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椎名高志SS投稿掲示板


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No.37523の一覧
[0] ブレイク・ユア・ディスティニー!! リローデッド(GS美神)[タン塩食べたい](2013/08/14 13:26)
[1] リポート① 再会は突然に[タン塩食べたい](2013/06/02 23:18)
[2] リポート② ようこそ過去へ[タン塩食べたい](2013/06/02 23:17)
[3] リポート③ 蛍の帰還[タン塩食べたい](2013/06/04 15:00)
[4] リポート④ 再・ドラゴンへの道!![タン塩食べたい](2013/09/01 06:10)
[5] リポート⑤ ドラゴン・バスター[タン塩食べたい](2013/08/10 08:47)
[6] リポート⑥ はじめてのちう[タン塩食べたい](2013/08/10 08:48)
[7] リポート⑦ ひとつウエノ男[タン塩食べたい](2013/05/07 11:46)
[8] リポート⑧ それぞれの決意[タン塩食べたい](2013/05/31 07:39)
[10] リポート⑨ 正しい仕事選び[タン塩食べたい](2013/08/10 08:49)
[11] リポート⑩ 始動! LST(上)[タン塩食べたい](2013/06/02 17:15)
[12] リポート⑪ 始動! LST(中)[タン塩食べたい](2013/05/31 00:29)
[13] リポート⑫ 始動! LST(下)[タン塩食べたい](2013/06/05 13:14)
[16] リポート⑬ GSの休日(L×T)[タン塩食べたい](2013/08/27 11:18)
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[37523] リポート⑬ GSの休日(L×T)
Name: タン塩食べたい◆736e2219 ID:3aece3e7 前を表示する
Date: 2013/08/27 11:18
「お待たせしました」

 店員がテーブルに置いたそれを、横島はまるで初恋の相手でも見るような視線で出迎えた。ごくりと喉を鳴らす。
 仕事を終えた後の飯というのは、大抵の場合美味く感じるものだ。それが自分の稼いだ金であれば尚更だろう。金はかかるが、満足感や充実感というトッピングが、自動的に上乗せされている。いわゆる自分へのご褒美というやつだ。
 バイトをしだしてから始まったこの習慣は、今回も粛々と執り行われようとしていた。それも今日は、普段の様なコンビニのパック寿司や卵入りカップラーメン(生麺タイプ)なんかのケチなレベルではない。いわばVIPだった。なればこそ、食べるのにも手順や礼儀というものが必要だろう。
 呼吸を整えると、労る様な手つきで器に触れる。もう一方の手は蓋に。取っ手を摘まみ、軽く捻りを加えて封を解く。
 もわっと湯気が立ち上がると、音を立てずに蓋を置いた。箸を持ち、両手の指と指の間に挟むと、最後は万感の思いをもって合掌する。

 そして――

「こらうまい!! こらうまい!!」

 昼過ぎを迎えた牛丼チェーン店内。ひとりカウンター席に座った横島は、歓喜の言葉と共に、超特盛り牛丼(ネギ+卵乗せ 1480円)を全力で胃にかきこんでいった。


「いやー食った食った」

 満腹になった腹をさすりながら、横島がぶらぶらと町を歩く。初仕事を無事に終えてから数時間。霊力を回復させる目的もあって、今日と明日は完全休養だ。

「次は何にすっかな」

 ジーンズのポケットに入った財布の厚みに気を良くしながら、ひとり呟く。
 除霊の際、何だかんだで一番活躍し、更には原因を突き止めた成果もあって、セイリュートは前言を取り下げた。つまりは横島にもちゃんと報酬を分ける事にしたのだ。
 余分な金を預けるためにやってきた銀行の入口の手前で『で、いくら必要なのだ?』と、訊かれた時は流石に面食らったものの、自分に都合のよい解釈をする事には定評のある横島だ。理由を察したばかりか、「何だかんだでセイリュートも俺の事が……」というツンデレ設定を自らの脳内に構築すると、喜んで金額を告げた――全額を。

「――ちっ、除霊の時の俺の魅力に参って、つい全額差し出してくれると思ったのに」

 当然の如くセイリュートに却下された横島が軽口混じりに呟いた。途端に目を細めた彼女に――これ以上怒らせてはならないという防衛ラインだった――慌てて頭を下げたが。
 ため息を吐き、再度訊ねてきた彼女に、横島は希望する金額を告げた。



