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赤松健SS投稿掲示板


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No.6512の一覧
[0] 狼と蛇の社会勉強(ネギま×北欧神話・ほぼオリ主)[mame](2009/08/24 09:09)
[1] プロローグ[mame](2009/02/12 08:56)
[2] 第1話 「帰ってきた嫌われ者」[mame](2009/03/05 03:10)
[3] 第2話 「あなたのお名前なんてーの?」[mame](2009/02/12 01:12)
[4] 第3話 「夢続きを現実で」[mame](2009/02/14 20:09)
[5] 第4話 「広がる貧富の差」[mame](2009/02/16 17:56)
[6] 第5話 「安寧に射す影」[mame](2010/11/30 08:40)
[7] 第6話 「微笑む女神は機械式」[mame](2009/02/20 23:20)
[8] 第7話 「それぞれの夕餉」[mame](2009/02/23 00:16)
[9] 第8話 「得るは多くの幸不幸」[mame](2009/02/25 23:23)
[10] 第9話 「言葉は大事なコミュニケーション」[mame](2009/03/01 02:42)
[11] 第10話 「血は繋がらずとも腹は同じ」[mame](2009/03/03 03:36)
[12] 第11話 「邂逅に幸無し」[mame](2009/03/05 03:10)
[13] 第12話 「一見は百聞に如かずのはず」[mame](2010/12/03 08:54)
[14] 第13話 「人を愛さば穴二つ」[mame](2010/12/03 09:23)
[15] 第14話 「目撃者からの贈り物・被読者からの贈り物」[mame](2009/03/10 09:51)
[16] 第15話 「送り物がもたらす其々の成果」[mame](2009/03/12 13:06)
[17] 第16話 「蝕む毒も今は届かず」[mame](2009/04/13 00:42)
[18] 第17話 「甘みと痛みの二重奏」[mame](2009/03/26 11:27)
[19] 第18話 「庇い庇われ、擦れ違い」[mame](2009/03/27 10:35)
[20] 第19話 「賢者を祀るは本の島」[mame](2009/03/28 02:30)
[21] 第20話 「同じ酔いなら酒がいい」[mame](2009/03/30 04:23)
[22] 第21話 「自覚の無い報復」 [mame](2009/04/13 00:43)
[23] 第22話 「レンジャー選抜試験」[mame](2009/04/13 00:40)
[24] 第23話 「不和を崩すは銀の願い」[mame](2009/04/19 06:10)
[25] 第24話 「いずれの宝も地下深く」[mame](2009/04/25 23:52)
[26] 第25話 「舞うは二人の蒐集者」[mame](2009/05/09 16:59)
[27] 第26話 「賢者と蒐集者と渇望と」[mame](2009/05/17 23:50)
[28] 第27話 「蛇が想うは牙の影」[mame](2009/05/25 01:02)
[29] 第28話 「知欲の泉の暇潰し」[mame](2009/06/01 00:48)
[30] 第29話 「眠りから眠りへ」[mame](2009/06/05 23:52)
[31] 第30話 「前を向いて歩きましょう」[mame](2009/06/12 21:15)
[32] 第31話 「再会」[mame](2009/06/21 00:03)
[33] 第32話 「片鱗が招く災悪の序章」[mame](2009/06/30 06:55)
[34] 第33話 「全ての視線は渇望へ」[mame](2009/07/02 16:02)
[35] 第34話 「兄弟姉妹兄妹」[mame](2009/07/09 23:44)
[36] 第35話 「穿つ凶弾は目覚めの兆し」[mame](2009/07/14 00:10)
[37] 第36話 「獣は退けども人の思いは螺旋の如く」[mame](2009/07/20 11:51)
[38] 第37話 「牙と拳の勘違い」[mame](2009/07/24 23:22)
[39] 第38話 「乙女の嗜好と淑女の悩み」[mame](2009/08/08 23:25)
[40] 第39話 「駆ける鼠の悪巧み」 加筆[mame](2009/08/17 11:30)
[41] 第40話 「火消しの炎人」[mame](2009/08/17 11:28)
[42] 第41話 「正体暴露」[mame](2009/08/24 09:08)
[43] 第42話 「暗躍の鼠と快活の巨人」[mame](2009/09/01 21:37)
[44] 第43話 「交錯する想い」[mame](2009/09/07 15:56)
[45] 第44話 「酒宴の席は無礼講」[mame](2009/09/17 11:38)
[46] 第45話 「鴨が葱に背負われる」[mame](2009/09/23 20:46)
[47] 第46話 「食事はゆっくり、決断ははっきり」[mame](2009/10/03 20:57)
[48] 第47話 「器物破損」[mame](2009/11/10 22:45)
[49] 第48話 「“消えた”女神」[mame](2009/11/10 22:44)
[50] 第49話 「影から闇への交渉術」[mame](2009/11/10 22:39)
[51] 第50話 「指輪が繋ぐ呪いの連鎖」[mame](2009/11/27 09:16)
[52] 第51話 「目覚める毒竜」[mame](2009/12/14 22:52)
[53] 第52話 「準備万端? そして獣は戦場へ」[mame](2009/12/31 22:20)
[54] 第53話 「斬 斬 斬」[mame](2010/01/12 22:13)
[55] 第54話 「全ては心の赴くままに」[mame](2010/02/11 16:17)
[56] 第55話 「闇が望むは影の英断」[mame](2010/03/02 23:45)
[57] 第56話 「過ぎ去る時間は事も無し」[mame](2010/03/30 22:33)
[58] 第57話 「鬼の従者の眠りは深く」[mame](2010/05/23 10:09)
[59] 第58話 「お休みお休み、早く寝ろ」[mame](2010/06/05 19:46)
[60] 第59話 「頭隠して尻も隠す」[mame](2010/07/31 22:36)
[61] 第60話 「旅行は場所より人が重要?」[mame](2010/09/03 22:37)
[62] 第61話 「双山の長、人を踊らす」[mame](2010/11/26 16:36)
[63] 第62話 「震える少女と偽る獣」[mame](2010/11/30 21:08)
[64] 第63話 「決意するのは箒と猪、牙は応じるのみ」[mame](2012/08/25 21:25)
[65] 第64話 「それぞれの価値」[mame](2012/09/02 17:02)
[66] 第65話 「笑みを演じるもの達」[mame](2012/09/08 23:44)
[67] 第66話 「褒め脅し」[mame](2012/09/16 14:31)
[68] 第67話 「正体暴露?」[mame](2012/10/09 23:27)
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[6512] 第33話 「全ての視線は渇望へ」
Name: mame◆90d45ed8 ID:ec979ae0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/02 16:02
第33話 「全ての視線は渇望へ」



