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No.43351の一覧
[0] EVAザクラ 新劇場版[まっこう](2019/08/30 22:14)
[1] EVAザクラ新劇場版 序の次 第一話[まっこう](2019/08/30 22:12)
[2] EVAザクラ新劇場版 序の次 第二話[まっこう](2019/08/30 23:59)
[3] EVAザクラ新劇場版 序の次 第三話[まっこう](2019/08/31 12:37)
[4] EVAザクラ新劇場版 序の次 第四話[まっこう](2019/08/31 19:23)
[5] EVAザクラ新劇場版 序の次 第五話[まっこう](2019/08/31 22:22)
[6] EVAザクラ新劇場版 破 第一話[まっこう](2020/06/01 21:04)
[7] EVAザクラ新劇場版 破 第二話[まっこう](2020/06/26 21:46)
[8] EVAザクラ新劇場版 破 第三話[まっこう](2020/07/05 16:22)
[9] EVAザクラ新劇場版 破 第四話[まっこう](2020/07/22 00:29)
[10] EVAザクラ 新劇場版 搭乗人物一覧[まっこう](2020/07/24 19:53)
[11] EVAザクラ新劇場版 破 第五話[まっこう](2020/08/12 15:01)
[12] EVAザクラ新劇場版 破 第六話[まっこう](2020/09/30 19:42)
[13] EVAザクラ 新劇場版 搭乗人物一覧 update[まっこう](2020/09/30 21:52)
[14] EVAザクラ新劇場版 破 第七話[まっこう](2020/10/06 17:44)
[15] EVAザクラ新劇場版 破 第八話[まっこう](2020/10/10 17:16)
[16] EVAザクラ新劇場版 破 第九話[まっこう](2020/10/15 14:10)
[17] EVAザクラ 新劇場版 搭乗人物一覧 update[まっこう](2020/10/15 14:22)
[18] EVAザクラ新劇場版 破 第十話[まっこう](2020/11/05 17:09)
[19] EVAザクラ新劇場版 破 第十一話[まっこう](2020/11/26 17:26)
[20] EVAザクラ新劇場版 破 第十二話[まっこう](2020/12/26 18:14)
[21] EVAザクラ新劇場版 破 第十三話[まっこう](2021/01/31 20:05)
[22] EVAザクラ新劇場版 破 第十四話[まっこう](2021/04/02 22:25)
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[43351] EVAザクラ新劇場版 破 第六話
Name: まっこう◆564dcdfc ID:4098afbe 前を表示する / 次を表示する
Date: 2020/09/30 19:42
星新一賞のネタも書き終わったので。

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 最近シンジは昼休み屋上にいる事が多い。初号機の修理が優先されるため、昼夜問わず呼び出される。そのためいつも睡眠不足という事もありよく昼寝をしている。公私共にそれなりに人気のあるシンジだが、シンジが睡眠不足気味なのは知れ渡っているため、昼休みはシンジに屋上を使わせてあげようと学校中が協力している。そんな訳でシンジはその日の昼休み、屋上で昼寝をしていた。少しうとうとしてきて眼をつぶる。遠くから飛行機の音がする。何かバサバサと布きれがはためくような音もする。急に辺りが暗くなった。シンジが眼を開くと美少女が天から落ちてきた。




EVAザクラ 新劇場版

破 第六話

手紙




 落ちてきたと言っても、パラシュートにぶら下がってゆっくりとだ。少女は着地も慣れたもので、転がりながら体全体に衝撃を分散して、コンクリートの屋上に降りても怪我一つしない。パラシュートを手早く畳んで、袋のような物に入れると。立ち上がると何か無線機のような物に向かって話している。シンジが唖然と見ていると、やっと気がついたかのように寄ってきた。かがむとシンジに顔を近づける。茶色の長い髪だが、根本が少し黒い。顔立ちは日本人のようだが少し違う様にも見える。瞳が青いのでアスカのようにハーフかクオーターなのかもしれない。赤い縁の可愛い眼鏡の下の瞳はきらきらと光って見える。その視線はシンジに向けている。シンジの視線が髪の根元に行っている事に気がついたのか手で整えた。

