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No.39449の一覧
[0] オリ主先生ドロま![コモド](2014/02/22 07:07)
[1] 部屋とYシャツとたわし[コモド](2014/02/25 20:00)
[2] 帰りたくなったよ[コモド](2014/02/22 07:40)
[3] 夢じゃない[コモド](2014/02/25 19:59)
[4] チェリー[コモド](2014/03/01 14:30)
[5] 遠くまで[コモド](2014/03/09 21:53)
[6] 夢見る少女じゃいられない[コモド](2014/03/09 21:39)
[7] 守ってあげたい[コモド](2014/03/18 21:27)
[8] マシンガンをぶっ放せ[コモド](2014/03/20 23:44)
[9] 三日月ロック[コモド](2014/03/31 12:02)
[10] Let's Talk About Love[コモド](2014/07/13 21:42)
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[39449] 夢じゃない
Name: コモド◆82fdf01d ID:e59c9e81 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/02/25 19:59

「……」
「……」
「……」

 狭い室内を重い沈黙が包み込む。ガイはだらだらと滝の汗を流し、アスナは半信半疑で乾いた笑いを零し、このかは瞳を輝かせてガイを見上げていた。
 手紙に浮かぶ文字は『play』と『Japanese』が選択されており、再生が完了したことを示す『Replay』の文字が新たに浮かび上がった。
 どう見てもモノログの手紙にはない機能が備わっており、信じ難い言葉まで飛び交った。
 魔法――確かに結びにネカネは否定しようのない単語を口にした。ガイの目が据わる。
 アスナが恐る恐る話しかけた。

「あの」
「立体映像だ」

 質問を投げかけようとしたアスナを遮って、真顔のガイが言った。だが、どう考えても苦しい言い訳で、アスナは白い目を向けた。

「いまこの女の人、魔法って言ってたんですけど」
「この女は可哀想なヤツなんだ。自分が魔法を使えると思い込む心の病を抱えていてな……困ったことに知り合いのオレに脳内設定の妄想を送りつけて来るんだよ」

 ガイが悲嘆にくれる下手くそな演技で見苦しい言い訳を続けるので、アスナは巻き戻して問題の部分を再生した。

『ガイくんも立派な魔法使いとして』

 巻き戻す。

『ガイくんも立派な魔法使いとして』
『ガイくんも立派な魔法使いとして』
『ガイくんも立派な魔法使いとして』

「分かった! 分かったから再生をやめてくれ」

 ネカネの声で連呼され、ガイは取り乱してかぶりを振った。
 その後、力が抜けたようにソファに座ると、片手で顔を覆って、しばらくして顔を上げた。
 長いため息をつき、語りだす。

「そうだよ。オレは魔法使いだ。立派なんてものじゃなくて、学園長と高畑に頼まれて麻帆良で教師をすることになったフリーランスのはぐれものだがな」
「えっ! ほんま!? ほんまに魔法使いなん!?」
「ドッキリじゃないんだ……」

 手を合わせ感激するこのかと、そういえば思い当たる節があったと納得するアスナ。
 脚力に自信のあるアスナを遥かに凌駕する脚の速さや浮世離れしているところは、文明から離れた魔法使いだからだったのか。
 そして、ガイの言葉から連鎖的に気づいてしまう。

「あれ? って、ことは学園長と高畑先生も……?」
「ああ、アイツらも魔法使いだ。他にも何人かいるが」
「そうなん!? 全然気づかんかった」

 身内が魔法使いという非現実的な存在だと知り、ひゃー、と愕然とするこのかと複雑なアスナという構図が出来上がる。
 ガイがどこか投げやりになって、やさぐれているのが気にかかるが、ふと疑問が浮かんだので訊いてみることにした。

