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No.15685の一覧
[0] フォンフォン一直線 (鋼殻のレギオス)【一応完結?】[武芸者](2021/02/18 21:57)
[1] プロローグ ツェルニ入学[武芸者](2010/02/20 17:00)
[2] 1話 小隊入隊[武芸者](2011/09/24 23:43)
[3] 2話 電子精霊[武芸者](2011/09/24 23:44)
[4] 3話 対抗試合[武芸者](2010/04/26 19:09)
[5] 4話 緊急事態[武芸者](2011/09/24 23:45)
[6] 5話 エピローグ 汚染された大地 (原作1巻分完結)[武芸者](2010/05/01 20:50)
[7] 6話 手紙 (原作2巻分プロローグ)[武芸者](2011/09/24 23:52)
[8] 7話 料理[武芸者](2010/05/10 18:36)
[9] 8話 日常[武芸者](2011/09/24 23:53)
[10] 9話 日常から非日常へと……[武芸者](2010/02/18 10:29)
[11] 10話 決戦前夜[武芸者](2010/02/22 13:01)
[12] 11話 決戦[武芸者](2011/09/24 23:54)
[13] 12話 レイフォン・アルセイフ[武芸者](2010/03/21 15:01)
[14] 13話 エピローグ 帰還 (原作2巻分完結)[武芸者](2010/03/09 13:02)
[15] 14話 外伝 短編・企画[武芸者](2011/09/24 23:59)
[16] 15話 外伝 アルバイト・イン・ザ・喫茶ミラ[武芸者](2010/04/08 19:00)
[17] 16話 異変の始まり (原作3巻分プロローグ)[武芸者](2010/04/15 16:14)
[18] 17話 初デート[武芸者](2010/05/20 16:33)
[19] 18話 廃都市にて[武芸者](2011/10/22 07:40)
[20] 19話 暴走[武芸者](2011/02/13 20:03)
[21] 20話 エピローグ 憎悪 (原作3巻分完結)[武芸者](2011/10/22 07:50)
[22] 21話 外伝 シスターコンプレックス[武芸者](2010/05/27 18:35)
[23] 22話 因縁 (原作4巻分プロローグ)[武芸者](2010/05/08 21:46)
[24] 23話 それぞれの夜[武芸者](2010/05/18 16:46)
[25] 24話 剣と刀[武芸者](2011/11/04 17:26)
[26] 25話 第十小隊[武芸者](2011/10/22 07:56)
[27] 26話 戸惑い[武芸者](2010/12/07 15:42)
[28] 番外編1[武芸者](2011/01/21 21:41)
[29] 27話 ひとつの結末[武芸者](2011/10/22 08:17)
[30] 28話 エピローグ 狂いし電子精霊 (4巻分完結)[武芸者](2010/06/24 16:43)
[32] 29話 バンアレン・デイ 前編[武芸者](2011/10/22 08:19)
[33] 30話 バンアレン・デイ 後編[武芸者](2011/10/22 08:20)
[34] 31話 グレンダンにて (原作5巻分プロローグ)[武芸者](2010/08/06 21:56)
[35] 32話 合宿[武芸者](2011/10/22 08:22)
[37] 33話 対峙[かい](2011/10/22 08:23)
[38] 34話 その後……[武芸者](2010/09/06 14:48)
[39] 35話 二つの戦場[武芸者](2011/08/24 23:58)
[40] 36話 開戦[武芸者](2010/10/18 20:25)
[41] 37話 エピローグ 廃貴族 (原作5巻分完結)[武芸者](2011/10/23 07:13)
[43] 38話 都市の暴走 (原作6巻分プロローグ)[武芸者](2010/09/22 10:08)
[44] 39話 学園都市マイアス[武芸者](2011/10/23 07:18)
[45] 40話 逃避[武芸者](2010/10/20 19:03)
[46] 41話 関われぬ戦い[武芸者](2011/08/29 00:26)
[47] 42話 天剣授受者VS元天剣授受者[武芸者](2011/10/23 07:21)
[48] 43話 電子精霊マイアス[武芸者](2011/08/30 07:19)
[49] 44話 イグナシスの夢想[武芸者](2010/11/16 19:09)
[50] 45話 狼面衆[武芸者](2010/11/23 10:31)
[51] 46話 帰る場所[武芸者](2011/04/14 23:25)
[52] 47話 クラウドセル・分離マザーⅣ・ハルペー[武芸者](2011/07/28 20:40)
[53] 48話 エピローグ 再会 (原作6巻分完結)[武芸者](2011/10/05 08:10)
[54] 番外編2[武芸者](2011/02/22 15:17)
[55] 49話 婚約 (原作7巻分プロローグ)[武芸者](2011/10/23 07:24)
[56] 番外編3[武芸者](2011/02/28 23:00)
[57] 50話 都市戦の前に[武芸者](2011/09/08 09:51)
[59] 51話 病的愛情(ヤンデレ)[武芸者](2011/03/23 01:21)
[60] 51話 病的愛情(ヤンデレ)【ネタ回】[武芸者](2011/03/09 22:34)
[61] 52話 激突[武芸者](2011/11/14 12:59)
[62] 52話 激突【ネタ回】[武芸者](2011/11/14 13:00)
[63] 53話 病的愛情(レイフォン)暴走[武芸者](2011/04/07 17:12)
[64] 54話 都市戦開幕[武芸者](2011/07/20 21:08)
[65] 55話 都市戦終幕[武芸者](2011/04/14 23:20)
[66] 56話 エピローグ 都市戦後の騒動 (原作7巻分完結)[武芸者](2011/04/28 22:34)
[67] 57話 戦いの後の夜[武芸者](2011/11/22 07:43)
[68] 58話 何気ない日常[武芸者](2011/06/14 19:34)
[70] 59話 ダンスパーティ[武芸者](2011/08/23 22:35)
[71] 60話 戦闘狂(サヴァリス)[武芸者](2011/08/05 23:52)
[72] 61話 目出度い日[武芸者](2011/07/27 23:36)
[73] 62話 門出 (第一部完結)[武芸者](2021/02/02 00:48)
[74] 『一時凍結』 迫る危機[武芸者](2012/01/11 14:45)
[75] 63話 ツェルニ[武芸者](2012/01/13 23:31)
[76] 64話 後始末[武芸者](2012/03/09 22:52)
[77] 65話 念威少女[武芸者](2012/03/10 07:21)
[78] 番外編 ハイア死亡ルート[武芸者](2012/07/06 11:48)
[79] 66話 第十四小隊[武芸者](2013/09/04 20:30)
[80] 67話 怪奇愛好会[武芸者](2012/10/05 22:30)
[81] 68話 隠されていたもの[武芸者](2013/01/04 23:24)
[82] 69話 終幕[武芸者](2013/02/18 22:15)
[83] 70話 変化[武芸者](2013/02/18 22:11)
[84] 71話 休日[武芸者](2013/02/26 20:42)
[85] 72話 両親[武芸者](2013/04/04 17:15)
[86] 73話 駆け落ち[武芸者](2013/03/15 10:03)
[87] 74話 二つの脅威[武芸者](2013/04/06 09:55)
[88] 75話 二つの脅威、終結[武芸者](2013/05/07 21:29)
[89] 76話 文化祭開始[武芸者](2013/09/04 20:36)
[90] 77話 ミス・ツェルニ[武芸者](2013/09/12 21:24)
[91] 78話 ユーリ[武芸者](2013/09/13 06:52)
[92] 79話 別れ[武芸者](2013/11/08 23:20)
[93] 80話 夏の始まり (第二部開始 原作9巻分プロローグ)[武芸者](2014/02/14 15:05)
[94] 81話 レイフォンとサイハーデン[武芸者](2014/02/14 15:07)
[95] 最終章その1[武芸者](2018/02/04 00:00)
[96] 最終章その2[武芸者](2018/02/06 05:50)
[97] 最終章その3[武芸者](2020/11/17 23:18)
[98] 最終章その4[武芸者](2021/02/02 00:43)
[99] 最終章その5 ひとまずの幕引き[武芸者](2021/02/18 21:57)
[100] あとがき的な戯言[武芸者](2021/02/18 21:55)
[101] 去る者 その1[武芸者](2021/08/15 16:07)
[102] 去る者 その2 了[武芸者](2022/09/08 21:29)
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[15685] 41話 関われぬ戦い
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:11a76631 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/29 00:26
「これは……色々とまずいよね」

