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No.43351の一覧
[0] EVAザクラ 新劇場版[まっこう](2019/08/30 22:14)
[1] EVAザクラ新劇場版 序の次 第一話[まっこう](2019/08/30 22:12)
[2] EVAザクラ新劇場版 序の次 第二話[まっこう](2019/08/30 23:59)
[3] EVAザクラ新劇場版 序の次 第三話[まっこう](2019/08/31 12:37)
[4] EVAザクラ新劇場版 序の次 第四話[まっこう](2019/08/31 19:23)
[5] EVAザクラ新劇場版 序の次 第五話[まっこう](2019/08/31 22:22)
[6] EVAザクラ新劇場版 破 第一話[まっこう](2020/06/01 21:04)
[7] EVAザクラ新劇場版 破 第二話[まっこう](2020/06/26 21:46)
[8] EVAザクラ新劇場版 破 第三話[まっこう](2020/07/05 16:22)
[9] EVAザクラ新劇場版 破 第四話[まっこう](2020/07/22 00:29)
[10] EVAザクラ 新劇場版 搭乗人物一覧[まっこう](2020/07/24 19:53)
[11] EVAザクラ新劇場版 破 第五話[まっこう](2020/08/12 15:01)
[12] EVAザクラ新劇場版 破 第六話[まっこう](2020/09/30 19:42)
[13] EVAザクラ 新劇場版 搭乗人物一覧 update[まっこう](2020/09/30 21:52)
[14] EVAザクラ新劇場版 破 第七話[まっこう](2020/10/06 17:44)
[15] EVAザクラ新劇場版 破 第八話[まっこう](2020/10/10 17:16)
[16] EVAザクラ新劇場版 破 第九話[まっこう](2020/10/15 14:10)
[17] EVAザクラ 新劇場版 搭乗人物一覧 update[まっこう](2020/10/15 14:22)
[18] EVAザクラ新劇場版 破 第十話[まっこう](2020/11/05 17:09)
[19] EVAザクラ新劇場版 破 第十一話[まっこう](2020/11/26 17:26)
[20] EVAザクラ新劇場版 破 第十二話[まっこう](2020/12/26 18:14)
[21] EVAザクラ新劇場版 破 第十三話[まっこう](2021/01/31 20:05)
[22] EVAザクラ新劇場版 破 第十四話[まっこう](2021/04/02 22:25)
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[43351] EVAザクラ新劇場版 破 第十二話
Name: まっこう◆564dcdfc ID:3c258e74 前を表示する / 次を表示する
Date: 2020/12/26 18:14
年末最後の更新です。

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 ヴァイオレットの祖国は山の中の小国だ。隣の国と百数十年もの間戦いを続けていた。それを終わらせたのは、厄災が世界を覆ったからだ。両国共に被害が大きく戦争を続けられなくなり休戦に至った。その休戦の直前に亡命しようとしたギルベルトとヴァイオレットは祖国に戻れば即刻銃殺だ。ヴァイオレットはソノミの庇護の下で生き延びて来た。祖国の方でもソノミの元にヴァイオレットがいることは判っていて日本に何人も諜報員を送ったが一人も帰って来なかった。お陰でヴァイオレットは益々祖国の軍部には恨まれている。
 そんなさいにソノミがその国の大統領と直接交渉を持った。大道寺コーポレーションの負担でおもちゃ工場を建て、工場の労働者を現地で採用する。元々それほど産業が無い国で失業者の問題に苦しんでいた為、大統領はその話に直ぐに飛びついた。工場だけで数千人の雇用が確保できれば、大統領の実績になる。その為には死刑囚の一人や二人問題にならない。大統領のお墨付きで、ヴァイオレットと少佐は、死刑は免除、日本への亡命を認められることになった。とは言っても恨みはなかなか消えないものだ。




