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No.38827の一覧
[0] 【チラ裏より】嗚呼、栄光のブイン基地(艦これ、不定期ネタ)【こんにちわ】[abcdef](2018/06/30 21:43)
[1] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/11 17:32)
[2] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/20 07:57)
[3] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/02 21:23)
[4] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/22 04:50)
[5] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/01/28 22:46)
[6] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/24 21:53)
[7] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/22 22:49)
[8] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/03/13 06:00)
[9] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/05/04 22:57)
[10] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/01/26 20:48)
[11] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/06/28 20:24)
[12] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/07/26 04:45)
[13] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/02 21:13)
[14] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/31 05:19)
[15] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/09/21 20:05)
[16] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/10/31 22:06)
[17] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/11/20 21:05)
[18] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2015/01/10 22:42)
[19] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/02/02 17:33)
[20] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/04/01 23:02)
[21] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/06/10 20:00)
[22] 【ご愛読】嗚呼、栄光のブイン基地(完結)【ありがとうございました!】[abcdef](2015/08/03 23:56)
[23] 設定資料集[abcdef](2015/08/20 08:41)
[24] キャラ紹介[abcdef](2015/10/17 23:07)
[25] 敷波追悼[abcdef](2016/03/30 19:35)
[26] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/07/17 04:30)
[27] 秋雲ちゃんの悩み[abcdef](2016/10/26 23:18)
[28] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/12/18 21:40)
[29] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2017/03/29 16:48)
[30] yaggyが神通を殺すだけのお話[abcdef](2017/04/13 17:58)
[31] 【今度こそ】嗚呼、栄光のブイン基地【第一部完】[abcdef](2018/06/30 16:36)
[32] 【ここからでも】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(嗚呼、栄光のブイン基地第2部)【読めるようにはしたつもりです】[abcdef](2018/06/30 22:10)
[33] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!02【不定期ネタ】[abcdef](2018/12/24 20:53)
[34] 【エイプリルフールなので】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(完?)【最終回です】[abcdef](2019/04/01 13:00)
[35] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!03【不定期ネタ】[abcdef](2019/10/23 23:23)
[36] 【嗚呼、栄光の】天龍ちゃんの夢【ブイン基地】[abcdef](2019/10/23 23:42)
[37] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!番外編【不定期ネタ】[abcdef](2020/04/01 20:59)
[38] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!04【不定期ネタ】[abcdef](2020/10/13 19:33)
[39] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!05【不定期ネタ】[abcdef](2021/03/15 20:08)
[40] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!06【不定期ネタ】[abcdef](2021/10/13 11:01)
[41] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!07【不定期ネタ】[abcdef](2022/08/17 23:50)
[42] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!08【不定期ネタ】[abcdef](2022/12/26 17:35)
[43] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!09【不定期ネタ】[abcdef](2023/09/07 09:07)
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[38827] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】
Name: abcdef◆fa76876a ID:3aa9db6f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/11/20 21:05
※オリ設定ドバドバです。
※そんなに間が開かないと言ったな。スマンがありゃウソだった。ごめんなさい。
※スランプきつい。でも書かないと腕が落ちる。
※地理地学って何それ? 美味しいの?
※『あの娘がこんな事言うかよ』な表現多数です。要注意。
※言うまでも無くグロいやもです。注意。
※『男子三日合わざれば』と言いますが、うp主は数年ぶりに出会った知人に『お前全然変わって無ぇのな』と言われました。凹むぜ。
(※2014/11/19 初出。 11/20 誤字脱字修正&本日のNGシーン追加)




「やるよ、深雪! 脱出だ!!」
『オッケー司令官!』

 たったその一言を言って返すまでの短い間にも、敵の砲撃はひっきりなしに飛んできては、深雪の周囲に次々と盛大な水柱を作り出していた。

『機関最大出力、行っくぞ~!!』

 バースデーケーキの上のキャンドルめいて激しく炎上する深雪が、ゆっくりと増速を始める。近代化改装と称して他所様の艦から剥ぎ取った非艦娘用の機関系だったが、それでも幸運な事に今までの砲撃によって損傷を受けておらず、万全の出力が期待できた。
 全然遅すぎた。

『司令官! 駆逐艦『深雪』38ノットに到達! 最高だぜ、こんな短時間で最高速度まで出せるなんて!!』
(それじゃあ駄目なんだ!)

 全然遅すぎる。
 思わずそう叫びそうになった輝は何とか堪える。あの時――――衝突事故が起こった合同訓練の時、電は軽く45ノットは出していたはずである。どうして電子系の増設を優先したんだ。どうして推進系周りの近代化改修がおざなりにされたんだ。と、輝は解っていても心の中で誰にともなしに激しく悪態をついていた。
 付け加えてダメ出しをするならば、深雪の艦体運動に指示を出さず、ただ真っ直ぐに艦を進めさせていた事があった。これだけ目立っているのだから、それでは動く的にしかならないのに。
 さらに付け加えて言うなら、いくら交戦中とはいえ、甲板上の火災をそのまま放置していた事が挙げられる。気休めでもいいから、少しでも消火作業に妖精さんを充てればよかったのに。
 さらに敵艦発砲。無意識に敵から逃げる機動を取っていた輝達は気が付かなかったが、砲撃の大半は背後から集中していた。
 正面に発砲炎。発砲炎と砲撃音が同時に聞こえるほどの至近距離。

「深雪、主砲発射!」
『どこに撃つんだよ!?』
「今の正面のに向かっ」

 爆発。
 炎上している部分に最寄りの1番主砲内部の弾薬が加熱され、暴発。今までで最大の火柱が深雪から立ち上る。それでもなお、深雪の艦体は未だ海上を驀進していた。最早満身創痍なれどそれでも中枢区画や機関部にダメージの影響が現れていないのは、整備スタッフ達の近代化改修のおかげか。

「う、うわぁぁぁぁ!!?」
『きゃあぁぁぁ!?』

 キャバーン! キャバーン! ギャバーン! と狂ったような電子音を無秩序に鳴り響かせながら喜怒哀楽カケジクは今の爆発衝撃で床に落下。叩き付けられた衝撃で盛大に破損し、『ウチュウケイジィィィ』と奇妙なノイズを響かせながら一瞬だけ激しい火花を散らして沈黙した。
 ただでさえ実戦――――しかも初陣で!――――の重圧とストレスに押し潰されそうになっていた深雪と輝は、この衝撃でとうとうパニック状態に陥った。だから、2人は途中から敵の砲撃が止まった事に気が付かなかったし、

 最後の最後まで舵を切れなかった。

 輝と深雪がパニックに陥ったのが実戦の衝撃ならば、2人が正気に戻って来れたのは物理的な衝撃のおかげだった。
 真下から突き上げるかのような、重たく連続した衝撃が『深雪』の艦体を激しく上下に揺さぶり、艦首が若干上を向いた状態で『深雪』は完全に止まった。

「あぐッ!?」

 連続して打ち上げられる衝撃で舌を噛み、急減速によって生じた慣性の法則で首の骨のあたりから嫌な音をさせつつコンソール画面におでこを盛大にぶつけ、背後の床に落ちていた喜怒哀楽カケジクの残骸に後頭部を強打された衝撃で、ようやく輝が正気に戻って来た。
 座礁。
 最悪の事態を認識した輝の脳ミソが恐怖するよりも先に、今しがたの衝撃で唯一無傷で残された第3砲塔が陸奥めいて暴発。内部に装填してあった、迷子になった時用の照明弾が勝手に砲口より飛び出し、緩やかな放物線を描きながらそこそこの上空でパラシュートを開きつつ発光。周囲を明るく照らす。

「……」
『痛ったた……司令官、何があっ、た、の……』

 呆けたように真正面の照明された薄暗がりを眺める輝の異様に気が付いた深雪も、前方に意識を向ける。
 ほんの数百メートル先にある目の無い顔と、輝の目が合った。
 駆逐イ級の上顎のような被り物をした完全な人型の上半身、死人色の肌、ミツアリのように膨らむ金属製の腹部。バストは実際それなりだった。
 輸送ワ級。

「『……』」

 輝と深雪が右を見る。輸送ワ級が一列に並んでいた。
 左を見る。そちらにもやはり、輸送ワ級が一列に並んでいた。
 この時、輝の頭の中は『敵がいっぱい!』という事だけで埋め尽くされ、恐怖でフリーズしていた。輝は初陣だ。大目に見てやってほしい。
 対する深雪もあまりに唐突な事に意識がフリーズしていたが、たった1つの事柄に気を取られていた。

 ――――大規模輸送艦隊!

