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No.38827の一覧
[0] 【チラ裏より】嗚呼、栄光のブイン基地(艦これ、不定期ネタ)【こんにちわ】[abcdef](2018/06/30 21:43)
[1] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/11 17:32)
[2] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/20 07:57)
[3] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/02 21:23)
[4] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/22 04:50)
[5] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/01/28 22:46)
[6] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/24 21:53)
[7] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/22 22:49)
[8] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/03/13 06:00)
[9] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/05/04 22:57)
[10] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/01/26 20:48)
[11] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/06/28 20:24)
[12] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/07/26 04:45)
[13] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/02 21:13)
[14] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/31 05:19)
[15] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/09/21 20:05)
[16] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/10/31 22:06)
[17] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/11/20 21:05)
[18] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2015/01/10 22:42)
[19] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/02/02 17:33)
[20] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/04/01 23:02)
[21] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/06/10 20:00)
[22] 【ご愛読】嗚呼、栄光のブイン基地(完結)【ありがとうございました!】[abcdef](2015/08/03 23:56)
[23] 設定資料集[abcdef](2015/08/20 08:41)
[24] キャラ紹介[abcdef](2015/10/17 23:07)
[25] 敷波追悼[abcdef](2016/03/30 19:35)
[26] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/07/17 04:30)
[27] 秋雲ちゃんの悩み[abcdef](2016/10/26 23:18)
[28] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/12/18 21:40)
[29] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2017/03/29 16:48)
[30] yaggyが神通を殺すだけのお話[abcdef](2017/04/13 17:58)
[31] 【今度こそ】嗚呼、栄光のブイン基地【第一部完】[abcdef](2018/06/30 16:36)
[32] 【ここからでも】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(嗚呼、栄光のブイン基地第2部)【読めるようにはしたつもりです】[abcdef](2018/06/30 22:10)
[33] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!02【不定期ネタ】[abcdef](2018/12/24 20:53)
[34] 【エイプリルフールなので】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(完?)【最終回です】[abcdef](2019/04/01 13:00)
[35] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!03【不定期ネタ】[abcdef](2019/10/23 23:23)
[36] 【嗚呼、栄光の】天龍ちゃんの夢【ブイン基地】[abcdef](2019/10/23 23:42)
[37] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!番外編【不定期ネタ】[abcdef](2020/04/01 20:59)
[38] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!04【不定期ネタ】[abcdef](2020/10/13 19:33)
[39] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!05【不定期ネタ】[abcdef](2021/03/15 20:08)
[40] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!06【不定期ネタ】[abcdef](2021/10/13 11:01)
[41] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!07【不定期ネタ】[abcdef](2022/08/17 23:50)
[42] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!08【不定期ネタ】[abcdef](2022/12/26 17:35)
[43] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!09【不定期ネタ】[abcdef](2023/09/07 09:07)
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[38827] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!09【不定期ネタ】
Name: abcdef◆fa76876a ID:caa43871 前を表示する
Date: 2023/09/07 09:07
※(2023/08/24初出)今回も沖縄編は後日追加掲載となります。出向先のルビコン3の情勢次第ですが、可及的速やかにうpできるよう前向きに検討し、善処する次第であります。
※(2023/09/07 ご指摘のあった誤字を修正)

※いつも心にオリ設定。
※筆者の知識に科学的な正しさを求めるのは宗教と同義です。ご注意ください。
※『●×が▲□なワケねーだろ、このダラズが』な事になってるやもしれません。そういうの駄目な人はご注意ください。
※また、当然の事ですが、本作品中に登場する全ての人名・地名・団体名等は現実とは一切関係ありません。
※今回の話を書くにあたり、柳田理科雄の『空想科学読本2』読み直してきました。やはり面白い。
※『スペシウム流は、型稽古に始まり、型稽古に終わる。厳しいのだ』私の好きな言葉です。

※ここだけの話、当SS内における深雪スペシャルの元ネタの一部は、上記の空想科学読本2内に登場するライダー踏み潰し垂直ジャンプとダブルライダーキック作戦の2つだったりします。




 今回の談合まとめ 後で燃やす ← 燃やすな!!


 2名欠席。後日連絡。

 定例報告

 海生研(現TKT)の田中所長からの報告によると、第4ひ号目標の沖縄侵攻後の再調査の結果、全海洋のPRBR平均汚染値がボーダーを超過したとの事。
 ↑ 1990年当時の予測より半世紀も短いんですけど?

 汚染値が高すぎるので不発弾と死骸処理の名目で沖縄本島は全域封鎖を続行。長引くようなら深海由来の未知の疫病説で。
 海水揮発成分にも同等の汚染を確認。
 河川、内地の山脈などにも汚染値の飛び火を確認。

 人体、新生児にも?

 上記から全球完全除染は不可能と判断。い号計画の完全発動は確定。
 い号に予算追加で回す。
 残留組のプランは今まで通りメインを学校給食計画、サブを抗浸食剤の開発で進める。 ← 学校給食の方は艦娘素体の発生率増加にも繋がるし。



 い号計画 最終候補地

(※お茶染みによる文字のにじみ。判読不能)

 最終候補はこの三つ。
 往(※同。判読不能)

 大マ(※同。判読不能)

 表向き(※同。判読不能)
 現(※同。判読不能)
 選抜(※同。判読不能)



(※同。判読不能)



 スウェーデンの(※同。判読不能)国際ホテル
 顧客名簿コピー or 取り寄せ確認。今すぐ。

 ↑
 テロリストによる銃乱射とか言っていたが、多分誰かがチケットの独占狙って銃か子飼いの兵隊持ち込んだ?
 本日欠席の2人もいたし、名簿にあった他の宿泊客の名前からして、い号のチケット抽選会場は間違いなくここ。

 騙された、来週じゃなかったのか!


(※放送禁止用語を含む多数の罵詈雑言)


 よって、今より第二次い号計画を発動。
 連中が先に勝手したんだ、こっちも勝手にやるぞ!!


        ――――――――処分しなかった走り書き





『鍋島Ⅴ型の後継機、山村Ⅵ型開発開始。無人機仕様に搭載されるAIはソフトウェアの篠原がそれ専用の戦闘型AI『C4-621』を開発。ロールアウト予定日は8月25日!』
『ルーブル美術館、老朽化対策の大改修始まる。収蔵品は順次移転を開始』
『謎の生乳買占め続発。市場枯渇、異常高騰』
『世界共同での宇宙開発計画、再開。長引く対深海棲艦戦争における新たなる資源地帯の開発を目指し、複数の太陽系内往復宇宙船の開発・建造計画が決定された』
『夜の夕張市で謎の爆発。軍の演習場から空に見事なキノコの雲』

『横須賀スタジオの戦艦娘長門、決死の陰腹ライブ! 無言の抗議、それほどまでに路線変更は嫌だったのか? 関係者に迫る!!』

        ――――――――ある日のWEBトピックニュースの見出しより一部抜粋。




 ある日の事である。

 ――――北上改二、超展開!
【ハイパー北上様、超展開だよーっと】

 軽巡ホ級のガードを抜け、その右頬に北上改二の左ストレートが突き刺さる。その衝撃で、最終以外のすべての安全装置を外されていた北上の左腕に装着されていた射突型酸素魚雷が発射され、即座に着弾。軽巡ホ級の首から上を木っ端みじんに爆破し、完全に無力化した。
 またそれより後の日の事である。

 ――――北上改二っ、超、展開……!
【ハイパー北上様、超展開だよー、っと】

 戦艦ル級の腹に北上改二の左の膝蹴りが突き刺さる。その衝撃で、最終以外のすべての安全装置を外されていた北上の左足に装着されていた射突型酸素魚雷が発射され、即座に着弾。撃破どころか小破にすらなっていなかったが、それでも戦艦ル級の姿勢を崩して膝を着かせることには成功した。
 そして、ル級が体勢を立て直すよりも早く、膝を着いたことでちょうど狙いやすい位置にまで下りてきたその顔面に向かって渾身の左ストレート。やはり着弾と同時に左腕の射突型酸素魚雷が発射され、ル級の顔面に直撃。しかし撃破には至らず、せいぜいが顔の皮膚と肉の一部を吹き飛ばしただけに終わった。突き刺さった拳と爆発の手ごたえから仕留め切れていないことを悟ったひよ子は自我コマンドを入力。北上の右腕部分の射突型酸素魚雷発射管の安全装置を最終以外すべて解除し、軽く一歩踏み出させ、右のアッパーカットを振るわせた。そして今度こそ、深海棲艦側のかつての決戦兵器『泳ぐ要塞』こと戦艦ル級を確実に撃破した。
 そして、それからさらに幾日か後の、ある日の事である。



