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夏です。
暑いです。コーリャンが伸びざかりです。
匪賊さんは、書き入れ時ですね。
最近は列車のほうが危険なので、もっぱらトラックで移動してます。
見た目は超オンボロですが、中身は1200ccのエンジンを積んでます。
ルパンⅢ世のフィアットも、そんな感じでしたかね。
馬賊からなら、じゅうぶんこれで逃げ切れます。
防弾仕様も、ぬかりなく。
8月といえば、日本陸軍恒例の、人事異動。
閣下は仙台留任。師団長はナルヒコ王から秦シンジってのに替わります。皇道派の巨頭のひとりです。
また面白いお手紙が読めるかな。
関東軍司令官は、菱刈タカシ大将から南ジロウ大将へ。
南次郎。満洲事変勃発時、若槻内閣で陸相してた人でした。記憶にございません。
チーム宇垣の一人です。宇垣かあ。
宇垣さんといえば日特で戦車つくってた時に大臣やってた人で、あの頃社長がよく接待してました。
当時は私もガキでしたから。ほーエラい人なんですねってしか思ってなかったけど。
そもそも会ったことないし。
社長の鬱憤を黙って聞いてました。
今も、大して興味のある対象ではないです。
ないですけども、こいつの名前出るたびにイラッとする。
宇垣はいま、朝鮮総督です。
満洲事変の時も、タネさんの、その上の林司令官の、さらにその上に、立場上、いる人でした。
特になにもしなかった。
止めようとしなかっただけ、我々にはありがたかったですけれども、まったく存在感すら見えなかった。
お前の仕事ってのは一体何なのかと。
ただボーッと、なりゆきにまかせて突っ立ってただけ。風見鶏ですらない。
宇垣ってそんなヤツ。これが私の総括です。
ポリシーがゼロ。
若槻幣原よりタチ悪いかもしれない。だって終わったあとでは「鮮軍も働いたんだぞ」って自慢ばっかりしてますもの。
あとは「満洲国のここが未熟だね」とか、したり顔で批評をネチネチ。
斎藤内閣は収賄だか何だかで潰れたんですけど、やはり誰もなりたがらない総理の椅子取らせ合戦のさなか、宇垣は朝鮮から遊びに来ては、やたらと新聞ラジオのインタビュー受けまくって、アナタコソ次期総理ニフサワシイ、イヤイヤ私ナンテ、とミエミエの猿芝居。
全部コピーかと思うくらい同じものばかり読みました。
そこまでしといて岡田啓介に首相の座を取られたってのが宇垣です。
ね。イラつくでしょ。
政策の話をしろよ。何をしなくちゃいけないのかを言えよ。
宇垣には、それが全く無いんでね。
殺しがいもねえ野郎です。
たとえばコイツ、ピットマン法を説明できるのか?
満洲が今なにをすべきか言えるのか?自分だったらできるのか?
そう考えただけで、うちにいなくてよかったと思うわけですよ。
ピットマン法。
6月にアメリカで採決された、銀相場の自由化政策。とんでもねえ悪法です。
いま世界の大半は、金本位制で経済のモノサシをつくってますが、中国と満洲国は銀を基準にしてるんですね。
もともと中国文化が金より銀を尊んでたので、今に至るも続いてます。満洲国が通貨を統一する際も、「これを機に金本位制へ移行するべきだ」という議論が、とくに日本との連帯を重要視する勢力から強硬に主張されていたらしいんですね。そりゃもっともです。
これに反対したのが、高橋是清さん。当時の大蔵大臣。
私も、金融の勉強するようになってから、是清さんがどれだけとんでもない人なのかと数々のエピソードを知るにいたり、二生分ビックリして、すっかり是清ファンになっちゃったんですけど、その話もいずれ。
満洲はそれ以前から、奉天票や現大洋票はじめ、それこそ地方自治体が各自バラバラにお札をつくって20種以上もデタラメに流通してたんです。
でも共通のモノサシとしてはずっと銀だった。
これをいきなり金で建てなおすと、既存の産業がすべて崩壊してしまう。
日本にとってはそれでも構わないだろうが、独立国としての成長は完全に期待できなくなる。
満鉄さんだって子会社相当数潰れますぞ、と最終的に銀で押し通したそうです。是清さんが。
ギガヤバス。マジパネエ。
中国由来のものは何でも滅ぼすべしと息巻く関東軍をねじ伏せたわけですから。交渉術、説得力も破格のレベル。
もうご高齢で、本人は田中義一の時代から完全隠居を望んでるんですが、金融危機が起きるたびに駆り出されるっていう、そんな是清さんレジェンドでした。
話を戻しますが、ピットマン法。
アメリカの企業が、競って銀を買い始めました。
銀の価格は吊り上がります。中国、満洲から、多くの銀が売られます。
今月に入って、かなり情況が深刻化。私も肌で感じてます。
お札の価値だけが上がるから、今までと同じ労働量だと、もらえる金額が減るんですよ。
生産量を増やせない人は単なる収入減です。ひたすら減っていく貯蓄に身構えなければなりません。
かといって今、生産量を増やしても割に合いません。結局、銀を持ってたから売れる者と、輸入業者しか得をしないのです。この国が輸入するといったら第一には兵器ですね。
その何千倍もいる生産者は、ただの餌食です。
モノサシ自体も狂うので、今後もっとハチャメチャになるでしょう。
いつまで身構えていればいい?
政府が、銀の流出に制限をかけるなどの金融政策を適切にとるまでです。ひとまず。
船が浸水しはじめてるなら、まずその穴をふさぐ。それが、政府の使命です。
日本では、ピットマン法の記事、経済紙でしか扱われてません。まるでヒトゴト。朝鮮でも同じです。
南京の国民政府は満洲国よりもっと大混乱ですよ。
これでまた共産党が勢いを盛り返すのかな?
そんな行方も、気にしてます。
荒野を突っ走りながら、考えているのさ。