さて、これからどうするか。
俺たちはルイーダの酒場に戻り、これからの目的を洗い直し、何処に向かうかの検討をする。
まずはポルトガへ向かうのが定石だろう。ストーリーを進めるのであればそれが無難だろう。
そうなると、一番の目的はバラモス退治になるだろうな。
まぁ、それだけでは事が終わるわけではないんだが…。今は言わない方がいいだろう。
それとティファの父親であるオルテガ氏の捜索。これも色々事情を含んでいるので難題だな。
何とか最悪の結果だけは免れたい。
それから全員のレベルアップ。
俺みたいなイレギュラーな存在がいるので、ストーリーを進めるだけならば、それなりに進んでいくだろう。
だが、それでは皆のレベルアップが疎かになってしまう。
俺が一人で強いだけでは、これからの旅は円滑に進んでいかないだろう。
皆が成長していかないと。特にニルとハイネは、まだ本来ポルトガに向かうようなレベルではない。
彼女らの戦闘センスは良いものだと素人目でも感じるが、流石にこれから長期的に見てもしっかりとしたレベルアップは必須だ。
俺やティファで極力フォローはしていくが、カバーしきれない場面も出てくるであろう。
自分の身は自分で守る。
酷な事かも知れないが、冒険者たる者、それが当たり前なんだろう。
ニルとハイネも、いつまでも守られてばかりでは納得もいかないだろうしな。二人の気性からいって。
しかし、改めて実感したのだが、何としてでも死ぬわけにはいかない。
遺体の埋葬を終えルイーダの酒場へ戻ったとき、俺にはザオラルが使えた筈だ、と言うことを思い出した。
もしかしたら、万が一にもと言うことがあるので、蘇生は可能なのか皆に聞いてみた。
しかし、ルイーダ曰わく、
「残念だけど、それはもう無理だね…。昨日の晩、彼らが倒れた「直後」であれば、もしかしたら可能だったかもしれないんだが…。」
というと?
「まず一番は遺体の欠損部分が大きすぎる。これじゃ、流石の蘇生呪文といえど、もう蘇生は不可能だね。」
ということは、欠損部分が少なければ蘇生も可能だった?
「まぁ、そう言う場合もあるね。腕や足がもし千切れたとしても、生きてさえいれば、回収して回復魔法でくっつけることも可能だ。
だが、魔物に捕食されたり、消失していたりすると、いかに回復魔法といえど存在しないものの再生は出来ない。
傷自体は治るけどね。」
そう言うことか。
「そう、蘇生呪文とはいえ、無い物を再生することはできない。例えば、遺体の一部が回収されたとする。だが、腕や足にザオリクをかけても身体がないのだから、蘇生はしない。そういうことだよ。」
「そして、身体があって腕や足が無い。この場合は蘇生はするが、腕・足は戻らない。四肢が千切れていても、それが揃っているならば、五体満足で蘇生が可能な場合もある。だが、一番の核となるのは頭部及び身体だ。ここを潰されるとほぼ間違いなく即死だからね。解っているとは思うけど気をつけな。」
なるほどなぁ。
「そしてザオリク・ザオラルの効果が出る期間だが、もって2〜3日。これは個人差があるんだが、大凡の目安だね。
万全を期すなら、死亡直後か1日以内だね。まぁ、回復魔法が間に合うならそれに越したこたないんだが。」
期間については腐敗具合などが関係しているのか?