「――――短イ命ダッタワ」

 その深海棲艦――――トラック諸島の歌う鬼、あるいはコロンバンガラ島の最高総司令艦と呼ばれる軽巡棲鬼は、眼前の敵の正体を察すると絶望のあまり片手で目を覆いつつ天を仰いだ。

 ――――き、きた上、改二、……ちょうっ、展開! ……ぅぷ。
【ハイパー北上様、超展開だよっ……! ……ぅぉぇ】
「BNF作戦デノ担当箇所ノ詳細詰メニ煮詰マッテタカラ、気分転換ニ、チョット一人デ遠出シタダケナノニ……何デ! ヨリニモヨッテ!! アノ撲殺姫ガコンナ所ニインノヨ!? コッチ(南方海域)ニ沖縄帰リノ猛者ガイルッテノハ知ッテタケドサァ!!」

 軽巡棲鬼が腹をくくる。己の両足代わりに接続された異形の頭部にも見えるクルーザーユニットにコマンドをキック。

【! ひよちゃん、来たよ!】
 ――――オッ、ゲ、え゙っ!
「ナンカ死ヌホド顔色悪イケド、ソンナ辛ソウナラ出撃スンジャナイワヨ畜生!!」

 嘆き、毒づく軽巡棲鬼が先手を取るべく突撃し、ワンテンポ遅れて反応したひよ子が自我コマンドを入力。互いの重心を崩すべくがっぷり四つに組んだところで、ひよ子と北上の動きが完全に止まった。
 何かの罠かと疑った軽巡棲鬼が怪訝そうに北上の顔に注目すると、顔面蒼白になって必死になって口を閉じ、歯を食いしばっているのが見えた。ついでに喉も腹も何か嫌な感じに痙攣していたのも見えた。
 限界寸前のひよ子が呟く。

 ――――も゙、も゙ゔ駄゙目゙……吐゙ぎぞ……ゔぉ゙!!

 他艦の那珂にいるひよ子の声など聞こえなかったはずだが、それでも数秒先の最悪を察知した軽巡棲鬼が手を放すよりも先に後退して距離を取ろうとしたせいで北上(&ひよ子)が前に引っ張られてバランスを崩し、軽巡棲鬼の上にのしかかる形で2人とも転倒。互いのおでこをぶつけ、噴出寸前の北上の顔と軽巡棲鬼の顔がニアミス。
 転倒の衝撃と、自重で圧し潰された腹の圧迫感が最後の引き金だった。
 超展開している北上の腹から絶望的な痙攣。そこから上って喉から口へと、何らかの流体が殺到する。

 ――――!!
【!!】
「!!」

 酸っぱい匂いのする音と液体が、超展開中の重雷装艦サイズの構造物から、鬼種軽巡洋艦型深海棲艦の顔面に向かって、逃げるも防ぐもできない超至近距離から大量に降り注ぐ。
 因みに外からでは聞こえなかったが、北上の艦内ではひよ子も胃が裏返らんばかりの勢いで盛大に吐いていた。
 噴出が止まったところで軽巡棲鬼は一度、押し倒された姿勢のまま上半身を海中に沈め、波に揺られる海藻よろしく全身をぐにゃぐにゃと揺らして汁を洗い落とし、上半身を海の外に戻したところで何考えてんだこの野郎と言う代わりに、クルーザーユニットの左右に添えつけられた主砲の6inch連装速射砲ユニットにコマンドをキックした。万が一にも口の中に入ったら嫌だったからだ。
 現在装填中の徹甲弾から、二液混合式爆薬弾頭の榴弾に換装し、己の腹の上に乗ったままの北上もといゲロ上を吹き飛ばそうとした。
 そうしようとしたところで気が付いた。
 ひよ子の背後。空高くに、斥力場を蹴って天高く舞い上がった一隻の超展開中の駆逐娘の姿が見えた。艤装の形も変わっていたし服の色も深い赤系に変わっていたが、その駆逐娘の事を軽巡棲鬼はよく知っていた。
 駆逐艦娘『丹陽』

「!!」

 空中高く舞い上がる丹陽を見て、軽巡棲鬼に1つの記憶が蘇る。
 心臓が半オクターブほど高い脈動を打ち、心拍数も上昇した。
 2年前のトラック諸島沖。月明かり一つ存在しないブ厚い曇り空の夜。燃え上がり、天高く跳び上がる陽炎型の雪風と特Ⅰ型。

「ジョ、冗談ジャナイワヨ!!」

 驚愕する軽巡棲鬼が叫び、自爆上等の覚悟による榴弾の一斉射で北上を押しのけると、腰に引っ掛けてあったくすんだ灰色の金属製の円筒形の物体を手に取り、そこから安全ピンを抜き、安全レバーがバネの力で弾き飛ばされるのを確認すると、3つ数えてから自身と丹陽の間の空間に向けてアンダースローで放り投げた。

「ギニャ!?」

 カウントに誤差があったのか、手を離れた直後に円筒形が閃光と轟音を発して炸裂。おまけに濃密かつ高温のスモークと盛大な電磁ノイズを周囲一帯にまき散らした。空中で飛び蹴り――――深雪スペシャル――――の姿勢をとっていた輝と丹陽は空中で姿勢を崩して墜落し、ゲロ上もとい北上は這う這うの体で逃げ出す軽巡棲鬼を見送りながら、尻もちをついたような姿勢でへたり込むのが精いっぱいだった。
 超展開を解除する直前、ひよ子は背もたれに体重を預けて目を閉じた。原因不明の吐き気は、さらに酷くなっていた。

 ――――何なのよ、これ……何、が……何、で……?

 北上の艦長席に座り、複雑怪奇なシートベルトの迷路に力無く体重を預けたひよ子の呟きは、自身以外の誰にも聞かれなかった。





 それから数週間後の、帝国本土の有明警備府の第三艦隊執務室にて。
 人払いを済ませてすべての出入り口と窓に鍵をかけ、室内の盗聴器の有無を確認し、対外部盗聴盗撮デバイスをアクティブにしたその中で、同艦隊副旗艦である駆逐娘の『叢雲』と、比奈鳥ひよ子、そしてその麾下艦娘の潜水艦娘『プロトタイプ伊19号』の3人は向かい合って話していた。
 執務机の上に置かれた数枚の写真を手に取り、ひよ子からの報告を受け、叢雲が呟く。

「……なるほどね。トラック諸島の歌う鬼、軽巡棲鬼がまた暗躍してたわけね」

 写真はどれも、内側から破裂して一部が弾け飛んで大穴が開いている金属製の円筒形の物体が写っていた。高熱で炙られたのか、その破裂痕の周囲は黒く焦げていた。
 写真に写る円筒形はどれも、軽巡棲鬼が逃げ出す際に投げた円筒形――――スモークグレネードの破片や残骸だった。

「はい。輝君がこれの正体に気付いて、丹陽ちゃんに命じて回収してきたんです。この艦娘用スモークグレネード、有澤が一ヶ月前に出したばかりの最新の製品なんだそうです」
「軽巡棲鬼自身は南方海域、ていうかコロンバンガラ近海から動いたっていう報告は無い。なのに帝国最新の兵器を持っていた。つまり……ねぇひよ子。これ、他には誰に? あとこれの現物は?」
「第二艦隊副旗艦の長門さんがいなかったので叢雲さんに。他には誰にも。これの現物はプロト19ちゃんに」

 無言で佇んでいたプロト19ことプロトタイプ伊19号が、返事をする代わりに己のスク水のゼッケンを軽く指で引っ張ってスク水生地との間に隙間を作った。艦内に安置してある。ということだろうか。何故かそこから白いタコにも見える深海忌雷が挨拶代わりに軽く触腕を振っていたのが見えたが。

「ええ。それで正解よ。深海魚の連中が帝国の最新兵器を運用していた――――帝国軍内部に裏切り者がいて、それが誰なのか分からない以上、むやみにこの情報を広めるわけにはいかないわ。分かっているとは思うけど、この件は緘口令を敷かせてもらうわ。あと、現物はここのドックに置いといてね。こういう時用の番号振られてないドックね」
「はい。了解しました」