「これ染めたんじゃないんだ。なぜか最近髪の根元の色が変わってきて。母さんが黒髪だからその遺伝子が出たのかも」

 勝手に説明した。彼女の服装は学校の制服に見えるが第壱中の物ではない。やがてシンジの顔の近くで臭いを嗅ぎ始めた。

「君いい匂い、LCLの臭いがする」

 少女は立ち上がった。

「君面白いね」

 にっこりと微笑んだ。

「じゃ、この事は他言無用で、ネルフのわんこ君」

 少女は手を振りつつ屋上の出口へ走って行った。




 最近金曜日の放課後にネルフとWWRで意見交換会をする。メンバーは第壱中の在学者だ。場所は喫茶エンドウを借り切って行われる。意見交換会と言っても大したことをするわけでは無い。お茶を飲んでお菓子を食べてちょっとした事を話しておこうという主旨だ。中立のオブザーバーとしてクキコがネルフの経費で飲み食いするため参加している。ネルフの代表としてはミサトが来る事が多い。はっきり言って仕事をさぼりたいためで、サヤにこっそりとアルコール入りの飲み物を頼んでいる。WWRからはパーカーが助言役として来る事が多い。
 皆忙しいのでなかなかメンバーがそろわないが、今日はシンジ、レイ、アスカのチルドレンが全員いる。WWRもトウジ、ヒカリ、ケンスケ、トモヨ、サクラと結構そろっている。ナギサとホノカもいたがTBNが必要となる任務が出来たためいない。今日の当番である二人はリモートで飛んできたTBNに乗って現場に向かった。アンズもいる。みんなのお姉ちゃんを自認しているのでネルフともWWRの所属どちらともいえるだろう。
 クキコとミサトとパーカーはカウンターで並んで雑談をしている。子供達は店の一番奥のテーブルに集まっている。大体アスカとヒカリが交互に司会をして各自報告をする。一応みなの報告が終わった。

「そうだ」
「何よシンジ」
「今日、空から女の子が降ってきたんだ」

 シンジの一言に、アスカがあきれ顔で横を見た。

「シンジ、もてないからって美少女が空から降って来るような妄想するんじゃないわよ。アニメじゃないんだし」
「妄想じゃないってば」
「碇君はかっこいいけどなぁ」
「シンちゃんは可愛いにゃ」

 感想は人それぞれだ。言った後真っ赤になっててれるサクラや、シンジをよしよししてうっとうしがられるアンズや、ぼけっとシンジを見ているレイなど反応も様々だ。

「えっと、身長は」

 シンジが説明し始めたので、冗談ではないと悟った皆は真剣に聴きはじめた。ただシンジが説明した容姿の少女について誰も知らなかった。

「そう言えばLCLの匂いって言っていた」
「じゃあチルドレンじゃないの、ミサトさん」
「何、ヒカリちゃん」

 すでに軽いカクテルのグラスを手にしたミサトがカウンターから降りて皆の方に来た。アンズの隣に座る。クキコとパーカーも皆の方を見ている。

「碇君がチルドレンらしき人を見た。司令からも聴いていない」

 最近話し方が丁寧に優しくなって来たレイだが、仕事に絡むと口調が変わる。何か冷たい。

「私も知らないわ。EVAは各国三機まで保有できるわ。それにあわせてチルドレンもいる。ただ各国の利害が絡むからネルフ内部でも秘密が多くて情報が来ないの。面倒くさいとこなのよネルフって」

 ミサトはカクテルを啜った。

「ま、当分ウチは三人で運用よ。判ったら教えてあげるわ。サヤちゃん、ウォッカトニックちょうだい。大きなグラスで」
「アル中」
「大丈夫よアスカ、激務のおかげでウエストは58よ。モデルだって逃げ出すわ」
「自分で言うのもミサトさんらしいですね」
「まっ、ね。で他に議題もないのなら今日は解散よ。私はもう少し呑んで帰るから」




