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No.15685の一覧
[0] フォンフォン一直線 (鋼殻のレギオス)【一応完結?】[武芸者](2021/02/18 21:57)
[1] プロローグ ツェルニ入学[武芸者](2010/02/20 17:00)
[2] 1話 小隊入隊[武芸者](2011/09/24 23:43)
[3] 2話 電子精霊[武芸者](2011/09/24 23:44)
[4] 3話 対抗試合[武芸者](2010/04/26 19:09)
[5] 4話 緊急事態[武芸者](2011/09/24 23:45)
[6] 5話 エピローグ 汚染された大地 (原作1巻分完結)[武芸者](2010/05/01 20:50)
[7] 6話 手紙 (原作2巻分プロローグ)[武芸者](2011/09/24 23:52)
[8] 7話 料理[武芸者](2010/05/10 18:36)
[9] 8話 日常[武芸者](2011/09/24 23:53)
[10] 9話 日常から非日常へと……[武芸者](2010/02/18 10:29)
[11] 10話 決戦前夜[武芸者](2010/02/22 13:01)
[12] 11話 決戦[武芸者](2011/09/24 23:54)
[13] 12話 レイフォン・アルセイフ[武芸者](2010/03/21 15:01)
[14] 13話 エピローグ 帰還 (原作2巻分完結)[武芸者](2010/03/09 13:02)
[15] 14話 外伝 短編・企画[武芸者](2011/09/24 23:59)
[16] 15話 外伝 アルバイト・イン・ザ・喫茶ミラ[武芸者](2010/04/08 19:00)
[17] 16話 異変の始まり (原作3巻分プロローグ)[武芸者](2010/04/15 16:14)
[18] 17話 初デート[武芸者](2010/05/20 16:33)
[19] 18話 廃都市にて[武芸者](2011/10/22 07:40)
[20] 19話 暴走[武芸者](2011/02/13 20:03)
[21] 20話 エピローグ 憎悪 (原作3巻分完結)[武芸者](2011/10/22 07:50)
[22] 21話 外伝 シスターコンプレックス[武芸者](2010/05/27 18:35)
[23] 22話 因縁 (原作4巻分プロローグ)[武芸者](2010/05/08 21:46)
[24] 23話 それぞれの夜[武芸者](2010/05/18 16:46)
[25] 24話 剣と刀[武芸者](2011/11/04 17:26)
[26] 25話 第十小隊[武芸者](2011/10/22 07:56)
[27] 26話 戸惑い[武芸者](2010/12/07 15:42)
[28] 番外編1[武芸者](2011/01/21 21:41)
[29] 27話 ひとつの結末[武芸者](2011/10/22 08:17)
[30] 28話 エピローグ 狂いし電子精霊 (4巻分完結)[武芸者](2010/06/24 16:43)
[32] 29話 バンアレン・デイ 前編[武芸者](2011/10/22 08:19)
[33] 30話 バンアレン・デイ 後編[武芸者](2011/10/22 08:20)
[34] 31話 グレンダンにて (原作5巻分プロローグ)[武芸者](2010/08/06 21:56)
[35] 32話 合宿[武芸者](2011/10/22 08:22)
[37] 33話 対峙[かい](2011/10/22 08:23)
[38] 34話 その後……[武芸者](2010/09/06 14:48)
[39] 35話 二つの戦場[武芸者](2011/08/24 23:58)
[40] 36話 開戦[武芸者](2010/10/18 20:25)
[41] 37話 エピローグ 廃貴族 (原作5巻分完結)[武芸者](2011/10/23 07:13)
[43] 38話 都市の暴走 (原作6巻分プロローグ)[武芸者](2010/09/22 10:08)
[44] 39話 学園都市マイアス[武芸者](2011/10/23 07:18)
[45] 40話 逃避[武芸者](2010/10/20 19:03)
[46] 41話 関われぬ戦い[武芸者](2011/08/29 00:26)
[47] 42話 天剣授受者VS元天剣授受者[武芸者](2011/10/23 07:21)
[48] 43話 電子精霊マイアス[武芸者](2011/08/30 07:19)
[49] 44話 イグナシスの夢想[武芸者](2010/11/16 19:09)
[50] 45話 狼面衆[武芸者](2010/11/23 10:31)
[51] 46話 帰る場所[武芸者](2011/04/14 23:25)
[52] 47話 クラウドセル・分離マザーⅣ・ハルペー[武芸者](2011/07/28 20:40)
[53] 48話 エピローグ 再会 (原作6巻分完結)[武芸者](2011/10/05 08:10)
[54] 番外編2[武芸者](2011/02/22 15:17)
[55] 49話 婚約 (原作7巻分プロローグ)[武芸者](2011/10/23 07:24)
[56] 番外編3[武芸者](2011/02/28 23:00)
[57] 50話 都市戦の前に[武芸者](2011/09/08 09:51)
[59] 51話 病的愛情(ヤンデレ)[武芸者](2011/03/23 01:21)
[60] 51話 病的愛情(ヤンデレ)【ネタ回】[武芸者](2011/03/09 22:34)
[61] 52話 激突[武芸者](2011/11/14 12:59)
[62] 52話 激突【ネタ回】[武芸者](2011/11/14 13:00)
[63] 53話 病的愛情(レイフォン)暴走[武芸者](2011/04/07 17:12)
[64] 54話 都市戦開幕[武芸者](2011/07/20 21:08)
[65] 55話 都市戦終幕[武芸者](2011/04/14 23:20)
[66] 56話 エピローグ 都市戦後の騒動 (原作7巻分完結)[武芸者](2011/04/28 22:34)
[67] 57話 戦いの後の夜[武芸者](2011/11/22 07:43)
[68] 58話 何気ない日常[武芸者](2011/06/14 19:34)
[70] 59話 ダンスパーティ[武芸者](2011/08/23 22:35)
[71] 60話 戦闘狂(サヴァリス)[武芸者](2011/08/05 23:52)
[72] 61話 目出度い日[武芸者](2011/07/27 23:36)
[73] 62話 門出 (第一部完結)[武芸者](2021/02/02 00:48)
[74] 『一時凍結』 迫る危機[武芸者](2012/01/11 14:45)
[75] 63話 ツェルニ[武芸者](2012/01/13 23:31)
[76] 64話 後始末[武芸者](2012/03/09 22:52)
[77] 65話 念威少女[武芸者](2012/03/10 07:21)
[78] 番外編 ハイア死亡ルート[武芸者](2012/07/06 11:48)
[79] 66話 第十四小隊[武芸者](2013/09/04 20:30)
[80] 67話 怪奇愛好会[武芸者](2012/10/05 22:30)
[81] 68話 隠されていたもの[武芸者](2013/01/04 23:24)
[82] 69話 終幕[武芸者](2013/02/18 22:15)
[83] 70話 変化[武芸者](2013/02/18 22:11)
[84] 71話 休日[武芸者](2013/02/26 20:42)
[85] 72話 両親[武芸者](2013/04/04 17:15)
[86] 73話 駆け落ち[武芸者](2013/03/15 10:03)
[87] 74話 二つの脅威[武芸者](2013/04/06 09:55)
[88] 75話 二つの脅威、終結[武芸者](2013/05/07 21:29)
[89] 76話 文化祭開始[武芸者](2013/09/04 20:36)
[90] 77話 ミス・ツェルニ[武芸者](2013/09/12 21:24)
[91] 78話 ユーリ[武芸者](2013/09/13 06:52)
[92] 79話 別れ[武芸者](2013/11/08 23:20)
[93] 80話 夏の始まり (第二部開始 原作9巻分プロローグ)[武芸者](2014/02/14 15:05)
[94] 81話 レイフォンとサイハーデン[武芸者](2014/02/14 15:07)
[95] 最終章その1[武芸者](2018/02/04 00:00)
[96] 最終章その2[武芸者](2018/02/06 05:50)
[97] 最終章その3[武芸者](2020/11/17 23:18)
[98] 最終章その4[武芸者](2021/02/02 00:43)
[99] 最終章その5 ひとまずの幕引き[武芸者](2021/02/18 21:57)
[100] あとがき的な戯言[武芸者](2021/02/18 21:55)
[101] 去る者 その1[武芸者](2021/08/15 16:07)
[102] 去る者 その2 了[武芸者](2022/09/08 21:29)
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[15685] 28話 エピローグ 狂いし電子精霊 (4巻分完結)
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:cc434be1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/24 16:43
フェリからの報告が入った。ナルキが念威繰者を下したらしい。
シャーニッドはダルシェナの相手をし、ニーナはオリバーと戦闘中だ。
ならば、後は自分の仕事を全うするだけだ。

