今回は微妙です。
一部にキャラ崩壊があります。
幻想郷の人里に、箒に乗った魔法使いが舞い降りる。
「到着。よっと」
魔法使い――霧雨魔理沙は箒から飛び降りると、軽やかに地面に着地する。
「ここが人里だ。幻想郷の人間のほとんどがここに住んでる」
魔理沙は後ろに振り返って、
「横島もしばらくはここに住む事になると思うけど――ちゃんと聞いてるか?」
「だったら話す前にこの簀巻きを解かんかーー!!」
簀巻きにされて地面に転がっている横島に話しかけた。
ちなみに着地した際にまた頭から地面に激突したらしく、顔面が土塗れだ。
魔理沙は横島を縄で簀巻きにした状態で、箒に垂れ下げて人里まで飛んできたのだ。
「横島が飛べないのが悪いんだろ」
「普通は飛べんわーーー!! もっと他の方法は無かったんかい!? 後ろに乗っけてくれるとか!」
「お前を後ろに乗せるとか、それだと私の身が危険だろ?」
これ以上ない正論だった。日頃の行いの報いかもしれない。いや、この場合は第一印象か。
「チクショー、前に巻き込まれた時は生身で音速の壁にぶつかるはめになったし、魔法の箒なんてキライだーー!!」
「なんで生きてるの、お前」
泣き叫ぶ横島を、魔理沙は引きつった表情で見つめつつ「やっぱり妖怪だろ」と呟いた。
「で、どこ向かってんだ、コレ?」
「ん? ああ、まずはけーねのところだ。人里で暮らすとなると、けーねなら色々と便宜だって図ってくれるだろうし。寺子屋の先生やってるから幻想郷にも詳しいぞ」
「ふーん」
よくわかっていない横島は、「要するにえらい人ってことかー」と納得する――直前、ふと思い至る。
「なあ、魔理沙……けーねって名前ってことは、女か?」
ごごごごごっと効果音が聴こえてきそうなぐらい魂を燃やし始める横島。
(ま、まずい、このままじゃけーねが!!)
魔理沙はすぐに横島の思惑を察知する。実にわかりやすい思考である。
「え、えっと、けーねはだな……」
何か言い訳を考えるも咄嗟には思いつかない。
そうしている間にも横島のボルテージは上昇していく。
(女……先生……つまり女教師!!)
公式が導かれた途端、横島の脳内に教鞭を持ったナイスバディの美人さんが再現される。
『さあ、横島くん。わからないところがあったら何でも先生に尋ねてね』
『先生。実は僕には悩みがあるんです』
『あら、何かしら? 私で良ければ何でも聞いてあげるわ』
『実は僕、先生のことがずっと気になって、授業に身が入らないんです……!』
『よ、横島くん……』
『先生ぇぇーーー!!』
『ああ! ここは教室よーー!!』
「ぐふ、ぐふふふ……」
(な、何を考えてるのかまるわかり過ぎる……!!)
妄想モードに突入した横島を、かなりひいた様子で見つめる魔理沙。
その時、慧音でもっとも印象深いものを思い出す。
「け、けーねは……そ、そうだ、ず、頭突きが痛い奴だ!!」
「なんだ、ただのハゲ教師か……」
瞬間、すぐさま闘志が萎える横島。肩までがっくりと落としている。
横島の中では『頭突きが痛い+教師=ハゲ教師』という構図らしい。
その様子を見た魔理沙は、
(ごめん、けーね。頑張れよ……!!)