 そこで叢雲は、獰猛そうな笑みを浮かべて呟いた。

「久しぶりに有明警備府の本領発揮かしら。神通が使ってたっていう新型のリボルバー式射突型魚雷発射管の件もあるし、五十鈴牧場以来の大捕り物になりそうね……ところで」
「?」
「ところで、それ、なんなの」

 叢雲が指さすのはひよ子自身、否、ひよ子の着ている二種礼装――――提督の着ている白い服と聞いて連想されるアレ――――だった。
 よく見れば外側は普通の二種礼装だったが、内側は普通ではなかった。無数の細い糸状の何かがかすかに蠢いており、じっとりと湿っていたのが見えた。
 プロトタイプ伊19号などのD系列艦娘に乗艦する提督向けの専用装備、通称『触手服』だった。
 服の内側が湿っていたのは深海棲艦由来の、夜になるとなんかヌメヌメするローション状の自我伝達物質ことDJ物質が充填されているからだった。
 叢雲の疑問にはプロト19が答えた。

「それは提督、最近出撃すると動けなくなるくらい気分が悪くなっちゃう事が多いから、万が一の際に外部操作で動けるように着てるなのねー。それに、その触手服は19とかのD系列艦娘に登場する際の専用制服なのねー」
「D系列艦娘に乗艦する際の、知られてない副作用か何かでしょうか、この吐き気」
「……アンタらが来てからずっと、PRBR検出デバイスが弱い反応出してんのはそういう事だったのね……ああ、そう言えばひよ子もD系列艦娘との超展開に適正あるんだったわね、たしか」

 D系列艦娘――――深海棲艦由来の技術や素材をふんだんに使用した艦娘――――と、その専用装備の存在を知っていた叢雲がため息交じりに呟く『紛らわしいのよ』と。

「DJ物質、一度着くと洗ってもなかなか落ちないんですよね。ヌメヌメは取れても、PRBR検出デバイスに弱い反応出っぱなしになっちゃうみたいで。だからもう、私の所と新生ショートランドの艦娘達と、設置型レーダーには私の事は例外設定にしてもらってるんですよ」
「……そう。とりあえず、表向きの訪問理由であるTKT九十九里地下本部への再召喚に備えての宿泊ってのは長門から聞いてたから、昔使ってた部屋は清掃してあるわ。召喚当日まで泊まっていきなさい」
「ありがとうございます。呼び出し目的は深海の艦載機からの情報吸い出し方法について(※とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!04参照)と、ついでの健康診断らしいんですけど、もう何度目なんでしょうね」
「そんなの私が知るわけないじゃない。ま、さっさと終わらせて来るのに越したことはないわ」
「そうですね。それでは失礼します」

 ひよ子とプロト19が敬礼。踵を返して部屋の外に出てもう一度敬礼し、ドアを閉めようとしたところでひよ子が『あ』と小さく声を上げた。

「そういえば、長門さんはどちらに?」
「溜まってた有給の消化中よ。今日は長門達だけで同窓会やるそうよ」

 TKTからの召喚は明日だし、今日は町でゲーセンにでも行こうとのたまうひよ子とプロト19が部屋の外に去ってからしばらくして、叢雲は椅子に体重を預けて天井をぼんやりと見やりながら呟いた。

「……もう、無理かしら。今の見てたら、アンタはどう思うのかしら、長門」



 とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!
 第9話『戦艦長門のしょうしつ』



「くしゅん」
「誰かに噂でもされたか。有明の」
「人気者だからかな。呉の」

 滋賀県は琵琶湖上、多景島の見塔寺。
 本作戦の指令所となったそこに有明警備府所属の戦艦娘『長門』はいた。有明警備府所属じゃない『長門』も複数いた。
 テーブルの上に置かれた軍用無線機に、各所からの通信が入る。その全てが、本作戦に参加している戦艦娘『長門』からのものだった。

『狙撃A班。目標は依然視認できず』
『突入B班。彦根城地下秘密搬入路、確保完了。なれど舞咎院方面の隔壁が下りている。解放不可。パスコードが変更されている。目標直下までの経路の確保方法はプランBに変更。爆薬を持ってきてくれ』
『盛り方は? レギュラー? それともマックス?』
『マックスだ』
『制圧C班。ステンバーイ、ステンバーイ、ストゥェンバァァァイ……』
『降伏勧告D班、配置についた』
「指揮艦、有明警備府の長門だ。作戦に参加してくれた全ての長門達へ。協力、感謝している。嬉しかったよ」

 ここで有明の長門は一度深呼吸してから続けた。

「……さて。では改めて作戦の再確認だ。今回の作戦目的はここ、舞咎院の兵器工廠に配置されている戦艦娘『長門』の確実な殺害にある」

 その作戦目的の異質さに、この場に集った長門達が微かに戦慄する――――自分で自分を殺すなど!

「目標は現在、舞咎院兵器工廠を不法に占領し、籠城している。殺害の件は伏せた上で降伏勧告を行い、それに応じるなら確保後に殺害。応じなければ制圧する。だが、舞咎院地下の設備には間違っても損害を与えるな。特殊で替えの利かない兵器サンプルやそのパーツの研究・開発を担っている数少ない工廠がここだからな」

 舞咎院兵器工廠。
 かつての世界大戦当時、苛烈さを増し始めた合衆国からの本土空襲を避けるべく当時の軍は、琵琶湖の多景島から少し北上したところにちょっとした大きさの偽装島を作り、その地下岩盤のさらに下まで掘り抜いて、そこにそれなりの規模の秘密工廠を作り上げた。それが舞咎院の兵器工廠である。ラムサール条約はどうした。
 その偽装工作の一環として、地上の島には植生と、憂捨宗等救派舞咎院なる架空の神社仏閣を建築し、とうとう終戦を迎えるまで敵の目を逃れ続けた、由緒正しい秘密工廠である。ラムサール条約はどうした。

「ねー☆ 有明のながもんちゃーん☆」

 無線で感謝の意を示し、作戦の概要を話していた有明警備府の長門に、後ろから別の長門が声をかけた。
 明るいピンクをベースに、白いフリルがやたらとくっついた、昨今流行りのアイドル系衣装に身を包んだ戦艦娘の長門だった。手には無線式マイクと歌詞のカンペを持って明日の生ライブで歌う予定の新曲の歌詞と振り付けのソロ部分を練習しながらだったが。

「ん、何だ。横須賀の」
「私達ながもん達だけでこんな大掛かりな作戦を、それも秘密裏にやる理由は何なのかなー☆ 反艦娘派に余計なエサを与えないためだとしても、この情報統制っぷりは過剰じゃない? 長門型だけの同窓会だなんて嘘ついて、情報統制用のらりるれろウィルスまで軍用ネットワーク上に捲いてまでさ」
「それは……長門(我々)のメンツを守るためだ」
「本当ぉー?」
「ああ。本当だ。というか何があった。お前、そんな那珂や桃みたいな口調や服装じゃなかっただろう」

 そこで横須賀スタジオのながもんもとい長門はすべての表情を消し、瞳から輝きを消し、軽くうつむき、力無く呟いた。

「……明日のライブでお披露目する新曲から、こういう路線に変更すると、私のプロデューサーが」
「……そうか」
『狙撃A班より正門前の降伏勧告D班、A班よりD班! 目標に動きあり。舞咎院の屋根上。ドリルだ、ドリルの下だ!』

 片手に拡声機を持ち、舞咎院の正面大門前に陣取っていた降伏勧告担当の長門は見た。音もなく天窓を開け、一人の長門が舞咎院の屋根の上に仁王立ちしたのを。
 狙撃A班に振り分けられていた二人の長門も見た。一人は狙撃銃のスコープで、もう一人のスポッターは手持ちの双眼鏡で。
 そして、各班の状況把握のために降伏勧告D班に持たされていた小型マイクとCCDカメラを通して、現場の状況は狙撃班にも制圧班にも作戦本部の長門達にもしっかりと届いていた。
 屋根の上に仁王立ちするそいつは長門型の制服は着ておらず、GパンとTシャツのみという、なんともな軽装だった。
 そして元気いっぱいの笑みで、多景島の作戦本部にまで聞こえそうな大声で叫んだ。

「箱根の、じゃなくて長門のみなさぁぁぁぁん、うざがられるものですよー!!」

 現場も作戦指令所も、突然のシャウトとその内容に思考回路がフリーズする。例外は、詳細を知っていたごく少数の長門達だけだった。
 ピンク色のフリフリ衣装を着た横須賀スタジオ所属の長門がモニタの向こう側を指さし、大きく目を見開いて『何、あれ』と呟いた。
 その数少ない例外である有明警備府の長門が、頭痛をこらえるかのように片手を額に添えて、事情を説明した。