 その日はトモヨのリムジンで皆送って貰った。レイがマンションの部屋に戻ると丁度ホウメイが来ていた。部屋の掃除を終えたところだったので早速料理の勉強だ。まず、手を綺麗に洗うところから始めた。LCLに入るため手足を洗う事は業務の一環としてきちんと出来ているつもりだったが、料理人のホウメイから見るとまだまだ細かいところが問題があるらしい。ホウメイは過去にも大道寺家の若手に教えてきた経験があり教師ぶりも板についている。レイは指導されたとおり手を十分間かけて綺麗に洗った。確かに汚れが落ちている気がする。

「レイちゃんの手はほんと白魚のような手だね」
「白魚?」
「白くって小さい魚さ。昔から細くて白い綺麗な指をそう言うんだよ」
「そう」
「それじゃ包丁の握り方から教えようかね」
「お願いします」

 レイは頭を下げた。




「おはよう」

 翌日レイが挨拶をしながら教室に入っていくと教室の皆が振り向いた。自分からレイが挨拶をするなど滅多に見られない光景だからだ。皆に見られたせいでレイも固まってしまう。妙なにらみ合い状態が続いた。サクラとトモヨ、ケンスケ、トウジ等とWWRとネルフの連携等を話していたシンジは直ぐに立ち上がり、教室の入口に向かう。サクラが少しふてくされた表情をしてシンジを視線で追っていたが、トモヨがなだめていた。シンジがレイに話しかけると、教室中にほっとした空気が流れた。

「おはよう、綾波。今日は早いね」
「ええ」

 レイもほっとしたのか微かに表情を緩めて自分の席に行く。シンジもついて行く。

「あ、どうしたのその手?」

 レイの左手の指に数枚絆創膏が貼られていた。

「家で怪我をした。ホウメイさんに手当てをして貰った。赤木博士にも後で見せる」

 レイは右手で左手の怪我を覆うと、その指を見つめた。

「何してたの?」
「秘密……もう少し、上手くなったら話す」

 レイはそう言ってシンジに微笑んだ。

「わかった、気をつけてね」
「うん」

 レイの微笑みにシンジも笑顔を返した。

「ふーん」

 何とは無しに見ていたアスカは呟くと、ノートに落書きをはじめた。ずっとふてくされていたサクラは、レイの微笑みをみて少し表情が和らぎいだ。少し悲しそうにも見えた。




 その日の放課後珍しい組み合わせが見られた。レイとヒカリが並んで歩いている。アスカやシンジ、トウジやケンスケなど他のネルフとWWRのメンバーは用があるので先に帰宅した。レイはあまり話さないが、ヒカリが聞いたことなどは答えている。喫茶エンドウに向かっている。放課後レイがヒカリを誘った。何か相談したいことがあるらしい。少ししてしかだ駄菓子屋に着いた。レイはポン菓子、ヒカリはココアシガレットを買うと喫茶エンドウに移った。レイとヒカリを見て店長のサヤは奥のテーブル席に案内する。ここは窓に面してはいない。横の壁も通常のライフル弾などは通さないように補強されている。指定店になった時、ネルフが工事をしてくれた。レイは昆布茶、ヒカリがアメリカンコーヒーを頼むとサヤはカウンターに戻って行く。

「で、綾波さん、相談って何?」
「手紙書きたいの。招待状書いたことないから」
「何の?」

 ヒカリが聞くと無表情だったレイの顔に色々な感情が表れた。

「碇君と司令を食事会に誘いたいの」

 レイはシンジとゲンドウについて話始めた。二人がどう暮らして、どう離れて、どう再会したなどだ。二人が会話を終わる頃には、サヤが置いて行ったお茶は冷めていた。

「結構責任重大ね」

 ヒカリはレイを助けたいが、少し自信が無い。作文は得意だが、シンジの家の話を聞いた後だと、招待状一つでも大きな意味がありそうだ。どうしたもんかと悩んでいると一つ思い立った。

「綾波さん、招待状なんだけど、プロに頼まない?」
「プロ?」
「以前トモヨちゃんちで契約している代書屋さんがいるって聞いたから。綾波さんなら、大道寺家の関係者と言えなくもないわ。決算報告書みたいな文書から招待状や恋文まで何でも書いてくれるの。お屋敷やWWRの文書を依頼しているの」
「いいけど」

