「すごいですー!」
「あらどうしたの?」
明るく広い一室。そこには数人の幼女と一人の美女がいた。
黒く、しなやかな髪を目にかからない程度に切りそろえ、癖一つ無い美髪はなだらかな肩を通じて背に流れている。
抱けば折れてしまいそうな華奢な身体をスーツに纏い、きっちりとした雰囲気をかもし出している。
だというのに胸の果実はスーツに収めた程度ではその膨らみ隠せず、まるで男を誘うようにたわわに実っている。
そしてまばゆく、しなやかな美脚は見るものをひきつけるほど魅力的であった。
そんな彼女の切れ長な、少しだけ釣り目がちな瞳は理知的な光を宿し、歓声を上げた少女のPCを覗き込む。
「アメリカであの法案が通ったんですけど、支持率がなんと120%ですよ!120%!!多分20%はバラクさん一人分ですけど。」
「あら、良い感じじゃない。それも皆が頑張って人類と素敵な関係を作ってくれたからよ。」
本当にありがとう。
彼女がそういうだけで少女達は舞い上がってしまう。
何故なら彼女こそが上位存在、つまり彼女達の創造主にして育て親、彼女達にとっては神にも等しい存在なのだ。
彼女に認められるということが全BETAにとっての存在意義と言っても過言ではないのだ。
「でも本当に良いんでしょうか…」
一人の少女がポツリと呟く。
「あら、どうして?」
「あっあのっ別に水を差すつもりはなくて、その、あの…」
そういうと顔を真っ赤にさせてうつむいてしまう。
そんな少女の目の前にいくと上位存在はそっと手を頬に当て、
「別に何を言っても怒らないから、好きなことを言ってしまいなさい。私たちは、家族なんだから…」
ゆっくりと、優しく語り掛けるように言い聞かせる。
少女達と上位存在には決定的な違いがある。
神とそれ以外、王と民、支配するものとされるもの。
表せばきりがないが上位存在の意志とは関係無しにそういう関係は出来てしまう。
彼女が上位存在である限りその関係は決して変わらない。
別に言いたいことが知りたければ心を読めばいいだけの話で、わざわざ話し合いなど時間の無駄なだけなのだ。
だけでも、だからこそ、歩み寄りたいのだ。
優しく、赤子をあやすように頭を撫で、優しい言葉で語りかける。
「貴方の言葉で、貴方の声で、言って欲しいの。だって貴方のことが、好きだもの。」
くすっと笑いながら少女に微笑みかける。
「あ、あぅう…」
さらに顔を真っ赤にさせて頭から蒸気を噴出させるほど紅潮してしまった少女もギュッと拳を握り締めると、
「あ、あのですね、正直言いまして政治とか経済を決めるのはやっぱりその国の人々じゃないですか?なのに私たちが勝手に入り込んで勝手に決めてしまうのは何か違うんじゃないかってそう思ってしまうんです…」
最初は元気があったものの段々と自信を無くし、遂には尻すぼみになってしまう。
そんな彼女を見て。ふふっと微笑む、そしておもむろにギュッと抱きしめる。
「おっおかあさん!?」
「大丈夫よ。」
「えっ?」
「ねぇ、咲はいまの政治とか見てどう思う?」
「えっえーと、その、なんだか大変そうななぁって…」
「そうなのよね、議員の人たちってね、凄く大変なの。選挙で選ばれてせっかくみんなのために頑張ってるのにちょっとしたことでとやかく言われて、どうでもいいこと報じられて、バーに行ったとか、漢字読み間違えたとか、そんなどうでもいいことでみんな凄く疲れちゃうの。だから私たちはそんな人たちを後ろから支えてあげたい、ただそれだけなの。勝手に決めるなんて、そんなことしちゃったら怒られちゃうわよ。」
諭すような上位存在の言葉。
それはまるで水が土壌にしみこむように咲といわれた少女の心に染み込んでいく。
「はっはい!私、人類の方ともっと仲良くなれるように頑張ります!!」
「ふふっそんな肩肘張らなくても大丈夫よ。怖いくらい順調なのよ?ちょっとくらいゆっくりしてもいいくらいなんだから。」
たしかに順調だ。
恐ろしいほど順調だ。
無垢な少女達は気付かない、着々と人類は滅亡へと進んでいることを。
どれだけ馬鹿げていようとも、どれほどふざけた作戦でも、最終的に人類は家畜になり、滅ぶのだ。
そのことにまったく問題は無い。
問題は無いがその世界で無垢な少女達は笑顔で居てくれるだろうか?
この順調さはまるで遂に自分の、ひいては自分達の悲願が成就する兆しなのか?それとも幾億もの繰り返しの果てに見える泡沫の夢なのか?
「やったですーーー!」
不意に、上位存在の思考をさえぎるように歓声が上がる。
「日本国でも私たちが国会議員になれるですよ!一杯お手伝いして、もっと日本を良い国にしちゃいますよ!!」
見ればニュース速報で日本における法が改正され、BETAでも国会議員になれるようになったとのことだ。
「あらあらこれは…」
にぃっと上位存在の頬がつりあがる。弧を描く妖艶な唇からは確信じみた呟き。
終わった。人類の歴史は今日終わりを告げたのだ。
アメリカ、日本は言うに及ばずロシア、ヨーロッパ諸国、アジアや中東諸国における殆どの主要国家にてBETA達は政治、経済、教育、放送あらゆる分野を喰い散らかし、もはや人類が決定できることは自殺するかしないか程度の事になる。
そういう世界が、あと5年もすれば出来るのだ。もはやこの星は人類のものではない。BETAと言われた、虐げられ続けた自分達の星なのだ。
「ふ、ふふふ、っふふふふ!!」
笑いが止まらない。
遂にこのときが来たのだ。
幾度と無く苦渋を飲み込み、辛酸を耐え、臥薪嘗胆を心に誓い、幾億ともいえるやり直しの果てに、今この勝利を迎えたのだ!
