お久しぶりです、かいずです。
第13話を大幅に修正と追加をしました。
書かれている内容が大幅に変更されました。
せっかく旧13話を読んでいただいたのに、ごめんなさい。
これから精進します。
あと、私も文珠の字が違っていました。
失礼しました。
「よーし、次の期末テストではここの所出るからな。しっかり復習をしておくように!」
先生が黒板を指差して締めの言葉を言った時に、ちょうど終業のチャイムが鳴った。
「ふぁーぁ・・・あー、しんどいわ~」
俺は眠い目をこすって大あくびをした。
今日最後の授業が終わり、教室内はがぜんにぎやかになる。
今日も俺は居眠りをしているうちに授業を終えてしまったようだ。
いつの間にか放課後だよ、おい。
クラスのみんなは、これから部活に行ったり進学塾へ行ったり遊びに行くやつもいるだろうな。
かくいう俺は、これから美神さんとこに直行しなくてはいかん。
まぁ、学生がバイトっちゅーのは珍しくも無いかもしれんが、俺のバイト先はまた特殊やからなぁ。
何を隠そう霊的現象を解決して高額の報酬を得る仕事、ゴーストスイーパーなのよ(見習いだけどな)。
それは命がいくつあっても足りん、まさにハイリスク・ハイリターンな仕事!
それなのに俺はいつも命が危険で、貰えるのは泣けるほどの薄給なのだ・・・。
でもでもっ、俺の上司の美神さんは、それはそれはステキなお姉さまなのだ!!
美神さんのナイスバディや様々な心躍るイベントが魅力的な職場だが、現実は厳しい!
今だに俺の時給は全然上がらんし、危険な目には馬鹿みたいに会うし。
本当にどうしょうもないバイトだが、なんか知らんが辞められないんやなぁ。
ううう、美神さんに丁稚根性を叩き込まれてしまった気がするぞ。
でもまぁ、今日も文句を言いながらもバイトに向かう俺は偉いな。
昔から「働かざるもの食うべからず」とはよく言ったもので、スズメの涙といわれる俺のバイト代とはいえ、収入が無くなるのは死活問題なのだ。
それにいつまでも俺がダラダラとした生活をしていては、ルシオラに怒られちまうからな。
せっかくあいつが俺を生かしてくれたのに申し訳ないよ・・・。
え、何?
さっき授業中、寝てただろうって?
あれはほら、最近は美神さんとこのバイトが忙しすぎてバテ気味なのさ。
アシュタロスの事でゴタゴタしていた時は仕事らしい仕事をしてなかったから、美神さんのストレスが尋常じゃなかったのよ。
あの人は、どんな時でも利益追求だからなぁ。
おっと、さっさと帰り支度をしないとバイトに遅刻しちまうぞ。
くたびれた鞄に教科書を詰め込みながら、ふと窓の外の景色を見る。
校庭の側に生える木々は、もうすっかり葉の色が変わっていた。
季節はもう秋だ、今の俺は高校2年生。
うむ、なんだかずっと高校2年生をやっているような気もするが・・・。
まぁ兎に角だ、俺もそろそろ進路を決めて受験勉強をしたり就職先を考えたりせにゃならんのだろうが・・・。
まだ何にも考えてないなー。
お袋からは「高校は卒業せえ!」ときつく命令されているし、卒業はなんとかしよう。
そんでしばらくは、美神さんの事務所でアルバイトのままでおるんかなぁ。
時給が今のまんまだと凄く辛いんやが・・・、どうにもならんやろなあ~。
ようし、忘れ物もないし、机の中もすっきりだ。
全く、教科書なんか机の中に置きっぱなしにして帰りたいのだが、こういうズボラをかますと愛子のやつがうるさいからな。
あいつは学校の机の妖怪だからか、こういうところは本当にマジメやしなぁ。
愛子のやつは、いつの間にかうちのクラスの委員長もやっているし、生徒会では副会長の職にも就いている。
そういえば、この前なんか俺のクラスで一緒に中間テストも受けていたぞ。
これって、ええんやろか?