EVAザクラ 新劇場版

破 第十二話

帰国




「今頃ヴァイオレットさんは少佐さんに会えたのかな」
「大丈夫じゃない。ソノミさんの交渉力とカッシュの腕っ節があれば」

 しかだ駄菓子店のアルバイトは普段ヒカリとトウジがしている。今日は二人が不在な為、アスカとサクラという珍しい組み合わせが見られた。アスカは金に困っていないがネルフ以外からの収入はそれなりに嬉しい。サクラも似たようなものでソノミの小遣い以外の収入が欲しい。そんな訳でこの二人で店番をしている。店長のハジメは今日は仕入れの為いない。奥の部屋にはホタルと服部がいる。サクラは名前通りの桜色のオーバーオールを着ている。偶然だがアスカも赤いオーバーオールで、上に薄手のジャケットを着ている。客もいないので畳部屋の端に並んで座ってる。

「そうだけど」
「そお言えばサクラの特訓はどうなったの」
「体力がついた気がする。ただやたら走らされたせいで、足に筋肉がついちゃって太くなっちゃった」
「ふ~ん」
「アスカも特訓してたんでしょ」
「内容は秘密。でもちょっとね」
「何があったの」
「本来の目的は今一歩なんだけど、何か変なのよ」
「どんな?」
「見せてあげる。私の右手見ていて」
「うん」

 アスカは胸に手を当てた。

「胸が大きくなったの?」
「違うわよ」

 アスカは苦笑いをした。次の瞬間アスカの右手がかすみ、手の中に小型拳銃が現れた。

「へ?」

 サクラの動体視力は相当良い方だが、急に拳銃が現れたように見えた。

「えっと、物体引き寄せ?」
「単なる早撃ち、撃ってないけど」

 次の瞬間、アスカの手がかすみ拳銃が消えた。

「私拳銃の早撃ちなんて出来なかったし、特訓でもやってない。なのに急に出来るようになった」

 アスカが鋭い視線をサクラに向けた。

「サクラが元いた世界の私は早撃ちの名手だったわよね、あんた私に何かした?」

 アスカの視線がよりキツい物になった。

「サクラ何もしてないよ。ほらトモヨちゃんも波紋法が出来たし、素質は似てるんだよ、きっと」
「そう、ま、早撃ちが出来て悪いことはないからいいけど」
「うん、うん」

 アスカは視線を緩めた。軽くため息をつく。

「サクラは、意識的じゃなくてもこの世界に影響を与えてるんじゃない?」 
「かもしれない」
「私は他人の影響で変わるのは嫌よ。自分の力は自分で手に入れたい」
「そだね」

 丁度店に客が来たため、話は終わった。駄菓子をいくつか選んだ大学生ぐらいの女性はカウンターにお菓子を持ってきた。

「あの~紅場アカネのモデルの方って」
「あ、今奥の部屋にいま」

 サクラが説明しようとした瞬間、後ろの戸が開いた。お腹が大きくなったホタルが、無理のない、だけど変なポーズをして出てきた。

「お呼びかしら?」

 そしてアニメのOPのポーズをしてみせる。

「駄菓子と夫をこよなく愛する鹿田ホタル、またの名を紅場アカネ」
「わあ~アニメそっくり」




「何かこの頃発明癖着いちゃって」

 ミサトが徹夜明けで、ネルフ本部の食堂でコーヒーを啜っていると、こちらも眠そうなリツコがやってきた。

「リツコが発明するのはいつもの事じゃないの」
「それはそうなんだけど」

 リツコもコーヒーを注文しミサトのいるテーブルについた。

「発明の質が何か変なのよ」

 リツコは白衣のポケットから何か出した。テーブルに置く。

「眼帯と何かのグリップ?何それ」
「ミサト向けの身体強化用の眼帯とフィルムサーベル」
「変なもん作ったわね」
「これミサト用。眼帯をつけてそのグリップを握れば形状記憶合金の極薄い刃が展開されるわ。極薄いと言ってもいたって丈夫。眼帯は貴方の身体機能を極限まで上げてくれる。ま、その分体力使うけど。ともかくその眼帯をしたら、柳生十兵衛並の剣豪になるわ。弾丸も切れるんじゃないかしら」
「ふ~ん、これがね」

 ミサトは眼帯を手に取った。眼帯と言っても円形ではなくハート型に近い形をしている。結構重い。

「あとで、使い方のレクチャーをするわ」
「判った、それにしてもリツコはサクラちゃんの元いた世界のリツコに似てきたわね。私が剣豪になるのもそうだし」
「そうなのよ。影響受けてるわよね」

