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No.12354の一覧
[0] ゼンドリック漂流記【DDO(D&Dエベロン)二次小説、チートあり】[逃げ男](2024/02/10 20:44)
[1] 1-1.コルソス村へようこそ![逃げ男](2010/01/31 15:29)
[2] 1-2.森のエルフ[逃げ男](2009/11/22 08:34)
[3] 1-3.夜の訪問者[逃げ男](2009/10/20 18:46)
[4] 1-4.戦いの後始末[逃げ男](2009/10/20 19:00)
[5] 1-5.村の掃除[逃げ男](2009/10/22 06:12)
[6] 1-6.ザ・ベトレイヤー(前編)[逃げ男](2009/12/01 15:51)
[7] 1-7.ザ・ベトレイヤー(後編)[逃げ男](2009/10/23 17:34)
[8] 1-8.村の外へ[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[9] 1-9.ネクロマンサー・ドゥーム[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[10] 1-10.サクリファイス[逃げ男](2009/10/12 10:13)
[11] 1-11.リデンプション[逃げ男](2009/10/16 18:43)
[12] 1-12.決戦前[逃げ男](2009/10/22 06:15)
[13] 1-13.ミザリー・ピーク[逃げ男](2013/02/26 20:18)
[14] 1-14.コルソスの雪解け[逃げ男](2009/11/22 08:35)
[16] 幕間1.ソウジャーン号[逃げ男](2009/12/06 21:40)
[17] 2-1.ストームリーチ[逃げ男](2015/02/04 22:19)
[18] 2-2.ボードリー・カータモン[逃げ男](2012/10/15 19:45)
[19] 2-3.コボルド・アソールト[逃げ男](2011/03/13 19:41)
[20] 2-4.キャプティヴ[逃げ男](2011/01/08 00:30)
[21] 2-5.インターミッション1[逃げ男](2010/12/27 21:52)
[22] 2-6.インターミッション2[逃げ男](2009/12/16 18:53)
[23] 2-7.イントロダクション[逃げ男](2010/01/31 22:05)
[24] 2-8.スチームトンネル[逃げ男](2011/02/13 14:00)
[25] 2-9.シール・オヴ・シャン・ト・コー [逃げ男](2012/01/05 23:14)
[26] 2-10.マイ・ホーム[逃げ男](2010/02/22 18:46)
[27] 3-1.塔の街:シャーン1[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[28] 3-2.塔の街:シャーン2[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[29] 3-3.塔の街:シャーン3[逃げ男](2012/09/16 22:15)
[30] 3-4.塔の街:シャーン4[逃げ男](2010/06/07 19:29)
[31] 3-5.塔の街:シャーン5[逃げ男](2010/07/24 10:57)
[32] 3-6.塔の街:シャーン6[逃げ男](2010/07/24 10:58)
[33] 3-7.塔の街:シャーン7[逃げ男](2011/02/13 14:01)
[34] 幕間2.ウェアハウス・ディストリクト[逃げ男](2012/11/27 17:20)
[35] 4-1.セルリアン・ヒル(前編)[逃げ男](2010/12/26 01:09)
[36] 4-2.セルリアン・ヒル(後編)[逃げ男](2011/02/13 14:08)
[37] 4-3.アーバン・ライフ1[逃げ男](2011/01/04 16:43)
[38] 4-4.アーバン・ライフ2[逃げ男](2012/11/27 17:30)
[39] 4-5.アーバン・ライフ3[逃げ男](2011/02/22 20:45)
[40] 4-6.アーバン・ライフ4[逃げ男](2011/02/01 21:15)
[41] 4-7.アーバン・ライフ5[逃げ男](2011/03/13 19:43)
[42] 4-8.アーバン・ライフ6[逃げ男](2011/03/29 22:22)
[43] 4-9.アーバン・ライフ7[逃げ男](2015/02/04 22:18)
[44] 幕間3.バウンティ・ハンター[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[45] 5-1.ジョラスコ・レストホールド[逃げ男](2011/09/04 19:33)
[46] 5-2.ジャングル[逃げ男](2011/09/11 21:18)
[47] 5-3.レッドウィロー・ルーイン1[逃げ男](2011/09/25 19:26)
[48] 5-4.レッドウィロー・ルーイン2[逃げ男](2011/10/01 23:07)