まぁ、ええか。
そんなことをぼけーっと考え事をしていたら、ピートとタイガーに声をかけられた。
「どうしたんですか、横島さん?まだ調子が悪いのですか?」
「横島サン、まだ疲れが取れとらんのじゃノー」
声をかけてきた二人を見ると、すっかり帰り支度を済ましていたらしい。
俺の席の近くにやってきた。
俺は帰宅部で、放課後も休日も大抵は美神さんの所でバイトなので、クラス内では人付き合いが悪い方だ。だから話が合う奴がいないんだよな。
俺って寂しい奴だよなー。
つい最近までは、全人類の敵とか悪の手先とか言われて迫害されていたからな。
うう、隊長のおばはんがいらん作戦立てるもんやから、あかんのやっ。
そんなクラスでお豆にされている俺は、自然とピートやタイガーとつるむことが多くなった。まぁ同業者同士、仲良くやろうやってなもんだ。
「何をぶつぶつ言っているんです?横島さん」
「あ、いや。ちょっと独り言をだな」
「じゃっとん横島サン。あまり無理はいかんですけーノー。今日は久しぶりにカラオケなんてどうですかノー?」
実はタイガーは歌がうまい。こいつ意外と歌ってみると美声なんだよなー。
高音も低音もいける。
普段はこんなドラ声のくせによ。
ちなみにピートは音痴だ。
でも、こいつは実に気持ち良さそうに歌うから、それはそれでアリなのかもしれない。
実際、一緒にカラオケに行ったことのある女子は、そのギャップにうっとりするらしいぞ。
ああ、腹立たしいのう!
そんなこいつらからのカラオケのお誘いだ。
万年極貧の俺でも、こういうたまの付き合いには金を使ってパーッと気晴らしするのだ。
野郎ばかりが集まってカラオケなんつーのも寂しさ大爆発な感じだが、気兼ねなく騒げるのは魅力的だったりする。
でも残念、今日は行けないな。
「いやぁ、今日はこれからバイトなんだ。悪いな」
「あ、そうなんですか。残念ですね・・・。では、また誘いますから、その時は一緒に行きましょう!」
「ですジャー」
どうやら、二人だけでカラオケに行くみたいだ。
こいつら本当に仲が良いなー。
まさか、ガチホ・・・!
なわけねーよな。
「えーっ、横島君は行けないの?」
学級委員の愛子が自分の本体である机を担いで俺達の集まりに加わってきた。
愛子は自分の鞄や生徒会の資料をかかえて・・・、あ、本体の机の中にしまい込んだ。
あの中は異空間やからなぁ。
四次元ポケットよろしく、なんでも入るみたいだ。
「あー、今日は愛子もピート達と一緒なのか?いやー、俺も行きたいんだけどさ、バイトがあるしな」
俺がそう言うと、「それじゃあ、仕方ないわよね」と愛子はしょんぼりとした表情をしながら上目遣いで俺を見る。
うほ、ちょっと可愛い。
「あー、またの機会に誘ってくれよ。その時は俺の一八番の「ジョニー・ビー・グッド」を披露するからさ」
俺の言葉を聞いて、愛子はキョトンとした顔をしてから、実に嫌そうなニヤケ顔をした。
「それって、横島君の夢が実現した時のために練習しておかなくちゃって曲だよねぇ。もう何回聴いたのやら・・・。相変わらずスケベなんだから」
そう言って身体をよじりながら、俺から身を守ろうとするフリをしやがった。
「横島サンの夢って、何でしたかいノー?」
「ほら、あれですよ。確か、水着美女で満員になっているプールにタキシードを着て飛び込んで、ジョニー・ビー・グッドを歌いながら揉みくちゃにされるという夢でしたか・・・」
「ああ、そうさ!本当は他にも色々とオプションを付けたいところだが、我慢しなくちゃな。これは一般向け作品やしな!それに、やっぱり夢ってのはさ、でっかく持たないと駄目じゃん?」
「よ、横島サン・・・。とても・・・でっかい夢ですジャー」
「うーん、病んでますねぇ~」
「まぁ、横島君らしいといえば、らしいかも・・・」
やっぱり、あれだね。
夢は心の内に秘めるものかもしれんね。
俺に対するみんなの視線が痛いしさ。
さっきの夢は冗談やからな、本気にするなよな。
もう、そういうことにしといて・・・。
ちみなに他の連中の夢はというと・・・。ピートは、高校卒業したらオカルトGメンになりたいらしい。
タイガーは、次こそGS資格を取得したいらしいぞ。頑張れ。
愛子は、大学に進学したいらしい。
でも、大学となると今までみたいに学費もタダと言うわけにもいかないし、この学校にも居づらくなってしまうのが悩みの種らしい。
妖怪なんて、昔から学校もないにもないと相場が決まっていたのだが、このご時勢だ。
妖怪も金が必要なんだなあ。
おっと、そろそろ時間がヤバイ!
