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No.2970の一覧
[0] 【完結】マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-(マブラヴ+電脳戦機バーチャロン)[麦穂](2016/03/20 10:18)
[1] 第1話-出会い-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[2] 第1.5話-教練-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[3] 第2話-挑戦-[麦穂](2010/01/28 10:59)
[4] 第3話-疾風-[麦穂](2010/01/28 11:51)
[5] 第4話-異変-[麦穂](2010/01/28 12:09)
[6] 第5話-来訪-[麦穂](2010/01/28 11:22)
[7] 第6話-反撃-[麦穂](2010/01/28 14:03)
[8] 第7話-変革-[麦穂](2010/01/28 14:56)
[9] 第8話-開発-[麦穂](2010/01/28 15:00)
[10] 第9話-攪拌-[麦穂](2010/01/28 18:45)
[11] 第10話-訪問-[麦穂](2010/01/28 15:09)
[12] 第11話-疾駆-[麦穂](2010/01/28 18:49)
[13] 第12話-懐疑-[麦穂](2010/01/28 21:08)
[14] 第13話-配属-[麦穂](2010/01/28 21:11)
[15] 第14話-反乱-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[16] 第15話-親縁-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[17] 第16話-炎談-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[18] 第17話-信念-[麦穂](2009/12/25 22:29)
[19] 第17.5話-幕間-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[20] 第18話-往還-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[21] 第19話-密航者-[麦穂](2009/12/25 22:32)
[22] 第20話-雷翼-[麦穂](2015/09/22 22:24)
[23] 第21話-錯綜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[24] 第22話-交差-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[25] 第23話-前夜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[26] 第24話-安息-[麦穂](2010/01/01 23:35)
[27] 第25話-精錬-[麦穂](2010/01/28 21:09)
[28] 第26話-銑鉄作戦(前夜編)-[麦穂](2021/10/30 20:51)
[29] 第27話-銑鉄作戦(前編)-[麦穂](2010/02/01 13:59)
[30] 第28話-銑鉄作戦(後編)-[麦穂](2010/02/03 14:46)
[31] 第28.5話-証人-[麦穂](2010/02/11 11:37)
[32] 第29話-同郷-[麦穂](2010/02/21 00:22)
[33] 第30話-日食(第一夜)-[麦穂](2010/03/12 10:55)
[34] 第31話-日食(第二夜)-[麦穂](2010/03/19 18:48)
[35] 第32話-日食(第三夜)-[麦穂](2010/03/28 16:02)
[36] 第33話-日食(第四夜)-[麦穂](2010/04/12 19:01)
[37] 第34話-日食(第五夜)-[麦穂](2010/04/30 07:41)
[38] 第35話-乾坤-[麦穂](2010/06/19 18:39)
[39] 第36話-神威-[麦穂](2010/08/07 15:06)
[40] 第37話-演者-[麦穂](2010/10/08 22:31)
[41] 第38話-流動-[麦穂](2011/06/22 21:18)
[42] 第39話-急転-[麦穂](2011/08/06 16:59)
[43] 第40話-激突-[麦穂](2011/09/13 00:08)
[44] 第41話-境壊-[麦穂](2011/09/29 13:41)
[45] 第42話-運命-[麦穂](2013/12/31 20:51)
[46] 最終話-終結-[麦穂](2013/12/01 02:33)
[47] あとがき[麦穂](2011/10/06 01:21)
[48] DayAfter#1[麦穂](2019/06/01 08:27)
[49] DayAfter#2[麦穂](2019/06/01 08:28)
[51] 人物集/用語集[麦穂](2013/12/01 01:49)
[52] メカニック設定[麦穂](2013/04/12 22:27)
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[2970] 第13話-配属-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/28 21:11
・ 2001年 8月某日 AM9:15 横浜基地 講堂


「手のひらを見たまえ、その手で何を守る?」

 元の世界では体育館として使われていた講堂にて、207小隊の乙女達に諭す様に話しかけるラダビノット指令の姿。 それ以外にも国連の高官達、そして武とまりもが彼女達の門出を見守っている。
 彼女達は自分の手を見た。 華奢な少女達のその手は、窮地に陥った人類を守り包む為にある。