 照明弾で照らされた輝と深雪の視界には、右の端から左の端までずっと、輸送ワ級の群れが続いていた。
 書類仕事中によく『神様仏様同志マヤコフスカヤ中尉様どうかこの哀れな迷える子羊の残業をお助けくださいまだ半分近く残ってるんですこんなめんどくさい書類仕事なんて全部紙の兵隊どもに押し付けて私だって敵輸送艦隊潰しに行きたいんです』だのとうわ言のような寝言を吐いている古鷹が見たら、確実に悔し涙を流しそうな光景であった。
 再び第3砲塔が暴発。再び照明弾が撃ち上げられる。
 この砲撃(暴発)と同時に、呆けたように見つめ合ってた輸送ワ級達の動きが急にあわただしくなった。おぞらく、照明弾で照らされたから次は自分達が狙われるのだと勘違いしたのだろう。
 ばづんばづん。という、奇妙な音がそこかしこから響いてきた。何事かと輝と深雪が見てみれば、輸送ワ級達が体に付着させていた粘糸状の生体ワイヤーロープを酸で自切していく音だった。
 身軽になったワ級達が急速潜航を開始。座礁し、まともな武装が残っていなかった深雪はそれを見送る他なかった。これだけ大量の輸送ワ級を動員してまで曳航しているモノとは一対何なんだろうと二人は思ったが、状況がそれ以上の考察と観察を許さなかった。深雪たちの周囲から仲間が離れた事を確認したのか、再び砲撃が始まった。それも今までのように、遠距離からのチマチマとしたものではなかった。
 中途半端な高度で照明し続ける薄暗がりの中に一つの巨大な人影が浮かび上がる、
 死人色の肌。新月の夜のようなストレートロングの黒髪。金属様の光沢を放つ漆黒のボディスーツ状の表皮装甲。ウニのトゲのようにいくつもの大口径砲を生やした、黒瑪瑙色のブ厚い装甲に覆われた両腕。
 深雪には見覚えがあった。ブイン島に来る途中、セスナ機の中で輝と一緒に見ていた紙媒体の資料の中にあった個体。
 深海凄艦側の大型種、艦娘を含めた人類製の兵器を圧倒するための最終兵器。
 通称『泳ぐ要塞』

 戦艦ル級。

 輝の顔が引きつる。それに対して深雪のコアは――――艦娘達の魂の座である動力炉が――――凶暴そうに各機関系の出力量をアイドリングさせる。

「ひぅ! ……」
『深雪さまの初陣としちゃあ、良ーい感じの相手だよねー、司令か……え? あ、ちょ、司令官、何やってんの!?』

 先程のやってやるという気概などタカが知れていた。5秒と続かなかった。
 遠くより進み寄る戦艦ル級と目が合ったような気がして、その時点で輝は突発性の過呼吸を発症し、気が遠くなった。

『お、起きてよ司令官! ねぇ、ねえってば!! 今啖呵良い事言ったけど、このままだとマジヤバいんだって! 座礁してるから前にも後ろにも進めないんだよー!!』
「ふぁっ!?」

 深雪が必死になって輝に呼びかける。その甲斐あってか輝はすぐに目を覚ましたが、戦艦ル級は既に、その足音が聞こえるほどの浅瀬に近づいて来ていた。その地響きのような低く重たく響く足音が近づくにつれ、輝も深雪も再びパニックを起こし始める。

「ど、どどどうしよう深雪!? どうすればいいの!? 逃げよう、逃げようよ! ねぇ!?」
『に、逃げるって言っても座礁してるんだってば――――あ』
「あ!」

 この時、実に後ろ向きな事だが、輝と深雪の心は完全に一致していた。輝は『このままだと逃げられずにやられる』という恐怖から。深雪は『このままだと何も出来ないでやられる』という焦燥から。
 それ故にこの二人の超展開は、それこそ改二型の駆逐艦娘や陸軍の『あきつ丸』や『まるゆ』の変身(Transform)に匹敵する、驚くべき速度で一切の遅滞無く実行された。

「『深雪、超展開!!』」

 浅瀬に座礁した状態のまま『深雪』の艦首が天目がけて傾いていく。座礁した際に激しく擦り、幾ばくかの損傷が見られる船底が露わになる。
 それと同時に、輝の脳裏には次々とありえない記憶と思い出が浮かんでは消えていった。


 本館外れの物置小屋、今日は楽しい臨海旅行、頭を撫でてくれるひいおじいさまの大きな手、佳弥ちゃんも花ちゃんもまだ行きのバスなのにテンション高いなー、津々兄様や輝夜姉様はどうして僕をいじめるの、急ブレーキ音、ひいおじいさまのお葬式、横に滑るバスの車体、斎場に入れない僕、Gと佳弥ちゃんの身体で押し付けられた窓の外、妾の子ってそんなにいけない事ですか、海が、そして――――


 一瞬の閃光と轟音が晴れ、巨大な艦娘と化した深雪が地に足を付ける。
 酷い有様だった。
 先程までの甲板火災がそのまま残っていたためか、セーラー服の背中側が燃えていた。
 表皮装甲もいたるところが傷付き剥離し、内部の機械構造や有機系の運動デバイスが剥き出しになっていた。全ての艦娘に標準搭載されているはずの速乾性の抗菌ポリマーなんてものは、ロクに近代化改修されていない深雪には搭載されていなかった。
 兵装らしい兵装の全てが根こそぎ吹き飛ばされていた。唯一無傷で残っていたのは、迷子になった時用の照明弾が装填されていた後部第3砲塔だけだった。
 だが、それでも深雪は不敵な笑みを浮かべていた。

【深雪さま、超展開完りょブ!?】

 そして着地と同時に横に吹き飛ばされる。至近距離からの砲撃。直撃こそしなかったが、足元で起きた爆発に盛大にバランスを崩され、顔面から砂浜にダイブする。

【痛たたた……よくもやってくれたなギャー!!】

 深雪が手を付き、立ち上がる。それと同時に輝と深雪がそれぞれ自我コマンドを入力。
 深雪は敵に向かって。輝は敵から逃げ出す方向に。
 それぞれ矛盾したコマンドを受け取った艦体としての『深雪』のシステム系がコンフリクトを起こして瞬間的にフリーズ。艦体のバランスを崩して盛大に転倒した深雪の顔面が再び浅瀬に叩き付けられ、砂交じりの水柱が盛大に立つ。その際、丁度立っていた時に深雪の頭があった位置を無数の敵砲弾が突き抜けていったのだが、2人はそれに気付く事は無かった。

【司令官、何やってんだよ!?】
 ――――だって! だってだってだって!!