「勝ったッ!!Muv-Luv Go to the chaos world!完ッ!!」
「ほーお、それで次回からは誰がこの鑑純夏の代わりをつとめるのよ?」
「なっ何奴ッ!?」
Muv-Luv Go to the chaos world 第8話 ~シリアスって何ですか?~
「し、侵入者なのですか?」
「お、おかあさん怖いです…」
いきなりの侵入者に少女たちは怯えるように上位存在にすがりつく。
「あなた達は奥へ行きなさい。」
「でも、それじゃお母さんが…!」
「いいから、少し…話し合うだけよ。」
「お母さん…」
「いいから行きなさい!早く!」
香月夕呼の爆走自動車でハイブへと突っ込んだ鑑純夏。
次から次へとわいてくるBETAを蹴散らし、美人と幼女と少女にハァハァする香月夕呼を張り倒し、意気揚々とついに一番偉そうな部屋に入り込んだ、のだが。
目の前にはなんだかクライマックス突入前の家族の絆で、それを乱すのは自分で…
「あれ?何かおかしくない?私は人類を滅ぼす悪の巣窟にやってきたんだよね?なんで向こうがお涙頂戴な家族役なの?これじゃまるで…」
「何しに来たんですかー!お母さんを虐めたらこの綾が許しませんからね!!」
「私が悪役じゃん!?」
「それにしても私たちの警備を乗り越えてたった二人でここまで来るなんてどういう手品を使ったのかしら?」
威嚇するように上位存在を守っている少女達を何とか奥にやり、ようやく話し合いが始まる。正直相当なグダグダ感は否めないが仮にもこれはラスボス戦なのだ、それ相応の空気が必要である。
まずは軽い軽口の叩きあい、勇者と魔王の戦闘前に軽いイベントがあるべきなのだ。
「ふふっ、警備なんて…あんなザルみたいな警備私の敵では無かったわ。部下の教育をもうちょっとしっかりするべきだったわね。」
―――――――――――――――以下道中イベント戦音声――――――――――――――――
純夏「邪気眼見せろよ!邪気眼!」
BETA1「いやああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
純夏「ラ・ヨダソウ・スティアーナ」
BETA2「ハニャァァァァァァァ!?」
純夏「『ほくろ』は『黒子』だよ」
BETA3「ご、ごめんさない…もう言わないで…死にたい…」
純夏「バルキスの定理(笑)お前もっと頑張れよ(笑)」
BETA4「お、お願いです…もう思い出したくないんです…」
以下省略
―――――――――――――――以上道中イベント戦音声――――――――――――――――
「ひ、人の黒歴史を思い出させるなんて…!なんて卑劣な!!貴方には人の心が無いの!?」
「ふふ、所詮BETAは私の前にひれ伏すのよ!!」
上位存在の背筋に冷や汗がたれる。
人類の冷酷さは誰よりも理解していたがこれほどの非人道的処置を行使してくるなんて!
流石の上位存在でもこれは予想できない!
―だが
まだ話し合いは始まったばかり。
相手が主導権を握ったがまだまだ取り返せるはずなのだ。
「それで国連軍横浜基地副指令の香月夕呼様とその最高傑作である00ユニットの鑑純夏さんがこんな穴倉の奥まで何のようなのかしら?」
「なっ!?」
「なんでそんなことを知ってるんですかって顔をしてるわね?なら得意のリーディング能力で私の心を読んでみたらどうかしら?出来たらの話だけど、ね?」
圧倒的な存在感が上位存在を包む。
ついでに腕を組んだせいではちきれんばかりのパイオツがとんでもないことになっているが本人達は気付いていない。
「ふん、言われなくてもやってやりますよ!黒歴史掘り当ててインターネットで顔写真付きでブログ炎上させてやりますからね!!」
「かかって来なさい!!00ユニット」
ぐるり、と世界が回る。
この瞬間、鑑純夏が鑑純夏であって鑑純夏でなくなる。人間の思考とは切り離された0と1の世界に入り込み、無数に流れる電流の中から正解を導き出す、今この瞬間、鑑純夏は一つの機関になる。
機械でありながら感情を持ち、人でありながら電子の海を泳ぎきる。それこそが00ユニット!
人が生み出した、神の手すら切り刻む、人の狂気の最高傑作!!
「死んだあとの(絶対に見せたくない) ――――」
「――――HDDの隠しフォルダ(人に言えない黒き歴史) !!」
無音の衝裂、音も光も放たなかったが、確かに今、この瞬間膨大な情報が行き交ったのだ。
そして―決着
「う、そ…私のリーディングが…効かない、なんて。」
「最も危険な存在である00ユニット…その対策をこの私が怠るとでも思っていたの?」
―軍配は上位存在へと上がったのだった。
to be continued...