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No.35089の一覧
[0] 薄刃陽炎(ネギま×BLEACH 第八話投稿)[ドレイク](2013/09/08 15:09)
[1] 第一話[ドレイク](2012/09/12 07:21)
[2] 第二話[ドレイク](2012/09/12 07:21)
[3] 第三話[ドレイク](2012/09/18 22:46)
[4] 第四話[ドレイク](2013/09/09 22:17)
[5] 第五話[ドレイク](2012/10/08 20:46)
[6] 第六話[ドレイク](2012/10/28 18:56)
[7] 第七話[ドレイク](2012/11/10 17:33)
[8] 第八話[ドレイク](2013/09/08 15:08)
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[35089] 第六話
Name: ドレイク◆f359215f ID:12861325 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/28 18:56


「……はぁ」


 授業中に思わず漏れる溜息。授業内容を書き記す筈の手先はペンの動きを止め、視線も気付けば一点のみを見据え固まっている。
 視線の先に居るのは、数日前に復学した顔見知りになって日が浅い同級生だ。少々儚げな雰囲気に、温和そうな表情を浮かべるその同級生の名は、相坂さよ。担任である高畑先生がいうには、長いこと病気を患っていて、つい最近退院したばかりらしい。おかげでクラス名簿には名前があるが、このクラスに出席したのはこの前が初めてなのだそうだ。
 千雨が知っている彼女の情報はその程度。そういう経歴もあってか、馬鹿騒ぎが好きなこのクラス――特に「麻帆良のパパラッチ」の異名を持つ朝倉和美や、現役同人作家の早乙女ハルナですら、少々おとなしめの対応をしている。
 けれどまぁ、このクラスのことだ、気付けば彼女もこのクラスの空気に馴染んでいくだろう。――その筈だと、千雨にかろうじて残る冷静な思考は、そう結論付けている。
 だったら、何も問題は無い、その筈でそうあるべきなのだ。利己的な願望と客観的な推測の両面で一致するその結論は、しかし、今の千雨にとってどこまでも頼りないものでしかない。

「普通なんだ。アイツは……」

 クラスの面々と会話する際に見える人格は、まさに穏やかと言うべきだし、この麻帆良に満ち満ちる数々の異常にとりたてて違和感を抱いている様子もない。だが、その普通さが何よりも胸の内の不安を増幅させる。
 もし、目に見えて彼女を異常だと断じられたら、千雨は全霊をもって警戒に当たるだろう。もとより、非日常をどこまでも嫌う彼女が、あえてその非日常に滅却師の力の鍛錬という形で関わっているのも、そんな時の為だ。
 ならば、理性では敵ではないと断じられる彼女にどう対すればいいのか、本能のみが、彼女の体に潜む死神の力を感じられる現状に、どう立ち向かえばいいのか。どちらを信じても陥穽が潜んでいそうなその存在は、――――まさに蜃気楼の様だと千雨は思った。
 どこに進もうが、道を行く者に破滅を与える、そんな幻が、今も2―Aという千雨の日常の象徴に居座っているのは、苦痛でしかない。




「――――どこまで」




 どこまで現状に耐え忍べば、この苦痛は終わる? それとも、永遠に終わらないのだろうか。終わりなく循環する自問が、胸の内をかき乱していく。







 授業の終わりを告げる鐘の音。担任が告げる些細な連絡事項は脳裏に刻まれることなく流れゆき、茫洋とした意識のままで終わりの礼を機械的にこなす。
 今日もまた、答えの出ない自問に思考を占拠されたまま、一日が終わりを告げた。何事もなく終われたことに対するささやかな安堵と、明日も、その次の日も、真綿で首を絞められる様な緩慢な苦痛に塗れた時間が続いてしまうことへの、暗く重い恐怖を抱きながら。
 視界のなかでは、クラスメイトが和やかな談笑を繰り広げながら次々に教室から去っていく。やれどこそこのスイーツがおいしいだとか、あそこの店にしゃれたアクセサリーがあるだとか、他愛の無い、そう、平和の上にしか成り立たない他愛の無い会話を繰り広げている。
 そんな光景を、教室から立ち去るでもなく自分の席に座りこみながら、千雨は微動だにせず眺め続ける。或いは、それは羨望の表れだったのかもしれない。
死神という荒唐無稽な存在に怯え続け、神経をすり減らし続ける学生生活。それを思えば、蔓延る異常に頓着することなく、染め上げられているこの学園都市の大多数の人間は、間違いなく自分より幸せなのだろう。
世の中には、知らなければいいことは間違いなくある。千雨にとってそれはかつての己であり、周りの人間にとっては薄皮一枚裏側に存在するこの都市の異常性なのだろう。