「その手のひらを握りたまえ、その拳で何を討つ?」

 先ほどまで開いていた手を、今度はラダビノットの言葉と共に握りしめる。 彼女達の拳は、邪悪な異星の群集を粉砕する為にある。
人類と地球を守り、仇なすBETAと戦う。 それらはBETA対戦が勃発して以来、繰り返し唱えられてきた。 そして地球上からBETAを一掃するまで、この戦いは続く。
 その戦いを、自分達の世代で終わらせる。 絶望の闇に染まろうとしている世界を、自分達の力で光ある未来を取り戻すのだ。 階級証授与の後、ラダビノットが閉めの一言を紡ぐ。

「只今を持って、諸君らは国連軍の衛士となった。 人類と地球の未来の為、より

 一層努力し奮闘してくれる事を望む。 おめでとう!」
207メンバーの歓喜に満ちた声とそれを称える拍手が、講堂を包んで行った。


マブラヴ~壊れかけたドアの向こう~
#13 配属


『神宮司軍曹、白銀准尉・・・』
『今まで、本当にお世話になりましたっ・・・!』
「いいえ、これまでの少尉達の奮闘があったからこそです。 どうか胸を張ってください」

207訓練小隊解隊指揮を終え、各分隊を代表して千鶴と茜が武とまりもに礼を告げる。 対するまりもは、昨日まで階級が下だった207の少女たちを敬う態度で接していた。
 そう。 彼女達は正式に任官し、階級は少尉となったのだ。 上官と相対する以上、本心はどうあれ敬意は払わねばならない。

「おめでとうございます少尉殿! これからの活躍と武運をお祈りしております!」
「白銀さん・・・ ううっ・・・!」

 感動の余り泣きじゃくりながら武に答える壬姫。 彼女だけではなく、他のメンバーも目に涙を浮かべながら、卒業と任官を喜び合っている。 すると、今度は冥夜が武に近付いてきた。

「お世話になりました、白銀准尉」
「はい、御剣少尉もお元気で」

 一昨日にした会話が嘘のように、他人行儀で会話をする冥夜と武。 ハンガーでの一見以来、2人だけの秘密が出来た。 そして彼女は、自分の為に協力してくれると言ってくれた。
 なら武が納得するまで、部下と上官の関係を続けようと冥夜と約束した。 忠実すぎる位にそれをこなしてくれている冥夜に、武は複雑な心境に陥っていた。

「(せめて、階級が同じくらいに上がれば・・・!)」

 既に決めた事なのに、これで良いのかと自分の選択に迷う武。 すると突如として講堂の扉が開き、そこから人影が逆光に映し出される。 女性らしきシルエットなのは把握できたが、一体誰なのだろうかと武は目を凝らして詳細を把握しようとするが、聞きなれた声が聞こえてきた事で呆気無く解決する。

「白銀君、居る?」
「この声は・・・菫さん!?」

 講堂に居合わせた全員の視線も物ともせず、菫はずかずかと武の元へ近付いてくる。 そして彼女は武と目と鼻の先まで歩み寄ると、満面の笑みを見せながら武の手を取りこう告げた。

「おめでとう白銀君。 あなたの昇進が決まったわ」
「俺が・・・ですか? って、それを知らせにわざわざフィルノートからここまで!?」
「ちゃんとアポはとってあるから心配しないで。 はい、これがあなたの新しい階級章よ」

 菫が離した後の手のひらには、キラリと光る新たな国連軍の階級章。 准尉の上は少尉だからそれなのかと武は思ったが、その斜め上の答えを菫は口にする。

「あなたの新しい階級は特務中尉。 つまり2階級昇進ね」
「は・・・? 俺が2階級昇進? 一体どうして?」
「それだけの活躍と功績をしたって事じゃない? それに記憶が正しければ、あなたは一度死んでいるはずでしょ?」

 菫の言うとおり、今の武は異世界同士の交流の発端になり、双方に多大な影響を与
えているのだ。 それに前の世界では、朧気ながらBETAと戦っていた記憶が残っている。
 そして別の世界に転移してしまったという事は、あの世界で一度死んだのだろう。 それが電脳暦世界の国連に認められたのなら、2階級を飛び越す事も妥当だといえる。

