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No.32711の一覧
[0] 機動戦士ガンダム0086 StarDust Cradle ‐ Ver.arcadia ‐ 連載終了[廣瀬 雀吉](2023/07/03 19:06)
[1] Prologue[廣瀬 雀吉](2012/04/19 18:00)
[2] Brocade[廣瀬 雀吉](2012/04/19 18:01)
[3] Ephemera[廣瀬 雀吉](2012/05/06 06:23)
[4] Truth[廣瀬 雀吉](2012/05/09 14:24)
[5] Oakly[廣瀬 雀吉](2012/05/12 02:50)
[6] The Magnificent Seven[廣瀬 雀吉](2012/05/26 18:02)
[7] Unless a kernel of wheat is planted in the soil [廣瀬 雀吉](2012/06/09 07:02)
[8] Artificial or not[廣瀬 雀吉](2012/06/20 19:13)
[9] Astarte & Warlock[廣瀬 雀吉](2012/08/02 20:47)
[10] Reflection[廣瀬 雀吉](2012/08/04 16:39)
[11] Mother Goose[廣瀬 雀吉](2012/09/07 22:53)
[12] Torukia[廣瀬 雀吉](2012/10/06 21:31)
[13] Disk[廣瀬 雀吉](2012/11/15 19:30)
[14] Scars[廣瀬 雀吉](2012/11/15 19:32)
[15] Disclosure[廣瀬 雀吉](2012/11/24 23:08)
[16] Missing[廣瀬 雀吉](2013/01/27 11:57)
[17] Missing - linkⅠ[廣瀬 雀吉](2013/01/28 18:05)
[18] Missing - linkⅡ[廣瀬 雀吉](2013/02/20 23:50)
[19] Missing - linkⅢ[廣瀬 雀吉](2013/03/21 22:43)
[20] Realize[廣瀬 雀吉](2013/04/18 23:38)
[21] Missing you[廣瀬 雀吉](2013/05/03 00:34)
[22] The Stranger[廣瀬 雀吉](2013/05/18 18:21)
[23] Salinas[廣瀬 雀吉](2013/06/05 20:31)
[24] Nemesis[廣瀬 雀吉](2013/06/22 23:34)
[25] Expose[廣瀬 雀吉](2013/08/05 13:34)
[26] No way[廣瀬 雀吉](2013/08/25 23:16)
[27] Prodrome[廣瀬 雀吉](2013/10/24 22:37)
[28] friends[廣瀬 雀吉](2014/03/10 20:57)
[29] Versus[廣瀬 雀吉](2014/11/13 19:01)
[30] keep on, keepin' on[廣瀬 雀吉](2015/02/05 01:50)
[31] PAN PAN PAN[廣瀬 雀吉](2015/02/05 01:25)
[32] On your mark[廣瀬 雀吉](2015/08/11 22:03)
[33] Laplace's demon[廣瀬 雀吉](2016/01/25 05:38)
[34] Welcome[廣瀬 雀吉](2020/08/31 05:56)
[35] To the nightmare[廣瀬 雀吉](2020/09/15 20:32)
[36] Vigilante[廣瀬 雀吉](2020/09/27 20:09)
[37] Breakthrough[廣瀬 雀吉](2020/10/04 19:20)
[38] yes[廣瀬 雀吉](2020/10/17 22:19)
[39] Strength[廣瀬 雀吉](2020/10/22 19:16)
[40] Awakening[廣瀬 雀吉](2020/11/04 19:29)
[41] Encounter[廣瀬 雀吉](2020/11/28 19:43)
[42] Period[廣瀬 雀吉](2020/12/23 06:01)
[43] Clue[廣瀬 雀吉](2021/01/07 21:17)
[44] Boy meets Girl[廣瀬 雀吉](2021/02/01 16:24)
[45] get the regret over[廣瀬 雀吉](2021/02/22 22:58)
[46] Distance[廣瀬 雀吉](2021/03/01 21:24)
[47] ZERO GRAVITY[廣瀬 雀吉](2021/04/17 18:03)
[48] Lynx[廣瀬 雀吉](2021/05/04 20:07)
[49] Determination[廣瀬 雀吉](2021/06/16 05:54)
[50] Answer[廣瀬 雀吉](2021/06/30 21:35)
[51] Assemble[廣瀬 雀吉](2021/07/23 10:48)
[52] Nightglow[廣瀬 雀吉](2021/09/14 07:04)
[53] Moon Halo[廣瀬 雀吉](2021/10/08 21:52)
[54] Dance little Baby[廣瀬 雀吉](2022/02/15 17:07)
[55] Godspeed[廣瀬 雀吉](2022/04/16 21:09)
[56] Game Changers[廣瀬 雀吉](2022/06/19 23:44)
[57] Pay back[廣瀬 雀吉](2022/08/25 20:06)
[58] Trigger[廣瀬 雀吉](2022/10/07 00:09)
[59] fallin' down[廣瀬 雀吉](2022/10/25 23:39)
[60] last resort[廣瀬 雀吉](2022/11/11 00:02)
[61] a minute[廣瀬 雀吉](2023/01/16 00:00)
[62] one shot one kill[廣瀬 雀吉](2023/01/22 00:44)
[63] Reviver[廣瀬 雀吉](2023/02/18 12:57)
[64] Crushers[廣瀬 雀吉](2023/03/31 22:11)
[65] This is what I can do[廣瀬 雀吉](2023/05/01 16:09)
[66] Ark Song[廣瀬 雀吉](2023/05/14 21:53)
[67] Men of Destiny[廣瀬 雀吉](2023/06/11 01:10)
[68] Calling to the night[廣瀬 雀吉](2023/06/18 01:03)
[69] Broken Night[廣瀬 雀吉](2023/06/30 01:40)
[70] intermission[廣瀬 雀吉](2023/07/03 19:04)
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[32711] The Magnificent Seven
Name: 廣瀬 雀吉◆b894648c ID:6ac7193b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/26 18:02
 キースからの交信が終了した後もアデリアの目はコックピットの天井をぽかんと眺めたまま微動だにしない。小さく開いたままの愛らしい唇がふと何かに思い当たって動きだしたのは、スピーカーからマークスの大きな溜息が聞えたその瞬間だった。
「そう言えば、さあ。ちょっと気になった事があるんだけど、聞いていい? 」
「 ” ―― あ、ああ。 …… 何だ? ” 」
 質問に対して気まずそうに声を詰まらせるマークスの声を聞いて、アデリアの心の中に嫌な予感が広がった。賭けの胴元は一人だが、子は事情の分からない自分が含まれている様な隊長の含みをもう一度思い返しながらアデリアは尋ねた。
「マークスが勝ったらウラキ伍長とニナさんの別れた理由が聞けるとして ―― 負けた時ってどうなンの? 」
 話しながらアデリアはシートの下に手を差し込んだ。マジックテープで固定されたボトルを取り上げると親指でキャップを跳ね上げる。
「 ” …… 罰ゲーム” 」
「そんな事は分かってるわよ。あたしが聞きたいのはその内容、『ランニング』って隊長が言うんだからどうせ走ンなきゃなんないンでしょ? ―― 基地の外周を何周? 」
 設備としては最小限のものしか揃っていないオークリー基地だがその敷地面積は意外なほど広い。殆ど使われないメインの滑走路と誘導路、そして施設と居住区を合わせて縦2キロ、横1キロの外周は合わせて6キロの距離がある。アデリアは自分で持ち込んだライチ味のスポーツドリンクをごくりと飲み込みながら、頭の中でその様子を思い浮かべた。
「どうせ走るンなら午前中の涼しい内にしないとあっという間に気温が上がって干上がっちゃうじゃん、午後は非番になるって言ってもどうせ整備班のお小言聞かなきゃなンないんだから早めに終わらせなきゃ ―― 」
「 ”そ、そうだよな。早めに始めないとなかなか終わらないって言うか、昼飯までに帰って来れないって言うか ―― ” 」
「? 帰って来れない? なんで? 」