[49] 5-5.レッドウィロー・ルーイン3[逃げ男](2011/10/07 21:42)
[50] 5-6.ストームクリーヴ・アウトポスト1[逃げ男](2011/12/24 23:16)
[51] 5-7.ストームクリーヴ・アウトポスト2[逃げ男](2012/01/16 22:12)
[52] 5-8.ストームクリーヴ・アウトポスト3[逃げ男](2012/03/06 19:52)
[53] 5-9.ストームクリーヴ・アウトポスト4[逃げ男](2012/01/30 23:40)
[54] 5-10.ストームクリーヴ・アウトポスト5[逃げ男](2012/02/19 19:08)
[55] 5-11.ストームクリーヴ・アウトポスト6[逃げ男](2012/04/09 19:50)
[56] 5-12.ストームクリーヴ・アウトポスト7[逃げ男](2012/04/11 22:46)
[57] 幕間4.エルフの血脈1[逃げ男](2013/01/08 19:23)
[58] 幕間4.エルフの血脈2[逃げ男](2013/01/08 19:24)
[59] 幕間4.エルフの血脈3[逃げ男](2013/01/08 19:26)
[60] 幕間5.ボーイズ・ウィル・ビー[逃げ男](2013/01/08 19:28)
[61] 6-1.パイレーツ[逃げ男](2013/01/08 19:29)
[62] 6-2.スマグラー・ウェアハウス[逃げ男](2013/01/06 21:10)
[63] 6-3.ハイディング・イン・ザ・プレイン・サイト[逃げ男](2013/02/17 09:20)
[64] 6-4.タイタン・アウェイク[逃げ男](2013/02/27 06:18)
[65] 6-5.ディプロマシー[逃げ男](2013/02/27 06:17)
[66] 6-6.シックス・テンタクルズ[逃げ男](2013/02/27 06:44)
[67] 6-7.ディフェンシブ・ファイティング[逃げ男](2013/05/17 22:15)
[68] 6-8.ブリング・ミー・ザ・ヘッド・オヴ・ゴーラ・ファン![逃げ男](2013/07/16 22:29)
[69] 6-9.トワイライト・フォージ[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[70] 6-10.ナイトメア(前編)[逃げ男](2013/08/04 06:03)
[71] 6-11.ナイトメア(後編)[逃げ男](2013/08/19 23:02)
[72] 幕間6.トライアンファント[逃げ男](2020/12/30 21:30)
[73] 7-1. オールド・アーカイブ[逃げ男](2015/01/03 17:13)
[74] 7-2. デレーラ・グレイブヤード[逃げ男](2015/01/25 18:43)
[75] 7-3. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 1st Night[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[76] 7-4. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 2nd Day[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[77] 7-5. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 3rd Night[逃げ男](2021/01/01 01:10)
[78] 7-6. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 4th Night[逃げ男](2021/01/01 01:11)
[79] 7-7. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 5th Night[逃げ男](2022/12/31 22:52)
[80] 7-8. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 6th Night[逃げ男](2024/02/10 20:49)
[81] キャラクターシート[逃げ男](2014/06/27 21:23)
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[12354] 6-10.ナイトメア(前編)
Name: 逃げ男◆b08ee441 ID:e6fdff55 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/08/04 06:03
薄暗い照明に照らされた広間。8本の支柱が高い天井を支えるように等間隔に並び、静寂に満たされたこの場所は本来は祭殿のような雰囲気を持っていた。だが今ここを満たしているのは、聖性とは真逆の気配である。狂気の領域ゾリアット──その奇妙な形状や言語で満たされた異界を理解しようとすれば精神が破壊されると言われる、彼方の領域の存在が放つ気配が空気を侵食しているのだ。