個人差があるというのも気になるな。
しかし、ザオリクですら蘇生できないということは…。こりゃいよいよ、死ぬわけにはいかないなぁ。
厄介なのは即死呪文と痛恨の一撃だな。今はまだいいが、これから出てくる敵は厄介なヤツが多い。
…ああ、気が重い。
「でも、まぁ、回復呪文さえ間に合えば、そうそう蘇生呪文の出番なんて来ないさね。
要は、いかに回復呪文を効率よく掛けるか、ってことだね。特にアンタなんかは素早さも高い上、回復呪文も使えるんだ。
よっぽどで無い限り、蘇生呪文は使わないだろ?」
そうなるよう努力します。はい。
ついでに回復呪文の効果範囲も確認しておいた。
敵からの直接打撃、呪文やブレスなどに対しての回復呪文は内傷・外傷問わず有効だということだ。
それとホイミ、ベホイミ、ベホマは効果の違いだけだということも解った。使い分けていこう。無闇にMPを消費することもないしな。
「しかし、イルハはなんで今更そんなことを確認してるんだい?」
ルイーダから尤もな疑問を投げかけられた。
そりゃそうだろう。こんなレベルで、これだけ呪文を使えるのに、何故今更そんな基本的なことを確認してるのか。
…やはり、ルイーダにも言っておいたほうがいいだろう。
この人の助けがなければ、これからも上手くやっていけないだろうしな。
幸い、ここは昨日の晩にも使っていた個室なので、ルイーダに打ち明けることにした。
娘っコ3人にも打ち明けることに同意してもらえたしね。
「…なんてこった…。アンタがねぇ…。変わったヤツだとは思ったんだが…。そこまで変わったヤツだったなんてねぇ。」
何か言葉の裏に込められたものが、若干呆れに感じるのは気のせいでございましょうか? ルイーダさん?
「いやいや、深い意味はないよ?」
そういうことにしときましょうか。
その後、俺はルイーダに今まで俺みたいな事例があったかどうかを聞いてみた。が、
「…悪いんだが、アタシがルイーダになってからは、そういったことは記憶に無いねぇ…。」
そうか、残念…。
まぁ、現状、今すぐ急いで戻るつもりも無いからなぁ。ひとまずこの問題は棚上げしておくかぁ。
だが、忘れないように頭の片隅には置いておこう。
そしてひとまずは、ニルとハイネのレベルアップをすることが先決ということになった。
幸い装備的にも充実しているし、装備の拡充を図る資金も潤沢だ。
それにレベルを上げていけば、自然と資金も貯まっていくだろう。
と言うことで、まずはレベル上げに決定。
で、問題はレベル上げをする場所だ。
正直イシスでは勘弁。何しろ暑い。暑すぎる。もうホント辛い。
よくこんな所で生活している人がいると感心すらしてしまう。強いよイシスの民。
そうなるとアッサラーム付近か、暑いとは思うが、イシスよりは環境的には楽だろう。
魔物のレベル的にも二人でも何とか通用するか?
幸いというか、バラモスは積極的に侵略をしているわけでもないし、地道に行こう。急いても事をし損じるってな。
そして今晩はアリアハンに泊まり、明日の朝一でアッサラームへ出発。と言ってもルーラで行くのだから、別に今日行っても構わないんだが、ティファの願い出で今晩はここに泊まりたいと。
そうだよな、元の仲間達と一番近くで泊まれるところっていったらここだもんな。ティファの家族もここに居るんだし。
「…あの、みんな…。」
明日に備えて、これから皆宿へと戻ろうとした時、ティファがなにやらもじもじしながら言ってきた。
「ん、どした? ティファ?」
「…あ、あの、ですね…。」
そう言って俯いてしまう。
何だ何だ、どうしたんだ一体。
暫くティファの様子を伺っていると、意を決したかのように顔を上げ、
「き、今日は本当にありがとうございました!」
そう言ってティファは深々と俺たちにお礼を言ってきた。
「イヤ、別段お礼を言われるようなことじゃないよ。俺たちは仲間だろ?」
「それでも…。」
「あぁ、勿論その気持ちはありがたく受け取っておくよ。 な? 二人とも。」
俺はそう言いながら、ティファの頭をポンポンと軽く叩くと、ニルとハイネも微笑みながらティファの肩を抱く。
「…ありがとうございました。本当にありがとうございました…。」
あぁー、泣くな泣くな。 な?
ニルとハイネで、ティファの背中をさすって落ち着かせている
さっきまで張り詰めていたせいでその反動がきているんだろうな。
まだ上手く感情のコントロールが出来ないようだ。
しばらくは引きずってしまうだろうが、まぁ、その辺は俺たちでしっかりサポートしていかないとな。
特に年の近いニルやハイネには適任か?