「んじゃ、サイナラー」と三人に軽く挨拶して、俺は教室を飛び出した。
「こ、こらいかん!遅刻じゃー!!」
俺は慌てて校門を飛び出して、美神さんの事務所に向かう。
もし遅刻をしてしまうと、美神さんはメチャクチャ怒られるしバイト料も削られてしまう。
どうしても間に合わない時は事務所に連絡をしておいた方が良いのだが、これがなかなか大変なのだ。
ほら、最近は公衆電話って見かけないだろ?
だから公衆電話を探しているうちに時間が経っちまって、余計に遅刻するんだよなー。
え?
携帯を使えって?
俺はな・・・、俺は携帯を持ってねーんだよぉ!!
うおーん!!
だって携帯ってさ、なんやかんやで結構金がかかるだろ?
俺にとっては携帯なんて高嶺の花なんじゃー!!
くそっ、誰が学割やねん!
でも、学校でも携帯持っていないやつなんて、少数派だよな。
うう、みんな金持ちだよなあ~。
俺はまだ高校生やってのに、ワーキングプアっていうやつになってるんやろか・・・。
ギリギリセーフか、はたまた遅刻か。
俺は慌てて事務所に駆け込んだ。
「どうも美神さーん、すんませーん遅くなりました。いやー、授業が終わって急いできたんすけれど、路上で俺のファンだって女の子達に揉みくちゃにされちゃって、なかなか放してくれなかったんすよ~。あら、横島君ったらテレビで見るより背が高くてもっと素敵なんですねとか言われちゃって!いやぁ、モテ過ぎるのも辛いっすねぇ~・・・」
俺は慌てて事務所に駆け込んで早々、遅刻の理由をペラーンと並び立ててみたのだが・・・。
室内を見渡せば美神さんと向かい合わせでソファーに座る客が二人。
スーツ姿の女性だが、二人とも見覚えがある顔だ。
「あら、お久しぶりです。横島さん」
「横島、相変わらずの挙動不審ぶりだな」
小竜姫さまとワルキューレだった。
「まったくもう、横島君。また遅刻?あんた、いつまでたるんでるのよ。もっと、シャキッとしなさいよね!」
美神さんは俺を睨みつけて、「まったくもう」とおかんむり状態だ。
いやぁ、時間厳守はどの世界でも大切やけれど、この事務所ではより重要なのだ。
なんたって、お仕置きがハンパやないからなあ。
今日は小竜姫さまやワルキューレの手前、酷い目には合わされずにすみそうだ。
ホッと胸をなでおろしていたら、俺の後ろのドアが開いておキヌちゃんがお盆にお茶と饅頭を乗せて入ってきた。
「あ、横島さん。小竜姫様からお土産に豆大福を頂いたんですよ。いま、お茶を入れたのでみなさんでいただきましょう」
おキヌちゃんは自転車で結構な距離を通学しているのに、全く遅刻をしないのが素晴らしい。美神さんの事務所に居候しているので、着替えもすっかり済まして今は仕事着である袴に着替えていた。
にこやかに笑いながら小竜姫さまが美神さんに話しかける。
「みなさん、相変わらず元気そうですねぇ。他の皆さんもお元気なんでしょうか?」
「そうね、まあみんな適当にやっているわ。でも、横島君がねぇ・・・」
おっと、いきなり俺のネタっすね。
うーん、でもこれあまり良い話じゃないから居心地が悪いなあ。
・・・・。
「ええっ!文珠が作れなくなっちゃったんですか?」
「なんだと?横島、いつから文珠が作れなくなったんだ?」
「いやー、あのですね。アシュタロスの件があってから、その後にあれっと気がついたら作れなくなっちゃってて・・・。あ、でも栄光の手やサイキック・ソーサーは作れるんすよ。どうなっちゃったんすかねぇ?」
ワルキューレと小竜姫さまは、俺のヘラヘラとした説明を聞いて考え込む。
「うーん、疲れや精神的なものに左右されるということも無いことはないと思うが・・・、一度詳しく調べてみるべきかもしれんな。どう思う、小竜姫?」