 リツコは頭を抱えた。

「やはり木之本サクラは排除するべきなのかしら」
「さあ。その時は私がやるわ。リツコが悩む事じゃない」
「そ」

 この話はあまりしたくないのかリツコは話を変えた。

「そお言えば、WWRというか大道寺家の使用人の代筆屋さん、レイが懐いているのよ。今日愛人を取り戻しに行ってるんだって。なんか情報ある?」
「一応諜報部にマークさせてるわ。情報は逐次送ってる。情報があればあの連中なら何とかするでしょ」
「それもそうね」




「あと十分で到着よ」
「はい」

 TBNとスカイナイト号は亜音速まで速度を下げていた。仮眠をしていたヴァイオレットも起きている。今スカイナイト号はパーカーが操縦している。副操縦士席には見延が座っている。通信士兼搭載コンピューターの操作係はケンスケだ。ケンスケはBIG-RATで操作を覚えさせられた。トモヨは着替えていてここにはいない。カッシュはソファーで横になって目を瞑っている。

「ネルフからの情報だとギルベルトさんで間違いないらしいわ。流石ネルフね。あんな小国にも諜報員がいるなんてね」

 ソノミは先程パーカーが入れたお茶を啜っている。ソファーの横に座っているヴァイオレットはテーブルのお茶のコップをじっと見ている。

「何度も言うけど、私とトモヨはカッシュがいるから安全よ。あなたは自分とギルベルトさんの安全だけを考えなさい。ともかく二人でスカイナイト号に避難する事だけ考えなさい」
「はい」
「隊長、ちょっといいですか。ネルフからの新情報です」

 スピーカーからケンスケの声がした。

「ギルベルトさんは腹部にリモート爆弾を埋め込まれていて、そのうえヴァイオレットさんを殺すように洗脳されているらしいです。軍部が独断で暴走したようです」
「えっ」

 思わずヴァイオレットは立ち上がった。視線がふらついて定まっていない。

「落ち着きなさい、ヴァイオレット。予期した事だわ」
「落ち着いていられません。予期したってどういうことですか」
「まず深呼吸、それから座りなさい。私はいつでもあなたの味方よ」

 一瞬ソノミに憎悪に近い視線を送ったヴァイオレットだが言われたとおり深呼吸して座り直した。

「普通の爆弾だったらTBNで解除できる。ただTBNで駄目な場合を想定してスカイナイト号を借りたのよ。スカイナイト号のAIのKISSはネルフのMAGIを除けば世界最強のAIの一台よ。スカイナイト号は犯罪捜査にナイト財団が使うために作られたから、爆弾の解除からハッキングまでありとあらゆる対抗手段が搭載されているのよ」
「はい」
「だから爆弾の方はこちらで何とかする。ただ爆弾が不発の場合、少佐がアナタの命を狙ってくる。多分少佐はアナタを殺したら自殺するように洗脳されてるわ。だから二人で生き残る以外道はない。自分が犠牲に成ればなんて甘い考えよ。いいこと、命がけで少佐を止めなさい。生きていれば、どんな重傷だって、間先生が何とかしてくれる。洗脳はあなたの思いで癒しなさい。心と体を全て捧げてね。私はそれをしたくても出来なかった。夫もナデシコも救えなかった。だから何と代えてもヴァイオレットにはそれをさせてあげる。それにはまず落ち着くこと。今だけ戦闘人形に戻りなさい。冷静にギルベルトさんの事だけを考えて行動しなさい」
「はい」
「多分他にも罠はあると思うけど大丈夫。その辺の軍隊ならカッシュが蹴散らしてくれるわ。でしょ」
「ああ、任せておけ」

 目を瞑ったままカッシュは答えた。

「よろしくお願いします」

 ヴァイオレットは頭を下げた。

「準備出来ましたわ」

 ちょうどトモヨが着替え終わってやってきた。

「武装もバッチリですわ」

 武装といっても装甲服などを着ている訳ではない。いつもの学校の制服にベレー帽と白い長い手袋をしているだけだ。ただ手袋はダンスパーティー等で着ているものと比べると少し厚ぼったい。