「……元帝国軍大本営直属一等粛清艦。現舞咎院兵器工廠、警備課所属の戦艦娘長門」
「噓だろう。年始の挨拶の時はあんなに真面目だったのに。一等粛清艦を務める彼女にいったい何が――――」
「彼女は、後天性の完全コンタミ艦だ」

 それを聞いた、横須賀スタジオの長門をはじめとした、事情を知らぬ長門達が完全にフリーズする。
 
「原材料となった人間の名前は古黄戸 蘭。元国際指名手配犯だ。高速道路の支柱爆破、雨の日を狙った地下鉄毒ガス、上水道への致死性バクテリア混入とそれに続けてデマゴーグとアジテーションからの暴動誘発・拡大、炭疽菌と間違えて納豆菌まみれの白い粉入り不幸の手紙無差別郵便に、クレイドル03社製の飛行機爆破が判明しているだけでも5件。とにかく、大勢の人々が死んで嘆いて苦しんで、パニックが拡大するのが見たいという愉快犯型テロリストだ」

 因みにコンタミ艦とは、原材料となった人間の記憶や人格が何らかの理由で消え残ったり、突如として部分的に復活してしまったイレギュラーな艦娘の事を言う。
 そして完全コンタミ艦とは、記憶も人格もほぼ100%保持しているそれを指す。

「……つまり、我々も、ある日突然ああなる可能性が常にある、と?」
「人間だったころの記憶や人格を取り戻す可能性がある以上は。そして、なぜそれらを取り戻せるのかのプロセスが不明な現状では、その可能性は常に。不本意だが」
「……」

 それを聞いた横須賀スタジオのながもんちゃんは、あんな事になる可能性が1%でもあるならばと、何も言わずにそのまま手刀にて切腹した。
 ほぼ同時に、通信が殺到した。

『制圧C班より司令部! C班より司令部! 医療班をよこしてくれ、今の発言を聞いて何人か舌噛み千切った!』
『こっちにも来てくれ! 一人じゃ手が足りない!!』
『よせ、やめろ! ピストルは逃げる味方を撃つものだ、自分のこめかみじゃない!!』
「……やはりこうなったか。医療班、指揮所に来てくれ。重傷者一名だ。B型バケツと拘束具、あと猿轡も忘れずに頼む」

 有明警備府の長門は頭痛をこらえるために顔をしかめ、舌を噛み千切ろうとしていた別の長門をアゴ狙いの裏拳で気絶させつつ通信機で治療担当の長門達に連絡を入れた。
 これがあるから事情を知らない長門を連れて来たくはない、しかし、事情を知り、なおかつ覚悟を決めた長門の数があまりにも少ないから連れてこざるを得ないし、記憶を取り戻した長門を放置する事もできない。あんなんが自分の原型(オリジナル)だと知ったごく普通の長門達は今しがたのようにごく普通に自決を選ぶ連中が大多数だし、そもそもこんな醜態を晒す汚物を他の人間や艦娘らに知られるわけにゃあいかんのだ。

「今回の武装蜂起も、私達普通の長門の絶望する顔がたくさん見れそうとか、きっとそんな理由なんだろうな」

 降伏勧告D班の持つカメラとマイクには『長門としての私は今まで散々後ろ暗いことを働かされてきました、ですのでこれ以上働いたら負けでーす!』『親の遺産で食うタダ飯はたいへん美味しゅうございまぁす!!』などとのたまう長門の姿が映っていた。
 これ以上はちょっと、機密保持的にも無理だろうなと有明警備府の長門は判断し、無線機をとった。

「司令部より各班。司令部より各班。目標を制圧せよ。繰り返す。手段は問わない、これ以上あのバカが口を開く前に始末しろ」
『狙撃A班了解。射殺する』



「狙撃A班了解。射殺する」

 多景島の茂みの中で、スポッター役として双眼鏡をのぞき込む長門が無線を切る。
 その隣で、マクラミン・ステンバイ社製のギリースーツで全身を覆い隠した狙撃担当の長門が、右足のカカトに尻を乗せた膝撃ち体勢――――ローニーリング姿勢で狙撃銃を保持したまま、かすかに上半身を動かして照準を微調整した。

「風速0。障害無し」
「そのニヤけたツラを吹ッ飛ばしてやる……! 逝け、忌まわしい記憶とともに!」

 狙撃担当の長門が、肩に担いだ大口径対物狙撃銃、バレットM82A2の引き金に掛けた指をゆっくりと引き絞っていく。
 撃鉄が落ちる直前、二人が耳につけているイヤホンから、ひどく耳障りな雑音が大音量で飛び込んできた。
 何事かと思って引き金から指を離す。音は、降伏勧告D班が持っていたマイクが拾った音だった。

「舞咎院の、屋根上に通じる窓枠だな。さっき奴が出て来た時に使っていた窓だ。内部協力者と思わしき人間2名が窓から屋根上に出て来た。相当ガタツキが酷いらしいな。地上にいるD班のマイクに拾われるくらいだなんて――――」

 双眼鏡で音源を確認したスポッター長門のぼやきに、狙撃担当の長門が疑問を発する。

「? なぁ、先程、奴が屋根の上に上って来た時にも窓を開けたよな? その時に、こんな音はしたか?」
「いや、していなかった筈だが……ちょっと待て、射撃中止だ」

 何かを察した狙撃担当の長門がスコープのレンズ越しに狙撃対象――――舞咎院の長門を入念に観察し始めた。違和感の正体はすぐに見つかった。
 近くの木から落ちて舞った一枚の葉っぱが、舞咎院の長門の体をすり抜けたのがはっきりと見えた。

「あれは……ホログラファーか。艦娘の艦内で立体映像を投射するための。取り外して持ち込んだのか」
「だとするとあれは囮か。我々に先手を取らせるのが目的とするならば……!」

 言い切るよりも先に、舞咎院の屋根瓦の隙間から、何かに反射した光が一瞬だけキラリと輝いた。スポッター長門が無線に叫ぶ。

「狙撃A班より全班、Aより全班! カウンタースナイパーだ、寺院内にスナイパーがいるぞ!」



『狙撃A班より全班、Aより全班! カウンタースナイパーだ、寺院内にスナイパーがいるぞ!』
「もっちー、気付かれた」
『一発も撃つ前に気づかれるとか、ちょっち甘く見過ぎてたかな?』

 舞咎院の屋根裏。狙撃A班の長門達が見つけた反射光の発生源。
 埃を掃除し、ふかふかのクッションと大量のスナック菓子とペットボトル入りジュースと携帯トイレ、手ブレ防止用のジアゼパム錠剤を持ち込み、最低限の居住性を確保したそこでは、片手に双眼鏡、もう片方の手で大型無線機のヘッドホンを片耳に押し当てて長門達のやり取りを盗聴している吹雪型駆逐娘の『初雪』と、銃身を半ばまで外に突き出し屋根瓦の重みで銃口を安定させたドラグノフ狙撃銃を伏せ撃ち姿勢で構えたまま、無線で初雪とやり取りする睦月型駆逐娘のもっちーこと『望月』がいた。

「てかもっちー、こっちの居場所割れたけど本当に大丈夫なん?」
『ん、大丈夫。こっちから撃たなければ。物騒なこと言ってるけど、あっちも物理制圧は最終手段だろうし。あたしらの目的はあくまでも労働日数の改善であって、徹底抗戦でも軍に弓引くことでもないし。これはあくまでも武力突入を防いで、有明警備府の長門さんをタイマン交渉の席に着かせるための示威行動――――』

 その時、初雪の盗聴装置が長門達の無線をまた傍受した。
 今度は、音割れ激しい連続した銃撃音が入っていた。

『地下搬入路の突入B班! 高度な抵抗に遭遇! 半開きの隔壁をトーチカにした重機関銃陣地とか聞いてないぞ!! それと敵は長門一人じゃない、阿賀野と加古と白雪もいる、どこの所属かは知らないが!!』
『っあんの、バ賀野とバ加古!! あいつら二人ともブリーフィングで何聞いてやがった、寝てたのか!? あと白雪は何なんだよ!?』

 その名前を聞いた途端、望月は激昂しつつも咄嗟に狙撃銃を手放して真横に転がって死地を脱した直後に正面の瓦屋根と梁を大口径銃弾がブチ抜いて大穴がいくつも開き、望月が寸前までいた場所も盛大に砕け、初雪は二人分の白旗を用意すると、壁抜き狙撃を警戒して匍匐前進しながら望月ににじり寄った。