「──待ちくたびれたぞ、シベイの御子よ」


その原因たるイスサランは、もう一体のマインド・フレイヤーを傅かせて俺達を迎え入れた。その背後に聳えるのはウォーフォージド・タイタンのアーキタイプだ。エピック級サイオニクス・パワーによって顕現したものでないオリジナルの人造兵器は、ただ立っているだけだというのに遥かに強烈な存在感を放っている。大まかな外観に差はないが、細やかな造形一つとっても洗練された様子がうかがえる。ただの兵器ではない造形美、そういったものを感じさせるのだ。

彼我の距離は100メートル強ほどにすぎず、既に中距離射程の呪文攻撃の範囲内にお互いを収めている状態だ。それでもお互いが攻撃に出ないのは、その間の空間を幾重もの"揺らぎ"が満たしているからである。それは認識を攪乱し、お互いの位置を不明瞭なものにしている。本来は長方形であるはずの広間の形状を正確に把握できておらず、遠隔攻撃を行った場合に見当違いの場所に命中するかもしれないという疑念が晴れない。それは物理的な攻撃だけでなく、魔法的な攻撃についても同様である。

ゾリアットは半透明の紙が何層にも重なったように見え、それらの層と次元が無限に連なっている姿をしていると言われている。物質界に近づくと狂気が世界中にばら撒かれ、魔法は暴走し時間の流れさえも歪み、生命は異形へと変貌させられる狂気の領域──その再接近は太古の次元間戦争で彼らを追い払ったドルイドの一派《門を護るもの》によって防がれているが、本来であればエベロンと夢の領域ダル・クォールの中間点にあるはずのこの"トワイライト・フォージ"をイスサランは何らかの手段でゾリアットへと引き寄せているのかもしれない。


「これでも急いできたつもりだったんだがね──」


軽口を叩きながらも簡素な呪文を行使。ゾリアットの次元界特性である魔法暴走、それに影響されないように呪文をコントロールすることが出来るかを確認する。行使する呪文の階位が高ければ高いほどその難易度は高くなるが、種々のサポートを受けた今の俺達であれば問題なく制御可能なはずだ。

それよりも問題はゾリアットの持つ時間流の特性だ。ゾリアットの1分は物質界での60分に相当する。もしもそれがこの空間に作用しているとすれば、長時間の戦闘になった場合に"スキーム"の破壊が間に合わなくなる可能性もある。"無重力"という重力特性が反映されていない以上、この空間が完全にゾリアット化しているというわけではないようだが考慮しておくべき要素だ。

"揺らぎ"については、お互いの距離を詰めることで解決するしかない。ここを初めて訪れた俺達と異なり、ゾリアットの住人であるマインド・フレイヤーはこの視覚異常に影響されない可能性が高い。またイスサランの強力なサイオニック・パワーの発動を妨害するには《魔導士退治》の技術を習得している前衛が取り付く必要があることもある。

罠の気配はないし、俺の知るクエストギミックもそのままに見える。状況を確認しイスサランへと駆け寄ろうとした俺たちの動きを見て、マインド・フレイヤーは残念そうな声を発した。


「本来であれば長らく言葉を交わしたかったところではあるが、止むをえまい。

 まずはその肉体の縛りからお前たちを解き放ち、その後でゆっくりと語らうとしよう──」


イスサランの細い腕が、傅くマインド・フレイヤーへと伸びる。その気配を察し、伏せていた顔を上げた脳喰らいの司祭は歓喜にその触手を震わせた。


「おお、いと貴きお方の秘儀の礎となれる幸運にわが身は喜びに打ち震えております。

 我が肉と精神、魂に至るまでの全てを捧げます──」


イスサランの指がその顔にめり込み、脳髄をかき回してもなおその司祭からは喜びの感情があふれ出していた。言葉になる前の原始的な精神エネルギーが、そのマインド・フレイヤーの特性により広間じゅうへと拡散することでその感情がこちらへと伝わってくるのだ。

そしてズルリとイスサランの手が引き抜かれ、司祭の体は支えを失って崩れ落ちた。べちゃり、と音がして床に血が広がっていく。抜き取られたマインド・フレイヤーの指には、司祭の二つの眼球が収まっていた。イスサランはそれを両手の掌で包むようにして自分の胸の前へと運ぶと、小さく呟いた。


「では歓迎を始めよう──退屈はさせないことを約束しようじゃないか」


合わされた掌同士の距離がゼロとなり、莫大なサイオニック・エネルギーが噴き出した。イスサランの肉体を包むように白いエクトプラズムが膨れ上がる。元々視界を歪めていた"揺らぎ"がその煽りを受けて激しく撓み、目に映る光景はまるで万華鏡のようだ。だが視界の中央にある、その姿だけは捉えることが出来る。

超巨大なまでに膨張したエクトプラズムの塊を突き破り、鋼の四肢が現れる。それは大きさが倍ほどではあるがイスサランの背後に鎮座していたウォーフォージド・タイタンのものだろう──だが、一点だけ先程までとは大きさ以外にも異なるところがあった。いや、それは果たして『一点』と数えるべきなのか? タイタンの全身、至る所に不気味な眼球が対となって張り付いている。赤く血走ったその眼球の大きさは握りこぶし程度だろうか。鋼の肉体の表面を泳ぐように漂いながら、その瞳は俺達へと焦点を合わせる。