「あと、あなたの階級には特務が付いているわ。 それがあれば、一時的にだけど少佐クラスの権限を使えるのよ」
『何ぃ~~~っ!!??』

 まさかの事実上4階級昇進という大出世を果たした事に、言葉を失う武と驚きの声を上げるまりも達。 自分が異世界を越えた存在であるという、イレギュラーな存在の為にこのような処遇を下したのかは定かではない。 だが、これでまた皆と一緒にいられる可能性は高くなる、そう思うと今回の大出世も悪くは無いと武は思った。

「ついに私より上官になっちゃったかぁ・・・ これからもよろしくね、白銀特務中尉!」
「いつものように白銀君で良いですよ、菫さん」

 控えめな返事をしながら、武は微笑みを浮かべる菫に敬礼を返した。


・ AM11:45 横浜基地 PX


「本当に凄いねタケルは! 本気を出せば左官クラスになれちゃうよ~!」
「ああ・・・ 本当に驚いたのは俺だけどな」
「でも鎧衣、いくら本人の許可が下りたからって馴れ馴れし過ぎるんじゃないの?」

 午後に行なわれる説明などの為に、食堂にて早めの昼食をとる207メンバーたち。 その中で美琴がいつもの口調で武を褒めちぎっていた。 上官である武に対してこの態度、普通なら頬を引っ叩かれるだろうが今回は違った。
 どうやら皆の配属先は決まっているのだが、どうやらそちらの受け入れがまだ出来ていないらしい。 そこで武を隊長に、207試験小隊として活動する事になり、新OS『XM1』の開発も変わらず続けられる。 そしてその際発せられた命令に、冥夜は半ば呆れながら口を開いた。

「まったく、武も無茶な命令を出す。 『俺の事は呼び捨てでもOK!』とはな」
「同感ね、逆に私達の方が気を使っちゃうわよ」
「でもそのお陰で、たけるさんともっとコミュニケーションが取れますよ」

 壬姫の言う事ももっともなのだが、千鶴は威厳の無い隊長の存在によって隊の規律が乱れてしまうのではないかと不安に思っていた。 しかし壬姫の言う通り、呼び捨て解禁後の皆は白銀と良好な関係を築けている。
 そして自分が考えている事を見越してのことだろうか、武は自分と茜を副隊長として任命した。 それが自分の能力を認めている上での判断なのだとしたら、まだ彼のことを信じてもいいのかもしれないと千鶴は思った。

「頼りにしてるぜ~、委員長?」
「べ・・・別に困った時は助けてあげるとか言ってないんだからね!」
「ふっ・・・ 照れるな照れるな」

 毎度の如く慧が横槍を入れ、それに怒る千鶴と彼女を止める為に周りが慌しくなる。 そして京塚のおばちゃんに皆が怒鳴られるまでの間、武は忘れかけた日常の感覚を楽しんでいた。


・ PM1:08 横浜基地 シミュレータルーム


「は~い皆、注目~」

 昼食の後、突然放送で夕呼にシミュレータルームへ呼ばれた武達207試験小隊。 説明の時間はまだの筈だろうと思いながら部屋を訪れると、武は着いた早々強化装備に着替えさせられ、そのままシミュレータ筐体の中へと押し込まれてしまった。
 不安げに外で見守る皆は、武の乗る戦術機が映るモニターに集中している。 そして夕呼の説明が、武のウォーミングアップと共に始まった。

「アンタ達の努力が実って、新型OS『XM1』がとうとう完成したわ。 今回はその最終テストを、発案者である白銀にやってもらう」
「副指令、特務中尉・・・白銀の相手は誰なんですか?」
「それは彼女から説明してもらうわ。 伊隅~、入って良いわよ~」

 夕呼がそう呼ぶと、シミュレータ室の外で待っていたみちるが入る。 彼女は今回の為に、事前に夕呼と打ち合わせをしていたのだ。
 同時にみちるは今後配属されるであろう、207メンバーの顔を見ておく必要があると思い、渋々彼女の頼みを受け入れた次第である。

「特務部隊A-01の隊長を勤める、伊隅みちるだ。 今後の説明で言われると思うが、貴様たち207実験小隊は私の隊に配属される事になる。 よろしく頼むぞ」
『はいっ!』