心の中でそう呟いたという。
「と、ところでさ!」
このまま慧音の話をするのもまずいので、強引に話題を変える。
「横島のいた世界って妖怪とか幽霊が普通にいて、こっちの外の世界とは違うんだってな。やっぱり魔法使いもいるのか?」
他の世界の魔法使い。幻想郷の魔法使いとしては非常に気になるところだ。
魔理沙は後ろにいる横島へと振り返って――。
「やぁッ! ぼくは横島忠夫、さっき幻想郷に流れ着いた好青年なんだ!! 君よくかわいいって言われない!?」
「人の話を聞けぇーーー!!」
いつの間にか里の女性をナンパしていた横島の頭をど突き倒した。
「ここがけーねのいる寺子屋だ」
魔理沙の案内した先は、なかなか大きい屋敷だった。
門のところから見える中庭では、子供たちが元気よく駆け回っている。
「ほら横島、ここには子供たちがいるから、早く頭のケガ治した方がいいぞ。子供の教育に悪いから」
「人を血まみれにした奴の言うセリフかぁーーー!!」
先ほどナンパした際の魔理沙の一撃で、頭から流血している横島。
確かにバイオレンスな光景であるし、子供に見せられるようなものではない。
横島にとってはいつもの光景なのだが。
「それじゃ、邪魔するぜー。……あとごめん、けーね」
最後に魔理沙はポツリと呟いたが、横島の耳には届かなかった。
ほぼ無断で寺子屋の中へ入った二人は廊下を進み、ある部屋の前で立ち止まる。
「横島はここで待っててくれ。まずけーねに事情を説明してくるから、色々と」
「うーっす」
そして、魔理沙は襖を開けて中へと入って行く。
「まあ、好んでハゲ教師なんかと会いたいとは思わないけどな」
一人残された横島はそう呟く。
その時、横島の裾がくいくいと引っ張られた。
「ん?」
横島は振り向くと、そこには三人の子供の姿があった。
「にいちゃん、だれ?」
上白沢慧音は子供たちへの宿題を作っていた。そこへ、
「けーね、いるかー」
と尋ねながら、こちらの返事も待たずに襖を開けて中へと入って来る知人。
慧音は咎めもしない。彼女の場合はいつものことだからだ。
「魔理沙か、ここに来るなんて珍しいな」
「ああ……ちょっと慧音に用事があってな」
「用事?」
慧音は怪訝そうに聞き返す。魔理沙にしては歯切れが悪い。
「実は、紫の奴が人間を連れて来てな。そいつの家とか用意してやって欲しいんだ」
「なんだ、外来人か。人里に住むのなら空き家が幾つかあるから大丈夫だが……外へ帰りたがらないのか?」
「いや、こいつがちょっと、いやかなり変わってるんだ」
「変わっている? 何か能力でも?」
「いや、主に出身と性格と回復力が」
「はぁ」
要領を得ない様子の慧音。
「まず、そいつは外の世界の出身じゃない。紫と本人が言うには並行世界から来たらしい。それで、紫がそいつの世界を探し出すまで、幻想郷に住ませるって話だ」
「……並行世界とは、また凄いところから迷い込んで来たな」
少しだけ顔が引きつる慧音。さすがは幻想郷だと思わざるを得ない。
「それで、いったいどんな世界から来たんだ?」
「基本はこっちの外の世界と変わらないらしいんだけど、妖怪とか幽霊とか神とか普通にいるらしい。まるで外の世界が幻想郷そのものだって話だ」
「なんだって?」
驚きを顕わにする慧音。そして魔理沙は続ける。
「そいつの学校にはたしか……
クラスメートに机の妖怪とヴァンパイア・ハーフと変態虎人間がいて、
美術の先生がドッペルゲンガーで、後輩に貧乏神と一緒に暮らしてる奴がいるとか何とか」
「どんな学校だ!?」
思わず突っ込みを入れてしまう慧音。それは人間が通っても良い学校なのだろうか。
外の世界でそんな学校はないだろう。いや、幻想郷でもないか。
「何だかとてつもない世界だな」
想像するだけでも凄まじい学校だ。
「まあ、そんなわけだから、幻想郷にはすぐに馴染むと思うぞ」
「……とりあえず、住居の方は用意しよう。それで、その人は?」
尋ねると、魔理沙は慧音の肩をポンと叩いて、申し訳なさそうに口を開く。
「とりあえず、ごめん。あと頑張れ」
「まるで意味がわからんのだが?」
「初見でわかる」
やたらと力強くそう言うと、魔理沙は振り返って、
「横島、入ってきていいぞー」
だが、しばらく待っても横島は入ってこない。
「あれ? どこ行った?」
怪訝に思った魔理沙が廊下を見回すも、横島の姿はない。
「……そういえば、さっきから中庭が騒がしいな」
慧音は中庭の方を見て呟く。
その頃、中庭では――。
「俺は毅然と奴に言ってやった……ゴーストスイーパーは、悪魔のいいなりにはならない、と!!」
「おお……!」
「ゴクリ……」
「そして、俺は悪魔パイパーを相手に命がけの交渉を成功させて、遂に捕らわれていた美神さんを救いだしたのだ!!」
「おおおおーーーー!!」
「すげぇーー!!」
「兄ちゃんかっけーー!」
半分の誇張が混ざった横島の熱い語りに、集まった子供たちは俄然と盛り上がる。
事実としては間違っていない。ただその後、横島がアッチの世界に旅立ってしまっただけだ。
現実を知らない無垢な少年少女たちである。
「なんだ、随分といい人そうだな」
横島を囲う子供たちの笑顔を見て、慧音は思わず笑みを溢す。
「こ、子供には好かれるんだな、あいつ……」
対称的に魔理沙は引きつった笑みを浮かべているが。
「子供は純粋だ。だから子供に好かれる者に、悪い奴はいない」
慧音はそう言うと、子供たちの輪の中心にいる横島へと歩み寄っていく。
「まあ、悪い奴じゃないのは確かなんだけど……」
その後ろで、魔理沙はポツリと呟く。
「あ。けーね先生だー」
慧音に気付いた子供の一人が彼女を指差して言った。
それに他の子供たち、そして横島も振り向く。
「初めまして。私は上白沢慧音――
「こんにちわぼく横島忠夫って言いますずっと前から好きでした!!」
――は?」
慧音が視界に入った途端、がしっと両手を抑えて告白する横島。
「あれだからなぁ」
目が点となる慧音の後ろで、魔理沙は苦笑いを浮かべていた。
「あー、けーね先生がよこしまにーちゃんに告白されてるー!」
子供の一人に冷やかされて、ようやく慧音の思考は再起動を果たす。
「ち、違うぞ! これは告白ではなくて――!!」
「なるほど先生でしたかどうりでお美しい!!」
「先生関係あるのか!? というかいきなり何なんだお前は!?」
「たった今からあなたの生徒になりました!!
