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No.15685の一覧
[0] フォンフォン一直線 (鋼殻のレギオス)【一応完結?】[武芸者](2021/02/18 21:57)
[1] プロローグ ツェルニ入学[武芸者](2010/02/20 17:00)
[2] 1話 小隊入隊[武芸者](2011/09/24 23:43)
[3] 2話 電子精霊[武芸者](2011/09/24 23:44)
[4] 3話 対抗試合[武芸者](2010/04/26 19:09)
[5] 4話 緊急事態[武芸者](2011/09/24 23:45)
[6] 5話 エピローグ 汚染された大地 (原作1巻分完結)[武芸者](2010/05/01 20:50)
[7] 6話 手紙 (原作2巻分プロローグ)[武芸者](2011/09/24 23:52)
[8] 7話 料理[武芸者](2010/05/10 18:36)
[9] 8話 日常[武芸者](2011/09/24 23:53)
[10] 9話 日常から非日常へと……[武芸者](2010/02/18 10:29)
[11] 10話 決戦前夜[武芸者](2010/02/22 13:01)
[12] 11話 決戦[武芸者](2011/09/24 23:54)
[13] 12話 レイフォン・アルセイフ[武芸者](2010/03/21 15:01)
[14] 13話 エピローグ 帰還 (原作2巻分完結)[武芸者](2010/03/09 13:02)
[15] 14話 外伝 短編・企画[武芸者](2011/09/24 23:59)
[16] 15話 外伝 アルバイト・イン・ザ・喫茶ミラ[武芸者](2010/04/08 19:00)
[17] 16話 異変の始まり (原作3巻分プロローグ)[武芸者](2010/04/15 16:14)
[18] 17話 初デート[武芸者](2010/05/20 16:33)
[19] 18話 廃都市にて[武芸者](2011/10/22 07:40)
[20] 19話 暴走[武芸者](2011/02/13 20:03)
[21] 20話 エピローグ 憎悪 (原作3巻分完結)[武芸者](2011/10/22 07:50)
[22] 21話 外伝 シスターコンプレックス[武芸者](2010/05/27 18:35)
[23] 22話 因縁 (原作4巻分プロローグ)[武芸者](2010/05/08 21:46)
[24] 23話 それぞれの夜[武芸者](2010/05/18 16:46)
[25] 24話 剣と刀[武芸者](2011/11/04 17:26)
[26] 25話 第十小隊[武芸者](2011/10/22 07:56)
[27] 26話 戸惑い[武芸者](2010/12/07 15:42)
[28] 番外編1[武芸者](2011/01/21 21:41)
[29] 27話 ひとつの結末[武芸者](2011/10/22 08:17)
[30] 28話 エピローグ 狂いし電子精霊 (4巻分完結)[武芸者](2010/06/24 16:43)
[32] 29話 バンアレン・デイ 前編[武芸者](2011/10/22 08:19)
[33] 30話 バンアレン・デイ 後編[武芸者](2011/10/22 08:20)
[34] 31話 グレンダンにて (原作5巻分プロローグ)[武芸者](2010/08/06 21:56)
[35] 32話 合宿[武芸者](2011/10/22 08:22)
[37] 33話 対峙[かい](2011/10/22 08:23)
[38] 34話 その後……[武芸者](2010/09/06 14:48)
[39] 35話 二つの戦場[武芸者](2011/08/24 23:58)
[40] 36話 開戦[武芸者](2010/10/18 20:25)
[41] 37話 エピローグ 廃貴族 (原作5巻分完結)[武芸者](2011/10/23 07:13)
[43] 38話 都市の暴走 (原作6巻分プロローグ)[武芸者](2010/09/22 10:08)
[44] 39話 学園都市マイアス[武芸者](2011/10/23 07:18)
[45] 40話 逃避[武芸者](2010/10/20 19:03)
[46] 41話 関われぬ戦い[武芸者](2011/08/29 00:26)
[47] 42話 天剣授受者VS元天剣授受者[武芸者](2011/10/23 07:21)
[48] 43話 電子精霊マイアス[武芸者](2011/08/30 07:19)
[49] 44話 イグナシスの夢想[武芸者](2010/11/16 19:09)
[50] 45話 狼面衆[武芸者](2010/11/23 10:31)
[51] 46話 帰る場所[武芸者](2011/04/14 23:25)
[52] 47話 クラウドセル・分離マザーⅣ・ハルペー[武芸者](2011/07/28 20:40)
[53] 48話 エピローグ 再会 (原作6巻分完結)[武芸者](2011/10/05 08:10)
[54] 番外編2[武芸者](2011/02/22 15:17)
[55] 49話 婚約 (原作7巻分プロローグ)[武芸者](2011/10/23 07:24)
[56] 番外編3[武芸者](2011/02/28 23:00)
[57] 50話 都市戦の前に[武芸者](2011/09/08 09:51)
[59] 51話 病的愛情(ヤンデレ)[武芸者](2011/03/23 01:21)
[60] 51話 病的愛情(ヤンデレ)【ネタ回】[武芸者](2011/03/09 22:34)
[61] 52話 激突[武芸者](2011/11/14 12:59)
[62] 52話 激突【ネタ回】[武芸者](2011/11/14 13:00)
[63] 53話 病的愛情(レイフォン)暴走[武芸者](2011/04/07 17:12)
[64] 54話 都市戦開幕[武芸者](2011/07/20 21:08)
[65] 55話 都市戦終幕[武芸者](2011/04/14 23:20)
[66] 56話 エピローグ 都市戦後の騒動 (原作7巻分完結)[武芸者](2011/04/28 22:34)
[67] 57話 戦いの後の夜[武芸者](2011/11/22 07:43)
[68] 58話 何気ない日常[武芸者](2011/06/14 19:34)
[70] 59話 ダンスパーティ[武芸者](2011/08/23 22:35)
[71] 60話 戦闘狂(サヴァリス)[武芸者](2011/08/05 23:52)
[72] 61話 目出度い日[武芸者](2011/07/27 23:36)
[73] 62話 門出 (第一部完結)[武芸者](2021/02/02 00:48)
[74] 『一時凍結』 迫る危機[武芸者](2012/01/11 14:45)
[75] 63話 ツェルニ[武芸者](2012/01/13 23:31)
[76] 64話 後始末[武芸者](2012/03/09 22:52)
[77] 65話 念威少女[武芸者](2012/03/10 07:21)
[78] 番外編 ハイア死亡ルート[武芸者](2012/07/06 11:48)
[79] 66話 第十四小隊[武芸者](2013/09/04 20:30)
[80] 67話 怪奇愛好会[武芸者](2012/10/05 22:30)
[81] 68話 隠されていたもの[武芸者](2013/01/04 23:24)
[82] 69話 終幕[武芸者](2013/02/18 22:15)
[83] 70話 変化[武芸者](2013/02/18 22:11)
[84] 71話 休日[武芸者](2013/02/26 20:42)
[85] 72話 両親[武芸者](2013/04/04 17:15)
[86] 73話 駆け落ち[武芸者](2013/03/15 10:03)
[87] 74話 二つの脅威[武芸者](2013/04/06 09:55)
[88] 75話 二つの脅威、終結[武芸者](2013/05/07 21:29)
[89] 76話 文化祭開始[武芸者](2013/09/04 20:36)
[90] 77話 ミス・ツェルニ[武芸者](2013/09/12 21:24)
[91] 78話 ユーリ[武芸者](2013/09/13 06:52)
[92] 79話 別れ[武芸者](2013/11/08 23:20)
[93] 80話 夏の始まり (第二部開始 原作9巻分プロローグ)[武芸者](2014/02/14 15:05)
[94] 81話 レイフォンとサイハーデン[武芸者](2014/02/14 15:07)
[95] 最終章その1[武芸者](2018/02/04 00:00)
[96] 最終章その2[武芸者](2018/02/06 05:50)
[97] 最終章その3[武芸者](2020/11/17 23:18)
[98] 最終章その4[武芸者](2021/02/02 00:43)
[99] 最終章その5 ひとまずの幕引き[武芸者](2021/02/18 21:57)
[100] あとがき的な戯言[武芸者](2021/02/18 21:55)
[101] 去る者 その1[武芸者](2021/08/15 16:07)
[102] 去る者 その2 了[武芸者](2022/09/08 21:29)
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[15685] 39話 学園都市マイアス
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:6e7fefb5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/23 07:18
放浪バスの席は広めの空間を取ってあるとはいえ、やはり長時間座っている分には狭く感じてしまう。
そんなわけで久しぶりに放浪バスから降りて、広い空間で伸びをしていると……