「ヴァイオレットさん準備はいかがですか?小火器なら後ろにございますわ」
「後で選ばせてもらいます。私も覚悟が決まりましたので」

 ようやく落ち着いたのか、ヴァイオレットの顔に微かに笑顔が戻ってきた。

「そうよ。好きな男に会いに行くんだから。さあ化粧直しをして、動きやすくかつ可憐な服に着替えてらっしゃいな」
「はい、ソノミさん」




 その国には国際空港は一つだけだ。国の西の端にある。端と言ってもそれほど広い国ではない。TBNなら十分間で横断できてしまう。空港自体もそれほど広くはない。国際空港がないと、観光業に差し支えるからあるようなものだ。戦中は軍事用の空港だったが、今では模様替えしてお客様を迎えるための施設もある。ただ元々それほど産業はなく、貧しい農業国だったうえ長年の隣国との戦争のため国力は疲弊していた。空港整備で予算も使い果たし、借金財政だ。観光業も今一つだったが、そこに降ってわいたのが大道寺コーポレーションの工場建設の話だ。そんな訳で国としてはありがたいお客だ。
 TBNはその国際空港に先に到着した。空港には熱烈歓迎の大段幕があるわけではない。大道寺コーポレーションと国の契約は第三国で行われる事になっている。今日は前提条件のギルベルトの引き渡しだけだ。本来なら操縦士のパーカーとヴァイオレットがいれば済む話だが、ソノミは陣頭指揮をしたがるのでこうなった。ともかく到着したTBNだが空港の職員は寄ってこない。TBNは護衛用の機体で出迎え無用と伝えてあるからだ。

「周囲2kmに軍事車両は無いわよ」
「了解、アヤカさん」

 TB5からの情報はTBNのディスプレイに表示されるがアヤカの声を聞くと安心できる。ヒカリはTBNのセンサーでわかる範囲で辺りを探っているが、TB5からのデーターどおり何もない。テロを企てた軍部はギルベルトの爆弾と洗脳だけで事は済むと考えているのかもしれない。ヒカリはマイクをオフにした。

「トウジはもし私に爆弾が埋め込まれて洗脳されていたらどうする?」
「東方不敗流の奥義に闘気で金属のみを焼き切る技があるらしい。今はできん」
「今なら?」
「もし腹部なら手刀で爆発するより早く抜き取る。で、すぐに病院に運ぶ」
「もし頭だったら?」
「どうして欲しい?」
「抱きしめて」
「そうか」
「スカイナイト号見えてきたね」
「そやな」

 TBNのモニターに拡大されたスカイナイト号が映っていた。




 スカイナイト号の客室では四人が着陸に備えて座席に座っていた。皆服装は違う。ソノミはいつものスーツ姿で、トモヨは学校の制服だ。カッシュはいつもの黒マントだ。ヴァイオレットはいつもの少しふわっとしたスカートに、青い上着を着ている。ただそれらはWWRで防刃防弾加工をしているものだ。青い上着は左脇の下にホルスターが忍ばせてあるが、フワッとしたデザインのため目立たない。ホルスターには小口径の拳銃が収まっている。もしギルベルトを無力化するのに必要となったときに出来るだけ怪我をさせないためそれを選んだ。今ヴァイオレットは胸のブローチを握りしめて目をつぶっている。祈っているのかもしれない。

「ヴァイオレット、落ち着いた?」
「はい」
「念を押すわ。私とトモヨはカッシュがいるから大丈夫。どんな危機が迫っても無視しなさい」
「はい」
「ギルベルトさんを傷つける事を躊躇しないで。致命傷以外ならTBNで間先生のところへ運ぶから。判った?」
「はい」
「じゃ、罠をぶち破るわよ」
「はい」

 それまでほぼ水平飛行をしていたスカイナイト号は減速が終わりホバリング状態になった。

「垂直降下後、着陸します」

 スピーカーからケンスケの声が聞こえてきた。




 スカイナイト号がTBNの横に着陸して五分後、空港施設からリムジンがやってきた。二機と百メートルほど離れた場所に止まる。リムジンの後部座席のドアが開き、男が三人降りてきた。二人は黒背広でサングラスで顔を隠している。もう一人は灰色の背広を着ていた。ただ背広の右腕は中身が無くぶらぶらと揺れている。右目は潰れているのかアイパッチをしている。それ以外も顔を火傷の跡が覆っている。
 スカイナイト号の一行は、客間のディスプレイに写されている男の全身、顔のアップを見ていた。全身の画像には腹部の爆弾の位置が重ねて映っている。

