―小太郎視点―
青チビは倒れて気絶しとるし、こいしはネギの魔法に撃たれ黒コゲになって倒れとる。
……傍から見たら俺らが悪者っぽいな、この状況……ていうか俺、また女に暴力振ってもうたわ……。
まぁ、こいしはともかく、青チビの方は大丈夫っぽそうやな。ご丁寧に鼻提燈膨らましとるし。
「チルノちゃん!」
んあ?誰や、あの妖精のチビは?青チビの知り合いか?
地面が氷まみれやから走ると危ない思うてたけど、文字通り飛んできたから問題無いな。
で、妖精チビに続いてやってきたんは、ネギとアスナと……は、裸の姉ちゃんら!?
「さささ、寒いアル寒いアルーっ!」
「か、風邪を引いてしまいそうです……っ!」
「てゆーかアウトっぽそうね」
「くしっ……みみ、皆さん、大丈夫、です、かー!?」
「いやいやいや、姉ちゃん達が大丈夫やあらへんやろ!?」
特に皆を心配しとる読心術の姉ちゃん、あんたが一番ガタガタいうとるやんか!
察するに風呂場とかで攫われたんかもしれんが、まずは服を着てくれやーっ!
「はわわ、ア、アデアット!」
な、なんや?この妖精チビも不思議アイテム持ちかいな?
変な盾が妖精チビを囲むように四つ浮いていて、それらが裸の姉ちゃんらを取り囲む。
「今はこれで勘弁してください!『暖』、『房』!」
妖精チビがそう言うと、四つの盾のうち二組が『暖』、残る二組は『房』の字が浮かび、熱を発する。
言葉を具現化する道具かいな。こりゃ便利すぎるわ。
「おおー、暖かいアル!」
「助かったよ、大ちゃん!」
いや、確かに寒くなくなって良うなったけどな、カンフー姉ちゃんに赤毛の姉ちゃん。
裸には変わりないねんのやで?少しは読心術の姉ちゃんみたいに恥じらい持ってや。
……なら口で言ってやれって?言わせんなや恥ずかしい。
「小太郎君、大丈夫!?」
お、ネギか。
「見ての通りや。冷たくて痛いが、ピンピンしとるで。それよりやったやないか!」
正直、あのこいしに勝てる気が全然しなかったんや!
口に出さないでおくが、すぐにお前がやられてまうかと思っていたのに。
「加減はしたつもりだったんだけど……悪いことしちゃったなぁ」
「大丈夫だよネギ君。むしろこいしちゃんならあれぐらいしないと大人しくならないから」
げ!?マジかいな金髪チビ!?
俺もそうかもしれんが、ネギもそれを聞いて顔が少し青くなる。
あのステルス能力であの威力でないと倒れんとか、勘弁してくれや……。
「ああ、あの、あの、の、あああ、あの、あ、あ」
どないしたん読心術の姉ちゃん?どこを指差して……ん?
黒コゲになって倒れたままのこいしが震えていて……まさか!?
「むっがー!!」
『えーっ!?』
黒コゲのまま、こいしが立ち上がった!?
思わず叫ぶ俺ら。あんな雷受けてピンピンしていたらそりゃ驚くわな!
「もー、何よ何よ!せっかく頼んで手加減して我慢してやったってのに!
そもそも私はただ、石像を貰えるかどうか聞きたいだけだったのにー!」
こいしは子供のように癇癪を起こしながら、其の場で地団駄を踏んでキーキー言う。
考えてみりゃ、怖がらせるような真似をしたものの、こいしの方から手を出したっちゅーわけでもない。
せやけどな、あんたノリノリで俺らに攻撃してきたやんか……しかもチルノも操って。
「もう我慢しないわ!お姉ちゃんから、外ではあまり羽目を外さないでって言われているけど、羽目外してやるんだからー!」
なんつーか、俺の勘違いかもしれんが……八つ当たりって感じがヒシヒシと伝わってくるんやけど!?
こいしはガキっぽく怒りながら、手に持っていた光るカードをかざす。
―「嫌われ者のフィロソフィ」!
そう宣言すると、軽く地面が揺れて……い、茨ぁ!?
