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No.4530の一覧
[0] 俺の道(現実→DQ3トリップ)[緑茶爺](2008/10/21 17:53)
[1] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第一話[緑茶爺](2008/10/21 11:49)
[2] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第二話[緑茶爺](2008/10/22 09:25)
[3] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第三話[緑茶爺](2008/10/22 09:28)
[4] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第四話[緑茶爺](2008/10/22 14:44)
[5] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第五話[緑茶爺](2008/10/22 19:06)
[6] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第六話[緑茶爺](2008/10/23 13:25)
[7] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第七話[緑茶爺](2008/10/24 18:39)
[8] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第八話[緑茶爺](2008/11/06 12:12)
[9] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第九話[緑茶爺](2008/11/29 15:58)
[10] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第九話 番外編[緑茶爺](2008/11/29 15:59)
[11] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第十話[緑茶爺](2009/07/04 20:49)
[12] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第十一話[緑茶爺](2009/12/15 18:06)
[13] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第八話終了時ステータス[緑茶爺](2008/11/06 12:11)
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[4530] 俺の道(現実→DQ3トリップ)第六話
Name: 緑茶爺◆9b0f1c9a ID:8b4f46b1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/10/23 13:25

そして三人で今後の方針を決める。


第一目標として、死なないこと。
これが大前提だ。そりゃ、ザオリクや教会など生き返らせる方法はあるようだ。
だが、どうやら一定時間経過するとそれも無効となるようなのだ。これはかなりシビアな問題だ。
死んでも生き返ることができるという、ゲーム特有の楽観的な考え方が条件次第だが通用しない。
もう、気をつけろとしかいいようがないが、痛恨の一撃や即死呪文など厄介な問題が山積みだ。頭が痛い。


そして第二目標は二人が一人前になること。
これは順調に旅を続ければ、遠くない将来達成できるだろう。俺はそれの手助けをするだけだ。
ある意味、今の生きがいといっても過言ではないだろう。


そして第三の目標として、俺自身がここに連れられてきた理由を探る。
何だか優先順位が低いかと思うが、これは俺の中での変化が関係している。

一昨日、こちらの世界に来たばっかりの頃は、そりゃ元の世界に今すぐにでも帰りたいと思った。

だが、昨日今日とこの世界に触れるにつれ、この世界に惹かれだしている。

そりゃ、突拍子もない話で、魔物と闘うなんて正直、腰が引ける。
だが、この二人の存在が俺の意識を大きく変えてきている。
守りたいものがあるってのは、ホントに大きいんだな。

で、よくよく考えると、そんな大切な二人なのに俺が何者なのか隠しておくというのが、とても心苦しく思うようになってきた。
この二人には、俺が誰なのかを知っていてもらいたい。

信じられないかも知れない。

それによって、二人との距離が離れてしまうかも知れない。

だが、こんな隠し事をしたまま、仲間として旅を続けることが、俺にはどうしても出来そうにない。

ということで、二人には俺が別の世界から来た何者か、というところまでだったが告白した。
ここがゲームの中ではないかと、というのは伏せておいた。流石にこれは言いづらかったからだ。
これも、いずれ話さなくてはならないと思ってはいるんだが…。むぅ…。



二人は最初は信じられないといった様子だった。
無理もない。普通に考えればあり得るはずがない。
そして常識的に考えれば、怪しいこと事この上ない。頭がおかしいとも疑われるだろう。



「…それでなんですね、イルハさんがどこか「違う」と感じられたのは…。」



そういってハイネは俺を初めて見たときの感想を教えてくれた。

ハイネが俺を初めて見たのは、俺がルイーダの酒場に入ってきたとき。
風貌は、特に平均というか目立たないものだというのが第一印象だったそうだ。
だが、なぜか気になる。目が離せない。そしてよく見ていると気になることが。


「イルハさんのマナが、他の人とは明らかに違っていたんです。」


マナ?


「はい、マナとは誰しも持っているもので、資質であり、力であるといいましょうか。人によってその質や量は異なっているんです。ただ、この概念自体、一般的とはいえないものなので、知っている方はあまりいらっしゃいませんが。」


一つ質問。俺は君たちのマナってヤツが見えないんだが…。


「ええ、それなんですが、私は祈祷師の家系の出なんです。その血によって、人に宿るマナが見えるのではないかと…。」


なるほど、ウチラで言うところの霊能力者のようなもんか。


「それで、普通の人のマナは殆ど見えません。冒険者といえど、マナがうっすら見える人がいる、という程度で。」


なるほど、で、俺はどう違っているんだ?