 猜疑心満々のアデリアの声を聞きながら意を決した様にヘルメットを取って膝の上へと置いたマークスの髪は、コックピットの僅かな光でもはっきりと分かるほど銀色に輝いている。濡れそぼったままの額に演習中とは違う類の汗を噴き出させながら、彼は左右で色の違う瞳を瞼でしっかりと覆い隠して突然目の前で柏手を打ってマイクの向こうの僚機に向かって大きな声を上げて頭を下げた。
「ごめん、アデリアっ! 」
「 ” ―― な、なによ突然。急に謝られてもあたしには何が何だか ―― ” 」
「お前を俺の賭けに巻きこんで本当に済まないと思ってる、しかしここは『夫唱婦随』を是とする分隊チームの理に則って是非とも俺と一緒に参加してくれ、頼むっ! 」
 動揺の余りに無茶苦茶な論理を展開するマークスはまるで神頼みをするかの様に更に大きく頭を垂れる。耳を傾けていたアデリアはその慌てっぷりに何事かと、疑いの声音をさらに大きくして尋ねた。
「 ” ―― なんか合コンの頭数を無理やり合わせようとする幹事みたくなってるわねぇ …… って言うかそれはそれでしょうがないから、とにかくその罰ゲームの内容を教えてよ ” 」
「 …… いいのか? 」
 アデリアの言葉にほっとしたマークスが思わず合わせた掌の内側で頭を上げた。縋る様な眼で真っ暗なモニターを見つめるマークスに向かって、促す様なアデリアの声が届く。
「 ” …… まあ、あたしも途中から乗っかっちゃったし。それにマークスが走ってる間にあたしだけボーッとしてるのもつまんないじゃん? しょうがないから一緒に走ってあげるわよ。 …… で? ” 」
 
 軽くなったボトルの蓋を閉じて、はあ、と溜息をつくアデリア。こうなったのもマークスの手綱を締められない自分に責任があるのだと自省して、共に罰ゲームを受ける覚悟を固めた。ボトルを元の場所へと収めようと体を屈めたアデリアの背中に、マークスの申し訳なさそうな声が届いた。
「 ”いや、最初は俺も隊長との賭けに何も知らないお前を巻き込むのはどうかと思ったんだよ。でも隊長が『どうせなら二人掛かりで掛かって来い、どうしても二人の事を聞きたいんだろ』って煽るモンだから俺もつい勢いに乗っちゃって、その ―― ” 」
「負けず嫌いのあんたらしいっちゃあ、らしいわね。それで? 」
「 ”隊長が俺のザクを使うって言うから ―― 二人掛かりでそれもゲルググだったら負ける訳が無いと思うだろ? だからつい俺も調子に乗って、もし負けたらお前も一緒に走らせますって口走っちゃって ―― ” 」
 ふむ、と。どうやら相手の方が一枚上手だったようだ。しかしこれ程相手の挑発に簡単に乗る様じゃどんなひよっ子セールスマンでも簡単にマークスに物を売りつける事が出来るに違いない、とアデリアはマークスにとっての自分の重要性を再確認する。
 ちょっと目を離すとこのザマじゃあ、やっぱりあたしがいずれは何とかしてやンないと。
「それはもう分かった。 ―― だから? 外周を何周走ればいいの? 」
 何とも言い訳がましくなって来るマークスの声に苛立ちながらアデリアが尋ねる。一瞬の沈黙が流れたコックピットの中に、マークスの小さな声が響いた。
「 ” …… いや、それが ―― ” 」

「 ―― 基地の周りじゃないんだ、アデリア。落ち着いて良く聞いてくれ。…… 基地から、ここまで、往復する事になった」
「 ”へえ” 」
 間の抜けたアデリアの声に思わずホッとするマークス。彼女の度胸はここで出会ってからコンビを組むマークスが一番よく知っている、男気溢れる彼女の度量は今回もその真価を発揮して黙って肚を決めたのかと思った。
 だがその思い込みもつかの間、アデリアの呟きが追いかける様にマークスのコックピット内に響いた。
「 ” …… うっそぉ” 」
 その後に続いた甲高い金属音は恐らくアデリアが手の中のボトルを床へと取り落としたのだろう、音で動揺を表すアデリアに向かってマークスは恐る恐る尋ねてみた。
「お、おい、アデリア、大丈夫か? 何、基地からここまでって言っても二十キロほどだし、それに真っ直ぐ一本道だから迷う心配もない。陸上選手だってもっと長い距離を走る事もあるんだ、パイロットの俺達が出来ない距離じゃ ―― 」
「 ”何言ってンの、あんたはっ!? ” 」

「基地からここまで往復って事はフルマラソンじゃないのっ! 大体マラソンは五キロごとに水分を補給しながら走るのよ、こんな乾燥した場所で水分補給も無しにどうやって走りきれって言うの!? 」
 さっきまでの覚悟も忘れて猛烈な剣幕で捲し立てるアデリアの声で大勢は決した。嵐が過ぎ去るのを待とうと鳴りを潜めるマークスに向かってアデリアは尚も詰め寄った。
「それにっ! こんなカンカン照りの日にタンクトップに短パンなんてあたしヤダよっ!? それじゃなくてもUV効かなくて日焼けすンのに、これ以上土方焼けしてどうすンの!? 」
「 ” ―― いや、それは隊長にパイロットスーツを着用して走れって言われてるから大丈夫だと ―― ” 」
「もっとダメじゃん!? 」
 体の熱が抜けない状態でそんな場所を長距離走ればあっという間に熱中症だ、どうしてもというのなら上半身を肌蹴て走るしか方法が無い。火に油を注ぐマークスの気休めを耳にしたアデリアは、「ああっ、もうっ!」と言いながらドスンと背凭れに体を預けてそのままずるずると体を沈みこませた。
「 …… なーんか嫌な予感してたんだよねぇ …… 今朝になっていきなり乗る機体が変わってるし、整備班は凄んで来るし、モウラさんは気の毒そうに肩叩いて来るし。何よ、知らなかったのあたしだけって事じゃん? 」
 そう考えると何故かムカムカする。自分だけが蚊帳の外に置かれていたと言う状況もそうだが、何よりその事に全く気付かなかったと言う自分自身の迂闊さにもだ。かと言ってここでガタガタ喚いて往生際悪く、普通の女の子の様に振る舞う事を隊長や整備班の人達は期待してるのか、否か?  
 意を決して両膝を思いっきり平手打ちしたアデリアが言った。
「 ―― いーわよ、じゃあ。」
「 ” …… お、おい。アデリア? ” 」
 低い声で唸ったアデリアが自分自身に言い聞かせる様に口を開く、今まであまり聞いた事の無い声音を耳にしたマークスが恐る恐る尋ねた。その心配もお構いなしにアデリアは尚も言葉を続ける。
「そこまでみんなが期待してるってンならお望み通りに走ってあげようじゃないの、フルマラソン。行って帰ってくるだけなら鳩でも出来るっつーの」
「 ”そ、そうだアデリア、その意気込みだ! 今こそお前の男気を発揮して目の前の困難に立ち向かう時だっ! 俺はお前を心から応援するぞっ! ” 」
「褒めてないっ! それに張本人が言うセリフじゃないっ! マークス、いい事!? 」
 まるで本人を目の当たりにした様な眼でアデリアがモニターを睨みつけながら怒鳴った。
「今日の所はあんたに付き合ってあげるから、あんたは今度の非番の日にあたしに付き合って街まで買い物に行くのよ! いいわね!? 」
「 ”街って …… 嘘だろっ!? サリナスまでここから片道200キロあるんだぜ、そんなトコまで何買いに行くんだよ? ” 」
「つべこべうるさいっ! 女の子には何かといる物があンのよ、基地のPX(売店)じゃ買えないモンもあるんだから。奢れって言わないから、せめての罪滅ぼしにランチと足代くらいは持ちなさいよ」