次々と地面から天へ向けて茨が伸びていき、その伸びた茨から枝分かれするように細い茨が生えてくる。
慌てる姉ちゃんらを庇うように動ける者が動き、鉄格子のように絡んでいく茨の攻撃を避ける。
あっと言う間に数百本もの茨同士が絡み合い、ジャングルジムのように俺らを取り囲む。
「『嫌われ者のフィロソフィ』!?こいしちゃん本気だよ!」
辺りを見渡しながら、妖精チビと一緒にチルノを支えているルーミアが叫ぶ。
ネギとアスナは読心術の姉ちゃんらを、褐色姉ちゃんは赤毛姉ちゃん、神鳴流の姉ちゃんは長の娘と一緒におる。
俺は孤立しとるから問題なく周囲を見渡せるが……こいしがおらへん!?
「どこや……って、うおっ!?」
危なっ!茨が棘のようにして次々と俺に向けて突き刺そうとしてくる!
他の連中もそうらしく、ネギは魔法で応戦、ルーミアは剣で、残りは妖精チビの盾でなんとかカバーしとる。
「金髪チビ、お前これ知っているんやろ!?これどうなっとるんや!?」
「このスペカは自身……こいしちゃんは攻撃せずに茨が自動的に攻撃して、こいしちゃんが近づくと棘棘しい花が咲……後ろ、後ろ!」
はぁ?後ろがどない……っ痛!?なんやこの、棘まみれの花!?
薔薇っちゅーやつに似ているが、皮膚を削るこれは明らかに花っちゅーわけやなさそうやな……!?
「コタロー君そこだよ!その花がこいしちゃんがいる証拠だよ!」
「んなろっ!」
金髪チビの答えを聞いて咄嗟で拳を振るが、棘の花が離れてもうた!
追いたいが、こう茨が茂っていると身動きが取れへん……!
―っ!?あかん!ネギに向かっていった!?
「ネギ!」
あかん!間に合わん!
―ガッ
花の動きが……止まった?ネギと花の距離が空いたまま、動こうとせぇへん。
ちゅーか、なんや?あの、花とネギの間に割り込んだ棒切れは?
茨の網目を潜り抜けるように伸びている棒切れの先を見ていくと……。
「おいおい八雲の奴……連れて来いってのはこいしのことだったのか?
くそ、お茶と菓子じゃ割に合わないぜ……食べなきゃよかった」
そこには、茨のジャングルジムの外から箒の根元を持って突き刺している女がいた。
それもただの女やない。ネギ以上に解かり易い、西洋魔術師っちゅー感じの衣服に包まれた女や。
黒いトンガリ帽子に箒って……魔女かいな、あの姉ちゃん。
「さっきの雷魔法は中々だったぜ?けどな、お前には足りないものがある」
そういうとトンガリ帽子の姉ちゃんは、箒を片手に持ったまま、もう片方の手で何かを持つ。
なんやあれ?真っ白い八角形……ん?棘の花が勢いよく離れ……こいしが逃げとる?
すると八角形をかざしたがその逃げる花―こいし―に向けられ、白い光が手に集中する。
「言うだろ?弾幕は―――パワーだぜ!!」
―恋符「マスタースパーク」!
そう宣言した途端、八角形から凄まじい光と熱量があふれ出た。
―ネギ視点―
明るい光が僕の目の前の全てを抉った。
全てがまばゆい光に飲み込まれていき、こいしちゃんの悲鳴も擦れて聞こえた。
光が消えたかと思えば、そこにはさっきよりも黒の割合が増えてピクついているこいしちゃんの姿が。
それに……茨が綺麗に抉り取られていて、これを見るとさっきの光の柱の威力の高さが伺え……あ、茨が光の粉になって消えちゃった。
こいしちゃんが気絶したから……ってことでいいのかな?
「ふー……くそ、やっぱ点検しておくんだった。いつもよりパワーが下がっているな」
黒いトンガリ帽子を被っているお姉さんが手に持っている物を見てぼやいている。
というか、あれでパワーが下がっているっていうんですか……あんな魔法、聞いたことも……。
いけない、ぼーっとしていられないや。他の皆さんも呆然としているし、僕が切り出さないと。
「あ、あの……助けてくれてありがとうございます。えっと、あなたは?」
「んぁ?ああ、私は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだぜ……って」
そう名乗るとトンガリ帽子……霧雨さんは何かに気づいたかのようにハッとする。
すると箒の棒の部分を振り上げ……痛っ!?