 ヒカリは携帯を取り出すと電話をかけ始めた。

「トモヨちゃん、以前契約している代書屋さんいるって言っていたでしょ、そうそうその自動人形サービス」

 ヒカリは数分トモヨと話すと携帯を切った。

「18時までは契約時間で緊急の文書も受け付けてくれるから、今でもOKだって。パーカーさんが迎えにいってくれてるからまずは相談してみない?」
「判った」

 ヒカリは再度トモヨに電話をかけた。その後ヒカリとレイが20分程話しているとパーカーが店内に入ってきた。続いて一人の女性が入ってきた。
 ヒカリはつい凝視してしまった。その女性の第一印象は、綾波さんに似ているだった。髪は金髪のセミロングを後ろでまとめていて、瞳は青。トモヨから欧州の小国の出だと聞いていたとおり顔立ちや骨格は白人のそれだ。ただ何となく整った少し無表情な顔立ちがレイに似ている。人形が息をして動いているようにも見えた。少しふわっとしたスカートに、青い上着を着ている。常夏の日本には合わない服装だが、汗一つかいていない。胸の緑の大きなブローチは、お祭りの夜店で売っているようなガラス製で、上等な衣装にあっているようないないような不思議な感じがした。それに頬に極薄い刃物傷のような物があり、整った顔立ちに微かな違和感を与えていた。手には大きな旅行鞄の様な物をぶら下げている。

「お嬢様方、エバガーデン様をお連れしました」

 パーカーが二人の横に女性を案内した。二人は立ち上がった。

「あの、代書屋さんですか?私、洞木ヒカリです」
「綾波レイです」
「お客様がお望みならどこでも駆けつけます。自動式人形サービス、ヴァイオレット・エヴァーガーデンです」

 ヴァイオレットは優雅に一礼した。ヒカリは一瞬言葉に詰まった。人形が話し始めたように感じたからだ。やはり初めてレイにあった時と似ていると思った。声からミサトと同じぐらいの歳のように思えたが、年齢不詳だ。

「あ、綾波さんが食事会の招待状で困っているので、相談に乗って貰えないですか。招待状の作成も手伝ってあげて貰えますか」
「承知しました」
「立ち話も何だから、そちらに座ってください」
「はい。失礼します」

 ヴァイオレットがヒカリ達の反対側に座った。一緒に来ていたパーカーは一礼するとカウンターの席に座り、サヤと世間話を始めた。
 ヒカリとレイはヴァイオレットの反対側に座った。ヴァイオレットは茶色の手袋に包まれた手を膝に置き、ぴしっと背筋が伸びた姿勢で微動だにせず座っている。座り方もやはりレイと似ている。

「綾波さん、まずは事情を説明したら」
「そうする」

 レイは話始めた。十分ほどで話が終わった。

「綾波様、お話しを拝聴しました。事実関係はわかりました。綾波様のご要望は招待状と伺いましたが、その食事会で何をお望みですか?」
「望み?」

 レイがじっとヴァイオレットの口元を見つめた。微かに表情が動く。

「碇君と司令が仲良く食事を楽しむ事。まずはそれでいいと思う」
「それでしたら、そのお心をそのままお書きになればよろしいのです。一緒に食事を楽しみましょうと。きっと心は伝わります。手紙とはそういう物ですから」
「はい」

 ヴァイオレットはそう言って微笑んだ。レイもつられて微笑んだ。

「ここに、用紙と封筒を持っています。ここで書かれますか?」
「家で書きます。有り難う」

 レイは立ち上がるとお辞儀をしてスタスタと喫茶店を出て行ってしまった。パーカーはヒカリとヴァイオレットに会釈をすると慌てて追いかけていく。

「ごめんなさい、綾波さん唐突なところがあるから」
「いえ、綾波様は今手紙を書きたいと思われています。その事が重要だと思います」
「ところで、私も実は手紙を書きたいのだけど」
「どのようなお手紙でしょうか」
「その、あの」