「……なんだお前は?」

レイフォンは錬金鋼すら抜いていなかった。
そんな彼にディンを除いた3人が連携を駆使し、猛攻を仕掛けるもレイフォンはそれを素手で捌く。
ディンは後方から、ワイヤーを使って絶妙なタイミング、隊員達をフォローする攻撃を仕掛けてくる。
それでもレイフォンには当たらず、それどころか返り討ちにあっていた。
3人の隊員達の急所にレイフォンの拳が埋まり、地に倒れる。
それはまさに一瞬。ディンにすら何が起きたのかわからない。
自分の作戦は間違っていなかったはずだ。違法酒を用いていないが、それでも自分達に出来る最高の作戦を選んだはずだ。

第十七小隊には、新規に入ったナルキを加えても5人しかいない。
ダルシェナを突っ込ませ、本来なら自分の役目である罠や障害物の破壊をオリバーに任せる。
彼女自身の突撃、攻撃力は脅威であり、真正面から受け止められるのは第一小隊のヴァンゼか、第五小隊のゴルネオくらいだと思っていた。
故にそちらに戦力を割くべく、最低でも2か3人はダルシェナとオリバーの方へ戦力を割くだろうと読む。
その計画通り、ダルシェナにはシャーニッドが、オリバーにはニーナが向かった。
入ったばかりのナルキに念威繰者を撃破され、指揮系統が狂ったのは予想外ではあったが、相手が1年生の新人とは言え直接的な戦闘力を持たない念威繰者では仕方がない。
それらを踏まえても、状況はこちらが有利だと思っていた。
自分達の進路を塞いだのは、第十七小隊のエース、レイフォン。
第十七小隊では最も警戒するべき相手ではあるが、こちらはディンも含めて4人もいるのだ。故に心の奥底で油断し、勝利を確信していた。
確かに彼は油断できず、デビュー戦で第十六小隊の3人をまとめて倒したと言う実績を持つが、その注目度故に色々と対策を練られ、警戒されている。
もちろん、第十七小隊と戦うにおいて、ディンもその状況を想定した。警戒し、対策を練った。
その結果がこれだ。

「なんなんだお前は!?」

ディンは我が目を疑った。
残るはディン1人。3人の隊員はレイフォンにより一瞬で倒されてしまった。
その程度ならばまだ良い。驚愕はするだろうが、第十六小隊も一瞬でレイフォンに3人倒されてしまったのだ。
だが、今のレイフォンは素手。錬金鋼すら抜かずに3人の小隊員を一瞬で倒したのだ。
そんなことが、普通の学生武芸者に出来るわけがない。その事実が、レイフォンの実力が尋常ではないことを示している。

「今は、あなたの結末です。それ以外ではないです」

気取ったつもりはないが、うまい言葉も思いつかなかった。
とっさに出てきたのは、シャーニッドが言っていた『結末』と言う言葉。
ただ、疑問に思うこともあった。違法酒を使っているというのに、思ったよりも手ごたえがない。
多少剄の量が上がってもレイフォンには敵わなかっただろうが、それでも弱すぎる。
いぶかしみながら剄の流れを見てみるが、剄の流れは意外にもスムーズだった。
本来、違法酒を使えばほとんどの場合は剄が乱れる。
剄の量が劇的に増え、衝剄や活剄などの剄技で消費しきれなかった剄が体外に垂れ流されてしまうためだ。
剄脈を自分の意思で操りきれないために起こるこの症状だが、ディンにはそれがまるでない。
レイフォンが感じる剄の量からしても、小隊員としては平均的なものにしか感じない。

(もしかして……)

違法酒を使っていないのか?

そんなことを考えながらも、だけど自分にはどうすることも出来ないと理解する。
この試合では確かに違法酒は使っていないのかもしれない。だが、今更だ、遅すぎた。
使っていないからと言って、その罪が消えるわけではない。今回の作戦を、今更なかったことにするわけにはいかない。
自分はただ、計画通りに実行するだけ。そうすることで、自分の意思でやっているというのではないある種の逃げで、レイフォンは簡易型複合錬金鋼を、刀を復元する。
復元し、刀を握って、レイフォンの胸に鈍い痛みが走った。
それは後悔。裏切り、技を汚すと言う罪悪感にレイフォンは表情を歪める。
それでもこの選択を、やると決めたのは最終的に自分だ。カリアンの計画に頷き、今ここで刀を握っている。

想いが拒絶しているのに、罪悪感が浮かぶと言うのに、刀を握ることでなぜかレイフォンは落ち着いていた。
今まで外れていた何かが、すっぽりと収まったような感覚。
それもそうだろう。今のレイフォンの始まりが刀であり、サイハーデン刀争術なのだから。
元の鞘に収まり、自分でも驚くほどの安心感と安定感が宿る。だが、すぐにまたこの感覚から去らねばならないのだ。
それが非常に残念であり、悲しい。

「行きます」

「ぬっ、おぉぉぉぉっ!」

レイフォンの宣言に、ディンは雄叫びで応えた。
レイフォンが走り、それをディンがワイヤーで迎え撃つ。レイフォンの鋼糸に似ているが、あれよりもっと太く、数なんかは比べるまでもなく少ない。
先には尖った錘が付いており、それがレイフォンに迫るがその攻撃は虚しく宙を駆けるのみだった。
当たらない。当たったと思った瞬間、レイフォンの姿が掻き消えた。残像だ。
レイフォンはさらに速度を上げ、ディンに迫る。
速度の緩急によって相手の感覚を狂わせ、内力系活剄 疾影により気配のみを四方に飛ばして混乱を助長させる。
ワイヤーの隙間を縫って、レイフォンはディンの前に立った。あえて正面だ。
学生武芸者のレベルで反撃できるとは思わないが、あえて反撃を受ける危険がある、真正面に立った。

(結末に後ろから忍び寄られるなんて、最悪だ)

甘いと思いつつ、レイフォンは正面から向かい合って刀を振り下ろす。
刀身を剄が覆い、流れる水を切ったように弾け、ディンに降り注ぐ。それは針だ。無数の針となり、弾けた剄はディンの体の各所に突き刺さった。

外力系衝剄の変化 封心突

「くぁ……ぁ……」

ディンが呻きながら、その場に膝をついた。ワイヤーが力なく地面に落ちる。
実際に技を受けてみるというやり方で教わったので、その感触は知っている。痛みはそれほど激しくないが、全身から力を吸い取られたかのような嫌な虚脱感がディンを襲っていることだろう。
レイフォンが剄を制御しつつ、このまま数分封心突を解かなければ、予定通り半年は剄が使えなくなるはずだ。それまで、このままじっとしていればいい。

周囲を見れば、砂煙は未だにグランドの半分を覆っている。荒れ狂った剄が未だに気流を乱しているのだろう。
だが、このままじっとしていればおそらく、レイフォンが剄を解く時には砂煙は収まっているだろう。

「ぬぅ、うぅぅぅぅ」

「あまり、無理をしない方がいいですよ」

封心突が決まったというのに、それでも立ち上がろうとするディンに驚きながらレイフォンは声をかける。

「無理をしたら、剄脈が壊れます」

今回の試合で違法酒を使っていないとは言え、今までの使用で既に剄脈はボロボロのはずだ。
そんな状態で封心突を受け、剄脈を活動させようとすれば壊しかねない。
例えるなら水路だ。堰き止められている水路に無理に水を流せば、堰を壊すだけでなく、水路を壊す事にも繋がる。

「今更……止まるわけには……」

それでもディンは、それすら構わないと言うように立ち上がる。
剄脈が壊れようと知った事ではないと言うように、ディンは己を奮い立たせる。

「こんなところで止まるわけには行かないんだ!!」

動かない体を無理に動かそうとし、ディンの顔は興奮で真っ赤に染まっている。
その姿と、ディンの言葉の強さにレイフォンは僅かながらも押されていた。

「決めたんだ……この都市を、ツェルニを護ると!始まりは確かにあの人だった。だが、今では俺の本心だ。シェーナと出会い、シャーニッドと出会ったこの都市を失いたくない!!だから俺は止まれない。この都市のためにも、あの人のためにも、シャーニッドのためにも、こんな茶番に協力してくれたオリバーのためにも……なにより、こんな俺を好きだと言って、信じてくれてるシェーナのためにも、俺は……」

