綾波が手にした紫陽花は、僕が逆行して救って来た世界の象徴。
今は、その半ばほどが花ひらいている。
ある時は、ミサトさんになって世界を救ったり、
またある時は、母さんになって世界を救ったり、
はたまたキール議長になってまで、世界を救ったりした。
我ながらよく頑張ったと思う。
でも、僕が頑張れたのは……
「綾波。…ありがとう」
「…なに?」
胸の前で、綾波の手を包んだ。
「綾波がここで待っていてくれるから、安心して行ってこれるんだ。
…だから、ありがとう」
「…なにを言うのよ」
ぽっ。と頬を染めた綾波の、視線がこの手に注がれる。
ーー帰る家…ホームがあるという事実は、幸せにつながる。良いことだよーー
カヲル君の言葉を思い出して、頷く。
「いつになるか判らないけど、綾波にはここで僕の帰りを待っていて欲しい」
「…うん」
「そうしていつか、すべてにケリをつけたら、加持さんがミサトさんに言えなかったって言葉を綾波に贈るよ」
一瞬、きょとん。とした綾波だったけど、月の光が降り積もるようないつもの笑顔を見せてくれた。
「…待ってる」
おわり
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