「あなたのマナは何と言えばいいのか…。マナ自体が大きいし、濃密なんです。
 マナがこんなにはっきりと見える人自体、非常に珍しいんですけど。
 でも他を圧倒するようなものではなく、包んでくれるような不思議なものなんです。
 今まで見てきた方の中でもこんな大きくて濃密で、こんな温かいマナは初めてです。」


なるほどねぇ。でも自分で知覚できないのが惜しいなぁ。見てみたいぞ、マナ。


「それと、ギルドカードが示した職業「使者」。これも今の話を聞けば、納得もできます。」


なるほど、異世界からの「使者」か。確かにね。ただ、お使い事はなんなんだろうな。
その、お使いってのを教えてくれないとな。神様だか誰だか知らないが。まったく。
しかし肝心の依頼主が解らないってのが、ねぇ。



しかし、二人ともよくこんな突拍子もないことを信じてくれたもんだ。感謝。

ただ、このことは他言無用にしてくれよ?


「わかっていますよ。」


ハイネが唇に人差し指を当て、しーっのポーズをした。可愛いな、こんにゃろう。

ニルも「はーい!」と元気のいい返事。うん、良いコだ。


「でも、それでだったんですね。変にレベルが高いのにギルドに未登録だったり、この世界の一般常識がなかったりしたのは。」


すんません、勉強に励みます。



「魔石の換金方法を知らないなんて、不思議な人だなーって思ってたんですよ。
 どうやって、これまで生活してきたんだろうって。」



そうなのだ、魔物を倒したときに落とす宝石っていうのが、「魔石」と呼ばれるものなんだと。宝石じゃないのか。
で、これの換金方法なのだが、ほぼ、どの街や村にもあるという「魔石換金所」。
ここで魔石とGを換金するということだった。魔石の交換レートは魔物の強さにほぼ比例するという。
強ければそれだけ希少価値が高く、交換レートも高い。ただ需要と供給で若干レートは変動するのだという。

なんでもその魔石ってのは、魔法の媒介としても使えるんだそうだ。
武器防具などに埋め込まれたり、祈祷用、祭事用など用途は様々ということだ。

ということで、今回の腕試しで獲得した魔石を換金したところ、それなりの額になった。
これはニルとハイネの二人で山分けにしてもらった。

二人は遠慮して三人で山分けにといったんだが、俺にはひとまず不要であったし、おこづいかいにでも使ってもらうことにする。なに、好きなものを買えるってのは幸せなことだ。



さて、本題のこれからの行動方針を検討する。

まずは馬車の調達。これは必須だろう。

聞くところによると、その種類はピンキリらしく、ほんとに荷馬車程度のものから、冒険者御用達の長旅用のものまで様々あるのだという。水回りの充実したものや、装甲の厚いもの、無駄に豪華なものなどあると。
それに値段もピンキリで安いものは数百G、高いものは数万Gもするそうだ。うーむ、そこそこのものなら、何とか買えなくはないかな?
なんによせ、明日実物を見に行くことにしよう。うーん、オラ、ワクワクしてきたぞ。

馬車を手に入れてからは、まず、この大陸を見て回ろうということになった。

ストーリー的に見て、あまりこの大陸にいる意味はない。
旅人の扉は勇者一行が開いているだろうし、鍵にしてもアバカムが使えるから、何ら問題ない。
二人のレベルを見ながら旅を進めようと思う。

ただ、どこに俺がこの世界に連れてこられたヒントがあるか分からないので、主要な村は一通り廻りたい。
余力があれば、近隣の村なども見たいところだ。

そして勇者一行なんだが、これはどうするか悩むところだ。

下手に接触してもいいものなのかどうか。
今現在どこまで進んでいるかわからないが、接触は慎重にしよう。
俺の存在も、何らかの影響があるかもしれないからな。
勇者一行の動向はなるべくこまめに、可能な限りチェックしていこう。



さて、腹が減ってきたな。ぼちぼち飯でも食いに行くか。

今回の旅の報告がてら、ルイーダにでも行くか。あそこの飯は旨いしな。

そして二人は支度をすると言って部屋に戻っていった。
そりゃそうか。流石にあの格好のまま出てったら、ちとまずいか。

そして俺も支度をすませ、部屋を出る。
もう、雷神の剣を持ち歩くことに何ら抵抗がない。慣れってのは怖ろしいもんだ。

そんなことを考えつつ、ロビーへ向かう。



主人に鍵を預け、ロビーにあるソファへと座る。
何かここも馴染んできたなぁ。まだ宿泊して数日なのに。

そして主人と世間話をすること暫し。

二人が下りてきた。

お? 二人ともうっすら化粧してる?


