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No.41526の一覧
[0] 難攻不落の不問ビル ~チートな彼女とダンジョン攻略~ 【都市内ローグ】[数札霜月](2019/06/11 18:29)
[1] 0:プロローグ[数札霜月](2017/07/21 06:46)
[2] 1:問われないビル[数札霜月](2015/09/02 22:19)
[3] 2:罠の中の選択肢[数札霜月](2015/09/02 22:20)
[4] 3:選択必須の六十階[数札霜月](2015/09/02 22:25)
[5] 4:最初の遭遇[数札霜月](2015/09/02 22:24)
[6] 5:ファーストリザルト[数札霜月](2016/09/09 20:37)
[7] 6:銀光の演舞[数札霜月](2015/09/04 10:39)
[8] 7:情報交換[数札霜月](2015/09/07 08:33)
[9] 8:ビルドエラーの打開策[数札霜月](2015/09/08 23:47)
[11] 9:時代劇の襲撃者[数札霜月](2015/09/10 22:31)
[12] 10:驚異の才覚[数札霜月](2015/09/12 23:55)
[13] 11:戦力会議[数札霜月](2015/09/14 23:45)
[14] 12:出発前の[数札霜月](2015/09/17 22:39)
[15] 13:静雷撃(サイレントボルト)[数札霜月](2015/09/21 23:43)
[16] 14:読めない彼女[数札霜月](2015/09/27 09:10)
[17] 15:ジオラマの街の追走劇[数札霜月](2015/10/07 13:27)
[18] 16:有り得なかったはずの光景[数札霜月](2015/10/14 17:42)
[19] 17:怪物的な[数札霜月](2015/10/16 18:32)
[20] 18:纏力スキル[数札霜月](2015/10/21 18:57)
[21] 19:戦国乱戦[数札霜月](2015/10/28 18:24)
[22] 20:手に入れた新武装[数札霜月](2015/11/04 10:26)
[24] 21:刀の扱い[数札霜月](2015/11/11 19:29)
[25] 22:待ち伏せ[数札霜月](2015/11/18 19:22)
[26] 23:足手まとい[数札霜月](2015/11/25 12:43)
[27] 24:実力差[数札霜月](2015/11/26 22:48)
[28] 25:異端者の葛藤[数札霜月](2015/12/09 12:30)
[30] 26:思念符[数札霜月](2015/12/11 09:50)
[31] 27:ボス部屋[数札霜月](2015/12/13 00:00)
[32] 28:半骨のマンモス[数札霜月](2015/12/13 23:17)
[34] 29:諦観[数札霜月](2015/12/16 11:28)
[35] 30:言い返すべきだった[数札霜月](2015/12/21 23:47)
[36] 31:見せるべき意地[数札霜月](2015/12/24 22:59)
[37] 32:記憶の糸[数札霜月](2015/12/27 23:33)
[39] 33:とどめの一撃[数札霜月](2016/01/03 23:39)
[40] 34:先へと進むその前に[数札霜月](2016/01/06 18:46)
[41] 35:次なる階層[数札霜月](2016/03/11 19:59)
[42] 36:近づく距離[数札霜月](2016/04/13 22:19)
[43] 37:数字の意味[数札霜月](2016/05/06 13:03)
[44] 38:知識“だけ”という意味[数札霜月](2016/05/13 17:03)
[45] 39:神造物[数札霜月](2016/05/20 20:18)
[46] 40:夜は明けない[数札霜月](2016/05/24 18:23)
[47] 41:トイレの花紙さん[数札霜月](2016/06/02 20:10)
[48] 42:目指すべき場所[数札霜月](2016/06/15 20:26)
[49] 43:俊敏なる人食いピアノ[数札霜月](2016/06/23 01:04)
[50] 44:立て続けの襲撃[数札霜月](2016/06/24 19:57)
[51] 45:命を預ける判断[数札霜月](2016/07/02 22:49)
[52] 46:共に格上の敵[数札霜月](2016/07/15 19:38)
[53] 47:譲れない一線[数札霜月](2016/07/22 19:36)
[54] 48:鬼火繰る二宮金次郎像 [数札霜月](2016/07/26 20:07)
[55] 49:骨振るい駆ける人体模型[数札霜月](2016/07/29 10:13)
[56] 50:光芒雷撃 [数札霜月](2016/08/10 20:03)
[57] 51:敵は己の中にあり[数札霜月](2016/08/12 09:29)
[58] 52:魔本スキル[数札霜月](2016/08/16 12:24)
[59] 53:二つの道[数札霜月](2016/08/19 23:33)
[60] 54:背後の気配[数札霜月](2016/08/26 20:14)
[61] 55:屍電体[数札霜月](2016/09/02 11:52)
[62] 56:フォーメーション[数札霜月](2016/09/06 20:07)
[64] 57:人面犬[数札霜月](2016/09/09 12:03)
[65] 58:足求め死体率いる骨格標本 [数札霜月](2016/09/13 10:51)
[66] 59:人馬一体の敵 [数札霜月](2016/09/16 21:51)
[67] 60:それは無謀にあらず [数札霜月](2016/09/21 08:52)
[68] 61:九枚の皿 [数札霜月](2016/09/23 19:57)
[69] 62:下肢換装の脅威 [数札霜月](2016/10/07 19:53)
[70] 63:志気の根源 [数札霜月](2016/10/10 21:37)
[71] 64:誰かの声[数札霜月](2016/10/21 11:13)
[73] 65:食卓の報告会[数札霜月](2016/10/25 14:54)
[74] 66:始祖の石刃[数札霜月](2016/10/29 16:31)
[75] 67:光って踊れるデッサン人形[数札霜月](2016/11/04 17:56)
[77] 68:購買の痕跡 [数札霜月](2016/11/12 23:08)
[78] 69:悲鳴の手紙 [数札霜月](2016/11/16 12:29)
[79] 70:パートナー[数札霜月](2016/11/19 23:07)
[81] 71:学校の七不思議[数札霜月](2016/12/11 23:22)