 フライング気味だが特務部隊への配属が決まった事で、気を引き締めながらみちるに返事をする207の乙女達。 そして夕呼に代わって、みちるが今回のシミュレータ戦闘の詳細について話し始めた。

「これから白銀が戦う相手、それは機動自衛隊教導部隊『リーフ・ストライカーズ』だ」
「その名前って私が訓練生の時、たけるさんの他に教わった人がいる部隊じゃないですか?」

 聞きなれた部隊の名前にいち早く反応した壬姫は、すかさずみちるに質問する。 彼女の狙撃技能に目を付けた美雪が、度々壬姫と会って個人授業を催していたのだ。 壬姫の質問にみちるは頷きながら話を続ける。

「その通りだ。 貴様らも見たと思うが、この間行なわれた市街地演習で、私と私の部隊が模擬戦を行なった相手でもある」

 屋上にて武とケイイチに呼び出され、その時目撃したヴァルキリーズとリーフ・ストライカーズの市街地演習を、207の全員は忘れられるわけが無かった。
 洗練された動き、無駄の無い連携。 あそこで戦っている人たちは、自分達より遥か遠くの次元にいると言う事を見せ付けられたような気がしたからだ。

「じゃあ、私達が作っている『XM1』って」 「まさか・・・」
「そうだ。 『XM1』は、戦術機にVRに近い機動特性を持たせ、白銀が行なっているあの戦術機動を再現させる為のOSなんだ」
「じゃあ、そろそろ始めましょうかね~」

 その最終テストを、発案者である武がこれから実証する。 そしてもの凄く楽観的な夕呼の声と共に、テストが開始された。


<XM1 GET READY・・・>

 シミュレータ筐体の中で、囁くように電子音で作られた声が起動完了を伝える。 武はフッと息を吐くと、自機の状態を再度確認し始めた。

「えーと、機体はF-4JE2『銀鶏』。 シミュレータで神宮司軍曹が使った機体と同じか」

 使用する機体、装備している武装、戦闘を行なうステージの設定等、武はこれから戦う状況の全てを把握し、再度頭に叩き込む。 それらの作業を終えて開始時間を待っていた時、秘匿回線で通信が入る。
 網膜に映る通信コンソールには、『リーフ・ストライカーズ』リーダー、苗村孝弘の顔があった。

『よう白銀、こんな形で再戦とは思わなかったぞ』
「苗村さん!? シミュレータ筐体には俺しか居ないはずなのに、どうして?」
『俺達はVRから直接接続って形でやるんだと。 システムの構築とかは、ケイイチ君が1日でやってくれたそうだぜ』

 今頃ケイイチは熟睡しているだろうなと想像しながら、武は後で彼に礼を言っておこうと誓う。 そして孝弘から、今回の模擬戦の詳細について説明が始まった。
テストの方法はこの世界に来る前、武と孝弘達が富士で行なった抜き打ちテストと同じ要領で行なうという。
 ただし今回は1対1の勝負、武の機体が戦闘不能と判断されるまで戦いは続く。 一通りの説明が終わった後、孝弘は武に別の話題を持ちかける。

「白銀、お前の探している人はもう見付かったのか?」
「すみません、まだ手がかりすら・・・」
「香月博士は、情報提供はしてくれないのか?」

 そう問いかける孝弘に、武は答える事を躊躇う。 前の世界において武は純夏の事を探してくれと夕呼に頼んだのだが、純夏は存在していないと言われた。
 だが、武はどうにも信じる事が出来ず、この世界でも同じ事を夕呼に頼んでは見たものの、はっきりとした返答が帰ってこないのが現状だ。
 そしてこの世界の自分は死んでいるという事実に、武はこの世界の柊町に何があったのか確かめる必要があると悟ったのだ。 悩みの色が丸見えの顔をする武に、孝弘は励ましの声を送る。

