紅蓮は急ぎ足で自室に戻ってきた。そして真っ先にテレビをつける。
もう試合は中盤から後半へ行くところだった。どちらも同じぐらいの
ダメージだ。序盤はやはり天草輝也と天羽悠の競り合いだったがやはり
パワーがある輝也が一歩リードした試合だったようだ。
輝也は顔を上げゆっくり深呼吸する。スタミナでは負けるが他で負ける
わけには行くまいと自身の体に鞭を打ち立ち上がる。悠の脳裏にはさっきの
会話が残っていた。
「スタミナにはまだ余裕があるでしょ。全部使い切るつもりで挑まないとね
体格もパワーも負けてるし持久戦で勝つしかない」
「そうだな」
強い衝撃を受けて悠の体がロープに倒れかかる。不味いと思ってガードをする前に顔面に輝也のパンチがめり込む。膝が落ちかけるも気力で耐える。
それでも相手の攻撃は止まない。防御を上に上げた瞬間、輝也は途中で
軌道を変えて威力はそのままパンチをボディに打ち付けてきた。ロープが
何度も動く。横目で見ると耀が不安そうに見つめていた。半ば無理矢理
セコンドを頼んだ以上、喜ばせたいという思いが強くなる。悠は一歩前に出て
ロープ際から抜け出しジャブで距離を取る。
「ブフッ!?」
右頬を輝也のフックが打ち抜いて悠の体が倒れる。四つん這いからどうにか
立ち上がった。輝也の荒い息が聞こえた。二人のスタミナが消えかけた時
二人は打ち合いになる。互いのパンチが互いの頬を抉った。真っ先に立ち
直ったのは悠だ。今だとばかりに彼は最後のアッパーを仕掛けた。顎から
打ち抜かれた輝也が後ろに倒れた。…8、9、、、10と同時にゴングが鳴り
試合が終わる。ゆっくり立ち上がった輝也の左目は腫れあがっていた。悠の
右目も晴れている。
「悠!!」
振り向くと嬉しそうに手を振る耀がいた。輝也は悠の背中を軽く押す。
「行って来いよ悠」
「ッ!おぅ、ありがとな輝也」
グローブを早々に投げ捨て耀を抱き上げる。新しいチャンピオンの誕生だ。