【学園長室】



「学園長、何故です!? 学園内に侵入者がいるのは明らかです! このまま何もせずにいてはいつか被害が出てしまいます!!」

ガンドルフィーニは観測班からもたらされた調査結果を学園長の執務机に叩きつけながら声を荒げた。
調査結果の内容は以前転移魔法が観測さえた南の森に数日前、突如として正体不明の何者かの魔力が観測されたというものだった。
その結果を持ってガンドルフィーニはより詳細な実地調査をするべきだと学園長に進言したのだが、学園長が首を縦に振ることはなかった。

「少し落ち着くんじゃ、ガンドルフィーニ君。誰も何もせずに放っておくとは言っておらんじゃろう。実地調査はワシの方で手配する故に心配無用と言っておるのじゃよ」

学園長はガンドルフィーニを落ち着かせるためにいつも以上に柔らかいもの腰で諭すように応えた。しかし、学園長の落ち着きはガンドルフィーニにはどれだけ学園が危険な事態に陥っているのか理解していないように映ってしまった。表面上は落ち着きを取り戻したものの、ガンドルフィーニの中には学園長に対する猜疑の念が生まれていた。

「……学園長、私達に何か隠していることがあるのではありませんか?」

「もちろんじゃよ、関東魔法協会が一組織である以上、上が下に知らせぬ情報など数え切れぬほどある。君も組織の属するものなら分かるじゃろう? 此度の一件も今はまだ明かすことができん」

「では、我々が独自に調査する許可も出してはいただけないということですね?」

「そういうことじゃ。言い方が悪くなってしまったことは申し訳なく思うが、この案件に関しては一切の手出し無用じゃよ」

「……わかりました」

ガンドルフィーニは到底納得したとは思えない厳しい表情のまま学園長に一礼すると扉に向かって歩きだした。

「ガンドルフィーニ君」

「なんでしょう?」

ガンドルフィーニが扉に手を掛けたところで学園長が声をかけた。
ガンドルフィーニは振り向かずに背を向けたまま応じる。

「君が学園や生徒を想う気持ちは重々理解しているつもりじゃ。今回の提言にも感謝している。詳しいことは明かせぬが、明かせぬことを明かすことが今ワシが見せられる精一杯の誠意だということを分かってもらいたい」