「寝てたんじゃないかなぁ、あの二人だし。それと白雪は……何なんだろね。ジャガイモとヴルストの国との親善交換留学から帰ってきてからトリガーハッピーに磨きがかかってるし」
「白雪のアレ、トリガーハッピーというか、もうすでにウォーモンガー(戦争狂)な気がすんだけど。留学先のモンティナ・マックス戦闘大隊で何かされたんかな?」
「されちゃったんじゃないかなぁ。白雪、あっちの指揮官の少佐とものすごく意気投合してたくらいだし。はい、もっちーの分の白旗」
「ん、サンキュ。すぅ……待ってくれ、降参だ!」

 大声で叫び、穴から白旗だけを覗かせて振る。追撃が無かったことから、望月と初雪はゆっくりと舞咎院の屋根上に出て来てホールドアップした。

「私らは、指示されたとおりやっただけなんだ。徹底抗戦なんてするつもりもない」
「それに、一発も撃ってないし、そっちにも死人怪我人は誰も出てない」

「「ノーカウントだ、ノーカウント!!(CV:ここだけ楠見尚己)」」

「な、わかるだろ?」
「同じ艦娘でしょ?」

 そのしばらく後、地雷やブービートラップ、二人が偽降伏している可能性の類を警戒しながら壁をよじ登って来た長門らに二人は拘束され、屋根に空いた穴を通じて屋内に長門達が突入を開始。地下の阿賀野と加古と白雪もまた、陣地を放棄して後退。遅滞戦闘を開始した。
 そして突入からそうも経たない内に目標である長門は院の地下で補足され、包囲された。
 完全包囲された長門は己の危機にも関わらず言う。

「やぁ、諸君。こんな回りくどい手を取って皆を集めて済まなかったな。緊急で伝えたい事があったのだが、どこまでそうなっているのか全く分からなかったし、調べようもなかったんだ。確実を期したかったのだ。これだけ大勢いるんだから、最悪でもこの中の一人くらいはまだ大丈夫だろう。手短に言うぞ、軍上層部が危険だ。あそこに裏切り者が二」

 銃声が鳴り、ほぼ同時に頭どころか上半身が消し飛び、肘から先の両腕が地面にボトリと落ち、下半身が軽く吹き飛ばされて地面に倒れこみ、舞咎院の長門は永遠に沈黙した。
 大口径の機関砲弾の直撃。

「ッ! 誰が撃ったァ!?」

 射線に向かって振り返ると、場所を移動しつつ戦闘を継続している阿賀野と加古と白雪達と長門達の銃撃戦現場が見えた。その誰もがこちらには気づいていないようだった。

「有明の。あまり気にする必要はないと思うぞ。こんな奴だったんだ。どうせ、我々を疑心暗鬼に陥れるためのブラフだったんだろうさ」
「佐世保の」

 結局、尋問どころか死体の脳から情報を吸い上げることも不可能になり、先の言葉の続きを聞く機会は永遠に失われた。



「……疲れた」
『長門。聞こえる?』

 撤収作業中に、珍しく弱音を吐いていた(他の長門も大体そうだったが)有明警備府の長門の脳裏に接続要求のポップアップウィンドウが浮かぶ。要求元を確認すると有明警備府からだった。自我コマンドで許可を出す。

『叢雲か。どうした』
『休暇中に悪いけど、今すぐ北海道に飛んで貰えない? 艦娘によるテロよ。それも帝国兵器開発局、夕張支部の長門による』
『……また長門か』
『? 今日の同窓会で何かあったの?』

 辛うじてため息をこらえるも、無線の向こう側にいる有明警備府の叢雲には察せられたようだった。

『いや、大丈夫だ。今ちょっと後片付けの掃除中でな』
『そ。で、テロなんだけど、その帝国兵器開発局のお偉いさんがついさっき、直接、有明警備府(ウチ)まで足を運んで来たのよ。回線越しじゃ話せない依頼だって』
『どう考えても厄ネタだな』
『案の定厄ネタだったわ。でもその分いつもの追加予算や追加資材だけじゃなくて、それ以外の追加報酬も吹っ掛けてやったし、飲ませてやったわ。私ら有明警備府はアンタらのパシリじゃないのよって。あ、でもなんでかいつもよりあっさり受け入れてたのはちょっと気にかかるけど』

 無線の向こうで叢雲が不思議そうに呟いた。

『了解した。場所は?』
『北海道の夕張市、模擬演習用町。私もちょっとした下調べで現地に行くから、詳しい話はそっちで』



 北海道は夕張市の某所に、件の模擬演習用町は存在する。
 その名前から大体の想像ができるように、この町はその四方を背の高い対爆コンクリートと重合金製の一枚板と吸音・防音材を組み合わせた複合装甲で囲み、その内側に完全無人の市街地を再現した帝国軍渾身の演習場である。
 その凝り様は徹底的であり、シューパロ湖を水源とする、市から完全に独立している上下水道システムが各家庭に通っているのは当然として、専用の発電所やガス供給システムに、郊外のスーパーと同規模のPXや、そこに物資を供給するための生産工場に、小・中学校を模した建物まで設けているくらいである。やろうと思ったらここでも暮らせるし、それを想定した超長期間の演習も可能だ。だって畑と田んぼまであるんだぜ。
 名前に町なんてついているが、書類上では夕張市から有償で借り受けている何の変哲もない演習場とされており、この背ェ高ノッポの隔壁もまた、内外を区切るフェンスのようなものと軍は公式な声明を発表している。
 回りくどくなってしまったがつまり、他所の演習場と同じくこの隔壁の向こう側はもう、軍が掌握しているある種の治外法権的な特区であり、そこで何が起こっても市側が察知することはないということである。

「で、テロなんだけど。ハイジャックでもシージャクでもなくて……演習場ジャック? て言えばいいのかしら、この場合。とにかく、帝国兵器開発局所属の長門がそこを占領して、そこで新兵器を開発していた2つの研究チームのうち、自身の所属していた方を班長以外の全員を殺害。それから声明を発表したわ『指定した時刻までに帝国兵器開発局から今回の新兵器開発の件に対する公式な謝罪が各民放、ラジオ、インターネット、それら3つ全ての媒体に放送されなかった場合、核爆発を起こす』って。ちなみに班長は逃げおおせて無事よ」
「核爆発?」
「ハッタリじゃないの? って私も言ったんだけど、なんでも開発局で新兵器を2つ作ってて、その一つが上手い事、いえ、下手したらかしら? とにかく、理論上は起こせるらしいのよ。核爆発」
「むぅ……厄介な」
「まぁ、最初は交渉からかしらね。暴力沙汰は最終手段でも間に合うわ」
「では私が行こう。何、同じ長門型だ。きっと話は通じるはずだ……多分」



 そんな演習町の、黄昏時のとあるビルの一室。
 四方をコンクリ壁に囲まれただけの質素な、しかし外からは全く確認できない一室に件の長門はいた。何故かカレーを食いながら。

「むぐ……来たか」

 その部屋唯一の出入り口から入ってきた、有明警備府の長門はそれを見て、どのように説得交渉すべきかまとめた言葉や状況対処シュミレーションがすべて脳内から揮発してしまった。結果、その口からは何とも間抜けな一言だけが出て来た。

「……何故カレーを食っている」
「最後の晩餐くらい、好きなのを食べても問題ないだろう」
「いや、そうじゃなくて」

 そうじゃないのは自分の方だろう。そんな阿呆な事を言いに来たのではない。有明の長門は脳内で己を𠮟咤した。

「有明警備府が、あの『黒い鳥』尾谷鳥艦隊が出張って来たという事は、つまりそういう事なのだろう? 私の要求は黙殺され、私もここで始末されるというわけだ」

 尾谷鳥少佐はもう引退してるし、説得に来たんだ。
 有明の長門がそう言うよりも先に、夕張の長門はすべて察していると言わんばかりに静かに首を振った。

「陸奥に試作型の新兵器を取り付けた班長は笑っていたよ『これではまるで、光の国のドラ焼きならぬ、海の国のドラ焼きだな』と。陸奥も笑っていたが、その日の夜に首を吊った。ワイヤーロープはちぎれていたが、地下一階まで床天井をブチ抜いて首の骨を折ったんだ。苦しまなかった筈だと信じたい」