名付けるのであればそれは"ウォーフォージドタイタン・ナイトメア"。『夢の領域』が『狂気の領域』によって歪められ、悪夢となって顕現した姿だ。数多の眼球を漂わせた人造の機械神がその回転するブレードを振りかざし、鋼のこすれ合う音を戦場に響かせた。








ゼンドリック漂流記

6-10.ナイトメア(前編)








光の翼が指向性をもって振るわれ、前方を薙ぎ払う。《呪文二重化》により構築された2対の《ウイングス・オヴ・フラリー》が空気の層を貫き、異形の巨人を激しく打った。従来のタイタンと同様、この機体も防御フィールドは展開しているようだ。だがそれを食い破って光翼は装甲を直撃する。力場の奔流が胴体を抉り取り、巨大な傷跡を刻み付ける。

その不気味な外見に反し、内部の構造は従来のウォーフォージド・タイタンと同一に見える。だが今の攻撃を受けてなお擱座せず、脚部で胴体を支えながら攻撃のために腕を振るおうとしている姿からして耐久性は大幅に向上しているのは間違いない。その脅威度は今の俺には測り知れず、30を大きく超えているであろうその存在に神格ランクがあったとしても不思議ではない。そこまでいかなくとも、標準のタイタンに比べてヒットポイントが最大化されているなどの強化は織り込んでおくべきだろう。

例えその想定が正しくとも、俺のやるべきことに変わりはない。触媒であるコアトルの羽を握りつぶしながら立て続けに《ウイングス・オヴ・フラリー》を叩きつけ続ける。鱗粉となって周囲を舞う羽の細片が光翼の輝きをキラキラと反射するたび、ウォーフォージド・タイタンへと攻撃が叩きつけられる。

だが四対の翼に殴打されてなお、巨神兵は動きを止めない。大股に踏み込みつつ振り下ろされた巨大なハンマーを、余裕をもってバックステップで回避する。床を穿つその攻撃はやがて空を飛べぬタイタン自身の移動を阻害し、俺達にとって有利な点となる──はずだった。だがハンマーが衝突した瞬間、床を破壊すべきエネルギーの大部分は不可視の衝撃波として広間へと拡散した。かすかに遅れて音が届いているが、それを何人が知覚できたか怪しいものだ。三半規管をかき回されたかのようなショックを受け、聴覚は機能していたとしても音を理解している余裕が無かったのだ。

空中を浮遊していたはずの他の仲間達も、大半はバランスを崩している。コントロールを失って地面に倒れているものもいるほどだ。かろうじて〈平衡感覚〉に優れている俺やラピスは一瞬動きを止める程度で済んでいるが、他の皆が立ち直るまでは数秒を必要とするだろう。

そして勿論敵はその間も動き続けているのだ。ハンマーを打ち付けた箇所を支点にするように、巨人はその腕を使って全身を持ち上げると体全体をこちらへと投げ出した。その移動により対となる左の腕に備わった、回転するブレードがこちらを間合いに捕えている。その腕を突き出す速度、関節の稼動角から見た追撃予想範囲に対して、一瞬とはいえ動きを止めてしまった俺はそれを回避しきることは出来そうもない。

だが、直撃を受けなければ即死することはない。可能な限りその殺傷圏内から体を逃がしつつ、俺は構えた剣先をその回転するブレードの只中へと差し込んだ。秘術火薬の炸裂により人間の肉体では到底不可能な速度で空気を切り裂いている刃が俺の剣と激突する。最高硬度を誇るアダマンティンの刃は幸い切り裂かれるようなことはなく、その竜巻に巻き込まれるように流されていく──俺は剣を握る掌にありったけの力を籠め、そのうえで腕を支点に体全体を回転させるように動かした。

差し込む位置と体の動きを過てばそのまま床へと叩き付けられ、抑えつけられたところで体を切り刻まれるであろう賭け。だが俺は見事にその挑戦を成功させ、空中へと自らの肉体を放り出すことに成功した。ブレード自体の回転する力を利用して、その殺傷圏内から逃れたのだ。コンマ数秒を何十倍にも引き延ばしたかのように感じるほどの集中と、肉体を酷使したことでギリギリ可能となった行動。まさに間一髪といえるだろう。