「動くなっ!」

「へっ?」

ドタドタと激しい足音が廊下で響き、ドアを乱暴に開けられたかと思うと、いきなり鎮圧銃の黒い銃口を向けられた。
そんないきなりの事態にわけがわからず、リーリンは呆けた声を出すことしかできなかった。

「都市警察機動部隊だ、動くな」

戦闘衣を着込んだ、一般人らしきリーリンと同年代の少年達。その1人が硬い声で告げてくる。
動くなと警告されたリーリンは、伸びをした格好のまま手を上げていた。

「悪いが、ロビーに移動してもらう」

 顔はヘルメットで見えないが、どうやら隊長らしき少年がそう言い、1人をこの部屋に残すと、部下を連れて出て行った。
廊下では未だに騒々しい足音が響き、悲鳴や怒声が聞こえてくる。
それと同じくらいによく聞こえるのが、都市警察機動部隊と言う名前。その名が出れば、悲鳴や怒声も沈黙した。
リーリンも逆らうことなく、残された部下に背中を押される形で廊下へ出る。
ドアを潜れば、悲鳴や怒声は聞こえなかったが騒がしかった。
それも当然だ。皆、このような事態に混乱しているのだ。宿舎全体が混乱の渦に巻き込まれている。
ここは、放浪バス停留所と同じ区画にある来訪者宿泊施設のひとつ。

「やあ、さっそくおかしなことに巻き込まれましたね」

「一体何事なんでしょう?」

にこやかに話しかけられて、リーリンはそちらの方を見た。
サヴァリスとクラリーベルだ。彼らは特に気にした様子もなく、銃口を押し付けられても平然と歩いている。

「どうします?撃退しますか?」

「それも面白そうですが、ここはあの運転手の言葉に従っておとなしくしていることにしましょう」

「それもそうですね」

背中を無言の威圧に押されて返事をする余裕のないリーリンに比べて、サヴァリスとクラリーベルは暢気なものだ。
いや、暢気どころの話ではなかった。物騒なことを言い、銃口を突きつけている彼がヘルメット越しでもわかるほどに気まずそうな反応をしている。
このような状況で撃退するとか、それが面白そうだと発言する2人に対し、反応に困っているのだろう。
クラリーベルは美人で、とてもかわいらしい少女だが、武芸者である。
サヴァリスももちろん武芸者で、見た目は好青年だが、グレンダンでは最強の一角、天剣授受者。
その肉体はよく鍛え上げられており、それだけで武装しているとはいえ一般人の彼を怯えさせるには十分だ。
だが、レギオス内で他都市の人間は滅多なことでは逆らわないだろうと、無理やり安心する。

ここに来る時の放浪バスの運転手は、気さくで話し好きな人物だった。あるいは都市外と言う保護のないところを行く圧迫が彼を饒舌にしていたのかもしれない。
が、なんにせよ親切な人であり、彼はことあるごとにこう忠告してくれた。

「いいかい、旦那さん、奥さん、お坊ちゃん、お嬢さん……乗客の皆さん方。もしかしたら、もしかしなくてもこの中には生まれた都市から出るのが初めてだって人がいるだろうが、そんなあんた方が他所の都市でやってくのにどうしても守らなくちゃいけないことがある。それは、他所の都市の政府には、例え不条理だと感じようが逆らっちゃ駄目だってことだ。当たり前だって?確かにそうだ。お上に逆らっちゃいけないよ。だけどね、他所の都市には自分達がびっくりするような法律だとか、習慣だとか、取り決めだとかがあったりするもんだ。それはその都市がおかしいって話じゃない。もしかしたらお客さん方の都市がおかしいのかもしれない。そんなことは誰にもわからない。だけど、その都市ではお客さん方がおかしいって思われるんだ。なぜなら、それでその都市はうまく動いている。その事実を無視しちゃいけないってことさ。わかるかい?わからなくても、わかってもらわなくちゃならないんだ。そう、これがまず、最初の不条理って奴さ」

とにかく、よくしゃべる人だった。
そんな運転手から解放されたのが今朝のこと。
停留所を降りて、最寄の役所で列に並んで滞在許可証をもらい、指定の宿、つまりは先ほどリーリンが伸びをした部屋に着いた時には昼食の時間になっていた。
そんな時に彼らが、都市警察機動隊と名乗る集団が現れたのだ。
その突然の訪問に騒いでいた宿の人達だが、彼らが大人しくなったのは運転手の言葉を覚えていたからだろう。
運転手はこうも言っていたのだ。

「お上を怒らせちゃいけないよ。都市の外から来た犯罪者は拘置所になんて滅多に入れられない。なぜかって?めんどうだからさ。余所者はあくまで余所者、同じ場所に長く置いておいたって得することなんてなにもないからさ。放浪バスが来ていたら拘束衣でがんじがらめにされて罪科印を押されてポイだ。だけどさ、あんまり酷い犯罪者は俺達運転手だってお断りさ。こっちも乗客の皆さん方を守らないといけないからね。それに、もし俺達が断ったり、放浪バスがすぐに来ないなんてことになっていたら都市外強制退去……つまりは問答無用に都市の外へポイ……さ」

都市の外、つまりはレギオスの外。汚染物質の舞う、荒れ果てた大地。
そんな場所に生身で放り出されれば、人はもう死ぬしかやることがない。
それは都市外撤去と言う名前で誤魔化された死刑なのだ。

(こんなところで死んでたまるもんですか)