「――――畜生」


 誰もいなくなった教室で、千雨ただ一人が取り残されたこの教室で、日常というオアシスから取り残された千雨の呟きが、虚しく響く。
 例えるなら、今の千雨は先ほど自分自身で例えたとおり、相坂さよという名の蜃気楼によって砂漠に取り残された、哀れな旅人に過ぎなかった。ささくれ立つ心を癒す水もなく、体を休める寝床もなく、潤いと安らぎに決して手の届かない旅人だ。


「誰か……助けてくれよぉっ……」


 嗚咽交じりの嘆きを聞き届けてくれる誰かは、一人としていなかった。
 いくら前世の記憶があるとしても、所詮中学生に過ぎない千雨にとって、その孤独と苦しみは、正に地獄だった。――――そこから抜け出す蜘蛛の糸は、未だ降りてこない。







「あ、千雨さん」
「――――!?」

 そして、そんな精神状況で件の人物と遭遇するとは、つくづく自分には幸運というものが無いらしい。
 既に夕焼け色に染まっている校舎の玄関で、千雨は偶然にもさよと遭遇してしまったのだ。

「あの、……千雨さん?」
「あ、ああ」

 悪辣さすら感じるほどの偶然に思考停止する千雨に対し、さよは当然、千雨が抱え込んでいる葛藤など知る由もなく、常と変らぬ穏やかな空気を纏って話しかけてくる。

「大丈夫ですか? 少し顔色が悪いみたいですけど」
「いや、大丈夫だよ。少しばかり教室で寝ちまってな。半端に寝たから眠気がきついだけだ」

 思考停止故の硬直を体調不良と思ったのか、千雨を慮るさよの言葉が、千雨の耳にはやけに空虚に聞こえた。
 口ではあたりさわりの無い出鱈目を紡ぎ相坂を誤魔化しながら、心の中ではやはり怒りとも憎しみとも付かない感情が煮えたぎる。
 お前が、お前の所為で、私が何をした、何で私がこんな目に会わなきゃならない。聞くに堪えない罵詈雑言が、恐らくは八つ当たりでしかない言葉が、渦巻く。

「……相坂はどうしたんだ? こんな時間にまで校舎に居るなんて。お前確か部活には入って無かっただろ」
「えっと……、私が復学してから少したったじゃないですか。それで一応保健室で簡単な診察を受けてました」
「ああ、成程……」

 どうやら、千雨の質問もまた、相坂にとっては答えづらい質問だったらしい。口にした理由の隙間に、嘘の匂いが見え隠れする。
 果たしてそれが、どういう理由の下、どういう意図を以って紡がれた嘘なのかは、当然千雨にはわからない。けれど、微かに言葉に詰まった相坂の、時間にすれば秒にも満たないその表情は、千雨の心の天秤を傾かせるのには十分な猛毒だった。


(――――お前は、やっぱり死神なんだよなっ!!)


 ドクンドクンと、心臓が刻むリズムのギアが上がる。緩慢な地獄であったこの数日で極限まで脆くなった心の天秤は、最早傾くと言うよりも崩れ落ちると言う言葉の方が相応しい様相を見せた。

「なぁ、相坂」
「なんですか?」

 最早、この天秤は破滅まで戻らないだろう。それを心の片隅で自覚する千雨。果たして、これが殺意と呼べるものなのかは分からない。
 今確実に、断定と共に言えるのは、崩れた天秤は戻らない、それだけだ。既に千雨の体は千雨の理性の鎖を食いちぎり、煮え滾る衝動に支配されている。
 今から行う行為が無論、法にも、倫理にも思い切り喧嘩を売る最低な行為だと言うのはわかる。所詮これは、些細なことで難癖をつけ暴行を振るうチンピラと同じでしかないのだから。




「――――――――悪い、死んでくれねぇか?」




 人生で初めて口にした、嘘でも誇張でもない正真の殺意の宣言は、何処までも冷たい響きを伴っていた。
 瞬間、千雨の人生最速のスピード形成された霊子の矢が、未だ惚けた顔を見せる相坂へと撃ち放たれた







 その同時刻、どこかの世界のどこかの場所で。

「全く、君達は危険物の保管一つ満足にこなせんのかネ?」
「いや、ほんとマジすんません」
「謝罪の言葉はいい、時間の無駄だヨ。問題は、あの保管倉庫の中でなにが起こったのか、その一点に尽きるのだヨ」
「いやどうも、この間の痣城剣八の一件で、あのザエルアボロ・グランツがここで暴れたじゃないですか。……どうもその時に保管庫の保護機能にちょっと影響を及ぼしてたみたいで。しかもその後に霊圧開放しまくってた十一番隊隊長がここにきてたのが止めとなっちまったみたいで」
「つまりは君達の保守点検の不備が原因というわけかネ。――――よろしい、私直々に君達を実験材料にしてやろうじゃないカ」
「マジっすか!?」
「冗談にきまっているヨ。君たちみたいに有象無象など、実験材料にもならないからネ。……で? 霊圧検知器に微かな反応を見せた保管物というのはどれかネ」
「――――大変言いにくいんですけど、局長が昔保管した、あれです」
「何?」