「ありがとうこざましたー」

 立ち寄った大手スーパーの衣料品売り場。
 レジ嬢に見送られ、横島は意気揚々と店を後にする。連載時からの悲願でもあったパンツの新調が晴れて叶ったとあっては、当然の気分だった。それも以前の様な三枚いくらのセット品などではない。パッケージには外人のヌードモデルが印刷された、男の色気に溢れた一品だ。
 足を止めた横島が、ぐっと拳を握った。胸の内から溢れ出る喜びが、忍び笑いとなって漏れはじめる。

「こんな高級品を一気に五枚も……! なんて……! なんてゴージャスなんだああっ! GSやって本当によかった!」

 背後に荒波を背負いつつ、目元に光るものを滲ませる横島。ちょうどエスカレーターの降り口付近だったため、迷惑極まりない。いきなりの大声に、周囲にいた買い物客たちが、ひそひそと囁き始めた。が、当人は気付かない。テンションの上がった彼の脳は、既に自意識を自己が構築したユートピアの中へと送り込んでいた。平たく言えば妄想の真っ最中だった。
 ピンク一色に染まった部屋の中、購入したばかりのパンツを身に付けた横島が鏡の前でポーズをとる。その度に、ベッドで待機している女性陣たちは、先を争うかの様に黄色い声援を投げる。その内の何人かは、既に待ちきれない様子だった。思い思いに悩殺ポーズをとって、巧みに彼を誘惑する。
 普通ならば到底ありえない光景。だが絶対にありえないとも限らない。パンツだってこうして新調する事ができたのだ。この妄想とて叶わない道理が無いだろう。夢を追いかけるのは若者の責務でもある。
 そんなモチベーションを新たに、なおも横島のボルテージが上昇していく。それが新たな妄想の糧となり、妄想が生まれれば更にモチベーションは上がっていく。まさに永久機関だった。

「さようなら、貧乏な以前の俺! そしてよろしく、金持ちの俺!! 新たに誕生したこのネオ横島に不可能な事など、もはや無いわー!」

 舞台役者顔負けのジェスチャーと共に、高らかに宣言する横島。もはや誰もが近寄りたくない光景だった。辺りを取り巻く人だかりは、すっかりきれいなドーナツを作りあげている。
 そんななか、不意に彼のもとに歩み寄る人物がいた。ぽんぽんと彼の肩を叩くと、

「あー、ネオ横島くん……だったか? 店内での挙動不審な行動を繰り返している事について、少し話を聞きたいのだが」

 誰かが通報したのだろう。駆けつけた屈強そうな警備員に、ネオ横島は早くも最大の危機を迎えるのだった。



「あーくそ。酷い目にあった」

 一時間後。警備員からたっぷりお説教を食らった横島が、再び街中をぶらぶらと歩く。個室でおっさんと二人きり、という忌まわしい記憶を即座に抹消すると、次はどうしようかと考えを巡らせる。

「牛丼が1480円、パンツが一枚1545円だったから……約9000円ってところか。あと9万円以上は残ってるな」

 歩みを止めないまま、指を折ってさらっと答えを出す横島。貧乏生活が長かったせいか、こういった暗算は意外に素早い。
 結局、彼が貰ったのは10万円だけだった。あの除霊時の働きを見れば、もっと要求してしかるべきなのだが、そこはあの美神の下で極貧生活を耐え抜いた横島だ。この金額ですら自給255円時代だった頃の一ヶ月のバイト代の二倍近くはある。セイリュートは呆れ返っていたものの、まだ高校生という事もあって、彼の規準では十分に大金だった。

「うーん」

 とはいえ、やりたかった事は早くもやり尽くしてしまった感があった。これといって案も浮かばないまま、ふと横のショーウィンドウに飾られている時計をチェックする。各々行きたい場所が違ったために、今は三人とも別行動をとっていた。集合時間まではあと二時間というところだ。
 唸りつつ、ぽりぽりと頭を掻く。残るは本屋でお宝探しに精を出すくらいだったが、あいにく現在は根無し草の身だ。いくら自分でも、エロ本を持ち歩きながら美少女二人と行動する勇気は無い。