 ヒカリが赤くなってもじもじしはじめた。しばらくヴァイオレットは待っていた。

「恋文でしょうか」

 きっかり一分後ヴァイオレットは切り出した。

「はい」

 ヒカリは耳まで真っ赤だ。

「あの、私WWRの隊員だし、彼もそうだし、いつ救助作業で死んでしまうかもしれないって、この前気がついたんです。もし思いを伝えないまま死んだり離ればなれになったりしたらって、思ったんです。でも、これって死にそうだから言うっておかしいのかな」
「いいえ、おかしくありません」

 ヴァイオレットの声が少し寂しげに、そしてとても優しい物になった。

「私の体験ですが、参考になればと思いますのでお話しします」
「はい」
「私はヨーロッパの戦争が絶えない小国の出なのです。そこでは戦争が泥沼化していた為少年兵がたくさんいました。私も洞木様と同じぐらいの歳の頃には殺人自動人形と呼ばれていました。上官に命令されるまま幾百の命を奪いました」

 ガシャンとグラスの割れる音がした。カウンターの向こうでつい話を聞いていたサヤが磨いていたグラスを落として割ってしまった。サヤは音を出した事を謝るとグラスをかたづけた。ついでに喫茶エンドウの外の札を準備中に変えた。
 ヴァイオレットの話の内容にヒカリもじっと耳を傾けている。

「続けてもよろしいでしょうか」
「はい」
「セカンドインパクトの前年私は一人の上官と出会いました。初めて私を殺人人形では無く人間として見てくれる方でした。今なら判ります。私はその方を好きだったのです。でもその頃の私は人形に近かったから良く判らなかった。でも、その方の役に立つのが嬉しかった。だから人を殺しまくった。それしか役に立てる事が無いと思っていましたから。でもその方は今考えると殺人人形の私を哀れんで、慈しんでくれました。でも軍人なので、命令を下さなければいけない。苦しんでいらっしゃったのかと思います」
「え、あの、思ったより話が重くって。聞いてもいい物なのですか」
「はい」
「何故日本に?」
「セカンドインパクト後、私はその方と日本に派遣されました。情報収集の為です。後で聞いたのですが、ソノミ様のお父様と話が付いていて、私たちは亡命し軍務から足を洗い、大道寺家の庇護の元、第二の人生を歩むはずだったそうです。ですがそこでNNテロに巻き込まれました。NNの衝撃波に吹き飛ばされ、私はその時両腕を失い、その方は行方知れずです。吹き飛ばされた場所は今にも崩れそうな建物の横で、そこで初めてその方は瀕死の状態でしたがはっきりと愛していると言ってくださいました。その後崩れた建物の下敷きになった私たちですが、見つかったのは私だけでした。私は今でもその方を探しています」
「え、そんな」

 ヒカリは泣きそうな顔をしている。

「話が長くなりました。好き愛しているという言葉はとても素晴らしい物です。でも言葉にしないとなかなか伝わらない物です。手紙、メール、手段は問題ではありません。形にすると心も伝わります。愛していると言う言葉は、その言葉の意味がわかるのなら、伝えた方が賢明です」
「そう、勇気を出して書いてみる」
「それがよろしいかと」

 ヴァイオレットはその名の通りのひそやかな優しい笑顔を浮かべた。

「でも、どう書いていいか判らなくって」
「では、例文をお作りしましょう」

 ヴァイオレットは持っていた鞄から古風なタイプライターを取り出した。手袋を咥えてとると金属製の義手が出てきた。よく手入れをされピカピカに磨き込まれた義手はほっそりとして滑らかに動く。ヒカリはつい凝視してしまった。

「タイピングに支障はありません。ではその思い人はどんな方でしょうか?」
「えっと、ハンサムで」

 結局、喫茶エンドウはその日は夜の営業が取りやめとなり、ヴァイオレットも少し契約時間をオーバーしてしまった。




 四日後、ミサトとリツコは、ミサトの車でネルフ本部から市役所に向かっていた。第三新東京市で演習を行う際、一応市役所との調整が必要となる。二人としては面倒な話だが、儀式は必要だ。