運転手の長い話を思い出し、リーリンは体を震わせた。
ツェルニに行くと、レイフォンに会いに行くとああも悩んで決めたと言うのに、こんなところで果ててなるものかと。
リーリンは廊下を抜け、エレベーターを使わせてもらえなかったので延々と階段を下り、宿泊の際に滞在許可証を提出したフロントのあるロビーに出る。
そこには既に何人もの宿泊者がいた。知らない顔もたくさんある。きっと、リーリンたちが乗ってきた以前の放浪バスでやってきたのだろう。
目的地に、あるいはそれにより近い都市に向かう放浪バスが来るまで辛抱強くその場所で過ごし、時には以前に訪れた都市に戻ることもやむなしとするのが旅人達だ。

(そう……)

この後訪れる放浪バスに乗ることができれば、ツェルニに辿り着くことができるはずだ。
レイフォンの、片想いの相手がいる学園都市に。
だからこそ、

(こんなところで、足止めなんてされてたまるもんですか)

強く強く、リーリンは心に誓って、ロビーに集う人の群れの中に混ざった。





この都市の名はマイアスと言う。
ロビーに集まったリーリン達宿泊客は、武装した都市警察に囲まれながら、事態を黙って見守っていた。それ以外にできることなんてない。
サヴァリスやクラリーベルなら強行手段を取ることもできるが、今は大人しくしている。リーリンも大人しくし、都市警察を名乗る少年達の姿を観察していた。
都市警察とプリントされた上着を着込んだ彼らは、どれもリーリンと同年か、少し上程度にしか見えない。

「本当に若者達だけで運営してるんですね」

「実際に見るまで、信じられませんでした」

隣に立つサヴァリスとクラリーベルが、どこか呆れたようにそうつぶやく。

「学園都市というのは奇妙なところだね。熟練者不在で、よく都市運営が成り立っているものだと思いますよ」

サヴァリスの言うとおり、ここは学園都市。学園都市マイアス。
レイフォンのいるツェルニと同じく、学生によって運営されている特殊な都市だ。

「武芸者のレベルも低いですし、学園都市が汚染獣に襲撃される危険性が低いと言う噂は本当なんでしょうね」

「その代わり、もし襲撃されたらこの都市は滅びるでしょうね」

サヴァリスとクラリーベルが、まったく笑えない言葉を交わしている。
リーリンにはわからないが、都市警察の服を着ている少年達の中には武芸者も交じっているらしい。
それは、一体どういうことなのか?
都市警察として、マイアスでは普通の対応なのか、それとも武芸者がいなくては対応できない事件がおきているのか……
グレンダンの例に当てはめて考えようとするリーリンだが、それは無理だと小さく首を振る。
グレンダンの都市警察がどういうことをするかなんて、一般人であるリーリンには予想も付かない。

「それにしても、一体これは何なのか……そろそろ状況説明を願いたいところですが」

サヴァリスがそう言っていると、先ほどリーリンの部屋にやってきた隊長らしい少年が前に出てきた。
ヘルメットを外し、その素顔を晒す。

「宿泊客の皆さん、こちらの指示に黙って従ってくださったことにまず感謝いたします」

よく通る声だった。
顔立ちはよく、どことなく品もある。それは彼が裕福な家庭で育ったからだろう。
だが、そんな彼の目にも、今は厳しいものが宿っていた。

「現在マイアスでは、盗難された重要情報を奪還するために厳戒態勢がしかれています。宿泊客への皆さんへは、それぞれに事情聴取をさせていただいた上で荷物の検査をさせていただきます」

丁寧さを保とうとしていたが、彼の厳しい目は有無を言わせぬ硬さがあった。
この都市の秩序である彼らを前に、宿泊客達に拒否権はないのだ。

「手荷物のチェックは事情聴取と同時にやらせていただきます。部屋に置かれているものに関しては、これからやらせていただきますのでご了承を」

その瞬間にいくつかの悲鳴のような声が上がったが、彼が視線をめぐらせるとすぐに静まった。
あの運転手の言葉もあってか、強引だとわかっていても逆らうことはできない。

「重要情報ですか……なるほどなるほど」

「重要情報?それにしても……」

サヴァリスが頷く横で、リーリンはもう一度都市警察の少年達を見渡した。
情報の大切さをリーリンは学校の授業で十分に教えられ、都市警察が盗まれた情報を取り戻すために強硬な態度を取ると言うのは納得できる話だ。
だが、それにしては……」

「どうかしましたか?」

「いや、それにしてもあの人達、凄く緊張しているように見えるなって……」

「ふむ?」

クラリーベルの問いにリーリンが返答し、サヴァリスも一緒になって都市警察の人達の顔を眺め回した。
ヘルメットと一体となった遮光ゴーグルに覆われた少年達の顔の変化はわかりにくい。
だが、その口元がときおり引き攣るように震え、あるいは落ち着きのない様子で頭を動かしているのがわかる。
それだけではない。サヴァリスのようにどんな危険でも眠りながら対処できそうなずば抜けた実力者、またはクラリーベルのように天剣には届かないまでも突き抜けた実力者ならば逆に鈍感になるかもしれないが、宿泊客を囲む少年達の輪には必要以上の緊張感があり、それがリーリン達を締め付けるように充満していた。

「なるほど、そうかもしれないね」

「なんでしょう……?」

「まぁ、それがわかったとしてもこの問題が解決するとは思えませんが」

相変わらず、サヴァリスとクラリーベルは気楽そうだ。
好奇心に水を差されたリーリンは少し不満を感じながら、事情聴取が始まって順番待ちをする人達の列に並んだ。

長い時間、待たされた。

宿泊施設はこの場所以外にも、いくつかある。そこもここと同じように調査しているのだとしたら、人員不足となっているのだろう。
手際の悪さの理由を想像しながら時間を潰していると、ようやくリーリンの順番が回ってきた。
ロビーにあった喫茶室が急遽、事情聴取の場所となっており、並んでいたテーブルは撤去され、5つだけ残されている。リーリンは端のテーブルに案内された。
そこには、あの隊長らしい少年がいた。

「初めまして、僕は都市警察強行機動部隊、第一隊隊長のロイ・エントリオです」

「リーリン・マーフェスです」

リーリンは促されるままに椅子に座る。
退院らしき他の少年がリーリンの荷物と共に、書類を1枚持ってきた。

「ふむ……」

それをざっと読み、ロイはリーリンを見る。

「これから、いくつか質問をさせてもらいます。面倒なことに巻き込まれたと思っているでしょうが、諦めてください」

「はぁ」

先ほどの演説のときと比べれば口調は優しくなっているものの、事務的で断定的なところは変わらない。
もしかしたら、これが彼の素なのかもしれない。

「出身は?一応、住所もお願いします」

「グレンダンです。住所は……」

住所まで聞かれ、リーリンは首をかしげた。
マイアスにいると言うのに、グレンダンの住所を知ってどうするのかと。

「結構です」

書類を見て頷くロイに、リーリンははっとした。

(あ、そうか。本人確認だ)

荷物の中にはグレンダンでのリーリンの身分を証明するものも入っている。
荷物の検査をしたと言うことは、それも見られたということだ。

(う、と言うことは下着も?)