「KISSによる爆弾無力化処置完了。ただし雷管、火薬に衝撃に反応しやすい物を使っているようですので対象を無力化の際は気をつけてください」

 ケンスケの声をヴァイオレットは聞いていなかった。男の顔をじっと見ている。

「少佐、少佐の目です。私の好きな少佐の目です」
「そう」
「少佐、少佐、少佐、少佐」
「落ち着きなさいヴァイオレット」
「だって少佐なんです」
「まだ貴方の少佐じゃないわ。取り返していない」
「でも、でも、でも」
「落ち着きなさい」

 ディスプレイをかじり付く様に見ているヴァイオレットの前にソノミが滑り込んだ。

「あっ」
「落ち着きなさい、貴方はこれから少佐を無力化しないといけない。出来なければ二人とも死ぬ。そうなりたいの?」

 ヴァイオレットは首を激しく横に振った。目尻に貯まった涙が弾け飛ぶ。

「整形した別人の可能性だってあるわ」
「いいえ、少佐です。私は少佐の虹彩のひだまで知っています。あの瞳は少佐の瞳です」
「間違いないの?」
「はい。もう落ち着きました。少佐を取り戻してきます」

 ヴァイオレットは涙を目で拭った。

「判ったわ。じゃカッシュを付けるから、二人で行ってらっしゃいな。ケンスケ今いくと伝えて」
「FAB、隊長」




 しばらくしてスカイナイト号の横の扉が開いた。先頭はカッシュ、真ん中にヴァイオレット、しんがりはトモヨだ。相手の人数にあわせた方が何かあった際にいいだろうと三人になった。はじめパーカーが行くと言っていた。ただすぐに離陸できるようにパイロットは残した方がいいとなった。ケンスケはAIの操作で行けないので、ソノミが行くと言ったが、トモヨが波紋で痺れさせ今は自分の方が強いと納得させた。ソノミはかわいい子には旅をさせるというか、雌ライオンも真っ青の、千尋の谷に我が子を突き落として、ついでに手榴弾も投げ込むタイプなのでトモヨが行く事になった。
 一行がリムジンの方に歩き出すと、リムジンの男達も歩き出した。

「ほう、俺用の相手がいるようだ」

 カッシュが怖い笑いを浮かべた。むこうからはギルベルトらしき男を先頭に後ろ十メートルに二人が付いてくる。爆弾の殺傷範囲を見越した距離なのだろう。

「ではもう一人は私ですわね。あ、止まりましたわ」

 先頭の距離が五十メートルほどに成ったとき、ギルベルトらしき男は進んできたが、残りの二人はその場に止まった。

「私だけで行きます」
「武運長久を」
「はい、トモヨ様」

 ヴァイオレットは振り返らず進んでいく。トモヨとカッシュはその場に残った。二人の距離が少しずつ近づいていく。あと五メートル程の距離に成ったときに男がかすれた声で言った。

「ヴァイ・・オレット」
「少佐」

 掠れてはいたがギルベルトの声だった。思わずヴァイオレットは駆け寄った。罠が有るのは判っている。だがギルベルトに早く触れたい。その場で取り押さえればいいと思った。もう少しで手が届きそうになった瞬間、ギルベルトの右手の裾からナイフが飛び出た。ヴァイオレットは急停止して右に跳ぶ。