 艦娘としての深雪の意識に、輝から恐怖と驚愕に満ちた、何だかグチャグチャしててよく分からない混乱した概念が叩き付けられるようにして送られてきた。
 つい最近まで70年前の知識で止まっていた深雪は知らなかった事だが、この時の輝は、突発性のシェルショックに近い症状を発症していた。

 ――――やだああああぁぁぁ! 怖いのやだあああぁぁぁぁ!!
【ヤダじゃねーだろー! このままだと二人ともやられちゃうんだぞ!?】
 ――――やだああああぁぁぁ! 深雪死ぬのやだあああぁぁぁぁ!!
【勝手に殺すなっ!】

 今回に限っていえば、どちらかと言えばガキの癇癪に近いとも言えなくは無かったが。
 超展開中の深雪と輝は、互いの意識と記憶が双方向接続されている。だから、一々言葉に出したりハッキリと考えたりしないでも、ただぼんやりと考えたり思い出したりするだけでも相手方にはストレス無く伝わるのだ。文字通り、自分が思っている通りに。
 思いも、気持ちも、何もかもが伝わるのだ。

【なぁ、司令官】

 だが、それでも深雪ははっきりと声に出していった。

【司令官のひいおじいちゃんに、今の司令官の姿を見せられるの?】
 ―――― !!

 効果は絶大だった。
 今の今まで癇癪起こして夜泣きするガキのような荒れ狂った概念は鳴りを潜め、輝は何とかまともに話を聞ける状態にまで落ち着いた。若干ジメジメしてるし、まだグズっていたとはいえ、とりあえずは平常と呼べる領域にまで回復したといえる。

【さっき『超展開』した時に理解ちゃったよ。司令官はさ、認めて欲しかったんだろ? 家の人と、ひいおじいちゃんに。だからこんなところ(軍)にまでやって来たんだろ?】
 ―――― ……ぅ。

 超展開を実行したあの瞬間、深雪は確かに知覚したのだ。こんなチビガキが何故、実家の七光りを蹴ってまで軍隊に、それも海軍という最前線中の最前線に駆り出されるような所に来たのかを。その理由を。
 認められたかったのだ。たった一言だけでいい『よくやった』と言って欲しかったのだ。生まれがどうのではなく、純粋に実力を認めて欲しかったのだ。そこには子供だとかどうだとかは、一切関係なかった。
 そしてそれは、艦としての『深雪』にとっても他人事ではなかったのだ。

『御国の四方の守りたれ』

 そう願われ、頼られ、建造されて来たはずなのに、いざ蓋を開けてみれば訓練中の事故で大破沈没。次に気が付いた時は、己の艦内で勤務していた人間と同じ姿形を与えられていて、しかも70年も後の世だという。
 他の深雪はどうだか知らないが、少なくとも、この深雪が艦娘として生まれてきて最初に感じた事は、深い喪失感だった。
 それも例えようも無いくらいの。

 もう、逢えないの……?

 いつか始まると言われていたアカや合衆国との戦争はとうの昔に終わっていた。かつて深雪に乗っていた面々も、今はもういない。
 二度と逢えない。
 その事を理解した日は一日中涙が止まらなかったし、今でも時折その感覚を思い出しては泣きそうになる。だからこそこの深雪は理解できる。輝が何故、こんなところに来たのか。輝が何をしようとしていたのか。
 だから深雪は言うのだ。

【司令官も、理解ったんだろ。深雪がさ、何で泣いてたのか。司令官みたいな子供が軍人やってるなんてどうかしてるとは思うけどさ。でも、言わせてよ】

 輝は、輝ならまだ間に合う。全てが手遅れになった自分と違って、輝には認めさせたい人達がまだいる。

【お願いだよ輝。戦って。私のためにも、輝のためにも。もう二度と、あんな気持ちになりたくないんだ。そして、輝にもあんな気持ちはして欲しくないんだ。絶対に】
 ―――― ……

 深雪の告白に、輝は言葉で返事を返さなかった。
 輝が自我コマンドを入力。深雪のデバイス監視系に質問信号を飛ばし、超展開の残り時間を割り出そうとする。ナノ秒単位の誤差も無くエラー報告が帰ってきた。

【メインシステムデバイス監視系より報告:物理エラー。リクエストには返答できませんでした。システムはTurbine - boilerユニットを認識できません。不明なデバイスを検出しています】
【メインシステム電子免疫系より報告:不明なデバイスのデバイスドライバを検出できませんでした】
【メインシステム電子免疫系より報告:問題の解決にはアップグレート・パッチをインストールするか、ネットワークに接続してデバイス・マネージャーを最新の物へと更新してください。それでも問題が解決しない場合は、システム管理者に連絡して、不明なデバイスのデバイスドライバを取得してください。現在のシステム管理者はTKT-**** ****です】

 輝がさらに質問信号を飛ばす。デバイス監視系に機関区周りの温度監視をコマンド。監視系を意識下に常駐させ、温度が危険域に入ったらアラートが鳴るようにセット。
 ここでようやく、深雪に答えを返す。

 ――――深雪、ごめん。今度こそやるよ。
【司令官……】

 この時。輝の顔を見た深雪は一瞬、ほんの一瞬だけ思った。
 これは誰だ、と。
 それはもちろん、輝であったし、入れ替わる暇なんて無かったのだが、深雪にはまるで別人のように思えたのだ。

【……ぃ、いよーし! 行っくぞぉー!】

 深雪が気合を入れ直し、前方の暗闇を見据える。最後の一発となった手持ちの照明弾を真上に撃ち上げる。地面が揺れる。
 かなり近い。

 ――――【!?】

 そう2人が思った瞬間、照明された薄暗がりの向こう側から見上げるような巨大な人影が現れた。戦艦ル級。
 輝や深雪が何か反応するよりも先に、ル級が両手の拳を開いて深雪を抱きしめる。

 ――――【う、うわわわわあああぁぁぁぁ!?】

 そしてそのままル級は、少し派手めに赤ん坊をあやすようにして深雪を前後に大きく揺さぶり、勢いそのままに放り投げた。抱きしめられている間に行われた深雪必死のパンチやキックによる反撃など、まるで気にも止めていなかった。
 そして、そんな攻撃とも呼べないたったそれっぱかしのアクションで、駆逐艦サイズの構造物である深雪が緩やかに回転しながら数百メートル近い距離を宙を舞った。

【て、ていとくさーん! ふねがー! かんたいばらんすいじできませーん!!】
【いまのハグでろっこつユニットにおうりょくいじょうはっせい! やなかんじですー!!】
【ぎゃー!! せっかくひろいあつめてそうじまでしたのにまたシチューがー!?】

 妖精さん達の悲鳴とのセットで数秒間の空中浮遊の後、深雪は盛大な水柱を上げて背中から着弾。
 海上に浮上し、膝を立てて立ち上がると同時に、輝と深雪が概念接続ではなく言葉でコミュニケイションを交わした。

「深雪」
【おう】
「やっぱ逃げよう」
【おう。でも】
「分かってる」

 一度海中に沈んだことで無事に鎮火したボロボロのセーラー服を乱雑に脱ぎ、既に目の前に迫っていたル級の顔面に投げつける。海水を吸い込み、顔面にベタリと張り付いたセーラー服を引き剥がそうとル級がもがく。意外というか何となく予想通りというか、指先を使った細かい作業は苦手なようだ。
 ル級の視界が潰れているその隙に、深雪が静かに、だが素早く背後に回り込む。
 深雪が蹴りを入れる。
 つま先を立てた、ツルハシのように鋭い横薙ぎのトーキックがル級のヒザ裏に突き刺さる。人体と同じ構造――――直立二足歩行を大前提とする脚部――――を持つ戦艦ル級は当然の如く後方へと倒れ込む。その際の衝撃で、超展開中の深雪の身長を超える大波が発生する。

 ――――深雪、今!
【おう!】

 輝の合図で深雪が跳ぶ。文字通り、駆逐艦サイズの構造物が下半身の屈伸運動だけで海水の抵抗を押しのけ、自身の身長ほどの高さにまで跳躍したのだ。
 空中で深雪が両足を揃えて膝を深く曲げ、バネを蓄える。

 ――――深雪、カカト・スクリュー、ピッチ角マイナス90!!