腕だけでなく無理をした体全体に負担が残っており、傷はなくとも相当なダメージが残されている。同じことをもう一度するためには回復しなければならない。防御フィールドを打ち破った以上、攻撃は他の皆に任せることが出来る。俺は防御と回復に専念しつつ敵の注意を引き付け、攻撃は皆に任せるべきか?──そう考えた俺の視界に、信じがたい光景が映る。

タイタンの全身に散らばっていた眼球が、損傷箇所へと集まっていく。そして膨れ上がったかと思うとその部位は修復されてしまっていた──そのうえで、全身に這う眼球の量は増えているように見える。さらに損傷が癒えたことでか、再び防御フィールドも展開されてしまったようだ。そして万全の体勢を整えたウォーフォージド・タイタンはその左腕の砲口を振り上げる!

歪な眼球が赤く輝き、その光点が左腕へと収束していく。流れるエネルギーがブレードの内側を走って赤いラインを描き、砲口からも溢れださんとした瞬間にそれは放たれた。巨大な単発の砲撃ではなく、断続的に放たれる散弾の群れ。初弾を回避した俺を追って砲口が動き、さらには回避先をも想定して多数のエネルギー弾がばら撒かれた。弾速は早くない、むしろ目視してから回避を始めても直撃を避けることは可能だろう。だがその数と合わせ、床に着弾するや周辺に衝撃を拡散することで大きな範囲をカバーする点が厄介だ。〔力場〕と〔火〕の二重属性か、撒き散らされた余波は熱を伴い空気の層を揺らしている。


──得手とする秘術の引き出しはまだ残っているだろう? 私にその真髄を見せておくれ!


眼球が輝き、イスサランの思念が響き渡る。彼の意思はあの邪眼の群れとなって健在だという事か。であるならばサイオニクス・パワーをあの形態で行使可能である可能性についても考慮しなければならない。だが俺の目にはあの邪眼はその全てが同一のものに見える。全てを吹き飛ばすには結局のところタイタン自身を破壊する必要があるだろう。そして生半可な攻撃では状況を悪化させるだけだということが、先ほどの攻撃で判明している。

だが、全員の最大火力を集中するとなればエレミアとフィアには接近戦を行ってもらう必要がある。しかし万が一その攻撃で倒しきれなかった場合、苛烈な反撃を受けてしまうだろう。あの二人ではそれを回避しきることは出来ず、死亡する。勿論、蘇生することは可能だが一度死体となった時点で付与された呪文は失われるため、戦闘力を取り戻すためには相当な数の付与呪文を掛けなおす必要がある。その余裕を与えてくれるとは思えない。チャンスは実質1回きり。それを活かすためには相手の実力を正確に見極める必要がある。

既に敵の正体について見当は付いている。あの漂う眼球の正体は"マルチヘッデッド・クリーチャー/多頭種"、それもレルネー・パイロ種のものとみて間違いない。ヒュドラのようなクリーチャーを再現するためのテンプレート、それを先ほどのイスサランの秘術がタイタンへ後天的に付与したのだろう。《ロード・オヴ・アイズ/千眼の王》ベラシャイラと呼ばれるデルキールの王の一人、司祭を捧げることでその加護を得たというところか。

神話で語られるヒュドラ同様、レルネー種マルチヘッデッド・クリーチャーはその頭部を全て破壊しなければ倒すことは出来ない。そして一部の頭部が破壊されたとしても、やがてその傷は再生し元に倍する頭部が生えてくるという厄介なクリーチャーなのだ。その最大数は元々の頭部の数の2倍まで増加するうえ、それぞれの頭部は元となったクリーチャーと同等のヒットポイントを有している。元は50ほどだった眼球は先ほどの俺の攻撃を受けてその数を増している。最大であの邪眼は個数を100ほどまで増やし、その時のあのタイタンの耐久性は最大で従来の50倍──《千眼の王》の加護に相応しい、邪悪な異形だといえよう。

従来のレルネー種であれば火や酸で傷口を焼くことによりその再生を止めることが出来るのだが、レルネーの中でもパイロ種と呼ばれる炎のブレスを吐くタイプは火に対する完全耐性を有している。敵の砲撃に火属性が付与されていることから奴がパイロ種であることは間違いないだろう。そして残る酸はどうかというと、怪しいところだ。マインド・フレイヤーの秘儀であるヴォイド・マインドは酸に対する完全耐性を有する。このウォーフォージドタイタン・ナイトメアも同様にマインド・フレイヤーの秘儀による産物だ。そのうえイスサランという強力な術者が、そのような弱点を放置しているとは思えない。