実力は比べるのもおこがましいほどにレイフォンが上だと言うのに、ディンに押されている。
その雰囲気に、威圧に、レイフォンは思わず怯んでいた。
だが、感じるのは恐怖ではない。感じるのは、想いの強さ。
ディンの想いに、叫びに押され、思わず共感してしまいそうな心境を抱く。

(この人は、そこまで……)

この都市を想う気持ち。
大切な人達を想う気持ち。

レイフォンとしても、数々の大切な人達と知り合ったツェルニを護りたいと言う気持ちは分かるし、大切な人を護りたいと言う気持ちは痛いほどに共感できる。
もっとも、レイフォンの場合はその人、フェリのためだったら他はどうなろうと構わないと思う反面、その依存度が違うだろうが、基本は一緒だ。

ディンはこの都市を護りたい。それは、確かにあの時の誓いが始まりだったのだろう。
だが、それはディンの中では本心へと変わり、大切な者達のためにもこの都市を護りたいと願う。
だからこそ、こんなところで立ち止まれない。立ち止まる暇などないのだ。

「お前にはわからんだろう」

ついには立ち上がり、ディンはレイフォンを睨みつける。
刺さった剄の針は悲鳴を上げ、信じられないと思いながら破壊されないようにレイフォンは剄を送る量を増やした。

「己の未熟を知りながら、それでもなおやらねばならぬと突き動かされるこの気持ちは、お前にはわからん」

ハッキリと断言されたその言葉に、レイフォンは僅かに顔をしかめた。
わかるはずがない。レイフォンのような圧倒的実力者に、天才に、ディンのような凡人の気持ちなど、力が及ばぬ者の気持ちなど、分かるはずがないと言う叫び。
だが、確かにレイフォンは天才で、それは傲慢でも驕りでもなく、事実として認識しているレイフォンだが、その気持ちは理解できた。

「……僕だって、人生の何もかもがうまく言ったわけじゃないですよ。むしろ、失敗したからこそここにいるんです」

レイフォンのような実力者が何故学園都市にいるのか?
理由を考えれば単純である。自分の都市にいられなくなった理由、何かがあるのだ。
レイフォンの場合、確かに武芸の才能は、実力は他者を圧倒するほど素晴らしいものを持っていた。
だが、レイフォンの場合は、己の感情を制御する力が、心が未熟だった。

「強いからうまくいくなんてわけじゃない。うまくやれなかったから失敗するんです。それで僕は失敗しました。だけど、後悔はしてません。この都市で僕は、大切な人に出会いましたから。その人を護りたいから、その人と出会ったこの都市を護りたいと思うから、あなたのその気持ちは分かります」

知らず知らずのうちにレイフォンは、ディンを自分の姿へと重ねていた。
想いで暴走し、失敗した自分。
失敗しようとしているディン。
その姿を重ね、思わず封心突を解いてしまいそうな気持ちに襲われる。
だけど今更止まれるところに、後戻りできぬところに来ているディンを見て、その選択を選ぶわけには行かない。

「ですが、あなたもうまくやれなかった。最悪の選択肢を選んだんだ。なら、この結末はまだマシな方ですよ」

マシだとは思う。
孤児達に、家族だと思っていた者達に罵倒されるわけではない。
都市を追放されるわけではない。
ただちょっとだけ、半年ほどだけ病院のベットで寝ていればいいだけなのだ。
生徒会もこの件は不問とするようだし、それだけでディンは許されるのだ。
だからこの結果は、マシなはずだ。

「……それは、誰が決めた?」

「え?」

だが、ディンは納得できなかった。
立ち上がってはいるが、それでも歩く事すら困難だと言うのに、ディンは右足を一歩前に出す。こちらへと、歩んできた。

「俺の結末を誰が決めた?お前か?ニーナ・アントークか?生徒会長か?俺の結末を他人に決めさせはしない。俺の意思はそこまで弱くはない……」

また一歩、足が踏み出される。
更には、剄の針に皹が入るのを感じた。

「嘘だろ!?」

その光景に、レイフォンが思わず叫ぶ。
それほどまでにこの光景が信じられなかった。
ディンの威圧感が増し、気流が再び激しく動き始める。剄が荒れ狂っているのだ。
封心突をしていると言うのに、ディンがそれを破ろうとしている。
信じられない。レイフォンの技量は、既に養父のデルクを超えていると言ってもいい。
久しぶりに刀を握ったからブランクはあるかもしれないが、それでも学生武芸者ごときに破られる技ではない。
確かにディンの剄脈からは剄が激しく溢れ出してはいたが、それだけではこの技は破れない。気流もこんなには乱れない。
まるで、空から災いが落ちてくるような……
ふと、レイフォンは思う。この感覚を、どこかで感じた覚えがあると。

「俺は止まらんっ!」

四肢に剄を流し、ディンが吠えた。
その瞬間、更に気流が乱れ、ついには剄の針が砕ける。

「お前は……」

ディンの背後には、黄金の牡山羊が立っていた。





































ハイアの申し出を、当初は断るつもりだった。
兄のカリアンが連れてきたとは言え、怪しかったし、フェリからすれば信用もできなかったからだ。そして何よりめんどくさい。

だと言うのに何故、話を受けたのか?
理由は簡単だ。レイフォンが絡んでいたからだ。
ハイアが言ってた、強いものに不幸をもたらすと言う言葉。
その言葉を聞いたからこそ、このツェルニでは一番強いレイフォンの害になりそうな廃貴族をハイア達に押し付けようとした。
グレンダンに連れ帰るのが目的なら、好きに連れ帰ればいい。自分とレイフォンの周辺に害が及ばないなら、それ以外は知った事ではないのだから。

自分は、あの廃都で廃貴族を発見した時の感覚を感じたら、それをハイアに教えるだけでいいのだ。
フェリがやるのはそれだけだが、いつ現れるのかはわからない。
ただ、ハイアは戦いの気配に敏感だから、対抗試合でなにか起こるかもしれないとハイアが言っていた。しかし、まさかこのタイミングとは誰が予想しただろうか?

レイフォンが封心突を決め、ディンを追い詰めたその時、廃貴族が現れた。
本来ならこれで試合は終わっていたはずだ。隊長のディンを仕留め、第十七小隊の勝利のはずなのだ。
第十小隊の違法酒の不祥事も、ディンの戦線離脱、第十小隊の解散で幕を閉じるはずだった。
だと言うのに……

「まさか……」

廃貴族の出現に、その少し前に感じたあの時の不可解な反応を感じ、フェリは戸惑った。戸惑いながらも、フェリは反射的にハイアに廃貴族発見の報を送っていた。
それは意識的ではなく、条件反射だ。念威繰者というのは無数の情報を一度に処理しなければならないので、能力を使っている際に無意識で、反射的にこれらの事を済ませてしまうのだ。
フェリもそうしてしまった。自分の意思とは関係なく無意識で、反射的に。
そうしながら、レイフォンに何かあるのではないかと心配したが、幸いなことにレイフォンは無事なようだ。
一安心したのも束の間、廃貴族の反応はレイフォンから距離を取っている。念威越しの反応では、まるでディンに重なっているように見えた。

その瞬間、フェリは脳裏で火花が散ったような感覚を覚えた。
閃いた、気づいてしまった。推測でしかないが、様々な情報を処理するための思考の高速化が、フェリにひとつの推理を組み立てさせた。

ハイアは何かを隠しており、それをフェリ達には言わなかった。そのことを客観していた自分に失念を感じつつ、ハイアが隠していたことは何なのかを考える。
例えば、フェリが手伝おうと思った理由、『強い者には不幸』と言う言葉。
この強さが単純な腕力、戦闘力の話ではなかったら……それが精神力、意思や思想の強さだとしたら?
もしそうだとしたなら、ディンの意思はまさに好都合だろう。
この都市を護ると言う気持ち。己を犠牲にしてでもと思う強さ。『強き者』を求める廃貴族にとって理想的だ。

もしそうなら……ハイアはこの試合を利用したのではないか?
違法酒の密売組織を利用して、ハイアはツェルニに潜伏していた。
それはつまり、違法酒を利用している武芸者がツェルニにいると知っていたのだ。もしかしたらそれがディンだとハッキリ知っていたかもしれない。
学園都市連盟と言う大きな相互扶助組織に所属する学園都市と言う性質上、不祥事はなるべく避けなければならない。
揉み消しを図るには、今回の様に違法酒で強化された武芸者より強い実力者がいる。レイフォンがツェルニにいる節があった以上、レイフォンが出てくると読んでも可笑しくない。
なにより、レイフォンを戦わせるように促し、サイハーデンの技を明かしたのはハイアなのだから。
全てが計画通りと言う事か?