「女の子って …… お前の機体のペダルセッティング、俺と同じ ―― 」
「 ”なんか言ったっ!? ” 」
「 ”まあまあ、痴話喧嘩はその辺でお開きにして、そろそろ帰る準備しようぜ? ” 」
 二人の会話に割り込んで来るいかにも陽気な声は含み笑いを忍ばせている。からかわれてると気付いた二人が同時に声を上げようとした瞬間に、突然モニターが点灯してザクの姿が映った。電源の回復を現すパネル表示とジェネレーターの起動音を耳にしながら、マークスはサルベージに来たマルコに向かって言った。
「マルコ。誤解のない様に言っておくが、これは決して痴話喧嘩なんかじゃなくてお互いの誤解を解く為に話し合いをして、理解を深めてる最中なんだ」
「 ”ふーん。まあ、何でもいいけど ―― ところでお二人さんに朗報だ。 …… ハンガーの前で副長が仁王立ちで待ってるってさ。早いトコその罰ゲームとやらを終わらせないと、夜中まで整備に付き合わされるんじゃないの? ” 」
 いかにもご愁傷様と言いたげなマルコの口調にマークスは声を失って深い溜息をついた。
 
「 ”二人はどう? キース” 」
 モウラが演習の感想を尋ねて来る事などそう滅多にない事だ。結果だけを見ればキースの圧勝と言う事になるのだが彼女にとってはキースの勝利は薄氷を踏む思いの末に辿り着いたのだと言う事に気が付いている。やはり一年戦争を生き延びて来た猛者は目の付け所が違う、問い質して来たモウラに向かってキースは無線のスイッチを切って携帯を耳に掛けた。
「優秀だと、思う。作戦はともかく二人のコンビネーションとか決断力は一端いっぱしのパイロットのそれだ。 ニナさんが俺のOSに手を加えてくれていなかったら、最後の一撃で仕留められていたのは俺の方かもしれない」
「 ” そんなに? 買い被り過ぎなんじゃないの? ” 」
 疑う様に尋ねて来たモウラの声にキースは小さく頭を振った。体当たりをする一歩手前で振り上げたマークスの銃口は確かにキースを捉えていた、もしニナがザクのアクチュエーター稼働域を制限するプログラムを書き換えていなければ、あれほど深く足を交差させて横移動する事は出来なかった筈だ。
 筋肉の役割を果たす各シリンダーは破損を防ぐ為にその伸縮幅を制限しているのだが、その枠を外せばモビルスーツはこんなにも軽快に動けると言う事をキースは実践した事になる。確かに破損のリスクはついて回るが、緊急時に限界機動が出来るかどうかという事が生死の分かれ目になると言う事は、あの紛争で学んだ事の一つだ。
「いや、少なくともトリントンの頃の俺やコウよりもずっと優秀だ、末恐ろしい逸材だと思うよ。今日勝てたのはニナさんのお陰だ」
「 ”自分の力だとは言わないんだね。ま、あたしにしてみりゃもう少しあんたは自惚れてもいいと思うけど? 今のあんたはもうバニング大尉やモンシア中尉にしごかれていた頃のあんたじゃない、あたしが保証するよ ” 」
 出逢った頃の自信を封印して謙虚さを身につけてしまったキースを、ほんのちょっとの歯がゆさを滲ませながら励ますモウラ。昔の記憶を引き合いに出して今の自分を評価するモウラの事を、キースは本当に有難いと思う。自分の実力に対して正当な評価を下す人間と環境を失ったしまった今のキースにとって、彼女の言葉とニナのサポートが支えになっていると言う事を実感せずには居られない。
 そうだ、コウは、もういない。

「ありがとう、モウラ。素直に受け取っておくよ。 ―― これであいつらも暫くは大人しくなるだろう、どうやらあちこちで情報を仕入れてたみたいだけど」
 小さく息をついて人差し指でパイロットスーツの襟を空ける。愛用のシューティンググラスを外して外からの光に透かせながらレンズを拭き上げるキース。思った以上に汚れが酷いのはそれだけ彼らが奮戦したと言う事の証だ、賭けに勝った事の充足感と誰にも語ってはならない秘密を守れた事の安堵がキースの口から再びの溜息を呼び出した。
「 ” …… まーだマークスは諦めてなかったのかい? あんたが今朝、二人にゲルググを使わせると言った時にどうもおかしいなって思ってたんだ。ニナはニナで昨日の夜からマークスのザクに掛かりっきりだったし ―― ニナは今日の事知ってたの? ” 」
「昨日の夜に俺が話した。今朝乗り込んだ時には奴のザクはすっかり別物だったよ、特にOSをカットしたマニュアル操作時のレスポンスは特筆ものだ。アビオニクスがアナハイム製になっているから操作がし易いって事を差っ引いても、関節の稼働域の広さと緊急時の操作の自由度は格段に上がってる。トリントンで乗ってた奴とは雲泥の差だ」
「 ”技術主任の本領発揮って奴だね。しかしマークスの機体だけそんな事して大丈夫なの? あんただから機体を壊さずに済んだんだろうけど ―― ” 」
 モウラの言葉を受けてキースはじっとパネル上に埋め込まれたインフォメーションモニターを眺めた。青く点灯するオートパイロットと言う文字はモビルスーツがパイロットの手を離れてひとりでに動いている事を示している。
 兵の練度の低さによるシステムの進化は操作によるストレスの軽減と言う恩恵と共に、人型機動兵器と言う利点を奪い去ってしまった様にキースには思える。だが人は一旦便利さに慣れてしまうとなかなかその呪縛から抜け出す事が出来なくなる。アデリアも、マークスも素質の片鱗は感じさせるが、それが彼らの成長を妨げているのだとニナは昨日の夜キースに語った。
「マークスがマニュアル操作を覚える気にならなければ、多分大丈夫だ。モウラに手間は取らせないよ」

