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リヒャルト・ゾルゲ氏。
ドイツ人。ナチス党員。
実は、共産党員でソ連のスパイ。
近衛内閣の側近まで混じった大規模諜報組織の中心人物。
膨大な情報を暗号電信によりモスクワへ送り続けていた。
昨年10月、逮捕。
5月16日。司法省がようやく公表。
平井さん。情況どうなってますか?
「拷問は、されていない。断言する。禁煙を強いられているのが非常につらいようだが。食事も、一般の服役囚と同様のものが与えられている。各国語で交わされている諜報団全員の尋問内容を照合しながらなので、裁判開始も、まだまだ、先になる見込みだ」
引き続き、お願いします。差し入れは、送り続けます。
事件発表による、市井の反応はどうですか?
「情報統制が一層きびしくなった。誰の隣人にも、アカがいるぞと。容易に口を開くことすらはばかられる。私への連絡も、今後は手紙のみにしてくれ。この通信、暗号化と複合化に手間がかかりすぎる。長時間電気を使ってるだけでも疑いを招きかねない」
わかりました。おやすみなさい。
拘置所内の方が、却って安全かな。
空襲は、これからも、増えていくだろうし。脱出させるなら、確実でなければならない。
平井氏がもう少し、協力的であってくれたらなあ。
プラウダは、記事にしてません。するわけないか。
ツァイトゥンク紙では、いつだったか、「日本では西洋人ジャーナリストの生命が危うい」という記事の中に、名前がありました。
ゾルゲ氏逮捕直後、日本警察へ猛抗議してくれてた駐日ドイツ大使が、今は免職となって、北京に暮らしてるらしい。
その人物に会えば、逮捕前のシュトラウスがどんな人だったのか、みたいな話も聞けるでしょうが、リスクの方が高いので接触しません。
ああ。戦時中だ。
まったくもって、戦時中だよ。
日本は、先月の本土空襲への制裁を理由に、近々、威信をかけた大攻勢をアメリカに対して計画中ですってよ。
これも、各方面から噂となって伝わってきています。
いいのか。こんなダダ漏れで。
南雲の動きさえ監視していれば、そこが目標だとわかっちゃうけどね。
ネタバレをひとつ。
戦艦大和、すでに就役しています。
人類史上最強にして最後の、巨大戦艦。
諸元は、記憶してません。
この世界でも、戦後まで一般の人は知りません。
日本政府は、この大和の存在さえ知らしめれば、米国のみならず世界の総てをひざまづかせられると、ありったけの期待だけをかけ、終戦間際まで後方で温存し続けます。
けっきょく大和は一度も活躍の場を与えられないまま、ジリ貧のどんづまりになってから、米航空隊の猛爆にさらされ、一方的にやられちゃって、沈みます。
戦後、ヤマトは、その正体が知れ渡るとともに、夢と希望の象徴となって、アニメやゲームの人気者になりますが、同時に日本人の永遠の愚かさを象徴する存在とも言えるのです。
戦争というものを、まるでわかってないんだねと。
アメリカは、英仏がドイツに宣戦布告した直後から、艦載機を100機収容できる巨大空母エセックス級を計画し、大戦中に完成させ、太平洋へも送り出しました。
まったくもって、かなうわけないと、思いませんか。
そもそもの、考え方が。
ひざまづくなら、今のうちだよ。
早い方が、傷も軽いよ。