[82] 72:闇に包まれし体育館 [数札霜月](2016/12/23 09:17)
[83] 73:六亡の光明[数札霜月](2016/12/25 09:12)
[84] 74:黒雲を穿つ [数札霜月](2017/01/13 17:24)
[85] 75:二人の道行き[数札霜月](2017/02/17 23:40)
[86] 76:送られてきた『くえすと』 [数札霜月](2017/02/17 23:54)
[87] 77:純粋なる戦士[数札霜月](2017/02/21 22:10)
[88] 78:変幻自在の鎖武器[数札霜月](2017/02/26 08:45)
[90] 79:鎖の森 [数札霜月](2017/03/02 20:20)
[91] 80:見えない領域[数札霜月](2017/03/06 19:57)
[92] 81:不可解な感情 [数札霜月](2017/03/09 18:32)
[93] 82:逃走の連鎖[数札霜月](2017/03/14 18:32)
[94] 83:強行追撃[数札霜月](2017/05/22 23:53)
[95] 84:消耗のままの始まり[数札霜月](2017/03/25 21:54)
[96] 85:扉の中身 [数札霜月](2017/04/02 09:25)
[97] 86:父の葛藤[数札霜月](2017/04/09 00:15)
[98] 87:囚人の博物館 [数札霜月](2017/04/16 22:38)
[99] 88:処刑場の乱戦 [数札霜月](2017/04/23 13:51)
[100] 89:応法の断罪剣 [数札霜月](2017/04/28 21:19)
[101] 90:囚われていた少女[数札霜月](2017/04/30 20:12)
[102] 91:独房にて着替え中[数札霜月](2017/05/04 12:50)
[103] 92:聞いていた少女[数札霜月](2017/05/11 17:08)
[104] 93:愛娘の行方 [数札霜月](2017/05/16 15:10)
[105] 94:進むべき道 [数札霜月](2017/05/25 16:31)
[106] 95:いくつもの壁 [数札霜月](2017/06/02 00:12)
[107] 96:開かれる動乱[数札霜月](2017/06/09 23:31)
[108] 97:監獄の攻略法[数札霜月](2017/06/20 14:05)
[109] 98:混戦突破 [数札霜月](2017/07/17 09:41)
[110] 99:囚人を束ねし者[数札霜月](2017/07/23 23:57)
[112] 100:投入される戦力[数札霜月](2017/08/07 23:00)
[113] 101:盾スキル[数札霜月](2017/08/19 23:46)
[114] 102:迫撃スキル[数札霜月](2017/08/21 19:03)
[115] 103:異様な囚人 [数札霜月](2017/08/23 23:00)
[116] 104:最凶悪の囚人[数札霜月](2017/09/11 18:43)
[117] 105:殺刃犯[数札霜月](2017/09/23 18:00)
[118] 106:逃亡犯[数札霜月](2017/09/28 19:55)
[119] 107:聞こえる者音[数札霜月](2017/10/14 21:08)
[120] 108:犯罪歴 [数札霜月](2017/10/26 20:15)
[121] 109:忍び寄る者[数札霜月](2017/12/07 18:03)
[122] 110:見えない襲撃者[数札霜月](2017/12/18 20:35)
[123] 111:追跡不能[数札霜月](2018/02/14 19:15)
[124] 112:覚悟の提案[数札霜月](2018/02/21 19:29)
[125] 113:誘導と挑発[数札霜月](2018/03/02 18:49)
[126] 114:マッチング[数札霜月](2018/03/09 20:04)
[127] 115:盾の警官VS刃の囚人 [数札霜月](2018/03/25 19:22)
[128] 116:共鳴する感覚[数札霜月](2018/04/11 20:06)
[129] 117:苦も無く増える[数札霜月](2018/04/30 14:54)
[130] 118:隠れる者と隠し事[数札霜月](2018/05/04 21:18)
[131] 119:叫び[数札霜月](2018/05/18 19:57)
[132] 120:剣舞師 [数札霜月](2018/05/25 18:55)
[134] 121:立ち上がる者達[数札霜月](2018/05/30 17:22)
[135] 122:急天直下 [数札霜月](2018/06/03 20:02)
[137] 123:監獄の怨霊[数札霜月](2018/06/10 20:33)
[138] 124:敵意の裏側[数札霜月](2018/06/21 19:43)
[139] 125:行き着いた服装[数札霜月](2018/07/02 19:50)
[140] 126:思わぬ遭遇[数札霜月](2018/07/17 18:02)
[141] 127:足りない人数[数札霜月](2018/08/02 19:26)
[142] 128:最初の会談[数札霜月](2018/08/16 23:00)
[143] 129:探索道中[数札霜月](2018/08/26 18:50)
[144] 130:仕掛けられた感情 [数札霜月](2018/09/02 20:21)
[145] 131:何もいない階層 [数札霜月](2018/10/02 20:32)
[146] 132:魔聴の告白[数札霜月](2018/10/09 19:54)
[147] 133:盗人の処遇[数札霜月](2018/10/23 20:53)
[148] 134:情報交換[数札霜月](2018/11/12 21:07)
[149] 135:進化する影 [数札霜月](2018/12/06 20:21)
[150] 136:敵の敵は誰だ[数札霜月](2018/12/25 02:30)
[151] 137:平穏の水面下[数札霜月](2019/01/21 20:14)
[152] 138:安寧強授[数札霜月](2019/02/27 19:50)
[153] 139:緊急会議[数札霜月](2019/03/05 18:50)
[154] 140:剣獣捜査[数札霜月](2019/03/20 21:46)
[155] 141:彼らとの齟齬[数札霜月](2019/04/08 23:28)
[156] 142:安寧の階層[数札霜月](2019/04/18 23:26)
[157] 143:特異なる存在[数札霜月](2019/05/18 23:55)
[158] 144:たどり着いた真実[数札霜月](2019/05/29 20:07)