「変わったわね、レイ」
「そうね。あの子が人のために何かするなんて、考えられない行為ね。何が原因かしら」

 助手席のリツコはレイから渡された封筒を、じっと見ている。レイの手書きの招待状だ。あの後何回かヴァイオレットに手伝ってもらい書き上げたらしい。

「みんなと触れあった結果じゃない。特にアンズちゃんのシンちゃんへの無償の愛、と言うか猫かわいがりを見て、影響されたと思うわ」
「それは有りそうね」
「でも、実は恋だったりして」
「まさか。ありえないわ」
「いいじゃないの、年頃なんだから」
「そうかしら、でも恋愛はメンタルに影響しすぎる。パイロットには不要だわ」
「そんな事ばっか言っているから、リツコは売れ残るのよ」
「同じ歳でしょ」

 そんなこんなで二人は役所に着いた。打ち合わせ自体は30分ほどで終わった。リツコはその後、電力関係の会社に行く予定が有ったので別れた。ミサトは一旦マンションに帰った。昨日は忙しくて帰っていないので、シャワーを浴びて着替える為だ。ミサトがダイニングキッチンに入るとアスカが料理をしていた。熱中しているらしくミサトに気がつかない。味付けをいろいろ試しているらしく、独り言を言っている。そんなアスカを見てミサトはにやつき、近づいていく。もう少しで手が届きそうな所まで来たところで、アスカが振り返らず言った。

「ミサトは私よりずっと子供ね」
「あら、気がついていたの。ちょっと着替えに帰ったのよ。あらアスカもシンちゃんに料理ご馳走するの?」
「ち、違うわよ。アンズによ。世話になってるからよ。あの化け猫、結構味にうるさいからよ」
「へーそれはそれは、あら、それにしてはネギ類が多いわね。アンズちゃんは一応猫だし、猫に戻った時体調崩すから、やめた方がいいんじゃ無い」
「これは、そう、ミサトの酒のつまみよ」
「それは嬉しいわ」

 ミサトはニタニタ笑いをかみ殺して続けた。

「レイといいアスカといい、急に色気づいちゃって」
「何よ。ダメレイと一緒にしないで」
「あっ、そう。ま、レイにはもっと遠大な計画があるようだし」
「何、それ」

 アスカは振り返った。ミサトは笑いながら封筒をアスカの目の前でひらひらと振った。

「碇司令とシンちゃんをくっつける、キューピットになりたいみたいよ」

 ミサトはアスカに封筒を渡す。封筒にはレイの手書きでアスカの宛名が書いてあった。

「手作り料理でみんなと食事会、という作戦らしいわ。ストレートな分、これは効くわよ」

 ミサトはウィンクをして見せた。

「あの親子を仲良くさせるのは、骨が折れるわね」

 アスカは封筒をしみじみと見つめる。

「あの女がバカシンジのために?」
「サプライズなんだから、シンちゃんにバラしちゃぁ駄目よ」

 ミサトはニタニタ笑いを隠さず言った。

「話すわけないでしょ、この私が」

 アスカは表情を歪めつつ封筒を、ポケットに突っ込み、コンロの方に向き直した。




 また金曜日が来た。夕方喫茶エンドウにチルドレン三人に、ケンスケとトモヨとサクラ、ナギサとホノカが来ていた。アンズやミサト、クキコもいる。今日はWWRの代表としてセリカが来ている。先日アヤカと交代でTB5から降りてきた。年齢が近いせいかサヤと話し込んでいる。クキコとミサトはすでにアルコールで出来上がっている。

「それにしても告白かー、あの奥手なヒカリちゃんがね。なんか信じられない」

 ナギサはポテトチップスをむさぼりながら好き勝手な事を言っている。

「そんな事ありませんよ、ヒカリちゃんも乙女だもの」

 さっきからナギサとホノカがぺちゃくちゃと話している。この二人は息が合うような合わないようななんとも絶妙にずれた会話をして、聞いていると面白い。

「俺の調査によると、トウジと洞木がくっつく可能性は80%」

 ケンスケが眼鏡を光らして言った。最近、身体の潜在能力をギリギリまで使い込む事が多かったせいか、視力が回復した。そのため度の入っていないWWR特製VR眼鏡をかけている。レインの苦心の作品で、視界内に各種情報が表示される。TB5と通信出来る場所なら、ありとあらゆる情報が表示される。