「それってあたしたちにバラしてもいいんですか?」
「ダメに決まってるだろ。一般人にバレたらオコジョにされて本国に強制送還される」
「ええっ!? せんせ、大丈夫なん?」
「知らん。だが、初めからバラさせる気満々だったんだろ、少なくとも学園長は。だから開き直ってやるさ」
「いや、ガイさんがオコジョにされるんじゃって言ってるんですけど」

 これまでの経緯から完全に、故意に孫娘とその親友に魔法の存在を知らせるつもりだったと判断し、驚きっぱなしのこのかと対照的にバレたガイは落ち着いていた。
 一応、心配しているのに、ガイは不敵に微笑した。

「はっ、オレを捕まえられる魔法使いなんて存在しない。自慢じゃないが、オレは世界最強の魔法使いだからな。誰が捕らえに来ても返り討ちさ」

 何か小物臭い……アスナが自信満々なガイを怪訝に見るが、このかは憧れの魔法が実在すると聞き、興奮が収まらない。
 瞳を煌めかせてガイに擦り寄る。

「なぁなぁ、先生。先生が魔法使えるんなら、ウチらも使えたりするん?」
「あぁ。つーか、近衛は魔法使いの素質だけなら世界最高クラスだ。鍛えればとてつもない魔法使いになれるぞ」

 だから無理やり接触させたんだろうとガイが辟易する。どうも踊らされているようで気に食わない。
 アスナが自分を指差す。

「あたしは?」
「神楽坂は……残念ながら魔法自体はそんなに才能がなさそうだ」
「ええー」

 アスナが落胆する。もっと重要な秘密があるのだが、ガイは面倒だから言わなかった。

「先生! ウチ魔法使ってみたい!」
「いいぞ。乗りかかった船だ。教えてやる」
「何でそんなあっさり……」
「才能があるやつが、それを活かさないのは罪だ。それにオレは学園長の考えが正しいと思っている。
 世間でも金を持っている奴は消費して金を回す義務がある。どの分野も同じだ。それで世の中は発展してゆくものだ」

 こんな自ら魔法を露見させるような真似をした学園長をガイが擁護する。

「推測でしかないが、魔法使いの家系の近衛に魔法が秘匿されていたのは、親の意向だろう。娘には一般人として幸せに過ごしてほしいとかが、尤もらしい考えだな。
 だが、近衛が一般人として生きるなんて不可能だよ。麻帆良にいる間は安全だろうが、外に出れば確実に攫われる。オレなら魔力タンクとして利用するな。
 だから遅かれ早かれ、魔法を習って自衛手段を会得しておくべきなんだ。学園長はその方針だったんだろうよ。
 オレを同室にしたのは護衛と、魔法を明かして師匠役をやらせるつもりだったんだろうな。……契約にあるし」

 誰とは明記されていなかったが、契約に魔法生徒の指南も熟せとあった。
 このかの魔法の存在を知ってからの関心度は非常に高く、自ずから魔法について教えを請うだろう。
 狙いが見え見えでため息を禁じえない。もう止められそうにないこのかに対し、ガイの話を聞いたアスナは、物騒な言葉に怖くなってきたようだ。

「あの、ガイさん。もしかして、っていうかもしかしなくても、それって危険なことなんですか?」
「そりゃあな。魔法は殺すつもりで放てば簡単に人を殺せるし、犯罪もバレずにこなせる。
 たとえば、今からお前らを強姦しても、記憶を消せば何もなかったことにできる。惚れ薬を作って感情を操ることも、気に食わない奴を行方不明にだってできるぞ」
「え……」
「安心しろ、神に誓ってやらないから。そもそも生徒に危害を加えられない契約だからな」

 さらに物騒な喩えを言い出すので、アスナが体を庇って距離を取った。
 ガイがフォローを入れるが、そこは女子中学生だ。未知の魔法という存在が恐ろしくもなる。
 これだけ聞いても、まだ興味津々なこのかを一瞥した。