 輝が命令を発するよりも先に、輝のイメージを受け取った深雪が自我コマンドを入力。通常は――――遠浅での沿岸防衛戦においては――――常に水平状態に保たれているはずのカカト・スクリューの取り付け角を、遠洋での作戦行動用のマイナス90度こと、足の裏に移動させる。
 深雪がピッチ角の変更と同時に、スクリューに全力運転をコマンド。その真下では、ようやく顔に張り付いたセーラー服を剥ぎ取った戦艦ル級が、無防備に仰向けに倒れていた。
 自由落下を落下。

 ――――これが、僕の、僕達の!!
【深雪スペシャルだぜ!! 行っけー!!】

 真下を向いたカカト・スクリューを全力運転させた状態で深雪が、ル級の顔面に、両足を揃えて着陸する。
 スクリュー越しに、硬いのに柔らかいという、あまり考えたくない何かを引き裂き、斬り潰していく手応えが足の裏を通して輝と深雪の2人に伝わってくる。
 そして、そんな無防備に膝を曲げたり押し込んだりしている深雪の背後から、三つ首の深海凄艦――――軽巡ト級が水面下から海面に飛び出して奇襲を仕掛けてきた。
 軽巡ト級。
 目の無い主頭部と、同じく目の無い大顎状の両首(両肩か?)から生えている死人色の筋肉質な人の腕と中型連装砲。そして、大抵の駆逐艦娘よりも一回りは巨大な体躯が特徴のアンヒューマノイド型の深海凄艦だ。

 ――――【きゃああぁぁ!?】

 無防備な深雪の背中に、身体全体でぶつかってくるト級のタックルがもろに入る。
 深雪が吹き飛ばされた事によって拘束の解けたル級が立ち上がり、体勢を立て直す。今しがたの深雪スペシャルが効いたのか、見るも無残な顔立ちになっていた。左右の頬などもう皮膚どころか肉や歯までそげ落とされ、ミンチに近い状態となっていた。たとえ口裂け女や牛股権左衛門が相手でも、夜道で出会ったら道を譲るレベルの壮絶さだ。
 バランスを崩して無様につんのめった深雪に、ト級が左右の拳で背中を乱打乱打乱打! そして両腕で強引に深雪の向きを向き直らせると、右肩と右首と右アゴの3つの機能を兼任する右の大顎で噛みつく。深雪が咄嗟に付き出した左腕一本でそれをカバー。肩口から丸ごと齧られる。
 信じられないような幻肢痛が輝の左腕を襲った。

 ――――ぎ あ゙ あ゙ お゙ あ゙ あ゙ あ゙ あ゙ あ゙ あ゙ !!!?!
【司令官!? ちっくしょー! 離せ! 離しやがれっ!!】

 激痛からくるパニックを受け取った深雪が咄嗟に艦体コントロールの優先権を剥奪。喰われた左手で口の中の舌を爪を立ててとっ掴み、自傷上等の覚悟で右腕で軽巡ト級の右首を下から何度も殴りつける。
 ト級に完全に気を取られた深雪の背後から、怒りのあまりドス黒い瘴気を全身から立ち上らせた戦艦ル級が海水の抵抗など意に介していないような快速で駆け寄り、左手で深雪の肩口を掴み、振り回す勢いでこちらに向き直らせ、無防備にさらされた顔面目がけて打ち下ろし気味の右のフックを繰り出す。それを深雪は右腕を差し挟んでガードしたが、焼け石に水ですらなかった。
 戦艦ル級最初の一撃で深雪の右腕は肘のあたりから木端微塵に粉砕され、そのまま左頬を撃ち抜かれる。
 深雪の首が回ってはいけない限界ギリギリまで一瞬で回りきり、そのまま左肩を掴んでいた右腕一本で強引に投げ飛ばされた。ト級に文字通りの意味で喰い止められていた左腕は、その際にあっさりと引き千切れた。
 空中を無力に落下する深雪を狙って、ト級とル級が全ての砲を向ける。着水した瞬間を狙って発砲しようとしたまさにその瞬間、

【殺伐としたこのスレもとい北方海域に意外と優秀な球磨ちゃんが登場だキソですニャー!!】

 軽巡ト級の背後の海面から、超展開状態の艦娘――――軽巡洋艦の『多摩』が飛び出し、勢いそのままにネコ科の大型肉食獣もかくやの勢いで襲い掛かった。
 レーダーも無線機も完全に死んでいる輝と深雪達には知る由も無かったが、それはショートランド泊地第八艦隊の佐々木提督と、同艦隊総旗艦の軽巡『多摩』だった。何時まで経っても帰投しない2人を探すために、ブイン基地の面々が頭を下げて捜索隊に加わってもらったメンバーの一員だった。
 ト級の背中に張り付くと同時に多摩が拳を握る。それをコマンドと認識した多摩のFCSが実行。手甲から細く鋭い、ウルヴァリン鋼ベースの特殊合金製の鉤爪が左右の手の甲それぞれから4本伸びる。戦艦ル級が振り返り、事態を把握するよりも先にト級の真ん中の首筋を――――人と同じ体構造なら、急所のはずだ――――何度も切り裂き、滅多刺しにする。

【ニャー!!】

 傷口から真ん中の首の延髄を狙って深々と鉤爪を突き刺すと、軽巡ト級が最後に一度大きく痙攣し、脱力した。
 直後、中央の首が機能停止した事を認識した右首に、軽巡ト級の中枢機能が委譲される。
 再起動。ムチャクチャに両腕と身体全体を振り回して、多摩を背中から引き剥がす。

【これがあるから、ト級は嫌いなんだよなぁ】
【ニャー、もう! ただの迷子探しだと思って酸素魚雷置いて来るんじゃなかったニャー!!】

 多摩と正面から対峙する立ち位置になったト級(の右首)が吠える。それを真正面から受けた多摩は、慣れた手つきで左の鉤爪をしまって背後に回し、無造作に掴み取ったヘッジホッグ散布爆雷群をその右首の口の中に押し込んだ。
 ト級が吐き出すよりも早く右ヒザを叩き込み、閉じた口の中で爆雷群が誘爆。右首を木端微塵に爆破した。

【ニャー。流石ブイン基地からのおすそ分け品だニャ。汎用爆雷なんかとは全然違う破壊力ニャ。惚れ惚れするニャ】

 最後に残った左首に中枢機能が委譲されるよりも早く、多摩が右手に展開していたままの鉤爪で首を刈り取る。
 軽巡ト級の右首は滞空中の数秒間の間に、機密保持のため寄生させていた好気性の肉食バクテリアに喰われ、グズグズに溶けていった。胴体もそれに続いた。
 戦艦ル級からの追撃がない事を不思議に思った佐々木と多摩が警戒しながら背後を振り返ると、そこには確かにル級の姿はあったし、それと対峙する形で両腕のもげた深雪も尻餅をついてル級を見上げていた。
 ただ、その戦艦ル級の胸からは肋骨に沿って刃を寝かせた大太刀状のマストブレード(っぽいチェーンソー)が生えており、ル級の胸からわき腹にかけてをズタズタに引き裂きながらゆっくりと抜いていくところだった。

【夜は、オレ達水雷屋の時間だぜ】
【目隠少佐、無事か!?】

 ブイン基地の井戸少佐とその秘書艦、天龍だった。

【ニャ、ニャんと……】
【えっげつねーな、おい】

 水野と同じ、歴戦の戦士であるはずの佐々木も多摩も、思わず表情が引き攣るような致命の一撃だった。





【佐々木少佐、わざわざ御足労いただいただけでなく、こちら(ブイン)の問題に御助力まで賜り、誠にありがとうございます】
【なんのなんの。俺達のトコも新入りの子もちょうど今日、迷子になって大慌てで捜索隊出すところだったからさ。そっちからは夜間哨戒機出してもらったし、お互いさまって事で】

