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No.32711の一覧
[0] 機動戦士ガンダム0086 StarDust Cradle ‐ Ver.arcadia ‐ 連載終了[廣瀬 雀吉](2023/07/03 19:06)
[1] Prologue[廣瀬 雀吉](2012/04/19 18:00)
[2] Brocade[廣瀬 雀吉](2012/04/19 18:01)
[3] Ephemera[廣瀬 雀吉](2012/05/06 06:23)
[4] Truth[廣瀬 雀吉](2012/05/09 14:24)
[5] Oakly[廣瀬 雀吉](2012/05/12 02:50)
[6] The Magnificent Seven[廣瀬 雀吉](2012/05/26 18:02)
[7] Unless a kernel of wheat is planted in the soil [廣瀬 雀吉](2012/06/09 07:02)
[8] Artificial or not[廣瀬 雀吉](2012/06/20 19:13)
[9] Astarte & Warlock[廣瀬 雀吉](2012/08/02 20:47)
[10] Reflection[廣瀬 雀吉](2012/08/04 16:39)
[11] Mother Goose[廣瀬 雀吉](2012/09/07 22:53)
[12] Torukia[廣瀬 雀吉](2012/10/06 21:31)
[13] Disk[廣瀬 雀吉](2012/11/15 19:30)
[14] Scars[廣瀬 雀吉](2012/11/15 19:32)
[15] Disclosure[廣瀬 雀吉](2012/11/24 23:08)
[16] Missing[廣瀬 雀吉](2013/01/27 11:57)
[17] Missing - linkⅠ[廣瀬 雀吉](2013/01/28 18:05)
[18] Missing - linkⅡ[廣瀬 雀吉](2013/02/20 23:50)
[19] Missing - linkⅢ[廣瀬 雀吉](2013/03/21 22:43)
[20] Realize[廣瀬 雀吉](2013/04/18 23:38)
[21] Missing you[廣瀬 雀吉](2013/05/03 00:34)
[22] The Stranger[廣瀬 雀吉](2013/05/18 18:21)
[23] Salinas[廣瀬 雀吉](2013/06/05 20:31)
[24] Nemesis[廣瀬 雀吉](2013/06/22 23:34)
[25] Expose[廣瀬 雀吉](2013/08/05 13:34)
[26] No way[廣瀬 雀吉](2013/08/25 23:16)
[27] Prodrome[廣瀬 雀吉](2013/10/24 22:37)
[28] friends[廣瀬 雀吉](2014/03/10 20:57)
[29] Versus[廣瀬 雀吉](2014/11/13 19:01)
[30] keep on, keepin' on[廣瀬 雀吉](2015/02/05 01:50)
[31] PAN PAN PAN[廣瀬 雀吉](2015/02/05 01:25)
[32] On your mark[廣瀬 雀吉](2015/08/11 22:03)
[33] Laplace's demon[廣瀬 雀吉](2016/01/25 05:38)
[34] Welcome[廣瀬 雀吉](2020/08/31 05:56)
[35] To the nightmare[廣瀬 雀吉](2020/09/15 20:32)
[36] Vigilante[廣瀬 雀吉](2020/09/27 20:09)
[37] Breakthrough[廣瀬 雀吉](2020/10/04 19:20)
[38] yes[廣瀬 雀吉](2020/10/17 22:19)
[39] Strength[廣瀬 雀吉](2020/10/22 19:16)
[40] Awakening[廣瀬 雀吉](2020/11/04 19:29)
[41] Encounter[廣瀬 雀吉](2020/11/28 19:43)
[42] Period[廣瀬 雀吉](2020/12/23 06:01)
[43] Clue[廣瀬 雀吉](2021/01/07 21:17)
[44] Boy meets Girl[廣瀬 雀吉](2021/02/01 16:24)
[45] get the regret over[廣瀬 雀吉](2021/02/22 22:58)
[46] Distance[廣瀬 雀吉](2021/03/01 21:24)
[47] ZERO GRAVITY[廣瀬 雀吉](2021/04/17 18:03)
[48] Lynx[廣瀬 雀吉](2021/05/04 20:07)
[49] Determination[廣瀬 雀吉](2021/06/16 05:54)
[50] Answer[廣瀬 雀吉](2021/06/30 21:35)
[51] Assemble[廣瀬 雀吉](2021/07/23 10:48)
[52] Nightglow[廣瀬 雀吉](2021/09/14 07:04)
[53] Moon Halo[廣瀬 雀吉](2021/10/08 21:52)
[54] Dance little Baby[廣瀬 雀吉](2022/02/15 17:07)
[55] Godspeed[廣瀬 雀吉](2022/04/16 21:09)
[56] Game Changers[廣瀬 雀吉](2022/06/19 23:44)
[57] Pay back[廣瀬 雀吉](2022/08/25 20:06)
[58] Trigger[廣瀬 雀吉](2022/10/07 00:09)
[59] fallin' down[廣瀬 雀吉](2022/10/25 23:39)
[60] last resort[廣瀬 雀吉](2022/11/11 00:02)
[61] a minute[廣瀬 雀吉](2023/01/16 00:00)
[62] one shot one kill[廣瀬 雀吉](2023/01/22 00:44)
[63] Reviver[廣瀬 雀吉](2023/02/18 12:57)
[64] Crushers[廣瀬 雀吉](2023/03/31 22:11)
[65] This is what I can do[廣瀬 雀吉](2023/05/01 16:09)
[66] Ark Song[廣瀬 雀吉](2023/05/14 21:53)
[67] Men of Destiny[廣瀬 雀吉](2023/06/11 01:10)
[68] Calling to the night[廣瀬 雀吉](2023/06/18 01:03)
[69] Broken Night[廣瀬 雀吉](2023/06/30 01:40)
[70] intermission[廣瀬 雀吉](2023/07/03 19:04)
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[32711] Breakthrough
Name: 廣瀬 雀吉◆b894648c ID:6649b3b3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2020/10/04 19:20
「 …… ずいぶん近いな」漏れたつぶやきが聞こえるほど近くに。
 早鐘のように打つ心臓の鼓動が周囲にまで漏れているんじゃないかというほど激しく大きい、全身を襲う震えが酷すぎて何も考えられない。
 ―― たすけて、だれか ―― 
 振り絞るような心の叫びだけが他の犠牲者と同じようにニナの全身を駆け巡り思わず外まで零れそうになる、しかし心臓を握りつぶす死という感覚が声すら漏らすことを許さない。時間の流れさえもがおろそかになった空間で何もすることがないまま、ただその瞬間を待つだけの小さな存在。もうすぐ消えてしまうだろう自分の命。
 なんて後悔の多い生き方だったのだろう、後悔をしないつもりで、誰かの役に立ちたくて選んだ生き方だったのにどこで間違ってしまったのか。覚悟を決めたつもりで見栄を張って、でも全然そんな事はなくて ―― 
 ―― くやしいっ! もう一度チャンスがあるなら ――