再生に要する時間は短ければ6秒、長ければ20秒強だがその期間は頭部ごとに異なる。一気に倒すのであれば最短時間のうちに破壊し尽くすことが必要だろう。元となったウォーフォージド・タイタンは48HDの超巨大サイズの人造、最大化されているとすればそのHPは560点。その頭部を全て破壊しなければならないのだから、単純なHPの数字以上の耐久性を有しているといえる。

百眼の機神はこちらを嬲るように足を止めたまま散弾の砲撃をばら撒いている。立ち並ぶ柱を遮蔽に取ったとしても、着弾と同時に炸裂し周囲を捻じ曲げ焼き焦がす余剰エネルギーだけでこちらは徐々に削られていく。炎だけであれば《レジスト・エナジー》で防ぐことが可能だが力場効果に対して抵抗を得る手段を俺は有しておらず、眼球の数が増えるに従って威力と正確性を増しており回避が困難になっていくというオマケ付きだ。

半端な攻撃は邪眼の数を増やし、敵を勢いづかせることにしかならない。また一気に破壊するには相当の仕込みが必要だが、それを見逃すイスサランとも思えない。イスサランの動きを封じたうえで、タイタンの足を止める。非常に分が悪くとも、勝つためにはそれを達成するしかない。弾幕を回避しながら念話で皆に作戦を提案する。


──安全に勝ちを拾えるような相手であるとは最初から思ってないさ。

  少しでもあのイカレ目玉にナイフをぶち込む機会が増えるなら、喜んで手を貸すよ

もっとも危険な役を担うラピスが真っ先に返事をし、皆も肯定を返してくる。それを確認してから俺は柱の陰から飛び出し、護りの力を強く付加されたコペシュを片手に構えてウォーフォージド・タイタンの正面へと進んだ。


──相談は終わりかね? さあ、その力を存分にぶつけるといい。私にその輝きを、可能性を見せてくれ!


イスサランの思考と同時にタイタンの左腕の砲口がこちらを捕え、巨大なエネルギー弾が放たれる。全身を覆う邪眼から送られたパワーを収束されたそれは、直撃すれば一撃で俺の命を奪うだけの破壊力を今の時点でも有している。薄膜に覆われたような視界の中、近づいてくるその砲弾を床の上をすべるようにサイドステップを織り交ぜて回避しながら前へ。

タイタンは砲撃の勢いで後ろへと弾かれた左腕をその勢いを溜めとして、一気に突き出してくる。再び回転するブレードが眼前に広がり、俺を追い込むように展開したそれはやがて包む込むようにその幅を狭めてくる。その攻撃に対し、俺の展開した光翼が激突した。赤い光を放って回転するブレードが光の翼を切り裂こうと唸りを上げるが、それをなお塗り潰す勢いで白光が炸裂する。狂気によって鍛え上げられた悪夢の金属が、まるで深海に放り込まれた空のペットボトルのようにひしゃげて折れる。

肩の付け根から腕を奪われたタイタンだが、即座に付近の邪眼がその傷口へと移動すると泡のように膨らみ次々と再構築が始まっていく。一つの泡の表面の上を邪眼が滑るように移動し、その先で再び弾けて泡となる。連鎖する白い球体が歪な腕を形作り、それは数秒をかけて徐々に元通りの形を取り戻そうと蠢いていく。

だがその間、俺もただ傍観していたわけではない。さらにタイタンとの距離を詰めたうえで、今度は巨人の足を薙ぎ払う。支えを失って崩れ落ちる巨体は、だがその体勢すらも利用して俺へとその鉄槌を振り下ろしてきた。その腕を四翼の最後の一つで吹き飛ばし、四肢を奪われた巨人は轟音と共にその胴体を横たえる。


「──今だ!」


俺の合図とともに、周囲に立ち並んでいた柱の根元へエレミアとフィアが刃を走らせた。天井側の接合部は既にラピスが操るナイフに込められた呪文で切り離されており、そこに二人の斬撃が加えられたことで完全に自由となった巨大質量はゆっくりとその自重に従って傾き、四肢を失って身動きの取れないタイタンの上へと倒れこんだ!

