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椎名高志SS投稿掲示板


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No.538の一覧
[0] ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/03/26 05:11)
[1] Re:ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/03/29 01:15)
[2] Re[2]:ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/04/01 06:18)
[3] Re[3]:ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/04/09 02:12)
[4] Re[4]:ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/04/09 02:28)
[5] Re[5]:ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/04/21 18:16)
[6] Re[6]:ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/05/07 04:07)
[7] Re[7]:ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/05/07 04:34)
[8] Re[8]:ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/05/09 06:27)
[9] Re[9]:ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/05/20 00:38)
[10] Re[10]:ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/05/28 05:17)
[11] Re[11]:ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/06/11 07:44)
[12] Re[12]:ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/06/18 22:03)
[13] Re[13]:ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/07/19 00:23)
[14] Re[14]:ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/08/31 00:10)
[15] Re[15]:ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/11/08 23:49)
[16] Re[16]:ブロークン・フェイス(現実→GS)[アルファ](2006/12/07 01:55)
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[538] Re[7]:ブロークン・フェイス(現実→GS)
Name: アルファ 前を表示する / 次を表示する
Date: 2006/05/07 04:34

 そういえば俺ってどうやってこの世界にやって来たんだろうか? と、ふと疑問に思った。



 以前読んだネットの小説では交通事故に遭って死亡。そして気がついたら何故か漫画やアニメ、ゲームなんかの世界にいたというパターンが多かったが、今思えば極めて謎だ。何故たかが車に轢かれた程度で異世界へと行くんだろーか? 明らかに物理法則を舐めているとしか思えない。



 ひょっとしてアレか? 実は死に間際に見た妄想とかいうオチ? 走馬灯の代わりに現実逃避を起こしたとか。



 身も蓋もない話しだが『事故のショックで魂が抜け出して、たまたま自分のいた世界の漫画やアニメ、ゲームなんかとよく似たパラレル・ワールドへ迷い込んだ』などと言われるよりよっぽど現実味がある。ホラ、確かこーゆー小説って『ドリーム』とか『異世界トリップ』とか言うしさ。



 ならば今の俺の状況は臨死体験? 無論、車に轢かれた覚えはないのだが、本当は俺が忘れているだけで本体は血塗れで腕とか足とか欠けていたり、今の横島クンよりも酷い黒焦げ状態なのかもしれない。そう思うと、考えるだけで気が滅入りそうだ。



 しかし、仮にそうだとしても何故陰念なんて脇役なんだ? 俺の妄想ならもう少しマシなキャラ………いや、そもそも別の作品のような気がするのだが。少なくともこの作品じゃないと思う。大体俺この漫画全巻古本で売ったし。



 例えば世話焼きな幼馴染とか妹のような無邪気な後輩とかお嬢様風の先輩とか気さくな学園アイドルとかお色気たっぷりの女教師とかにもてまくりハーレムの主人公とかさ。
 そんな都合よく思い通りにならなかったとしても、最近読んだ漫画や小説などの影響を受けるような気がする。

 ならば、俺はむしろ神にも魔王にも錬金術師にも召喚師にもプロのハンターにも魔法少年先生にも魔導探偵にも伝説の勇者にも魔本の持ち主にも史上最強の弟子にも超能力者にも赤き守護者にも血継限界持ちの忍者にも白い悪魔のパイロットにも世紀末救世主にも召喚器を持った救世主候補にも魔眼持ちの少年にも悪魔の実の能力者にも学園都市の幻想殺しにもドラまたにも真の壬生一族にも執事にもきらめき高校の生徒にも鋼の後継者にも召喚教師にもパトラッシュにもなれただろう。

 いや、最後のはウケ狙いじゃなくてこの世界に来る前に読んだ本がフランダースの犬だったもんで。つい。
 


 ふむ。これはアシュタロスに会ったら相談するべきかもしれんな。前者(既に死亡。現在妄想中)ならもはやどうしようもないが、後者(魂抜け出して異世界へ)なら帰るついでに生き返らせてもらおう。漫画ではメドーサも蘇ったんだからきっと出来るはずだ。



「救護班! 救護班急げ!!」

「駄目だ!? 怪我が大きすぎて心霊治療(ヒーリング)だけでは追いつかない!! 白井総合病院に連絡をとれ! 早く医師を手配しろ!!」 



 などと考えている俺には周囲の状況に気がつかない。気がつかないといったら気がつかない。辺りに漂う焦げた人肉の匂いに気付いていなければ、目の前にある黒焦げの物体にも気付いていないのだ。