 足音がニナのすぐそばで止まる。ああ、もうおしまいだ。

 極限にまで高まった緊張で全部の感覚が薄れゆく中、彼女の耳だけが情報を送り込んでいる。角を回りこんでほんの二メートル後ろで止まった兵士はそのまま喉に手を当てて誰かと会話を始めた。「 …… は、はい。モビルスーツがこちらに?今迎撃中? 」
 
 流れ込んでくる小さな情報が死を受け入れようとしたニナを揺さぶった。怯えきったその顔は体の芯から湧き上がる何かで心ごとねじ伏せられて歪んだ景色をしっかりと見据える。早鐘のように叩き続ける鼓動はまだおさまらない、でもこんなものが人の耳に届くはずがないという事実は認識できる。
 ラップトップをしっかりと握りしめ、へたり込んだ自分の足をゆっくりと立てて今にも飛びかからんとする猫のように身構えたニナ。手に、足に力が戻っている。光を取り戻した空色の瞳がキッと目の前の廊下の角を睨みつけ、溜めた力をもうすぐ角から現れるであろう兵士にぶつけるために奥歯をギュッと噛みしめた。見えた瞬間に体当たりをカマして相手を怯ませてからすぐ先にあるシェルターへと駆け込む、あれはそのまま避難通路になっているから出口がある ―― そこはハンガーから二棟分手前の建物の一階だったはず。
 しっかりしなさい、ニナ・パープルトン! まだ終わってない、まだあきらめちゃいけない。
 私の仲間があそこで敵と戦っている限り、私がここであきらめちゃいけない。モビルスーツが出るというのならそこに私がいなくてどうする!?