「まあ、そんな事は整備班うちの訓練にもなるから別に気にしなくていいんだけどさ」
 モウラはローダーの荷台に腰を掛けたまま後をついて来るキースのザクを眺めていた。日が昇ったばかりだと言うのに東から照り付ける日差しに頬が火照る、この分だと日中はもっと熱くなるのだろう。炎天下の中をもう一度この道を走る羽目になった二人の姿を想像してモウラは首を傾げて穏やかに笑った。
「でもこのままって訳にはいかないんだろ? 二人に成長して貰う為にはこの先どの道それを憶えて貰わなきならない。ニナもそれを見越してそうしたんだろうし、アデリアの機体にだって今日明日中には同じチューンを施す筈だよ? 」
「 ”俺に言われてやらされたんじゃ意味が無い。必要に迫られて身につけようと二人が思い立たないと絶対にモノにはならないんだ、でも ―― ” 」
「その為の餌が …… 問題、なんだよねぇ」
 辺りを憚る様に声を絞るモウラ、そしてモウラの言葉に口を噤んで同意するキース。

 コウとニナの事を知ると言う事。それはつまり史実から抹殺されたあの紛争の一部を知ると言う事に他ならない。二人の経緯を突き詰めれば突き詰めるほどに内容は核心へと踏み込んでいき、遂には後戻りの出来ない領域へと辿り着く。誓約書や転属と言う名の軟禁紛いの行為で一切の情報を洩らさない様にしているのも一滴の水漏れも逃さないと言うティターンズの決意の現れであり、それを白日の元へと晒そうとした何人かの人道主義的ジャーナリストが不慮の死を遂げていると言うのは風の噂でも良く耳にする。
 自分達が墓の中まで抱えなくてはならない宿命を敢えて前途有望な若者に背負わせるほど二人は無責任ではない。しかし自分達の経験を元に、彼らに対して万が一の備えを教え込んでおきたいと言うのは悲運の道を歩かざるを得なかった二人に課せられた責任でもある。世界が一夜を境に変貌するのは時として起こり得る事なのだ。

「とはいえ、ネット上の掲示板ではオカルトの様に噂されている話だしねぇ …… ああいう類は削除しても雨後の筍の様に次から次へと頭を出すから、いつかは誰かが裏を取って公にしてしまう事があるかも」
「 ”しかしその頃にはオリジナルの形は失われて劣化したコピーの様な内容が張られるだけだ、もしかしたらティターンズが積極的にその改竄に乗り出すかもしれない。そうなったら裏を取ろうにも取りようが無い、事実その物が全くの紛い物へと変化している訳だからな” 」
「奇しくも二人は興味本位な好奇心から開けちゃいけない禁断の扉へと手を掛けようとしている、って? 」
 モウラの問い掛けにキースは答えない。何とかそれを阻止しようとしているキースにしてもここ最近の演習内容が徐々に芳しく無くなっている事は分かっている。結果だけを見れば今だ負け無しと言う事にはなるのだが、見えない所で押されていると言う事はキースだけでは無く彼を支えるモウラやニナにも目に見えて理解出来るほどだ。
 操縦技能だけでは無く戦術や戦略をキースが駆使し始めたのがそのいい証拠で、あの紛争を生き延びたと言うアドバンテージを利用しなければ負ける事は無いにしても勝ち辛くなっている。
「 ―― もうさ、」
 モウラはそう言うと恐らく思考の迷路に閉じこもってこの先の事へと思いを巡らせているであろうキースに向かって言った。たった一人で秘密を守る為に立ち塞がらなければならない彼の心の重荷を少しでも和らげてあげたい、と思う。
 愛する者の抱える悩みであるからこそ。
「いっその事、ここいらですっぱりと負けて彼らに嘘八百言っちゃえば? ニナとコウは恋人同士だったけどコウの浮気がばれて大喧嘩して別れちゃった、とか? 」
「 ” …… 八百長は、趣味じゃない。それに ―― ” 」
 意外に早い反応にモウラは目を丸くした。耳をそばだてたモウラの耳に忍び込んで来るキースの答えには微かな苦笑いが混じっている。
「 ”友達の名誉は、守ってやりたい。 …… モウラ、すまない」
 この頑固者め、と思いつつモウラは携帯の回線を切って小さくザクに向かって手を上げた。

 出逢った頃には気付きもしなかった芯の強さがモウラの心を捉えて離さない。心の拠り所を失ったキースの見せた変貌を彼の人と形を知る誰もが驚き、疑いそして目を見張った。
 だがニナも、そしてコウも知らなかった彼の本性をモウラだけは理解していた。コウの乗るフルバーニアンの背後を護る為に彼がどれだけの被弾を被りながらも最後まで戦い続けたのか、ソロモンでの戦いはコウだけでは無く、キースの心にも大きな影響を与えた戦いだったのだ。
 激戦の中へと復讐と言う名の任務に駆られて飛び込んでいく親友を護る為、足りない技量を補うのに体を張って敵からの銃撃を遮ったキースのジム・キャノンⅡは全てのアーマーが剥離した状態で帰還した。主幹機能だけが生き残っているコクピットの中で操縦桿を握り締めたまま震えているキースの肩に手を掛けたモウラが最初に聞いた彼の言葉。

「コウは、無事か? 」

 無様な姿で帰還しやがって、まあ、と言ったモンシアに向かって涙を浮かべながら掴み掛かろうとしたあの日の事をモウラは忘れない。大事な物をこれ以上失いたくないという執念がキースを、そしてモウラの心を変えた。もしかしたら宇宙を焼き払ったあの神々しくて禍々しい核の輝きがその切っ掛けになったのかも知れない。
 しかしモウラは自分の本当の気持ちを改めて思い知り、そしてキースはアデリアとマークスと言う部下を護る為の戦いに今でも身を窶す。
 だが、モウラは思う。
 自分が手に入れた掛け替えのない者はその本性を現す代わりに、もっと大事な物を失ったのではないのか。彼が見せる事の無くなったあの日の笑顔はとても朗らかで大らかだった、それは誰のお陰で彼が手にしていた物だったのか?
 