「……はい…失礼します」

ガンドルフィーニは最後まで背を向けたまま学園長室を後にするのだった。

「さて、どうしたものかのう」

他に誰もいなくなった部屋の中で学園長は一人物思いに耽る。
フェンリルとの図書館島での邂逅から数日、これまで観測されていなかった魔力が観測できるようになっていたのだ。しかし学園の結界によって強制的に守護者となっているエヴァンジェリンからはなんの報告も上がってこない。つまり学園の結界が探知した魔力の持ち主を侵入者だと認識していないということだ。これが事実なのであればガンドルフィーニが言うようにまさに忌々しき事態なのだが、魔力の正体に検討が付いている学園長とってはできるだけ穏便に済ませたい一件だ。

学園長としても何度かフェンリルに渡りを付けようとしたが、うまく行かず。頼みの綱のヨームはフェンリルの話題になると元々話せない口を貝のように口を閉ざしてしまい、会話が成立しなくなってしまう。楓に関しては捕まえることすらできなかった。

フェンリルについて学園長が持っている情報は少ない。分かっていることと言えば、犬型の魔獣であり、ヨームと兄妹の間柄であるということ。


そしてフェンリルとある程度知己であると思われるイマから給料カットの脅しをかけてなんとか聞き出した情報。


『決して敵対してはならない』


これだけだ。イマはこれだけ学園長に伝えると自室の奥の奥へと引き籠もってしまっていた。図書館島の中を歩き回ることすらしていない。
学園長にフェンリルと敵対するつもりなど元から無いが、意味深なイマの言葉にさらに頭を悩ませることになってしまった。


「はぁ、どうしたものかのう」


トントン

「失礼します」

学園長がため息を吐きつつ、今後について考えを巡らせていると数枚の書類を持ったしずなが部屋に入ってきた。

「おお、しずな君。どうじゃった?」

「これが学園長が指定された条件に当てはまるもので、学園内に保管されている魔法具のリストです」

しずなは学園長の机の前に立つと持っていた書類を机の上に置いた。学園長はそれを受け取ると順に目を通していく。

「ふむ、結構あるもんじゃのう」

「そんなもの一体どうするおつもりですか? こう言ってはなんですが、指定された魔法具はほとんどが高位魔法具でありながら使い道の無いものばかりです」

「うむ、ちょっと雀でも捕ってみようかと思ってのう」

「雀……ですか?」

「フォフォフォ、ギャグじゃよ、ギャグ。アメリカンジョーク」

「………アメリカン」

しずなは学園長がついにボケたのではと失礼な心配をしながら、いそいそと学園長室を後にした。
部屋の中では一人残った学園長がもう一度、しずなの持ってきた書類に目を通しながら、顎髭をしごいていた。

「餌は上々、あとは籠を用意しなければのう」

一人悪巧みをする老人の不気味な笑みが磨き抜かれた机の表面に写り込んでいた。





【中等部校舎・廊下】



「どうでした? ガンドルフィーニさん」

「ダメだ。学園長が独自に調査をするから我々がやるべきことは無いそうだ」

学園長室から退室したガンドルフィーニは外で待っていた瀬流彦と合流すると学園長とのやり取りを掻い摘んで説明した。

「そうですか。それじゃあ、仕方ないですね」

「ッ!? なにが仕方ないと言うんだ、瀬流彦君? 成果こそ上げられなかったが、侵入者騒ぎがあってからこれまで地道に調査を続けていた我々を差し置いて最新の情報を秘匿するなどということが許されるものか!?」

「ぼ、僕に当たらないで下さいよ。というか成果が上がらなかったのが問題なのでは?」

「む、確かにそうかもしれないが……しかし……」

正体不明に魔力の調査について温度差のある二人。学園長がしなくていいというなら決定に従うという瀬流彦に対して、ガンドルフィーニはこれまでの努力を総否定されたような対応に憤りを押さえることができなかった。
しかしどんなに努力していようが、成果が出ていないのは事実であり、成果の無い実績などなにもしていないのと同意だ。調査から外されても仕方のないことだと暗に瀬流彦が諭すが、ガンドルフィーニは納得することができなかった。