「そうですねぇ。私達でなんとかできたら良いのですけれど・・・。でもまぁ、横島さんが文珠を作れなくなってしまったのは大変なことですが、その他のことは問題がないようですね。あの戦いでよく・・・、よく生き残ってくれました・・・。色々とありがとう、横島さん」
そう言われると、俺も胸がグッとくる。
そうだよな、色々あったよな。
「いやぁ、俺は何も出来ちゃいなかったんすけれど・・・。小竜姫さまにそう改めて言われると、照れるっすねぇ」
「小竜姫だけではないぞ。私もお前の活躍を認めている。本当によくやってくれたな横島」
「ワルキューレ・・・。あんたにそう言われると、なんだかくすぐったいな。俺はまだまだだよ。いや、我ながら良く五体満足でいられたなぁって感じだしな。俺一人の力じゃ、今ここにいられないよ」
「横島さん・・・。あなたは立派に戦ってくれました。初めてあなたに会った時は、この人には何かがあるとは思っていましたが、まさかここまで成長するとは思っていませんでしたよ。ふふ、私の目も捨てたものではないですね」
いやぁ、美女二人に褒められるのは悪い気はしない。
むしろ有頂天だ。
俺の顔は緩みっぱなしになるよ、もうフニャフニャだ。
「ふん、横島君!二人に褒められたからって、デレデレしている場合じゃないわよ!まったく、この男はすぐに付け上がるんだから、小竜姫さまもワルキューレもあまりチヤホヤしちゃ駄目よ。でも、不思議よねぇ。横島君の霊力は前よりも落ちているって訳でも無さそうだし何が原因なのかしら・・・。ここのところ、あんたの煩悩もなんだか落ちているみたいだし・・・」
ええっ、そうすか!?
自分ではそんな感じはないけどなぁ。
でも、前みたいに衝動的にかっ飛んでいくような煩悩はないのかな?
やっぱり、少しの間だったけれど女性を本気で愛したというのが関係しているのかな?
何事も経験が人間を成長させるのかもしれないな。
でもまて、まてよ・・・。
これはもしかして、美神さんの嫉妬?
いつもガツガツしている俺が、急につれない感じになっちゃったから心配になっちゃった?
Oh!なんたることだ!
ええい、俺ってば寂しい美神さんをほったらかしにして、なんたる怠慢!
早速、美神さんにロックオン。
無意識にビューンと飛び掛かる。
「ああっ、もしかして美神さん!最近、俺がお風呂とか覗きに来なかったから寂しい思いをさせちゃったんすよね!んもぅ可愛いよー、俺の令子ーぉ!」
「前言撤回。アンタ、やっぱり煩悩の塊だわ」
右ストレートでみごとに迎撃されました。
「そ、そうっすかねぇ、やっぱり・・・。いや、でも前みたいにガツガツしてるって感じはないでしょ?オネーちゃんが好きなことには変わりが無いんすけれどねぇ」
「まぁ、いつまでも煩悩特盛りのクソガキでも困っちゃうから、少しは落ち着いてくれたほうがいいのかもね。でも、その煩悩が関係しているのかしれないけれど文珠が作れないのは痛手だわ。あれ、あると便利なのよねー。高いお札とか使わなくて済むし。経費が浮くのよね。文珠の元手もタダみたいなもんだし」
「ちょっ!ちょっとちょっと、美神さん!お札代が浮くんなら少しくらいバイト料アップしてくださいよ!文珠作るのってかなり精神力がいるんですよ。日頃の栄養が偏っていたら、出るもんも出なくなるわ!」
「何言ってんの?この前にバイト代を一気に50円も値上げしてあげたじゃない。もう贅沢言ってんじゃないわよ!それに丁稚奉公の癖に一儲けしようと画策するなんて、人の道に反しているわ!」
「くぅぅ、滅茶苦茶や・・・。この人に、この人に人の道を説かれるなんて・・・。鬼や、現人鬼や・・・」
「まぁまぁ、横島さん。落ち着いてください」とおキヌちゃんが俺をなだめに来た。
うう、おキヌちゃんありがとなあ。
そうだ、おキヌちゃんも言ってあげてよ。
こんな「ああ野麦峠」に出てくる工場みたいな所で働かされている俺達は、協力してこの悪徳工場長に立ち向かわなアカンのや!