 そして有明の長門もまた、静かな口調からにじみ出る重圧から、説得は不可能であることを察した。

「……復讐か」
「そうだ。艦娘として、戦いの中で死ぬのならば、いかな不条理・不合理な作戦でもいつかは私は陸奥の死を受け入れただろう。だが、これは違う。全く違う」

 夕張の長門は空になったカレー皿を足元に置き、スプーンを握りしめた右腕を高く上げ、静かな音量で、だが決断的に宣言した。

「陸奥は、私よりも立派な戦士だった。あのような死に方でいいはずがない。それを分からせてやる」

 夕張の長門が自我コマンドを入力。

「ダミーハート、イグニション。戦艦長門改二、超展開」

 改二型戦艦娘のくせに、駆逐娘とそう変わらない量の閃光と轟音だけを発すると、長門は左の握りこぶしを顔の横に、右の握りこぶしを天に掲げた姿勢でぐんぐんと巨大化し、ビルを突き破り、夜の無人の街中にその姿を現した。

「正気か、夕張の!? 艦娘形態からの一足飛びでの超展開はトップシークレットより上のブラック・ファクト(存在しない事実)指定だろう!? まだ!!」
『長門、聞こえる?』

 一角が崩れ始めたビルから脱出し、超展開を終えて巨人となった夕張の長門を見上げる有明の長門に無線が入った。

「叢雲か」
『どうも説得は失敗したみたいね』
「ああ。どうやら最初から決意を固めていたようだ。ろくに話もできなかったよ」
『そう、それじゃ最終手段ね。そこのすぐ裏に、開発中だったもう一つの新兵器があるそうよ。なんでも、重要施設の近くでも戦艦級の艦娘を『超展開』できるようにする対爆チェンバーの試作品だって。そこでなら『超展開』出来るわよ』
「了解。あれか」

 有明の長門の視界のすぐ先、今しがた出て来たビルのすぐ裏に、開閉式の大型ドームスタジアムによく似た建築物があった。違うところと言ったらスタジアムには必須の大掛かりなエントランスは無く、ただ武骨で質素な、人ひとりが身をかがめてやっと入れるくらいに小さく丸くて分厚いハッチだけがあった。
 そのハッチを開け中に入った有明の長門は、普通のドームスタジアムならグラウンドがある全面に水が張られているのを見た。水は微妙に濁っており、底は窺えなかった。ハッチは自動で閉まり、ロックされた。

「この臭い……塩水。いや、海水か。浮力を稼ぐだけなら塩水でも良いのに、なんでわざわざ?」

 まぁいいかと心の中だけで呟くと、足元に浮いていた安物のゴムボートを使ってドームの中央まで行き、そこで長門型戦艦本来の姿形とサイズに『展開』した。ドーム内は瞬間的に、爆発によって生じた衝撃波と反射波、海水が蒸発したことによる高熱・高圧に満たされたが、長門にもドームにも異常は見受けられなかった。

【ふむ、このドーム、駆逐艦あと一隻くらいなら一緒に入れそうだな。ドームの背は少し不安だが……いけるか?】

 全長224.94メートル、総排水量【乙女の軍機】トンの戦艦に戻った長門が念のためにシステムをチェックし、何も問題がないことを確認すると自我コマンドを入力。動力炉の出力を上げ、無人の艦長席に有線接続されている銀色の円筒に向かってコマンドを流した。
 すると、これといった異常は無かったはずの戦艦『長門』の艦首が天に向かって傾いていき、その船底を大気に晒し始めた。天井の高さが足りなかったので艦尾のあたりが水没していたのは見なかった事にしてやろう。
 そして完全に艦体が垂直方向になると、長門は絶叫した。

【ダミーハート点火。戦艦長門改、超展開!!】

 ドーム内に太陽が発生する。
 先程の『展開』時とは比べ物にならない熱量と圧力で瞬間的にドームは膨張・爆発。耐熱の甘かった一部が蒸発し、大小様々な複数のパーツに分かれたそれらは上昇気流と爆圧に乗って盛大に四散した。いくつかは町の隔壁に突き刺さり、一番派手に吹き飛んだ屋根の一部分に至っては壁すらも越えて夕張市街まで飛んでいった。
 ドーム天井を吹き飛ばし、外気に露わになった極小サイズの太陽の熱が周辺大気を押しのけて、夜の無人の都市から闇を消し、巨大なキノコ雲を連続で噴き上げる。
 その極小太陽の中心部。
 太陽黒点にも似た黒く小さな球体が現れ、ゆっくりと肥大化していったのが見えた。ある程度の大きさにまで肥大化すると成長を止め、ゆっくりとその形を変えていった。間隔を開けて巻き起こる爆発音は、まるで心臓の鼓動の様だった。
 5分ほどかけて黒点だったものが、膝を抱えて丸くなった人のようにも見える形になると、最後にひと際大規模な爆発が発生した。
 そして、その爆発と閃光が収まると、艦娘としての長門が立っていた。
 ただの艦娘ではなかった。姿形こそ普通の艦娘とそう変わらないが、そのサイズが巨大だった。先に巨大化した夕張の長門と全くの同サイズだった。
 ドームの残骸の中の海水だまりに立つ有明の長門と、その少し手前に移動してきていた夕張の長門。二人の巨人が夜の無人の都市で対峙する。

 長門型の戦艦娘。

 妹の陸奥を含めてその開発目的はひたすらに単純明快で『深海側の決戦兵器、戦艦ル級およびその護衛艦隊を単独で撃破する事』である。
 1995年のシドニーにて初めて存在を確認され、当時の対艦娘キルレシオ1:1000という嘘か冗談のような数字を叩き出していた深海側の最終兵器、戦艦ル級。
 そんな化け物を相手に何か策はあるのかといえば、何も無かった。策を練るための時間もあまり無かった。そもそも、ル級一匹を撃破するのに必要な砲弾を一隻の艦娘に搭載するという事が出来なかった。試算だけでも非現実的な数字だったし、実際に消費された量も悪夢的な数字だった。ある程度の情報が集まり、ノウハウも確立しつつある現在ですら五十歩百歩だ。
 なので長門型艦娘は、超展開した艦娘の基本骨子に従い、よりシンプルな対抗策で行くしかなかった。
 超展開した艦娘の基本骨子。
 すなわち『グーで殴れ』
 これを徹底的に突き詰めたのである。主砲や機銃はル級の護衛艦隊や航空戦力などを遠距離で相手取り、ル級に接近するまでに仕留めるためのものでしかない。
 そんな長門型の長門が2人、拳の届く距離でにらみ合っていた。

『夕張の。投降しろ。まだ間に合う』
『断固として、お断りする』

 その一言を最後に、両者は同時に自我コマンドを連続入力。砲塔群や対空機銃などを設置してある艤装を腰部ジョイントからパージ。完全にステゴロになると同時にバックステップ。ある程度の距離を開けて構えた。
 有明の長門は足を開いて腰を落とし、両手十指は握らず伸ばしたまま腕を軽く曲げて構えた。対する夕張の長門は両手を腰に当てた仁王立ち。
 有明の長門の脳裏に、警告メッセージが浮かび上がる。

【メインシステムデバイス維持系より警告:左右脚部の運動デバイスに異常な過負荷が発生しています】
【メインシステムデバイス維持系より警告:左右脛骨ユニットに異常圧力。亀裂発生の恐れあり】
『む』

 海水浮力が消えたことによって全排水量が両脚に掛かっている事を示すシステムアラートを意図的に無視。無視できない異常負荷はビッグセブンとしての意地と誇りとド根性で我慢する。

『委細問題無し!』

 先手は有明の長門が取った。ダッシュで間合いを詰め、走る勢いそのままに右の拳を顔面に叩き込んだ。
 それを無防備に左の頬で受け止めた夕張の長門――――長門改二は、多少顔が歪んだだけで大したダメージにはなっていなかった。

『ふぁれふぁれ(我々)にゃがとの基本戦闘スタイルは、左で受けて――――』

 夕張の長門が拳を握り、上半身をひねる。
 振る。

『右で仕留める!』
『!!』

 有明の長門は両手を差し込みガードを間に合わせるも、それの上から左の頬を殴られ、たたらを踏んだ。
 そこに追撃のヤクザキックが有明の長門の腹に入る。蹴りそのものの速度と威力はあまりなかったが、有明の長門は押しのけられて完全にバランスを崩し、背後のビルを崩落させながら背中から倒れこんだ。
 崩れ落ちたビルの破片や瓦礫が長門の上やら周りやらに降り注ぎ、大量の粉塵がもうもうと舞って二人の視線を遮った。
 粉塵煙幕の中、倒れた姿勢のまま有明の長門は呟いた。