ポリポリとレイフォンは頬を掻く。その原因はこの惨状。
ここは都市の食糧をまかなっているであろう、農地の一区画。現在は農閑期なのか誰もいなく、そして何もなかった。
どことなく似てるからか、合宿をしたことを思い出しながらレイフォンは辺りを見渡す。だけどその似ていた光景は、すっかり変わり果てているのだった。
大地は抉れ、大穴がいたるところに開いている。
周りには果樹園があり、樹木が植えてあったがそれは薙ぎ払われたように折られていた。
まるで汚染獣が大暴れでもしたかのような惨状。だけどこれは人の手、レイフォン1人によって行われたのだ。

「剄が大幅に上がっている……それにこの錬金鋼……」

天剣授受者となるだけあり、元からレイフォンの剄の量は多かった。それは通常の錬金鋼では耐えられないほどだ。
だけど今は更なる剄の増量と、それに耐えられる錬金鋼の存在。
今のレイフォンは間違いなく強くなっている。1歩間違えれば都市ごと破壊してしまいかねないほどに。それが不気味で、不思議だった。

持っていた2つの錬金鋼と、見覚えのない3つめの錬金鋼。
複合錬金鋼は剄が増量したことに気づかず、いつもの要領で剄を込めて戦闘中に大破してしまった。
残るのは青石錬金鋼と、3つ目の錬金鋼。
試しに復元したのだが、その形状は刀だった。自ら禁忌とし、けじめとして捨てたはずの刀。
その形に戸惑うレイフォンだったが、この刀は鋼糸への変化もできたのでそちらの方で戦った。
それはまさに天剣だった。まるで自分のためのようにある錬金鋼であり、どんなに剄を流しても壊れる気配がない。
自分の手にこれでもかと言うほど馴染み、まるで自分の一部のような錬金鋼。
故に捨てるのももったいなく、今もなんとなく持っている。ただ、やはり刀と言う形状故に、レイフォンは悩んでいた。

「それよりも……」

いや、確かにそのことに関しても悩んでいたが、今はそれよりも重大な問題がある。
むしろそっちの方が大事で、自分のけじめやら刀のことなどはその前では霞んでしまう。

「どうやって帰ればいいんだ?」

今のレイフォンの一番の問題は、どうやったらツェルニに帰れるのかということだ。
サヴァリスの言ったとおり、ここは学園都市マイアス。どう見てもレイフォンがいたツェルニではなく、別の都市だ。
どうしてこの場所にいるのかは今更だし、考えても仕方がないので置いておく。問題は帰る方法。
都市を唯一渡る方法は、放浪バスだけのはずだ。ならばレイフォンは放浪バスに乗った覚えはないのに、何故ここにいるのかと言う話になるが、話が進まないのでそれも無視する。
現在、この都市にはその方法である放浪バス来ていない。ならばツェルニへと行く放浪バスを待つしかないのだ。
何時来るかわからない不定期な乗り物、放浪バスを。来たとしても、ツェルニへ行くとは限らない放浪バスを。
どれくらい待てばいい?1日か?2日か?1週間か?1ヶ月か?それとも数ヶ月?ふざけるなと叫びたくなった。
ここにはフェリがいない。レイフォンの支えとなり、最愛の人がいない。
フェリに会いたかった、今すぐにだ。だから、そんなに待てるわけがない。

「ああ、もう……まるで夢の中に放り込まれたみたいだ!何かをしなければいけない気がするけど、そんなもの……」

使命感のようなものが思考の片隅に根付いている。
だけどそんなもの、レイフォンには関係ない。知ったものではない。
彼はツェルニに帰りたいのだ、今すぐ。そして会いたい人がいる。
それが、今のレイフォンがもっとも優先するべきことである。