「騙しましたね」

思わず、言葉が口に出た。
念威端子は繋がったままだったので、その言葉はハイアにも聞こえていた。
そのハイアは、笑っていた。

「そんなつもりはないさ~。ただ、出やすそうな状況になるようにはさせてもらったさ」

つまり、フェリの推測はあながち間違いではないらしい。
それを知り、ハイアの独特な間延びした話し方が癇に障る。

「じゃ、約束どおりにもらっていくさ」

その瞬間、フェリは野戦グランドの中に無数の反応が現れたのを感知した。





いずれまた、これとは対峙することになるかもしれない。
ハイアの目的を聞き、そう感じてはいた。だが、このタイミングで、こんなに早く現れるとは思わなかった。
しかも、ディンになにかをした。

「……なんのつもりだ?」

封心突が破られた瞬間に、レイフォンはディンから距離を取っていた。
その判断は正解だったのだろう。ディンに何かをした牡山羊に視線と問いを投げかけるも、返事は返ってこない。
ディンの周囲にはすさまじい量の剄が溢れていた。
それはもはや違法酒、剄脈加速薬どころの話ではなく、明らかにディンの能力をはるかに上回っている。
今のディンの剄の量だけなら、天剣授受者に匹敵するのではないかと思うほどだ。
通常でこんな状態になれば、あっと言う間に廃人になるだろう。だが、ディンの表情には逆に精気が漲っていた。

(廃貴族……とか言っていた)

この廃貴族が、ディンになにかをしたのは一目瞭然だ。
そしてわからない。ハイア達の目的だ。
この廃貴族をグレンダンに持ち帰るのが彼らの、サリンバン教導傭兵団の目的らしいが、それに何の意味があるのか、サリンバン教導傭兵団が1年もツェルニを護るほどの価値があるのか、レイフォンにはわからない。
わからないまま、もう一度尋ねた。

「なんのつもりだ?」

ぶっちゃけて言えば、レイフォンはこの廃貴族のことをあまり良く思っていない。
状況が状況なだけに仕方がないが、それだけではないのだ。
最初の遭遇では、廃都でフェリとのいい雰囲気な場面を邪魔され、今回は後一歩でディンの事について終わらせる事ができたのに、それを廃貴族は邪魔した。
もはや狙っているのかと問い質したくなり、ディンになにかをしたのと、今回は嫌々ながらも刀を使ったのにと言う行き場のない怒りよりも、前回の廃都での事を思い出す。
やはり一度、この山羊は駆逐するべきではないのかと考える。

そして、二度目の問いかけに廃貴族は答えた。

「我、汝を求める。が、この者も我を所有するに足る炎を求める者なり。ならば試そう、どちらがより相応しいのかを」

その返事と共に、ディンのワイヤーがレイフォンに襲い掛かる。
不意を打つ攻撃だったが、レイフォンは回避した。
回避し、ワイヤーの間を縫うようにディンに接近する。だが、狙いはディンではない。ディンの背後にいる廃貴族に向けてだ。

「はああっ!!」

接近し、そのまま一刀両断。
だが、廃貴族にはあの時の様に効果はなく、手ごたえがない。
切ったのに、切れていないのだ。

「ちっ……」

舌打ちを打つ。
廃貴族は切りかかられたと言うのに、それに怯まずディンからの攻撃が迫る。

(ディンを操っている?)

それをかわしながら、レイフォンは考える。
廃貴族ではなく、レイフォンに攻撃をしているのはディンだ。
顔は精気に満ちているが、その瞳に表情らしきものはなかった。まるでなにかが乗り移ったような目をしている。
廃貴族が操っていると見て、間違いないだろう。
予測や推測ではあるが、剄の大幅な増大から見て信憑性は高い。

「レイとん……なんだこれは?」

そこに現れたのがナルキだ。
自分の役目を終え、この不可思議な気配に反応して来たのか、呆然とした彼女の言葉にレイフォンは回避と攻撃をやめ、即座にナルキの元へと駆けつける。

「つっ!」

ワイヤーがナルキと、後退したレイフォンに襲い掛かる。
レイフォンの頬にはワイヤーが掠り、皮が切られ、僅かに肉を抉られたがそれに構わず、レイフォンはなる気の前に辿り着くと刀を使ってワイヤーを払いのけ、ナルキを脇に抱えてワイヤーの攻撃範囲外に出た。

「な、なんなんだ……」

突然の事態に狼狽するナルキだったが、レイフォンの頬から垂れる血を見て息を飲んだ。

「僕だって詳しくは知らないけど……」

「……あれはなんだ?」

攻撃範囲外でレイフォンはナルキを降ろし、刀を構える。
ナルキにも見えているらしい廃貴族。これで幻覚の類でないことは証明された。
非現実的な光景だが、ハイアの言うとおり、狂った電子精霊とやらなのだろう。

(廃貴族は切れなかった……ならば)

これからどうするのか?
廃貴族はおそらくディンを操っている。だが、廃貴族に攻撃を仕掛けても通用しない。
ならば、攻撃してくるディンを仕留めればいいのではないか?
何も殺しはしなくてもいい。ただ、安全装置が施された錬金鋼で切れ(殴れ)ばいいのだ。
そして気絶でもさせれば、廃貴族はディンから出て行くのではないか?
そんな推測を立て、

(切る)

レイフォンはディンを倒そうと刀を振り上げるが、

「それは俺っち達の獲物さ~」

間延びした声がレイフォンを制止させた。
声と同時にレイフォンの周囲で気配が湧く。殺剄で気配を消し、砂煙を利用して接近してきたのだろう。
いくら目の前の廃貴族に気を取られていたとは言え、レイフォンに気づかれずここまで接近するとは流石サリンバン教導傭兵団と言ったところか。

「ハイアっ!」

「廃貴族は俺っち達がもらう。そういう約束さ~」

団長であるハイアの声と同時に、周囲から無数の鎖が放たれた。
廃貴族を宿したディンはそれから逃れようと跳び、宙へと逃げる。
だが、砂煙の中から飛び出したハイアが即座に追いつき、そのままディンを蹴落とした。
剄で操られた鎖は、地面に落ちたディンを素早くがんじがらめにする。
そう、ディンの背後にいた廃貴族には目もくれず、ディンを捕縛したのだ。

「どう言う事だ?」

なぜ、ディンを捕まえる?
目的は廃貴族ではないのか?

辺りにいるサリンバン教導傭兵団の者達に警戒しながら、レイフォンはハイアに問いかける。
問われたハイアは軽薄な笑みを浮かべたまま答えた。

「どう言う事も何も、廃貴族を捕まえたのさ~」

「それは、あそこにいる奴だろう」

レイフォンは廃貴族、黄金の牡山羊へと視線を向ける。
ディンが捕らわれたと言うのに、廃貴族はその場から身動きもしない。

「あれはいくら俺っちでも捕まえられないさ~。いや、元天剣授受者のレイフォン君にだって無理さ。我らが陛下にだってきっと無理に違いないさ~」

「なんだって?」

その言葉に、レイフォンは驚愕する。
ハイアや自分でも無理。そして、最強の武芸者だと断言できる陛下、グレンダンの女王、アルシェイラですら無理と言う言葉が信じられなかったからだ。
だが、あの廃貴族がアルシェイラより、自分達より強いとは到底思えない。
確かに廃貴族が何かしてディンの技量は上がったが、それでも容易く捕らえられてしまった。
ならば単純な力の問題ではなく、何か理由があるのか?
廃貴族ではなく、ディンを捕らえるべき理由が?