                    *                    *                       *

「 “ 軍曹、アンドレアっ! 伍長をとめろっ! ” 」アデリアが動き出すのとバスケスが叫んだのはほぼ同時だった。擱坐寸前のゲルググに向かってハンガーから飛び出したアデリアのザクは外へと一歩を踏み出したところでマークスのザクに手を掴まれ、アンドレアのゲルググに肩を持たれてハンガーへと引き戻される、そして次の瞬間彼女のいた空間を高周波が駆け抜けてハンガーの向こうへと着弾して派手な火花と音を周囲へとばらまいた。
「だめだアデリア、ここから出たら狙われるっ! 」
「でも兵曹長がっ! このままじゃあ ―― 」
「二人ともちょっとそこあけてっ! 」もみ合うアデリアとマークスの間に割って入ったマルコが立て続けに二個のグレネードをバスケスのところに放り投げる。空中で発火して地面に転がったそれはたちまち猛烈な白煙を噴き出してバスケスの周囲を覆い隠す。「兵曹長っ! 20秒だ、なんとかそこから抜け出して ―― 」
 しかしマルコが言い終わらぬうちに次の砲撃、立ち込める煙幕の真っただ中に突っ込んだ弾頭は鈍い金属音だけを残して轟音を上げた。「 “ 左脚部被弾っ、被害レポ30パー突破、こいつぁ ――  ” 」
「赤外線暗視照準っ、くそっ! 」マークスが煙を睨みつけて言った。「兵曹長っ! もうムリだ、推進剤に点火してその場を離れろっ! 機外へ脱出すればなんとかなるっ! 」
「 “ 敵も同じことを考えてるだろうぜ、他の連中をおびき出す餌に逃げ出されちゃあ ―― ” 」
 次弾襲来。煙の中に突入したその弾は今度は大きな音を上げて爆発した。「バスケス、おいっ! バスケスっ! 」必死に呼びかけるキースだがバスケスの声はヘッドセットから飛び込んでくる轟音で埋め尽くされる、やがてしばらくの間をおいて聞こえてきた彼の声は途切れ途切れになっていた。
「 “ …… へっ、バックパック、とジェネレーターが損傷 ―― 畜生、破片が中を、飛びまわ、りやがった。いよいよだな ” 」
「兵曹長っ! ダメぇっ! 」冷静さを失ったアデリアが叫ぶ。「いまからあたしがなんとかするからっ! 」
「 “ なんとか、するっつっても、なあ。機体は死に体だしうつ伏せだからハッチも開かねえ、まあ、悔しいが、おれ、は詰んでる。 ―― こっからはマルコ、お前の、得意分野、だ ” 」ゴホッとせき込みながらバスケスは言った。
「 “ …… 陸戦、隊はもうあてには、できねえ。 この不利な、状況での最善、手をみつけろ。 …… それができるの、は今はお前だけだ ” 」

「 …… な、なんで俺 ―― 」託されたマルコは狼狽した。「俺なんかが隊長や軍曹を差し置いてそんな事できるわけない」
「 “ できるわけない、だって? …… 知ってンぞ、元参謀本部、の麒麟児。用兵の天才。お前がいたら、こまる、ってうとまれてここに送られたんだろうが。 …… もう逃げ隠れは無理、だから今、使え ” 」
「使えって、なにをっ!?」
「 “ 本当の、おまえの力 …… いま、使わなくって、いつ使う? おまえは、この、ままドク以外の奴に、負けてもいいの、か? ” 」

 有象無象の輩が跳梁跋扈するジャブローの作戦本部で若くしてその才能を余すところなく発揮したマルコ・ダヴー。チェンバロ作戦から参加した彼は第三艦隊を囮にしてソーラレイ照射の時間を稼ぐという荒技をそこに組み込み、星一号ではただ一人Nフィールドの隙をいち早く看破した男であった。しかしあまりにも人間味のない用兵と勝ちにこだわる姿勢から周囲や上官からつとにうとまれて、あっという間に島流し同然の僻地へと左遷される。そしてたどり着いた先で彼は、初めて自分を負かす事のできる老人と出合ったのだ。何物にも代えられないその事実は先祖代々『不敗』と呼ばれた彼の価値観を変え、世界を変えた。
 バスケスの言葉に迷ったのは硬く目を閉じた一瞬、再びそれを見開いた時には宿る光も表情も変化する。「 ―― 分かった、兵曹長。 …… 隊長、少し時間をください」