「まあ今は考えずにテストに集中する事だ。 失敗したら、人探しどころじゃなくなるぞ」
「はい!」

 そして夕呼の合図とともに、XM1の最終テストが開始された。


・ 同時刻 帝都城 謁見の間


「反乱の可能性・・・ですか?」
「はい。 前より帝国軍内部でそれらしき動きは察知していましたが、どうも最近活発になってきたようで」

 きょとんとした顔で問いかける悠陽に、左近は事の詳細を説明する。 その直ぐ脇で椿と凛が、2人の話を聞き逃すまいと耳を傾けていた。 左近が得た情報によると、帝国軍の内部で現状の政権や異世界の介入に快く思わない者達が結集し、現行政府を打倒するつもりでいるらしい。
 そうなれば一時的に日本の中枢に空白が出来、他国の介入を招く恐れもある。 そしてそうなった場合、真っ先に狙われるのが椿と悠陽の存在だ。 事に及ぶとなれば、2人はその目的において重要な人物に違いない。

「そんなことになったら、責任重大よね。 凛さん?」
「いえ、椿さんの護衛が私の使命ですから。 有事の際には好みに変えてもお守りします」

 はっきりと自分の決意を伝える凛に対し、椿は軽口が過ぎたかと反省する。 そして鎧衣達は対策を立てているのかどうか、椿は2人に聞いてみることにした。

「鎧衣さん、もしその者達が動いた場合の手立ては?」
「私は噂話を話すのは得意でね。 偽の情報で撹乱させている間に殿下を帝都城より脱出させ、然る場所へ護送する」
「私の身柄はどうなります? まさか、機体は持参しているから自力で逃げろと!?」

 左近の言葉を聞いて客人を蔑ろにしてないかとあせる椿に、すかさず悠陽がフォローを入れる。

「心配しないでください椿さん。 あなたの身柄は私の名を使ってでも守り抜きます」
「殿下・・・」
「そうなると、今のうちに対応策を練っておく必要がありますね」
「そうだね。 まず事が起きる直前には・・・」

 悠陽のお墨付きの一言に、ひとまず安堵する椿。 そして来るべき日に備え、謁見の間にいる4人の秘密会議は暫くの間続いた。



・ PM11:57 横浜基地 B19フロア 香月ラボ


「社の秘密を教えて欲しい?」

 そう素っ頓狂な声を出した夕呼の前に、武とケイイチの姿があった。 前の世界の時から霞は何者か疑問を抱いていた武と、彼の意見に同調するケイイチと共に、彼女の謎を知る唯一の人物であろう夕呼にその真相を聞こうとしたのだ。

「はい。 本人はどう思っているのか分かりませんが、霞は俺たちの仲間です。 
誤解を招かない為にも、ちゃんと彼女の素性を聴きたいと思ったんです」
「それにあなたみたいな科学者が、彼女みたいな子を伊達や酔狂で育てているわけには居ないでしょうからね」
「アンタたちって本当、何でもかんでも首を突っ込みたがるわね~。 仕方ない・・・」

 2人の知的好奇心の高さに呆れながらも、夕呼は霞の身の上について語り始めた。
 社霞という人間は、自然に生み出された訳ではない。 鋼鉄のゆりかごである人工子宮で生み出された、数多く存在していたクローンの一人である。
 母親に抱かれた事も無ければ、愛情を注がれて育った訳でもない。 ある1つの目的の為に、道具として造られた少女だった。

「会話を試みようと解剖しても、BETAがどんな存在か分からない。 ならESP能力者を使って、BETAの思考を読み取る。 それがオルタネイティヴ3計画よ」
「霞が、そんな境遇だったなんて・・・ それで、結果はどうなったんですか?」

 霞の出生の秘密を知り、武はこの世界で行なわれた人類の愚考に愕然とする。 唯一ケイイチだけは、この事実に怖いほど無反応だった。 時には非常な計算や決断を下さなければならない、科学者のなせる業だろうか。 戸惑いながらも問いかける武に、夕呼はオルタネイティヴ3の結果を伝える。

「BETAにも思考があるということ、そして人間を生命体と認識していないこと。 これが社の姉妹達を犠牲にして得た、オルタネイティヴ3の結果よ」
「たったそれだけの成果なんですか・・・?」

 武の言葉に、無言で頷く夕呼。 相手の思考を読み取るリーディングは、一定範囲内に収める必要がある。 そのためBETAの巣であるハイヴに向って、ESP能力者達は生存率6%という絶望的な突入作戦に借り出された。
 だが霞の場合は動員される前にオルタネイティヴ3が終了し、オルタネイティヴ4を指揮する夕呼が預かる事になったのだ。 無論それは慈悲や庇護ではなく、彼女の持つ高いESP能力を見込んだ上の事である。

