「ふぃ〜やっと到着♪」
ここは、大貝町の河川敷。そこにシンジはいた。
草木が生い茂り、花が美しく色とりどりに咲いている。
空は青く、川はとても綺麗で魚が泳いでいる。辺りを見回すと、家族連れで仲良くお弁当を食べている。また、別のほうでは子供達が屈託のない笑顔で楽しく遊んでいる。その奥ではカップルが中睦まじく談笑している。
それはまさに絵に描いたような幸せだった。シンジは確信した。
これこそが人との共存の素晴らしさだと。細かいことや難しいことなんてどうでもいい、ただ語り合い、わかり合い、愛し合えば良かったのだ。
そんな世界をくだらねえ理由で滅茶苦茶にしたジジイ共が…妻に会いたいだけで狂喜に走り、尊厳や人権を平然と踏み躙った父親だった男が…勝手な未来を妄想し、面倒ごとは旦那と子供に押し付けて自分はのうのうと10年間も寝てただけの元凶たる母親だった女が…許せない。許せるわけがなかった。だが、何よりもそんな当たり前に気付かなかった自分が許せなかった。
もう彼は死を望まない。生きて、生き続ける。この新しい地で…すると、
「……シン……ジ…?」
「!?」
誰かが僕を呼んだ。おかしい。この世界には知人が存在しないはず。その場所を選んだはずなのに…声のした方を振り返ると、そこには、ピンク色の髪の少女がいた。
〜マナSIDE〜
彼と最後に別れたのは第3新東京市のホームだった。もう二度と会うこともない。それでもお互い笑顔で握手をして別れた。その後は電車の中で泣いた。すると、目の前にまばゆい光があたしを包んだ。そこで意識を失った。目を覚ますとあたしは赤ちゃんになっていた。
何故に!?Why!?誰か教えて!?まさか!あの光!?いや!絶対そうだ!かなりパニックになっていたためか、お母さんがあやしてくれた。
「あらあら、マナ。よーしよーし(^-^)」
何たる偶然!現世のあたしは名前が同じなのだ。新しいお母さん、お父さんかな?はたまたおじいちゃん?ありがとう。ちなみに名字は相田だった。相田…そういえば、クラスに軍事オタクのカメラメガネがいた。まさか、妹なんてことは…なかった。ちょっとホッとした。それから、あたしの第二の人生が始まった。愛情たっぷりに育ち、その愛を色々な人にわけてあげたいと思い、中学では生徒会長になりました。親友には、幸せの王子って呆れられてますけど…それでもあたしは幸せです。
でも、あたしは男子の交際を受け入れることはありませんでした。だって、あたしには……シンジしか考えられないから…未練がましいかもしれないけど…あたしにはシンジしか見れない…だから、一生結婚できなくてもいい。
シンジ…大好きだよ…来世ではずっと一緒だよ……
土曜日、あたしはお散歩に出かけていた。六花はママとショッピング。
ありすは習い事、まこぴーはお仕事でシャルル達アイちゃんと遊んでいるため、あたし一人。
河川敷で少し休んでいた。たくさんの人が笑顔で幸せそうに色々なことをしている。すると、一人の男の子が眼に移った。
「え……?あの制服……あの髪……まさか……」
人違いかもしれない。だが、自分の直感に賭けてみようと、彼に声をかけた。
「……シ…ンジ…?」
あたしの声で振り返った彼を見た。
「……あ…ああ…」
間違いない。碇シンジその人だった。ずっと思い続けていた人。もう二度と会えないと思っていた。だが彼はここにいる。夢ではなかろうか?いや、夢じゃない。現実だ。シンジは一瞬だけ、動揺していた様だった。
「…あの…君は…?」
そっか!今のあたしは相田マナだった。でも…
「あたし、霧島マナは、相田マナとして転生し、今現在、碇シンジの目の前で喋っております!」
かつて転校したときに言った台詞を言った。
〜シンジSIDE〜
「う…そ…本当に…ホントに…マナなの…?」
「うん!ただいま、シンジ」
「あ…ああ…マ…ナ…マナー!!!」
僕は泣きながらマナに抱きついた。嬉しかった。もう二度と会えないと思っていた。転生だろうが何だろうが、今はどうでもいい。ここにマナがいる。放さない。放しはしない。僕はマナをきつく抱きしめた。
「シンジ…シンジ!!」
シンジに抱きつかれ、最初は恥ずかしさが少しあったが、そんなのは気にしない。今放したらまたいなくなりそうだったから…シンジは泣いていた。再開の嬉しさもあるようだが、何よりもシンジの心が悲鳴を上げて泣いているように思えた。
あたしと別れてから、きっと大変な目に合ったのだろう。だが今は再開を喜ぼう。二人で抱き合ったまま涙が乾くまで泣き続けた。
「シンジ…大丈夫?」
「…うん…ゴメンマナ…」
「ううん…会えないと思っていた人に会うことができたんなら、誰だって泣いちゃうよ…」
それから、マナは自分の身に起きたことを話した。
(…その光が何なのかはわからないけど…それなら、赤い世界にマナがいなかったのにも納得出来る)
ここで余談だが、シンジは友人(トウジ、ケンスケ、ヒカリ)との人間関係は悪くはなかった。
しかし、髭の魔の手にかかり、バルディエル戦後に消されていた。心を壊すためだけに…レイラ様が言うには彼ら3人はインパクト発動前に別世界に転生したため、赤い海にはいなかった。普通転生は前世の記憶がリセットされているが、マナの場合、生きた状態での転生という極めて珍しい例なのだ。
「ねえ…シンジ…」
マナが真剣な表情を自分に向けた。
「わかってる…今度は僕の番だね…正直これから話すことは君の常識全部がひっくり返ることだから…」
「大丈夫!あたしは何があってもシンジを避けたり、責めたりしない。だから…信じて…」
マナは優しく微笑んだ。シンジは今までに起きたこと全て話した。
「…………そして、この新しい大地で生きていこうと誓った……」マナは泣いていた。泣きながら僕の手を握った。
「うっ…ううっ…ゴメンね…シンジ…ひっく…辛かったんだね…ぐすっ…悔しかったよね…痛かったよね…シンジ…辛かったら、いつでも甘えて…いっぱい弱音吐いてもいいよ…泣いていいから…」
「マナ…ありがとう…でも、大丈夫だから…流す涙は出し切ったから…マナももう泣かないで…」
シンジはマナの手を優しく握り返した。
「マナ…ずっと、君に言いたいことがあった。」
「………」
「僕は……キミが……マナのことが……好きだ!!一人の女性として、あなたを愛し続けます!一生をかけてあなたを守ります!」
「!!…嬉しい…ありがとう…シンジ…あたしも、あなたが、碇シンジのことが大好きです!」
「マナ…ありがとう…生きててくれて…ありがとう…こんな僕を愛してくれて…」
二人はもう一度抱きしめあった。今度は優しく、宝物を大事にするように…
そして…
「マナ…」
「シンジ…」
二つの唇が重なった。