 赤外線暗視装置を使った高台からの攻撃、一撃目と二撃目の速さから敵の重砲は二連装砲、連邦のガンタンクタイプのジオンの新型。タンクを単独で置くわけがないからそこに観測と護衛兼用のモビルスーツが一機いる筈。
 では地上部隊は? モビルスーツと同じ方向には配置はされない。進行方向が同じだと足の遅い歩兵はモビルスーツの邪魔になる、南側の山からだとここまでの距離がありすぎて多分歩調は合わないだろう。それに管制塔砲撃前の妙な停電とその後の電力復旧は不自然すぎる ―― もしかしたら敵の地上部隊はもう敷地内にいるかも …… かもじゃない、すでに、か! 三発しか砲撃していないのはまず味方に対する援護を優先したに違いない、という事はこれからが牽制の本番。たとえ一機でも全力射撃をされれば状況は混乱して時間と共にこっちが不利になる。
 まず敵モビルスーツ隊の兵数の予測。攻城戦の常識は古今兵数十倍、しかしここは平地で大きく開けているから三倍もあれば十分だろう。こっちは六機だから三倍で十八機配備 ―― ありえない。ならわざわざなんで夜戦なんてまだるっこしい方法を選ぶのか? その数があれば普通に今のキャリフォルニア本隊といい勝負になる、目標は別にここじゃなくてもいいはず。しかしあえてここを選んで攻めると言うなら兵数はタンクを省いて十機程度。
 そうか、だから重砲。ハンデを補うために長距離での精密支援はかなり有効。二機も食えればパワーバランスは一気に常識内に収まる。ということはそれさえ潰せば拮抗状態へと持ち込めるという事。
 敵の重砲がやはりこの戦いの鍵、どうするかでこの戦いの主導権が決まる。
 そして圧倒的不利なこちらに残された勝利条件もわずかながらに見えてくる。

「 …… この際陸戦隊は無視します」その口調の変わりように驚く五人。「モビルスーツと行動を共にする以上その兵科特性は本隊に隷属します。重砲が動いたという事はすでに彼らの作戦は発動しています、夜に紛れて動くと言うなら地上部隊はもう敷地内へ入りこんでいる。地上部隊を安全に行動させるのならモビルスーツにここから出て行ってもらっては困るんでしょう、だから兵曹長はやられた」
「じゃあ、向こうの建物は圧倒的にピンチじゃないかっ! 軍人だけじゃない、民間人もいるって言うのにっ! 」
「 “ …… まあ、マークスここは …… だま、ってマルコの、考えを聞こう ” 」
「 …… 続けてくれ」落ち着いた声で先を促すキースの声にはただならぬ気迫がある。「陸戦隊、いや居住棟を見捨ててもいい理由は? 」
「理由は二つ。一つは敵の砲撃が送電施設狙いだったという事。破壊される前に一時的に明かりがつきましたが軍の施設で深夜に煌々と灯るのはおかしい ―― 原因は分かりませんが少なくともその状況を嫌った敵がメインの送電施設を沈黙させる必要があった、つまり対峙した敵がいたという事です」
「それが陸戦隊だって? 」アデリアの質問にはバスケスが答えた。「 “ ありえる、な。奴らははみだし、モンだが嗅覚は、たしか、だ。それで一年、生き延びた連中、だからな ” 」
「それが二つ目の理由です。僕は彼らが集団戦で遅れをとるとは思えない、ましてこれは ―― 彼らには申し訳ないですが、純粋な撤退戦です。そのノウハウも技量も絶対に並々ならぬ物を持ち合わせている」
「 “ や、れやれ。誉められてるの、やら、けなされてるのやら。『不敗のダヴー』に言われると複雑、だな ” 」