あれ?おキヌちゃん、なんで俺の顔を見てくれないの?
もしかして、俺の時給よりも・・・高いの?
俺は崩れ落ちるように床にうずくまりシクシクと泣き出してしまう。
申し訳無さそうな困った顔をしてその背中をさすっているおキヌちゃん。
その光景を生暖かい視線で見ている美神さん。
いつもの美神事務所の日常だ。
「みなさん、相変わらずにぎやかですねぇ」
「まったくだ、騒々しいったらないな」
いつの間にかテーブルの上にあった豆大福は、ワルキューレによって完食されていた。
口の周りに白い粉を付けて、今も口をモニュモニュしてる。
まだ俺、食べてなかったんだけど・・・。
「ゴクリ。ふぅ、美味かったな・・・。ちなみに横島。今、手元にある文珠は幾つあるのだ?」
「えーと、今の手持ちは5個かな。でも、もしかしたら部屋に戻って探せばあと2、3個くらいは出てくるかもな」
「うん?どういう意味だ?」
「自分が知らない内に文珠が出てくることがあるんだよ。寝てる間とかさ。それが部屋の中に転がってるかもしれないなーって。部屋が汚いから発掘する必要があるけどな」
「ふむ、そうか。自分が知らないうちに出てくるなんて、まるで夢精みたいなもんだな。まぁ、若い男だし当然か。元気があるのは結構だ」
今、サラッと凄いこと言いましたね。
言いましたわよね、奥様。
「げっ!ム、セーって・・・。も、文珠って、そんなカテゴリーに含まれる代物なのっ!?」
「ワルキューレ!たとえが悪いですよ!たとえが!」
美神さんは「えーっ、私、今まで素手で文珠を触りまくってたわよー」と引きまくり。
おキヌちゃんは、赤い顔をして知らん振りをしていますよ。
小竜姫さまはガーッとワルキューレに詰め寄るが、当の本人は「私はそんなに変なこと言ったか?」と不思議顔だ。
「別に生理現象にたとえたまでのことだ、恥ずかしがる話題でもないと思うが・・・。まぁ、私は軍隊にいたから男共が下世話な話題で盛り上がっているのに慣れているし、感覚が違うのかもしれないな。あと、私には弟のジークもいるしな。姉の私としては、思春期の時の弟には色々と気を使ったものさ。ここだけの話だが、ジークはその手の本をベッドの下によく隠していたが、本命のモノはベッドのマットレスの中に巧みに工作してねじ込んでいるのが常だったな。一度、ジークの部屋を物色していて姉と弟の関係をテーマにしたモノが出てきた時はさすがの私もドキドキしたものだが・・・、これも良い思い出だ」
その場にいるワルキューレ以外の全員の目が泳ぎまくる。
これは、笑うの?ツッコムの?流すの?