「担架です! それと手配が済みました! あとすぐに救急車を出すそうです!!」

「よし、慎重に運べ! 患者の様態を悪化させぬようにな!!」



 ……お父さんお母さん、ごめんなさい。仕方がなかったんです。ちゃんと理由があったんです。やらなきゃやられる。きっとそういう状況だったんです。

 だって今の上司はメドーサ。人の命は虫けら同然。「役立たずは死にな」などと言われてもおかしくない。いや、マジで。



 周囲の観客が騒がしいく、係りの人たちは事体を収拾するべく慌ただしく動き出す。そして担架に乗せられた黒焦げ物体(横島)がゆっくりと退場して行った。一目見て命に関わる重態とわかるその姿は、心ある者ならば思わず目を背けたくなる。っていうか、俺は目を背けました。



 ―――いや、原因は間違いなく俺だけど。



 陰念って雑魚キャラにも見えるけど、本当は結構強い。霊波砲一発岩をも砕く。元いた世界の筋肉ムキムキな挌闘家なんてイチコロだ。実力的にはそこら辺の通行人の一人や二人、殺すことなんてチョロイチョロイ。ギャグではない以上、「あ~、死ぬかと思った」と一言で済むはずがない。



 結論を言おう。俺の行動で原作の流れは少し変り、陰念は試合に勝った。妥当といえば妥当だろう。才能はともかく、地力の差が違うのだ。漫画で横島が勝てたのは運がよかっただけに過ぎない。



 しかし、横島クンはちゃっかり生き残りました。



 いや、正確に言えば生き残ったと思う(たぶん)。確認はまだしていないけど。



 第八話 不良と宇宙と霊波砲

 今、俺は会場から抜け出して人気のない公園にいた。昨日も行った旅館近くの公園だ。時間帯の所為か、それとも近頃のガキどもは砂場や滑り台よりゲーム気の方が良いのか知らないが、俺以外には誰もいない。好都合だ。落ち着いて考え事をするためにも静かな場所の方が良い。あのまま会場の中にいるのは居心地悪いし。



 すみませんが観客の皆さん。人を殺人犯でも見るような目で見ないでください。あと、コソコソ陰口も叩くな! 外見は陰念でも心はナイーブなんだよっ!! 何か俺に言いたいことがあるなら堂々と言えっ!!

 ………閑話休題(それはさておき)………

 霊波砲の嵐と白煙が晴れた後、横島は身体を黒く焦がしながらも生きていた。ただし、本気でギリギリで。片足くらいは確実にあの世に一歩踏み込んでいるくらいの大怪我だ。
 具体的には霊波砲が生んだ熱量による大火傷や破裂した際の衝撃による骨折や打撲など。内臓も傷付いているのか、血も吐いていた。

 一見、死んでいてもおかしくなさそうな状態だが、身体が時折ピクピク動いていたので一応まだ生きてることは生きている。

 確かにそのままほっといたら死ぬかも知れないが、俺がわざわざ事故死の御膳立てをして、自分の計画通りに事が進み、全力で致命傷оr即死クラスの攻撃を連発していたにも関わらず、『まだ生きている』のだ。ならば必ず『生き残る』。そう、心の中で確信した。
 うん、大丈夫だろう。美神の折檻なら血塗れで倒れていてもヒトコマで直ってたし。



 はっきり言おう。確かに人を殺すことに抵抗はある。だからこそ、今のうちに殺そうとした。少しでも相手が『人間』ではなく、『漫画の中のキャラクター』と思える内に。俺が自分からわざわざ横島達に会いに行かなかったのはそういう事情からだ。迷いは勿論あっただろう。しかし、手は抜いていない。


 だからこそ、並の人間―――いや、プロのGSであってもあの状況では2~3回は死んでいないと『おかしい』のだ。そもそも、あの時横島の霊力はゼロか極めてそれに近い状態。コンクリの壁すら容易く貫く陰念の霊波砲をくらって『この程度』のはずがない。



 窮地に陥ったことで生存本能が霊能力を発動させたのか、それとも心眼が最後の力を振り絞って守ったのか、はたまた白煙に紛れて霊波砲が全弾見当違いの方向へ飛んでいったか。考えられる原因を挙げろといえばいくらでも言えるが、原作を知っている以上、やはり『たまたま』だとは思えない。



 ―――思えるはずが、ない。



 嗚呼そうさ。予想はしていたよ。横島が死なないのは『偶然』ではなくて『必然』。ちゃんと理由があるってことは!!
 俺にとっての最大の障害は『横島』じゃなくてこの『世界』そのものなんだな!? なあ、そうだろ『宇宙意思』!!