「だけど、宿主を見つけたのなら話は別さ~。その宿主を捕まえちまえば、廃貴族は何も出来ない。汚染獣に都市を好きに荒らされても何も出来ないのと同じさ~」

その理由は、ディンが廃貴族の篭だと言う事だ。
廃貴族がディンに取り付いているのなら、ディンを抑えれば廃貴族は何も出来ない。
都市を汚染獣に襲われても、何も出来ない電子精霊と同じだ。
結局は、あの廃貴族は、牡山羊は電子精霊なのだから。

「……こいつはなにを言っている?」

ナルキが話しに付いていけないと言う様につぶやくが、レイフォンにはなんと答えればいいのかわからない。
ダイアだってナルキが眼中にないのか、答えようとすらしない。
無視をしながら、話を続ける。

「学園都市に来てくれたのは幸いだったさ~。志が高くても実力が伴わない半端者ばかり。廃貴族の最高の恩恵を持て余して使い切れないのが関の山。本当なら俺っち達なんて近づけもしないだろうに、この様さ~」

「グレンダンに連れて行って、どうする気なんだ?」

「そんなこと、グレンダンに戻れないレイフォン君には関係ないさ~」

ハイアの言葉に自分でも驚くぐらいに冷静で、疑問を投げかける。
それでもハイアは得意げに笑い、答えようともしない。
だけどレイフォンは冷静なまま、思考にふける。こんなに冷静にいられるのは久しぶりに刀を握ったからか?
そうも考えたが、実際のところ、自分やフェリに危害が及びそうになかったからだろう。
不安要素の大きい廃貴族の問題を解決してくれるなら、サリンバン教導傭兵団のやろうとしていることに異論はない。
ただ、ディンには同情できる半面と、彼の想いを知ったからこのまま連れて行かせたくないと言う気持ちがあるものの、実際のところレイフォンにどうすればいいのかわからない。
逃げたともとれるが、実際にグレンダンに帰ることが出来ないレイフォンにはハイアの言うとおり関係ないのだ。
サリンバン教導傭兵団は、グレンダンの王命で動いているのだから。
むしろ、追放されたとは言え、レイフォンはそれを手伝うまではしなくとも黙認するべきではないのか?

「まぁ、ヒントぐらいはいいかもさ~。グレンダンがどうしてあんな危なっかしい場所に居続けているか?それの答えと同じところにあるさ~」

「どうして……?」

迷いながらも、ハイアの言うヒントに首を傾げるレイフォン。
グレンダンが危険な場所にいる、そんなことはとっくに気づいている。
異常なほどの汚染獣との遭遇。多い時では毎週のように汚染獣が襲ってくる。
だが、そこで育ったレイフォンにとってはそんなことは当たり前で、そんな異常な場所にいるからこそ、汚染獣を容易に屠れる天剣授受者がいる。当たり前で、当然のことだった。
おかしいなんて思ったことは、ツェルニに来るまでなかった。

(グレンダンがあそこに居続ける理由?)

本来、都市と言うものは汚染獣を回避するように進むべきなのに、なぜグレンダンはああも汚染獣の多い地域を歩いているのか?
ツェルニに来た現在でも、考えたことすらなかった。

「じゃ、もらっていくさ」

ハイアは一方的に会話を閉じる。
レイフォンは相変わらず考え、どう行動すればいいのかわからない。
廃貴族を捕縛してグレンダンに運ぶのは、ハイアが当初からカリアンに言っていたことだ。
ならばこれは、カリアンも承知の事ではないのか?
そのためにディンを生贄にするのかと疑問を持つが、あのカリアンなら都市のためにと生徒の1人や2人は犠牲にするかもしれない。
レイフォンだって無理やり武芸科に入れられたので、思わずそう思ってしまう。
これがもし、フェリだったりするならば問答無用でレイフォンは阻止しただろうが、そうではないために思考にふけったままだ。
優柔不断、へたれだと自虐的に苦笑しながら、とりあえずはフェリに念威の通信を頼み、カリアンに確認を取ろうとしたところで、

「待てっ!」

いつの間にかやってきたニーナが、ハイアを抑止させるように叫んだ。

「ディン・ディーは連れて行かせないぞ」

ディンの連衡を阻止しようとするニーナ。
そんなニーナの登場にもハイアは余裕で、ニヤニヤと笑いながら言った。

「はっ、たかだか一生徒の言葉なんて聞けないさ~」

それでもニーナはひるまず、敵意すら向けて問い詰める。

「貴様ら……ディンをグレンダンに連れて行って、どうする気だ?」

「さあね」

レイフォンと同じ質問に、ハイアは薄ら笑いを浮かべた。
ニーナもまた、ハイアには眼中にないのだ。
それでもニーナは鉄鞭を構え、ハイアに立ち向かう。

「ディンは確かに間違ったことをした。だが、それでも同じ学び舎の仲間であることには違いない。貴様らに彼の運命を任せるなど、私が許さん」

鎖でがんじがらめにされたディンが、グレンダンに連れて行かれてまともな扱いをされるとは思えない。
そもそも、どんな理由があろうともハイアの思い通りにはさせない。
そう決意して、ニーナは宣言した。

「ディン・ディーを放せ」

「……未熟者は口だけが達者だから困るさ~」

ニーナ達とはそれほど年齢も違わないはずだが、ハイアはそんなことを言う。
だが、間違いではない。ハイアは若くしてサリンバン教導傭兵団の団長を勤めるほどの腕前だ。
一度剣を交わせたからこそレイフォンにはわかるが、その技量はニーナのような学生武芸者とは格が違う。
ハイアからすれば、ニーナは十分未熟者なのだ。

「放さなかったらどうするつもりさ?やり合うつもりか?俺っち達と?ここにいる本物の武芸者達と?宿泊施設に待機してるのも合せて43名。サリンバン教導傭兵団を敵に回すって?」

数多くの汚染中と戦い、これまた多くの人同士の争いにも関わって来た傭兵団だ。
数そのものはツェルニにいる武芸者よりもはるかに劣るが、その技量や経験には天と地ほどの差がある。
ハッキリ言って、たかが幼生体に苦戦する学生武芸者など相手にすらならない。

何よりツェルニの学生武芸者には心構えが出来ておらず、不意を打たれると弱い。
それは人ならば誰でもそうだが、ツェルニの武芸科の生徒とサリンバン教導傭兵団では技量が違いすぎる。
故にサリンバン教導傭兵団の熟練の武芸者に不意を撃たれれば、ツェルニの学生武芸者達はなす術もなく殺されてしまうだろう。
ハイアたちはその混乱にまぎれて、悠々とツェルニを去ればいい。乗ってきた放浪バスも自前のものだ。足止めを恐れる必要もない。
そして何より、絶対に負けないと言う自信がハイアの顔に張り付いていた。

「ディンを放せ!!」

だが、それでも無謀にも、勇敢にもハイアに飛び掛る黄金の影があった。
ニーナではない。影の正体は同じ金髪ではあるが、ニーナよりも圧倒的なボリュームを持つダルシェナによる突撃だ。
その手には愛用の突撃槍ではなく細身の剣を持ち、ハイアに向けて振り下ろす。
それをハイアはにやけた表情のまま、刀で容易くダルシェナの攻撃を受け止める。

「やり合うってか?こっちは別にそれでも構わないけど、ハッキリ言ってそれは自殺行為さ~」

ニヤニヤしたまま、ダルシェナを挑発するように言うハイア。
だが、ダルシェナはそんな挑発関係ないとばかりに、最初から怒り狂って細身の剣を振り回す。
剣を引き、今度は刺突。細身の剣故に切ることよりも刺突に特化しており、鋭い刺突がハイアを襲う。
だが、いくらダルシェナが小隊でトップクラスの実力を持っているとは言え、所詮は未熟な学生武芸者。
熟練者ぞろいの、本物の武芸者の団長であるハイアには通用しない。

「本当にいい度胸さ~。先に仕掛けたのはそっちさ」

失笑し、ハイアはダルシェナの刺突を避けて刀を振りかぶる。
その刃には安全装置などかかっていない。想像されるのは両断されるダルシェナの姿。
ハイアがその気になれば、それは容易く実現されただろう。そもそも殺すつもりはなくとも、ダルシェナは大怪我を負ったはずだ。
だが、ハイアが刀を振り下ろすのを中断し、背後へと後退する。それによりダルシェナは無事だったが、ハイアのニヤニヤとした笑みが濃くなり、攻撃を中断させた存在に視線を向ける。