「だーくそ。せっかくリッチになったとゆーのに」

 呟いて、ため息を吐く。金も時間もあるのに 、どう使えばいいのかわからないというのは、何とも皮肉な話だった。
 懐とは正反対の、不景気そうな表情を浮かべたまま、角を曲がる。
 とりあえず興味を惹きそうなものがあれば――そんな適当さで周囲を物色し始めた、その時だった。

「こ、これは……!」

 唐突に、横島の足が止まる。その視線は、まるで運命の相手に出会ったかの様に、一点に向けられていた。

『人妻いんらん天国』上映中

 看板にはそう書いてあった。かの竜神さまですら釘付けとなったタイトルは、伊達では無いらしい。
 夢遊病患者の如く、いつの間にか映画館の前までたどり着いていた横島が、ちらりと上映時間を確認する。都合良く、あと15分ほどで次の上映が開始するらしい。
 ごくり、と唾を飲む。今までアパートの小さなブラウン管でしかお目にかかれなかった映像が、映画館の大画面で見れるのだ。その感動たるや、どれほどのものなのか。

「金も時間もあるし、これは千載一遇のチャンスでは……いやでも、今日は変装してないし……」

 心は行く気満々だったが、看板の目立つ位置に貼られた『成人指定』の四文字が行く手を阻む。
 ぶつぶつと呟きながら映画館の前を右往左往する横島。その光景たるや、先のスーパー同様、完全に不審者のそれだった。通りすがった人々が、皆すれ違いざまに、哀れみのこもった視線を送る。
 葛藤する事数分、ようやく横島が覚悟を決めた。映画館の前で立ち止まると、大きく深呼吸をする。前方を見据え、いざ鎌倉とばかりに一歩を踏み出しかけた、その時――

「ヨコシマ?」

 聞き慣れた声がした瞬間、横島の姿がかき消えた。重力その他を完全に無視した動きで、5メートルほど後方に飛び退くと、

「ル、ルシオラか。おおおお驚かすなよ」

「普通に声をかけただけなんだけど……」

 電柱に寄り掛かり、手櫛で髪をかきあげたポーズで動揺しまくる横島に、ルシオラが後頭部に汗を浮かべてつっこむ。

「近道しようと思って角を曲がったら、たまたま見かけたから……ヨコシマの方は、もう買い物は済んだ?」

 と、ルシオラが訊ねる。自身も買い物帰りだったのだろう。胸元に抱き抱えた買い物袋の口からは、溢れそうな程に商品が見え隠れしていた。

「あ、ああ……て言っても、買うものなんて下着くらいだけどな」

 そう言って、袋を見せようとした横島が、あれ? と声をあげる。いつの間にか落としてしまったらしい。
 慌てて辺りを見回したところ――幸いにもすぐに見つかった。人妻いんらん天国の看板の前だ。

「もしかして、これかしら?」

 口を開けたままびしりと固まった横島を尻目に、視線を追ったのだろう。ルシオラが進み出て袋を拾い上げた。そうして目の前の看板を軽く見遣ると、それで大方の事情を察したらしい。ああ、と小さく呟くと、何でもない様子で彼の方に振り向く。

「はい。もう落としちゃだめよ」

「へ? あ、ああ……」

 きょとんとして袋を受け取る横島。てっきり呆れられたり、ケーベツのまなざしを向けられるなど、何らかのリアクションがあると思っていたが、何も起きない。が、

「じゃあ、ちょっと付き合ってくれる?」

「え?」

 続けて言ってきたルシオラの言葉に、横島が訊き返した。

「まだ時間はあるしね。ちょっと行きたい所があるの。あ、でも」

 くすりとルシオラが笑って、

「人妻いんらん天国が見たいなら別に構わない――」

「さ、今すぐ行こう。限りある時間を無駄にはできん!」

 彼女が言い切る前に、横島は即刻了解の意を示した。



「まだ早かったみたいね」

 魔装術を解き、元の姿に戻ったルシオラが、景色を見渡しながらそう言った。
 そーだな、と横島が同意する。

(この前は吊るされに来たよーなもんだったしな)

 しばしの空の散歩の後、彼女に連れて来られた場所は、やはりと言うべきか、例の展望台の屋上だった。
 前回ここに来た経緯を思い出して、ひとり納得する。いくら彼女といえど、あんな形で約束を果たされるのは流石に本意ではないだろう。
 とはいえ、時間帯ではまだ昼下がりといったところだった。彼女の望む夕焼けを見るには、もう少し待つ必要がある。
 ぺたんとその場に腰を降ろした横島の隣を、あの日と同じくルシオラが占領した。