この三人の娘っコ達は出会ったばかりだというのに、やたら仲がいいからな。馬があったのだろう。
やっと落ち着いたティファを伴い、お会計を済ませてルイーダの酒場を出た。
そしてルイーダの酒場のほぼ向かいにある、彼女の家へと送り届けることにする。
ニルとハイネはティファに寄り添い、何事か話ながら歩いていく。
こうして後ろから見ていると、とてもじゃないが、冒険者、しかも勇者一行のパーティメンバーとはとても思えない。
普通に仲の良い女の子達としか見えないな。
「…ニル、ハイネ、ティファ。」
その道すがら、俺は少し先を歩く三人に声を掛けると、三人とも立ち止まり、同時のこちらを振り向く。
「さっき話したとおり、明日からは本格的な旅が始まる。ティファは旅の再開ということになるんだが、
恐らく大変な旅になると思う。でも、みんなが居れば乗り越えていけるとも俺は思っている。
みんなで力を合わせて、みんなが笑いあえる、ここをそんな世界にしよう。」
俺がそう言うと、三人とも笑顔でそれに応えてくれた。
「勿論ですっ!」
相変わらず元気一杯だな、ニル。
「微力ながらお手伝いさせていただきます。」
謙虚ながらもその眼には、確固とした信念が伺えるハイネ。
「はいっ」
短い返事だが、その表情は先ほどまでの沈んだ感じはもう無い。
生気に満ちた眼がそれを如実に物語っている。
このコ達となら大丈夫。迷わず、挫けず、止まらず、確実に前に進んでいけるだろう。
俺もこのコ達に負けない様、より一層気を引き締めていこう。
そしてティファを送り届け、俺たちも自分たちの宿へと向かった。
宿へ到着後、ニル、ハイネと別れ、自室に雷神の剣を置いてから大浴場へ。
身体の汚れを一通り落とし、湯船に浸かりながら、今日の出来事を思い返す。
今日も本当に色々な事があった。
まぁ、今日に限らず、この世界にやってきて数日。目まぐるしく状況が変わっていく。
トリップなんて事態になったことに始まって、冒険者になり、仲間が出来、挙げ句の果てに勇者のパーティーの一員になんて、どんなジェットコースタードラマだ。って表現が古いか。
いやいやしかし、怒濤の数日だったな。
しかし、明日からこそが本当の意味での冒険の幕開けだろう。
ここはもうゲームの世界じゃない。此処こそが現実世界なんだ。死んだら終わりの一発勝負。
自分の命を賭け金にした真剣勝負の世界。
この勝負を勝った暁に、俺は何を得るんだろうか。
元の世界に戻れるのか。それとはまた違った何かが用意されているのか。
願わくば面倒なことにはなりませんように。
お願いしますよ? 何処かにいる神様?
そして翌日。
さぁて、そろそろ起きるか。
と思いながらも、ベッドに座ってボーッとしているとドアがノックされた。
「おはようございます。」
「…おはよう、ハイネ。ちょっち待ってくれ。」
ドア越しの挨拶を済ませると、重い腰を上げ支度を調える。
とはいえ、出発の支度ではなく、朝食を取りにいく支度だ。
まず、桶に溜めてあった水で顔をざっと洗い、うがいをして口を濯ぐ。
寝癖も水を撫でつけて直し、タオルドライでそのまま放っておく。
寝間着から黒と白を基調にした上下の作務衣?と言うほど大げさでも無いか。でもジャージと言うほど楽でもないそれに着替えて、腰後ろに雷神の剣を下げる。
もう何だかこの重みが心地良い。俺もちったぁ冒険者が板についてきたってか?