 先の戦艦ル級と軽巡ト級を撃破した後、元の姿――――戦闘艦本来の姿に戻ってしまった『深雪』を護衛する目的で、井戸と佐々木は超展開状態を維持したまま周辺を警戒していた。
 輝も深雪も、物理的にも精神的にも限界を超えた戦闘から解放された反動で気絶してしまっていたし、何かを曳航していた輸送ワ級の群れが撤退した以上、敵の増援がやって来る可能性は低いのだが、念のためである。

【そういえば何ヶ月か前に、そっち(ブイン)の密輸と二重帳簿が本土にバレたって聞いてたけど、どうなったんだアレ?】
【はい。今までの密売ルートは全て摘発されてしまいました。お陰で、まともな艦隊運用が難しくなってしまいましたね……どういう訳か、お咎めが全然無いのが怖いのでありますが】

 それでも三ヶ月に一回の大補給程度じゃ2~3会戦分くらいにしかならんがな。と井戸は小声で愚痴る。それを耳聡く聞きつけた佐々木もそっちも同じような量かー。と合いの手を打つ。

【あれ? でもちょくちょくおすそ分け貰ってるけど、それはどこから……?】
【それは……まぁ、企業秘密という事で】

 ブイン島周辺の無人島に分散配置してあった非常用の備蓄資源である。
 これに手を付けるか否かではブイン基地でも意見が割れたのだが、弾薬や燃料が足りないなどというつまらない理由で周囲の基地や泊地が壊滅した場合、比較的小規模なブイン基地もドミノ式に壊滅するであろうことは容易に想像できたので、最終的には基地司令代理の漣もおすそ分けの継続にGOサインを出したのである。

【後はまぁ、太平洋戦線の方まで北上して、燃料売っ払ってくるくらいですかね。あっちはどれだけあっても足りないみたいですし、その時のツテで本土からの追及も途中で止まったみたいですし】
【へぇ~、手広くやってるんだな】
【ニャー。提督ー、お話し中失礼しますニャー】

 額のてっぺんから電波ヒゲを出して他の捜索部隊と連絡を取っていた多摩が、己の提督である佐々木と、単距離光学通信で接続中の井戸達に告げた。

【ニャー。うちの子達も見つかったそうですニャ。あっちも深海凄艦の輸送艦隊と鉢合わせしたそうですが、交戦状態に入るよりも早く、ワ級が曳航していた荷物を切り捨てて逃げ出したので無傷だったそうですニャ。あっちはこれから鹵獲した荷物の確認に入るところだそうですニャ】
【お、ご苦労さん多摩。んじゃあ俺達も、回収部隊が来るまでの間に、確認だけでもしときますか】

 佐々木のその発言に合わせて、多摩と天龍が艦体の各所に設置された探照灯で周囲を照らす。先程までの激闘の後は、波間に飲まれて既に消えていた。
 一番最初に見つけた多摩が驚愕する。

【ニ゙ャ!? て、提督!? あ、ああああれ!!】

 残りの三人も見た。













 本日の戦果:

 
 軽巡ト級        ×0.5(ショートランド泊地との共同撃沈のため)
 戦艦ル級        ×0.5(〃)

 単独哨戒中に行方不明となっていたブイン基地所属の駆逐艦『深雪』および、目隠少佐の発見と保護に成功しました。
 輸送ワ級の群れが曳航していたオブジェクトを鹵獲しました。

 潜水艦『伊19号』
 軽巡洋艦『能代』

 以上の2隻です。
 帝国大本営およびTeam艦娘TYPEから、艦娘化を目的とした引き渡し要求が出ています。(※1)

 
 各種特別手当:

 大形艦種撃沈手当
 緊急出撃手当
 國民健康保険料免除

 以上



 本日の被害:

 駆逐艦『深雪』:大破(ブイン基地所属。甲板全焼、兵装群脱落、スクリューシャフト破損、左右兵装保持腕脱落、超展開用大動脈ケーブル断裂、主機異常加熱、etc, etc... ...)
(※1)


 各種特別手当:

 入渠ドック使用料全額免除
 各種物資の最優先配給

 以上




 ※1
 上記2隻の本土輸送の手配を完了しました。
 それと引き換えにブイン基地には、改二型艦娘専用の修理資材および、艦娘式駆逐艦吹雪型4番艦『深雪』の正規品パーツが納品されます。


 特記事項


 政治的事情により、ショートランド泊地第七艦隊総司令官に対する逮捕状が取り消されました。





 甲板全焼。装甲全破損。電探および電信装置機能停止。左右兵装保持腕脱落。搭載中の爆雷および酸素魚雷の暴発による汎用投射筒および魚雷発射管の全損。前方第一、第二砲塔基部破断。艦橋の対爆ガラスの一部破損。タービンブレード一部溶解。艦体各所の送電ケーブルの異常加熱に火災切断。送圧パイプの圧力爆発。高圧過電流および戦闘中の衝撃による電装系(輝ハンドメイドの増設ポート含む)の全損。非正規品の内装系による超展開の実行に伴う致命的なシステムエラーが17ヶ所。シチュー鍋大転倒。
 それらの他、スパナ片手に腕組みする整備班長殿と輝の2人がざっと見たところ、使い物にならないパーツ群がおよそ50個ほど。

 以上が今回帰投し、ドライドック送りとなった『深雪』の最終報告である。
 が、そんなことは正直どうでも良い。
 事実、深雪の破損部分に修理用の鋼材を適当に添えて、高速修復触媒(バケツ)をエアブラシで吹き付けてやればあら不思議。吹き付けられた触媒は大気と反応してボコボコと沸騰するピンク色の粘液と化し、添えられた鋼材を喰って破損部を浸食。発砲粘液が完全硬化した頃を見計らってそれを取り除いてやれば、その下からはまるで無傷の『深雪』の姿が現れた。
 この間、およそ18時間。
 これに一番驚いたのは誰かというと、70年という技術格差に思わず『デカルチャー』と呟いた深雪さま本人ではない。今回の『深雪』とほぼ同等の損害を負っておきながら、完全修復までに三日近い日数を要した駆逐艦『如月』である(※第一話参照)。

 ――――如月の時は、危険だからって、触媒使えなかったのに。

 そう思わず愚痴ってしまった如月の精神的安定のためにも補足しておく。スパナを片手に握る整備班長殿によれば、この『深雪』はまだそこまで電子化が進んでおらず、そのシステムの大半が機械式であるという。つまり、触媒と相性の悪い電子機器やデバイス群が最低限+αしか搭載されていないが故に実現できた高速修理である。
 結論のみを言えば、深雪に関しては何も問題ないと思って間違いは無い。
 問題はこっちである。


 かしゃん。

「あ……」
「あー。またかよ、も~しょうがないなぁ。司令官は」
「ご、ごめん」

 ブイン基地の食堂に、輝がお皿の上に落したステンレス製のスプーンの音が響き渡る。
 深雪は隣に座っていた輝が零した分を素早く拭ってスプーンを拾うと、輝の口にくわえさせた。

「はいよ。司令官」
「あむ」

 深雪の迷子事件から数えてちょうど一週間が過ぎていた。
 その一週間の間にあった事と言えば、あれだけの大損傷を負っていた深雪がものの半日で完全復帰を果たし、かつて同じ程度の損傷を負った如月が信じられない物を見たかのような表情になったり、カレー食ってた時に深雪が蹴立てた椅子によって大好物のマッシュポテトが麦茶入りした電(203)が表向きは深雪の回復祝い、しかしその実は報復目的によるアサガオの種入りケーキを深雪に喰わせたりと、その程度である。
 修理工程最後のデバイスチェックにも問題は見られず、そのまま完全復帰のお墨付きを頂いた。