「そーいや何を買ってきたんだ?」

 彼女の腰元に置かれた袋に興味を惹かれ、横島が訊ねた。

「食料……というかエネルギー源ね。砂糖と水。あとは化粧品くらいかしら」

「ああ。そーいえばお前って蛍の魔族だったもんなー」

「それは……いくらなんでも忘れ過ぎだと思うけど……」

 汗を浮かべて苦笑いを浮かべるルシオラ。確かに触覚は無くなったから、見た目は人間そのものなのだが。
 袋を見つめつつ、横島が再度訊ねた。

「じゃあその重そうな中身って、全部そうなのか?」
 
「ええ。服なんかはこないだ揃えてもらったしね。他に使うあても無いし、せっかく貰ったお金だけど、結局、殆ど手をつけてないわ」

「あ、俺もそうだぞ。買ったのなんてこのパンツくらいだしな」

 ぽん、と自分の袋を叩いた横島が「安上がりだよなー、俺たち」と付け足す。
 同意したルシオラと軽く笑い合うと、先程の光景を思い出したのだろう。彼女が、

「それであの映画を見に行こうとしたの?」

 さらっと告げた瞬間、横島が勢いよく吹き出した。

「ち、ちがっ……違うぞ!! あれはたまたま映画館の前を通り掛かっただけでだなっ。そ、そりゃちょっとは見たいと思ったけど決して中に入ろうだなんてそんな事は――」

 目まぐるしく手を動かして、弁解だか自白だかをまくしたてる横島。
 そのあまりの必死さに、くすくすとルシオラが笑った。

「大丈夫よ。そんな事で嫌ったりなんかしないわ」

「え、そうなの?」

「おまえとは魂を共有してたから。そういうものに興味がいってしまう気持ちも、ちゃんと理解してるわよ」

 とるに足らない、といった風に微笑んだルシオラに、横島がじーんと胸を熱くする。生き返ってからこっち、以前にも増して懐が広くなった感がある。
 という事は――

「それじゃ! 魂だけと言わずにぜひ身体の方もーー!」

 いける、と即断した瞬間、横島が地面から姿を消した。あっという間に空中で衣服を脱ぎ捨てると、一気にルシオラに襲い掛かる――が、予想していたのだろう。彼女にあっさりとかわされた。そのまま勢い余って前方の鉄塔に激突すると、鐘の音を思い起こさせるような鈍い金属音が響く。

「なぜだああ! 流れなら精一杯読んだつもりなのにーー!!」

「それ以前に、場所とか時間帯とか、先に気にするべきものがあるでしょ!!」

 血と涙と鼻水をまとめて噴き上げる横島に、ルシオラがハンカチ片手につっこんだ。ダメ出し以前の、ごく当たり前な意見なだけに、さしもの彼も反論できない。ひとしきり呻くと、

「ううっ、モテ男への道は険しいノー」

 踵を返し、そう呟きながら、とぼとぼと服を拾い集めていく。その丸い背中には、同じモテない友人の怨念が宿っているかの様だった。
 うーんとルシオラが腕を組む。

「まあ、掲載紙さえ違っていればアリだったとは思うけど」

「ギリギリの発言やなー」

 ルシオラが視線を向ける。独り言のつもりだったが、見れば既に横島は着替えを済ませていた。脱いだ時ほどではないが、それでも異様な早さだ。

「……変わらないわね。ヨコシマは」

「ちくしょー。進歩が無くて悪かったなー」

 ぽつりと呟いたルシオラに、横島が憮然として言い返す。が、彼女の表情が――最近たまに見せる――からかう類のものではない事に気付いて、

「……それに、あんまりシリアスなのは、俺らしくないしな」

 付け加える。ここが自分たち二人にとってどんな場所だったか。それを思い起こせば、彼女の言葉の意味はあっさりと理解できた。

「ヨコシマ……」

 優しく笑う彼女に、ふ、と笑い返す。今となっては感傷など無意味なのだが……それでも心にこびりついた想いというのは、なかなかすぐには消えないらしい。
 アシュタロスを倒そうと、確固たる意思を持ち得た事。彼女を死なせ、怒りと復讐心に凝り固まっていた事。彼女を生き返らせる方法が無いとわかり、深い悲しみを味わった事。
 どれもこれもが、それまでの人生で経験した事の無い、強い感情だった。危うくそのまま引きずられそうになるほどの。それを踏み留まり、どうにか乗り越える事ができたのは、ひとえに彼女の姉妹たちや、美神たちの言葉があったからだった。
 その事に、今は深く感謝する。もしあのまま激情に身を任せていれば、彼女は今の様な笑顔を向けてくれなかっただろう。
 と――