「人の名前を聞くのならまず自分から名乗るのが礼儀だって聞いたぜ?学ばなかったか?まぁ私は直接学んだことはないが」
だったらなんで、棒で僕の頭を叩くんですか……痛い……。
「すみません……僕はネギ・スプリングフィールドって言います」
……どうしたんですか霧雨さん、そんなポカンとした顔で僕を見て……ふぐっ!?
ちょ、頬を両手で挟んでグニグニしないで、あだ、だからって引っ張らないで~!
「へー、これが」
霧雨さんは珍しい物を見るような目で僕を見て、物色しているかのように手であちこちを触っています。
ちょ、なんでこんなことされているんですか僕!?
「こ、こら!ネギになにすんの!」
あ、明日菜さん助けて~!
「珍しい物を見ると触りたくなるのが私だぜ?ましてや、こいつが『アイツ』の言うスプリングフィールド家の」
―アイツ?
「終わったかしら~?」
唐突に訪れる重々しい雰囲気と、妖しい気に驚いてしまった僕達。
霧雨さんの背後には、まるで陽炎のように姿を現した八雲紫さんがいました。
僕達はその唐突な登場に対して無言で驚いたというのに、霧雨さんは何事もなかったかのように振り返り、八雲さんを見る。
「よー、八雲。面倒な仕事押し付けやがってこの女」
「手間はかけていないようだけど?」
大妖怪を前に睨み付ける霧雨さんを見て、度胸のある人だと思ったのは僕だけだろうか?
八雲さんはそれをやんわりと返しと、ブスブスと焦げているこいしちゃんを見て笑う。
「元はといえばお前の不始末だろうが」
「うひゃああぁぁっ!?」
マ、マスター!?どうしてここに!?といいますか、いつの間に背後に!?
「お疲れ様ですネギ先生。背後から失礼いたします」
「うむ、皆無事なようで何よりでござる」
それに茶々丸さんに楓さんに……えっと、縄で縛られている黒髪のお姉さんは誰でしょうか?
すると霧雨さんはその黒髪の人を知っているみたいで、面白そうなものを見る目で彼女を見て笑う。
「おー、新聞記者がとうとうお縄についたか。ざまーみろだぜ」
「一応言いますが新聞記者としてではなく密偵として捕まってしまったのであしからず」
お知り合い……なんでしょうか?というか八雲さんのお知り合いって事は……。
「そんなことよりエヴァちゃん、見ていたのなら助けなさいよ!」
「別に私がいなくても問題ないだろうと思っていたのでな。なに、危険なら助けた」
「霧雨さんと言いましたね!?私は夕映と言うです、先ほどの光は魔法なのですか!?」
「ああ、このミニ八卦炉を使って放たれる魔法、その名もマスタースパーク!」
「ああ、チルノさん!なんとおいたわしい姿に……!」
「茶々丸さん、チルノちゃんの鼻提燈見えていない?」
「あの茶々丸さん、チルノちゃんは大丈夫そうなので、そんな悲しまないでください」
「なぁ姉ちゃん、あんた俺とどっかで会ったことあったりしてへん?見覚えあるんやけど……」
「さ、さーて、なんの話でしょうか?この清く正しい射命丸、身に覚えがありません」
「そもそもどうして皆裸でござるか?」
「ふぇ?……きゃーっ!忘れていました~!」
「だ、大ちゃん確かテレポートみたいなのできたわよね!?私達を浴場に送って、早く!」
「朝倉も本屋も落ち着くアルね。たかが裸ぐらいで慌てるでないアル」
「あかんえー、クーちゃん。女の子なら恥じらいもたへんと」
「じゃ、じゃあこのちゃん、イイ加減に私に抱き付くの、やめてくれへん?は、恥ずかしいんやけど……」
『なんだこのカオス。眼福にゃー違いねぇけどな、ウェッヘッヘッ♪』
あわわ、皆が揃いも揃って騒ぎ出しちゃった!?
ていうか裸の人がいたの忘れてたーっ!は、早く何か着せてあげないと!
「んー……これは日を改めてから説明したりお願いする必要がありそうね。じゃあまたね~ん」
なんか八雲さんの落ち着いた声が聞こえたような気がするけど、それどころじゃないや!
はわわ、宮崎さんこっちに正面向けないでーっ!?
「私ってなんだったんだろう……お姉ちゃん、羽目を外すとこうなるんだね……」
―完―
―後書き―
もうちょっと続きます。