そして必要小物が入った腰袋を下げて支度終了。
「お待たせ。」
ドアを開けると、そこにはハイネだけではなく、ニルとティファも揃っていた。
「「おはようございます。」」
「おー、おはようさん。」
早いな、三人とも。
んじゃ、朝飯食いに行くか。
アリアハンの街は、流石に城下町だけあって、人も多いし、国内の流通の中心であることもあって店も多種多様だ。
食事処も様々だ。
冒険者はまぁ、他に目的があったりするのでルイーダの酒場の使用頻度が高い。
だが一般市民が行く食事処は他にも沢山あるとのことだ。
ということで、俺たちは朝飯を食べるべく、飯屋が集まっている食事街へと向かった。
娘っコたちによると、チェーン店やファーストフード店、焼肉屋などまであるようだ。
いくら何でも、朝から焼肉っていう選択肢は流石に無いが。
こちらの世界でも焼肉は夜、と何となく決まっているようだ。
他にも屋台、生鮮品などを扱う出店などが集まった朝市もあるとのこと。
こういったものは、現実世界とやはり大した差はないようだな。
人懐っこい笑顔を浮かべた行商のおばあちゃんや、やたらと大きい声のおっちゃんの呼び声など。
「………………。」
「…どうしたんですか? なんだか嬉しそうですけど…。」
俺がそんな光景を眺めながら歩いていると、ティファが尋ねてきた。
「え? そうか?」
「ええ、どことなく嬉しそうな感じがしましたよ?」
表情に出ていたか。
「いや、こんな雑多な感じが、俺が居た世界にもあってね。ちょっと懐かしいというか、ね。」
「へぇ。イルハさんの居た世界にも朝市とかあったんですか?」
「あぁ、売っているものは少し違うが、雰囲気というか、おっちゃん、おばちゃんの元気の良さは同じだな。」
それを聞いたハイネが
「イルハさんの居た世界の話を聞かせてくれませんか?」
と言ってきた。
そういえば、娘っコ達に、俺の世界についてはあまり言ってなかったか。
んじゃぁ、朝食食べながらでも話すことにしよう。
そして娘っコ達お勧めのお店へとやってきた。
そこはオープンテラス付のカフェ然とした感じの店だった。
料理の品数はそれほど多くないが、その代わり飲み物のメニューが豊富だった。
娘っコ達は、やいのやいのいいながら色々メニューを見ているんだが、俺はこういった店があまり得意ではないので、さっさとメニューを決めることにする。
クラブサンドとスープ、そして紅茶のセット。
「えー、もう決めちゃったんですかー?」
何だよ、ニル。
「もっと、みんなで色々見ながら決めましょうよぅ」
俺はキミ等と違ってスパッと決めたいの。
「えー、だって誰が何食べるかって、色々見てから決めれば、みんなで色んな味が楽しめるじゃないですかー。ねー?」
うんうん、と頷く二人。…そういうもんなの?
「「「そうですよ?」」」
さいですか、お兄さんには解らないっす。
そしてテーブルに着き、一通りメニューも揃ったところで、まずはいただきますのご挨拶。
これ忘れちゃダメだからな。
そして食事をしつつの質問タイム。
とはいっても、生活習慣なんかはさして違いは無いので、俺のいた世界の文化や科学について。
やはりというか、クルマやヒコーキなんてのは信じられないようだ。
鉄の塊が走ったり、飛んだりするなんてな。
まぁ、魔法自体がないのだから、そもそもの技術大系が違う。
発達した科学は魔法のようなことすら出来るようになるのだから、技術が進歩すればいずれは疑似的に魔法も使えるようになる、か?
と、そんな話をしていたはずなのに、何故か話題は俺の私生活へ。
「イルハさんって、ご結婚されてたんですか?」
ハイネ、なんでそんなこと聞く必要があるんだ…。
ったく、どうせ独り者だよ、悪かったな。万年恋人募集中だコラァ。
「そうなんですか…。」
「イルハさんのご家族って、どうされてるんでしょうね…。」
ティファが幾分沈んだトーンで聞いてきた。
そうか、父親が行方不明なんだもんな、ティファは。
「あー、どうなんだろうな。俺が居なくなったことも、気がついてないかもな。」
実家から出て独り暮らしの上、実家に連絡を取ったのも、もう既に二年ほど前だったかな?
職場の人間はすぐ気がつくだろうけど、そうなると捜索願なんて出されるのか?