「なのに、なんなんだこいつらは?」

わけがわからずに頭を掻き毟る。
この惨状を作り出す原因となった存在、レイフォンに襲い掛かってきた者達。
レイフォンは容易に返り討ちにしてみせたが、それ故に苛立ち、気が狂いそうだった。
襲ってきたのは狼のような仮面をかぶった者達。バンアレン・デイの日にも、レイフォンの前に現れたあの集団だ。
狼面衆と名乗る彼らに一撃を入れ、確かに意識を刈り取った。
ただ、場合によっては廃貴族と戦うために錬金鋼の安全設定を解除していたので、襲ってきた狼面衆を打破するために勢いあまって殺してしまったかもしれない。人を斬った、嫌な手ごたえもその手に感じていた。
正当防衛だったし、ああしなければ自分がやられていたのかもしれないから、レイフォンは殺してしまったかもしれないことに後悔はない。
生憎人とはいえ、襲ってきた存在に罪悪感を覚えるほどレイフォンは繊細ではない。むしろ大切な者を傷つけようとする存在なら、レイフォンは迷わず殺すことだろう。だからガハルドも、最初は殺そうと思えた。結局のところ、寸前で迷って失敗してしまったが、今はそんな迷いなどない。

そう、確かに打破し、倒したはずなのだ。だけどここには、レイフォン以外誰もいない。
気を失った狼面衆も、斬られて死んだかもしれない狼面衆の死体も、ここには存在しなかった。
彼らは消えてしまったのだ。まるで最初から存在しなかったかのように、跡形もなく消えてしまった。

「何なんだ一体?」

まったくわけがわからない。理解が追いつかない。
レイフォンがここにいる理由も、狼面衆が何なのかも。本当に気が狂ってしまいそうだった。

「そんなもん持ってるって事は、今更忘れろなんて言えるわけないな」

「……さっきの奴の仲間ですか?」

わけがわからないからこそ苛立つ。
いきなり現れた人の気配だが、レイフォンは冷酷なほどに冷静で、研ぎ澄まされた殺気を向ける。
その殺気を受け、声の主は飄々としつつ、苦笑したように口を開いた。

「俺をあんな奴らと一緒にすんな。むしろあいつらとは敵だ」

「……そうですか」

だけどレイフォンは警戒を緩めない。今は気が立っているのだ、それも当然だろう。
そして何より、いきなり現れた正体不明の者に馴れ馴れしくするほどレイフォンは愚かでも、お人好しでもない。
現れた人物は男性だった。
身長が高く、モデルのように足が長い。10人中10人が認めるような美形であり、レイフォンもあまり人のことは言えないが、少し手入れをサボっているような癖のある赤髪をしていた。
そんな彼の瞳には何かが宿っている。決して油断のできない、何かが……

「俺の名前はディクセリオ・マスケイン。まぁ、ディックと呼んでくれ」

「……あなたは、ツェルニに帰る方法を知っていますか?」

だけどそんなことは、レイフォンにとって心底どうでもいい。
相手が有益な情報を持っているなら話は別だが、それ以外はどうでもよかった。
今のレイフォンが求めるのは、ツェルニに帰還する方法。
この都市にはリーリンやサヴァリスがいたが、何故いるのかには興味が無いというより気にしている余裕がなく、今は帰る方法を探すことが最も優先すべき行動だった。

「思ったとおりだ。その制服、見覚えがあると思ったが、やっぱりツェルニの学生か。俺もなんだよ、卒業生だ」

ディックが飄々と口を開く。見てみれば彼も武芸者のようで、腰には剣帯が巻きつけられ、錬金鋼が差してあった。
その剣帯の色にしたって、ツェルニ最上級生である6年生のものだった。
どうやらツェルニを卒業したとはいえ、その装備が気に入って未だに愛用しているようだ。

「それがどうしたんですか?」

だけどそんなことも、ディックと名乗る男性がツェルニの卒業生であることなど、レイフォンにとって関係ない。

「……つれないねえ。卒業したとはいえ俺は先輩で、お前は後輩なんだ。もう少しコミュニケーションってもんを取りたいもんだが」

ディックは苦笑いをしながら頭を掻く。
その動作にもレイフォンは興味が持てない。
だがディックは、レイフォンにとってもっとも気になるべき情報を知っていた。

「まぁ……心当たりがないわけでもないが」

「それはなんですか?」

「お、喰い付いて来たな」

ツェルニへ帰還する方法。
レイフォンは問い質すような視線をディックへと向け、向けられたディックはニヤリと笑った。




































「珍しいですね」

「本当」

リーリンに与えられた部屋に、今日もクラリーベルは訪れていた。
10日も経ったと言うのに事件はまるで進展していない。要は暇なのだ。
リーリンの部屋で暇を潰してた2人は、ノックするような音が窓から聞こえたのでそちらの方を向く。
するとそこには小鳥がいて、小鳥はくちばしで窓を叩いていた。
手のひらに乗りそうな小さな小鳥だ。褐色のくちばしで窓ガラスをコツコツよ叩いていた。

「野生かな?それともペット?」

「かわいいですね」

暇だったことから2人はすぐさま小鳥へと興味を持った。
グレンダンでは鳥をあまり見ない。
空に放すとエア・フィルターを突き抜けてしまい、すぐに死んでしまうからだ。
エア・フィルター内を飛び回るように習性付けることは可能らしいが、少なくともグレンダンでは実行されていない。

「入るかな?」

「どうでしょう?」

リーリンが驚かさないようにゆっくりと、少しだけ窓を開けると、小鳥は跳ねるように移動して、部屋の中に入ってきた。
小刻みに羽ばたき、天井付近を一周するとベッドサイドにあるテーブルへと足を下ろした。