 小さな嫉妬がモウラの心をつつく、見えない心の痛みを覚えた彼女は地平から登り切った大きな太陽から少し目を逸らして遠ざかりつつあるオベリスクの輝きへと視線を向けた。乾いた風が温まった頬を撫ぜてほんの僅かな涼しさを齎す。
 同じ風をこの世界の何処かで彼も感じているのだろうか、と行方も知れなくなったキースの親友へとモウラは想いを馳せながら目を細めた。
 
 
 全身に浮き上がった筋肉には一分の贅肉も見当たらない。境目までくっきりと分かれる筋繊維を隠す様にコウは作業ズボンに両足を通した。三年前よりも一回り大きくなった胸板を覆う様に着古したTシャツを被って、その上から紫外線対策の長袖を羽織る。それでも日焼けをするのだからこのオークリーという土地がいかに日差しが強いかと言う事が分かる。
 上着の裾を止める様に廻したツールベルトをホルスターの様にぶら下げてコウはゆっくりと椅子から立ち上がった。足元で鳴るギイ、と言う音がどこから出たのか分からないほどガタついた椅子を尻目にゆっくりと壁へと近づく。
 隙間だらけの壁板を補強する様に止められた横棒に打ちつけられた釘に掛けられた道具、革の鞘に収まった小さな鎌を手に取るとそれをベルトの穴へと差し込む。隣にあった小さなスコップと擦り切れた軍手を手に取ったコウは視線を部屋の隅に立てかけられた大きな鎌へと送り込んでポツリと呟いた。
「もうすぐ、アレの出番か。 …… もうそんな時期なんだ」
 スコップを腰に差して軍手を嵌める、足を通すブーツにはうっすらとワラビーらしきシルエットが残っている。紐を固く締めたコウは立ち上がって、ドアに掛けられた幅広の麦わら帽子を取り上げると入口のドアを引いた。
 太陽は天頂を目指す途上でも強く大地に照りつける、景色の輪郭を歪ませる熱気に目を細めながらコウは後ろ手にドアを閉めて短い階段を駆け降りた。

 自分達の前を走る影が少しずつ小さくなっている事を確認しながら、二人は元来た道を黙々と走り続ける。大きく開けた口から流れ込む熱気は肺を温めて、体の中に残った水分を全身の毛孔から吹き出させる。しかしオークリーの乾燥した気候は長袖のインナー一つになった二人の肌を少しも濡らす事無く、全て空気中へと蒸散させている。苦しげな息継ぎを何度も繰り返しながらやっとの思いでオベリスクの根元へと辿り着いた二人はクールダウンの為によろよろと歩きながら、壁に向かって両手をついて崩れそうになった体を支えて言った。
「 ―― や、やっぱりキツイ。 …… これでやっと半分って ―― 」
「 ―― お、俺達無事に基地まで帰れるのか? 」
 乾燥している為に日蔭の温度は日向に比べてかなり低い、彼女は肺の中の空気を全部一気に吐き出してから、再び大きく深呼吸した。汚れた酸素の交換によってリフレッシュする体内はそれだけでアデリアの気分をすっきりさせる。呼吸を整えたアデリアにマークスは担いだバックパックから取り出したペットボトルを手渡した。
「 …… うわ、もうお湯になってるわ」
 手にした水の温度にいささか辟易しながらも、アデリアはそれを一気に飲み込んだ。吸収などと言うまだるっこしい過程を経ずに干乾びた細胞へと取り込まれる様な水分の感覚を覚えながら、アデリアはそれを思わず頭の上へと差し上げて一気に被る。
 お湯とは言ってもそれはシャワーと考えれば丁度いい温度で、日蔭を通り過ぎる乾燥した風は彼女の身体を濡らした水と共に肌の熱を奪って涼しさを齎す。その気持ちよさにアデリアは思わず嬌声を上げて感激した。
「うっひゃあ、気持いいっ! 」
 衝動的に取った自分の行動が思わぬ効果を持っていたと、アデリアはマークスに同じ行為を勧めようと目を向けた。しかしアデリアがその口を開く前に当の本人はペットボトルの口を開いたままただ茫然とこちらを見ているだけだった。
「 ―― どしたの、マークス? 」
 尋ねながらアデリアは、まるでそうする事を促す様に自分のペットボトルを口へと運んだ、だがそれでもマークスは呆然とアデリアの方を見たまま固まっている。やがてその顔色にほんのりと血の気が上がって来るのを見てアデリアは、もしかしたらマークスが熱中症の類にでも罹ったのではないかと疑った。
「ちょっと大丈夫、マークス。顔赤いよ? もし気分が悪いンならちょっと此処で休んでいこう、日が少し傾いてからでも此処を出れば夕方までには帰れるからさ」
「い、いや違うアデリア。俺の事は心配しなくていい、これは、その、お前が思ってる様な病気じゃなくて、その ―― 」
「心配しなくていいって ―― そんな訳ないじゃん。ただでさえキツイのにあたしの分の水まで持って貰ってるんだからあんたの方がしんどいに決まってる。今日はもう訓練もないんだからゆっくり帰ろう、ね? 」
 表情を曇らせながら心配するアデリアの視線から微妙に目を逸らすマークス、気まずそうに口籠る彼の視線はそれでも自分の身体のある一点に注がれている。マークスから向けられた目線を辿る様にゆっくりと顔を降ろしたその先にびしょぬれになった自分のインナーが目に入った。
 ぴったりと張り付いた布地に浮かぶ自分の肌、アデリアはその瞬間、自分が暑さ対策の為に下着を着けずにインナーを着た事を思い出した。 ―― と、言う事は。
「!! 」
 慌てて胸の前で腕を組んで隠すアデリア、握っていたペットボトルが手の中から弾け飛んで地面に転がる。マークスの顔よりも真っ赤になったその顔を見られない様に踵を返したアデリアは恐る恐る尋ねた。
「 …… 見た? 」
「いや待て勘違いするな、俺はお前にその事を忠告しようと思ってたんだ、本当だっ! ただ、その、何て言うかお前にどうやってそれを伝えようかと考えてる間にお前の方が気付いたって言うか、いやその、つまりだな ―― 」
「ち、ちがっ、や、その、わ、私の方こそゴメンっ! 私が勝手に水を被ったんだからマークスはちっとも、何にもわ、悪くないわ、うん」
 しどろもどろの言い訳もお互いの羞恥を収めるには至らない、意を決したアデリアが胸元を隠したままで突然オベリスクの根元の向こうにある日なたの窪地へと駆け出した。慌てて声を掛けようとするマークスの意図を見透かした様にアデリアは声を掛けた。
「ちょ、ちょっと日なたに出て服、乾かして来る。マークスはそこで休んでて、すぐ戻ってくるから」
「お、おいアデリア。何もそんなに遠くまで行かなくても、その辺りの日なたにいればそんなの五分位で ―― 」
「マークス」
 引き止めようとするマークスに向かってアデリアは足を止め、溜息を一つ吐くと振り返らずに言った。
「いい? そんなデリカシーの無い事を言ってる様じゃ、何時まで経っても女の子なんて近寄って来ないわよ? 」