そうすると、実家にも連絡が行くだろう。でも、あの父親じゃ「放っておけ」とか言われそうだなー。
まぁ、探してもらっても、見つかるわけもないんだけどな。「ここ」じゃ。
「ま、そのことは置いておこう。今騒いでもどうこうできないしな。
ごめんなティファ、ちっとした古傷なんだわ、それ。」
苦笑交じりに、この話題を切り上げることにする。
その後も趣味だ、特技だなんだと聞かれたが、趣味は身体を動かすこととゲームか。
特技は…。うーん、柔道と書道くらいかなぁ。長年続けてきただけと言えなくもないが。
ごく普通の、とは言えない部分もあるが、まぁ、極端に変わった人生でもなかったか。
まぁ、今のこの状況が一番変わっていることだしなぁ。
そして朝食を済ませた俺たちは、出発するべくそれぞれの準備に向かう。
宿屋のホテルへと戻り、装備一式を身につける。
ホントにもう慣れたもんだ。服を着るように鎧兜やらを身につけることができる。
暫く滞在したこの宿屋とも、今日で一旦おさらばだな。また、戻ってくることもあるだろうが。
荷物をまとめ、といっても題した荷物もないんだよな。着替えやら道具類だけだし。
ロビーへ向かうと、そこにはもう支度を終えたニルとハイネが待っていた。
二人は俺よりも滞在期間が長かったせいか、荷物も俺より多かった。
こりゃ重そうだ。
ってことで、二人の荷物も俺が持つことにする。
二人は遠慮したが、俺は荷物が少ないし、二人よりも力もあるしな。
女の子はそういう時は、素直に甘えとくもんだ。うん。
三人とも主人へ鍵を返し、滞在中の礼をする。
人当たりの良いここの主人は、いつ見てもニコニコしていたな。まさしく宿屋の鏡だ。
またこの宿に泊まりたいと思わせてくれる。
短い間でしたがお世話になりました。また来たときはよろしくです。
そして、俺たちは宿を出て、街の入口へと向かう。
街の出入口に向かいながら、改めてこの街を見回してみたんだが、やはりここは良いところだな。
アリアハン首都なのだから、治安も環境もいいのは当たり前といえるが、やはり良い街には良い人が多い。
だが、この世界の街が全て、ここアリアハンのように穏やかな街とは限らない。
サマンオサやテドンなどのような所は、他に沢山もあるんだろう。
そういった街が減るようにしないとな。人々が笑って、それが当たり前に生活できる世界。
元の世界でも自分の廻りは、別段変わったことのない普通の世界だった。
だが、一度外の世界に目を向けると、紛争や飢餓などが当たり前に起こっている場所もあった。
今まで俺はそういったものは、ある意味、仮想現実というか、俺とは関係の無い世界で起こっていることだった。
だがこの世界にやってきて、魔物に脅かされている人々を実際に目の当たりにすると、そんな認識は通用しない。
さらに、自分にそれを救えるだけの力があるならば、行動するべきだ。
行動しなくては何のための「力」か。
誰の意志でここに連れて来られたのか未だ解らないが、この力を使ってこの世界を救うべきだろう。
少なくとも俺はそう解釈した。
気恥ずかしい正義だとは思うが、そんなことは言っていられない。
現にニル、ハイネ、ティファといった娘っコ達や、色々な冒険者達が闘っているのだ。
それを手助けすることに、世界を救うことに気恥ずかしいなどと言ってはいけないことだと思う。
俺は俺の信ずる道を進もう。そうすれば世界を少しでも良くできる筈だから。
街の入口では既にディファが待っていた。
「おー、お待たせ。」
「いえ、今来たところですから。」
…なんか、カップルの待ち合わせみたいな会話になっちゃったな。ちと恥ずかし。
気を取り直して。
おし、荷物を積み込むぞー。娘っコ達ー。
街外れに停めておいた馬車へと荷物を積み込んでいく。
四人分とはいえ、大して多くない荷物だ。ものの数分で荷物の積み込みも完了した。
さて、ジャン。これから本格的な旅だ。よろしく頼むぞ。
俺が鼻先を撫でてやると、一声嘶いてそれに応えるジャン。
頼もしいお馬さんだ。
「さて、じゃぁティファ。すまないが、アッサラームまで頼む。」
「はいです。行きますよ? ルーラっ」
急激に流れる景色を眺めながら、とうとう物語が進んでいくんだな、と、どこか他人事のように思った。
だが、これからは誤魔化しの効かない、ほんとの冒険だ。
一瞬の油断が命取りになりかねない。
くどい位に自分に言い聞かせる。
俺は未だ素人なのだと。ただレベルが高いだけだと。本当の意味での強さはまだ持っていないのだと。
だが、世界のために、この娘っコ達のために、俺は「強さ」を身につけなければならない。
物理的な強さ、精神的な強さ、だ。
俺がそんな器なのかと自問してしまうが、こうしてここに居る以上、変わらなくては。
時間はないのだが、じっくり、焦らず、この娘っコ達と一緒に成長していこう。