 だが、輝の方はそうはいかなかった。

 肉体的なダメージは見受けられなかった。精々が超展開中に受けた損傷のフィードバックで身体に力が入らなかったり、逆に入りすぎたりする程度である。
 帰投と同時に医務室直行便に乗せられた輝が目を覚ますと、真っ先に確認したのは現在地でも壁掛けカレンダーの日付でも枕元の時計でもなかった。深雪の安否だった。
 深雪はドライドックで修復中だから安心してお前も寝とけと言われても輝は痛む身体を無理矢理ベッドから起こし、ブイン基地の地下にある、同基地唯一のドライドックに向かっていった。途中ですれ違った者達からの証言によると、まるで姉とはぐれた幼い弟のような表情そのものだったという。そして、ドライドックで修理を受ける、駆逐艦本来の姿のままの『深雪』の姿を見て気が緩んだのか、その場で再び気絶。
 今度はそれを見た深雪が騒ぎ出したため、止む無く『深雪』の艦長室にフトンを敷いて輝を寝かせ、そのまま作業を再開した始末である。
 前の職業柄、提督や艦娘達のメンタル面についてある程度の知識を有する井戸少佐に言わせるとこれは、正しい手順で超展開を終了させなかった時に良く見られる現象であるとの事。
 何かしらの理由により超展開が不正に終了されると、提督と艦娘が互いに同調させている意識の剥離作業が上手く行われず、無理矢理引き剥がされた提督と艦娘それぞれの精神面に若干の喪失感や不充足感をもたらす事があるのだという。
 放っとけば2~3日で治ると言っていたが、輝と深雪は今日で7日目に突入だ。

「まぁ、傍から見てると世話焼きの姉と弟にしか見えないんだけどな」

 井戸のその呟きに、食堂にいた誰もが同意するかのように頷いた。
 そして、そんな、とりあえずの平和を享受していたブイン基地の食堂に、基地司令代理の漣がむき出しのままのA4サイズのコピー用紙1枚を片手に、青い顔をして入って来た。

「? 漣? どうし――――!?」

 入り口付近で突っ立ったままの漣の異常に気が付いた井戸少佐が声をかけると同時に、漣はとさり、とその場に崩れ落ちた。
 青ざめた顔のまま突如として気絶した漣に誰もが心配し、気を取られていたため、彼女の手の中にあったコピー用紙が少し離れた地面に落ちた事に気が付いた者はいなかった。
 文字の印刷された面を上にして地面に落ちたそれには、こう書いてあった。






 発:大帝国海軍大本営参謀軍団およびオーストラリア海軍総司令部(以下:甲)
 宛:ブイン島ブイン仮設要塞港所属、第201艦隊総司令官ファントム・メナイ少佐、同第202艦隊総司令官水野蘇子中佐、同第203艦隊総司令官井戸枯輝少佐(以下:乙)



 ラストダンサー作戦(作戦コード『R-99』)指令書



 かねてより指示しておいた作戦コード『R-99』を発動する。甲は乙に対し、乙の全戦力をもってこの作戦への参加・成功を命令する。
 なおこれは、本指令書の送付と同時に有効となる。


 作戦概要、および命令:

A:本作戦の大目標は旧リコリス飛行場基地こと、リコリス大巣穴を占領している深海凄艦の指揮個体『飛行場姫(第3ひ号目標)』の確実な抹殺である。敵識別コードは『リコリス・ヘンダーソン』とする。
 これに対し、飛行場基地および周辺への人的・物的被害は、必要最小限に限り不問とする。

B:可能であるならば、敵全戦力を撃滅して制海・制空権を完全に確立し、リコリス飛行場基地を再占領せよ。

C:ショートランド泊地第7艦隊提督の漸減作戦(※翻訳鎮守府注釈:例の毒ガス攻撃)により、当初予想されていたよりも敵勢力の数は少ない。楽勝である。


 追伸:

 最後の1人、最後の1隻になっても踊り切れ。





 この時はまだ誰も気づいていなかったが、今日この時こそが、遥か数十年後の未来において『鉄底海峡決戦』と称されることになる超大規模発生源殲滅作戦が発動された日であった。






『鉄底海峡を突破せよ!』この一言を言わせようとして、どうして1年近くも回り道してるんでしょうかね、私は。記念の艦これSS
『嗚呼、栄光のブイン基地 ~ 最精鋭部隊の集結(後編)』






 本日のOKシーン

 リコリス飛行場基地に、朝が来る。

「……」
「……」

 その日の朝、リコリス飛行場基地の外れにある対爆コンクリート製の港湾施設に、1つの白い影と1つの巨大な黒い影が何をするでもなく、ただ海を見ながら突っ立っていた。
 黒い影の方はごく普通の深海凄艦――――雷巡チ級と並んで、深海凄艦側の中核戦力とも言われる重巡リ級――――だった。
 何で人類製の港湾施設に深海凄艦がいるんだよと聞かれれば答えは単純で、このリコリス飛行場基地がすでに深海凄艦側勢力の手に落ちているからである。
 問題はそんな些末事ではない。
 重巡リ級の隣に立つ、小さな白い影の方だ。

「オソイ、 ワネェ……」

 全長、百数十センチメートル。完全な人型の女性。体色、白。髪も肌も服も(皮膚か?)、ほぼ同一の真っ白。地に付くほどに伸ばされたその長い髪の中からは、時折滑走路のような模様と形状をした何かがちらちらと見え隠れしていた。
 全長数十、モノによっては数百メートルが平均値の戦闘艦とほぼ同等のサイズを誇る深海凄艦群の真っ黒の中では、鬼と並んで異色の存在。その存在を非公式ながらも確認している帝国海軍大本営でも、未だに名称付けられていない白い姫。
 この白い姫とリ級のサイズは比べるまでも無い。シャカ=ブッダと、その手のひらに乗るOFX-4ほども違っている。そんなちっぽけな白い姫に、重巡リ級が付き添っているのである。人間どころか、状況次第では艦娘ですら沈める深海凄艦側の中核戦力たる重巡リ級が、等身大サイズの白に。
 これが問題では無かったら。何が問題であるというのだ。

「オソイワネ、 ナニカ、 アッタ、 ノカシラ」
「……ッチ」

 腕を組み、不機嫌そうに片足をたしたしと踏み鳴らす白い姫から少し離れた隣(の海中)に待機していた重巡リ級が、恐る恐ると言った感じで舌打ちした。その舌打ちを聞いた白い姫が振り返り、リ級を見上げた。部下の舌打ちを咎めた訳ではない。この舌打ちは『話がある』もしくは『こっち見れ』という意味のジェスチャーだと知っていたからだ。

「ン? ナニ?」

 リ級は無言で水平線の向こうを指さす。白い姫がそれに従い、目の上に片手をかざして凝視する。何もない。
 ややあって、

「ア」

 海の青の一部が黒く染まる。その真下から、いくつもの影がゆっくりと海水を押しのけ、浮上してきた。
 駆逐イ級の上顎のような被り物をした完全な人型の上半身、死人色の肌、ミツアリのように膨らむ金属製の腹部。バストは実際豊満だった。
 輸送ワ級の――――それもタイプ=エリートの――――群れだった。
 そして、そんなワ級の群れを先導するかのように、ハワイの鬼こと『泊地凄鬼』の姿が最前列にあった。
 姫の待つ港湾施設に入港した鬼が帰還の報告する。

「……ィメ。ァクセンハ、ィコゥシタ。 ゙ ァツラクシャ、ナシ」

 作戦成功。脱落者無し。
 鬼はそう言っていた。

「ソウ、 オツカレサマ。 サスガニ『能代』ト『伊19』ヲ、 オトリニ、 シタカイハ、 アッタワネ」

 姫は思う。この本命の輸送作戦を成功させられるならば、あの2隻――――潜水艦と軽巡洋艦を人類の手に渡すくらいはむしろ安い買い物である。
 無論、艦娘化したあの二隻が数百、あるいは数千単位で各地の戦線に加わって来る事を考えれば、もの凄く厄介だとは思うのだが、その将来的なリスクを考えても、やはりこの輸送作戦は成功させておきたかったのだ。