 あたしってば何を言ってるんだ、と自分の言葉を振り返って自己嫌悪に陥るアデリアは窪地の影で蹲ったまま地面の砂を眺めていた。
 自分で水を被っておきながら、見た? は無いだろう。それにマークスはあたしの疲労を考えて遠くへ行かない方がいいと言ってくれたのに、それを説教紛いの言葉で責め立てるなんて。そんなのマークスに彼女が出来る云々以前にあたしの性格の問題だ。
「 …… どうしよう、嫌われちゃった、かなぁ? 」
 あ、言うんじゃなかった、と。その言葉を口にしただけで更なる重みが自分の心に圧し掛かる。マークスとの距離をこれ以上離されたくないと思う自分と、もっと近づきたいと願う自分との葛藤はそんな些細な事でも大きく揺るがされる。彼との距離を今のまま保つ事が最も心地よいと思いながらも、絶えずジレンマに苛まれるアデリアの心境は穴があったら入りたい位に世界を締めだしている。
 悶々と悩むアデリアの耳に微かな足音が飛び込んで来たのは、照り付ける日差しに喉が悲鳴を上げ始めた頃だった。膝を抱えていたが為に未だに乾いていない胸元へと目を遣りながら、アデリアはその足音の主に向かって言った。
「ごめん、マークス。まだ服乾いてないんだ。もうちょっとだから向こうで待ってて? 」
 そう言いながらも顔を上げられないアデリアの首筋が差し掛かった影の感触で少し熱を落とす、人影が傍にあるのだと気付いたアデリアが少し視線を上げると、その目の前に小さなペットボトルが翳された。わざわざ自分の為に水を持って来てくれたのだと、アデリアはマークスの優しさに感謝しながら ―― その行為が自分の言動と対比してまた嫌悪感を募らせる羽目にはなったが ―― 言った。
「ありがと、マークス。 …… ごめんね、あんたが悪い訳じゃないのにあんな事言って。帰りはあたしも自分の分の水を持つから ―― 」
 そう言いながら受け取ったペットボトルの温度にアデリアは異変を感じた。それは今冷蔵庫から取り出した様にひんやりとして、キャップの開いた形跡すらない。そして頭上から降り注いで来る聞き慣れない男の声に、その危機感はピークに達した。
「そう、自分の犯した過ちに対して素直に謝れるのはいい事だ。最近の子にしちゃ珍しい」

 目の前のペットボトルを振り払い、咄嗟に身体を翻して相手との距離を取るアデリア。短い金髪を口元に蓄えた髭動揺に端正に整えたその男はサマージャケットを肩にかけ、二の腕まで捲くったインディゴ染めのダンガリーから生えたごつい腕をぶらぶらと振りながら ―― ペットボトルはその男の手の中にまだある、あれだけ勢い良く叩いたのに ―― ニヤリと笑った。
「おいおい、ご挨拶だなあ。初対面の人間にする挨拶にしちゃあ少々つっけんどんじゃないか? それとも人の施しは受けないと言う風に軍では教わったのか? ま、見上げた根性だとは思うがね」
「貴方は? 」
 敵意をむき出しにして尋ねるアデリアの行為は軍人として当然だった。今二人が走って来た道は連邦軍が飛び地として接収している軍用地の一角だ、つまりいかなる事情があろうとも事前の認可が無い限り軍人以外の人間が立ち入れない事になっている。
 仮にこのふざけた格好の男 ―― 年格好は三十歳前後、日に焼けた浅黒い肌と彫りの深い顔立ち。生やした髭が年齢より上の印象を与えるが多分それ位だろうとアデリアは思う ―― が軍人だったとしても、何の為にこんな場所をうろうろしているのかが分からない。自分で言うのも何だがオークリー基地は陸の孤島、軍と名の付く場所から人が訪れる事など殆ど無い『忘却博物館』なのだ。
「そう怖い顔するな、折角の美人が台無しだぞ? たまたまこの辺を通りかかったら窪地のど真ん中でお嬢ちゃんが蹲って泣いてたから、つい仏心で、な。余計なお節介だったかな? 」
「おせっかいついでに泣いてません! それより貴方は? この地域は軍の演習場です、民間人の立ち入りは固く禁じられていると閉鎖区画の柵に表示してありませんでしたか? 」
 適度な間合いを取って相手との距離を保つアデリアの足が小さく揺れる。臨戦態勢へと移行する足捌きは徒手格闘を得意とする彼女ならではの奥儀だ、相手の上背 ―― マークスより少し高い位だから多分180センチくらい ―― と同じ距離を取りながらアデリアは油断なく相手の姿を睨みつけた。今にも飛びかからんとする気配のアデリアを見て、その男は苦笑した。
「ああ、何か書いてはあった。だがもう錆サビで良く読めなくなってると言うのは軍の管理不足と言うべきだろう? 基地に用事があるんだが何せ普通の道だと遠回りになるんでね、いつも時間を見計らっては黙ってここを使わせて貰ってるんだ。まさかこんな時間にこんな日差しの強い場所に人がいるなんて思わなかったからよっぽど辛い事でもあったのか思ってね。傷付いた女の子を慰めてやろうと思うのは人情じゃないか」
「な、なぐさめるぅ!? 」
 
 人の真剣な悩みに向かってよくも、とアデリアは憤慨した。ただここで相手の挑発に乗って何らかの実力行使に移るのは負けた様な気がする、それが軍と言う権威を振り翳して相手に退場を促す物であったとしてもだ。自然なウォッシュの掛かったジーンズと胸元で見え隠れする分厚い胸板までもが憎たらしい。
 喧嘩を売るべき相手の欠点を注意深く観察していたアデリアは、遂にその場所を見つけてニヤリ、と笑い返した。足を止めて踏ん張り、両手を腰に当てて相手を舐め上げる様に見つめる様は、挑発に対するお返しとしては十分に非礼な態度だろうとアデリアは思う。
「残念ですけど、あたし。まゆ毛の無い『おじ様』には全く興味がそそられないンです。どうせナンパされるのでしたらそういうご趣味のご婦人を探されてはいかがです? 」
「!? ま、まゆ ―― 」
 手にしたペットボトルを取り落として思わず額に手を当てる男の表情が驚きに満ち溢れる。一気に優勢に立った事をその表情で確信したアデリアはここぞとばかりに畳み込んだ。
「ま、もっともそんな奇特なご婦人がこの界隈にいらっしゃるかどうかはあたしにも思い当たりませんが。そんなペットボトルの一本で女の子を引っ掛けようなんて普段はさぞやおモテになってるんでしょうけど、よっぽど生活に困っている方に限られるんでしょうね。食べ物が無くて飢えているとか、路頭に迷って困っているとか。基地に用事とか何とかおっしゃって此処までお相手を探しに来たんでしょうが、残念ながらこの辺はご覧の通り荒れ地のど真ん中ですから。さっさと諦めて『おじ様』のお眼兼ねに叶った女性が沢山いそうな場所にでもお移りあそばした方が ―― 」
 滔々と勝ち誇って語るアデリアの声が男の笑い声によって遮られたのはそこまで喋った時だった。これ以上無いほど豪快に笑い上げる男の反応に呆然と声を失ったアデリアは、自分の作戦が相手の歯牙にもかけられていない事を悟って再び語気を強めて言った。
「何がおかしいんですか! 先程も言いましたが此処は軍の施設内です、基地に用事があるのなら速やかに一般道に移動 ―― 」
「あーいや済まない、決して君の事を侮ったり馬鹿にした訳じゃないんだ。い、いや喧嘩の売り付け方のあまりの気風の良さに驚いてしまってね ―― 」
 笑いの止まらない男の顔を尚も睨みつけてもう一度同じ指示を口にしようとしたアデリアの顔色が変わったのは、その男の口からその単語が飛び出した瞬間だった。
「 ―― さすがは『ベルファストの鬼姫』。参った、俺の完敗だ」