「学園長も別にガンドルフィーニさんのことを認めていないわけではないでしょう? 調査の詳細な情報がなければ詳しい魔力の発生場所も分かりませんし、今回は学園長に任せましょうよ」

「君の言うことは分かる。私も組織の一員。上の決定にいちいち異を唱えていては組織が成り立たないのは自明の理。私が怒りを感じるとすれば至らぬ自分自身にだ」

「ホント真面目ですね。あ、愛衣君、今帰りかい?」

怒りと苛立ちを呼吸と同時に吐き出すようにして大きく溜息を吐くガンドルフィーニ。先輩を慰めるわけにもいかず、呆れと感慨を感じながら小さく溜息を吐く瀬流彦。
二人が廊下の曲がり角に差し掛かると廊下の反対側から愛衣がこちらに向かって歩いて来ていた。

「あれ、愛衣君? お~い」

瀬流彦が声を掛けても愛衣は聞こえていないのか、俯いたまま反応を示さない。そのまま歩き続けて瀬流彦達のすぐ目の前まで来てしまった。このまま行けば確実にガンドルフィーニにぶつかるコースなのだが、ガンドルフィーニは敢えて避けずにその場に立ち塞がった。

「ッ!? あ、ガンドルフィーニ先生に、瀬流彦先生。すいません、ちょっとぼーとしちゃってて」

視界にガンドルフィーニの足が入ったのか、愛衣はガンドルフィーニにぶつかる直前で急停止した。ぶつかりかけた事に気づいて慌てて二人に頭を下げる愛衣。

「気にしなくていい。それよりどうしたんだね? 瀬流彦先生が何度も声を掛けていたのに気づかなかったのかい?」

ガンドルフィーニは別に攻めているわけではなく、周りが見えなくなるほどに注意が散漫になり、明らかに落ち込んでいる様子の愛衣を心配して声を掛けた。俯いて歩く姿もそうだったが、愛衣の目の下にはうっすらと隈ができてしまっていた。

「すいません。ぼ~としてしまいました」

できるだけ優しい口調を心がけたつもりのガンドルフィーニだったが、愛衣はガンドルフィーニが怒っているのだと捉えたらしく同じ台詞を同じように頭を下げて言うのだった。

(わ、私はそんなに説教臭いのだろうか?)

頭を下げる愛衣の姿に自分が普段生徒達にどう思われているのかと不安になるガンドルフィーニだったが気を取り直して無理矢理笑顔を作る。

「怒ってい「ガンドルフィーニ先生は怒ってるわけじゃないよ。元々気難しい顔なだけで」……瀬流彦君……」

瀬流彦のカットインにガンドルフィーニの表情が笑顔のまま静止する。

「周りが見えなくなるほど悩むなんて一体なにがあったんだい?」

「え? いや、あの、その」

横で引き吊った笑顔に変わりつつあるガンドルフィーニに気づくことなく瀬流彦は愛衣に問いかける。愛衣からはバッチリガンドルフィーニの表情の変化が見えており、悩んでいた内容もあって言い淀んでしまう。

「もしかして男には言いにくい悩みかな? それなら刀子先生に……いやあの人はあんまり参考にならないか……それじゃあ、しずな先生かな」

「いや、別にそういう類の悩みじゃないんですが」

「あ、でも女の子の悩みなら高音君に相談するのが一番手っとり早いか。あれ? そういえば最近二人で一緒にいるところ見ないけど、どうかしたの?」

刀子教諭が聞いていたら目の色変えてキレるであろう失礼なことを言う瀬流彦。少し暴走気味の瀬流彦を止めるために否定しようとするが、瀬流彦の勘違いは止まらない。それどころか愛衣にとって今現在最大の地雷を踏み抜いてしまった。

愛衣は瀬流彦の問いに答えることはなく、再び俯いてしまった。

「僕なにか不味いこと言いましたかね?」

「私に聞かれても困る」

俯く愛衣をどうしていいかわからず、助けを求めるようにガンドルフィーニに耳打ちする瀬流彦。笑顔で静止していたガンドルフィーニだったが、俯き落ち込む愛衣の姿に正気を取り戻す。しかしいまいち状況を掴むことができなかった。