[159] 145:秘密への対応[数札霜月](2019/06/09 19:50)
[161] 146:話せぬ懊悩[数札霜月](2019/07/04 20:07)
[162] 147:似通った二人[数札霜月](2019/07/20 21:12)
[163] 148:後手の焦燥 [数札霜月](2019/08/07 20:13)
[164] 149:遅すぎた始まり[数札霜月](2019/08/25 21:03)
[165] 150:現れた標的[数札霜月](2019/10/15 21:08)
[166] 151:傷ついた強敵[数札霜月](2019/10/16 21:13)
[167] 152:力の戦い[数札霜月](2019/10/17 21:07)
[169] 153:殺意の重量[数札霜月](2019/10/18 20:58)
[170] 154:最悪のタイミング[数札霜月](2019/10/19 21:25)
[171] 155:二件目[数札霜月](2019/10/20 20:29)
[172] 156:求める答え[数札霜月](2019/10/21 21:15)
[174] 157:信頼の天秤[数札霜月](2019/10/22 20:58)
[175] 158:避けられぬ問題[数札霜月](2019/10/23 22:03)
[178] 159:彼らが主役の物語[数札霜月](2019/10/25 20:45)
[179] 160:失墜の物語[数札霜月](2019/10/26 21:18)
[180] 161:迫られる決断[数札霜月](2019/10/27 20:22)
[182] 162:予想の外へ[数札霜月](2019/10/28 21:06)
[183] 163:難題の先に見るもの[数札霜月](2019/10/29 21:12)
[185] 164:前哨交渉[数札霜月](2019/10/30 20:39)
[188] 165:理解阻む障害[数札霜月](2019/10/31 20:14)
[191] 166:システムの外にあるもの[数札霜月](2019/11/01 20:59)
[192] 167:神のつくりし芸術[数札霜月](2019/11/02 21:08)
[193] 168:二つの検査[数札霜月](2019/11/03 21:14)
[194] 169:見えてきたもの[数札霜月](2019/11/04 21:08)
[195] 170:始まりの彼女[数札霜月](2019/11/05 20:28)
[196] 171:予期されていた事態[数札霜月](2019/11/06 20:13)
[197] 172:立ちはだかる理由[数札霜月](2019/11/07 20:55)
[198] 173:既知の関係[数札霜月](2019/11/08 21:09)
[199] 174:彼女の罪科[数札霜月](2019/11/09 20:52)
[200] 175:身勝手な戦い[数札霜月](2019/11/10 21:04)
[201] 176:似て非なる二人[数札霜月](2019/11/11 21:08)
[202] 177:斬光スキル[数札霜月](2019/11/12 21:03)
[203] 178:先なき選択[数札霜月](2019/11/13 19:59)
[204] 179:揺るがぬ在りよう[数札霜月](2019/11/15 22:05)
[205] 180:自覚なき視点[数札霜月](2019/11/16 20:59)
[206] 181:歩まなかった道筋[数札霜月](2019/11/17 22:03)
[207] 182:憤りの根源[数札霜月](2019/11/18 21:03)
[208] 183:逸らした目には映らない[数札霜月](2019/11/19 21:00)
[209] 184:何度でも[数札霜月](2019/11/20 23:05)
[210] 185:度重なる最悪[数札霜月](2019/11/21 21:05)
[211] 186:累積する悪条件[数札霜月](2019/11/22 21:02)
[212] 187:彼女たちの集結[数札霜月](2019/11/23 22:15)
[213] 188:男たちの放散[数札霜月](2019/11/24 21:04)
[215] 189:舞台上の人形劇[数札霜月](2019/11/25 21:05)
[216] 190:取りこぼした希望[数札霜月](2019/11/26 21:13)
[217] 191:取り出される絶望[数札霜月](2019/11/27 19:08)
[218] 192:記憶の栞[数札霜月](2019/11/28 21:12)
[219] 193:強者参集[数札霜月](2019/11/29 22:04)
[220] 194:最後の――[数札霜月](2019/12/01 22:11)
[221] 195:襲い来る最適解[数札霜月](2019/12/02 23:55)
[222] 196:投じられる一石[数札霜月](2019/12/03 21:02)
[223] 197:牙をむく大水怪[数札霜月](2019/12/05 22:08)
[224] 198:強敵の争奪戦[数札霜月](2019/12/09 21:20)
[225] 199:従える者の戦い[数札霜月](2019/12/12 21:21)
[228] 200:覆る戦況[数札霜月](2019/12/21 21:01)
[229] 201:そびえる水樹[数札霜月](2019/12/29 18:54)
[230] 202:ハンナ・オーリック[数札霜月](2020/01/02 21:04)
[231] 203:アーメリア[数札霜月](2020/01/10 20:52)
[232] 204:極限技巧者の力技[数札霜月](2020/01/13 21:02)
[233] 205:戦場の論理[数札霜月](2020/01/19 22:28)
[234] 206:集積比較[数札霜月](2020/01/26 21:09)
[235] 207:殲却万雷[数札霜月](2020/01/28 21:04)
[236] 208:試練よりの生存者 [数札霜月](2020/02/07 21:07)
[237] 209:勇気ある決断[数札霜月](2020/02/24 21:04)
[238] 210:望まぬ前進[数札霜月](2020/04/18 19:58)
[239] 211:流れ着いた階層[数札霜月](2020/04/28 20:09)
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[41526] 142:安寧の階層
Name: 数札霜月◆0cb3e27c ID:ecd74218 前を表示する / 次を表示する
Date: 2019/04/18 23:26
「この階層に留まる、ですか……?」