「なんだ二人とも、化粧もしてきたのか?」

「お!よく気づきましたね! イルハさん、えらいえらい!」


ニル、撫で撫でするのは止めなさい。恥ずかしいから。

バッチリメイクではなく、うっすら上品な化粧だ。
ニルもハイネも化粧上手いんだな、っていうか女の子はみんな上手いやね。

二人とも羽織るものとバッグを持ってきただけか。
まぁ、女の子が食事行くのに武器持つなんて無粋だよな。俺が持ってりゃひとまずは大丈夫だろう。
っていうか二人とも魔法が使えるから、護身的に考えれば問題はあんまり無いのか。

そして三人連れだってルイーダの酒場へ向かう道中、二人はきゃいきゃいとウインドウショッピングをしながら歩いていく。
俺はそんな二人より、二歩ほど引いたあたりを付いていく。
服屋、雑貨屋、書店…。色々なお店を見て回る。二人は今回入ったお金で何を買おうか迷っているようだ。
うーん、お兄さんは腹が減ったので、できれば早く行きたいんだがしょうがないか。

このぐらいの年齢の子達だったら、これが当たり前だよな。冒険者になるってのが幸か不幸か…。
こんな日常的な時間位は大切にしないとな。



そんなこんなで、二人は雑貨や服を買ったようだ。嬉しそうだな、二人とも。
自分で稼いだお金だから、その感動もひとしおだろう。

俺も、初任給で買い物した時の感動を思い出したよ。



そうこうして一日ぶりのルイーダの酒場へ到着。

が、なにやら入口に人だかりが…。


「なんでしょうね?」


ハイネが隣に立って言う。

うーん、ケンカやらいざこざって訳じゃなさそうだな。
別段静かだし、何かを遠巻きに見てるって感じだ。 野次馬?


「まぁ、行ってみればわかるだろ。」


はい、ちょっと失礼しますよ? ほら二人とも、気をつけて付いてこいよ。

人混みをかき分け、店内に入る。
何だ、店内は別に込んでないじゃないか。野次馬達は何を見てるんだ?

テーブル席の客はまばら。そのテーブル席に座る客も、なぜか視線は皆カウンターへ。

カウンターに誰かいるのか?

皆に倣って俺もカウンターに視線を移す。

そこには、明るい茶色のショートカットの小柄だが、風体からするに冒険者だろう。
カウンターに立てかけてあるのは鋼の剣だな。鎧や盾、兜も恐らく鉄装備。なかなかの重装備だ。結構、熟練者かな?

その人物とルイーダがなにやら話し合っている。

冒険者の顔は伺えないが、ルイーダの表情は困り顔だ。

なんだろう、厄介ごと? 



…嫌な予感がする…。



俺が二人を連れて店外へと引き返そうとした時、後ろから声を掛けられてしまった。


「お! イルハ良いところに! ちょっとこっちに来な!」


…あぁ、遅かったか…。
こういう時って外れないんだよな。俺の勘。やだなぁ。


「あー、ちと急用を思い出しまして…。」

「あからさまな嘘付くんじゃないよ。」


さっくりと切り捨てられてしまった。

仕方がない。話だけでも聞いておくか…。そして二人を促し、カウンターへ向かう。



「さてイルハ。一つ相談があるn

「厄介ごとでなければ、承りますよ。」


ルイーダの言葉を遮りながら言う。


「…人の話は、ちゃんと最後まで聞いくもんだ。」


ジト目で見るルイーダ。

…アンタも以前、俺の話をぶった切ったでしょうが…。


「あー、はいスイマセン。で、何でしょうか?」

「何だい、そのやる気のない反応は。…まぁ、いい。イルハ、このコ、誰だか分かるかい?」


そういってカウンターに座っていた冒険者を紹介される。

綺麗な茶色の髪。これはさっき後ろから見えてたから分かってたんだが、それ以外にも不思議な翠色の綺麗なクッキリ二重の瞳。スッと通った鼻筋。控え目な小さい唇。
…あれ? このコって女の子?