「おいで……」

リーリンは手を伸ばしてみる。小鳥はリーリンの指を暫く眺めていたが、すぐに彼女の手へと乗った。
どうやら人懐っこい性格のようだ。

「そんなにお人好しだと、捕まって食べられちゃうわよ」

冗談を言いながら笑いかけると、小鳥は首を捻るように羽の手入れを始めた。
その姿は愛らしく、リーリンは今までの鬱屈が晴れていくような気がした。

「そうですね……焼き鳥は美味しいですよね。鳥の唐揚げも好きですが」

「!?」

そんなクラリーベルの発言に、思わずリーリンは鳥をかばうように引き寄せる。
鳥は動じずにリーリンの手の上に乗っていたが、リーリン自身はクラリーベルに鳥が食べられてしまわないか心配だった。

「冗談ですよ。本気にしないでください」

「で、ですよね……」

クスクスと笑うクラリーベルに冷や汗を流しながら、リーリンは手のひらの中の小鳥を見る。
全体は茶褐色だが、顔から胸の辺りに白い毛が混じっている。尾が長く、頭にはまるで冠でもかぶっているかのような金色の長い羽毛が突き出ていた。
暫く手の上に居座る鳥の姿を楽しみ、リーリンは窓を全開にして外に手を出した。
見れば、宿泊施設のある区画を仕切る塀の向こうに、似たような鳥の群れがいた。

「仲間のところにお帰り」

小鳥は暫し窺うように外の様子を眺めていたが、すぐに羽を広げて飛んでいった。
そんな姿を見送りながら、リーリンはこれまでの日々を思い出す。10日も経ったと言うのに未だに宿泊施設から出られない日々が続いていた。
部屋と食堂へ往復だけの毎日は、まるで自分が犯罪者にでもなって、牢屋に入れられているような気分にさせられる。
クラリーベルは隙を見てたまに抜け出しているらしいが、リーリンは出られないので退屈な日々を送っていた。

「どうなるのかしら……?」

鳥の群れを目で追って楽しんでいたが、思わず口から漏れた言葉にため息を抑えることができなかった。
事件が解決する気配はまるでない。更には、徐々にだが、リーリンの胸には嫌な予感が募っている。
最初は気のせいだと思っていたが、どうもそうではない。そんな不安を他の宿泊者達も感じ取っているようで、唯一の交流の場である食堂で辺りを窺うように視線を交錯させたり、ひそひそと話している人達が増えてきた。
それを監視する監視員の学生達にも余裕はなく、不安を感じているようだった。
ただ、これがどういう予感なのか、リーリンにも、他の宿泊者達にもはっきりとわかってはいない。
なんだか妙に落ち着かず、何もないのにそわそわし、眠りも浅くなる。そんな変化が起こっていると言うのに、原因はまったくわからない。
事件が解決に向かっていないと言うことは、動きを止められた宿泊者達は次の放浪バスを逃すかもしれない。それだけで十分に嫌な予感だとは言えるだろう。リーリンにとっては大問題だ。
だが、これだけではない気がする。それ以上の嫌な予感があった。

事情も状況もわからないのだが、それでも宿泊者をずっととどめておくことはできないはずだ。
次の放浪バスが無人で来ることなど、まずありえない。人が増えれば宿泊施設を圧迫するし、食糧の問題も出てくる。
輸入や輸出が絶望的なレギオスでは、食料は基本的に自給自足。そうでなければ都市として成り立たないからだ。
そもそも、今でさえ都市警察には監視などの人手が足りていない。これで更に人が増えれば、彼らには手が回らないだろう。
だからこの拘禁はそう長くは続かない。食堂で知り合った識者らしい人は悠然と語っていた。
だが、その人物も今は落ち着きのない様子で監視の学生達を窺っている。
この、妙な不安感の原因は何なのだろうか?
理由を、原因を、外の情報を誰もが欲しがっている。

「この都市は今、大変なことになっていますから、それが解決するまではこのままじゃないでしょうか?」

「え……?」

その情報を、クラリーベルは知っていた。
考えてみれば当然の話だ。彼女は隙を見て外へと抜け出していた。だからこそ知っている。
むしろなんで今まで言わなかったのか、自分が尋ねなかったのかを疑問に思う。

「今……どうなっているんですか?」

だが、今はそんなことはどうでもいい。情報が欲しく、それを知っているらしいクラリーベルについて尋ねる。
クラリーベルは退屈そうにベットに横になっていたが、ベットから起き上がると、リーリンに向き直って口を開いた。

「この都市は、足を止めているのですよ」

「え?」

クラリーベルの言葉に、まさに『え?』としか言いようがない。汚染獣の猛威から逃れるためにレギオスには足があり、世界を放浪しているのだ。
それが当然であり、当たり前。だからその足が止まっていることなど、リーリンには信じられなかった。

「疑うのも仕方がありませんね。宿泊者のいる部屋は、全て都市側を使われているようですから」

「嘘……」

今更だが、リーリンのいる部屋は都市の内側の様子しか見えない。
だが、まさか全ての宿泊者の部屋がそうだとは思わなかった。それは何のためか?
都市が足を止めているのを隠すため?

「今まで足音が聞こえなかったはずですよ。まぁ、私もいつも都市の足音を気にしているわけではありませんから、気づくのに少し時間がかかりましたけど」

「あ、だから……」

眠りが浅かったり、妙な気持ちになったりする原因はこれだ。
あって当然のものがないことで、体が変調をきたしていたと言うことだろう。

「でも、足が止まるなんて……」

レギオスの足が止まる。そんなこと、考えたことも予想したこともない。
彼女にとって、それは当たり前で当然なのだから。

「その気持ちはわかりますが、事実は事実です」

クラリーベルはそう言いながら、自分の考えを述べる。

「とりあえずこれで、情報が盗まれた件については嘘だと確定しましたね」

「どうしてですか?」

「考えてもみてください。情報を盗まれたくらいで、都市の移動に支障をきたすような、そんなものを取り付ける必要がありますか?それが物品だとしても、故障した時の代替品を用意していないのは変です」

