どうしても聞きたいことがあったので、この機会にリツコさんに訊いてみることにした。
「ところで、水槽の中のレイちゃん達って、誰が髪を切っているの?」
ぴたり。リツコさんの動きが止まった。
「わっ私じゃないわよ……」
「ああ、リツコ…なのね」
案外、解かりやすい人である。
飲み干したUCCオリジナルの空き缶を、とりあえず床に。
「ということは、レイちゃんもリツコ…が切ってあげてたの?」
「自分の話はしない主義なの。面白くないもの」
苛立たしげに揉み消される煙草。
「リツコ…があんなに器用だとは知らなかったわ。シャギーなんて難しいでしょうに」
流し髪を掴んで目の前に。おや、枝毛だ。
「今度、私も頼もうかしら」
あれだけの大人数を、あんなに難しいヘアスタイルで維持できるなんて、よほど面倒見が良くないと勤まらない。
何の経験も積んでいないはずの綾波たちの微笑。その理由を見出したような気がする。
あなた、いい保母さんになれるわよ。と上げた視線が、振りかぶるリツコさんを捉えた。
手にしてるのはUCCオリジナル。
まさか本気で投げる気…… だぁあ!
慌てて頭を下げる。背後で壮絶な衝突音がした。
鍛えてない女性の腕でさほど速度がでるわけはないが、250cc入りコーヒー缶の質量は侮れない。
振り返ると、医療機器とおぼしき装置がひとつ、完全に沈黙していた。位置的に、避けなくても当たらなかっただろうが……
「……UCCオリジナルの、新しい使い方ね」
否定はしないわ。と煙草を取り出したリツコさんが、ちょっと怖かった。
なにやら逆鱗に触れたらしい。とすると、この件にも父さんが絡んでるのかもしれないな。
つづく