ふとその事実に気づき、リーリンは愕然とした。
放浪バスには人1人が十分に眠れるスペースが確保されている。しかし、やはり乗り物は乗り物だ。完璧な居住条件が備わっているわけがない。
リーリンが一番難儀に感じたのは、洗濯ができないと言うことだ。
簡易型のシャワーがあるが、その水はエンジンの冷却水を使用したもので、湯温もエンジンの熱を利用したものだから快適とは言えなかった。それでも、あるだけマシだった。
だが、体は洗えるが、服を洗う余裕なんてあるはずがない。また、毎日シャワーが使えるわけでもない。乗客達と順番を決めて使うのだ。
服に付いた臭いは……嫌だが仕方ないものと思える。他の乗客達もそうなのだから。
下着は……まぁ、我慢しよう。
だがそれは、放浪バスにいたからこその話だ。使用後の下着は専用の袋に入れ、臭いが外に出ないように密封していたとはいえ、検査なのだからそれを開けられたという可能性もある。

(うう……)

「どうかしましたか?」

「……いいえ」

目の前のろいはずっと事情聴取をしていたのだろうからそんなことをする暇はないだろうが、他の誰か、例えばさっきここに荷物を持ってきた隊員がそれをしたのではと考えると、とんでもなく恥ずかしい。
そして、恨めしかった。

「では、次の質問です」

リーリンの前に、今まで何人もの宿泊客を相手したロイは少し疲れた様子でリーリンの態度を流し、事務的に質問を続けていった。
正直、どうでもよい質問ばかりされていた気がするけれど、そのあまりの数にリーリンは疲れてきってしまった。

「ご苦労様です」

ロイがそうつぶやいた時、これで終わったのかと心底ほっとした。

「これで、とりあえず皆さんにお聞きしている質問は終わりました。最後に……あなたにはひとつ質問が加えられます」

「え?」

言うと、ロイはおもむろにリーリンの荷物に手を伸ばすと、それを取り出した。

「あ……」

壊れないように何重にも布でくるんで荷物の奥に入れてあったはずのものがロイの手につかまれ、テーブルの上に置かれる。
布は既に一度解かれたようで、乱暴な包みになっていた。
養父であるデルクに渡されたもの。レイフォンに届けるもの。錬金鋼だ。
ロイは布を丁寧に開くと、錬金鋼が入った木箱の蓋を開けた。

「これは、あなたのものですか?」

「……一応は」

どう答えていいのか一瞬悩み、リーリンはそう、曖昧に答えた。

「一応、と言うのは?」

ロイの目が鋭く光った。
その視線にリーリンが呑まれているうちに、ロイはわざとらしい仕草で書類に視線を向ける。

「あなたは一般人という登録で放浪バスに乗り、ここにやってきた。そんなあなたがどうして錬金鋼を所持しているのですか?」

虚偽報告して武芸者が蜜入していると思われているのだろうか?
リーリンは萎縮した気持ちを落ち着かせ、改めてロイの瞳を見た。

「……預けられたもので、これを届けるために私は都市を出ました」

「なるほど。届け先は?」

「ツェルニです」

「ここと同じ学園都市ですか。あいにく、うちとの交戦記録は長い間止まっていますから、現在のツェルニのことはよくわかりませんが。どなたに?」

「それは……」

関係と言われ、リーリンはどう答えるべきなのか悩んだ。
兄弟と言うのは別に間違った言い方ではないと思う。同じ孤児院で育ったのだし、それでも構わないはずだ。
だが、養父であり、当時の孤児院の長だったデルクは、親のわからないリーリン達を自分の養子にするでもなく、別々の姓を与えて戸籍登録した。
だから戸籍的には兄弟ではない。

(幼馴染?)

それが一番妥当なのだろうか?

「どうしました?」

「……幼馴染です」

「……ただの幼馴染のために、放浪バスに乗って危険な旅を?」

「それは、あなたには関係のないことです」

「失礼しました」

ぴしゃりと跳ね除けると、ロイは鼻白んで謝罪した。
これはリーリンにとってあまり突っ込まれたくないことだ。
確かに、ただの幼馴染のために放浪バスで危険な旅をするのは少し変だろう。これが恋人とかならまだ話はわかる。
リーリンだってレイフォンは特別な存在なので、できればそう言いたかった。
だけど肝心のレイフォンは鈍感で、リーリンのアピールにはまったく気づかない。挙句の果てにはツェルニで恋人を作っている。
そんな事情があり、リーリンとしてはあまりこのことに触れて欲しくはない。

だが、それでも、腹を立てながらもロイの事務的な態度を崩したことに、僅かながらもしてやったりな気分になった。
空調をどれだけ使っても回避できない、汗臭い放浪バスの車内からようやく解放されて、1人の部屋でのんびりできると思ったところでこの騒動なのだ。
のんびりと手足を伸ばして風呂に入れると喜んでいたところで、ロビーに集められて、荷物をあさられて、洗濯をしていない下着を見られるという屈辱を味わわされたのだ。
これぐらいの意趣返しは許されてもいいと思う。ただ、そんな微々たる満足感も、次の瞬間には見事に瓦解してしまった。

「申し訳ありませんが、この錬金鋼はしばらく預からせていただきます」

「どうして!?」

表情を元に戻したロイに呆気に取られつつ、リーリンは悲鳴のような声を上げた。

「現状の状況は説明したと思います。あなたを犯人と疑っているわけではありませんが、危険物と認定できるものは全て、一時没収させていただいてますので」

「……ちゃんと返してもらえるんですか?」

「事件が解決し、あなたの無罪が確定すればすぐにでも」

それは結局、リーリンを犯人、そうでなくとも容疑者には考えていると言うことだろうか?
その不満を隠せずに、リーリンはロイを睨んだ。

「逮捕の目処は立っているんですか?」

「捜査情報においては秘密です」

涼しい顔でそういうが、このような非効率的な事情聴取などをしていることそのものが、捜査の進展具合を示している気がする。
感情そのままに、『冗談じゃない!』なんて叫ぼうとしたが、リーリンは何とか踏み止まる。
じゃあ出て行く、なんて言えれば楽なのだが、そうすることはできない。
放浪バスは現在マイアスにはないし、あったとしても都市警察の連中が足止めしてくるだろう。
故に耐えて、その言葉は飲み込む。だが、苛立たしさまでは飲み込めるわけがなかった。

「それで……これで私への質問は終わりですか?」

「ええ、お疲れ様でした。自室に戻ってくださって結構です」

「そうですか……なら、一刻も早い犯人逮捕をお願いします。あなた達にできるかどうかは知りませんけれど!」

精一杯の嫌味を吐いて、リーリンは立ち上がった。
苛立ちながら人ごみを掻き分け、自室へと戻るのだが、やはり元の疑問が頭の中に浮かんでくる。
どうして、マイアスの人達はこんなにあせっているのだろうか、と言う疑問が……




