『……流石は改二型。単なる改型では正面から相手取るのは難しいな』

 自我コマンド連続入力。視界が遮られている内に姿勢を立ち上げ、圧縮ファイルを多数生成し、ついでに右手の中にビルの破片を握りこんだ。
 立ち上がる。
 煙幕越しに、右手の中で砂利交じりの微細な粉末と化したビルの破片だったものを、夕張の長門の顔面目掛けてアンダースロー投法で投げつけた。
 続いて自我コマンドを入力。通信接続を要求。

『聞こえるか、夕張の。これを見てくれ!』
『いきなrrrrr』

 回線が接続されると同時にそれを通して圧縮ファイルを夕張の長門の空き領域にありったけ流し込む。自動解凍属性を付与されたそれらは解凍前にメインシステム電子免疫系にて検閲されるも、戦闘行動中につき簡易のスキャンチェックのみが行われ、そこで脅威がないことを確認された後に自動解凍された。
 その結果、圧縮時は30メガバイトかそこいらだったはずのファイルからさらに圧縮ファイルが飛び出しそれらも自己解凍をはじめ、最終的に30ペタバイトほどの無意味なテキストデータや、断片化して意味消失している何らかのプログラムのコード片となった。
 ZIP爆弾。
 そう呼ばれる電子攻撃の一種である。
 有明の長門はこれをさらに無数に送り付け、夕張の長門から予備どころか、戦闘系のシステム運用に必要な大部分のシステム資源を完全に削り取った。

『こ 』

 夕張の長門の動きが目に見えて悪く遅くなる。当然である。巨大な人型という、およそ尋常ではない姿形とサイズの兵器こと超展開中の艦娘。それは運動補助用の機械小脳や戦闘補助用OSなどの補佐があって初めて(あのサイズの兵器にしては)機敏に動けるのだ。
 それでも現在の夕張の長門が動けているのは、艦娘としての長門の脳と意思だけで何とか艦娘システムを――――超展開しているこの巨体を――――動かしているからにすぎない。動けるだけでも称賛されて然るべきである。
 追撃として、まだ無事だった近くのビルの屋上から新発売のビールの看板を引っこ抜くと、その面の部分を夕張の長門の顔面にほどほどの力で叩きつけた。衝突した看板は、歪んだ看板の面が顔に張り付き、視界を完全に奪い去った。
 その状態で水月にボディブロー。左のリバーブロー。弁慶の泣き所に向かって全力トーキック。肋骨の内側をえぐり取る要領でアッパーカット気味のフックを何度も叩き込んだ。
 そして最後に、祈るように固く握りしめられた両手による全力のハンマーブローが後頭部に振り下ろされ、夕張の長門は地面を揺らしてその場に倒れ伏した。

『ほう』

 有明の長門は感心したように呟いた。

『こういう小細工交じりの闘り方は、以前何度か共闘したことのある井戸水技術中尉の得意分野なのだが、意外と使えるな』
『そうか。では私も試してみよう』

 システムを強制再起動して復旧した夕張の長門から、大量のファイルが送り返されてきた。
 不正接続警告が出るよりも早く強制ロックされた通信回線を通じて、先程送り届けた解凍済みデータ群のうち、意味消失していたプログラムのデータ断片群だけが選択送信されてくる。そしてそれら断片群こと、全てのデータを取り戻した分割・合体型ウィルスが本来の機能を発揮する。
 有明の長門のメインシステム電子免疫系は即座に白血球プログラムを起動し、ウィルスを駆除しにかかる。だが消される端からウィルスは増殖を続けしぶとく抵抗。重要なセンシングデバイスやメインシステム戦闘系がダウンするなどの致命的な悪影響はなかったものの、システム的には無視できない多大な負荷がかかっているらしく、有明の長門が一歩踏み出すよりも先に右のミドルキックを脇腹に叩き込まれ、拳を握って振り上げるようとして一瞬システムがフリーズ。全身各所に設置された機械小脳によるアシストが途切れた結果、有明の長門は致命的にバランスを崩し、中途半端に拳を振り上げた変な格好のままその場に転倒した。

『ああ。確かに。こういう闘り方も意外と有効だな。深海棲艦以外には』

 有明の長門が裏コマンドを入力。正規のコマンド群には登録されていない薬物信号をキックし、処理速度にブーストを掛けるも大した変化は無かった。
 その状態で手をついて立ち上がろうとするも、その動きはやはり緩慢だった。
 夕張の長門は、そんな有明の長門の頭を片手で掴み、その顔面をビルの壁面に叩きつけてめり込ませたまま疾走を開始。鉄筋コンクリートが大した抵抗もなく砕けていく。
 ビルを三棟ほど破壊したところで走る勢いそのままに片手だけで有明の長門を前方に放り投げ、別のビルに叩きつけた。ビルがクッキーか何かの様に砕け、その破片や瓦礫の中に有明の長門は軽く埋もれた。
 同じ長門でも、純粋な対深海棲艦兵器である無印や改型と違い、改二型では単純な強化改造の他、対人戦争を前提としている故に電情戦対策にも大きなリソースが割かれており、それが今の二人の差として表れていた。

『ああ、そういえば。実は私にも、陸奥と同じ新兵器が実験的に搭載されていてな。彼女ほど大型ではないが』

 夕張の長門が腰に増設されたポーチから、超展開した艦娘基準で小さな瓶を取り出し、親指だけで蓋をはじき開け、中身の白くさらさらした液体を飲み始めた。

『んぐんぐんぐんぐ……』

 夕張の長門が自我コマンドを入力。件の試作兵器の倫理ロックを解除しつつ準備送電を開始。
 試作兵器が搭載されている両手の、小指の先から手首付け根の外側にハーモニカの吹き出し口めいて整列し小さく区切られたスリットが無数に開いていく。スリットこと噴射口が解放された後、手首内に設置された試作兵器が強制冷却されはじめた事により、夕張の長門の手首もまた霜が降りるほどに冷やされ、手首内部の円形加速機のコイルが音もなく磁場を形成した。

 そして全身の筋肉を適当な緊張とリラックスさせる事により、試作兵器に設けられた複数の安全装置が最終の1つを残して全て解除された。

『ぷはぁ。説明を受けてもよく理解らなかったのだが、加粒子砲、というものらしい』
『!!』

 加粒子砲。
 あるいは荷電粒子砲。

 驚愕する有明の長門を目視照準しながら夕張の長門は五指を伸ばした右手を顔面の前に立て、同じく五指を伸ばした左手を水平にして右手首に当てる。それによって試作兵器に設けられた最後の安全装置が解除された。
 そして今しがた飲み干した白い液体――――調達も保存もそこそこ容易な金属化合物のコロイド溶液――――を体内に増設された専用臓器にてイオン化。それを霜の張った手首の加速器内に誘導し、その内側に埋め込まれた円形コイルにて電荷を帯びた粒子が際限なく加速していく。
 そして加速が十分速度に達したと判断したシステム戦闘系が夕張の長門にGOサインを告げる。
 それを確認し、音声入力限定になっている試製兵器の論理トリガをラン(実行)するために夕張の長門は絶叫した。

『カルシウム光線!』

 手首に開いたスリットから、うっすらと優しい蛍光緑色に輝き揺らめく、モヤともレースともつかぬ何かがほんの少しだけ吹き出した。
 地球の磁場や大気中に高速荷電粒子が衝突した際によく見られる現象、すなわちオーロラだ。完全に日が沈んだ無人の都市演習場町ではそれがよく見えた。
 兵器としては致命的な出力不足であった。

『……』
『……』

 次弾装填として夕張の長門が腰に増設されたポーチから、超展開した艦娘基準で小さな瓶を3本まとめて取り出し、片手で蓋を3つまとめて握り潰して開け、中身の白くさらさらした液体――――帝国兵器開発局が全国各地の酪農家さん達から適正価格の3倍強の値段で購入した新鮮な生乳――――をイッキした。
 そして今までと同じプロセスで最終発射体制までもっていくと、再び絶叫した。

『カルシウム光線!!』

 今度はきちんと、真っ白に光り輝く無数の高速荷電粒子線が直線的に発射された。たったの数メートルほど。
 超展開した長門達から見れば、親指の爪1~2枚分の幅ほどの距離しか飛んでいなかった。