「そうね。そういうのも含めてこそのヨコシマだもの。年中発情期とゆーか笑いの塊とゆーか 」

「ほっといてくれ!」

 センチメンタルな気分をぶち壊すかの様な彼女の言葉に、思わず横島が口を挟む。生き返ってこっち、どうにもノリが軽い感じでならない。それとも――これが彼女の本来の性格なのかもしれないが。
 何にせよ、やられっぱなしというのは悔しくはある。

「大体、変わらないのはお前もだろうが。昨日の除霊だって色々と無茶しやがって」

「う……」

 どうやら自覚はあったらしい。たちまち顔をひきつらせて呻いたルシオラに、横島が息を吐く。

「せっかく生き返ったんだし、まずは自分の身を優先な。お互いに無茶は控えて、死ぬのは百まで生きてからとゆー事で」

 指を立てながら、冗談混じりにルシオラに言い聞かせる。言い回しが変になってしまったが、特に意味は無い。彼女の寿命が、当初は一年しか無かった事を思い出したので、単に百倍してみたまでだった。が、

「……」

 何故か頬を染めて俯いたルシオラに、首を傾げる。変な事を言ったつもりはないし、ましてやこの反応は全くの予想外だった。
 すると、

「なんか……結婚を申し込まれたみたい」

 頬に手を当てながら、ぽつりと告げたルシオラに、へ? と声が裏返る。そうして先程の発言を思い出してみると……確かに聞こえない事もなかった。要は二人で生き、二人で死ぬぞ、と誓ったようなものだ。

「あ、いや、その……」

 思わぬところから虚を突かれ、しどろもどろになった横島に、ふふっ、とルシオラが笑う。

「ちゃんとわかってるわよ。おまえの元の魂を使ってまで甦ったんだもの。この命、決して粗末にしたりしないわ」

 胸に手を当てて、そう告げたルシオラに、横島がほっと息を洩らした。

「頼むぞ……お?」

 頷いた横島が、いつの間にか辺りの色彩が変わっている事に気付いて振り向く。どうやら話している間に結構な時間が経っていたらしい。すっかりオレンジに染まっていた陽が、東京の空と地上を同じ色に塗り替えていた。

「きれいね。ヨコシマ」

 横から聞こえてきたルシオラの声に、ああ、と頷きを返す。横目で覗き見た彼女の目は、すっかり夕陽にくぎ付けになっていた。

「夢みたいね。おまえとまた……こうしてここに居れる事が」

 呟いたルシオラの目尻には、うっすらと涙が滲んでいた。その満たされた様子の横顔に、横島の方も胸がいっぱいになる。

「俺もだよ。納得はしたけど、やっぱ、あれが最後じゃ悲しいもんな」

「ヨコシマ……」

 振り向いたルシオラの表情に、ここに来て良かった、と実感する。そんな想いが、不意に胸の奥から言葉を湧き上がらせた。

「その……今さらゆーのもなんだけど、さ」

「?」

 首を傾げるルシオラに、僅かな沈黙を挟んで、告げた。

「……お帰り。ルシオラ」

「……ただいま。ヨコシマ」

 ルシオラの目から、とめどなく涙が溢れ出した。あの日を最後に止まっていた二人の思い出は、今ようやく動き始めたのだ。
 見つめ合っていた二人の距離が、どちらからともなく縮まっていく。
 夕焼けが静かに映えるなか、屋上に落とされた二つの影の先は、 互いの気持ちを伝え合うかの様に、一つに寄り添った。