「戦略としては脆弱ですがこの状況を変えるにはやはり敵重砲の攻略という事になります。マップナンバー004を、基地西側の地形図です」演習用スティックを引っ張り出して計器盤中央の情報モニターに映し出された地図をどことなく懐かしげに眺めるキース。「重砲はこの高台に位置していると。ここからなら打ち下ろしになるし射程も延ばしやすい、しかもオークリーの敷地内がほとんど見渡せる。ただこの場所は足場が小さく周囲は崩れやすいガレ場になっています。ですからこの付近に残りのモビルスーツが配置されている可能性は薄い」
「じゃあどこに? 」尋ねたアデリアのマップ上にある赤い点がマルコの操作でスッと左上へと流れて止まった。「多分このあたり。それに射界を確保するために鶴翼で4・50メートル間隔。この配置なら重砲の狙撃を邪魔せずに戦闘移動速度で敷地内に入り込める、しかもうまくすればこちらを包囲して十時射撃の真ん中に置くことも」
「聞けば聞くほど絶望的だな。 …… で、こっからの逆転満塁ホームランはあり得るのか? 」マルコの分析もだが敵の布陣をみて改めて寒気がはしるマークス。確かに、こいつらは、強い。
「逆転、は難しいですね。ただ引き分けドローの線ならばかすかに ―― 髪の毛一本ほどの細さとハッタリと奇跡こみですが」
 マルコの言葉に驚く面々、特に不安で声も出なかったアンドレアは受信メーターの針が振り切れんばかりの勢いで叫んだ。「ほ、本当かマルコっ! 本当に助かるかも知れないって!? 」
「もちろん。ただちょっと、死ぬほどがンばンなきゃいけないけどな …… では戦術の説明をします。マップナンバー001を、施設全景です」
 
 改めてみると異様な地形だ、とマルコは思う。コロニー落着の衝撃波が作ったものとはいえ敵の重砲が布陣する西側の丘や正門前に広がる起伏に富んだ平原は自然が作ったものとは思えない不自然さがある。ただ滑走路の向こう側に稜線を残す小高い山だけがここに以前から存在する、正しい景色だ。そしてこの山こそが逆転への生命線となる。
「はっきりと居場所が分かっている重砲、ここに照準を絞ります。推測の範囲ですが奴は部隊の最後尾に配置されてこちらの様子を窺っている、おまけに管制塔という目と耳を潰されたのでこちらも相手の目を潰します」
「それができれば苦労はないんだけど …… どうやって? 」
「隊長のスキルと対物ライフル、そして付属していた『バンパイア小型夜間』照準器。そして極めつけは盾の裏に装備してある『Raufossルーファス MK411』、焼夷弾内蔵の対装甲被覆榴弾です。六発だけですが一発でも当たれば普通のモビルスーツなら爆散する。この前ライフルと一緒に搬入された弾倉の中にそれが混じっていたそうです」
 マルコの指摘にキースは左手につけられた小さな盾の裏側を見た。薬莢に塗られた赤い二本線はその弾が他のとは違うものであるという事を内外に示すものだ、しかしそんな聞いた事のないような対物弾がどうしてここに?
「僕も参謀本部時代に噂でしか聞いたことがありませんが、なんでもIフィールド対策用に作られたものの一つです。実弾の中で最も威力が大きく、個人携行ができるほど小さい」
「試作品という事か」キースの言葉に小さくマルコはうなずいた。「これで南側の山の上から敵重砲を叩きます」
「南の山って …… 」絶句するアデリア、その理由は簡単だった。山まで行くには滑走路を横断しなければならない、つまりバスケスが通ろうとした同じ道を抜けなければたどり着けないのだ。「ちょっとマルコっ! あんた簡単に言うけどどうやってそこまでいくのよっ! 隊長一人でそんなデカブツ持って出たら敵のいい的じゃないっ!? 」
「隊長一人じゃない」今度は他人事のように黙って聞いていたアンドレアが驚く番だった。「南へは主力の三人で行ってもらいます」