飄然と見下ろす。そこにあるのは見知らぬ町並みだ。
グレンダンにあるどこか無骨な雰囲気は薄く、建物の並びひとつひとつ、その並びを見ても伸びやかに、そして無秩序に広がっているような印象を受ける。
あらゆる都市から集まった、この都市そのものをあらわしてるようにも見える。
まだ、何者にもなりきれていない半端者の集まり、だが、それだけに何者かになりうる可能性を捨てきれない者達の集まり。

学園都市

武芸者に関しては、生まれた都市が外に出ることを許すような二流三流の才能の持ち主ばかりだが、そこから化けないと言う保証はない。

「なかなか、新鮮なものですね。まぁ、当たり前なんですけど」

見慣れない町並みを見下ろしながら、サヴァリスはつぶやく。
彼がいるのは自分達が泊まっている宿泊施設、その屋上だ。この建物自体はそこまで高くはない。
むしろ、宿泊施設が立ち並ぶこの区画にある建物は皆高く、サヴァリスがいる屋上は低い方だ。
実際には都市中央部の建物から見下ろされている形になるのだが、そんな細かいことをサヴァリスは気にしない。

「そう言えば、うちの弟も学園都市にいるんでしたね」

サヴァリスの弟、ゴルネオ・ルッケンスはこれから向かう学園都市、ツェルニにいる。そのことを理由にアルシェイラにツェルニへ向かう優位性を説いたと言うのに、放浪バスに乗っている間はそのことをあっさりと忘却していた。

「あの甘えん坊も無事に育っていればいいのですけどね。まさかホームシックになんてかかってないでしょうね」

そうつぶやいてはいるが、サヴァリスに心配そうな気持ちは一切感じられない。
血のつながった弟ではあるが、サヴァリスは天剣授受者となった時からそんな考えを放棄し、自らの強さのみを追及し続けているのだ。兄であろうとも、そんな自分に心配する権利はないし、するつもりもない。
これはサヴァリスの考えがおかしいのではなく、天剣授受者と言うのはそんなものなのだ。
弟のことを考えるのをやめ、サヴァリスは再びぐるりとマイアスの町並みを見渡した。

「グレンダンの外と言うのは驚くぐらいに平和だと聞いたけれど、そうでもないようだ」

そこには町並みに相応しい空気はなかった。
どこかギスギスとしていて、不自然なほどに物静かだと言うのに、いつ爆発してもおかしくない緊張感が充満している。
それはこの都市の現状をあらわしているが、ツェルニにも言えることだろう。今はどうなっているかは知らないが、ツェルニには現在平和とは程遠いはずだ。
それを建前では何とかするために、サヴァリスが向かっている。
本来ならサヴァリス、彼はグレンダンの最強の一角、12人に与えられる最高峰の武芸者の称号、天剣授受者の1人。本来なら守護するべき都市から出るということはありえない。
だが、サヴァリスは女王のアルシェイラからツェルニにいる廃貴族を持ち帰るように命じられて、今、この場所にいる。もっとも、その命令はおまけのようなものではあったが。

廃貴族がツェルニにいる。
その報告を女王へもたらしたのは、遥か昔にグレンダンから旅立ったサリンバン教導傭兵団。
そして、サヴァリスにそのことを伝えたのは弟、ゴルネオからの手紙。

「己の大地を失った電子精霊の狂気。それが武芸者を超常的にまで強くする」

興味がある。女王に言った言葉に嘘はない。
その興味の内容は、強さだけ。それ以外にはない。
武芸者として、天剣授受者としてその考えは正しいのだが、サヴァリスの場合は行き過ぎている部分がある。
彼は武芸者なら当たり前の、都市を護ると言う事を使命感とはしていない。
汚染獣に襲われれば、そして戦争ともなれば全力で戦うが、それは鍛錬によって高めた力と技を実戦で試しているに過ぎない。
修行し、修正し、研磨する。そうやって戦いを繰り返して、研ぎ澄まさせた末の強さにしか興味がない。
廃貴族と言う存在、その圧倒的な力は磨き上げると言う意味ではサヴァリスの好みから外れている。
本来ならそんな力があったとしても、サヴァリスは見向きもしないだろう。彼にとっては剄脈加速薬のようなものだ。
だが、グレンダンの力の順列と言う現実は、サヴァリスにそれを無視させない。

「だけどまぁ、試してみたいよね」

あの力が、自分達天剣授受者3人を圧倒するあの力が、本当に借り物でしかないのか……

「楽しくなりそうだよ、本当に……」

サヴァリスはいずれ来る時を思って、肩を振るわせた。
だが、その前に片付けなければならない問題もある。

「困ったね」

現在、サヴァリス達宿泊客は、都市警察によって宿泊施設からの出入りを禁じられている。
本来ならここにいることさえ違反なのだが、宿泊客の1人1人を監視するほど都市警察に人員は余っていない。それ故に要所に監視を置く程度の警備なのだが、そんなものサヴァリスにとってはないも同然だ。
だが、流石に監視の目を誤魔化してのんきに観光をする雰囲気でもないようだ。
リーリンには鈍感だと思われ、確かに都市警察の少年達の落ち着きのなさを見逃していた。
いや、それは正しくない。見る気がなかった、興味がなかった。
彼らは結局、危険な状況であると認識した事実に怯えているに過ぎない。そんなことは、サヴァリスにとって気づくに値しない。
不穏な空気は、もっと別なところからやってきている。例えば……
サヴァリスは振り返り、それを見た。

「困った。でも、なかなか面白いことになりそうでもあるね……」

彼の視線の先にあるのは、巨大な足。まるで天を突くほどに巨大なレギオスの足だ。
その1本を見つめ、大変な事態だと言うのに楽しそうに、小さく笑う。

「あの音が消えているのを誤魔化すのは、無理だよね」

身じろぎすらしない都市の足を眺め、そうつぶやいてサヴァリスは屋上から去った。
そろそろ、監視で残された都市警察が巡回に来る時間だ。





































あれから2日が経った。
リーリンの怒りは未だに収まらず、逆に状況が未だに進展しないことに苛立ちが増している。

「もう、なんなのよ」

「荒れていますね。まぁ、無理もありません」

罪のない枕に八つ当たりをして、リーリンはため息を吐く。
その様子をクラリーベルはもっともだと言うように眺めていた。
彼女も愛用の錬金鋼を没収され、鍛錬すら儘ならずに結構参っているのだ。
これでも凄腕の武芸者であるり、部屋を抜け出すのにわけはなく、暇なので同じ都市出身で、年齢の近いリーリンの元へと遊びに来ていた。
だが、一般人であるリーリンは部屋から抜け出すことすらできない。
部屋から出るのを許されるのは食事の時だけであり、定められた朝食の時間に食堂へと赴きお、それが終われば今度は昼食の時間まで部屋から抜け出すことはできない。その次は夕食までだ。
まるで息が詰まってしまいそうな生活。だが、異邦人であり、緊急事態である以上、我慢しなければならないのだろう。それでも腹の虫は収まらないが。