「え」

 左手の方から取り押さえようとしたヴァイオレットだが、ギルベルトは微笑みながらナイフを自分の頸動脈にあてた。

「駄目」

 ヴァイオレットは洗脳の誤動作と判断し慌ててギルベルトに飛びついた。ギルベルトは洗脳以外にも何かの強化措置を受けていたらしい。ナイフがいきなり飛燕の速度でヴァイオレットの心臓めがけてたたき込まれた。昔の生体強化が万全なころのヴァイオレットなら問題ないが、今はほぼその効果が切れていた。慌てて避けようとしたヴァイオレットだが間に合わなかった。次の瞬間何かガラスの様な物が割れる音がして、ナイフが逸れた。ナイフは特別製らしく、防刃加工を施したヴァイオレットの上着を切り裂き、ヴァイオレットの右の乳房を切り裂いたが致命傷には成らなかった。痛みで落ち着いたヴァイオレットはギルベルトのナイフを捌き、義手に付けていた指輪をギルベルトの首元に押しつけた。WWR特製の気絶装置だ。取り乱し暴れる被救助者を気絶させて救助を容易くするものだ。ギルベルトは瞬時に気絶した。ヴァイオレットは倒れ込むギルベルトを抱え上げ、全力でスカイナイト号に向かって走っていった。ダッシュした足下には割れたガラスのブローチが緑色に光っていた。
 ギルベルトが気絶した瞬間、後ろに控えていた男たちがダッシュして向かってきた。一人は異様に早い。直ぐにヴァイオレットに追いつきそうになるが、そこにカッシュが立ちふさがった。問答無用でカッシュは拳を送るが男はバックステップして後ろに逃げる。カッシュは追撃するが速度はほぼ同じだ。要するに常人では目で追うのも大変な速度で、戦闘が始まった。
 もう一人の男はそれほど早くはないが、それでもヴァイオレットより早い。ギルベルトを担いでいるヴァイオレットに迫ってくる。

「シャボンランチャー」

 今度はトモヨが間に割り込んだ。両手を男に向けると、シャボン玉が手袋から沢山吹きだし男に向かって飛んでいく。この手袋は元々「しゃぼんちゃん」という大道寺コーポレーション製の子供向けの玩具で、手に着けると音声入力でいろいろなシャボン玉が吹き出る物だ。似たような物を師匠のジョセフの同僚が使っていたのを聞き、トモヨ専用に改造を加えたものだ。
 男はシャボン玉など当然気にせずに突っ込んでくる。だがシャボン玉は特殊プラスチック製でしかもトモヨの波紋入りだ。シャボン玉に触れた男は感電したように体を痙攣させ後ろに吹っ飛んだ。トモヨは深追いせずにヴァイオレットの後ろを守って撤退する。だが男は直ぐに立ち上がり再度ヴァイオレット達を追いかけ始めた。ただ今度は緊急離陸したTBNが翼でひっかけ吹っ飛ばした。おかげでヴァイオレットとギルベルト、トモヨはスカイナイト号に乗り込む事ができた。

「え、まだ立つの」

 ヒカリは思わずつぶやいた。男は相当丈夫な強化処置を施されているらしい。カッシュと戦っている男が速度ならこの男は丈夫さを主眼においているのだろう。次の瞬間男はスカイナイト号に向かって走り始めた。

「ワシが行く」

 スカイナイト号近くに戻っていたTBNからトウジが飛び降りた。スカイナイト号は離陸に時間がかかるため、守らないといけない。

「流派東方不敗は最終奥義」

 トウジは緊急時であるがゆえ却って無心に構えることが出来た。右の拳に気が貯まっていく。何かが心に来た。

「石破天驚拳!」

 突きだした拳から何かが飛び出していく。それは気の拳となって男に激突した。男は吹っ飛び痙攣して地面に転がり動かなくなった。威力はまだまだだがトウジは奥義を放つことが出来た。

「早く乗って」

 ヒカリの声にトウジはTBNに飛び乗った。TBNは緊急離陸した。そして離陸準備が終えたスカイナイト号も離陸を開始した。




「少佐」

 ギルベルトはスカイナイト号に治療用のベッドに寝かされていた。全自動で診断治療をしてくれて、結果はKISSが報告してくれる。ヴァイオレットはギルベルトの残された左手を握って跪いている。我慢していた涙が止まらない。床にぽたぽたと涙が落ちる。ヴァイオレット自体の傷はすでに治療済みだ。血塗れに成った服も着替えている。ただ胸のブローチは中身がなく金具だけに成っている。