『……』
『……』
『ふんッ!!!』

 ヤケクソになった夕張の長門が自身の頭に装着されていた鬼の角にも見える電探カチューシャ、それを手に取って力いっぱいに投擲。

『うおっ!?』

 高速回転しながら迫るそれを有明の長門は辛うじて白刃取り。
 一瞬だけカチューシャに気を取られた視線と意識を真正面に戻すと夕張の長門はすでに背を向けてビル街の中へと逃走していた。有明の長門が身を起こし、背中を追い始めるのとほぼ同時に角を曲がられ、ロスト。聴覚デバイスの感度を最大に引き上げるも、超展開中の艦娘の足音らしき波形も見られなかった。というか今までの戦闘の余波でまともなノイズフィルタリングの一つも出来そうになかった。
 有明の長門は軽く舌打ちすると探照灯を点灯し、先程まで自分が倒れていた瓦礫の山の中に片手を突っ込んで瓦礫やコンクリート粉末を握りしめ、周囲を警戒しながらその後を追い始めた。
 夕張の長門が消えた角を左に曲がり、視線を先にやると2ブロック先の左側にあるビル中腹に若干の欠けと凹みを確認できた。まるで巨大な何かがそこを掴んで制動を掛けたかのような痕跡だった。かすかに摩擦熱の湯気も立っていた。
 そこに意識と警戒を向けながら歩を進める有明の長門には、1ブロック目の交差点左側付近の送電線を切断して作られた即席の暗がりにて、腕を十字に組んだ姿勢で潜む夕張の長門が見えていなかった。
 有明の長門が1ブロック目の交差点を完全に過ぎる。がら空きの背後が露わになる。
 その瞬間、夕張の長門が両手首の粒子加速器を(ものすごい小声で)起動。加粒子砲が砲の役割を果たさないならばと言わんばかりに手首外側に短いビームを纏わせ、それを上と左からの変則クロスチョップとして振り抜き、

『――――まぁ、ウチ(有明)は対人任務が主だからな。そういうのには慣れてい、るよッ!』

 振り抜き切るよりも先に、有明の長門が振り向きざまに繰り出した側頭部狙いの後ろ回し蹴りを夕張の長門は無防備に受けた。並大抵の戦艦娘なら気絶するその威力を受けてよろめいたところに有明の長門はさらに追撃。手の中にあった瓦礫とコンクリート粉末で目潰しし、夕張の長門の左肩に向かって右のチョップを二度三度と振り下ろす。そして逆水平チョップを二発胸に叩き込み、さらにダブルチョップを両耳に振り下ろした。
 夕張の長門がよろめき、背後のビルにもたれかかった際に加粒子砲を起動したままだった手がそこに接触。接触した部分の鉄筋コンクリートを何の抵抗も無く蒸発させて歪な穴を開けたのを見て有明の長門は、見た目はアレだが絶対に捕まらないようにせねば、と敵兵器の脅威を正しく評価した。そしてトドメとばかりに目潰しとして抜き手を突き出した。

『そう何度も食らうか!』

 駄目押しの4本指による目潰しは首を振って辛うじて回避。突き出された有明の長門の手指は背後のビルを貫通し、中にあったオフィスのテーブルの上に置いてあったニュートンのゆりかごに軽く触れ、それがカッチカッチと動き出したところで引き戻された。夕張の長門が全身を使って有明の長門を押し出したからだ。
 全体重をかけたタックルを、有明の長門は上から押しつついなすことで自身もろとも地面に倒れこみ、夕張の長門が何かするよりも先に蹴り飛ばして脱出した。
 受け身を取りつつ急いで立ち上がった夕張の長門は再び腕を十字に組んで加粒子砲を起動させようとして、メインシステム戦闘系からストップをかけられた。今までの戦闘で加粒子砲の専用の冷却系が完全に故障。暴発の恐れありとして論理トリガにロックを掛けられた。

『……』

 夕張の長門は試作兵器の限界値を知ることも必要だと屁理屈をつけてメインシステムに上申し、倫理ロックを外した上で強行射撃の体制を取った。
 夕張の長門の両手首はすでに赤熱化し、それ以上は無謀ですらないと傍目にも見て取れた。

『夕張の』

 有明の長門が何か言うよりも先に加粒子砲を発射し、即座に暴発。
 単純な出力不足故に中性子線シャワーが発生する事は無かったが、それでもプラズマ爆発が発生し、夕張の長門を光と炎で包み込み、消した。

『陸奥、すまな』

 有明の長門には、確かにそう聞こえた。



 2人の長門の顛末を見届け、自分の調査に向かおうとした叢雲の仕事用のスマホに着信が入った。接続先は有明警備府の第三艦隊。自分の所属先だ。スマホを操作し、電話に出る。

「蒼龍? どうしたのよ、留守番中の有明警備府で何かあっ」
『ドーモ叢雲=サン! 蒼龍再び改善デス。いいからテレビ、なければどっかの動画サイト見て下さい!! 流出してます!!』

 何が、というよりも先に叢雲の指が動いていた。通話を維持したままネットブラウザを開き、普段よく見る動画サイトに接続。

「……何よ、これ」

 新着動画一覧には【夜の夕張演習場にてキノコ雲! 演習場内部の真実に迫る!】だのといった類のタイトルの動画がいくつもアップロードされており、その中の一つを開いてみてみれば、たった今、自分が目撃していた戦闘がそっくりそのまま映っていた。
 別の動画もまた、違う視点のカメラからだったが、やはり同じものだった。どうやら演習場町各所に設置されている定点カメラからの映像を、いくつかまとめて一つの動画としていたり、それぞれ別の動画としてアップロードしているようだった。

「……何よ、これ」

 叢雲の脳裏に、いくつかの光景がフラッシュバックしていた。
 第3艦隊の執務室、入室するひよ子とプロト19、広げられる写真、深海棲艦に流出した最新兵器、裏切り者の可能性。
 ここのように機密度の高い演習場のカメラ映像など、下っ端軍人風情が持ち出せるようなものではない。

「まさか、こんなところまで……」
『実際どうしましょう!? 叢雲=サン、叢雲=サン!』

 最悪の事態を想像してしまった叢雲の耳には、蒼龍の悲鳴も届いていなかった。



 次回予告

 はわわわ、液晶の向こうの司令官さん達はじめまして。タウイタウイ泊地の電なのです。
 私の所属するタウイタウイ泊地は少し前に、行方不明になっていた元の司令官が帰って来たのです。不思議な力を持った女の子と一緒に。
 ずっと元気がなかった最古参の睦月ちゃんも、睦月型のみんなも元気になってよかったのですが……ですが、少しは仕事しやがれなのです。
 だから久しぶりの非番だったのに私が、迷子になった男の子をお父さんの元に連れて行ってあげる事になってしまったのです。

 次回、とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!
 第10話『進め、電と少年』

 を、お楽しみくださいなのです。
(※翻訳鎮守府注釈:なお次話タイトル、次話投稿予定日、および投稿内容は何の予告も無く変更となる可能性があります。あらかじめご了承ください)



 ……え、何ですかタウイの吹雪さん。え、また矢が壁を? 鎮守府交流演習大会も近いのにまた……
 あいつら、そろそろシバくのです。



 本日のNG(ボツになった)シーン。


『カルシウム光線!!』

 今度はきちんと、真っ白に光り輝く無数の高速荷電粒子線が直線的に発射された。たったの数メートルほど。
 超展開した長門達から見れば、小指の爪の幅ほどの距離しか飛んでいなかった。

『……』
『……』
『ビックセブンスラッガー!!』

 ヤケクソになった夕張の長門が自我コマンドを入力。金属バネと圧縮空気の力で、ワイヤー接続された手首を発射する。もちろん、試製荷電粒子砲(?)は起動したままで。

『うお!?』

(荷電粒子砲につなぐ電源ケーブルの長さが致命的に足りなくなるだろ、という事でボツになりました)




『カルシウム光線!!』

 今度はきちんと、真っ白に光り輝く無数の高速荷電粒子線が直線的に発射された。たったの数メートルほど。
 超展開した長門達から見れば、小指の爪の幅ほどの距離しか飛んでいなかった。

『……』
『……』
『ビックセブンスラッガー!!』

 ヤケクソになった夕張の長門が自我コマンドを入力。電磁石の反発力を利用して手首そのものを発射する。もちろん、試製荷電粒子砲(?)は起動したままで。

『うお!?』

(林崎要の乗るクリムゾン・エッジ(ランブルフィッシュ)の奥の手の丸パクリじゃねーか、という事でボツになりました)


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