「ねえ、このか。ちょっと考え直そうよ。話聞いてるとめちゃくちゃ危ないじゃない」
「え? 大丈夫やろ? だって先生が守ってくれるんやし」

 これまで箱入りで暮らしてきた弊害か、危機感がなく楽観的なこのかにアスナが怒ろうとしたが、ガイがこのかに続けて言った。

「その点は大船に乗ったつもりでいろ。オレがいるうちは、絶対に危険な目に合わせたりしねえよ」

 その言葉がやけに力強く、確信を持って口にするので、アスナも閉口してしまう。

「それに、いざって時には自分で自分を守れるようにならないとな。無力でいるより、力を持っている方が何億倍もマシだ。
 オレもずっと麻帆良にいられる訳じゃないし……ま、一年もあればお前らの素質ならそんじょそこらの魔法使いの何倍も強くなれるだろうから、それも含めてオレの仕事だな」
「え? 先生いなくなっちゃうの?」

 このかが目を丸くした。アスナも驚いたように小さく口を開けている。
 ガイは済まして言った。

「ただのビジネスだからな。一年経って、契約が満了すればお払い箱さ。これが終われば纏まった金が入るから、しばらくは悠々自適に遊んで暮らすつもりだ」
「へー……」

 正直、契約の話は詳しく理解できなかったが、ガイが一年後には麻帆良からいなくなるのは頭に刻まれた。
 瞑目し、肩の荷が降りたと言わんばかりに脱力しているガイが、気の抜けた声で言う。

「他に何か訊きたいことはあるか? もう隠すこともないし、答えられる範囲なら何でも答えてやるぞ」
「じゃあ、はい!」
「なんだ、近衛」

 元気いっぱいに挙手して質問するこのかを見て、大方魔法関係だろうなとタカをくくっていたら、とんでもない発言が飛び出した。

「先生ってアル中なん?」
「……は?」
「おまけにヘビースモーカーで」
「とどめに薬中ってほんまなん?」
「ちょっと待て! 何の話だ!」

 話題が飛躍してガイ本人の話になり、狼狽して声を荒げてしまう。
 このかは人差し指を唇に当てつぶらな瞳でガイを見つめており、アスナは軽蔑するような眼差しを向けている。
 ガイは諸悪の根源である手紙を取った。再生する。見慣れた服装のネカネが浮かび上がり、訥々と語りだした。

『ガイくん、久しぶり。今回はね、校長にガイくんが麻帆良学園で教師をしていると聞いてお手紙を出したの。
 人里から離れた森奥で引きこもってるガイくんが、やっと真面目に仕事をする気になったんだって、嬉しくなって。まずはそのお祝いね。おめでとう』

 頬に手を当て、小さく嘆息してから語りだしたネカネは、吉報に笑顔になり、胸の前でポンと手を叩いた。
 ガイの表情が歪み、凄まじい形相に変化してゆくが、データのネカネは構わず語り続ける。

『それと、嬉しい報せの後になんだけど、悲しいお知らせがあるの。……ネギが家出しちゃったのよ』

 今度は涙目になり、オロオロとしだした。ネギってなんやろ、薬味? と小首を傾げるこのかを放置して話は進む。

『しかもメルディアナ魔法学校の卒業を控えていたのに、突然いなくなって……タカミチさんや他の人も探してくれているけれど、一向に行方が掴めないのよ』
「知らねえよ。何でそんなことをオレに言うんだ」
『ガイくんのせいなのよ!』
「ハァ!?」

 タイミングの良すぎる声に、ちょっと驚いてしまった。ネカネはプリプリと怒りながらガイを非難する。どことなくお母さんを想わせる口調で、腰に手を当て、指を立てた。

『ガイくんが普段から素行不良でブラブラしてるから、あの子も悪い影響を受けちゃったのよ!』
「オレがアイツと最後に会ったの六年も前だぞ!? それに仕事もそれなりにしてたわ! お前の教育不行き届きをオレのせいにするな!」
『次代のサウザンドマスターなんて呼ばれたあなたが、魔法学校中退なんて良くない経歴までサウザンドマスターを真似るから、それに憧れてるあの子も影響されて同じ道を辿っちゃったんじゃない!』
「それこそオレ関係ねえだろ!」