 横島は死ぬわけにはいかない。何故なら、横島は歴史に大きく関わっているからだ。未来を知っているという点では、俺は時間移動をしたと同じ状況ともいえる。ならば、宇宙は俺の知る未来と同じように進むだろう。
 鶏が先か卵が先か。その問いに意味はない。時間はただその身に孕んだ矛盾を押し流したまま流れる。すなわち、『矛盾』を修正しようとする時間の復元力だ。

 本来なら、未来のピースが欠ければ代わりのものがそこに当てはまるように時代は動く。歴史に『戦争が起こる』と書いていれば、たとえ時間移動して争いの火種を消してもその時点で新たな火種が生まれ、歴史と同じような流れをたどることになるのだ。



 だが、それとて限界はあるだろう。全く同じ人物などいないし、そう都合よく代わりとなる人物もいるとは限らないからだ。

 主役が病気で倒れた。そして、中止することは出来ず代わりの役者がどうしても用意できないならどうするか? 簡単なことだ。無理矢理にでも舞台に主役を引っ張り込めば良い。それが『必然』。それが横島を殺せない『理由』。

 この世界で横島が与える影響は、代わりの者を用意できないほどに大きすぎる。故に、横島は死なない。宇宙意思の干渉が、横島を殺させない。
 おそらくそれは『エネルギー結晶』を体内にもつ美神も同様だろう。彼女もまた、代わりとなる者がいないのだから。



 だからこそ原作から外れようとする俺の行動は、宇宙にとっては邪魔者に他ならないのだろう。
 しかし、そんな向こうの事情など俺の知ったことじゃない。人間は良く言えば自由、悪く言えば自分勝手な生き物だ。クーラーや自動車が温暖化の原因に繋がると知っていても『便利だから』の一言で地球を汚すのが人間。そして、俺もそんな人間だ。だから私利私欲のため精一杯抵抗させてもらう。



 元の世界に帰る。そのために宇宙処理装置(コスモ・プロセッサ)は作動させる。宇宙が邪魔をするなら受けて立つ。確かに俺は弱い。相手から見れば虫けら同然だろう。だが、虫にも魂はある。風が吹けば桶屋も儲かるのだ。だから――



 ―――かかって来いや宇宙意思!! ちっぽけな虫が起こすバタフライ効果を舐めるなよっ!!


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 などと心の中で叫んでみたが、横島が生きていて「ほっ」と安心したという事実もあったりする。俺の目的は横島を『殺す』ことじゃなくて元の世界に『帰る』こと。横島は可能なら仕留めておきたかったが、俺に好んで人を殺すような危ない趣味などあるわけない。

 俺は何処にでもいるような一般人。過去に辛い出来事があったわけでもないし、両親もちゃんと生きている。人を殺すなんてそんな物騒なことも勿論経験ない。死体を見たら取り乱すだろう。
 いくら元の世界に帰るためとはいえ、人を平然と殺すことなどやわな心臓を持つ一般人には到底出来ないのだ。



 ―――自分の手を汚さなければわりとОKだが。



 ぶっちゃけ、メドーサが何の罪のない人を殺そうとしても俺は見捨てられるだろう。だって俺は何処にでもいるような一般人。触らぬ神に祟りナシ。

 道端で喧嘩している人がいても警察にすら連絡入れずに見て見ぬフリ。テレビでどっかの国が悲惨な目にあっても「可哀想に…」と言うだけで、ボランティアもしないし募金もしない。政治家が天下りしても文句を言うだけ。そんな何処にでもいるような、ありふれた一般人なのだ。

 そもそも原始風水盤作るときにいっぱい風水師の方々が死ぬし。止める気ないぞ俺は。犠牲を恐れちゃ何も出来ない。だからと言って俺が死ぬのはNGだ。だからこそ俺は他の誰かを犠牲にしてでもこの世界からオサラバする。