そしてそれは一本だけで終わらない。林立する柱は次々と二人の手により切り倒され、鋼の巨人の上へとのしかかっていく。勿論、地下港で戦ったただのタイタンではなく、イスサランが宿った存在であるからにはこのような押しつぶしからはサイオニックの力で脱出することは可能だろう──だがそれを防いでいるのが、《アンティマジック・フィールド》を展開したラピスだ。彼女は倒れてくる柱から巧みに身をかわしながら、超常能力を無効化するフィールドにタイタンを捕え続けている。

仕込みの呪文を準備している俺とラピスはタイタンを中心に対照の円を描くように回る。そんな俺達に対して、四肢を捥がれた巨人は瓦礫の下で押しつぶされたままに不完全な腕を振り回してくる。打撃というよりもこちらを抑えつけようとする動き。不安定な姿勢とはいえ、その機械仕掛けの怪力は数千の年を経たドラゴンをも捻りつぶすほどのものだ。組み合いで勝負できるはずもない。

そしてそこにさらにエレミアが加わった。彼女は再生しつつある巨人の四肢に斬撃を加え、その勢いを少しでも削がんと剣を振るった。間合いに留まれば死という状況でデルヴィーシュの旋舞は彼女に連撃離脱を可能とせしめた。薄氷どころか、水に濡れた薄紙の上で踊るような精密で繊細な交差。刹那の動作を1ミリ誤っただけで全てが失われてしまう死の舞踏。

だがついに均衡が破られる時が来る。こちらの想定を超えた速度で、最初に破壊されたタイタンの左腕が復元を完了したのだ。その左腕の肘から薬莢が弾きだされ、回転するブレードがラピス目がけて地を這うように襲い掛かった。無理な体勢からの攻撃とはいえ、俺すら回避しきれない死刃の旋回を魔法抑止下にあるラピスが回避しきれるはずもない。《アンティマジック・フィールド》は彼女が生来有するライカンスロープとしての半獣形態や銀以外への物理攻撃への耐性なども抑止してしまっているのだ。ブレードが彼女を蹂躙し、やがて擦れ合う床との摩擦で回転を止めた。邪眼の放つ陰鬱な色とは違う、鮮血の赤がその周囲を彩っている──だがそれでもなお《アンティマジック・フィールド》はその効果で巨人を捕えることを止めていない。


「こんなナマクラに取られるほど、僕の命は安くないよ──」


停止した刃の間から、満身創痍のラピスが姿を現す。軽口を叩いているが、その全身は切り傷で覆われており纏っている黒いローブも至る所が切り裂かれている。それでも命を保っているのは、トリック・スターである彼女が死神すらも騙し、自らの死を拒絶したのか──いずれにせよ、彼女の献身が最後の時間を稼いでくれた。他の四肢の再生を順次終えたタイタンがもがくように立ち上がろうとしているが、それよりもこちらの一手のほうが早く巨人を打ち据える!

タイタンの直上、天井近くに張り付いた照準器へと膨大なエネルギーが注がれていく。この"トワイライト・フォージ"を維持しているエネルギーの大半が、クリスタル導火物という特殊な触媒によってそこへと収束されているのだ。俺達が時間を稼いでいる間、メイは本来の"タイタン・アウェイク"のクエストにおけるクリア手順を踏んでいたのだ。


「──撃ちます!」


メイがこの広間の片隅にあるコントロールパネルを操作し中央にあるスイッチを押し込むと、まばゆいルビー色の光線がものすごい力でウォーフォージド・タイタンを攻撃した! 極太のレーザーが巨人の上に折れ重なっていた柱を一瞬で蒸発させ、再展開されていたタイタンのバリアを破壊する。本来であればこれを繰り返すことでバリアの発生機構に負担をかけ、バリアを完全に無力化してからタイタンを倒すというのがクエストの流れだ。だが、今回はそのような悠長な手段をとっている場合ではない。

巻添えを避けるためにギリギリでラピスが離脱していたため、この瞬間タイタンは《アンティマジック・フィールド》に捕われていない。そのタイミングを見計らい、俺が《呪文遅延化》によって維持していた複数の《スコーチング・レイ》が同時に起動する。《エネルギー変換》により冷気と電撃の束となった呪文が、タイタンの表面を漂う邪眼へ次々と命中していく。

《スコーチング・レイ》が本来放つ3本の火閃は、《光線呪文分枝化》により4本となり、それぞれの邪眼は1本の光線で破壊されていく。時折クリティカルによって1閃で破壊される双眼もあり、俺は破壊力を最適に分散できるように30秒かけて蓄積した80本の閃光をばら撒いていく。