 データと喧嘩をしだすガイに、その様子がおかしくてアスナとこのかは呆然として口出すことができなかった。
 ネカネは、ふぅとため息をついて、目を瞑りながら言う。

『あなたときたら、平日の昼間から酒を飲んでべろんべろんに酔っ払って、次の日の朝に外で凍死しかけてたり、煙草は紳士の嗜みだとか言って紳士の要素皆無のくせにスパスパ葉巻吸うし、このイボテン酸が美味いんだって毒キノコ食べて幻覚症状で暴れるし、そんな人に憧れていたらネギも道を誤るのも当然よね』
「……」

 過去を暴露され、言い返せずガイが冷や汗を流す。よもやこの馬鹿、要らん事ばかり吹き込んだんじゃあるまいな、と戦々恐々としていた。

『スタンさんのところに愛猫のポチを預けて日本に旅立ったんですって? ナギの二の舞にならんように手塩にかけて育てた二人が、揃いも揃ってナギに似てしまったってスタンさんが嘆いていたわよ』
「オレに酒を教えたのもあの爺だっつーの」

 ワナワナと震えだすガイだが、アスナは猫に『ポチ』とつけるセンスはどうなんだと呆れていたのは言うまでもない。
 ネカネはまだ言い足りないのか、嘆かわしいわ、とかぶりを振って口を動かす。

『そんなガイくんが日本で教師なんて勤まるのか、とても不安なのよ。日本の女性は大人しい人が多いと聞くわ。粗野なあなたに怯えて萎縮してしまわないかしら。
 短気で乱暴だし、そもそも人に物を教えるのが向いていないと思うの。何年も注意しても治らないんだもの。お願いだから問題を起こしてイギリスの評判を貶めないでね』

 ガイの欠点を羅列して、生徒の前で見事にガイの評判を貶めた彼女は、最後に可憐な笑顔で小首をかたむけて言った。

『でもね、それでもあなたは魔法使いとしての腕と頭の良さだけはサウザンドマスターにも引けは取らないと思ってるわ。
 私もネギ探しと魔法使いの責務を頑張って果たすから、ガイくんも立派な魔法使いとして、先生の仕事を頑張ってね』

 再生が終わると、ガイは無言で手紙をぐしゃりと握りつぶした。

「だあああッ! お前は年下のくせにウダウダうっせえんだよ! いつまでも保護者面してんじゃねえーっ!」

 鬱憤を爆発させて怒声を轟かせると、掌から炎が発生して手紙を燃やした。
 初めて目撃した魔法と豹変したガイに二人が「わっ」と驚く。
 肩で息をしたガイは、惚けている二人にゆっくりと振り返った。美麗な容貌が気難しそうに歪んでいる。

「……言いたいことがあるなら言え」
「その人って先生の恋人?」
「違ぇよ! 近所に住んでただけの幼馴染だ! だいたいオレとコイツのどこが恋人に見えるんだよ! ああ!?」
「だって、ねえ」

 今までは紛いなりにも大人で教師の威厳らしいものはあったのに、ネカネが出てからは子供のように喚いているので親しい仲なのかと勘ぐるのも無理はない。
 憤懣やるかたないという仕草でガイが再びソファに腰をおろして足を組む。

「お前ら、これまで一緒に暮らしてきて、オレがアル中、愛煙家、薬物依存症らしい行動を一度でも取ったか?
 酒と煙草は我慢して控えてるんだよ、仮にも教職について未成年と同居してるんだから当たり前だろ」
「毒キノコは?」
「それは他に食うものがなかったのと単純に美味かったからだ」