「な、なるほど」

リーリンは納得し、更にクラリーベルの推測を聞く。

「学生達に余裕がないのは、都市が足を止めているから。それはまず、間違いありません。これが機械的な故障なら、都市警察はあそこまで慌てないでしょうし、私達宿泊者を拘禁する意味がありません。情報が嘘でも、仮に盗まれたものがあるとするならば、それはこの都市の人間にはどうすることもできないものです」

「それは……?」

「わかりませんか?」

息を呑むリーリンに、クラリーベルは少しだけ間を取り、答えを述べた。

「電子精霊ですよ」

「あ……」

つい最近までは、その言葉を特別に意識したことはなかった。
都市を動かす電子精霊。その言葉と存在を知ってはいたが、実物を見たことはない。
だけど、レイフォンの手紙に書かれており、少しだけだが興味を持った。
レギオスの意思であり、現在の人類では都市衣状に再現が不可能な謎の存在。
それが盗まれたとなれば、この状況も理解ができる。

「ですから、この都市は……」

ベットに腰掛け、窓の方にいたリーリンに向けてクラリーベルは話していた。
その会話が、言葉が止まる。まるで何かに、リーリンの背後の光景に驚いているようだった。

「どうした……の…………?」

それにつられて、リーリンも振り向く。
クラリーベルの視線の先、窓の外の光景を見て、彼女も凍りついた。

「あれは……?」

「え、ええ!?」

クラリーベルとリーリンは、信じられない光景を見ていた。
先ほど見かけた鳥の群れ。そこには更に鳥が集まり、大量の小鳥が集団で飛び回っていた。
それはまるでひとつの巨大な生き物のようであり、うねり、もがくように暴れている。

「………なに?」

その光景だけでも異常だったが、それだけではない。
その周りに、細い稲光のような走り抜けている。
周りがざわめき、宿泊者達から悲鳴が上がる。
嫌な予感がした。グレンダンで何度も感じた、嫌な予感。

「なんとも間が悪い。まぁ、都市の足が止まっている以上、こういう可能性もありましたが……」

クラリーベルがつぶやく。
それを示すかのように、聞き覚えのある刺々しいサイレンの音が宿泊施設に響き渡った。

「汚染獣に見つかった!」

ドアの向こうで、誰かがはっきりと叫んだ。





































「邪魔をするな!」

「邪魔なのはお前達だ!僕は早く用事を済ませてツェルニに帰るんだ。その邪魔をすると言うのなら……果てろ!!」

動揺する者と、敵意を振り撒く者。
イヌ科の動物、おそらくは狼を模したであろう仮面をかぶった集団は、たった1人の少年によって圧倒されていた。
一撃を加えることすら、触れることすらできずに1人、また1人と仮面の集団は倒されていく。
その者達の集団の名は狼面衆。またもこいつ等だと少年はため息を付く。
その狼面衆を圧倒する少年はレイフォン。
わけのわからないままにマイアスを訪れ、ツェルニへ戻るために奮闘している。
あの怪しい男、ツェルニの卒業生だと言うディックに言われ、レイフォンはこの都市の問題を解決するために尽力している。
ディックの話ではレイフォンが呼ばれたのには理由があり、その理由を、レイフォンが成すべき事を成せばツェルニに戻れるかもしれないらしい。

訝しみ、信用していいのか迷うレイフォンだったが、他に当てもないのでとりあえずは行動を起こす。
この都市の異変。それは本来なら動いているはずの都市が足を止めていること。
それを解決するには、やはり電子精霊だ。都市の意思であり、都市を動かしているのが電子精霊である。それに異変があると見て、まず間違いない。
ならばそれを解決すればいい。そのために行動を起こそうとしたレイフォンだが、そんな彼の前に現れたのが狼面衆だ。またも彼らが現れた。
レイフォンの行く手を遮り、目的達成の邪魔をしてくる。
だが、レイフォンには手も足も出ずに刀で両断され、鋼糸で切断されながら狼面衆達は還っていく。
真っ二つにされ、手足や首を切断されたと言うのに死体は残らない。血は流れない。
何の痕跡も残さず、倒された狼面衆達は消えていった。

「くっ……」

「本体を討たなければ倒したことにならないのか?切がないな。だが、どれだけ数がいようと僕を倒せると思うな!」

レイフォンの青石錬金鋼の剣が狼面衆を切り裂く。また1人還った。
真正面から攻めるのは無駄だと悟ったのか、狼面衆達はレイフォンを取り囲むように散る。
こちらは複数なのだ。囲み、一斉に攻め込んで、反撃の好きすら与えずに打破する。そう考えたのだろう。
だが、狼面衆達は気づいていない。
彼らの足元に、鋼糸が地を這って敷き詰められていることに。レイフォンは狼面衆が一気に攻め込んでくる時こそ、一網打尽にしてやると考えていることに。

「くたばれ」

狼面衆達が攻めて来て、レイフォンは一言つぶやく。
それが合図であり、地面に敷き詰められた鋼糸は一斉に天を突いた。

操弦曲 針化粧

天剣授受者、リンテンスの技であり、鋼糸が複数の狼面衆達を串刺しにしていく。
手足や体を貫通し、狼面衆達は身動きが取れなくなった。その姿は、蜘蛛の巣に捉えられた餌のような光景だ。
だけど狼面衆達は体を貫かれた痛みに悲鳴を漏らすでもなく、またも何事もなかったかのように消えていく。
その様子に特に何も感じずにレイフォンは視線を逸らし、レイフォンは上を見上げた。
そこには膨大な数の鳥の群れ。まるで1匹の強大な生物のように見える。
その中心が稲光のように光っており、そこに目的のものがあるのだと確信した。

「あの中に電子精霊が……」

早く問題を片付け、ツェルニへと帰る。
そう決意したレイフォンだったが……

「やっと見つけた」

「……………」

背後から聞こえた嫌な声に、レイフォンは油の切れたブリキ人形のように後ろを振り向く。
そこにいたのはやはりと言うべきか、とても楽しそうな顔をしているサヴァリス。
まるでこれからお祭りでもあるのかと言うくらいに浮かれた表情だった。