こんなコが冒険者? それにあんな重装備を?…ってもしかしてこのコって…。


「…勇者…?」

「大当たり。」


やっぱり。俺の勘は外れなかった。外れて欲しかったんだが…。



「で、だ。イルハに相談事っていうのなんだが、このコの手助けをして欲しいんだ。」



あー、何だコレ。さっき三人で相談したことって何? あっさりと、勇者様と遭遇、しかも手伝え?
手伝えってことはパーティー組めってことか?
だが、勇者一行は半年も前に旅立ったって聞いてたんだが手伝えってのは?


「あー、そのことなんだけどね…。」


む、ルイーダと勇者の表情が曇る。こりゃパーティーに何かあったな。


「それについては私から説明するよ。」


勇者本人ではなくルイーダが説明を?
本人からは言いづらいことなのか…。更に厄介っぽいな。



そしてルイーダの説明によると…



勇者一行は昨日の夜明けと共に、イシスの北にあるピラミッドを目指して出発。
ピラミッド自体は特に問題なく攻略、目的である魔法の鍵も入手できたため、イシスに帰ろうとしていた。
が、パーティーの一人の武闘家がここには「黄金の爪」なるものが眠っていると言い出した。
武闘家として黄金の爪は非常に憧れの存在だと力説したそうだ。
そのあまりの力の入りっぷりに他のメンバーも渋々探索を了承した。それが全ての始まりだった。

もともとピラミッドを攻略したあとだったのが災いした。
少なくない損耗。しかし敵は、戦い慣れた魔物ばかりであったため、油断もあったんだろう。負けはしまいと。
一旦脱出し、装備や体調を調えてからなら、結果はまた違ったのかも知れない。

探索を進める内、最下層の奥の部屋にそれはあった。

光り輝く黄金の爪。

確かに見た目も物凄く立派だし、伝説にも残る武器だ。威力の方も申し分ないんだろう。
嬉々として、黄金の爪を台座から外して装備する武闘家。

その偉容は素晴らしく、確かに他者を圧倒するものがあった。

そしてピラミッドから脱出しようと出口へ向かうと…。

急に凶暴性を増す魔物たちが。
倒しても倒しても、後から後から溢れ出てくる。
そして何故か目指すのは武闘家。
慌てる勇者一行。だが、そこは歴戦のパーティーだ。僅かずつではあるが、出口へ向かいながら戦闘を繰り返す。
武闘家も水を得た魚のように黄金の爪を振るい魔物を切り伏せていく。
勇者たちもそれをフォローし、何とか脱出を試みる。が、何せその数は尋常じゃない。

まさしく、ピラミッド中の魔物が一挙に押し寄せてきているような猛攻だった。



何とか地下2階を抜け、もう少しとなったことろで、まず力尽きたのが魔法使い。



何故か魔法が使えないことで、打撃力、防御力共に低い魔法使いは、魔物たちに為す術無く蹂躙された。
回復を行おうにも、僧侶も勇者も自分のことで手一杯でとてもじゃないが、助けに行くことが出来なかった。