事情聴取が終わった後は怒りながら返してもらった荷物を確かめ、汚れた服を部屋の風呂場で洗濯して干す。
それで1日目はやり過ごすことができた。が、2日目からは本当にやることがなくなった。
観光なんて無理な話で、暇つぶしのために持ってきた本は放浪バスの中で何度も読んだ。今更ページを開こうなんて気にはなれない。
開いたとしても、頭の中に錬金鋼を取り上げたロイの顔が浮かんできて、文字を追う気にさせない。
集中力を欠き、リーリンは何かをする気にはなれない。
それでも大量に時間が余っており、現在暇なのだ。
だからこうして、クラリーベルが部屋にいてくれるだけでもありがたい。

「いっそのこと、錬金鋼を取り返しましょうか?私なら簡単に忍び込めますし、リーリンのもついでに取ってきますよ」

「それは、やめた方がいいんじゃ……」

その案は一瞬、リーリンも考えた。
何か行動を起こさなければ、物事は解決しない。
錬金鋼さえ取り返せれば、とりあえずは腹の虫は収まるだろう。
だけど泥棒をしたとなれば、それを理由に捕まってしまうかもしれない。逆に余計な疑いをもたれるかもしれない。

「私物を取り返すんですから、別に泥棒ではないと思うんですけど……では、事件そのものを解決しますか?そうすれば何の問題もなく錬金鋼は帰ってきますよ」

「無理です」

クラリーベルの言葉に、リーリンは即答で断言する。
まず、事件がどんなものかがわからない。
重要情報が盗まれたと言う話だけど、それをそのまま鵜呑みにしていいのかもわからない。
都市警察の少年達の緊張は、都市の権益に関わる情報を盗まれた、と言うには緊張の濃度が濃すぎた気がする。

「なんでしょう?何が盗まれたら、あんな風になるんでしょうか?」

都市にとって情報は重要だ。
都市内部で生み出される様々な研究成果、あるいは発見、新開発されたもの……それらは都市を、より効率的に稼動させるために欠かせないものだ。
また、レギオスの性質上、都市同士の公益に物資を運ぶことは事実上不可能だ。
移動に費やす時間が不透明だし、都市外の移動に大規模な輸送手段は使えない。この都市の間を行き来できるのは、放浪バスだけなのだから。
それにもし使えたとしても、集まった人々の臭いを嗅ぎつけて汚染獣がやってくるだろう。それはあまりにも危険すぎる。
だからこそ、都市同士の交流には情報が用いられる。情報の代価は希少金属を使用した都市間通貨の場合もあるが、殆どが情報との物々交換だ。
情報を商売とする者達は、元の都市に戻って利益を得るのだ。都市を、そして個人を富ませる意味で情報は大切だ。
だが、だからこそ、あれほど少年達を怯えさせる情報とは何だろう?

「情報そのものが嘘かもしれませんね」

「確かに……」

もしも情報が嘘だとしたら?
クラリーベルの言葉に、リーリンが首を捻る。

「……兵器?」

「なるほど、それなら確かに納得できます。ですが、そんなものを学園都市が作りますか?」

危険な兵器、例えば毒ガスとかならあの緊張感も納得できる。
そんなものを開発していたと言う情報が他所の都市に流れれば、その都市は完膚なきまでに人間の手によって滅ぼされてしまうだろう。もし都市戦などで使われれば堪ったものではないからだ。
少なくともグレンダンならそうする。法律として明文化されているのだ。
しかし、毒ガスとは一歩間違えば自分達の都市を滅ぼしてしまいかねない危険なものだ。それを学園都市が作るとは思えない。
兵器なら本体であっても、情報であっても盗まれたのなら大変なことだが、学園都市でそんな事件が起こるとは想像できない。

「やっぱり、違いますよね」

映画の観過ぎだとその考えを却下し、リーリンは頭を掻いた。

「なんにしても、早く解決して欲しいものです」

「そうですね」

この現状を早く何とかして欲しいと思いつつ、ここで一旦会話が途切れた。
やはり相手が王家の人物と言うこともあり、リーリンはどこか緊張しているのだろう。
クラリーベルにしても今まで武芸一筋だったために、同年代の少女と話せる共通の話題を持っていない。
それでも順応力は高く、リーリンとは席が隣だったためにここまでの旅でずいぶん仲が良くなった。

「ところでクララ」

「はい?」

クラリーベルはリーリンと呼び捨てに、リーリンはクララと愛称で呼び合うほどにだ。
そんな彼女にだからこそ、また、暇だからこそ、リーリンはクラリーベルに尋ねた。

「レイフォンに会いに行くって話ですけど……どうしてですか?」

それは彼女の目的。
放浪バスの中ではサヴァリスや他の乗客の目があったので、この機会に尋ねてみる。
何故、彼女はレイフォンに会いたいのかを。

「唐突ですね」

「すみません。ですが……わざわざ王家の人がなんで、レイフォンなんかに……」

幼馴染を、孤児院で育った兄弟のような存在であるレイフォンのことを悪く言いたくはないが、彼はグレンダンでは犯罪者である。
闇試合に出て天剣授受者の名を汚し、そしてなにより、天剣争奪戦と言う都市中の視線が集中する場で、武芸者の恐ろしさを民に知らしめてしまった。
そんなレイフォンに、なんでクラリーベルが会いに行くのだろうか?

「そうですね……やはり、目標だからでしょうか」

「目標?」

「はい。そもそも、リーリンは勘違いしているかもしれませんが、私はもちろん、三王家の者達、天剣授受者の方々は、レイフォンの事を嫌悪したりしていないのですよ」

「え?」

呆気に取られるリーリンに、クラリーベルはにこやかな顔を使って答える。

「皆さん、レイフォン様がどうしてあんなことをしたのか理由は知っているんですよ。それでも情けをかけられなかったのは、彼が天剣を持つものの力量がどれだけ恐ろしい存在かを、都市民達に知らしめてしまったからです。彼らはそれを知るべきではなかった。だから許すことはできず、放逐しました」

「それって……」

「リーリンはレイフォン様とご一緒に育ってましたから、わかるんじゃないんですか?彼は強すぎるのですよ」

天剣授受者と言うのはもはや化け物だ。
数を無にする、たった1人で一般の都市を壊滅させることのできる存在。
武芸者が束になっても止めることができない。
天剣授受者を止められるのは、同じ天剣授受者か、それよりも強い力を持つ女王、アルシェイラだけだ。
そしてアルシェイラを、彼女を止めることは誰にもできない。
それほどまでに彼らは、彼女達は圧倒的な存在で、人の道を外れた化け物の集団なのだ。

「ですから、それを民に教えるべきではなかった。もし、都市の守護者たる武芸者が牙を剥いたら、ただの人間に対抗する術がないことを。例えばですね、リーリン。私はあなたを、今ここで簡単に殺せるんですよ」

にこやかな笑みのまま、クラリーベルが冷酷な言葉を告げる。
それでもリーリンが恐れたり、取り乱したりしなかったのは真剣な話で、クラリーベルが例え話、冗談で言っているのが理解できているからだ。