「どうやら、とことんやり合うつもりってか?それはそれで面白いさ」

中断させたのは銃声。ハイアに向けて放たれた銃弾。
それを放った人物、シャーニッドに視線を向けつつ、ハイアは宣言するようにこの場にいる武芸者達に言った。

「そのつもりだ。例えサリンバン教導傭兵団だろうと、ディンを連れて行かせたりはしない!」

それでも怯まず、敵意をハイアに向けるダルシェナ。
彼女の決意は固く、例え高名なサリンバン教導傭兵団相手でも、愛しい人を連れて行かせはしないと目が語っていた。

「ディンは私達の仲間なんだ。貴様らの勝手にはさせん」

ニーナもまた決意し、ハイアを睨み付ける。
彼女達の決意は固く、相手がサリンバン教導傭兵団だろうと退くつもりはない。

「そう言うこった。ディンを開放してもらおうか?」

「あはは……何つう無謀な真似を。今すぐ逃げ出したいですね、裸足で。ですけどあれですよ、男には引けない時がありゅんですよ……噛んだ」

それはシャーニッドやオリバーも同じだ。銃を構えつつ、ハイアに敵意を向ける。
その姿に苦笑し、失笑し、ハイアは刀の切っ先をニーナ達に向けた。

「あんまり俺っち達を舐めるなよ。見せてやるさ、サリンバン教導傭兵団の実力を」

そこまで宣言したところで、

「ぐほぉっ!?」

ディンが呻き声を上げ、吹き飛んだ。

「は……?」

その光景に、目が点になるハイア。

「ディン!?」

「な……」

ダルシェナは絶叫するように吹き飛ぶディンの名を呼び、ニーナもハイアと同じように目が点と化す。
ディンは強烈な一撃を入れられ、彼を縛っていた鎖ごと砕かれながら上空へと跳んだ。
鎖で縛られていたディンにその一撃をかわすことが出来るはずがなく、また吹き飛ばされたことにより意識を刈り取られ、なす術もなく上空に十数メートルほど飛んでから、そのまま重力にしたがって落ちてくる。
そんな状態で受身も何も取れるわけがなく、ぐしゃっ、と嫌な音を立ててディンは頭から着地するのだった。

「これでよし」

そんなことを言う、強烈な一撃を入れた犯人、レイフォン。
ディンが気を失ったのを見て、満足そうに頷いていた。

「「「「な、何をしている(さ)んだお前(貴様)はぁぁぁ!!?」」」」

この時、ハイアとダルシェナ、ニーナとシャーニッド、オリバーの心はひとつとなる。
到底理解できない行動を取ったレイフォンに向け、怒鳴るように突っ込みを入れる。
吹き飛ばされ、頭から地面に着地したディンはピクピクと痙攣しており、口元からなにやら泡のようなものを吹いている。
生きてはいるだろうが、このままでは死ぬのではないかとすら思ってしまう。

「なにをって……廃貴族を追い出したんですよ」

「「「「「は?」」」」」

だが、レイフォンのさも当然のような言葉に、ハイア達は首をひねった。
だが、事実、ディンの背後にいた黄金の牡山羊、廃貴族は音もなく姿を消している。
その瞳がレイフォンを見つめているようだったが、なんにせよ廃貴族が消えているのだ、去って行っているのだ。
これで、サリンバン教導傭兵団にディンを捕まえる理由はなくなったと言う事だ。

「どう言う事さ!?」

この光景にハイア自身が目を疑い、何をしたと言う敵意をレイフォンに向けてくる。
だが、答えたのはレイフォンではなく、彼らの前を飛んでいた花弁の念威端子だった。

「どういうことも何も、あなた自身が言ってましたよね?『志が高くても実力が伴わない半端者ばかり』と」

その声の主はフェリだ。
淡々とした声で、現状の説明を始める。

「つまり、廃貴族が取り付く基準は思想的なものと推測できます。暴走した電子精霊が廃貴族とのことですから、その思想は都市を守護する、それに類似すること」

だからこそ廃貴族はディンを選び、取り付いたのだろう。
己を犠牲にしてでも都市を護ろうとし、違法酒の使用はやめてもそれでもその気持ちは色褪せなかったディンを。

「その上、ディンは極限状態にありました。レイフォンによって敗北した時点で、ディンの心理は自分が都市を守護しなければならないと言う使命感を露にしました。その瞬間に、廃貴族が取り付いたわけです」

汚染獣に都市を破壊された電子精霊が、使命感を折られようとしたディンに共鳴したわけだ。
ディンの都市を護ろうと言う使命感は以前からあっただろうが、それが最も強くなった瞬間に廃貴族はディンに取り付いた。

「それなら、後は話は簡単なんだよ。彼の心を物理的に、簡単に折ってしまえばいい」

ここからカリアンの声に変わる。
どうやらフェリの念威端子はカリアンへと通じてもおり、現状の相談や、その上でこの計画を発案したのはカリアンのようだ。

「レイフォン君により再び敗北し、物理的に心を折るんだ。都市を護る意思、使命感を戦闘によって直接ね」

確かにそれが手っ取り早いだろう。
使命感を、力を宿しても、それを上回る圧倒的な力によって粉砕する。
荒っぽい手で、廃貴族により強化された武芸者より強い者でないと意味がないが、確かに効率的で簡単な手段だ。

「やってくれるさ……」

「困るね、ハイア君。そのような手段は生徒会長として許可するわけにはいかないよ」

皮肉気に言うハイアと、淡々とした声で言うカリアン。
ツェルニを治める長として、ツェルニの生徒であるディンを見捨てるようなことは出来ないのだ。

「なら、交渉は決裂さ~。だが、俺っち達だってそう簡単に廃貴族を諦める事は出来ない。これは忠告なんだけど、あれは、あんまり長く放置しておかない方がいいさ」

ハイアはアイコンタクトで周りにいる部下達に指示を送り、引き上げだと告げる。
廃貴族が消えた今、ここで戦闘を行う理由はない。

「どれだけ強力だろうと、あれは滅びを知っちまった故障品さ。メンテナンス出来る奴がいなけりゃ、滅びの気配をばら撒き続ける。そう言うものだって聞いてるさ~」

「待てっ!」

そう言い残し、ハイアは去って行った。
ニーナが抑止しようと声を駆けたが、それを無視し、一瞬でハイア達の姿は掻き消える。
後に残ったのは砂煙の余波と、静寂。
それから彼らの残した意味ありげな言葉に、ニーナは言いようのない不安のようなものを感じていた。
まるでツェルニに、これからよくないことが起こるような不安……

「あの~……隊長」

そんなニーナに向け、レイフォンが気のない声で語りかける。

「どうした、レイフォン?」

「いえ……とりあえずは担架を」

「はっ!?」

その言葉にわれに返り、ニーナは現状を把握した。
ディンがレイフォンによって伸され、大変危険な状態なのだ。
錬金鋼には安全装置がかけられていたとは言え、ある程度本気で切られたのだ。
その上、頭から地面に着地していたのだから、ここは一刻も早く病院へ連れて行くべきだ。

「担架だ担架!急げ!!」

「ちょ、ディー先輩、生きてますか!?」

「ディン!!」

なんにせよ、こうしてこの一件については間抜けだが、意外にもあっさりと幕が下りるのであった。
だが、彼らは知らない。これから訪れる、ツェルニの危機について。






































デルクが先日、ガハルドに寄生した汚染獣に襲われて怪我を負い、その治療を高額な最先端の技術で施してくれた王家にお礼をと言う、建前的な謁見の翌週、リーリンはデルクに従って墓地へと来ていた。
その理由は、謁見の時に女王に聞かされた、サイハーデン刀争術のデルクの兄弟子、リュホウ・ガジュの死。
その遺品を納める墓が出来たので、養父の付き添いで付いて来たのだ。

リュホウ・ガジュ。
リュホウ・サリンバン・ガジュと名乗っていたらしいが墓碑にはそう記されており、その名をリーリンは何の感動もなく読んだ。
まったく知らない人物だから、それも当然だろう。だが、それ以外の理由もある。
謁見した女王、アルシェイラ・アルモニスは言っていた。サイハーデンの技を受け継いだ人間は都市の外へと出て行く運命にあるようだ、と。デルクから技を習ったレイフォンもそうだと。