 大体、俺が邪魔者ならば宇宙意思はとっとと俺を元の世界に帰すべきなのだ。このまま俺がこの世界にいれば歴史からズレにズレて碌なことにならないに違いないのだから。それなのに一向に帰す様子がないということは、自力で帰れということ。
 結果として犠牲となるものが出ても、それは俺じゃなくてこの宇宙が悪い。うん、決定。わけもわからずこの世界に来た俺だって充分被害者さ。

 そう、思うことにする。そう思わなければとてもじゃないが陰念ライフやってらんない。

 宇宙意思相手に勝つことは可能か? と聞かれたら、理論上はYESである。

 ……あくまでも理論上はね。俺が出来るかどうかは別として。

 相手が宇宙というと一見、勝ち目がなさそうにも思えるが、原作を読む限り決して全知全能の存在というわけではない。それは宇宙処理装置(コスモ・プロセッサ)の『存在』が証明している。なにしろこの機械、不完全な状態でしかも結果として新しい宇宙こそ造れなかったものの、ちゃんと作動してメドーサたちは蘇ったし、天地想像まであと一歩だった。

 結果が全てという人もいるが、過程を見てわかることもあるのである。宇宙処理装置(コスモ・プロセッサ)は宇宙にとっての唯一の天敵。自分を滅ぼしうる凶刃だ。
 もし本当に全知全能なら、喉元まで刃を突き付けられるような真似にはならない。アシュタロスが何か仕出かす前に彼を失脚すればそれでいいだけである。



 つまり、宇宙を脅かす存在が『実在』したという時点で、『宇宙は絶対なる存在ではない』ということの証明になるのだ。そして、『絶対』でない以上、どれだけ低くても―――それこそコンマ以下の確率だったとしても、可能性はある。と思いたい。
 っていうか、思わなきゃ人生やっていけない。ギリギリまで干渉してこない以上、『干渉の限界』や『範囲』もあると思う。ひょっとしたらそれほど大きな干渉も出来ないかもしれない。その辺りの情報は少ないのでまだなんとも言えんが。



 それにうろ覚えだがアシュタロスが言ってた。「世界を滅ぼそうとする私の意思もまた、宇宙の意思だ」と。もし、それが本当だとすれば……。



 『アポートシス』という言葉がある。生憎人に誇れるほどの知識はないので詳しくは知らないが、要は生物の体の中には自身を『生かす』ためのプログラムだけではなく、逆に自身を『殺す』ためのプログラムもまた存在しているというのだ。オタマジャクシがカエルになる過程で尻尾がなくなるのもこの『アポートシス』の働きだとか。

 まあ、学業は人に誉められる成績ではなかったので上の説明は正確かどうかは自信がないものの、俺が何を言いたいのかわかってくれると思う。
 つまり、アシュタロスは一種の『アポートシス』ではないかということだ。



 ならば勝ち目はある。宇宙が死ぬこともまた、一つの摂理だからだ。俺が勝てないならば、勝てそうな奴を勝てるように導けばいい。原作を知る俺ならば出来るはずだ。



 情報を制するものは世界を制するという。生憎俺如きでは『宇宙意思』(せかい)を『上回る』(せいする)ことは出来ないだろう。試合に勝っても横島は生きているし、資格も既に持っているから原作と大して違いはない。宇宙からすれば簡単に修正できる範囲に違いない。
 ならば精々引っ掻き回してやるだけだ。引っ掻き回して、騙して、利用して。元の世界に帰るためならば俺は人間や魔族は勿論、魔神やこの世界すら利用する。必要だというならしてみせる。



 ―――その結果、この世界はおそらく滅びるだろう。他ならぬアシュタロスの手によって。



 ベスパの話だとアシュタロスはむしろ死にたがっているようなことを言ってたらしいが、ぶっちゃけ綺麗事だと思う。話しの流れから『死にたい』と言ったのは嘘ではないかもしれないが、彼の中には少なくとも二重人格のような形で『死ぬより新しい宇宙を創造したい』と願った欲望が在った筈だ。

 何故なら、単に魂の牢獄から抜け出したいだけなら宇宙処理装置(コスモ・プロセッサ)を作動させて自分の存在を滅ぼせいいからだ。宇宙を滅ぼせるなら魂の牢獄くらい簡単に潰せるだろう。
 なのに自分を滅ぼそうとはなかった。それに横島にエネルギー結晶が壊されたときの狂った姿もとてもではないが演技とは思えない。それらは『宇宙の創造』もまた彼の本心である証拠ではないだろうか。