 ふと思いついて口にした竜昇の言葉に、静が『意味が解らない』とでも言いたげな表情で首をかしげる。
 どうやら静にとっては、こんな考えは完全に考慮の対象外だったらしい。
 確かに彼女の性格やものの考え方を思えば無理もない話なのかもしれないが、実のところこの考えは、誠司たちがと言うよりも、竜昇達自身が陥るのではないかと少し前から危惧していたものでもあった。

「こう言っちゃなんだけど、この階層は酷く居心地がいい作りになってる。施設としてもくつろぐにはもってこいの作りたし、衣食住――、ああ、いや、食と住には困らない。……そして何より襲ってくる敵(エネミー)、【影人(シャドー)】が一体も存在しないと来ている」

 衣食住のうちの『衣』が欠けた結果、だいぶアレな服しか着られない事態になっている女性陣の衣服事情を思い出して、竜昇は発言の一部を修正しながらそう言葉を紡ぐ。
不自由な点が無いとは言えないし、『襲ってくる【影人】がいない』という部分も実際には多大な疑問符がつくわけだが、それでもこの階層の平穏さはいつ襲われるかわからなかったこれまでの階層と比べれば雲泥の差だ。
 流石に外と同等とまでは言えないにしても、これまで突破して来た危険に満ちた階層に比べれば、この階層はまるで天国のような環境である。