 その一言で、今の今まで部下からの報告を無視を眺めるような無表情で聞き流していた、局長と呼ばれた男――涅マユリは、その時初めて驚愕の色を、その白と黒に染め上げられた顔面に映しだした。

「あれ……とはネ……」
「だから、あの霊圧のかすかな異常が何なのか俺達には全く分かんないいんですよ。何せあれ、局長が作り上げて局長が一人で厳重封印して保管庫にぶち込んだものなんですから。――――あれ、一体何なんです?」

 その部下からの問いかけに、数泊の沈黙を置いてから、マユリは技術研究局の局長らしく、論文を読み上げる様な一切の感情を乗せない明瞭な口調で、件のモノについて説明を始めた。

「私が“アレ”を作った切欠はネ、断界(だんがい)にあるのだヨ」
「断界に……?」
「そう、あそこは知っての通り現世と尸魂界を結ぶ異界であるのは君達も知っての通り、その何よりの特徴は、時間の流れが違うこと。……ここまではいいかネ?」
「そりゃまぁ……死神にとっては常識ですし。あっこはその所為で下手を打てば百年単位で時間軸が狂って、その状態で断界から抜け出れば消滅しちまいますからね」
「では何故消滅するのかネ?」
「え!?」
「そもそも、時間軸の狂いが何故魂に影響を与えるのカ。その点についてはあまりにも未解明なのだヨ」
「た、確かに……」
「安全に断界を通行できる技術は確立されてはいても、“なぜ”危険なのかが解明されていないのは、片手落ちに過ぎる。故に私はまず推測を立て、その実証試験機を作り上げたのだヨ」
「推測ですか……」
「推測を立て実証試験を行い、結論を得る、至って普通の流れだヨ」
「どんな推測を立てたんです? すみませんけど、自分には全く想像もつかないです」
「量子力学、だヨ」
「は……量子力学、っすか?」

 突然告げられたその言葉は、彼にとっては耳慣れない言葉であった。それも当然だろう、死神の技術開発局局長であるマユリが口にした言葉は、人間の学術体系の中にある言葉なのだから。正に畑違いという言葉が相応しいだろう。

「その中にある多世界解釈――二つの観測結果に分岐する可能性がある事象に対して、観測結果が確定されるまでは、可能性は重なり合っているという解釈があるのだがネ。私はそれをもとに、断界の所為でずれた時間軸に巻き込まれた者は、現世ないし尸魂界に出た途端、二つの時間軸が重なり合ってしまうのではないかと考えたのだヨ」
「……聞くだけでも無茶苦茶っすね」
「そう、無茶苦茶な状況だヨ。故に消滅という結果は、その矛盾を消し去る為の世界の自浄作用、私はそう考えたのだヨ。その過程を再現できれば、違う可能性に至った世界、所謂可能性世界にも干渉できるのではないかと、ネ」
「で、それがもしかしたら起動しちまったかもしれないと? 何が起こるんです?」

 戦慄に塗れた部下からの問いかけ、聞くだけでも荒唐無稽の理論だが、彼の眼前に立つ上司は、その荒唐無稽を実現させかねない存在なのだ。故に恐れる、これから何が起こるのか、或いは、今、何が起こっているのか。




「――――わからんヨ」




 だがしかし、マユリが答えたのはその一言だけ。

「…………は?」
「いくら私でも、そんな物騒極まるものを本気で起動させるわけがないだろウ? 故に作っただけにとどめ、保管庫に厳重に封印して放置したのだヨ」
「じゃあ、何が起こるか局長にもわからない、と」
「正確に言うならば、何が起こってもおかしくは無い、だヨ。断界のように、世界の法則からして違う可能性世界に干渉してしまうのかもしれんのだからネ。世界と世界の法則が干渉し合った際、果たして何が起こるのか、一研究者としては非常に興味深い案件だがネ。やはり実験というのはある程度の安全性も必要なのだヨ」
「確かに、実験しました。事故起こしました。自分も死んでしまいました。じゃ洒落になりませんしね」
「全くだヨ。そうなれば失敗の原因究明も出来やしない。やはり実験材料というのは、未知であると共に、ある程度の安全性も必要だネ、虚や、そう――――滅却師の様にネ」

 少しばかり悔しさを滲ませ、そう呟くマユリの視線の先には、不壊液に満たされた保存容器が、標本という名の、マユリの手によって蹂躙されたいくつもの、かつて人であったモノが収められたいくつもの保存容器が並んでいた。




その中の一つ、件の実験機に一番近い保存容器には、こう記されていた。――――石田千雨、と。







<あとがき>
 なんか我ながら千雨いじめまくってんなぁ……。そしてこの話において一番の元凶は間違いなくマユリです。


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