 そして俺はそれを知ってもなお黙認する。世界を滅ぼしたいとは思わないが、俺はヒーローじゃない。魔神相手にこの世界を守って自分の世界に帰るなんて都合の良いことが出来るとは思えないし、そしてどちらの方が優先順位が高いかといえばもちろん俺が自分の世界に帰ることに決まってる。

 薄情と言うな。一般人は他人より自分の方が大事なんだ。余所の世界の安否までいちいち気にしていられない。『陰念』は勇者じゃない。『小悪党』な脇役だ。世界が滅びても責任は全てアシュタロス。脇役は脇役らしく小賢しく振舞わせてもらう。



 まずは味方だな。戦力は多いに越したことはない。陰念は弱いから何かあったときに俺を守ってくれる奴が欲しい。メドーサや勘九朗では駄目だ。必要ならあっさりと見捨てるだろう。それでは意味がない。可能なら俺が駒として使える優秀な人材が欲しい。

 ―――現状で『それ』に当てはまる人物は唯一人。伊達雪之丞。彼を俺の味方に引き込む。

 雪之丞を例えるなら誇り高い狼と言ったところか。ただし、おつむの方も獣並。義理高いし、性格は結構単純、しかも強い。彼を俺の味方に引き込めば、これ以上ない最良の駒となるだろう。

 ただし、原作通り進めば雪之丞は裏切る。原因はピート戦の際における勘九朗の横槍。雪之丞のプライドが卑怯な勝利を許せなかった。仮にそれがなければ雪之丞は負けたとしても裏切らなかったかもしれない。ならば横槍を妨害するか? 



 ……却下。妨害事体は可能。しかし、メドーサの怒りを買う恐れがある。
 よって、俺は横槍を受け入れた上で雪之丞を『説得』させなければならない。それは可能か?



 ……不可能。プライドが邪魔して説得に耳を貸さない。
 ならば、発想の転換だ。逆にそのプライドを刺激して利用してやれば良い。



 獣は自分より強いものには従うという。俺が欲しいのは『狼』じゃない。使い勝手の良い『犬』だ。ならば狼に首輪をつけて犬にしてみせる。
 ハイリスク・ハイリターン。やり方は危険だが、危険を犯すだけの価値はあるだろう。

 とはいえ、俺はこれからやることを重さを考えて思わずため息をつきつつ、小さく呟いた。



「やるしかないか。プランB『打倒・雪之丞』。勝算は低いから出来ればやりたくなかったんだが……」



 救いといえば勝算がゼロではないということくらいか? 俺のやり方次第では三割までは持っていけると思う。雪之丞が最後まで神通棍に騙されてくれれば更にもう一割くらいは。あとは『俺』のあの仮説次第だろう。



 試しに俺は『霊力中枢』から霊力を引き出し右手に込めた。その流れに一切の淀みはなく、少し力を込めば手からは破壊をもたらす光が放たれることだろう。



 霊気の『れ』も知らない一般人だった俺が、何故こうもスムーズに霊力を操れるのか? その答えはこの体の中には陰念と俺、二人の魂が入っているからではないだろうか。



 もし、この仮説が正しければ、俺は新たな―――いや、『本当』の意味で自分の力を手に入れられるだろう。それはこれから先、ささやかながらも役立つ力になるに違いない。



 幸いにも横島の怪我のおかげで係りの人が忙しく、次の試合までの時間が20分延長したのは嬉しい誤算だった。今はこの時間を有効活用するとしよう。
 まずは当面の安全確保。香港編に備えての仕込みに現在の戦力調査。やるべきことはいろいろある。いつまでも呑気に考えている場合ではない。



「とりあえず横島の見舞いにでも行くとするか」



 いくら責任を美神に押しつけたとはいえ、念には念を入れるに越したことはない。きっかり、ちゃっかり、徹底的に死にかけた責任を美神に押し付けてやろう。
 それに宇宙意思の干渉はあくまでも俺の推測だ。ひょっとしたら辛うじて生きていたのは本当に偶然で、治療の過程であっさりくたばったかもしれない。確認の必要はある。



 ―――できれば幽霊になっていてもいいから死んでくれている方が俺的にはやりやすいんだが。



 そしたら無理に雪之丞と戦う必要ないし。


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