各々がどうして良いものやらと途方に暮れる。
ジーク、お前も大変だな・・・。
でも、お前のお姉ちゃんのおかげで、俺とお前の心の距離がぐんと近くなった気がするよ。
ふと見上げた青空に、にこやかな笑顔を浮かべたジークが敬礼しているのが見えた。
あいつ、無茶しやがって(特に姉が)・・・。
「室内なのに青空が見えちゃいますね、美神さん」
「そうね、ジークの笑顔がとても素敵よね。おキヌちゃん」
途方に暮れる我々をよそ目に、ワルキューレは話を続ける。
「話が長過ぎたかな。さて、横島も手持ちの文珠が5個では心もとないだろう。これは貴様に返しておこう」
ワルキューレが、ポケットから出したのは1個の文珠だった。
「あれ?これもしかして、前にあげたやつ?」
「そうだ。ベルゼブルにやられて重傷を負っていた私に、貴様がくれた文珠さ」
そうだ、思い出した。
妙神山で美神さん達とデミアンを倒した後に、また自然に文珠が2個出てきたんだ。
それでワルキューレとジークとの別れ際に、治療の足しになるかもしれないとワルキューレにその文珠を1個あげたんだったっけ。
「あんた、その文珠を使わなかったのか?」
「ああ、私の不注意で負った怪我などで貴様から貰った文珠を使ってしまうのがなんだか申し訳なくてな・・・。私の勝手な考えだが、この文珠は自分の戦士としての甘さに対する戒めとして持たせてもらっていたんだ。あと、私が認めた戦士が生み出した記念の文珠だ。おいそれと使うことはできなかったよ・・・。この文珠は元々貴様のものだ。1つでも手元にあった方が助かるだろうし、これは貴様に返そう」
「そうだったのか・・・。でも、返さなくてもいいよ。それはあんたにあげたんだしさ。そんな物で記念にならさ、持っててくれよ」
「そうか・・・、ありがとう横島」
ワルキューレは差し出した手のひらに乗せた文珠を軽く握り締めてから、大事そうに両手で包み込んだ。
「あ、あの横島さん、私もあなたにお返ししようかと思っていたのですが・・・」
小竜姫さまも差し出した手の中に、文珠を1個持っていた。
そうそう、ワルキューレに渡した後に小竜姫さまにも文珠を渡したんだった。
『俺、修行のおかげで、こんなことが出来る様になりました!小竜姫さま、色々とありがとうございます!そうだ、これもし良かったら貰ってください。本当なら初めて作った文珠を渡した方が良いけれど、さっき全部使っちゃったから2回目に作ったヤツで勘弁してください!』
確かこんなことを言って、記念に貰って下さいってことで小竜姫さまに文珠を渡したんだった。
文珠を作れるようになったのが嬉しかったのと、戦いの後もあってテンションが上がっていたのかな。
うーん、これは恥ずかしいぞ。
もちろん、小竜姫さまに感謝している気持ちはとても大きい。
あと、文珠を渡す時に握り締めた手はとても柔らかくて、暖かくて、スベスベだったなぁ・・・。
「私の弟子の一人である横島さんが修行を重ねた結果、作り上げた大事な文珠ですからね。私も大切に持っていたんですよ。私もワルキューレと同じように、横島さんに返した方が良いかもと思っていたのですが・・・」
「いえいえ、小竜姫さまも返さなくてもいいっすよ。いやぁ、二人とも大切に持っていてくれて嬉しいなぁ」
俺が照れ笑いを浮かべていると、話を聞いていた美神さんがポツリとつぶやいた。
「そっかぁ。横島君が貰わないんなら、私が貰っちゃおうかしら♪」
でた、美神さんのK・Y。
勝手に・やりたい放題である。
その場が急激に冷え込んでいく雰囲気を察した美神さん。
「じょ、冗談よ、じょーだん!」とホホホ笑いをしていたが、あんた本気だったやろ。
全く美神さんときたら、今までも出来た文珠は容赦なく年貢として持って行くし、この二人とはエライ違いだなぁ。
「そう言えば、美神さんには定期的に作った文珠を渡してましたけれど、手元には幾つ残っているんですか?」
テヘっと笑って美神さんは、「えーっと・・・、少しだけっ!」
うおっ!可愛い顔をして誤魔化したよ・・・。
多分、美神さんの手元にはまだ余裕があると思うなぁ。
まぁ、返してもらいたい訳でもないし別にいいけどさ。
そんなこんなで、その後も俺達はお互いの近況を話したりして、楽しく時間を過ごした。
話によると、小竜姫さまとワルキューレは急にこちらに来ることが決まったので、今日は泊まる当てがないらしい。
そこで美神さんの発案で「だったらこの事務所に泊まれば良いわよ」ということに決まった。
部屋はまだあるし、おキヌちゃんも二人が泊まりに来てくれるので嬉しそうだ。