「えっ  …… ちょ、ちょっと、おいマルコ」
「僕とアンドレアはここに立てこもって残りの敵を足止めします、その間に隊長は重砲を潰してその後に陣取ってもらう ―― 奴ほど射程はありませんが少なくともハンガー前までの範囲はカバーできる ―― 」
「ちょっと待てって! 簡単に話すすめンなよっ! 」アンドレアの抗議にマルコは話を止めた。「たった二人の素人がどうやって数のわかンない敵を足止めできンだよっ! いくら隊長だってあの山登ンの結構時間がかかんだろォ!? その間に敵が来ちまったら ―― 」
「くれば、だろ? でも奴らはまだ来ない、いや来れないんだ」ある種の確信を持ってマルコは言う。「もし敵が力押しでって言うんならとっくにここは乱戦の中心になっているはずだ、でも重砲以外のモビルスーツが姿を現さないのは攻城戦の常識的なパワーバランスが整っていないからだ。兵曹長がやられて ―― 」
「 “ まだ、死んで、ねえっつーの ” 」
「 ―― 失礼、ゲルググが一機行動不能状態でも奴らの攻撃の主役はいまだ重砲頼み。ここの地形ならば敵はこちらの三倍の兵力があれば攻略できるはずだ、しかし出てこないという事はこちらの残機数の三倍より敵の機数が少ないという事だ。という事は単純に十五機以下、いやもっと少ない。多分十機ぐらい」
「という事はあと二機ほど重砲が喰わないと残りは出てこないってことになるのか? 」マークスの声にマルコはうなずく。「確信はありませんがよほどの事がない限り、多分。『ハンガーに敵が五機いる』という認識が敵の足を止めているものと考えます。ですからその誤認状態を維持しつつ、主力にはここから出撃してもらう」

「ハンガーの出口に整備班にも手伝ってもらってありったけの機材でバリケードを築きます。もちろん全員で運搬を手伝ってここで残りが籠城しようとしているふりをして、その姿を敵に見せつけます。バリケード構築ののちに主力はハンガーと管制塔の建物を繋ぐ連絡通路のそばにある非常用の出入り口から建物の裏を通って飛行機の駐機場へと抜けます。そこからほぼアイドリングの状態で、ゆっくりと」
「ねえ、アイドリングだとほんとに這うようにしか歩けないって。そンなンでほんとに敵に見つからずに滑走路を渡れンの? 見つかったら終わりなんでしょう? 」アデリアが詰問するとマルコは言葉を止めた。いや、止めたというよりは口ごもったと言うほうが正しい。
「 “ …… お前が言いたい事は、なんと、なく分かった。要、は出撃の、際に敵の目を引き付ける、何かが必要、ってことだ ” 」バスケスの声は徐々に弱弱しくなって、せき込む回数も増えている。
 ―― もう、時間がない ――
 苦しげな表情を浮かべていたマルコはカッと目を見開き、前面モニターの隅にぼんやりと浮かぶゲルググの影に向かって言った。
「兵曹長、すいません。僕は …… あなたを助けられない」

『用兵の天才』と謳われたマルコの読みは容赦がなかった。みんなはマルコがバスケスを救出すること込みの前提で作戦を立てているのだと思っていた、しかし彼の脳内の戦力の中にバスケスはいなかったのだ。「な、なんだよマルコ、何言って ―― 」
 何かの悪い冗談だと、そう思い込んだアンドレアの声が半笑いから始まる。「兵曹長、まだあそこにいるんだぞ? 生きてンだぞ? おまえがそんな有名人なら ―― 天才なら助けてやれンじゃねえのかよ! 今までさんざん世話になっていざとなったらそれかよっ! なんでそんな簡単に仲間を切り捨てられンだよ!? 」
「僕だって助けたいっ! でもどう考えても無理だったんだ! 僕とアンドレアは素人だ、敵を倒すための作戦になんか参加できない、今ある最大戦力ですごく小さな可能性を掴むためには ―― 隊長たちをここから無事に外に出てもらうためにはもう兵曹長に犠牲になってもらうしか、ないっ! 」
「ねえマルコ、本当に無理なの? なんならあたしとマークスが体を張ってもいい、なんとか兵曹長を助け出す事ってできない? 」アデリアの頼みにマークスが追いすがる。「敵はまだここにはやってこないんだろ? なら警戒しなきゃいけないのは敵の砲撃だけだ、敵の弾を避けるだけだったら兵曹長より俺のほうがうまくやれる。なぁマルコ、俺とアデリアが陽動をかける線でもう一ぺん考えてみてくれないか? 」
「そんなのもう最初に考えたっ! 考えたんですよっ! でも背負うリスクが大きすぎる、もしどちらかがやられてしまったらそれで僕たちも、この基地も全部おしまいだっ。敵に先手を取られた時点でもう勝ち目はない、だからせめて痛み分けのドローに持ち込むためには ―― 隊長と軍曹と伍長をどうしても無傷でここから出す以外に方法がないんだっ! 」
「もう、よせ」苦渋に満ちたキースの声、彼も本心はアデリアやマークスと同じ気持ちだったのだろう。しかし彼は誰かに代わってもらう立場ではない。「マルコ、ありがとう。どうやらお前の立てた作戦でしか生き残る望みはなさそうだ」
「 …… ぼくは、なんで」彼の声はいつの間にか涙まじりになっていた。「 …… いつもいつもこんなことしか …… できないんだ。ソロモンの時も第三艦隊にホワイトベースを組み込めばジオンは防御の弱い第二艦隊を全力で叩くにきまってる。囮に見せた第三艦隊を本当の主力部隊にして第二艦隊を被害担当にする ―― なんでぼくはそんな戦い方をいつも思いついてしまうんだ …… 」
「 “ 勝つ為なんだから、しょうがねえ ” 」