「待ってくれって言ったのに、逃げるなんて酷いじゃないか。おかげで結構捜したんだよ」

「待つなんて一言も言ってないんですけど……」

「おっと、そういえばそうだったね。浮かれていて気づかなかったよ。だけど今はこうして対峙しているんだ。嫌でも付き合ってもらうよ」

「迷惑な話です……」

戦闘狂サヴァリスとの遭遇。
早く目的を片付けたかったレイフォンにとって、これ以上迷惑な存在はない。
サヴァリスに狙われてからは殺剄を維持して隠れていた。彼がデルボネやフェリ並みの念威繰者でもないかぎり、殺剄をしているレイフォンを捜すのは非常に困難なはずだ。
それは事実であり、今まで気配を察せられずに潜伏することは可能だった。
だが戦闘によって、レイフォンが発する膨大な剄によってサヴァリスに場所を知られてしまった。
前回の狼面衆との戦闘、ディックと遭遇した時は何故か気づかれなかったが、今回は気づかれた。見つかるなら前回の時に見つかっているはずだと不思議に思ったが、サヴァリスとの相対がそんな思考をどうでもよいものへと変える。

「それにしても、さっき君が戦っていたのはイグナシスの下っ端かい?」

「いぐ……なしす?」

サヴァリスは笑顔のまま、レイフォンには理解のできない言葉をつぶやく。
彼は知っている。レイフォンが知らない、狼面衆のことを、この事態の現状を。

「初代ルッケンスが狼面衆と名乗るものと戦ったことがあるそうです。我が家では、初代は既に英雄譚の人間ですからね、脚色された武勇伝のひとつだろうと思っていましたが、どうしてどうして、我が家は意外にも無駄が嫌いだったようだ」

サヴァリスの瞳が、レイフォンを凝視する。
彼の笑顔が、段々と狂気に侵食されていった。
嫌悪を覚えるほどの禍々しい剄を、サヴァリスから感じ取った。

「そして、そう言うことですか。流石の僕もなんで君がここにいるのか不思議だった。だけど、そうなんだね?この世界には僕達に関係していながら関われない戦いがある。初代の言葉に嘘はないと言うことだね」

サヴァリスの体が震えていた。恐怖?そんなはずがない。
あれは歓喜、武者震いによるものだ。
サヴァリスは悦んでいる。心の底から、狂ってしまいそうなほどに。

「天剣授受者同士の闘いはなかなか経験できないからね。それだけでツェルニへ行く価値はあると思った。まぁ、それはおまけで、本当の目的は他にあるんだけど」

天剣授受者との対決。これも楽しみだったが、一番の楽しみが一緒になってやってきた。
しかも足止めを喰らい、退屈だと感じていたこの都市、マイアスでだ。
これで悦ばずして、何時悦ぶ?
しかも、最悪で最高な形で現れてくれた。サヴァリスは今、これ以上ないほどの歓喜によって支配されていた。

「君の中にいるんだろう?廃貴族が」

サヴァリスの言葉に、レイフォンは無言で息を呑む。
あの時、ツェルニの機関部でレイフォンに憑り付いてきた存在、廃貴族。
こちらとしては心底迷惑な話だが、レイフォンの剄の大幅な増大はこれが原因なのだろう。
ディン・ディーの時と同じだ。だが、その廃貴族は現在レイフォンの中で大人しくしているようで、ディンのように自分を操る様子はない。
今のレイフォンは、あくまで自分の意志で動いている。

「役立たずの傭兵に変わって僕が来たのさ。廃貴族をグレンダンに持ち帰るためにね」

「……どうして、グレンダンは廃貴族をそんなに欲しがるんですか?」

廃貴族は滅びを呼ぶ。それがハイアの弁だ。
それなのにどうしてグレンダンはそんな厄介なものを欲しがる?
サヴァリスを、天剣授受者を寄こしてまで。どうして?

「う~ん、正直な話、陛下はそこまで廃貴族を欲しがってはないんだ」

「へ……?」

そう思っていたからこそ、このサヴァリスの発言には盛大な肩透かしを喰らってしまった。

「そこまで興味が無いと言うべきか、あったらいいなって程度の認識なんだよ、陛下は。むしろ廃貴族の確保はおまけみたいなもので、他に目的があるみたいなんだ」

「……それは、なんです?」

「元同僚とはいえ、流石にレイフォンにも言えないな。それに、僕は口先だけで会話を交わすより、早く戦いたいんだ」

今まで雄弁に語っていたサヴァリスだが、それすらをもどかしく感じ、構えを取る。
サヴァリスの性格を理解しているレイフォンはため息を付き、これ以上有益な情報を引き出すのは不可能だと判断して構えを取った。

「わかりました、お相手します。ですが……」

知り合いだとか、元同僚なんて考えは破棄する。
サヴァリスは殺すつもりで自分を襲ってくる気だし、レイフォンはそこまで感慨深くない。
ただ、サヴァリスを敵だと判断し、冷酷な口調で宣言した。

「間違って殺してしまっても、恨まないでくださいよ」

天剣授受者と元天剣授受者の戦いが始まった。






































ドアを開けると、そこは避難するべく、荷物を持った人達でいっぱいだった。
リーリンも慌てて部屋へ戻ると、いつでも動けるようにまとめていた荷物をつかんで廊下へ飛び出す。
汚染獣が現れたのなら、すぐにシェルターへ避難しなければならない。
ましてやここはグレンダンではなく、しかも学園都市なのだ。サヴァリスやクラリーベル曰く、武芸者の質がかなり低いらしい。
汚染獣に攻められたら、すぐに滅んでしまうかもしれない。

「ご安心ください!汚染獣には我々、マイアスの武芸者が全力をもって対応いたします。皆さんは落ち着いて、迅速にシェルターへ移動してください!それが我々への助けにもなります!」