「あの…愛衣さん。高音さんと何かあったの?」

気まずい雰囲気をなんとかしようと瀬流彦が俯く愛衣に話かけると愛衣はビクリと肩を振るわせて一歩後ずさった。

「め、愛衣さん?」

愛衣の行動に瀬流彦とガンドルフィーニが戸惑いを見せていると、愛衣は勢い良く顔を上げた。
その表情に先程までのような陰は無く、晴れやかな笑顔だった。目を細めて、首を傾げるような仕草をする少女特有な綺麗な笑顔だったが、瀬流彦達にはどこか愛衣が無理をしているように見えた。

「私とお姉様の間でなにかあるわけないじゃないですか。悩んでいたのは魔法のことでちょっと失敗してしまって、ただそれだけなんです。ご心配掛けてすいません」

「そ、そう…ならいいんだけど」

豹変した愛衣の様子に思わず頷いてしまう瀬流彦。

「魔法のことでなら、私達にも何か助言できるかもしれないな。愛衣君が良ければ、相談に乗るが……」

ガンドルフィーニも踏み込んではいけない部分だと感じたのか、愛衣の誤魔化しに便乗する形で話を逸らした。

「……それじゃあ、お願いしてもいいでしょうか?」

愛衣にとってはすでに大した問題ではなくなっていたのだが、誠実に自分と向き合おうとしてくれている二人の教師の顔を立てようと相談することにしたのだった。

「ああ、もちろんだとも」

「……実は……」

ガンドルフィーニの了承を確認して愛衣はポツリポツリと語り始めた。

愛衣が語ったのは南の森で出会った子犬の話。怪我をしていた子犬を治療しようと捕縛魔法を使ったところ失敗してしまった。失敗したのは変えようのない事実なのだが、何故失敗したのか理由が分からない。このままではまた同じ失敗をしてしまうのではないかという内容のものだ。
愛衣にとってはできれば誰にも知られたくない悩みであったが、自分だけでは解決に至らなかったこと、それ以上の悩みを今は抱えているということが愛衣に話す決心をさせていた。

「……ということなんですが、どう思いますか?」

話し終えた愛衣が教師二人の意見を聞こうと視線を上げる。
そこには対照的な表情をして佇む二人がいた。
瀬流彦は糸目を見開いて驚いており、ガンドルフィーニは眉間に皺を寄せ、顎に手を当てて考え込んでいた。

(そんなに驚くようなこと言ったかな? ガンドルフィーニ先生が真剣に考えてくれるのは嬉しいんだけど、顔怖すぎ)

愛衣がそれぞれの表情に感想を持っていると、ガンドルフィーニが不意に顎から手を離して顔を上げた。

「愛衣君、その犬と会った場所を覚えているかい?」

「え? 森の中なんで正確には場所を言えませんが、近くまで行けば思い出すと思います」

「……そうか」

「ガンドルフィーニ先生?」

ガンドルフィーニは瀬流彦の呼びかけに応じることなく、再び思考の海へと旅だってしまった。





【高等部女子寮・高音&ヨームの部屋】



時刻はすでに深夜。部屋の住人達はもう就寝している時間だ。
しかし、いつもなら電気が消されて暗闇になるはずの室内で一カ所だけ淡い光が灯っている場所があった。

それはこの部屋のキッチン。

ただし、キッチンの電灯が点いているのではなく、灯っているのは冷蔵庫から漏れでる光だけだ。冷蔵庫内の照明が部屋に灯る唯一の明かりとなって冷蔵庫の前にいる人物を照らしていた。
冷蔵庫の中を物色して、時折何かを見つけては取り出していく。


パチリ

「こんな夜中に何をしているんです? ヨーム」

「ッ!?」

沈黙が支配していた室内に電灯のスイッチの音が響き、暗闇が引き裂かれた。暗闇をかき消した光は室内にいる二人の姿をはっきりと写し出す。
冷蔵庫の前で中を物色していたのはヨーム。その後ろに立ち電気を点けたのは起きたばかりといった様子の寝間着姿の高音だ。ヨームは突如として点けられた光と後ろから掛けられた高音の言葉に驚き、一瞬肩を振るわせると冷蔵庫から取り出して手に抱えていた物を床に取り落としてしまった。

一体何をしていたのかと、高音はヨームが落としたものを覗き込む。
そこに落ちていたのは、ハム、ソーセージ、豚バラ肉、そしてパックの牛乳だった。どれも高音が自炊用に買い込んでおいたものだ。