「愛ですわね」
「そうだよね」
「ええ」
「うんうん」
「ま、ヒカリが好きなんだから仕方ないわね」

 レイを除いた女性達はやたら盛り上がっている。

「16歳になれば結婚できるし、2年後だったりして」
「あり得るわね、ヒカリちゃんみたいな潔癖症が意外と結婚早かったりして」
「それはありえな~い」
「そっかトウジが」

 皆それなりに盛り上がっているのだが、二人ぽけっとしている者がいる。レイはあまり表情が変化していない。思うところは有るのだろうが、今一歩話に付いていっていない。もう一人はアンズだ。

「ところで結婚ってなに?」

 首をひねっていたアンズが呟いた。

「結婚って、そっか、お姉ちゃん知らないんだ」
「うん。何それ?」
「何って言われても」

 よく使う言葉は説明が難しい。説明しようとしたシンジがどう言ったもんかと口ごもってしまう。

「結婚とは」

 ここで指を立てて説明し始めたのはホノカだ。将来説明おばさんになる素質は十分だ。

「結婚とは、夫婦になること。好きな人同士が一緒に暮らして、社会的に家族と認められている事でしょうか」
「じゃ、アンズとシンちゃんは結婚しているの?」
「いえ、アンズさんと碇さんは家族ですが結婚はしていません」
「なんで?アンズはシンちゃん大好きだし、シンちゃんはアンズの事大好きだし」
「それは姉と弟で家族です」
「じゃ、今から結婚できるの?仲いいし」
「そうじゃないです。えっと、ほらホタルさんとココノツさんみたいに、元々違うところで生まれた人たちがお互いを好きって認め合って一緒に暮らす事です」
「あ、つがいのことだにゃ。じゃ交尾して子供作るんだにゃ」

 交尾と聞いてレイ以外の皆の顔が真っ赤になる。多感な年頃だ。

「そっか、トウジ君とヒカリちゃんは交尾をするのか」
「お姉ちゃん、それは人前で言っちゃだめ」
「何を?」
「えっと」

 シンジが言いよどむ。

「おほほ、人間は交尾についてはあまり皆の前で言わないようにするのが、ルールですわ」
「そうなのか。じゃそうする」

 トモヨの言葉にとりあえず納得したらしい。とりあえず話も終わったのでそろそろ打ち合わせを終わらせようとシンジがは無そうとした。その時だった。

「みなさん、お元気ですか」

 いつも勢い良く喫茶エンドウに入ってくるホタルが妙に静かにポーズも付けずに入ってきた。

「サヤ師、ネルフ、WWRの皆さん、先生。このたび私、妊娠している事が判りました」

 でもやはりポーズをとった。

「え、おめでとうホタルさん」

 飛びつくように近寄って来たのはサヤだ。

「おめでとう」
「妊娠ってなんだにゃ」
「子供ができたって事ですよ」
「交尾したんだにゃ」
「姉さん、それは言わない。ホタルさんおめでとう」

 みな口々に祝福をした。レイも興味があるらしく近づいていく。まだ平たいホタルのお腹に手を当てた。銀髪のレイがそうするとなにか宗教画の一シーンのように見えて、みな静かに見入った。

「新しい命、生まれるのね。この世界に」

 レイの静かな声が、まるで妖精の声のように喫茶エンドウに響く。

「ま、私たちがする事は、決まりね」
「なに?アスカ」
「ホタルさんが安心して産めるように、使徒を全て倒す」
「そうだね」
「ありがとう」

 ホタルの声も静かだった。

「私も、胎教に良い駄菓子、子供の成長に欠かせない駄菓子の開発に邁進ですわ」

 いつもの調子に戻り変な方向を指さしてポーズをとった。






 綾波レイと某自動人形さんはなんとなく似ていると思ったが、実はセリカ嬢の方が似ているきがしないでもないのは錯覚だろうか。本当は某狸女子を出すつもりが、何故かこうなったのはネタが浮かばなかったせいだろうか。
次回「EVAザクラ新劇場版 破 第七話」
さぁて、この次もサービス、サービス!

つづく


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