 彼女に付けられたその二つ名を知る者は少ない。アデリアにとっても不名誉なその蔑称は彼女がオークリーに転属する前に所属したヨーロッパ方面軍ベルファスト基地に於いてアデリアが起こした大立ち回りによって密かに付けられた物だ。降格処分と共に付いて回るそのレッテルを知る者は連邦軍の人事部若しくは情報部、そしてオークリーに在籍する一部の隊員だけに限られる。
 当の本人の前でその名を口にしながら、反応を愉しむ様にニヤニヤと笑う無礼な男の身元を確かめるべく、アデリアは真顔になって問い質した。
「何故その名を? 貴方がそれを知ると言う事は自身の身分が軍関係者と名乗っているも同然です、速やかに貴方の所属と官職の提示を要求します」
「勿論知ってるさ、アデリア・フォス伍長。いや、元曹長。去年起こしたベルファスト基地での集団暴行事件の責任を取らされて降格の上転任。お前さんは部下の女性が基地の隊員に暴行を受けた事を知って相手の宿舎に単身乗り込み、当事者とその仲間八人を袋叩きにした。残念ながらその相手が『ティターンズ』であったが為に、お前さんだけが罪を全部着せられてこの地へと来る羽目になった、と。 …… どうだ、合ってるかい? 」
「ただの軍人では無いようですね」
 名前の付いた経緯にまで言及出来るのは間違いなく人事部か情報部だ。しかしエアコンの効いた建物の中でしか仕事をしない制服組や顔を見られる事すら遠慮する情報部の人間が何故わざわざこんな所へのこのこと顔を出す必要があるのか? 基地に用事があると言うのだからそうである可能性が無きにしもあらずだが、それにしては態度が横柄だし、大体人の過去をこれ見よがしに暴き立てるその性根が気に入らない。
「貴方を軍関係者と認めて再度要求します、速やかに姓名と所属、階級と認識番号を答えなさい。もし提示できない様であれば ―― 」
 それはマニュアルにも記載されている規約の一つだ。軍関係者は要求されれば特殊な任務に従事していない限り、速やかに相手の求めに応えて自らの身元を開示しなければならない。出来る限り穏便に事を済ませようと努力するアデリアがわざわざ形式ばった手段を選択したにもかかわらず、男はそれを一笑に付して言った。
「 ―― 出来るも何も俺はただの民間人だ、この近所に住んでる。軍関係者じゃないから君の要求には答えられない、申し訳ないが」
「 ―― では先ほども申し上げました通り、此処は軍用地です。民間人は ―― 」
 暖簾に腕押しと言った風情でアデリアの要求を突っぱねる男を睨みつけながら、退去命令を口にしようとするアデリア。しかしその時、アデリアの背後から砂を蹴立てて近づいてくる足音とマークスの叫び声が届いて彼女の言葉を抑え込んだ。
「アデリアっ、何があった!? 」
 マークスが窪地の淵を飛び越えて猛然と擂り鉢の底へと雪崩れ込む、不穏な空気を感じ取った彼はそのままの勢いでアデリアと男の間に身体を割り込ませて、男の顔を睨みつけながら怒鳴った。
「貴様、一体アデリアに何をした!? 」

 恫喝を受けた男の表情がアデリアに向けた物とは一変して険しくなる。眉間に小さく皺を寄せ、隠しておいた眼光を露わにした男はマークスの顔を鋭く睨みつけた。
「 …… マークス・ヴェスト軍曹。元北米方面軍ニューアーク基地所属第325機動部隊第二小隊所属。命令不服従七回、出撃拒否五回、度重なる上官への暴言。営倉入りの懲罰要件だけで貴様の軍暦は四人分の厚みがある。一介の軍人でしかない者が身の程も弁えず、事もあろうに民間人に向かって恫喝するとは何事だ?」
「不審者に言われる筋合いは無いっ! 軍関係者であるならば速やかに規定された要求に応えろ、話はそれからだっ! 」
 火花を散らす六つの眼光の鬩ぎ合いは男の一方的な試合放棄で幕を閉じようとする。だがそれは敗北を認めて降ったと言うのではなく、愛想を尽かした溜息と蔑み混じりの視線での新たな宣戦布告だった。
「目上の者に対して言う言葉がそれか。貴様の形では恐らくそうでもしなければ今まで自分を保てなかったとでも言うのだろうが、そんな物はただの貴様自身の甘ったれた根性の為せる技だと何故気付かん? 軍人として以前の人としてのあり方を教え込めない貴様の上官も推して知るべしだ。やはりオークリーはその名の通り、忘れ去られる卑怯者どもの巣窟か」
「貴様、俺の見た目だけじゃなく隊長までっ! 」
 完全に逆上したマークスの身体は背後で制止したアデリアの声と手を振り切って前に出た。ダブルステップで間合いを一気に詰めて間合いに飛び込み、溜めた軸足に力を込めて一気に上半身を捻り出す。腰を入れた右ストレートはボクシングを習い始めた幼少の頃からの得意技、絶対的な自信と精度を秘めた渾身の一撃。
 突き上げる様に伸びる拳は間違いなく男の顎を捉えて、次の瞬間には昏倒させるに足る威力を痛みと共に思い知らせる筈だった。
 だがその右腕に最も力が籠る、肘関節が伸び切る寸前にマークスは思い掛けない光景を目にした。ステップバックかスウェー(上体だけを後ろに反らして躱す防御テクニック)で回避するしかないと思われた自分の腕に向かって男が体を振り込み、自分の顔面目掛けて迫って来るマークスの拳を見切って頭を振った。小さく笑う男のもみあげの至近を通過して外れる自分の腕を男の手が掴んで捕える。
「何っ!? 」
 驚きと共に引き戻そうとした瞬間に手首と肘に猛烈な激痛が走った。一捻りで二つの関節を極めた男の身体がそのままマークスの身体に潜り込んで背を当てる、カウンターで喰らった衝撃に腰を浮かせたマークスはいとも簡単に相手の腰にその体重を預けた。跳ね上がる相手の膝の反動が背負われたマークスの足を一気に地面から解き放つ、浮遊感が支配する世界はマークスの脳を揺らしに掛かった。
「うわっ! 」
 天地が変わって目が眩む、半径の小さい旋回軌道は三半規管が平衡感覚を修正しようとする間も与えない。空を仰いだマークスが驚いた瞬間に背中を叩いた地面の感触は、猛烈な衝撃となって彼の臓腑を突き抜けた。苦痛の呻きは閉じた瞼の代わりに開いたその口から飛び出す。
「ぐうっ! 」
「マークスっ! ―― よくもっ! 」
 一本背負いを掛ける為に捕まえていたマークスの腕を男が離した一瞬の隙を付いてアデリアが間合いを詰めた。フェイントの中段でマークスと男の距離を離して、踊る様なステップで相手の足を払いに掛かる。相手の意識が足元へと向けられた瞬間にアデリアは一気に懐へと飛び込んで下段の足を相手の脇腹目掛けて振り上げる。驚いた男の肘が脇腹に置かれた瞬間に、アデリアの膝は柔らかい関節を駆使してその軌道を顔面へと変えた。
 下段から始まる二段フェイントの攻撃について来れる者はいない、とアデリアは信じていた。しかしその足の甲が唸りを上げて顔面へとヒットしようとした瞬間、男の手が間に差し込まれてそれ以上の狼藉を堰きとめた。
「! うそっ!? 」
「なるほど、これが噂の『右上段回し蹴り』か。仕掛けも切れもなかなかのモンだが ―― 」
 男はそう言うと驚愕を露わにしたままのアデリアを体ごと力一杯押し返した。バランスを失ったアデリアが大きく地面に投げ出されて尻もちをつく。上体を両手で支えて呆然と見上げるアデリアを見下ろしながら男が言った。
「 ―― 相手を一撃で仕留めようと言う気概が無ければただの気の利いたダンスだ。護身術程度には役には立つかも知れんが、軽さを補おうとするつもりなら相手の急所をピンポイントで狙え」
 ぱんぱんと手を叩きながらにやりと笑う男の得意げな表情を睨み上げながら、横たわったまま苦痛の呻きをあげるマークスを庇ってその間へと体を置くアデリア。衰えぬ敵意の瞳をじっと見下ろした男が、やれやれと言う様な表情をして言った。
「しょうがない、どうあっても名乗らなければここから先には行かせてもらえないようだな」
 猛獣の様な瞳の色が消えて、あっという間に元の雰囲気へと戻るこの男の素性はただ者じゃない。それでも油断なく身構えるアデリアの前で、人差し指で顎を掻きながら目を逸らした男は暫く何かを黙って考え込み、そして何かを決意したかの様に再び視線を落とすとおもむろに言った。
「私の名はヘンケン・ベッケナー。元地球連邦軍第七艦隊所属、除隊時の階級は中佐だ」