「………ヨーム」

「ッ!!」

初めに声を掛けられてから冷蔵庫の方を向いたまま固まっていたヨームだったが、再び名前を呼ばれてもう一度肩を振るわせると恐る恐る高音に振り返った。

「夕飯が足りなかったのなら、そう言いなさい。ちょっと待ってて。今何か作ってあげるから」

『……え?』

てっきり怒られると思っていたヨームは何事も無かったように冷蔵庫の中を物色しだした高音の姿に呆気に取られてしまう。

「ほら、すぐにできるから、向こうで座ってなさい」

高音は惚けて動かなくなってしまったヨームに自分が肩に羽織っていたカーディガンを着させるとキッチンから追い出してしまった。



「はい、出来ましたよ」

しばらくすると言われるがままに座っていたヨームの前に高音特製の大盛りオムライスが置かれる。立ち上る湯気とケチャップの匂いが食欲をそそるが、ヨームはなかなか手を付けようとしなかった。

「どうしました? 食べないんですか?」

『……食べる』

食べないのか?と聞かれれば食べると答える。食べるなと言われても食べると答える。
ヨームは日頃の習慣を踏襲するようにスプーンを手に取りオムライスを食べ始めた。始めは戸惑いを見せていたヨームであるが、一度食べ始めてしまえば躊躇うことなどありはしない。戸惑いは至福に変わり、ヨームの表情を支配する。
チキンライスを包む半熟卵のようにヨームの頬もトロケていった。オムライスを頬張り、幸せいっぱいのヨームの顔を見ながら、高音も顔を綻ばせる。


「……ところでヨーム」

「??」

皿の上にこぼれんばかりに盛りつけられたオムライスが3分の1ほどに減ってきたところで高音はヨームに話しかけた。ヨームは食べる手を止めずに少し首を傾げて高音に応えた。

「最近夜にどこかへ出掛けているようですが、どこに行っているんです?」

「ッ!?」

高音の確信を突く質問に思わず動きを止めてスプーンを取り落としてしまうヨーム。落ちたスプーンが皿に当たった音が深夜特有の静けさに響いた。

「夜中に女の子が出歩くのはあまり感心できることではありませんよ」

高音の眼がスッと細くなり、睨むわけではないがヨームを諫めるように見つめた。
ヨームは蛇に睨まれた蛙のように体を縮こまらせて俯いてしまった。
図書館島での一件で無断外泊をしてしまったヨームは帰ってきてから高音にこっぴどく叱られたのだ。その記憶から深夜の外出が高音にバレないように細心の注意を払っているつもりだったが、まったく隠せていなかったらしい。あれから数日しか経っていないにも関わらず、深夜に出掛けるなど反省をしていないと受け取られても仕方がない。ヨームは図書館島から戻ったときの高音の鬼の表情を思い出して、また怒られるのではと小刻みに体を震わせた。

「ッ!!」

震えるヨームを見つめ、高音は小さく息を吐きながら苦笑するとヨームの正面から横へと移動する。そして震えるヨームの肩に手を置くと、自分の胸に引き寄せ抱きとめた。
ヨームは肩に触れられた一瞬体を大きく震わせたが、高音の温もりと匂いを感じて目を閉じ、身を委ねた。

「怒っていないわけじゃないんですよ」

高音の言葉にヨームは冷や汗を流す。

「私に隠し事があっても構わないけど……危ないことをするのだけは止めて」

夜中にヨームが出歩いていることは知っているけれど、何をしているのかは知りえない高音。後をつけようかと思ったこともあったが、例え姉妹の間柄であろうともヨームのプライバシーを侵害するのはどうしても気が引けて実行することができないでいた。しかし今夜は意を決して問いただすことにしたのだ。もちろんヨームが話すことを嫌がるのであれば無理矢理聞き出すようなことをするつもりはないが、危険な目に遭わないように注意を促すつもりではいた。

『姉様』

ヨームは何かを決心したように高音に委ねていた身を少し離して高音の目を正面からじっと見つめた。いつにない真剣な表情のヨームに高音は戸惑いを感じてしまう。

『会って欲しい人がいるの』

「会ってほしい人?」

『そう、会って欲しい人』

「……………」

ヨームの言葉に高音は考え込まされてしまった。
夜中に目的も告げずに黙って部屋を出て行ってしまうヨーム。
そして突然でてきたヨームの懇願。
二つだけの情報とも言えないようなものではあるが、高音の頭の中では予想もしくは妄想が膨らんでしまっていた。