着弾した光線は邪眼を打ち砕きつつ、その周囲にあったタイタンの構造を食い荒らしていく。だがすべての光線がその役目を果たしてなお、ウォーフォージド・タイタンはその輪郭を保っている。直前に四肢を奪った攻撃から再生したことで、上限である50まで頭部の数が増えていたのだろう。いまだに残っているいくつかの邪眼が体表のそこかしこで蠢き、破壊された箇所では白い泡が再生の兆しを見せようとしている。


「──さっきの分だ、しっかり利子をつけて返させてもらうよ!」


だがそこに《アンティマジック・フィールド》を解除したラピスが操る45本のスペルストアリング・ナイフを降り注いだ。ルーに支えられるようにして《ヒール》を受けているラピスは両手にメタマジックロッドを握り、その《呪文二重化》と《呪文高速化》によって常の3倍の火力をタイタンへと見舞ったのだ。それぞれのナイフは突き立った箇所で爆発を起こし、俺の《ウイングス・オヴ・フラリー》がクリティカルした際の威力を超えるほどのダメージとなって体表に残った邪眼を駆逐する。

そしてすべての邪眼を剥ぎ取られた鋼の巨人に向けて、エレミアの剣舞が押し寄せた。稲妻を逆回しにしたようなジグザグな斬線が巨人の左脚を走り、その体が崩れ落ちる前にその今しがた切り付けた脚部を蹴りつけて上へ。上昇しながら左腕をその根元から一太刀で切り落とし、さらにはその肩から本来の頭部、さらに右腕へと空中をすべるようにエレミアは疾駆し、斬撃の痕跡を残す。瞬く間の24連撃は超巨大だった巨人のサイズを一回り小さくカットし、ウォーフォージド・タイタンは崩れ落ちる。

だが本来の頭部に残る赤い眼光はいまだ消えていない。右腕のハンマーはその崩れ落ちる体勢を利用するように高く掲げられ、振り下ろされる時を待っていた。しかし、機を図っていたフィアが突如間合いを詰めるとその胴体を一閃する。その華奢な体躯のどこにそれだけの力が秘められていたのか、技術と信仰の相乗効果で高められた一撃は崩れ落ちようとしていた巨人を押し戻した。


「さあ、止めを頼むぞ!」


《ホワイトレイヴン・タクティクス》。一撃離脱でタイタンから離れながら投げかけられた彼女の声に応じるように、俺の周囲に再び光翼が顕現する。荒れ狂う力場の奔流が殺到し、巨人の体は部品単位まで分解されると次は拳大に圧縮され、さらに砕かれ細片となって目に映らぬほどまで破壊していく。強力な力場呪文が立て続けに行使されたことで視界を覆っていた異界の層は吹き飛ばれており、後に残るのは煌めく光の残照のみだ。

かけらすら残さぬ、破壊を越えた消滅。ここまでやれば再生は不可能であろうし、途中でイスサランが超能力で干渉した形跡もない。万が一の場合はメイが《アンティマジック・フィールド》を展開して干渉する手はずだったが、その必要は無かったようだ。

戦闘の終結を感じた俺は残心を解き構えていた剣を下げる。だが剣はその掌から滑り落ちると床に落ちて固い音を立てた。いや、剣だけではない。指に嵌めていた指輪は割れ、砕けていく。魔法を帯びていた装身具の類がその力を失い、身を包んでいた種々の付与呪文もあたかも効果時間が終了したかのように消えている。


「──な、に?」


それらを知覚したのと、俺の視界が胸から生えている白銀の刃に気付いたのは同時だった。全身から力が抜け落ち、体を支えることが出来ず、剣先が抜かれると同時に膝が崩れていき体が崩れいていく。

そして膝をつき頭上を仰ぐような姿勢となった俺の視界に映ったのは、口元から生やした触手を気分よく蠢かせる異形の顔だった。


「──見事であったぞ、シベイの御子よ。その働きの代価として、真理に触れる機会を与えよう」


イスサランの瞳が怪しく輝く。指輪や呪文から付与されていた精神作用への抵抗を失い、さらに胸の傷により生命力を失いつつあった俺はその瞳に抵抗することは出来ない──閉じ行く瞳に最後に映ったのは、突如出現したマインド・フレイヤーへと打ち掛かる仲間たちの姿だった。


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