 最初に自分の身分を話した所で到底信じては貰えないだろうとヘンケンは思った。ではどうすればこの好戦的な若者二人が素直に自分の言葉に耳を傾ける事が出来るだろうかを考える、それが二人から目を逸らした理由だった。兵士の規律を正すのに最も効果的な方法は、階級によって立場を明確にする事。たとえそれが『エクス』の名の付く物であろうともだ。
「 …… ち、中佐って? 」
「それって、ウェブナー司令と同じ階級って、事? 」
 ヘンケンの読み通り、二人の目から瞬時に敵意の色が消えた。疑惑の表情が消える事は無いが、少なくとも自分が今まで開示した二人の経歴と実力を鑑みればヘンケンの言葉をある程度飲み込まざるを得ないと言うのが二人の本音だろう。
「今はこの先の農地復興計画の責任者として作業に当たっている、と言えば聞こえはいいが、平たく言えばこのあたりに移住して来た百姓の元締めみたいなモンだ。みんなからは『組合長』と呼ばれてる」
 痛む身体を必死で立ち上がらせて、不格好ながらも敬礼の姿勢を同時に取る二人。その慌てっぷりに内心「薬が効きすぎたか」と自分の行いを反省しながらヘンケンは言った。
「あ、いや俺はもう民間人なんだからそんな事はせんでいい。それよりどうだ、今日の所はお互い不問と言う事で手を打たんか? 民間人に手を上げたとばれればお前さん達もまたぞろ懲罰の対象になりかねんし、ましてやその民間人に叩きのめされたとあっちゃあ何かとバツが悪いだろう? 侘びと言っては何だが、帰りは俺が基地まで送って行ってやろう。どうだ? 」
「いえ! その様なお気遣いは無用であります。知らぬ事とは言え数々のご無礼失礼いたしました! 」 
 声を出すだけでも痛みに顔を顰めるマークスを肩で支えるアデリア。口を開かないのは上官に対する礼儀と、未だに解けない警戒心の為だ。ヘンケンは対照的に並ぶ二人の顔を見比べた。
「とはいえ、回りに道具の一つも見当たらない所を見るとここまで二人で走って来たんだろう? そんな体で基地まで ―― と、それは俺の責任だな。俺もこれからお前さん達のボスと大事な商談があるんだ、部下を傷めつけられてへそを曲げられては敵わん。それが俺に非が無い物だとしても、上司ってのはそういうモンだ」
「いえ、しかしそれでは中佐殿のお手を ―― 」
 食い下がろうと声を上げたアデリアの顔を笑いながら眺めたヘンケンが、小さくウインクをした。何の事か分からずにきょとんとしたアデリアに向かって口を開く。
「そう言う事ならこれは代金として受け取っておいてくれ、久しぶりにいい目の保養をさせてもらった事のお礼だ」
 その意味に思い当たったアデリアが再び真っ赤な顔で胸の前に両腕を廻した。支えを失ったマークスが突然の事に呆然となって足元へと崩れ落ちる。
「ご、ごめん! マークス! 」
「俺の後からついて来い。車に着くまでは振り向かないからパイロットスーツを着るといい。 …… 車はいいぞ。モビルスーツのコクピットとは違って冷房が効いてるからな」

 右手のキーをくるくると指の先で回しながら歩き始めたヘンケンの背中を目で追いながら腰に巻いていたパイロットスーツの上着の袖に腕を通すアデリアとマークスだが、アデリアはともかくマークスの方は打ち身が酷くてなかなか思う様に手が動かない。強がっては見たもののヘンケンの申し出が彼ら二人にとっての助けになっていると言う事は否定が出来ない事実だった。
「 …… ねえ」
 痛みに耐えて苦しそうに上着を着ようとするマークスの耳元で、それを手伝っていたアデリアが囁いた。
「何だよ、いきなり? 」
「どう考えても怪しくない? 身分証も提示しないし、やたら強いし。絶対に額面通りの『元連邦軍人』じゃ無いわよ、あれ」
「強いのは認める。でも僕達の経歴をあそこまで詳しく知ってるなんて正規に所属した連邦軍関係者意外考えられないよ。司令と同じ階級だったとしたらアクセスレベルは4だ。知っててもおかしく無いだろ? 」
「実は内部に潜り込んだジオンのスパイ、とか? 」
「何しにこんな所まで。スパイするならジャブローだろ? こんなとこに来たって得る情報なんか ―― 」
「 …… 無いわよねぇ、確かに」
 パイロットスーツをやっとの事で着終わった二人が立ち上がった。手を貸そうとするアデリアの行為を押し留めてゆっくりと歩き始めるマークスの足取りは心もとない、支える様に肩を貸してアデリアは車のドアに手を掛けたヘンケンの背中を睨みつけた。
「まあ、此処は素直に好意を受けようぜ、アデリア。どうせ基地に着けば分かる事さ。それに、どうやらいい人っぽいじゃないか」
 掌を返した様にヘンケンの事をそう評価するマークスの言葉を受けたアデリアが眉を顰めて横顔を眺める。
「呆れた、地面に叩きつけられた当の本人からそんな言葉が出るとはね。あんたの人を見る目がどうだか分からないけど、あたしには ―― 」
 そう言うとアデリアは車のドアを開いたままこちらへと手を振るヘンケンを睨み付けて、唾でも吐き掛けそうな勢いで毒づいた。
「 ―― ただのセクハラ親父にしか見えないわよ」


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