この混雑の中、響くロイの声は宿泊者達に安心を与えているのか、移動に生じる乱れは殆どなかった。
やはり隊長と言うこともあり、気に食わないがこのカリスマ性は流石だとリーリンが思っていると、背後からクラリーベルに声をかけられた。

「リーリン」

「はい」

「シェルターまであなたを送りますね。本当はサヴァリス様の役目なんですけど、なぜかここにはいませんし、付き合いは短いですが、友人となったあなたを放ってはおけませんし」

「え?」

リーリンが理解する暇も与えず、クラリーベルはリーリンの荷物を奪い取り、更にリーリンを軽々と肩に担いだ。

「え?え?」

流石は女性とはいえ武芸者だ。
リーリンが困惑しながらそんなことを考えていると、クラリーベルは凄い勢いで走り出した。

「ちょ、クララ……」

「喋ると舌を噛みますよ」

「そんな……ことっ!」

これ以上喋ることなんてできなかった。そんな余裕は消え失せた。
クラリーベルはリーリンを担いだまま走る。廊下をではない。壁をだ。
廊下は避難する人達で溢れており、走るなんてことはできない。だが、だからと言って壁を走ろうなんて考える一般人はいない。
リーリンは一般人なのだ。そしてクラリーベルは武芸者。そんな彼女にとって、誰もいない壁を走るのは最も効率的な手段だった。

「……………っ!」

声を出せなくとも、リーリンの口は悲鳴を上げようとしている。リーリンは行った事はないが、娯楽施設などにある下手な絶叫マシーンよりも恐ろしい光景だった。
クラリーベルは壁に対して斜めになるように走り続ける。下にいた宿泊客がその光景を見上げて、唖然と口を広げていた。
階段に差し掛かっても降りない。曲がり角をそのまま曲がりきり、一気にロビーまで辿り着いた。

「みなさん、落ち着いてください!シェルターまでの道は確保されていますっ!」

ロビーでは必死にロイが叫んでいた。
そんな様子をいい気味だなんて思う余裕はない。
リーリンは思わぬ体験に腰を抜かしかけていた。

「だらしないですね。レイフォン様にこんなことはされていませんでしたか?」

「……いませんよ」

「え……、そうなんですか?」

クラリーベルに忌々しそうに返答するリーリンだったが、意外そうなクラリーベルの言葉に興味を持つ。
ポリポリと頬を掻き、どこか申し訳なさそうな表情をしていた。
まるで、自分はそのような経験があると言っているようでもあった。

「私は、あるんですが……」

「え?」

そして、それは事実だった。
クラリーベルは未だに頬を掻きながら、リーリンに説明する。
幸い、ロビーでは混乱が酷くならないように都市警察が必死になり、順番で分けてシェルターへ誘導しようとしている。
話をする時間は十分にあった。

「後見は知っていますか?」

「はい」

グレンダンでは初陣の際に熟練の武芸者が後見として見守る決まりごとのようなものがあり、そのことはリーリンも知っている。
レイフォンやデルクといった武芸者の家族を持っており、何よりレイフォンの後見はデルクが努めたのだから知らないわけがなかった。

「それで、私の場合はレイフォン様が努めてくださったんですが……少々失敗しまして、危ないところをレイフォン様に助けていただいたんですよ。で、汚染獣はレイフォン様が倒してくれたんですが、私は剄脈疲労で動けなかった状態なので……所謂お姫様抱っこと言う奴ですか?それで運んでもらって……」

「へ、へぇ……そ、そうなんですか……」

自分の失態を思い出し、僅かに頬を染めるクラリーベル。
それに対してリーリンの表情は引き攣り、ここにはいない、鈍感すぎる幼馴染へと怒気が向く。
正直な話、レイフォンはもてた。
闇試合に出たことでグレンダンを放逐されたが、それまでは史上最年少の天剣と言うことでグレンダンでは注目の的だったのだ。
そんなわけで色目を使う女性がおり、その好意のことごとくを受け流してきた鈍感なレイフォンそれは幼馴染であるリーリンに対しても同じだと言うのに、クラリーベルに対して無自覚であるだろうがお姫様抱っこをし、落としかけていることにリーリンは怒りを向ける。
そして理解した。だから、クラリーベルはレイフォンに会いに行きたかったのだと。
それは恋心。本人がちゃんと気づいているかどうかは怪しいが、クラリーベルは間違いなくレイフォンに興味を持っていた。
それは、やはりリーリンとしてはあまり面白くない。

「私語は慎んでください!急いでください!!」

そうこうしているうちに、リーリンとクラリーベルの順番が回ってきた。
都市警察の服を着て、スカートの下に長ズボンを穿いた、長い金髪をポニーテールにした少女がリーリン達を誘導する。
彼女の誘導で久しぶりに外に出て、その光景を眺める。入り口は外縁部に面していたため、すぐにわかった。

「本当だ……」

「だから言ったじゃないですか」

リーリンのつぶやきに、クラリーベルがそう返す。
都市はクラリーベルの言ったとおり、足を止めていた。だが、この混雑だ。
汚染獣の襲撃と言う危機。宿泊者達は殆どの者がその事実には気づかないだろう。

「それにしても、あれはなんなのでしょうか?」

クラリーベルが、先ほど部屋から見た小鳥の群舞へと視線を向ける。
その周囲にはやはり、稲光のようなものがあった。

「なにをしているんですか!?早くしてください!」

「申し訳ありません。少し、あの鳥が気になったもので」

「鳥?」

リーリン達を誘導していた少女が、余所見をする彼女達に声を張り上げて忠告する。
素直に謝罪をするクラリーベルだが、少女はクラリーベルが視線を向けていた方向を見ると、怪訝そうな表情で言った。

「確かに飛んでいる鳥は他の都市では珍しいかもしれませんね。ですがマイアスではこれが普通です。あの鳥達はおそらく汚染獣に怯えているんですよ。獣の本能と言う奴です」

「は……?」

その言葉に、今度はクラリーベルが怪訝そうな顔をする。リーリンも同じだった。

「だって、あんなに変な光が」

リーリンが主張した言葉に、少女の方が変な顔をして首をかしげた。

「そんなものはどこにもありませんが?」

「え?」

少女に言われて、リーリンは小鳥の群れを見た。
奇妙な光の筋が小鳥の周りを走っており、小鳥はそれから逃れるように飛んでいる。
だが、光は小鳥の行く手を遮るように先回りし、逃さないようにしているようだった。