 さらに海中から浮上してくる。
 各種資材を満載した輸送ワ級とその護衛についていた各種駆逐種や軽巡種に始まり、空母ヲ級や戦艦ル級、西方海域で猛威を振う最新鋭の戦艦タ級と鬼と酷似した白い新種。そして、泊地凄鬼の右肩から大きく伸びている主砲の専用砲弾。
 そして、

「キタ、 キタ♪」

 そして――――ちょっとした島ほどの大きさもある、巨大な球体が海中より音も無く浮上してきた。
 それも複数。
 ずらりと並んだ巨大な歯を覗かせる大口以外には何もついていない桃色の球体群が、そのままごく自然に宙に浮く。そしてそのまま、リコリス飛行場基地の上空にて待機するように静止・浮遊を開始した。完全なる未確認種。
 空中を埋め尽くす巨大な桃色の球体。海を埋め尽くす白黒の深海凄艦の群れ。

「サイコウネ、 コレナラ、 キット……!」

 今ここに、最精鋭部隊の集結が完了した。









 本日のNG(没)シーン

 蒼い海、どこまでも続く紺碧の空。所々に浮かぶ白い雲間に、一機のセスナが飛んでいた。
 空を飛ぶそのセスナ機以外には誰もおらず、ただ静かに風が流れていくだけのその青い空間には、そのセスナ機自身が発するエンジン音だけが静かに響いていた。

 と、書き出せばまーそれなりに優雅そうに見えるのだが、当のセスナ機の中身はおよそ優雅とはかけ離れた惨状となっていた。

「すっげー! 島があんなに小っせー! あ! あれ船!? 白いⅤ字んとこ船進んでんの!?」
「輝も見てみろよ! 島だぜ、ラバウル!! 俺達の戦場だ!!」
「そ、そうだね……」

 ガキだ。
 3匹のクソガキ共がギャーギャーと騒ぎ立てていた。
 異様な3匹だった。
 どいつもこいつも、こんなセスナ機に乗っているよりは近所の空き地か土手沿いの河川敷でサッカーボールでも蹴っ飛ばして遊んでいるのがお似合いの年頃の、ヤンチャな雰囲気を全然隠していない少年たちだった。保護者らしき人物は居なかった。
 こんな所にガキだけで乗り込んでいるのも異様なら、ガキどもの服装もまた、異様だった。
 真っ白い礼帽、肩紐無しの白いフロックコートに同色のズボン、帝国海軍指定の白塗りのローファー、左手側の腰に佩いたサーベルの鞘。
 そして肩には、黄色い下地に一本の黒線が引かれた、一輪咲きの桜花の肩章があった。
 帝国海軍少佐の階級章だった。
 繰り返して言うが、ガキである。
 これを異常と言わずして、何を異常と言うべきか。
 現在のこのセスナ機の乗員・乗客数は合計10名。内訳は前述のクソガキが3匹に、操縦手が1名と、残りが6人――――6人とも、艦娘だった――――である。

「これ。男(おのこ)が斯様に狭い棺桶で喧しくするでない。もっと苔むした巌のように、どっしりと構えておったらどうじゃ」

 その、残り6人のうちの1人が、左手に持った扇子でガキの1人を指し示しながら妙に古風な口調で窘めた。
 明るい水色の髪、空色の瞳、大きく膨らんで流れているポニーテールと、それを結えるリボン代わりの御幣(※翻訳鎮守府注釈:地鎮祭などで神主さんが使う白くてヒラヒラしたアレです)、ピッチピチに張り付いてボディラインを浮かび上がらせるボディコン状の白いセーラー服のようなワンピース。
 艦娘式初春型駆逐艦1番艦『初春』
 それがこの艦娘の名前だ。
 当セスナ機のオーナーでもあり、操縦手でもあるパイロットはお前こそ五月蝿ぇよ、今すぐここでxxx板送りなプレイしてからモノホンの棺桶に詰め込んだろか。と思ったが、そんなのを運ぶのも仕事の内と割り切り、顔と口には出さないでいた。

「チッチッチー。解ってないなー初春は」

 そんな初春に対し、即座に反論したのは別の艦娘だった。何かイモ臭いけど元気溌剌な女子中学生。
 駆逐艦『深雪』
 それがこの娘の名前だった。何かイモ臭いけど。

「初春いいか? 空だぜ!? 私達、今、空飛んでるんだぜ!!? しかも海の上!! 海の上を飛ぶなんてフツー、マジ有り得ねーだろ!? マジだろ!?」

 このガキ、中々解ってるじゃねぇか。
 当セスナ機のオーナーでもあり、操縦手でもあるパイロットは誰に知られること無く満足げに何度も頷いていた。
 かつて、深海凄艦戦争の開戦初期には、帝国空軍のトップガンとして太平洋戦線に参陣していた彼は運悪く膝に対空砲弾の破片を受けてしまい、戦線復帰は絶望的と診断された。それでも空を諦めきれない彼は何とかあがいたが、空軍のサイバーコネクトはおろか、陸軍のAMSやS型デバイスにすら適性が無く、彼は失意のうちに軍を後にした。その頃はまだ、雷巡チ級すら世に出てない頃で、まだ人類優勢に戦局が進んでいたから引き止める者は同僚や部下を除いてはそう多くなかった。
 その後、民間の航空会社に就職し、こうやって小さなセスナ機を飛ばしては僻地の小さな島と島の間を行ったり来たりする生活を続けていた。今日運んでいるこのガキどもも、そう言った普段運んでいるお荷物の1つなのである。
 軽母ヌ級や空母ヲ級などの悪魔どもが当たり前のように世界の海に闊歩している昨今では、こういった沖合の空を単独で飛ぶなど、まさしく自殺行為でしかないのだが、彼が事前に設定しているフライトコースは正確に敵警戒ラインの間隙をついているから今の今まで敵に見つかった事は滅多にすら無く、見つかったとしても即座に遁走できるのは、ひとえに彼の技量と経験がそれだけズバ抜けた物である証である。

「お客さん方。そろそろ着陸態勢に入りますんで、席に戻ってください」
「了解しましたぞ」

 初春が窓に張り付いているガキどもと、そいつらと一緒になって窓の外を食い入るように見つめている他2名の艦娘達を引っぺがして席に座らせると、自分もすぐ席に戻ってシートベルトを締めた。
 直後、セスナ機が前のめりに急降下を開始する。誰かが『え?』と『わっ!?』の中間地点のような声を漏らす。初春が文句を言おうと正面を向く。
 青い壁が窓ガラスの外にあった。Gは、壁の方向を向いていた。

 ――――墜落。

 その一言が初春達の脳裏をよぎる。誰かが呑気な声で言う。妙に酒臭い声の女性だった。

「おー。民間機でウミドリ・ダイブとはおっちゃん、やるねー」

 莫迦が。何を呑気な。そいつ以外の誰もがそんな事を考えている間にも壁にしか見えない海の青はみるみる接近していき、

「ぶ、ぶつか……へ?」

 何事も無かったかのように水平を取り戻し、出来の良い紙飛行機の様なゆっくりとした滑空を続けてラバウル基地の第一滑走路へのアプローチコースに乗り、大した音も衝撃も無くランディングを成功させる。
 そしてそのまま期待を滑走路脇の駐機スペースに潜り込ませるとキーを回してエンジンを止め、手元のレバーを操作してドアロックを外し、パイロットのおっちゃんは言う。