 涙でぐしゃぐしゃになったマルコの顔がバスケスの声でモニターへと向き直った。「バスケス ―― 」
「 “ お前とも、な、がい付き合い、だ。士官学校、入学、まえからの、な …… あン時の、レジスタンスが、ずいぶん立派に、なった ” 」ゴーレムハンター時代に肩を並べてジオンと戦った若き戦友。「 “ まさか、そんな有名になってるとは、ついぞや知らなかった、が。 ―― そうやって、いつまでも、うつむいてンじゃ、ねえ ” 」
「でもどんなに有名になったってっ! どんなに力があったってっ! 今の僕はあなたを助けることもできない、あの時僕を助けてくれたあなたをっ! もうあなたを殺して勝つことしか僕にはできないんだっ! 」
「 “ 俺ァ言ったぞ、最善手を、見つけろ、と。お前がそういうン、ならそれがそうなンだろ? じゃあ、しょうがねえ ” 」
「マルコ、バスケスの最期の仕事は? 」努めて冷静を装うキースだったがその手が白くなるまで力一杯に操縦桿を握りしめている。

「 …… 敵の砲撃で、疑問に思う事が一つ。なぜ敵は兵曹長の融合炉を狙わなかったのか」涙声だがしっかりとした口調でマルコが話し始めた。「もし融合炉が爆発すれば半径一キロの地域が焦土と化し、放出される中性子はその地域を13年間使用不能にします。僕が作戦参謀なら ―― 」
「その一撃で勝負を決める、って? 」アデリアの声に彼はうなずく。「勝つにはそれが一番手っ取り早い、普通なら。でも奴はそうせずにバスケスを餌に ―― して僕たちをおびき出そうとした」敵の非道な仕打ちにマルコの声が怒りで詰まる。「それだけの腕があるのに。なぜ? …… 隊長や軍曹がここを出た後、そこに僕たちの生き残る可能性があります」
 もうアンドレアの反論はない。命の恩人を助けられずに見捨てざるを得ない ―― そしてその他をどうにか生き残らせるための策を巡らすマルコにかける言葉がない、そしてそれは他の四人にしても同じだった。「バスケス、僕の合図と同時に融合炉を暴走させて。敵が赤外線暗視を使っているならその熱は必ず敵に探知される、奴らがその時どういう反応をするのかが見たい」
「 “お前にはもう、予想はついているん、だな? ” 」バスケスの声はさっきよりももっと弱く、途切れ始めている。「もし僕の予想が当たっていれば重砲は …… 必ずコックピットを狙います」

「敵の弾がコックピットを直撃すれば制御機能が停止して融合炉は即時停止しますが機体に残った推進剤はただの爆薬となります、バスケスの機体が爆発した時に発生する熱を目くらましにして隊長たちは一気に滑走路を横断してください。推進剤を使ってもその状況ならば敵は探知できないはずです」
「 …… それのどこが」ぽつりとアンドレアの声がした。「生き残る可能性、だよ? 」
「もし敵がここに押し寄せても彼らは絶対に融合炉への直撃は避ける、つまり僕たちは手足の一本がもげようともコックピットを直撃されないように、応戦 …… すればいい」
「 “ それで、こっちの勝ちというのは? ” 」バスケスの声にマルコの顔が再び変わる。ここにいた時の飄々とした笑顔でも、参謀本部で働いていた時の氷のような表情でもない。それはバスケスと ―― ゴーレムハンター達と縦横無尽に砂漠を駆け回って敵のモビルスーツを蹂躙していた時の、強い決意に満ちた顔。彼は顔を上げ、瞳に宿る強い光をモニターに横たわったままのゲルググに見せつけるように言った。
「夜明けです」




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