「………ヨーム、その、会って欲しい人っていうのはもしかして………男の人?」

『?? うん、そうだよ』

「これまでその人と会うために部屋を抜け出していたの?」

『うん』

「今日もそのつもりで?」

『うん』

ヨームは高音の問いを肯定しつつ、何故分かったのかと首を傾げる。

「ッ!? そ、そう。そうなのね。そういうこと……」

目に見えて動揺する高音。深夜に保護者である自分に告げずに男と密会。それも一度ではなく複数回。件の男とヨームが只ならぬ関係であることは周囲から「お堅い」と評される高音にもはっきりと分かった。

(娘に彼氏を紹介される父親の気分ってこんな感じなのかしら?)

おそらく自分の人生で二度と同じ感覚を覚えることはないであろう出来事に高音の意識は虚脱していってしまうのだった。うまく考えが纏まらず意味も無くヨームを見つめてしまう。

『姉様?』

(私だって今まで彼氏がいたことなんてないのに、夜中に密会だなんて。最近の子は進んでるというか、乱れてるというか)

『姉様?』

(相手がどんな奴なのか見極めなければいけませんね。もしヨームを不幸にするような不実な男ならその時は私の奥義で………)

『姉様!?』

ヨームに大きく揺さぶられるまで高音の堅いというよりは古いと言った方がしっくりくる妄想は止まることがなかった。





【エヴァンジェリン邸】



時刻はヨームが冷蔵庫をあさっていた時から少し遡る。
エヴァンジェリンは再び訪れた招かざる客を面倒臭さそうにあしらっていた。

「で、貴様は一体なにが言いたいんだ? 私は今忙しいんだ、用が無いならとっとと失せろ」

「忙しいのは私も同じ。用があるから来ているんだ」

あしらわれる側に座るガンドルフィーニは苛立ちを押さえるようにエヴァンジェリンの暴言を受け流す。

「少し前に学園内に侵入者があったことを覚えているか?」

「あ? ああ、そういえばそんなこともあったな。結局なにも見つからなかったらしいじゃないか。無駄な努力、ご功労なことだったな」

「ッ!!」

エヴァンジェリンの完全に馬鹿にした態度にガンドルフィーニの額に青筋が浮かぶ。後ろに立っている瀬流彦は一触即発の場の雰囲気に気が気でなく冷や汗を流している。

「ゴホン! とにかく我々は侵入者について新たな情報を得ることに成功した。近日中に侵入者に接触、できることならば捕縛することを目的として作戦を決行するつもりだ」

ガンドルフィーニは『正体不明の魔力の調査』からは外されているものの、『学園への侵入者についての調査』に関しては未だに責任者として陣頭指揮を執っている。つまり後者の調査として作戦を行うならば学園長の意向に反しないというかなりギリギリの論法で行動していた。

「それが私となんの関係がある? 貴様等の遊びに付き合うつもりはないぞ」

エヴァンジェリンは茶々丸が煎れた紅茶を一口啜る。

「作戦には、エヴァンジェリン。君にも参加してもらう」

「断る。前にも言ったはずだが、私が警備員の真似事をしているのは私にかけられている呪いがあるが故だ。呪いが反応しない侵入者に対処しなければならない理由は無い」

「だからこそだ。呪いに反応しない侵入者、君がこれを学園内に引き入れたのではないかという疑いは未だ晴れたわけでは無い。今回の件に対応することで我々の疑心を晴らしてもらいたいのだよ。参加と言っても特になにかしてもらいたいわけじゃない。我々が侵入者を捕縛する所を手を出さずに見ていてくれればそれでいい」

「侵入者は私を炙り出す為のスケープゴートというわけだ。分かりやすくていいじゃないか。くだらんことに変わりはないがな」

エヴァンジェリンはガンドルフィーニ達が侵入者を殺すところを黙って見ていることができれば無罪放免。手を出して侵入者を助ければ侵入者の仲間として自身抹殺かそれに準じる扱いを受けることになるだろうと解釈する。かなり冤罪的要素をはらんだ対応であり、普通ならば納得できるようなものでは無いのだが、エヴァンジェリンはいつものことだと鼻で笑って聞き流してしまう。

