≪デミアン≫
なんなんだこいつらは。
私の攻撃を喰らってもビクともしない人間に、こちらの攻撃が勝手に外れる人間だと? ふざけるのも大概にしろ!
「こっちも忘れてもらっちゃ困るワケ」
黒い人形がこちらに向かって飛んでくる。
式か使い魔か。
「そんなものを私が喰らうか!」
腕の一振りでその人形を破壊する。
が。
人型に触れたその箇所から肉が腐り落ちてくる。
「呪殺人形。触れたその先から呪いが蝕むワケ。本当はこの手の呪いはもう使いたくないけどあんたらは特別よ!」
まずい。
魔力で進行は遅らせているがこれは致死の呪い。魔族の私にすら届くほどの。
本体が汚染される前に肉の方を切り離す。
「なぜだ!? たかが人間の女ひとり殺すだけなのに何故こんなにもこの私が手間取っている!?」
「横島所霊事務所に手を出したのが運のつきってね」
ターゲットの女が鞭を構えてこちらに来る。
せめてこの女だけでも!
「雪之丞!」
「おう」
前後から強力な電流が私を襲う。
いかん。
これでは本体にダメージが及んでしまう。
仕方ない。
目立たぬように本体を分離しながら移動する。
屈辱だ。
この私が人間ごときに。
本体のほうに目をやった時に信じられないものを見た。
一番遠くで隠れていた人間がいつの間にか私の本体の前に移動していて、異様な大きさの岩を持ち上げしっかりと私の本体を見ていた。
「ヤメロォオオオ!」
「えい~」
岩は狙いたがわず私の本体を破……か……
・
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≪横島≫
デミアンは令子ちゃんたちに滅ぼされた。
……強くなったなぁ。
「エミのあれは呪いそのものを式の媒介にしてあるのかな?」
「はい。普通の式のように動かせますが、物理的接触をした瞬間に呪いが効果を及ぼします。あの人型にはエミさんの呪いと呪術アイテムがそっくりそのまま練りこまれていますし、直接相手に送り込むことができますから普通に呪いをとばすよりも数段強力です。効果は見てのとおり」
とはいえ目に見えている分効果を及ぼすだけなら無駄か?
いや。普通の式神か何かと誤解してくれれば攻撃を受けさせることができる。
ようは使い方次第。
「令子ちゃんのあれは電力を自分の霊力に変換したのかな?」
「同時に霊力を電力に変換もしているんですよ」
デミアンを通してくる雪之丞が放った電撃を自分の霊力に変えて、自分の霊力とまとめて電撃として再利用したわけか。
ひとたまりもないな。
これで以前美智恵さんが見せた空母まるごと霊力生成装置という戦法が令子ちゃんにも使えるようになったわけか。
だが、最後の冥子ちゃんのあれは?
いや、想像つくんだが想像したくないというか……。
「冥子さんは自分の影の中にいる式神の力を自分の肉体を通して顕現できるようになったんですよ。まぁ、肉体的な限界を霊力で補うのも限界がありますからもとの式神ほどの力は出ませんけどこれで冥子さんが無防備になる可能性は大分少なくなりました。余程式神達との親和性が高いのですね」
いや、まぁそうなんですけど。
……空飛ぶ冥子ちゃん。火をはく冥子ちゃん。放電する冥子ちゃん。100km/hくらいで走る冥子ちゃん。果ては悪霊を口から吸い込む冥子ちゃん。想像したくはないな。
眠りに誘う冥子ちゃんだけは容易に想像できるけど。
今回はクビラを表に出して霊視。本体が表に出たあとはメキラのテレポートとビカラの怪力を体内で発動させてケリをつけたわけか。
「まぁそれは余芸というか、本当は十二神将の融合というのが本来得た能力なんですが冥子さんがそれを使うのを嫌がったんです」
まぁ、冥子ちゃんなら嫌がるか。
ん?
「お邪魔虫が来たみたいだな。ユリン、手伝ってきてあげて。ドラウプニール! ドヴェルガー!」
お邪魔虫のことはワルキューレ達に任せて頑張った教え子達を迎えてやらないとな。
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≪ワルキューレ≫
ベルゼブル。
しょうこりもなくクローンを、それも大量に送ってきおって!
「どけ! ワルキューレ。あのクソ生意気な人間を引き裂いてやる」
「貴様ごときじゃできんよ。それに貴様はここで朽ちる」
魔界に戻ったら早急に奴の本体を抑える必要があるな。
「ホザケ!」
とはいえこの数、スピードは厄介か。
こちらも縮小、分裂で対抗するが奴と違って長くは持たないし、最高速度、旋回能力共に奴のほうが上か。
ワルキューレ・リーダーが奴に殺される前にポイントに導ければいいのだが。
「クワ~!」
「何だこいつらは!」
ユリンか。
個々の能力では流石に劣るが今回みたいな時はユリンの数の力は頼りになる。
かなり一方的にこちらの数を減らされながらベルゼブルは敗走する私たちを一塊になって追いかけてきた。
チェックメイト!
「グフッ!」
地中から突き出された剣によってベルゼブル・クローンたちがことごとく貫かれた。
そして地中から姿を現すジーク。
「ご苦労だったな。ジークフリード少尉」
「はっ! 大尉」
「以上でミッションは終了。楽にしていい」
弟と軍人として接するのに苛立ちを感じる。
間違いなく横島達の影響だろうな。
「僕がファブニールを殺したときと同じ戦法だったからね。最も、蠅の体液なんか浴びたくはないけど」
私に対して軽口を叩けるか。
軍人としては問題ありだが……家族としては嬉しくあるな。
閣下……父上が私に敬語を使わせないようにするのもこういうことなのかもしれん。
いずれにせよ、今回のミッションは成功だ。
ジークを労い、ユリンに礼を言うと軍に報告をするために戦士達の集う妙神山へと飛んでいった。