「なるほど……そういうことですか」

「クララ?」

疑問を抱くリーリンだったが、クラリーベルはむしろ納得したようにつぶやく。
この異常事態だというのに落ち着き、冷静に考え事をしている。
その様子に、避難誘導をしていた少女が声を張り上げる。

「いい加減にしてください!早くシェルターに急いで!!」

だけどクラリーベルはその言葉に構わず、小鳥達の群れを見てこうつぶやいた。

「あの中に電子精霊がいるんですね。それから、この都市の異変には狼面衆が関わっているんですか。まさかグレンダン以外でも彼らを見ることになるとは……」

「え?」

「へ?」

クラリーベルの言葉に、少女とリーリンが疑問の声を上げる。
まるで何かを理解したようなクラリーベル。だけど少女とリーリンには、まるで理解できていないのだ。

「ちょ、あなた。何を知ってるの?今、電子精霊って……」

この都市は今、足を止めている。それは紛れもない都市の危機。その結果、こうして汚染獣に感知されてしまったのだ。
そして、クラリーベルの予想が正しかったのか、電子精霊と言う言葉に少女が喰い付いて来る。
やはり、この異変は電子精霊の身に何かが起きたと見ていい。だからおそらく、この異変は電子精霊を何とかすれば収まるはずだ。
クラリーベルが、そう考えていた時……

「今度はなに!?」

「これは……」

新たな異変が都市中を走り抜けた。だが、一般人は殆ど気づかなかっただろう。リーリンも気づかなかった。
それは強大な剄の波動。あまりにも大きすぎる剄が激突している。
少女やクラリーベルよりやや遅れて、都市警察所属の武芸者達も気づいたようだ。
学生とは比べ物にならない、熟練の武芸者でも足元にも及ばない、圧倒的なほどの剄によるぶつかり合いを。
それは本当に人が成しているのかと思った。こんなもの、人が発せる剄ではない。それほど強大な力は、現在、あの小鳥の群れの下辺りでぶつかっている。

(サヴァリス様!?)

だが、クラリーベルは知っている。これほどの剄を放出できる存在、天剣授受者を。
それ故に一方の剄の主はサヴァリスだと理解した。
だけど、剄はぶつかり合っているのだ。もう一方、その剄の持ち主がわからない。
ぶつかり合うほどの、天剣授受者に匹敵するほどの剄の持ち主を、まさかこんな学園都市で感じるとは思わなかった。
確かに天剣には他都市出身の者もいるが、それでもクラリーベルは信じられない。

(まさか……これは!?)

それほどの実力者がグレンダン以外にいることもだが、その者の剄がひょっとしたらサヴァリスを超えるほどに強大だと言う事実にだ。
いや、ひょっとしたらどころではない。間違いなくサヴァリスの剄を超えている。
サヴァリスとは顔見知りであり、彼の剄の波動は覚えている。故に、覚えのない強大な剄の波動がサヴァリスを上回っていることにクラリーベルは自らの感覚を疑った。
だからこそ気になる。この剄の持ち主が。サヴァリスと戦っているのが、どんな者なのか。

「すいません、この子をお願いします」

「ええ!?ちょ、あなた……」

クラリーベルはリーリンを少女へと押し付け、自らの活剄の密度を上げて跳ぶ。
一瞬で建物の屋根へと飛び移り、そのまま跳ねるように小鳥の群れへと向かっていった。

「もう!本当に……こうなったらあなただけでもシェルターに」

少女はリーリンへと手を伸ばし、彼女を早くシェルターへ移動させようとした。
だけどそれを避けて、リーリンは走り出す。

「ごめんなさい。私も行きます」

「ちょ、行くって……さっきの子は武芸者みたいだったけど、あなたは一般人じゃ……って、ちょっと!ああもう!!」

先へと進むリーリンに少女が頭をかきむしり、その後を追おうとするが、

「シェル!持ち場を離れるな!!」

「だってロイ君!あの子達が列を離れて……」

隊長であるロイに咎められて、シェルは忌々しそうに背中を向けるリーリンを指差す。

「今は宿泊客を避難させる方が先だ。あっちは僕が追う。お前はこっちを頼むぞ」

「うん、わかった……」

確かに宿泊客を避難させる方が先決だ。たった1人2人のために、宿泊客達の避難を滞らせるわけにはいかない。
ロイは自分に任せろと言って、リーリン達の後を追っていった。
そんな彼の背中を見て、シェルは小さくつぶやく。

「今度は大丈夫だよね……ロイ君」




































あとがき
さてさて、次回はフォンフォンとサヴァリスが激突します。
ですが廃貴族でパワーアップしたフォンフォン……サヴァリスと言えど、勝負になるかどうか……
ディック先輩出すと前回言ってましたが、冒頭だけ。なんだかんだで出しづらいですね。
マイアス編で、今後彼に出番があるのかどうか……

クラリーベル参戦!ですが、現在錬金鋼を没収されている状況……
この状況でどうなるのか、さてさて?
いくらクラリーベルでも流石に天剣同士の争いには手が出せませんからね。次回はどうなることやら?
執筆頑張ります。

最後に、凄くどうでもいいことですが、クララがアニメに出てたら皆さんはどんな方が声優さんだったと思いますか?誰にやって欲しかったですか?
俺は個人的な趣味で水樹奈々さんとかにやって欲しかったなと思います。皆さんのご意見を聞かせてくれると嬉しいです。

それにしても今更ですが、レジェンドとか聖戦のレギオス読んでないので、狼面衆やらディックのこと、リグザリオやイグナシスがよくわかりません。
どこかおかしくないですよね?
外伝買おうかなと、本気で思うこのごろです。でも、読む時間が……


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