 ――その後、予定時刻をかなり過ぎて戻ってきた二人は、ひとり待ちぼうけを食らったセイリュートから、たっぷりと冷たい視線を浴びせられたのだった。



 ――さぷりめんと(ry その3――


「――なんて、そんな爽やかなラブコメで終わるほど甘い男やないで俺はーー!」

 両手に拳を作って叫んだ横島が、脇を向いて時計を見やった。ナイトテーブル付属のデジタル時計は、日付が変わっておよそ30が経った事を示している。
 頃合いだった。よし、と膝を立てると、寝床から飛び降りる。カプセルホテルの布団ではなく、れっきとしたビジネスホテルのベッドだ。晴れて収入も得られたため、今日からは当面この部屋に滞在する予定だった。昨夜までとは比べ物にならない快適さに、やはり金の力は偉大だとつくづく痛感する。
 だがいくら生活レベルが向上したとはいえ、やはり切り詰めるべきところは切り詰めるべきだろう。そう判断し、受付の際には意気揚々とダブルの部屋を予約しようとしたのだが……すんでのところでセイリュートに気付かれてしまった。
 すったもんだの末、善良たる民の声が恐怖政治に封殺されて、およそ数時間。ついに反逆の機会は訪れたのだった。
 ジージャンのボタンを留め終えた横島が、おもむろに窓の方へと移動する。窓を開け、夜の空気が部屋になだれこむのを感じとりながら、くるりと身体を反転した。そのまま小さく飛び上がると、背中を外に向ける形で窓枠に腰掛ける。
 これで準備は整った。右手に栄光の手――鉤爪――を作ると「伸びろ」と命じる。音も無く、するすると伸びていった鉤爪は、やがて1階上の部屋の窓枠に、がちりとはまった。

「よし」

何度か引っ張り、鉤爪がしっかり掛かっている事を確認して、横島がにやりとする。ビルの外壁は引っ掛かりが無く、素手では登れない。だがルシオラたちの部屋がちょうど真上である事。窓が旧式の横引き戸タイプのものである事に気付いて、今回の計画が実現した。

「待ってろよルシオラ。今すぐ迎えにあがるからな」

 ここまでくれば、あとは上まで登って窓を何とかするだけだった。 舌舐めずりを終えた横島が、霊気の綱を掴み、意気揚々と登っていく。美神相手に覗きを繰り返していた時のことを思えば、楽勝もいいところだった。たちまち登りきると、窓枠に手を掛け、懸垂の要領で身体を持ち上げる。そうして窓に張り付こうとして――

『侵入者は未来に強制送還』

 そんなメモ書きがガラスに貼っているのを発見した。ワープロの様な正確な筆跡は、恐らくセイリュートのものだろう。

「……」

 ひやりとした汗が流れた後、横島が黙って下に降りていった。美神のもとを飛び出した彼にとっては何よりも恐ろしい一文だった。


「チクショー! たかがスキンシップにあんなリーサルウエポンを使いやがって。鬼かあいつは」

 再びベッドにて横島。あぐらを組みながらぶつぶつと愚痴を洩らす。そもそもそんな行為をしなければいい話なのだが、そんな選択肢は彼には存在しない。

「はあ……」

 とはいえあんなバリアを張られたとなっては、流石にお手上げだった。もはやこれまでかと、嘆息したその瞬間――彼の脳裏に煩悩の神が囁く。ならば中に入りさえしなければ? 

「……」

 ふと浮かんだ考えをしばらく反芻する横島。そして――

「ふおおおおお!!」

 ぴんときた瞬間、電光石火の勢いで横島が集中し始めた。速攻で作り上げた文珠に【覗】と入力すると、かっ、と目を凝らす。直接手は出せないまでも、美少女二人のあられもない寝姿は煩悩を刺激するには十分な――

「どちくしょおおお!!」

 血の涙を吹き上げて、横島が床に文珠を叩き付ける。かいま見えた天井の向こうでは、母娘が組んずほぐれずで眠っていた……石と光る蛍の姿で。ご丁寧に枕元には『ママの言い付けで。ごめんね』というルシオラの走り書きまで置いてあった。

「香港の小竜姫さまの時といい、神族も魔族も、ちょっとサービスが足りなさ過ぎなんとちゃうか!?」

 血走った目で、悔しげに拳を床に叩き付ける横島の脳裏に、

「そーゆう話は作者か編集長に訊いてくれる?」

「すみません。ですが私の一存ではちょっと……」

 そんなルシオラと小竜姫の声がどこからか聞こえた様な気がした。


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