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No.517の一覧
[0] 道化師[キロール](2005/06/29 01:41)
[1] Re:道化師[キロール](2005/07/15 00:34)
[2] Re[2]:道化師[キロール](2005/07/17 23:37)
[3] Re[3]:道化師[キロール](2005/07/17 23:35)
[4] Re[4]:道化師[キロール](2005/07/29 01:58)
[5] Re[5]:道化師[キロール](2005/08/05 01:02)
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[517] Re[2]:道化師
Name: キロール 前を表示する / 次を表示する
Date: 2005/07/17 23:37
 やっぱりあの娘は来てはくれないか。
まぁ、一人寂しく観劇することにしましょう。
入り口でチケットを渡し入場する。
劇のタイトルはロミオとジュリエット。
                   ・
                   ・
 ロミオとジュリエット。
アレンジを加えてあるとはいえ基本的な流れは元の話と大きく外れてはいない。
社会と家と恋に挟まれ苦悩する男女を描いた悲劇。
劇全体の出来としてもそれほど悪いものではなかった。
でも私は世界一有名な悲劇のひとつを喜劇と称した。
いや、悲劇と呼ばれるものと喜劇と呼ばれるものは構成物質としてその内容はあまり大きな変化はない。
言うなれば円錐の断面が三角形であるか円形であるかを論ずるようなもので、喜劇の内容をつぶさに見ていけばその喜劇の当事者たちにとっては悲劇であることが多いのがわかる。
かの喜劇王、チャーリー=チャップリンも人生を長い眼で見るか、短い目で見るかによって悲劇か喜劇かに変わるといっていた。
私の人生も、彼の人生も長い目で見れば喜劇に変わってくれるのかしら?
 
今の私の精神状態ではどんな悲劇も喜劇に映る。
別に箸が転がってもおかしい年頃などとうに過ぎているいるし、人生が楽しくてしょうがないというわけでもない。
むしろ逆だ。
でも私は楽しまなくてはいけないと思う。
それは私に科せられた義務だと思うから。
 
その昔、私はヒーローになりたかった。
悪魔チューブラー・ベルに負けぬよう、いえ、私が誰かを守れるようになるために。
でも、私を救ってくれたのは唐巣神父と公彦さんだった。
特殊な力を持っているとはいえ戦闘とはまったく関係のない能力。
その公彦さんが命がけで私を救ってくれた。
その日から、公彦さんは私のヒーローになった。
令子が生まれてからは家族が私にとって最高の宝物になった。
魔族が私と令子を狙っているとわかったとき、目の前が真っ暗になった。
何としても令子は、令子だけは守りきらなくてはいけないと思った。
そのためにヒーローになるという夢は捨てた。
一度死んだことにして陰に潜むことにした。
十年かけて令子が一人でも生きていけるように育てた。
そのつもりだった。
でも……。
 
プラプラと真夜中の散歩。
ちょっと前まではこんなこととてもできなかったわね。
誰もいない公園のベンチで酒に火照った体を涼ませる。
 
……人生のすべてをかけたつもりでいた。
でも、私はあの時何ができただろう?
アシュタロスに対するオカルトGメン日本支部の根回し。
時間逆行からヒントを得た電力の霊力変換。
情報収集。
そして令子抹殺の命令の撤回要求。
そのためには脅迫や強請みたいな真似をした。
ヒーローになる夢なんてはるか遠くに。
それでも少しも後悔はしなかった。
夢よりも家族のほうがずっと大切だったから。
だけど、私が死んだ(ことにした)せいで令子の心に大きな傷を作ってしまい、家族の関係にもひびが入ってしまった。
唐巣神父たちがいてくれなければどうなっていたことか。
令子がお金に執着するのも言ってみればお金という目に見えるもので自分の価値を間接的に推し量ろうとしているのだと思う。
精神的に未熟で孤独なのだ。
 
オカルトGメン日本支部も、電力の霊力変換も、情報収集も、撤回要求も一応は機能した。
だけど日本支部だできたことなど微々たる物。
電力の霊力変換だって空母を使って側近一人倒しきれなかった。
情報収集しても表面的なことしかわからなかった。
撤回要求にいたっては最後まで機能しなかった。
私がたてた戦略、戦術はことごとく(一時的なものは除いて)失敗し、挙句命を人質にとられて令子を窮地に追いやった。
結果として何もできないどころか最後の最後で足を引っ張ってしまった。
なんて無様。
まるっきり道化だ。
 
その窮地を救ってくれたのが一人の少年。
傷ついた令子の心を癒し、スパイとして潜入して被害を最小限に食い止め、幹部の一人と恋仲に落ちてこちら側に引き込んでくれたお陰で情報も多く集まった。宇宙の卵を破壊したのも、アシュタロスに止めを刺したのも彼だ。
当初、あまりにも彼を軽く見て半ば以上捨て駒に使っていたのに。
時間移動能力で断末魔砲を返したとき、逆天号の中に横島クンがいることがわかってそれでも撃った。
今思えばあそこで逆天号を落とせたところで戦術的な勝利は拾えても戦略的にダメージはそれほど与えられなかったというのに。
私はよほど焦っていたのだろう。
最初からアシュタロスが出てきてしまえば私たちに対抗するすべなどほとんどなかったのだから。
いつの間にやら問題の中枢に入り込み、最弱だと思ってた彼が切り札に変化した。
まるでトランプのJOKERのように。
 
それに引き換え私はババ(厄介者)だ。
同じカードだというのになぜこれほど違うのか。
 
挙句、私はルシオラさんの結末を知っていたのに令子かわいさからそのことを横島クンに教えることはなかった。
それなのに横島クンは令子にもヒノメにも、そして私にも変わらぬ態度で接してくれている。
ただの一度の恨み言も言わずに。
 
私は誰もいない公園でその日のミュージカルの一節を歌う。
 
「悲劇ですわ。喜劇ですわ。私はただあなた様と共に生きたかっただけですのに。そのために家族も、家名も捨てて死んだ女として日陰に生きていこうとしただけですのに。それがあなたを殺してしまうなどとどうして思えたでしょう。ああ神よ。天なる父よ。あなたが父という名であるだけで私はあなたを呪いましょう。いとしきあの方は自らの命を絶つことで死後あなたの身元に行くことはかないません。私もあなたを呪い、自ら命を絶ってあなたの身元に行くことはないでしょう。せめて光差さぬ冥府のそこで愛しきあの方にわびましょう。神よ! 天なる父よ! あなたに慈悲の心あらばこの身をあの方と同じ冥府へといざなってください。決してあの方のいない神の国などにつれては行かないでください!」
 
……あのおろかな道化師、ジュリエットにも幸せになる権利はあるのだろうか?


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