その言葉を否定したかった。だが、目の前では異郷の地で戦って死んだデルクの兄の墓がある。
それを見て、そうなのかもしれないと思ってしまいそうで、たまらないほどに切ない。
だけど、レイフォンはツェルニでは楽しくやっているようで、そのような手紙や写真が送られて言い様のない気持ちを感じたりもした。
送られてきたレイフォンの彼女だとか言うフェリの写真は、幼く見えてもきれいな人だなと印象を受け、なぜかとてつもない怒りをレイフォンに抱く。これが切ない理由のひとつなのかと思いつつ、リーリンはデルクの長い黙祷が終わるのを黙って待ち、それが終わるとデルクに従って墓地を出た。
その帰り道、

「リーリン」

普段は口数の少ないデルクが口を開き、そのことに驚きながらもリーリンは足を止める。
デルクも足を止め、振り返って来たからだ。そのデルクの手には、布に包まれた木箱がある。墓地に来たときから、ずっとデルクはそれを持っていた。
最初はリュホウと言う人物の形見だと思っていたのだが、どうやら違うようだ。それをリーリンに差し出してきた。

「これをレイフォンに渡してくれないか?」

「え?」

渡された木箱には覚えのある重さがあった。ちょうど、錬金鋼のような重さだ。
リーリンは武芸者ではないので自分の錬金鋼などは持っていないが、デルクとレイフォンが武芸者なのだ。触る機会は何度もあった。
だが、なぜこれを渡されるのか?
そしてレイフォンに渡してきてくれと言うのはどう言う事なのかと思いつつ、デルクに視線を向けた。

「それは、レイフォンに渡すために用意しておいたものだ。サイハーデンの技を全て伝授した証としてな」

デルクが遠い目をして、そうつぶやく。

「教えることがなくなるのは早かった。そのときに渡しても良かったのだが、出来ればもう少し成長してからと思っていた。渡す機会は失ってしまったがな」

自嘲気味に笑い、それはレイフォンがグレンダンを追放されたからではないかと思った。
だが違う。本来なら天剣授受者になった時に渡すつもりだったのだろう。
だけどそうしなかった。それはなぜか?

(剣を持ったからだ)

レイフォンはデルクから教わった刀ではなく、剣を武器として選んだ。
天剣は剣の形を選び、刀を選ばなかったのだ。だから渡す機会を逃してしまった。

「あいつ自身が継ぐのを拒んだ。天剣授受者となって増長したか……そうも思ったが、違ったな。あいつはわしを裏切ったから贖罪のつもりで継がなかったんだ」

闇試合とそれにまつわる顛末。
先日のガハルドとの件もあり、そのことがリーリンの胸にこみ上げてくる。

「あいつは生真面目だ。きっと、今でもわしの伝えた技を使わずにいることだろう。あいつには許しが必要だ。誰のものでもない、自分自身で許さなければならん」

「養父さん……」

「お前は、レイフォンと手紙のやり取りをしていたな。あいつの居場所も知っているのだろう。渡してくれ。郵送でもかまわんが、直接渡しに行ってもいいぞ」

「……え?」

レイフォンと会う。その大義名分が出来た。
そのことに一瞬だが、リーリンは喜んだ。正直嬉しい。
だが、リーリンはすぐに首を振る。

「できないよ。学校があるもん」

レギオスという隔絶された世界では、都市の位置が悪ければ長期の間学校を休まなければならなくなる。
最低でも半年、最悪で1年や2年に延びてもおかしくない。それほどまでに都市の外に出るということは大変なのだ。
そんなに学校を休むことは出来ないし、さらには旅となればそれなりの出費がいる。

「レイフォンが残してくれたお金を、そんなことには使えないよ」

都市を追放されてまでもレイフォンが残してくれたお金。
それは孤児院のために使うべきであり、こんなことに使うわけには行かない。
そう言ったリーリンの頭に、デルクは手を置いた。

「……養父さん?」

「お前もレイフォンも、わしの悪いところばかりに似たな。生真面目すぎる。生真面目さで自分を殺してもいいことは何もないぞ」

「でも……」

「わしだって、リュホウと共に都市の外へと出たかった」

渋るリーリンだったが、デルクは目を細め、どこか寂しそうに言った。

「しかし、わしの生真面目さがそれを許さなかった。わしらの師匠はあの当時、汚染獣との戦傷が原因で余命いくばくもなかった。後を継ぐ者が必要で、それが出来るのはわしかリュホウしかいなかった。故郷を捨てて外へ出たいと願うのは、成熟した武芸者にとってはわがままだ。そのわがままを押し通したのがリュホウで、わしには出来なかった」

自分の気持ちを押し殺して、正しいと思うことをする。
その部分で、デルクとレイフォン、そしてリーリンは似ているらしい。

「あの時の選択が間違っていたとは思わん。レイフォンと言う才能を育てることが出来たのは、武門の主として最高の誉れだ。だが、それでも……」

デルクは一度ためらいがちに言葉を止めながらも、リーリンの頭をなでて続けた。

「あの時に責任感も真面目さも捨てて、都市の外へ出てみたいという欲に従えばどうなったか……それを知りたかったという気持ちも捨てられない。お前達にそんな未練は残させたくない」

「養父さん……」

「学校や旅費のことを心配しているのなら、それは余計なことだ。行きたいと思うなら、行け。このままレイフォンを待って心をすり減らすことが、お前にとって良いことになるとは思えん。このまま切り捨てるか、それとも改めて確かめるか、それを決めろ」

そう言うとデルクは、最後に錬金鋼の入った木箱を惜しむように触れ、そのまま背後を向いて歩き出した。
リーリンに来いとは言わない。彼女には必要なのだ、考える時間が。

「レイフォン……」

デルクの提案は正直な話、とても魅力的だ。
レイフォンに会えるかもしれない。会って、話したいことや伝えたいことがある。
兄妹として育ってきて、大好きな幼馴染。
だけどリーリンは思う。デルクの言う、自分の本当にしたいことがそれなのか?
確かに会いたい。だけどそれでいいのか?
立ち尽くしたままリーリンは答えを見つけられず、その手にある木箱の重さにただ戸惑っていた。































「えっと、その……元気ですか?」

「元気な奴が入院してると思うか?」

そりゃそうだとレイフォンは思う。
この台詞はなかったなと反省しつつ、病室のベットで横になるディンを見て沈黙した。

結局ディンはあの後、早急に病院へと運ばれて治療を施された。
容態は肋骨を数本骨折したものの、それ以外に目立った外傷はない。
ただ、それは外傷と言う話であり、剄脈は今までの違法酒の使用で既にボロボロとなっており、さらには廃貴族などと言う反則的なものに取り付かれてしまったので、医者の見立てでは半年どころではなく1年は寝たきりになってしまいそうだ。
それでも完治はするらしいので、要は結果オーライと言う奴だ。
廃人になったり、最悪死ぬよりはずいぶんマシと思える結末。
ディンのような問題を起こして、これで追放もなく、罪に問われないのは破格の条件だ。

「だが、まぁ……感謝はしている。なにやら大変なことがあったみたいだからな」

「はぁ……」

ディンは廃貴族に取り付かれていた間のことを覚えてはいない。そのためにサリンバン教導傭兵団との騒動を覚えていないのだ。
だが、都市を護ろうと言う気持ちは本物らしく、現在は気丈に振舞ってはいるものの、剄脈の異常で入院し、何も出来ないことに心底悔しがっているようだった。
ディンがこのような状態になったため、第十小隊は予定通りに解散。
さらにそのことを悔やむディンだったが、今の自分に何も出来ないことは理解している。

「お前は言ったな……俺の気持ちがわかると」

「はい」

大切な人達のためにもツェルニを護りたかったディンと、大切な人達のために、何よりもフェリのためにこの都市を護りたいと思うレイフォン。
ぶっちゃけた話ではフェリが第一であり、フェリと都市を天秤にかけるなら断然フェリではあるのだが、この隔絶された世界で生活をするには都市を護る必要があるためにディンの気持ちは僅かだがわかる。
フェリを優先する傾向にはあるものの、小隊で知り合った者達や、メイシェン達だってレイフォンにとっては大切な人達なのだから。

「ならば誓え、ツェルニを護ると。次の武芸大会で勝つと。お前なら出来る」

それは、レイフォンの実力を実際に感じたからの台詞だろう。
何も出来ない自分に対し無力感を感じつつ、その無念を晴らせるだけの力を持ったレイフォンに向けて悲願するようにディンは言う。
情けないと思う。都合の良い話だということもわかる。それでもディンは、大好きなのだこの都市が。
それが例え他力本願な願いでも、絶対にこの都市を失いたくはない。第十小隊の前隊長のために誓い、大切で、大好きな仲間達と共に出会ったこの都市を。

