝言板の代わりにするその蛮勇が、何処から湧いて出たのかを考えてみただけだ。ふん――貴様と明石裕奈の間に大した接点などは無いだろうに。貴様はあれだな。ただのお人好しと言うにも違う――心底愚か者だと、今はそう呼ばせてもらおうか」
「俺が馬鹿なのは生まれたときから承知してるよ――蛮勇ついでに、もう一つ頼み事をしてもいいか?」

 自分は今見せられた顔ではないのだろうと――天井を睨み付けてエヴァンジェリンは思う。むろん、目の前に男に気を遣う必要など無いし、今更彼の前で格好を付ける必要もないのであるが。

「……私に何か見返りがあってか?」
「今度メシでもおごってやるよ」
「欠食児童か私は……そう見えるなら貴様の血を満腹になるまで吸ってやる。光栄に思え」
「俺が貧血になるくらいなら喜んで――薄々気がついてるかも知れんが、ほら、ネギの事だよ」
「……」

 今度こそ遠慮無く、彼女は口をへの字に曲げた。
 彼女の担任であるネギ・スプリングフィールド――自分をこの麻帆良の地に幽閉した魔法世界の英雄、ナギ・スプリングフィールドの息子。しかしその実、かの英雄と性格は正反対もいいところ。
 感情の浮き沈みが激しく、それはもはや病的で――先の京都での一件から何かを吹っ切ったようだが、それもいつまで続くものか。自分としては、もはやそんな相手に構うこともないだろうと思っていたのだが――

「あのガキを私にどうしろと言うのだ。私が奴にとって何かの足しになるとは思えんし、そもそも私自身、もはやあのガキに関わるのは御免被る」

 彼がまた暴走しかかっているのだろう。それは何となくわかる。何せ京都の一件があった、まだその余波もさめやらぬうちの今回の事件である。誰もが少なからず動揺を隠せない今の状況下にあって、あの彼が何もせずじっとしていられるとは、とても思えない。
 そんな彼に、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル――不倶戴天の敵と言っても良いだろうこの自分が、一体何が出来るというのか? する気もないけれど。

「夕べピートを呼んだすぐあとに――明日菜ちゃんと木乃香ちゃんから連絡があった」
「あのガキがまたぞろおかしくなったと言う話か? 今度は何をしでかした。事件は会議室で起きて居るんじゃないと――そんな風に喚いて部屋から飛び出したか?」
「むしろそれは俺の方だ。廊下でずっこけてあげはにハリセン喰らって目が覚めた」
「……貴様は何をやっているんだ……」
「事情は道中説明する。ただ――エヴァちゃんは、“ネギより強い魔法使い”だろう? 今はとにかく――“それ”が必要なんだ」










……前の更新が一年以上前とかないわ……

いろいろ考えることの多かった一年。これからも少しずつでもいいから、自分のやりたいことが続けられたらいいのだけれど。


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