「爆弾の取り出し手術はタロウがしてくれる。ああ見えても腕はいいのよ」

 ソノミはヴァイオレットの頭を撫でた。あの後スカイナイト号とTBNは全速力でその国の領空から逃げ出した。大統領と無線で会話したソノミは、絶句した大統領に、契約の条件は変えないが今回の事件に関わった者の処分を行い、今後大道寺コーポレーションの工場にこのようなテロが起きないようにする事だけを約束させた。大統領は一も二もなく了承した。カッシュは置いてきた。彼なら自力で帰ってこれるので、このような時は見捨てていくことをあらかじめ話してあった。

「ヴァイオレット、今のところギルベルトさんは完全に貴方を殺す対象と見てるわ。愛しているかどうかは不明よ。これから本当にギルベルトさんを取り戻す長くて辛い闘いが始まるわ。もしかしたら元に戻らないかもしれない、廃人になるかもしれない。覚悟はいい?」

 ヴァイオレットは顔を上げた。表情が歪んでいる。

「でも大丈夫よ。だって生きているのだもの。生きていれば希望だってある。貴方の愛しているが、ギルベルトさんの愛しているを確かめるんでしょ」

 ヴァイオレットは頷いた。

「大丈夫、絶対何とかなる。お金に関わることは私が何でもしてあげる。だからヴァイオレットは貴方の愛してるで、ギルベルトさんを救いなさい」

 ヴァイオレットはまた頷いた。

「貴方の愛してるとギルベルトさんの愛してる、同じだといいわね」

 ヴァイオレットは頷くとギルベルトの寝顔に視線を戻した。




「トウジ、石破天驚拳できたのね」
「ああそうや。威力はあまりないけどな」
「なんでできたの」
「あん時は、無心だった。ヴァイオレットさん助けないとと思って、雑念が無かった」
「そう」

 スカイナイト号の少し前を飛ぶTBNの機内は意外と静かだ。凄まじい轟音の中で救助活動をする場合もあるため、機内のアクティブノイズキャンセル機能が相当高いレベルだからだ。超音速で飛行中でも機内をほぼ無音にしてくれる。

「トウジ、もし私が敵対組織に捕まって、洗脳されて爆弾埋め込まれてトウジが助けられないとしたら、絶対一緒に死なないでね」
「抱きしめて欲しいんやないのか?」
「ヴァイオレットさんを見ていて考えを変えたの。生き延びて、その代わり敵を討って」
「もしそうなっても、どうするかわからへん」
「そう。でもサクラちゃん、妹さんを優先してあげて」
「サクラは当分親戚に預ける事になったで」
「えっ」
「第三新東京市は危険や」
「そう。寂しくなるわね」
「碇に会えないからやだとだだこねてる」
「サクラちゃん、ききわけいいから大丈夫よ」
「そやな」

 トウジは黙った。ヒカリもそれ以上は話さなかった。




 数時間でスカイナイト号とTBNは大道寺邸に到着した。ギルベルトは直ぐに医務室に運ばれた。すでに待機していたタロウにより緊急手術が行われ、腹部の爆弾の摘出は成功した。手術の様子は録画され取引材料となる。爆弾の方はイクヨが分解して、部品の入手ルート等をパーカーが調べ上げ、これも取引材料となるだろう。今、ギルベルトは集中治療室にいる。

「で、ヴァイオレット、洗脳のほうだけど」

 ソノミの部屋に今いるのはヴァイオレットとソノミとレインだ。応接セットのソファーにヴァイオレットとレインが向かい合わせで座っている。ソノミは少し離れた所で足を組んで椅子にすわっている。

「一応摘出手術中に並行して、BIG-RATでギルベルトさんの脳の下調べをしたんだけど」

 レインは端末の結果表示を見つつ言葉を詰まらせた。

「洗脳が相当頭の奥深くまで、記憶の奥深くまで食い込んでいるわ」
「治らないのですか?」
「そうではないわ。貴方への殺人衝動を消すところまで記憶を消去すると、記憶の相当な部分が削除される。廃人かうまくいっても貴方のことを忘れてしまうかもしれない」
「そんな。何か方法はないのですか」
「貴方には三つの選択肢があるわ。まずは、洗脳の完全除去、この場合さっき説明したとおり、ギルベルトさんは廃人、うまくいっても過去の相当な事を忘れてしまう」
「次は?」
「洗脳の部分消去、これなら貴方のことを忘れない。但し心の中に貴方への殺人衝動は残るから、いつどんな拍子に貴方を殺そうとするかもしれない」
「最後は?」
「何もしない、少なくともギルベルトさんは貴方を愛しているのは確かだわ。一番愛してくれるかもしれない。でも何時でも貴方を殺そうとするわ」
「そうですか」