「これまでが危険の連続だっただけに、下手に安全な階層に出てしまったことで危険な次の階層に進むのが嫌になってしまった、って言うのはもしかしたらあるかもしれない」

「……ここはまだ【不問ビル】の中だというのにですか? この階層にしたところで敵の出現率が低いというだけで安全と言うわけではないと思うのですが……?」

「確かに理屈の上ではそうなんだけど、ここまで安全な場所で過ごしていると、なんというか緩むんだよ。一応頭では、この階層だっていつどんな形で襲われるかわからない危険地帯だってことが分かっていても、実際に襲われている訳じゃないからどうしたってこれまでの階層よりは安全に見えてしまう。ボスがいるはずだとわかっていても緊張感を維持するのが難しい。
……ひょっとするとこの階層、たどり着いた人間がそうなるように誘導する意図でこんな構造になっていたのかもしれないな」

 もとより人間と言うのは、そうそう長期間緊張状態を維持できるようにはできていないのだ。
 平穏が長ければ長いほど、危機感はその平穏に溶けるようにして薄まって、だんだんとこの階層が本当に安全な場所なのだと錯覚するようになって来る。
 最初のうちはまだいいだろう。この階層に着いたばかりのころならば、どんな迂闊な人間でも何かあるのではないかと警戒し続けるはずだ。
 だがこの敵がいない、何者にも襲われない状況が何日も続いたらどうだろうか。
 このまま何日も何もされないまま、安全で平穏なこの環境の中に閉じ込められ続けたら、果たしてその者は今の緊張感をそのまま維持し続けられるだろうか。
 もっと言えば危険が待ち受けるこの先に、進みたいと思えるだろうか。

「……正直に言うとあまりピンときませんね。そもそもつい今朝方、これまでとは形が違うとはいえ攻撃を受けたばかりですし……。
ああ、でもそうでした、あの魔力は本来詩織さんのような特殊な感覚を持つ方にしか感じとれないのですね……。そうなるとこの階層のボスは、竜昇さんの言うようにこの階層に安住しようとするプレイヤーを討ち取るつもりなのでしょうか……?」

「……それに関しては何とも言えないな。全員が少なからず影響を受けたのならまだしも、城司さんと及川さんの二人以外、あの魔力は何ら効果を表していないようだし。例え魔力の存在を察知できなかったとしても、二人もの人間にいきなりあんな不自然な態度の変化があったら、やっぱり残ったメンバーは警戒していただろうから……。効果を表す前に察知されてしまったがゆえに、思ったほどの人数に影響を及ぼせなかったって言う可能性もあるけど――。
 いや、この話はまたの機会にしよう。どれも推測の域を出ない上に話が脱線する」

