≪ヒノメ≫
3がつ2か はれ
きょうはみいママのおねがいでにいにのところにおつかいにいきました。
わんわんとこんこんといっしょにいきました。
にいにはやさしいからだいすきです。
「それじゃあヒノメちゃん、気をつけていってらっしゃい」
「は~い」
みいママはひぃのもう一人のママです。
みいママはネコさんで、ケイにぃもネコさんです。
だからひぃのナップサックもネコさんです。
「いってきまーす」
「……大丈夫かしら? 暴走しないといいんだけど」
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にぃにのおうちは歩いて10分くらいとみなが言ってます。
ひぃがあるくと30分くらいだとみいママが言ってました。
わんわんはひぃの周りをクルクル嬉しそうに走り回ってます。
でも、ひぃがわんわんと呼ぶと悲しそうにクーンとないてしまいます。
こんこんはひぃが道に迷いそうになるとひぃの服を引っ張って教えてくれます。
こんこんは頭がいいです。
「あ、あの……」
誰かに声をかけられたので振り返ったら誰もいませんでした。
とっても不思議です。
途中で時々大きな音がします。
町はにぎやかです。
何回か休憩をして、にぃにのおうちに着きました。
少し疲れました。
わんわんもこんこんも疲れたみたいです。
でも、にぃににお届け物をしなくてはいけないのでもう一がんばりです。
「ユウちゃ~ん。い~れ~て~!」
ひぃが声をかけるとおうちから声がします。
「ようこそ、ヒノメさん。なかへどうぞ」
ユウちゃんはにぃにがすんでいるおうちなんだそうです。
よくわかんないけどすごいです。
ユウちゃんに中に入れてもらったのでにぃにのところまでもうすぐです。
にぃにのところまで走っていきます。
ドアを開けるとにぃにがこちらを向いて微笑んでます。
ひぃは嬉しくなってにぃにの元に駆け寄ります。
ひぃを抱きとめお膝に抱えてくれるにぃに。
「ひぃがおっきくなったらにぃにをお婿さんにしてあげるね」
「……お嫁さんになるんじゃないんだ。流石は美智恵さんの娘だな」
にぃにはなんでか大きな汗をかいていました。
にぃには優しいから大好きです。
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≪雪乃丞≫
はぁ~。何でこんなこと引き受けちまったんだろうな。
どんな化けもん相手にしても怖いと思ったこたぁねえが……。
「何で今日に限ってこんなに雑霊が多いのよ!」
「文句を言うより先に手を動かしなさい! 雪乃丞君も目立たないように早急に対処して!」
怖えよ、この二人。
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「ちょ、ちょっと待ってよママ。ヒノメはまだ3歳よ! 初めてのお使いなんて早すぎやしない?」
「ヒノメも美神家の女よ。強く、気高く、美しく、そしてタカビーにならなければいけないの。そのためには幼いころからしっかりと教育をしないとね。そのためにはママは鬼にも蛇にもなります!」
「……それで、何で俺が縛られてここにいるんだ?」
俺はあの時茶を飲んだら急に眠気が襲ってきて(おそらくは睡眠薬)気がついたら縛られて足元に転がされていた。
「……もちろん、ヒノメの安全には十分気をつけるわ。当日は私もヒノメのあとをつけるし、シロちゃんとタマモちゃんにもついていってもらうわ。でも、万一ヒノメが誘拐されそうになったり、ペドフィリアの魔の手が忍び寄ってきたとしても立場上警察に通報するくらいしかできないのよ。オカルトGメンも成果を挙げているとはいえまだ完全に軌道に乗ったわけではないし、シロちゃんとタマモちゃんは妖怪だから極力人間に害を与えないほうがいいわ」
「それと俺のこの状態とどんな因果関係があるっていうんだ?」
不意に振り返るとゴトリと重い音がして、俺の足元まで拳銃が転がってきた。
「……若者の感情に任せた暴走って最近じゃあよくある話よね?」
おい! ちょっと待て。
「大丈夫よ雪乃丞、安心して」
ミカ姉……。
「あなたは未成年だもの。罪はまだ軽いわ。それに保釈金だってすぐに支払ってあげるし最高の弁護士も用意してあげるから」
まずい。
ヒノメ可愛さにミカ姉まで壊れてる。
っていうかそれで済む問題か!?
結局、あまりにもこの二人に不安を覚えた俺は協力をすることにした。
……それが間違いだった。
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極短い距離だが俺たちのほかにもヒノメをつけまわす男がいた。
その男がヒノメに声をかけた瞬間隣で懐に手を伸ばす気配を感じ大慌てで魔装術を展開するとその男を拉致って路地裏に隠れた。
「……あなた、うちのヒノメに何をする気だったのかしら?」
「人の妹に手を出してただで済ませようって気じゃないでしょうね」
素人にその殺気はまずいって。
「ま、待ってくれ。俺はあんな小さい子が一人で歩いているからてっきり迷子かと思って声をかけようとしただけだ。文学と映画が好きな好青年でやましい気持ちなんてこれっぽっちもない!」
「……ねぇ、ちなみに好きな作家と映画を教えてくれない?」
「え? ……作家なら谷崎潤一郎とか、ルイス=キャロルとかジェームズ=バリーとか。映画だったらロリータとかレオンとか……」
「失せろ本物!」
ミカ姉の手加減のまったくない蹴りが男の顎に炸裂して男は昏倒した。
どうやら今のチョイスには何か重大な問題があったらしい。
その後もなぜか雑霊の小霊団やら何やらがヒノメにちょっかいを出そうとしているがそのたびにシロとタマモが必死に追い払っていた。
少しでもヒノメが傷ついたら命はない。
そんな予感を二匹の獣は本能で感じ取ったのかもしれない。
流石にそこまではこの二人もやらねえと思うが……多分。
そして追い払われた霊団は二人のストレス発散の標的とされた。
……もういやだ。
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「雪乃丞もシロもタマモも大分疲れているようだな?」
疲れたヒノメが眠るとミカ姉たちはヒノメを
「ヒノメ偉いわ~! それにもう可愛すぎ。流石ママの娘よ!」
「ちょっとママ! 私にも抱かせてよ!」
と、大騒ぎしながらヒノメを抱いて帰っていった。
誇らしそうにヒノメを撫でるその姿は微笑ましくもあるのだが……。
「……師匠、俺は別にヒノメの子守はそれほどいやじゃない。……だけどあの二人の子守だけはもう二度と勘弁」
「拙者もでござるよ」
「親ばかと姉馬鹿の相手はもううんざりよ」
「はははは」
師匠のむなしいから笑いだけが事務所内に響いた。
本当、もう勘弁してくれよ。
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注
谷崎潤一郎 痴人の愛の著者
ルイス=キャロル 不思議の国のアリス、鏡の国のアリスの著者
ジェームズ=バリー ピーターパンの著者
なお、私に登場した作品およびそのファンを馬鹿にしたりする意図はまったくありません。