さすが美神さんは気が利くなぁと思ったが、二人に恩を売っておきたいという気持ちもあるかもしれない。
まぁ、美神さんのことだから両方かもな。
「そろそろ集合時間のようだ。出かけるとしようか、小竜姫」
「そうですね。では皆さん、また後ほど。美神さん達もお仕事気をつけてくださいね」
そう言って二人は事務所から出て行った。
そろそろ俺達も依頼主の所へ行かなきゃならないな。
俺はいつも愛用しているリュックサックを持ってきて、中身を確認する。
何を持っているか把握しておかないと、とっさの判断ができなくなるからな。
プルルルルルルルルル・・・・。
おキヌちゃんが電話に出る「はい、美神除霊事務所です・・・。はい、はい・・・、少しお待ちください・・・」
「あのう、美神さん。今、東都大学から依頼がありまして、構内で霊が出たので除霊して欲しいとの依頼なのですがどうしましょう?今すぐにでも来て欲しいみたいですけれど・・・」
「えーっ!今から!?そんなこと急に言われても、こっちはこれから除霊の仕事が3つも掛け持ちであるんだけれど、どうしようかな・・・。それでおキヌちゃん、依頼額は?」
「●千万円でお願いしたいそうですけれど」
「へぇ、断るには少し勿体ない金額ね・・・。じゃあ、いいわ、じゃあ今日の仕事は二手に分かれましょう。横島君、頼んだわよ!」
「え!今日は俺一人ですか?」
「そうよ。前にも一人で除霊したことあるじゃない?東都大の方が早めに片付いたら、私の方に合流してちょうだい。あ、そうそう。お札を使いすぎちゃ駄目よ、勿体ないから」
どうやら今日の一発目の仕事は、俺一人でやらなきゃいけないらしい。
うちの事務所は所長の美神さん以外に俺がGS資格を持っているので、所長代理として俺が仕事をしてもオーケーなのだ。
ここしばらくは、荷物持ち生活に戻っていたから少し緊張するなー。
「あのう、美神さん。私、横島さんについて行っても良いですか?」
突然、おキヌちゃんがモジモジしながら言った。
「横島さん、まだ本調子じゃないみたいですし、東都大の除霊の内容なら私が行けば色々とお手伝いができると思ったんですけれど・・・」
美神さんは、しばらくウーンと考える。
「そうね、そうしましょう。私の方はどうにでもなるし、横島君一人に任せておいたらどんなヘマするか分からないものね。じゃあ、おキヌちゃん、頼んだわよ!」
「ハイ!」と元気に答えたおキヌちゃんは、とてもすまなそうな顔をして俺に「ごめんなさい、横島さん。私が出すぎた事をしてしまって・・・。もしかして、迷惑でしたか?」と聞いてきた。
いやぁ、こちらとしては渡りに船だ。
除霊ならおキヌちゃんのネクロマンサーの能力が如何なく発揮されるだろう。
今回は俺がサポートに徹した方が、スムーズに仕事が終わりそうだ。
「全然!大助かりだよ!二人でさっさと除霊しちまおうぜ!」
俺は美神さんの愛車・コブラのトランクに除霊アイテムを積みなおして、自分達用にもいくつかの除霊アイテムを持っていくことにする。
東都大学はここからそんなに距離も無いし、電車ですぐだな。
俺とおキヌちゃんは美神さんのコブラを見送ってから事務所の戸締りをして、東都大学へ向かう。
駅を降りてから歩いて数分で東都大学の正門に到着した。
東都大は日本中の賢い連中が集まる一流の大学だ。
うーん、俺には仕事じゃなきゃ一生来ることのない、縁が無い所だよなあ。
そう言えば、一度、知り合いの合格発表を見に来たことがあったな。
確か厄珍のロクでもない受験合格アイテムで、振り回されたんだよ。
あの浪人生は元気にやってるのかな?
俺の隣の部屋に住んでいたけれど、引っ越してしまってからはどうしているかは知らないな。
さてと、俺たちを構内に案内してくれる大学の関係者が、正門前で待っていてくれているはずなんだが・・・。
おっ?正門前に一人でボサーッと突っ立っている男がいるぞ。
髪はボサボサで牛乳瓶のフタのようなメガネをかけたやせ細った男だ、学生かな?
着ている服はヨレヨレで、オシャレには程遠い野郎だ。
まぁ、俺も人のことは言えないがな。
その男と目が合うと、俺達に気が付いた男は急いでこちらに走ってきた。
あれ?どこかで会ったことがあるような気がするぞ。
「あ、ども、どもぉ!急な話で本当に申し訳なかったなぁ~。美神除霊事務所の横島君とおキヌちゃんらろ?いや、久しぶりらー、おらのこと覚えているらろか?」
「え・・・?お前、浪人か!?」
「あ、浪人さん!?」
俺達は久しぶりに浪人と再会した。