 威張って言うことなのだろうか。不遜に胸を張って断言するガイに心の中でアスナが突っ込む。
 不機嫌なガイに、だが恋バナが好きなこのかは頬を染めて深入りした。

「えー、でも綺麗な人やったやん。仲も良さそうやのに。本当に何もなかったんか?」
「何かあったらこんな生活してねえよ」

 喋り方が威圧的になったことに気づき、ガイは前髪をかきあげて気分を落ち着けた。
 できるだけ柔らかい声音で二人に言う。

「とにかく、ネカネが知ったかぶりしているが、オレは、仕事はきちんとやり遂げる質だ。
 身の安全は保証するし、自衛の実力をつける特訓も率先して手伝う。教師の仕事も真面目にやるし、困ったことがあるなら助けてやる。
 だから、信頼しなくてもいいが、信用はしてくれ」

 アスナとこのかが顔を見合わせる。アスナは、これまでの誠実な言動を思い出して、マイナスな面を加味しても信じてもいいか、と思える程度には、人となりに触れていた。
 何かとつけて二言目には契約を口に出すのは、女として嫌な気分になるが、逆に言えば約束は守るということである。
 このかはと言えば、祖父が大事な孫の護衛を依頼した人物というガイは既に信用していたし、ガイ自体嫌いではなかった。
 加えて空想の物語でしか味わえなかった魔法の世界に自分を導いてくれるとあって、高揚が収まらなかった。
 お互いに頷く。

「……分かりました。正直まだよくわかってませんけど、お願いします」
「これからは魔法でも勉強でも先生になるんやな。よろしくな、先生」

空気が和み、ぎこちなさが解消されて緩やかな雰囲気が部屋を包む。
前途多難だが、良い関係を築けそうだと思ったところで、

「アスナさん! 先ほど騒がしいですよ。時間を考えてくださ――」

 無遠慮にあやかがドアを開き、ソファに座るガイと目が合った。同時に時間が凍りつく。誰もが身動きが取れないなかで、あやかの顔だけが徐々に紅潮していく。
 あやかの背には、野次馬のクラスメートがぞろぞろと様子をのぞき見様と列を成していた。
 魔法に続いて、同居もバレた。

 教訓その五:共同住宅では静かにしよう。







「な、なな、が、ガイ先生……? どうしてアスナさんとこのかさんの部屋に……?」

 震える指でガイを示し、高価な生地だがシンプルなセーターとロングスカートという身なりのあやかが、ガイを糾弾する言葉を並び立てようとしていた。
 三人は乱入者に当惑し、上手い言い訳が思いつかなかった。やはり鍵をかけて置くべきだったとガイが悔やむが、時すでに遅し。
 あやかの背後にいるクラスメートまでもがガイを視認してしまった。正気を取り戻したあやかがガイを改めて指差す。

「ガイ先生! ここは男子禁制の女子寮です! なぜこの部屋にいるのか説明してくださいますか!?」
「どうしても何も、ここに住んでいるからだ」
「なぁッ!?」
「わーわー!」

 開き直るガイの口をアスナが塞ぐ。潔いが、詐称しないことはこの場では逆効果でしかない。
 ガイの開き直りを受け、裕奈や桜子、鳴滝風香の野次馬精神が燃料を与えられて炎上した。

「新任教師と生徒が同棲してるってどういうこと!?」
「アスナとこのか、どっちが本命!?」
「ガイ先生が異国の王子様で日本には嫁探しに来た説は本当だった!?」

 好き勝手に騒ぐが、ベレー帽を被ったハルナが鋭い眼差しで三人を観察した。
 低い声で、推理する探偵のような演技をしながら言う。

「待って……この部屋からはラヴ臭がしないわ。あの甘酸っぱい香りが微塵も感じられない。同棲説は却下ね」
「パルの嗅覚はいったい何を感知しているのですか」

 ゴーヤミックスなる紙パックのジュースを吸いながら夕映が冷めた目で突っ込んだ。
 あやかが思い思いに盛り上がるクラスメートに憤り、拳を震わせる。

「いい加減にしなさい! 恋愛どうこうではなく、成人男性と未成年の教師と生徒がひとつ屋根の下で共にしているのが問題なのです!
 面白がって茶化していいものではありません! ガイ先生、事情を説明してくれますか!?」