 わき道にそれかけた思考を軌道修正し、竜昇は一度話題を誠司たちについてのものへと引き戻す。
 この件に関しても後々話し合う必要はあるとは思ったが、今は先に誠司たちについての話を片付けてしまいたかった。

「ともかく、もし仮に誠司さんたちがなんらかの理由で前に進むことを躊躇しているのだとしたら、俺達と共闘態勢を敷くことで今後の攻略に|参加させられて(・・・・・・・・)しまうのを恐れている、と見ることもできる。だからこそ俺達と友好的な関係を築くことには積極的だけど、先に進むうえで有利なことには必ずしも積極的になり切れていない、とか……」

 言いながら、しかし竜昇の声からはどうにも自信の色が抜けていく。
 実際竜昇のこの考えは、決して的外れなものだとは思わない。今自分達が置かれている環境は、人の思考をそういう方向に駆り立てるものだと、竜昇自身が本気でそう思っている。
 ただそう思う一方で、果たして昨晩、そして今朝見た誠司たちの姿に、この階層に留まることを望んでいるような、そんな気配があったかと問われると、どうにもそうは思えない部分があるのだ。

「私には、むしろあの方々は先に進むことに意欲的に見えます。むしろどちらかと言えば、前に進むことしか考えていないようにさえ思えます……」

「そうなんだよな……。けどだとしたらなんなんだろうな……。単に及川さんがあんな状態になったことで、いろいろと慎重になっていると見ることもできなくはないけど」

「まあ、確かに今の彼女は言ってしまえばただの足手まといですからね」

 竜昇が避けた表現をあっさりと使い、静はあくまでも客観的な視点で躊躇なく及川愛菜を『足手まとい』とそう断言する。
 とは言え実際その通りなのだ。これは今の城司にも言えることだが、あの状態になってしまった以上、二人は現状戦力としてはほぼカウントできない。
 それどころか危険が迫った際自衛すらできないだろうことは予想に難くなく、さらに言えば危険が迫ってもその危険を認識することなく、危険のそのさなかにのこのこと歩いて行ってしまう可能性すらある始末である。
 それは言ってしまえばこの階層にいるだろうボスに操られての行動と言えるのだろうが、しかしどう言いつくろったところで考えうる危険性が消えてなくなるわけではない。

 ただ、この場合竜昇が彼女について明言したことには実のところ別の意味合いもあった。

「ああいや、それもそうなんだけどさ。誠司さんたちが慎重になっているかもって言うのは別に理由があって……。ほら、夕べ会議をしたとき、及川さんには重要なスキルを優先して回していたみたいなことを言っていただろ? だからもしかしたら、彼女が習得していた何かのスキルが使えなくなったことで、誠司さん達が必然的に慎重にならざるを得なくなったんじゃないか、と――」

 実のところ、竜昇はこの時なにがしかの革新や意図があってこんな話をしていた訳ではなかった。
 竜昇にしてみれば、思考が行き詰まったがゆえにただ何となく思いついたことを口にしていただけで、特段なんらかの意図や思惑があってその言葉を口にしていた訳ではない。

「……そう、でした。確かに言っていましたそんなことを……。――そうです、なんで言われたときに気にしなかったんでしょうそのことを――!!」

 だがそれでも、竜昇の言葉へのその反応を見れば、静が自身の言葉によって何かに気付いたのだということだけは容易に理解できた。
 そして静が何かに気付いたというのなら、今竜昇がするべきは彼女の思考の邪魔をせず、彼女が答えにたどり着けるようサポートしてやることだけだ。

「そうです、なにを習得していたかはこの場合重要じゃない。問題なのはそれを習得したのが|なぜ及川さん(・・・・・・)|だったのか(・・・・・)――。
 竜昇さんッ、すぐに詩織さんのところに行きましょう。早急にあの方に聞かなければいけないことができました」

