宿場街での商談を終えた女が、馬車に乗り込もうとした時、旅姿の女性の一団が目に入った。
彼女達は宿泊客ではなく、宿場の飯盛女の内、放逐される事になった者達である。
関わる者の殆どが利益を得た張型の商談だが、恩恵からこぼれた者もいた。
女が売り込んだ張型は、本来は種付け用の為、石女には効果がない。
しかし、飯盛女全体の内およそ一割は、その様な体質だった。
孕む事がないのでこれまでは飯盛女として適材とされ、年頃になっても月の障りの来ない娘を、通常より高値で宿が買い付けていたのである。
しかし、張型の登場で事情が変わってしまった。
石女は張型を使って花柳病の危険から免れる事が出来ない為、これまでとは逆に、春をひさぐには不向きな身体と見なされた。
新しい物が世に現れると、そのあおりではじき出される者が出るのが世の常である。
「これからどうするんだい?」
女が一団に声をかけると、口々に答えが返って来た。
「別の宿場に行くよ」
「うちは夜鷹でやってこうかな。使われるのはもうこりごり」
「湯治場で湯女なんかもいいかなあ…」
殆どは、何らかの形で春をひさいで糊口を満たす事を考えている様だ。
他の生き様を知らないのだから無理もない。
拘束が思わぬ形で解かれたとはいえ、孕めぬ身体では、郷里に帰って嫁ぐという選択肢はないのである。
次の世代を生み出せぬ身体では、妻としては欠陥品なのだ。
「さて、お前様方に餞別だよ」
女は、一団の一人一人に、薬を一包ずつ手渡した。
「そいつは花柳病の薬だよ。張型と違って、飲んだ時にかかっている病が治るだけで、かかるのを防ぐ効能はないけどね」
「有り難うございます!」
一団は女に礼を言った。
症状が酷くないにしても、大半は花柳病を抱えているのだ。
張型が効かないという事で諦めていたが、これで病の進行に怯える事はない。
「こいつは、年に二度を超えて使うと効かなくなっちまうからね。同じ薬を手に入れる機会があるかも知れないけど、気をつけなよ」
女は警告を残すと、宿場街を後にした。
あの娘達が春をひさぐ稼業を続ければ、薬で治したところで、再び花柳病にかかってしまうだろう。
先がないが馴染んだ道に行くか、未知の希望に飛び込むか。
いずれにせよ、決めるのは当人である。
「さて、あの娘達はどうするかのう。使える者がおれば良いがの」
女は馬車を進めながら、石女達の行く末に思いを巡らせた。
(第二話 了)