「ラバウルへようこそ」






「じゃーなー! 輝(テル)、お前も元気でやれよ!!」
「メール入れっから見忘れんじゃねーぞ!!」
「う、うん。トモキ君も、ナツオ君も、元気でね……」

 ラバウル基地で一度大休止を取り、そのまま島に残ったクソガキ2匹(トモキとナツオ)と艦娘2名(初春を含む)に別れを告げ、残る6人は再び空の度へと旅立った。空にいるのは海軍少佐の礼服に着られた、テルと呼ばれたガキが一人と、艦娘が4人(深雪を含む)、そして操縦手の合計6名である。
 が、今度は一転して、恐ろしい程の気まずい沈黙がセスナ機の内部を満たしていた。先程まで大はしゃぎしていた深雪も、今では借りてきた猫のようにおとなしくなっている。
 理由は後部座席にある。

 まず1人目。向かって右側。
 何かとデカい艦娘だった。
 タッパもデカけりゃ艤装もデカかった。艦娘最大の特徴である艤装はその娘の左右から体全体を包み込むように展開しており、大小無数の砲塔が据え付けられていた。
 対する艦娘自体は見目麗しい娘であり、桜模様の簪で1つにまとめられた長大な黒髪のポニーテールで、金網状の測距儀が横に伸びる鉄色のカチューシャを付け、やんごとなきお方の御家紋が彫られた首輪をかけて、赤いスカーフのセーラー服と赤のミニスカートを履いていた。絶対領域を形成している左の黒いサイハイソックスには白い達筆で『人生紙吹雪』とあった。
 バストは実際豊満()だった。

(ねぇ、深雪さん。あの艦娘って……)
(さん付けいらないってば。うん、どう見てもこないだテレビに出てきた人だよね……)

 戦艦『大和』

 どうしてこんなところに? そう聞いてみたい2人だったが、何となく聞くのは躊躇われた。大和本人は柔和そうではあるが、記者会見に出ていた上司がアレだ。変な事言って気分を害しでもしたら、次は月の表面で大爆発でも起こされるんじゃあないのか。
 セスナ機の前座席に並んで座る2人はヒソヒソと話す。

(ねぇ、司令官。あの大和さんは……)
(テルで良いよ。うん。そっとしておこう)

 続いて2人目。3人掛けの後部座席の真ん中。
 先程の急降下が墜落ではなく、悪戯に行われたウミドリ・ダイブである事を見抜いた唯一の人物。
 酒臭い艦娘だった。
 一昔前の少年漫画のように跳ねる暗桃色の長髪に、所々がボロボロで薄汚れた陰陽師を意識したかのような服を着て、後生大事に一升瓶を抱えて、両足の間に民生品の大きな緑色のザックを挟んで大イビキをかいている、妙に身なりがボロっちい艦娘だった。

 軽空母『隼鷹』

 ただ、元々の育ちがよかったのだろう。着ている服も元々は上等そうな代物だったし、そんなボロいナリでも不思議と乞食臭いという事は無く、不思議と気品のようなものが伺えた。
 見た目はもう、完全に寝落ちしているアル中のオッサンだったが。
 
「うぃ~……代表、見ているかぁ~? ヒック、貴様の望みどおりだぜ! けどそれでも……最後に勝つのは、アタシら樫原丸だー!! ……ZZZzzz……」
(アル中……!?)
(アル中……!!)

 僕の知ってる隼鷹さんと違う。私だってそうだよ。目線だけでそう会話する二人は、さらにヒソヒソ話を続ける。

 一番最後。向かって左側。
 このセスナ機に乗り込んだ当初から誰とも話さず、誰とも顔を合わせようとしなかった女性。
 何かと挙動不審が目立つ艦娘? だった。
 背中の中程まで伸ばされた、変なクセの無い、真っ直ぐな黒のロングヘア。細身の黒縁メガネと同色のカチューシャ。紺のスカーフのセーラー服は袖周りが妙にぱっつんぱっつんで、社会人女性が学生時代の制服を引っ張り出して着てきたかのような印象を受ける。
 そして、そのセーラー服のどこにも、帝国海軍艦娘科の所属を示す、意匠化された錨のエンブレムは付いていなかった。代わりに『仁恵高校 普通科』の文字が袖口に小さく縫い込まれていた。ついでに言うと艤装には金属の質感すら感じられなかった。ついでのついでに言うとその艤装は、何故か生乾きのマッキー臭かった。

(司令官、あの人の艤装……何か色塗っただけのダンボールっぽくない?)
(き、きっと軍が秘密裏に開発した新型装甲なんだよ……多分)

 この時2人の脳裏には、『KANMUS』と殴り書きされた段ボール箱を被った外国人男性の姿が脳裏をよぎったが、きっと気のせいだと二人はブンブンと頭を振って想像を打ち切った。
 ちょうどその頃になると、酔っ払って寝落ちしていた隼鷹も目を覚まし、左右に座っている二人に声をかけた。セスナに乗り込んだ時に自己紹介は済ませていたはずなのだが、酔いが抜けると同時に記憶も抜け落ちたようだった。

「ぉお、大和さんねー……大和!? 何時の間に艦娘化されてたの!?」
「え。私、初めて国民の皆様の前に出てから、もう何ヶ月か経っていると思うのですけれど?」
「あー、それは私が逃げ回……あー、いや。ちょっとここ数か月間忙しくてね? テレビ見てなかったというか見る暇なかったというか、ア、アハハ……」

 挙動不審艦娘2人目である。深雪とテルが再び顔を見合わせる。

(ねぇ、テル司令官。確か、今年の春くらいにあった、横須賀スタジオの電波ジャックテロでさ、事件に関わってた隼鷹さん、1人だけまだみつかっていないって)
(き、気のせいだと思うよ……思いたいよ)
「あ、ああそうだ! アンタも艦娘だろ? 見た事ないタイプの艤装だけど、何て名前なんだい?」
「ファッ!?」

 何かを誤魔化すように隼鷹がもう一人の艦娘? に声をかける。見ていてかわいそうなくらいに驚いて上半身が飛び跳ねた。

「あ、あああああの、えと! お、オオヨド? です」
「大淀さん?」

 その名前を聞いて、大和は少し嬉しそうな顔をした。

「もしかして、私の後にGF(聯合艦隊)の総旗艦を務めた、あの大淀さんですか?」
「は、はいそうです! お、大きいの『大』に、よどむの『よど』って書きます。漢字だと、こう」

 軽巡『大澱』

 ――――惜しい。微妙に違う。
 このセスナ機に同乗している面々は同時にそう思った。
 特に期待していた大和に至っては、こいつホントに大淀か? という疑惑の視線を隠す事無く向けていた。因みにどうでも良い事だが、この大澱さん、TKTの手により現在広域指名手配中の艦娘『大淀』の候補生とウリ二つの顔をしている。だからどうしたという訳ではないが。
 周囲から向けられる疑惑の視線と、困惑に満ちた空気に耐えきれなくなったのか、自称『大澱』が顔を覆って泣き崩れる。

「う、うわあああん! そうよ! 私は大澱なんて名前じゃないの! 艦娘でもないの!! 有明警備府の事務屋なのよ!! やだあぁぁぁ!!」

 艦娘になんてなりたくない、ミキサー怖いとわんわん泣き叫びながら、大澱(偽名)は泣き続ける。

 当セスナ機のオーナーでもあり、操縦手でもあるパイロットはそんなすぐバレる嘘つくくらいなら『最初から他人の空似です』とか『急遽追加された事務員です』とかで通しとけばいいのに。と思ったが、それは自分の語るべき事ではないなと割り切り、顔と口には出さないでいた。
 わんわんと泣き続ける大澱(偽名)の泣き声をBGMに、セスナ機はブイン基地の唯一の滑走路の降り立った。

 この空の旅の終着点だった。


 メイド服着て胸元に『!』マーク付けた夕雲姉さん来ませんでした記念の艦これSS

『嗚呼、栄光のブイン基地 ~ 最精鋭部隊の集結』
(※ホントは一話完結の予定でした&この人達出すと今後の話の難易度が激下がりになるので、全員出演は見送らせていただきました)


(本編全略)
(今度こそ終れ)


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