「どこまで出来るかはわかりませんが……がんばります」

レイフォンは当たり障りのない、どこか頼りない言葉でディンに頷く。
その姿にディンは苦笑するように笑い、ふと気が付くと、病室の外が騒がしいのに気が付いた。

「よぉ、生きてるかディン?」

「シャーニッド、不謹慎だぞ!」

お見舞いの品を手に、病室に訪れたシャーニッド。
花瓶の水を換えて来たダルシェナが鉢合わせをしたのか、シャーニッドを咎めつつ一緒に病室に入ってくる。

「ディン先輩、元気ですか?こんなときには飲みましょう。バイト先から酒持ってきたんです」

さらにはオリバーまでもが現れ、『酒』と言う多少皮肉っぽいものを持ちながら病室に入ってくる。

「ここは病院だぞ。酒なんて何を考えている!?」

「まぁまぁ、別にいいじゃねーか。少しくらいよ」

「シャーニッド!」

オリバーとシャーニッドを咎めるダルシェナだったが、その様子を見てディンは笑い、そして少しだけ楽しそうに言った。

「そうだな、少しくらいいいか」

「ディン?」

「お、話がわかるね。じゃ、飲もうか」

そんなことを言うディンにダルシェナが驚きつつ、調子に乗ったシャーニッドが酒を注ぐ。
楽しそうなその光景を眺めつつ、レイフォンはこっそりと病室から出る。
このままあそこにいては、自分まで酒を飲まされかねないからだ。
レイフォンはまだ15で、酒を飲める歳ではないのだから。

とりあえずは解決し、一時の平穏が戻ってきたことを今は喜ぼう。
ハイアが言っていた言葉も気になるが、今からそれを気にしていても仕方がない。
そんなわけで病室を去っていくレイフォンだが、彼は知らない。酒でどんちゃん騒ぎをするシャーニッド達が、この後看護婦に大目玉を食らうことを。
とりあえず今は、短くとも楽しいひと時を応化しようと思うレイフォンだった。


















































あとがき
まさかまさかのレイフォンVSハイア戦カット。
ですが廃貴族が既にディンの中から出てるので、戦う理由はないかと思ってこんな展開に。
うぅ、反感が怖い……
これでハイアの手紙がグレンダンに行って、それで手に負えないと判断されて天剣、サヴァリスはこないのかと思われるかもしれませんが、それはありません。
そもそも報告の手紙は書くでしょうし、油断しててもハイアは一度レイフォンに痛い目にあわされております。
さらにはサヴァリスがツェルニにくるのも、基本はリーリンの護衛と言う意味がありますので。廃貴族はそのついでみたいな感じで。

さらにディンは無事です。まぁ、1年ほど病院のベットにお世話になりますが。
剄脈は今までの違法酒の使用でボロボロでも、試合前に違法酒は使用していなかったのと、レイフォンが物理的に心をへし折ったんで比較的早く廃貴族を追い出せたのが原因です。
レイフォンに廃貴族が憑くのは、予定では5巻編の終わりごろです。

なんにせよこれで4巻編は完結。次回は5巻編、と行きたいんですが、バンアレン・デイ編で行こうと思います。
時期的にはこのころ、たぶん5巻の前らへんですからね。今回は皆無だったフェリ成分を、次回で挽回したいと思います。
さらには、ついにフォンフォン一直線のXXX板化!?
番外編でXXX板に、ハトシアの美を使ったXXXな話を……書けたらいいなぁ(汗
ありえないIFの物語もそろそろ更新しなければと思いつつ、次回の更新もお待ちください。



それから、ここからは毎度毎度の雑談ですが、リトバスにおいて沙耶ルートをやりました。
そして救われねぇ!救われませんよあの展開!
最初の出会いは敵対と言うことで何だこいつ、みたいな感じでしたが物語が進むにつれて……あれは泣きます。
ラストにおいては切な過ぎる……
理樹とりきは同一人物なのかと思い、もしそうならいいなと思うこのごろ。
しかし、理樹の女装が普通にかわいかった件について。
なにあの子!?あれが男の娘!?
あんなにかわいい子が男なわけがない!!
って、一応理樹はリトルバスターズ!EXにおいてエロゲーの主人公なんですけどね……





さて、今回はこれでとお別れしたいところですが、ふと今思いついた外伝を。
所要時間10分。
暇つぶしの気まぐれ、書きたいことをそのまま書いただけなのですが、暇でしたら目を通してください。





















「……なんだここ?どこだよここ!?外!?エアフィルターがない!?汚染物質は!?レギオスじゃないのか!?」

それは偶然。奇跡とも、幻とも思える偶然と光景。
オリバーは気が付けばありえない場所に居て、ありえない光景を目にする。
それは海。既に干上がったレギオスの外の大地では、決して見ることの出来ない光景。
さらには透き通った大気。エアフィルターや汚染物質などは存在せず、一目でここが自分の居た世界(場所)でないのがわかった。

この世界は地球、場所は海鳴市。
1人のロリコンが何の因果か、異世界へと渡った。



「少女のピンチに俺参上!なんだこのバケモンは!?汚染獣か!!?」

「あなたは……?」

「レストレーション。なに、心配するな!君みたいな少女は必ず俺が護る。そしてその後、ぜひとも俺の嫁に」

「えええっ!?」

自称、ごくごく普通の小学3年生と出会い、とある事件に巻き込まれるオリバー。
これが、事の始まり。




「お義父さん!是非とも娘さんを俺にください」

「誰がお前みたいな奴にやるか!!どうしても欲しいなら、この俺を倒すことだな!」

「上等!……って、ごめんなさい!いたい、マジ痛い!死ぬ、マジ死にますから!!」

少女をめぐり、その父と死闘を繰り広げ、一方的にぼこぼこにされたり、




「ここは天国?それとも理想郷!?もう俺、死んでもいい!とりあえずアリサちゃん、すずかちゃん、俺の嫁にならない?」

「ならば本当に死になさい!」

「ぐふっ……パンツ見えた。白か」

「本当に死・に・な・さ・い!!」

出会った少女の友人、アリサに強烈な蹴りをくらったり、踏まれたり、




「少女を性的な目で見るのは二流、三流のロリコン。確かにそうだ。そして俺は三流なロリコンだ。少女を性的に見て何が悪い!?かわいいのが正義なんだ!俺は変態と言う名の紳士ではなく、変態の真正のロリコンなんだ!!だがな、絶対に無理やりはしない。口説いて、落として、合意の上でやる。無理やりなんてやっていいわけないだろう!!少女が好きだから、少女の泣く顔なんか見たくないんだよ!!それからな、一度やった少女は大人になってもちゃんと責任は取るから安心しろ。ってなわけで、今すぐ式を挙げよう」

一度捕まった方がいい事を宣言したり、




「時空管理局だかなんだか知らないが、少女をいじめる奴は敵だ!俺が成敗してやる!!」

時空管理局なる組織と揉め、

「公務執行妨害で逮捕する」

「え……マジで?」

本当に逮捕されるロリコン。




「ここは……どこなんでしょう?フォンフォン」

「わかりません……さっきのも汚染獣じゃなかったようですが」

「それに、さっきの化け物が落としていったこれは……石?」

「ジュエルシードを渡してください」

「あなたは?」

どう言う訳か、最強のヤンデレとその彼女もこの世界に訪れ、ジュエルシードを集める少女と出会う。






『魔法少女リリカル レギオス』 始まるといいなぁ……と言うか、誰か書いてくれないかなぁ……








え~……お遊びです。それ以外の何物でもありません。
ただ、なのはってロリキャラの宝庫だよなと思いつつ、暴走するオリバーが思い浮かびましたw
まぁ、もっとも、彼自身の戦闘力はそんなに高くないので、暴走しても主役はレイフォンやフェリに奪われそうですが。
ふと思いついたお遊び、短編なので気にしないでください。
ただ、実際に書きたいという方がいらっしゃったら本当に書いてくださってもかまいませんよw
むしろお願いします。まぁ、こんな設定の作品を書こうなんて物好きの方はいらっしゃらないでしょうし、俺も90%以上の冗談でやってますのでw
それでは、ありえないIFの物語や、フォンフォン一直線、それと『もしも』の物語もそろそろ1話を上げようかなと執筆作業に入ります。
こんな作者ですが、これからもよろしくお願いします。


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