「――わかった。けど一応隊列は乱さないで。場所は入浴エリアだけど、わかる?」

「はい。昨晩のうちに地図は頭の中に叩き込んでありますから」

 静が何に思い至ったのかは気になったが、しかし竜昇はそれについて特に問い掛けることもなく、彼女の思考に必要なものを迅速に用意するべく最低限のやり取りだけをして走り出す。
 幸い、先を走る静は後ろから特に道を指示しなくても迷わず入浴エリアへとたどり着いた。
 どうやら地図は頭の中に入っているという彼女の言葉はまさしくその通りであったらしい。

 ウォーターパークの一部故に、水着のままで入る入浴エリアへと飛び込んですぐ、静は目的の人物を探し当てて声をかける。

「詩織さんッ!!」

「うぇッ!? 静さん――と、竜昇君ッ!?」

 二人がいたのは、数ある入浴スペースの中でも一人用のジャグジーがいくつも並んでいるエリアだった。
 どうやら二人で湯船につかり、疲れをいやしていたらしい。
 件の魔力の影響なのか城司の表情はどう見ても緩み切っていたが、詩織の方は流石にそこまで油断していなかったらしく、彼女は入浴しつつもすぐ手の届くところに彼女の武器である【青龍の喉笛】を立てかけて、足にも魔法効果を持ったグラディエーターサンダル――【天舞足】を履いたまま風呂に入っていた。
とは言え一方で、入浴するにあたって流石にこちらは脱いだらしく、今朝がたまで水着の上に着て頑なに脱ごうとしなかったパーカーは少し離れた濡れない場所に折り畳んでおかれている。

 そして、そんな状態だったからだろう。詩織は静と、そして竜昇が浴場エリアに飛び込んで来るのを目にすると、慌てて湯船を飛び出して、その両腕で水着の胸元を隠して焦り出した。

「う、わ、ちょ、ちょっと待って。今はッ、その、ダメっ!!」

 慌てて畳んでおいてあったパーカーに飛びつき、急いでそれを着るべく腕を袖に通そうとするが、しかし焦っている故なのか、あるいは濡れたままの体で着用しようとしたせいなのか、詩織はどうにももたついてなかなか上着を着られない。

 そして、そんな様子の詩織に気を使えるほど、今の静には心の余裕がなかったらしい。
 上着を着ようと悪戦苦闘する詩織の元へいつものポーカーフェイスのまま詰め寄ると、ガッシリとその両肩を掴んで詩織の体を揺さぶり始めた。

「すいません詩織さん、そんなことはどうでもいいので教えてください。大事なことなのです、早急にッ!!」

「うぉッ!?」

 がくがくと詩織の上体が揺さぶられ、それによって二人の少女の真ん中で二つのものが揺れる、跳ねる、踊るッ。
 これは不味いと理性が叫んでいるのにどう頑張っても視線を逸らせない。
 昨日見た時も詩織は着やせするタイプだったのかとは思っていたが、実際にここまで薄着になったその姿を見れば予想以上だった。彼女にとってはあのパーカーでもなお拘束衣と同義だったのかと、悲しき男の性に支配された理性がそんな余計な分析を叩きだし、当の詩織の顔色もこの場が浴場であることとは無関係にどんどん真っ赤になって、そうして場の空気が酷く弛緩したものとなりかけたその瞬間――。

「教えてください詩織さん、もしかして及川さんは――」

 この場で唯一、元凶でありながら真剣(シリアス)さを保っていた静が、決して聞き逃せない一つの質問を投げかけた。

「――え、なん、で、そのこと……」

 直前まで顔色を真っ赤にし、涙目になっていた詩織の表情が劇的に変わる。
 そして返答としては、その反応だけで静には十分だった。

 あっさりと詩織の体をその両腕から解放し、二・三歩後退りながら天井を見上げて、静は感嘆の吐息を零す。

「ああ、なんてことでしょう。こんなに簡単な……、いえ、こんなにも|そのまま(・・・・)の答えだったなんて……」

「静、今聞いたことって、まさか――」

 思わず投げかけた問いかけに、静は表情をいつものポーカーフェイスへと戻すと、竜昇と詩織に順番に視線をやって一度だけ頷き、決定的な言葉を口にする。

「ええ。少しですけどわかってきました。なぜ朝方の魔力で私達には症状が現れず、あのお二方だけが精神に変調をきたしてしまったのかというその理由が……。そしてその理由の根本にある、私たちと城司さん達との決定的な違いが……!!」


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