その時点で戦闘を回避し、脱出を最優先にすべきだと考えたとき二人目の犠牲者がでた。



僧侶だった。



魔法使いに比べれば打撃力、防御力のある彼は、何とか猛攻をしのぎつつも後退の機会を探っていた。

その時見えた武闘家の危機。
さしもの歴戦の武闘家も、押し寄せる魔物たちに押されて防戦の一手だった。
そして疲れからくる体力や集中力の低下。

一瞬の反応の遅れに、背後からの一撃で態勢を崩す武闘家。

それを見ていた僧侶は、最後の力を振り絞り、何とか武闘家に駆け寄ろうと試みる。

が、それが致命的な隙を生んでしまった。

僧侶は一瞬のうちに魔物の波に飲み込まれ、断末魔の悲鳴と共に姿が見えなくなった。



その後も勇者が必死の抵抗を試みるも、魔物たちの圧力に押されていく。





このままでは全滅は必至。





焦りだけが募り、有効な打開策は見出せない。

ここまでか、と勇者が諦めかけたとき、武闘家が咆哮する。


その声の方向を見ると、武闘家が勇者に向かって叫んでいる。



逃げろ、と。



その言葉の意味を理解できないまま、呆然とする勇者。

そこを目前まで迫った魔物に吹き飛ばされる。

だが、九死に一生を得るとはこのことか。吹き飛ばされた先は上へと繋がる階段だった。

しかし、武闘家を一人放ってはおけない。

踵を返し、再び武闘家の元へと駆け寄ろうとしたとき、武闘家と一瞬視線が交わる。



その視線で勇者は理解した。理解させられた。



武闘家は死を賭して、この死地から自分を逃がそうとしていると。



そしてその視線が交わった一瞬の後、武闘家の姿は魔物の波の中に消えていった。



その後のことはよく覚えていない。死に物狂いで階段を駆け上がり、立ち塞がる魔物を時に切り捨て、時に逃げ。

何とかピラミッドからの脱出を果たしたのは、既に月が天頂に輝く頃だった。





「…そしてルーラで、ここアリアハンに帰ってきたのが昨日の夜半。」


それからは、ルイーダの酒場で事の成り行きを説明したあと、一旦休んだそうだ。
そして、朝一で同じことをもう一度王宮へ報告。

王様からは新しい仲間を募り、再び旅に出よ、と言われたそうだ。

無茶言うなよ、王様。

身体も心も傷ついている時に、投げかける言葉じゃないだろう。
いくら勇者だからって人の子だ。旅を共にした仲間が倒れたんだぞ?
こうしてここに居ること自体が驚きだ。普通なら引きこもったっておかしくない。


「…いえ、王様は暫くは休んでも構わないとおっしゃいました。しかし、私がそれでは仲間に会わす顔がないと。
 一刻も早く魔王を倒し、世界に平和をもたらさないと、同じ悲劇がまた繰り返される、と…。」


勇者がふりしぼるように言葉を紡ぐ。

で昨日の今日で再度仲間を集め出発すると。


「はい、そのつもりです。」


凜とした双眸。こりゃ一筋縄じゃ折れない眼だな。

だが、仲間はどうする。
キミのレベルが幾つだか知らないが、イシスまで行ったんだ。そこそこのレベルだろう。
そんなレベルの冒険者はざらには居ないだろう。


「ええ、確かにそうです…。ですがルイーダさんにお聞きしたところ、アナタはかなりの冒険者なのだとか…。」


うわ、藪蛇。

いや、確かにレベル的にはそうなんだが…と言おうしたらルイーダが要らんことを言ってきた。


「大丈夫さ、そいつは昨日も初心者を仲間に入れて鍛えているところでね。
 そいつらを鍛えがてら、勇者の面倒も見てくれるって。」


おいおい、そりゃなんt


「そうですよ!大丈夫です!」


ニル?


「そうですね、イルハさんなら勇者様の力になってくれます。」


ハイネ?

君らのレベルはまだ、10にも満たないってのに、何でそんなに乗り気なの?
勇者のパーティーだよ? 明らかに危険度が高いってのに…。


「ほらね。お仲間は賛成のようだ。じゃぁイルハ、よろしく頼んだよ?」


ルイーダさんよぅ。そんなニヤニヤ顔で言われてもな…。

っていうかこっちの都合はお構いなしか。

いやまぁ、俺の旅の目的上、勇者と連めば攻略に役立つことも多いだろう。
だが、ある程度ストーリーを知っているからこそ、ご遠慮願いたいんだが…。

はぁ、この流れで断ったら、すげぇ顰蹙だろうなぁ。



仕方がない、腹括るか…。



と、その前に。
昨日からの疑問をルイーダ本人にぶつけてみることにした


「…なんでルイーダさんは、俺のことをそんなに買うんです? 昨日知ったばかりの俺なんかを。」


と、ルイーダの表情が一瞬厳しくなる。が、すぐに元の人慣れした表情に戻る。


「…んー、何となくってのじゃ納得できない?」

「当たり前です。」

「…ん、まぁ…そうか。」


そう言うと、顎に手を当て何かを考えているようだ。
そして暫く考え込んだ後、


「じゃぁ、ちょっと説明するから、あっちへ行くよ?」


そう言って個室部屋を指さす。
あんな個室ってあったんだ。ここにも。
それにしても聞かれちゃマズイのか? ってあからさま過ぎる気が…。


ルイーダを先頭に勇者、俺、ニル、ハイネと部屋に入る。

そしてルイーダが「人払いしておきな。」と言うと、店員数名が部屋の入口の前に陣取り、扉を閉めた。



そして皆が着席したのを確認すると、ルイーダが話し始める。


「イルハ、アンタは洗礼の時に『声』を聞いたんだよね?」

「ええ、残念ながら何と言っているのか迄は解らなかったんですが…。」


そうだった。声を聞いた。恐らくは女性の声。意味までは理解できなかったが、確かに声を聞いた。


「で、だ。その声を聞いたのがイルハを含めて3人。」


3人? 他は誰が?