ということで先生!! 僕と愛の個人レッスンをぉぉーーー!!」
「どういうことだぁぁー!!」
ゴツンッ
「あがッ!?」
瞬間、飛びかかった横島に慧音の頭突きが炸裂した。
「――は! し、しまった、初対面の相手に何てことを……!」
「大丈夫だ、慧音」
慌て気味の慧音に対して、魔理沙はなぜか疲れた表情を浮かべて答える。
「横島は紫の弾幕と霊夢の全力の弾幕と私のマスタースパークの直撃を食らっても平気だったから」
「本当に人間かこいつは!?」
それは、誰もが思う当然の疑問だった。
「どーも、横島忠夫です」
頭から血を流しながら、横島は改めて挨拶を交わす。
ついさっきまで地面に倒れているところを更に子供たちに突かれていたのだが、相も変わらずすぐさま復活した。
「う、うむ。上白沢慧音だ。この寺子屋で先生をしている」
それを見ていた慧音の頬が更に引きつったのも、初対面ならば当然だろう。
ちなみに魔理沙はもはや顔色一つも変えてはいない。
「まず、君の家についてはこちらで手配しよう。今日中には寝泊まりできるようになるはずだ」
「あ、ありがとうございます! うう、俺に家が……」
なぜか感涙極まって涙を流す横島。
「そんなおおげさな」
慧音は軽く笑いながら、たいしたことじゃないと答えたが、
「四畳半のボロアパートに住み、ピートの弁当を奪って日々の飢えをしのぎ、輸入米に卵をかけて食べるのがご馳走だった俺に、とうとう一戸建ての家が……!!」
「どんな生活を送っていたんだ、君は?」
すぐに前言撤回した。どれだけ貧しい生活を送っていたのだろうか。
後で食材でも持って行ってやろうと密かに思う慧音と魔理沙だった。
「とにかく、人里や幻想郷についてわからない点があったら何でも相談してくれ。私でよければ力になろう」
「じゃあさっそく幻想郷について教えてくださいませんか? できれば夜! 二人っきりで!!」
「いいかげんにしろ!!」
再び迫って来た横島を、今度は容赦なく頭突きで迎え撃つ。
また地面に倒れてピクピクと痙攣している横島を尻目に、魔理沙は慧音の肩を軽く叩く。
「こういう奴なんだ」
「ああ、よくわかった」
振り返らずに慧音は答えた。
その顔はどこか納得したような、すっきりとした表情だった。
「まったく、とんでもない奴だな」
魔理沙と共に去って行く横島の後ろ姿を見つめながら、慧音は溜め息を吐く。
(だが――)
慧音は子供たちに視線を向ける。
「よこしまにーちゃん、じゃーねー!」
「また来てねー!」
「じゃないとけーね先生とっちゃうよー!」
「それだけはゆるさーん!!」
最後に聞こえてきた叫び声は置いといて。
ほとんどの子供たちが笑顔で彼に手を振っている。
「とんでもない奴だが、悪い奴ではないのは確かだな」
その光景を見て、慧音は自然と口元を緩めていた。
今回は個人的に納得がいかない出来栄え。
次回の新聞屋では挽回したい。
続いたら、ですけど(汗)