「社に感謝しなさいよ。 アンタ達の言葉を信用したのは、社がリーディングして貰ったからなのよ」
「えっ? 夕呼先生はVRとかを見て、俺達の話を信じたんじゃないんですか?」
「僕らが敵対する可能性もあるからね。 その人の本心を探りたいのならそうするのが一番だよ」

 そう答えて見せたケイイチだが、彼自身は今まで霞を特別な目で見ないで居た。 というのも電脳暦の世界では、霞のような自然に生まれてきた人間は珍しくは無いからだ。 VRという兵器は日の精神とVRをリンクさせるという特性上、精神力が強い物ほどVRパイロットの素質が高くなる。 なら人工的に、それらを強化した人間を作ればよい。
 そうして作り出されたのがマシンチャイルドと呼ばれる、戦う為だけに作り出された人造人間だ。 他にも労働力確保のために、遺伝子操作を駆使して生み出された使役生物も存在している。 命を冒涜した行為は、何もこの世界だけで行なわれていない。 それを理解しているから、ケイイチは夕呼に何も言わなかったのだ。 武は彼女がいつもいる部屋・・・シリンダーの脳について聞こうとした時、夕呼が別の話題に切り替える。

「霞についてはここまで。 後、アンタたちに悪い知らせがあるわ」
「悪い知らせ・・・?」
「最近帝国で不穏な動きがあるっていうのよ。 まあ、異世界の介入とかもあったし、それに不満を抱かない奴はいないでしょうからね」

 先刻ここに忍び込んできた左近から得た情報を、夕呼は2人に伝える。 既に帝都の各部に潜伏しており、行動の時を待っているという。 そしてクーデターなどの事態が発生した場合、ここに駐留する電脳暦世界の人間達に何かあれば、その関係をこじらせてしまう危険性もあるのだ。 オルタネイティヴ4の遂行には、反対派や5推進派が介入する前に対応するしかないと夕呼は考えていた。

「とにかく連中は、来月あたりから本格的に動くらしいわ。 人間同士の戦いになる、それだけは覚悟しといて」
「「はい!」」

 釘を刺すような夕呼の言葉に、力強く返答する武とケイイチ。 前の世界で起こらなかった出来事が待ち構えていようとも、仲間たちと力をあわせれば乗り越えられる。 確かな決意を胸に秘める武にとってこの世界で始めての戦いが、直ぐそこまで迫っていた。



2001年8月上旬:国連欧州軍、横浜基地からフィルノートを経由して、電脳暦世界の欧州に戦力提供を打電。 電脳暦世界の国連はこの要求を受諾。 ロシア側が難色を示したものの、派遣部隊される欧州軍が選定される。 XM1完成。 香月夕呼はこれを対外交渉のカードに用いる戦法を活用する。

8月8日:第2次異世界派遣部隊、異世界に到着。 現地の軍と連携して、BETA間引き作戦に参加。 同時にリヨンハイヴ跡地確保の為、リベリア半島の奪還計画を提案する。

8月15日:電脳暦世界にて、中華連邦が異世界への派遣を国連に提出。 東南アジア諸国と連携した第3次異世界派遣部隊の結成に向け準備を始める。 日本は既に国連に戦力を提供しているので表向きな行動は避け、技術提供を主眼に日本帝国に対し援助を行っている。

8月17日:DNA・RNA連合軍、中東連合軍と合同でアラビア半島における間引き作戦に初参加。 第2世代型VRの圧倒的性能により、アンバールハイヴのモニュメント部分に多大な損害を与える事に成功。 BETAの対処能力を考慮し、作戦は古典的な突撃戦術と火力によるごり押しが殆どだった。

8月25日:アメリカ合衆国、CIAを通じて日本帝国のクーデターの情報を掴む。 混乱に乗じて東アジアの主権を復活させる為、クーデターの介入を決意。 ハワイ・グアムの基地に戦術機部隊を待機させる。

8月31日:電脳暦世界 戦術機を元にした第4世代VR開発計画『スティール・フェアリィ』を発動。 協力している間引き作戦の見返りとして、各国から戦術機のデータ入手に成功。 プラントも協力を申し出た事により、地球圏総出で開発が進む。

14話に続く・・・


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