「武芸者と言うのは本来、強力な道徳観念で民を律している高潔な存在だと思わせなければならない。まぁ、グレンダンに、天剣授受者の中にそんな武芸者は殆ど皆無ですけど、それでも犯罪は起こしません。もちろん、稀に犯罪に手を染める悪い武芸者もいますけど、そんな武芸者は異端で少数で、例えいたとしても悪者は武芸者がやっつけてしまうと思わせなければならない。天剣授受者は正義だと思わせなければならない。武芸者達が守らなければいけない律は法律なんかとはわけが違うのです。気づかせてはいけない、そんな異端が天剣授受者の中にいるだなんて。もしそんなことになったら、天剣授受者ならば並の武芸者なんて何の障害にもなりません。女王や同じ天剣授受者以外、誰も止めることができない。では、そういう天剣授受者が他にもいたら?もし、女王が暴走したら?そうなったり、気づかれたりしたらその都市は終わりですよ。汚染獣や戦争ではなく、人の暴走によって都市は滅びます」

人は弱い。そして、強力な力を持つ武芸者だが、彼らもまた弱い。
武芸者なくして人は汚染獣や戦争の脅威から逃れることはできないが、人なくして武芸者は社会を維持できない。
だからこそ人と武芸者は、人間は群れる。その共存が壊れてしまえば、待つのは滅びしかない。
だからこそ許されなかった。同情ができなかった。レイフォンが幼いという理由では済まされなかった。

「まぁ……要はそんなところです。民達にとっては許されないことなのですよ。でも、先ほども言いましたが、私達は特に気にしていませんから……さて、そろそろお昼ですね。巡回も来るころでしょうから、私はいったん部屋に戻ります」

「あ……」

そう言って、クラリーベルは自分の部屋へと戻ってしまった。
先ほどの話を聞き、リーリンは考え込む。
レイフォンが追い出された理由。武芸者が人とは違う、化け物だと言うこと。
そのことについては、一緒に育ったリーリンにはいまいち理解できない。
なぜならレイフォンはレイフォンなのだから。兄弟で、幼馴染で、自分の想い人。
それ以外の何者でもない。

「そういえば……」

ここに来て、リーリンは思い出す。
レイフォンの話で忘れていたが、結局、クラリーベルがレイフォンに会いに行く理由を聞けなかったことを。




































「それはそうと……最近、眠った気がしなくって」

「それは大変ですね。環境が変わった所為でしょうか?」

「どうなんだろう?」

朝食の時間となり、再びリーリンとクラリーベルは合流した。
そんなリーリンの表情は浮かない。未だに腹が立つというのもあるが、最近は寝ても疲れがまったく取れないのだ。まるで眠った気がしない。
クラリーベルの言うとおり、環境が変わった所為かと思いながら、リーリンはビュッフェ(取り放題・立食)形式の食事を自分の皿へと載せる。
リーリンの隣にいるクラリーベルは、流石武芸者と言うべきか、見た目には不釣合いなほどに大量の食事が大皿に盛り付けられていた。

「よく、そんなに食べられますね」

「これくらい普通ですよ。サヴァリスさまだって、ホラ」

「う……」

この食堂にはサヴァリスもおり、彼はクラリーベル以上の料理を大皿へと載せていた。
そしてリーリン達の存在に気づいたのか、それとも最初から気づいていたのか、皿を手にしながらこちらに歩み寄ってくる。

「やあ、ゆっくり休めたかい?」

「いいえ……どうも疲れが取れなくって」

サヴァリスの言葉に苦笑で答えながら、リーリンは彼の大皿を見る。
やはり凄い。レイフォンも孤児院では武芸者と言うこともあって結構食べていたが、強い武芸者と言うのはみんなこうなのだろうか?
そんなことをリーリンが考えていると、サヴァリスが首をひねって尋ねた。

「おや、それだけかい?それじゃ足りないだろ」

その原因はリーリンの食事。
簡単な料理と、フルーツジュースだけと言う、小食でもそれはあまりに少なすぎる量だ。

「体力だけはつけておいた方がいいよ。見知らぬ土地で倒れても話にならないからね」

「それは、そうですけど……」

だからと言って、サヴァリスやクラリーベル並みに食べる気にはなれない。太るから。
もっとも、そんなに食べられないと言うことでもある。リーリンは一般人なのだから。
だが、今のままでは少ないことは確かだ。運動量が少なくなっていることを考慮しても少ない。
リーリンはもう1皿追加して、席へと座った。

「それにしても、いつまで続くんでしょうか?」

食事をしながら、リーリンは食堂を見渡した。
今、食堂にいるのは宿泊客と都市警察から派遣された監視員だけだ。宿泊施設の料理人達はこの場に料理を並べると去っていった。
なくなった料理は追加されることもなく、遅れてきた人達は仕方なしに残っているものから選んでいた。
あまり関係ないが、孤児院育ちのリーリンからすれば、残り物が少ないと言うのに好感が持てた。
更に辺りを見渡していると、監視する都市警察の中にロイの姿があった。
彼の周りには常に人がいて、話しかけられている。それに対しロイが指示を出しているようだ。
隊長と名乗っていたのだから当然だろうが、きびきびとした様子からとても頼られているようだ。

「犯人が捕まるまででしょうね」

「それがいつか、私は知りたいんですけど」

ロイから視線を外し、わかっていて言っているサヴァリスを睨む。
グレンダンにいたころはできなかったことだが、今までの旅でずいぶん遠慮がなくなってきた。

「これでも一応、都市警察の仕事を手伝ったことがあるから、彼らの今の行動の理由がわかりますが」

そう言うと、サヴァリスは熱いお茶に息を吹きかけ、少しだけ飲んだ。
どうやら猫舌で、熱いものが苦手なようだ。

「情報の盗難なんてものは、基本的に都市の外から来た者しか行わない。都市内部の研究機関の組織的な対立と言うのは滅多に起こらないしね。都市のためになる物を開発するのが彼らの最上課題ですから。犯人はここにいる誰かで確定しているんですよ」

「それは、なんとなくわかりますけど……」

だからこそ、リーリン達はここで見張られているのだ。

「しかし、おそらく……今回は事情が少し違うと思いますよ。宿泊施設にいる人達の荷物を総ざらいして見つからないと言うことは、犯人は別にいると言うことだから」

「だったら……」

何で自分達はこんな目に遭っているのか?
そう言おうとしたリーリンだが、サヴァリスの次の言葉に遮られる。

「あるいは、彼らが探しているものが情報、それが入っているデータチップでないのだとしたら、話は別になるけれど」

「え?」

それはつまり、盗まれたのは情報なんかではないと言うことだ。

「リーリン、どうやら先ほどの話は冗談になりそうにありませんね」

クラリーベルの言った言葉に、思わずリーリンは頷いた。
流石に兵器はありえないだろうが、盗まれたものが情報である可能性は限りなく低い。
ならば、それは一体なんなのだろうか?