「私は侵入者の捕縛を前提に話をしている。飛躍した発想は止めてもらいたいものだ」

「発想が飛躍しているのは貴様の方だろうが。被害妄想も大概にしろよ」

学園を想うが故に視野狭窄に陥っているガンドルフィーニと有らぬ疑いに苛立ちを積もらせるエヴァンジェリン。双方は互いの心情を慮ることもなく、テーブルを挟んで睨みあった。

「……茶々丸、"お客”がお帰りだ。玄関までお送りしろ。送り終わったら塩を蒔いておけ」

エヴァンジェリンは話は終わりだと席を立つとわざとガンドルフィーニに聞こえるように茶々丸に命令した。

「今日のところはこれで失礼する。しかし、これは学園からの要請であり、断る権限が君に無いことは分かっていてもらいたい」

ガンドルフィーニは席を立つと、瀬流彦を引き連れて玄関から出ていった。瀬流彦だけは一度エヴァンジェリンと茶々丸に振り返り、一礼してからガンドルフィーニの後を追った。

「チッ」

エヴァンジェリンは玄関を睨みつけ、忌々しげに舌打ちをした。

「回りくどい連中だ。私が気に食わないならば、正面から殺しにくればいいものを……」

人が正義を掲げるとき、そこには誰もが、少なくとも味方だけは納得できる大儀が必要になる。だがかつては極悪人であっても現在賞金首になっておらず、学園という檻に幽閉されている囚人のエヴァンジェリンを理由も無く殺すことは許されない。結界によって「力」を奪われている絵ヴァンジェリンではあるが、結界によって守られているということも多分にあるのだ。

「おい、茶々丸。安物でもいいから、酒を持ってきてくれ。こんな日は飲んで寝るに限る……茶々丸?」

エヴァンジェリンは未だに玄関に立ったままの茶々丸に気づき、いぶかしみながら茶々丸に近づいた。

「……茶々丸、塩はもういい」

「はい、マスター」

エヴァンジェリンが茶々丸の横に立ち玄関の外を見るとまるでそこだけ雪が降ったかのように真っ白になっていた。
茶々丸の手には空になった塩壷が抱えられている。

「申し訳有りません、マスター。明日の朝食は薄味になりそうです」

茶々丸は空になった壷を示して謝罪する。

「いや、それは別にいいんだが……どうかしたのか? お前、少し変だぞ」

いつもと違う様子と今現在の茶々丸の奇行に眉を顰めるエヴァンジェリン。

「私にもよくわかりません………しかし」

「しかし?」

「このような気持ちを人は"ムカつく”と表現するかもしれません」

「……………」

主と従者の間に一瞬の沈黙が流れる。

「……プッ クハ アーハッハッハッ!! ムカつく? そうか、ムカつくか!? こいつは滑稽だ!!」

予想もしなかった茶々丸の返答に腹を抱えて大笑いするエヴァンジェリン。感情を表に出すことのない茶々丸が"ムカつく”などという言葉を使うなど思ってもみないことだった。

「私は何かおかしなことを言ったでしょうか?」

「言ってないぞ、いや、言ったのか? まぁとにかく私は今かなり気分がいい。こんな日に安い酒など飲んでいられんな。茶々丸、酒庫からお前が一番いいと思った酒を持って来てくれ」

最近特に大きくなった茶々丸の感情の起伏、そして自分が主として茶々丸に慕われているという淡い期待。エヴァンジェリンは今日の酒がいい酒となることを確信しつつ、部屋の中へと戻っていった。

「?? はい、マスター」

茶々丸にはエヴァンジェリンの爆笑の理由が分からなかったが、楽しんでくれているならば理由は問題など無いと割り切り酒庫へと向かった。

(侵入者……やはり、あの人のことでしょうか)

割り切ることのできない不安を抱いて。












あとがき
今回時間的にはかなり飛びました。脱出後の課程や、テストなんかも頭にはあったのですが、原作通りになりそうだったのでぶったぎりました。
久しぶりにわき役の方々を出してみたのですが、どうだったでしょうか?ガンドルフィーニがイマと同じように嫌われそうな扱いになってしまっているのがちょっと不憫なのですが、みんないい人というキャラの動かし方ができないのが悔やまれます。原作だと悪い人じゃないのになぁ……。




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