 ヴァイオレットは俯いた。しばらく黙っていた。

「これは私の罪なのでしょうか?」

 俯いたまま呟いた。

「なんで?」

 ソノミの怒ったような声にヴァイオレットは顔を上げた。

「以前、人殺しの殺戮人形のお前など幸せになれないと言われました。私が人形だった時です。その時の罪が今私と少佐に」
「そんなことないわ。それだったら私とトモヨは即死よ。おもちゃ屋だってビジネスは過酷よ。大道寺コーポレーションの競争相手で潰れて首を吊った経営者はいくらでもいるわ。過去の事を反省するのはいいわ。気に病むのはやめなさい」
「はい」
「貴方が今やることは、貴方とギルベルトさんの為の最善の選択をする事よ。これは貴方にしかできない。その判断のみに責任を持ちなさい」
「はい」




「ヴァイオレットさんは記憶の部分消去を選んだんだ」

 TB5内をぷかぷか浮かびながらディスプレイを見たアヤカは頭を掻いた。無重力下で困らぬように、最近髪をセミロングにした。その上レイン特製の整髪剤のおかげで、髪が全くなびかない。もちろん整髪剤の除去材もあり、五秒で整髪、五秒でさらさらにできる。おしゃべりのアヤカが喫茶えんどうで自慢したところ、そんなに便利なら私も欲しいというお客が多くいたため、大道寺コーポレーションで発売を検討している。ちなみにアヤカは自分がWWRの隊員であることを隠していない。最近WWRの情報もいろいろ出回っているのでいいんじゃないのとソノミには言われている。以前ヒカリを脅した記者が所属した新聞社が一気にソノミに買収され、記者と上の方がくびになってから、あまりWWRの隊員にしつこい取材はなくなった。
 それはともかくアヤカは今週末までTB5勤務だ。今日は朝からそれほど救難要請も無く、のんびりと過ごしている。

「アヤカ、教えてください」
「何イオス」
「ヴァイオレットさんは記憶の部分消去を選びました。これはヴァイオレットさんとギルベルトさんの命の危険を伴う選択です。なぜヴァイオレットさんはこの選択をしたのでしょうか?生物にとって命とは一番大切なのではないでしょうか?」
「そうね」

 アヤカは人差し指を顎に当てて考えた。

「思い出って時には命の危険と比べても重要な事があるのよ」
「でも死んだら思い出もなくなります」
「そうなんだけど、愛するってロジックだけじゃないのよ。不条理で、わがままで、ずるくて、優しくて、献身的で、その他いっぱい。私はヴァイオレットさんが羨ましいわ」
「何故ですか?どう判断しても、ヴァイオレットさんは不幸ではないですか?」
「うんと、なんて言ったらいいかな。自分の命をかけられる愛する人がいたら、それは幸せと思うから。私はまだそんな人に出会っていない。私も姉さんみたいに運命の相手に早く出会いたいわ」
「アヤカさんはどの様な男性が好みなのですか?」
「えっとね」

 しばらくアヤカとイオスで恋愛談義の花が咲いた。五分ほど話した後、急にアヤカの前にホログラムディスプレイが現れた。
 

「アヤカ、北アメリカ大陸に異常な高エネルギー反応あり」
「ディスプレイに高エネルギー箇所を図示して」

 アヤカの目の前のホログラムに情報が加わった。

「何これ。何がおきてるの」
「場所はネルフの第二支部のあった場所です」

 アヤカの目の前のホログラムには北アメリカ大陸に大きな光の十字架が出来ていた。

「完全に消滅、何もありません」




 デートをするとテロにあうお約束だがこれはデートだろうか?シャボンランチャーは実際玩具としてありそうだが、プラスチックのシャボン玉は浮かぶのだろうか?

次回「EVAザクラ新劇場版 破 第十三話」
さぁて、この次もサービス、サービス!

つづく


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