「まず一人目は勇者オルテガ…。その子の父親さ。」


オルテガ。勇者の父親…。


「そして二人目が、勇者オルテガの子。ティファだよ。」


ティファ…?


「そのコだよ。」


ああ、名前か。


「で、「声」を聞いた前例のある二人が揃って勇者。
 そうなれば素性が知れないとはいえ、竜の神様が一言くださったんだ。裏があるような人間じゃぁないだろうと。
 ま、話してみても、何か隠し事はしていそうだが、性根は真っ直ぐみたいだからね。
 これでも海千山千の酒場の主だ。見かけ通りの年齢でもないしね? 人を見る目はあるつもりだよ?」


今さらっと爆弾発言したような…?


「そこは流しておきな。」


あい、了解っす。


「で、引き取った二人、ニルとハイネの様子を見て、此奴なら大丈夫、と確信に至ったワケだ。」


あー、何だ。この魔女めっ。


「そういった経緯から、アンタと一緒にパーティーを組んでもらいたいワケだ。」


うーん、まぁ断るって選択肢は、ひとまず無いか。
俺の知識も役立つだろうし、勇者の存在は俺の目的にも利するだろう。

まぁ、大変な目には遭うだろうな、色々と…。
そうなると俺は、まぁ、諦めというか何というか、いいとして。


「ニル、ハイネ。二人の意見はどうだ…?」


この二人の意見を無視するわけにはいかない。
まぁ、さっきの反応を見る限り、反対するって事は皆無な気もするんだが…。


「アタシは賛成ですっ」

即答したのはニルだった。
しかもやたら元気がいい。というか興奮している様子だ。大丈夫か?


「私も賛成です。勇者様のお手伝いをするなんて少し荷が重い気がしますが、イルハさんやニルとなら…。」


そうか、ハイネもね。
ということは、いよいよ断る理由はないな。


「どうだい? 受けてくれるかい?」


幾分真剣な面持ちでルイーダが聞いてくる。


「…ええ、解りました。俺たち三人がどれ位手伝うことができるか、心配な部分もありますが、了解しました。」


そして勇者、ティファに向き直る。


「ということで協力させてもらうな。俺たち三人迷惑をかけるだろうが、よろしく頼むよ。」


そういってティファに頭を下げると、二人もそれに倣う。


「いえ、こちらこそご迷惑をお掛けするかと思いますが、これからよろしくお願いします。」


深々とお辞儀をするティファ。
と、あ!と何かを思い出した様子。

「すいません、名乗るのが遅れました。ティファーナといいます。普段はティファと呼んでください。」


そういって俺はティファと握手をする。
勇者といえど、女の子だ。やはりその手は華奢に感じられた。




さて、これでウチラは勇者のパーティーになったわけだ。
だが、よもやこんな事になろうとは、人生一寸先は闇だ。………闇?





その後は四人でテーブルを囲み、親睦会を兼ねた食事。

と思ったが、一旦ティファは家に帰った。
そりゃそうだ。あんな格好で食事はできんよな。

そして暫くしてティファが揃ってから、自己紹介に始まり、他愛もない話や一転して真剣な戦訓討議など様々な意見や情報を交換した。

その中でも話題に上ったのはやはり俺の職業。初めて見る職業にティファも興味津々の様子だった。
だが、今は詳細を告げることができなかった。また早い時期にティファにも打ち明けないとな。

そして色々話す中分かった事が一つ。ティファも勇者とはいえ、女の子ってことだ。
買い物や可愛いもの好き。その辺はそこらの女の子たちと大差ない。
ただ、背負ったものが重すぎただけなんだ。
父親の存在、国や民からの期待。勇者という肩書き…。
よくこんな女の子が背負ってこられたもんだ。

…そうか、仲間か。
苦楽を共にした仲間がいたからこそ、このコは勇者たり得たのか。

しかしその仲間を失い、普通であればそのまま心まで挫けてもおかしくないってのに。
このコは再び立ち上がった。



俺は、このコの負担を少しでも減らすことができるだろうか。
いや、このコだけじゃない。このコ達3人の負担を少しでも軽くしてあげないとな。
普通の女の子で居られるように。普通に女の子してても大丈夫なように。

なんだろうな? 俺ってこんな殊勝な人間だったかな? 
まぁ、悪い気分じゃない。むしろ、それが心地良い。

この変化は歓迎すべきだろう。



この娘っコたちが幸せな結末を迎えられるよう、俺は俺の出来る限りのことをするまでだ。



それが、今、俺に出来る最良のことだろう。



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