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1939年8月23日。
ソ連と、ドイツが、不戦条約を結びました。
英米紙ですら、予想外だったようです。世界情勢が、ガラリと変わりました。
私も、うろ覚えで知ってはいましたけど、いざその瞬間を迎えて、思考を整理するのに苦労してます。
首相と大統領を合体させ、総統という最強権力を手にしたアドルフ・ヒトラーが率いるドイツ帝国は、圧倒的軍事力を背景にラインラント非武装地帯、オーストリア、チェコスロヴァキアを併合し、ドイツ色に染めていきます。
次に狙われるのは、広大な沃野を持つポーランド。
今までドイツの経済振興を後押ししていた英仏も、さすがにこれ以上の膨張は阻止せねばと、牽制する構えを見せ始めます。
やっとですよ、やっと。
特にフランスは、ドイツ・イタリア・スペインという枢軸軍事同盟国家に三方を囲まれてますから、これ以上ドイツの脅威が大きくなることには切実に反対です。
反対はするんですが、フランス人は元来まとまって何かをすることが苦手な国民性なので、現実的に軍事力でドイツへ睨みをきかせられるとしたら、英ソが頼り。
その一翼であるソ連が、ドイツと手を結んだわけです。
これまで反共を国家再建のための最重要課題の一つに掲げていたナチス党と、ですよ。
それはもう、世界中が、驚いているわけです。
西安事件のような一幕でもあったんでしょうか。ともあれ、これで来月、ポーランドがドイツに電撃戦で蹂躙される布石は打たれました。
ソ連は、ドイツを止めません。
ソ連にとって反対側、極東方面では、なんとびっくりまだ日本軍が戦っています。
橋を架け、爆破してから、はや2ヶ月。
新聞記事にはなりませんが、サイダーの大量発注は続いてますし、実はここ17号基地にいると、戦局もある程度わかります。
須見さん、さすがにもう生きておられないだろうなあ。
それはともかく。
ドイツとの戦争が当面無いとわかれば、ソ連は西部方面の軍を、シベ鉄で東へ送りこむことができるでしょう。
日本は最後の一兵まであきらめないつもりなのか。
そうですよ。その通り。
あいつら逃げることは恥だと教えこまれてて本気で最後の一兵まで戦いますから。
トドメをさしてやってください、ソ連さん。
私は、充分稼いだんで、もう結構です。
私がハルビンへ戻ってきたのと入れ違いで、東郷とスタッフたちが現地へ向かったんです。
戦線はホルステン河流域まで後退してましたが、日本軍、モグラのように地中へこもってソ連の戦車としぶとく戦い続けていたらしい。
東郷たちは、我々が生命線としていたハルハ河には赤痢菌がウヨウヨしてるから飲まないようにと進言し、給水と医療態勢を指導して戻ってきて、それ以降本格的に荒地で持久戦を維持するための研究と専門部隊創設の仕事に奮闘しています。
そっちからの受注も増えて今も忙しいんですけどね。
これじゃ、ますます、終わりそうにないじゃないか。