「彼ら自身、盗まれたことはわかっているのだけれど、それが一体どんなものなのか、それがわからないから困っている。なんだかそんな感じが僕はしますね」

「なんなんです?」

「なんなんだろうねぇ」

「……………」

「……………」

思わせぶりな台詞を言いつつ、悠然とそんなことを言うサヴァリスにリーリンと、クラリーベルも呆れたようだ。
サヴァリスだって錬金鋼を没収されているのだろうに、まるで困っている様子はなかった。

「とにかく、さっさと捕まえて欲しいです。これで次の放浪バスを逃したりなんてしたら……」

自分でつぶやいた言葉だが、それを考えてリーリンはぞっとした。
次の次に来る放浪バスが、ツェルニに向かってくれるとは限らないのだ。そうなれば、更に待たされることとなる。
それはいくらなんでも避けたかった。

「はぁ……お茶のお代わり、取ってきます」

「あ、それじゃ僕も行こうかな」

気を紛らわせるためにリーリンが席を立ち、サヴァリスもお茶を飲み干したので新しいものをとりに行くために立った。
決められた食事の時間が過ぎれば、強制的に部屋に戻され、またも暇な時間がやってくるのだ。
だからサヴァリスはともかく、リーリンは今のうちに広い空間と、他の人達と一緒の雰囲気を楽しみたいと辺りを見渡す。キョロキョロと視線を巡らせていた。
昼食時と言うこともあり、この場には宿泊客の殆どの人達が集まっている。
老若男女まさに様々で、リーリンはそんな彼らに視線をさ迷わせていた。

「ん?」

そのさ迷わせていた視線を、今度は戻してみる。そこには、誰もいなかった。
だが、先ほどは誰かいた。いや、いた気がするのだ。
見覚えのある人物だった気がするが、自分の勘違いかと首をひねる。

「サヴァリス様、今、あそこに誰か……」

隣にいるサヴァリスに、誰かいなかったかと尋ねてみる。
自分が見逃していても、彼ならば見ているのではないかと思って。

「あれ?」

だけど、そのサヴァリスもいなかった。
リーリンはもう一度視線を巡らせ、今度はサヴァリスを探す。だけどその姿は、食堂のどこにもない。
席に戻ったのかとそちらの方に視線を向けてみるが、席に座っているのはクラリーベルだけだ。

「どこにいったんだろう?」

リーリンはまたも、視線をさ迷わせ、見覚えのある人物のことを忘れてサヴァリスを探すのだった。




































「びっくりした……本当にびっくりした。何でこんなところにリーリンが!?ってか、ここどこ!?僕はツェルニの機関部にいたはずなのに……?」

先ほど食堂にいた人物、茶髪のボサボサした頭で、だと言うのに容姿の整った少年は食堂の外の廊下で息を吐き、驚いた様子で辺りを見渡していた。
その腰の剣帯には錬金鋼が差してあり、彼が武芸者なのがうかがえる。
だが、宿泊客は武芸者にしろ一般人にしろ錬金鋼は没収されているので、それでも錬金鋼を持っているということは少年は学生なのだろう。
歳は十代半ばくらいで、彼が着ている服は確かに学校の制服のようなものだった。
だが、その制服はこの都市、マイアスの学生達が着る服とは作りが違う。
胸には図案化された少女と、ペンの紋章が画かれている。まるでこの都市以外の、別の学園都市の生徒のような出で立ちだ。

「なんでこんなことに……?」

「理由はわからないけど、なんだか大変そうだね。お茶でも飲むかい?」

「あ、ありがとうございま……」

戸惑う少年に優しい声がかけられ、少年は声をかけてくれた人物からお茶の入ったカップを受け取る。
だが、その声をかけた人物の姿を直視し、その声を思い出し、少年は言葉を失った。
リーリンがあそこにいるのも驚いたが、彼がここにいるのには更に驚いた。
なぜならこの人物はグレンダン最強の一角であり、都市を守護するべき存在だからだ。かつては自分もその1人だった。
一瞬、ここはグレンダンかと思って辺りを見渡す。だが、その景色に覚えはない。
グレンダンの全てを知っているわけではないが、窓から見える景色も、グレンダンの景色とは程遠い。
あの都市は、無骨でシンプルな建物が多かったからだ。

「なんで……あなたがここにいるんですか?」

「それは僕の台詞だね。君はツェルニにいるはずだろう?」

長い銀髪を束ね、鍛え上げられた肉体を持つ、見た目は間違いなく好青年の人物が少年の問いに答える。
だが、少年自身も、何故自分がここにいるのかは理解できていなかった。
自分はツェルニに、その機関部にいたはずなのだ。それなのにこの場所にいる。
未だに混乱している思考の中、とりあえず少年は青年へと視線を向け、どこか嫌そうに彼の名を呼ぶ。

「お久しぶりです、サヴァリスさん」

「ああ、久しぶりだね、レイフォン」

天剣授受者と、元天剣授受者。
圧倒的力を持つ、強力無比な武芸者2人はこうして遭遇した。





































あとがき
新作のポケモンにはまり、SSやマジ恋がぜんぜん進んでいないこのごろ……
やはりポケモンは俺の青春ですねw
初めてプレイした小学校1年生の時を思い出します。あれからもう14年近く……時が経つのは早いものです。
そして今日もポケモンに明け暮れて……
なんにせよ、更新がんばります(汗

前半部分は原作どおりの展開なんですけど、後半からついに彼が現れて……
まずは戦闘狂との遭遇。はてさて、この先どうなることやら。
それにしても、前回の番外編が好評で驚きました。クララの人気は凄いものですねw

それはさておき、行きつけの本屋でドラゴンマガジンなるものが置いてあったので購入したこのごろ。
レギオスの番外編!?そしてシンが変態あつかいされている!なんて内容が。
途中からだったんで、どういう状況下まるでわかりませんでしたが、あれには笑いました。
しかし、シンは何したんだろう……?
クラリーベルは第十四小隊に入ったようですね。しかもフェリと共になんか二つ名ついてますし。
レイフォンは閃光のレイなんてw
さてさて、前回のドラゴンマガジンがものすごく気になります。ああ、早くあの短編単行本化されないかな?
しかもおまけ漫画で深遊さんの漫画が……あれには笑いましたw
しかし、ニーナ誘き寄せつためにフェリを人質に使用なんてしたら、この作品なら間違いなくフォンフォンに殺されますねw
ええ、シャンテ編の比ではないでしょう。そしてハイアはまだ何にもしてないのに、死亡フラグがかなり凄いことになってます。
この作品、果たしてどうなるのかと思いつつ、今回はこれで失礼します。
では!

しかし、レイフォンサイドと言うより、もはやマイアスサイドなこの回。
次回はもっと出番増やせたらいいなと思います……

PS そう言えば、クララSSと言えば、あまりの可愛さに俺が一撃でノックアウトしたSSがありました。ええ、あれは凶悪です。
興味がある人は『クラリーベル 勝負用』と検索するとトップに出てくるはずですよ。
何が勝負用かって言うと……まぁ、面白すぎるんですよ。俺は読んですぐ感想書き込みましたw


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