 アスナに「余計なことを喋るな」と羽交い絞めにされているガイを睨む。そのガイに代わってこのかが答えた。

「あんな、内緒にしてたけど、先生はウチらを守るためにお爺ちゃんが雇ったエージェントやねん。
 ほら、この時期に担任が変更になるなんておかしい思わんかった? 実はな、今までは高畑先生がウチらを悪の組織から守っててくれたんやけど、海外出張が多くなるからそれができなくなってん。
 その代わりに教師兼正義の使者としてお爺ちゃんが先生を連れてきてくれたんやえ」
「むむ、そういうことアルか! 道理で只者ではないと思たアル!」
「ふむ、納得でござるな」

(いや、おかしいだろ。何だよ正義の使者って。漫画やアニメの話じゃねえんだから)

 学園長の話を脚色して苦しい理由を説明すると、ガイの実力を見抜いていたクーや楓らが得心する素振りを見せた。
 彼女らは頭が足りないから騙されるのも千雨は分かるが、

「お爺ちゃんは過保護やから、孫のウチの部屋に先生を無理やり充てがって護衛を依頼したんよ。先生がいくら強い言うても、遠くにいたら襲われた時に対処できへんやん。
 先生も反対してたんやけど、事情が事情なだけに仕方ないってことで、今の形に落ち着いたんや」
「まあ……そのような事情があったのですか……」

(いやいやいや、何でいいんちょまで騙されるんだよ! 結局、男女の問題は解決してねえじゃねえか!)

 先ほどまで断固として反対していたのに、別人のように受け入れてしまったあやかに千雨が盛大に突っ込んだ。
 不自然な展開に、声を大にして訂正してやりたくなるが、誰も疑問に思っていない。
 おかしい。この学園はおかしい。気が狂いそうになるが、此処では千雨が少数派なのだ。
 現に、アホなクラスメートは、ガイ先生スゲー、実はターミネーターなんじゃない、エージェントってなに? と、このかのデタラメな説明を信じきっている。
 ダメだ……ここにいるとおかしくなる……いいんちょが容易く陥落した時点で詰みだったんだ……
 千雨がフラフラとした不確かな足取りで帰路につく。そのあいだもガイへの質問攻めは続いていた。
 魔法暴露に同居バレと、禁欲を科してストレスが蓄積していたガイは、あれこれ詮索する生徒に遂にキレた。

「ああ、もう面倒くせえ! お前らオレが生徒に手を出すと思ってるなら、オレに貞操帯をつけろ! 鍵は雪広が管理でもすればいいんだろうがッ!」
「いきなりなに言い出すんですか!」
「生活が気になるならこの部屋に監視目的で遊びに来い! 勉強や相談の面倒もここで見てやる! オレだって納得行ってねえが、これも仕事なんだよ! だが麻帆良にいる間はテメエたちの先生として接してやるからいつでも来いや!」
「ちょっとちょっとー!」

 アスナが口を塞ごうとするが、滑ったものは取り返しがつかない。
 担任公認で二人の部屋が溜まり場となり、魔法関係が周囲の人物にもバレたらどうするの、というアスナの心配もガイは汲みとる気配がなかった。
 自ら墓穴を掘る格好で開き直り、公然のこととする手法で認めさせる、麻帆良のおかしなところを利用した手法は、なぜか上手くいった。
 多分に麻帆良のノリとアホっぽさが影響したと思うのは、千雨だけではない筈だ。




あとがき
オリ主式多段階墓穴掘削法なるシロモノが存在するらしいです。


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